“強さという美しさ”を与えるジュエリー 「リーフェ ジュエリー」&「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」デザイナー春井里絵

「気持ちを鼓舞する“強さ”のあるジュエリーを届けたい」。日本発ジュエリーブランド「リーフェ  ジュエリー」の創設者兼デザイナー、春井里絵は自身のクリエイションについてそう語る。彼女は、3月に発表された「ヨウジヤマモト」2021-22年秋冬コレクションのショーピースの制作を手掛けた。同時に新ジュエリーライン「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」のローンチが発表された。春井は「異なる2つのブランドで共通するのは、着用する人に“強さ”を与えるジュエリーであること」とブランドの在り方を語る。

ロサンゼルス在住時に元「クロムハーツ」のギローム・パジョレックと知り合ったことから、ジュエリーの世界へと足を踏み入れた。彼からジュエリー制作の基礎を学び、米国宝石学会で宝石鑑定士の資格を取得した後パリへと移り、専門学校BJOPでジュエリーデザインを学んだ。帰国後はフリーランスのデザイナーとして「Y-3」と「ヨウジヤマモト」のショーピースおよびアクセサリー制作に携わり、2018年に自身のジュエリーブランド「リーフェ ジュエリー」を立ち上げて現在に至る。「リーフェ ジュエリー」の色石と10金を使ったエッジの利いたジュエリーは、国内ブランドとしては珍しい“強い女性像”を打ち出している。

石のバイイングからデザインまですべて春井が行い、工場では直接職人と話し合い妥協ない制作を行っている。一方、新ジュエリーライン「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」として披露されたショーピースでは色石ではなく、黒で統一されたボディーチェーンベルトやメタルマスク、チェーンネックレスで「ヨウジ ヤマモト」の世界観を表現。同ラインの展開は7月以降を予定している。本格的なローンチを前に2ブランドでのクリエイションやジュエリー制作の背景について聞いた。

生活の中で偶然浮かんできたアイデアと顧客の要望を掛け合わせる

ーー「リーフェ ジュエリー」立ち上げのきっかけやコンセプトは何でしょうか?

春井里絵(以下、春井):きっかけは、単純に自分が身に着けたいジュエリーが国内ブランドの中に見つからなかったから。キレイやカワイイといったイメージの華奢なジュエリーは自分に似合わないと思ったし、経験と歳を重ねたシワのある肌に合うジュエリーが欲しかったんです。アメリカとフランスに住んでいた時に、年齢層の高い女性が存在感のあるジュエリーを身に着けているのがカッコよかったし、男性が自分へのご褒美に高級時計を購入するように、女性も自身のためにジュエリーを購入することがあっても良いと思った。女性が社会で活躍することが増えて、頑張っている自分のために贈るジュエリーであったり、着用する人の気持ちを鼓舞するジュエリーでありたいと思っています。他人に褒めてもらうためのジュエリーというよりも、着用する一人一人が自分の心を満たし自己満足を得られる、真の強さを持つ作品を提供したいです。

ーー立ち上げから3年、その想いは顧客へ届いていると感じますか?

春井:ポップアップでお客様と直接話すと、節目や記念日に他とは違う特別なデザインのジュエリーを欲しいと思っていたり、「今年頑張ったから買っていいと思えた」と言って自分のために購入してくれる人が多い。最近でこそ男性の顧客やカップルがギフトとして求めてくれることも増えましたが、多くは女性が自分自身のためのジュエリーとして身に着けていて、お客様と自分の想いが共鳴していると感じています。

ーー「リーフェ ジュエリー」のデザインや制作はどのようにして行っていますか?

春井:基本的には、立ち上げ時から変わらず自分が長く身に着けたいデザインが核。そして、その時々でお客様と自分が今どのようなものを求めているのかを勉強しながら作っている感覚が強いです。時代の潮流を見て、売れるだろうと思って制作した作品は顧客が全然反応を示してくれなかったことが過去にあり、トレンドを意識した作品は「リーフェ ジュエリー」には求められていないのだと実感しました。何かからインスピレーションを得るデザイナーは多いけど、私の場合は特にインスピレーション源があるわけではなく、モチーフ(すでに形あるもの)をデザインの中に取り入れることは極めて少ない。生活の中で偶然浮かんできたいくつものアイデアとお客様の要望とを掛け合わせて、頭の中でコラージュしてデザインにおこしています。自宅の各部屋にはペンとノートを置いていて、アイデアをいつでもメモに残すのが日常。そして実際にデザインを書き始めたら、装飾を削ったり付け加えたりしながら時間をかけて作っています。

ヴィム・ヴェンダースの「都市とモードのビデオノート」と「ベルリン・天使の詩」から着想

ーー顧客の要望に対してどのようなコミュニケーションを取っていますか?

