常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブックなどの書籍を紹介してもらう。
第1回に登場するのは、コラージュアーティストとしての顔を持ちながら、多方面で活動中のモデル・花梨。祖父は油絵をたしなみ、父親も美大出身と幼い頃から花梨の身近にはアートがあった。そんな彼女ならではの視点から、アートブックの魅力に触れていく。
PAPIER MAGAZINE D’ILLUSTRATIONS THEME No5
紙とサイズ感がもつインパクトに魅せられて
−−いつこの雑誌を手に入れましたか?
花梨:父が出張でパリに行った際に、お土産として買ってきてくれた雑誌です。父は車のデザインの仕事をしていますが、もともとアートが好きな家系で、家にはアート関連の書籍がたくさんあります。私の祖父は油絵を描いていました。そんなこともあり海外出張の際にアートブックをお土産に買ってきてもらうのが恒例になってるんです。
−−気に入っているポイントは?
花梨:イラストの雑誌なのですが、毎号のテーマに合わせてさまざまなアーティストの作品が載っているところです。私はコラージュの作品をつくっていますが、制作において大切にしているのが構図。この雑誌にはコラージュは掲載されていませんが、イラスト作品の構図の取り方がとても参考になります。色の組み合わせもいいなとか。とにかく制作中に何度も読み返して、いつもインスピレーションをもらっています。
−−この本ならではの魅力は?
花梨:なんといってもこのサイズ感ですね。見開きになると特に迫力があります。自分の作品はA4より少し大きいサイズでつくることが多いのですが、今、個展のために大きい作品を制作しようとしていて、この雑誌を広げたA3くらいのサイズもいいなと思っています。
PAPIER MAGAZINE D’ILLUSTRATIONS THEME No1
アートブックを眺めるのは創作活動の一環
−−好きなポイントは?
花梨:1点1点の作品だけでなく、本全体の編集力が素晴らしい。違う作家の作品同士を横に並べる時に、どういう並びにするのか。どんな色をもってくるのか。順番や並びは、場合によっては作品の魅力を相殺してしまうこともありますが、このアートブックは編集という視点において秀逸です。
−−この本をどんな時に見ますか?
花梨:制作中に行き詰まった時が多い。私はいつもは最初にテーマを決めて作品をつくるのですが、例えば作品のテーマを「誕生」にしようと思ったら、「誕生」というフィルターでアートブックを読んでみます。するとそれまで何度も目にしてきたアートブックでも、描かれているボールが卵のようにも見えてきて「この作品のこの部分から誕生が連想できるのだ」という新しい視点が生まれます。そうやって自分のテーマと他者の作品を合致させて見ていくと、そこから自分なりのソースがおりてくるんです。テーマ(フィルター)が変われば見えるものも変わってくるので、何度も何度もページをめくって読み返します。そういう意味ではあまり「この作品が好き、この作家さんが好き」といった目線ではアートブックを見ていないのかもしれませんね。
「Collage & Montage」
ジョゼフ・コーネル
アートワークに強く影響を受けた「箱のアーティスト」の図録
−−この本との出会いは?
花梨:DIC川村美術館で個展を開催していた際に購入しました。彼はコラージュも手掛けるアーティストなので、先ほど紹介したDimanche studioのアートブックより直接的に、作品づくりのイメージソースとして参考になります。特に箱を使った立体のコラージュ作品が代表的で、自分も立体で作品がつくれないか考えるようになりましたね。まだ立体は納得がいくものができていないのですが、とにかく強く影響を受けたアーティストの1人です。いつか自分の個展が実現したら、ギャラリーの空間の使い方なども参考にしたいですね。
−−この本から得た学びは?
花梨:この公式図録には作品と作品のタイトルが時系列で収録されています。そのタイトルのつけ方が天才的(翻訳の方含めて)なんです! 実は私は、それまであまりタイトルを重要視していなかったので作品のテーマや感じたことから“なんとなく”タイトルをつけていたのですが、ジョゼフ・コーネルの作品を知って、作品とタイトルの相乗効果がありそうだと感じるようになりました。比喩的表現を含め、自分の作品のタイトルももっと深く考えたいと思っています。