春井:ポップアップでは可能な限り店頭に立ち、接客するようにしています。コロナ禍は、取り扱い頂いている地方のセレクトショップに足を運ぶことができなかったため、サイズの相談やカスタムを希望するお客様とビデオ通話で直接話す機会を設けました。公式ECサイトからオーダーしてくれた方とも、購入後にリクエストがあればビデオ通話を行って。色石の変更や金属アレルギーへの対応からサイズの調整などリクエストはさまざまなので、石の知識を持ち、ジュエリーの価値を見極められる私の強みを生かして、一人一人のニーズに応えられるようにしたいと立ち上げ当初から思っていました。パンデミックを機に、より密な関係を築くことができたし、これからも継続していくつもりです。

ーー自身のブランドが順調に成長する中、「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」をスタートするきっかけは何だったのでしょうか?

春井:「ヨウジヤマモト」とは、10年前にショーピースの提案と、「Y-3」で4シーズン程フリーランスのデザイナーとしてアクセサリー制作に携わり、お互いの近況報告などの連絡をしているうちに、今回のコラボレーションの話に至りました。「ヨウジヤマモト」はブランドとして既に確立されており、特に洋服のラインはブレることのないクリエイションで顧客を満足させていますが、さらなる高みを目指すためにジュエリー・アクセサリーラインを提案したことがきっかけです。「リーフェ ジュエリー」では工場の職人に直接要望を伝えて、デザインのこだわりや納期など柔軟性高く対応できることが強みの1つであったから、そういった部分も含めて「ヨウジヤマモト」に提案を受け入れてもらえたのかもしれない。ジュエリーデザイナーとして、「ヨウジヤマモト」にまた携わりたいという思いを心に秘めていたので、このタイミングでお話を頂くという事は、大きなプレッシャーと同時に自分自身を成長させる最大のチャンスだと感じました。

ーー3月にショー映像で公開されたショーピースの制作はどのようにして取り組みましたか?

春井:コレクション発表まで期限が迫っていて、とにかく時間との戦いでした。イメージを膨らませて素晴らしい「ヨウジヤマモト」のデザインチームのアドバイスや働き方など等を参考にさせて頂きました。過去のコレクションや山本耀司さんの過去のインタビュー映像なども可能な限りたくさん観てブランドをより深く理解し、何を求められているのか考えてデザインに取り掛かりました。その中で、「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」においての創作は、ブランド理解のために観たヴィム・ヴェンダースの「都市とモードのビデオノート」と、代表作である「ベルリン・天使の詩」からイメージを広げました。私のイメージとしては、モノクロームの世界というのが基盤にあり、ルテコーティング(黒灰色)で真っ黒に統一させて“造形”で表現するのが「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」での挑戦。それは色石での表現が軸にある「リーフェ ジュエリー」とは違い、自分自身も取り組んでみたかったデザインでした。

ーー「リーフェ ジュエリー」と比べて、「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」でのクリエイション過程はどのように異なりますか?

春井:服が映えるジュエリーを目指しているため、いかに服に寄り添うジュエリーにするかという点で「リーフェ ジュエリー」とは異なります。でも、クリエイションの基本は、自分が長くこの先も身に着けたいジュエリーであるということ。2つのブランドのデザインやアプローチは違っても、身に着ける人に“強さ”を与えるジュエリーを自信を持って届けたいです。

春井里絵
「リーフェ ジュエリー」創業者兼デザイナー。ロサンゼルスで出会った元「クロムハーツ」のギヨーム・パジョレックからジュエリー制作の基礎を学び、米国宝石学会で宝石鑑定士の資格を取得。その後パリの専門学校BJOPでジュエリーデザインを学んだ後に帰国。国内ブランドのデザイナーを経て独立し、フリーランスデザイナーとして「Y-3」と「ヨウジヤマモト」でショーピースおよびアクセサリー制作に携わる。2018年「リーフェ ジュエリー」を創設、2021年秋冬シーズンより「ヨウジヤマモト バイ リーフェ」が展開される。

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author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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