「innen Japan」のアーロン・ファビアンと井口弘史が選ぶ、今気になるZINE7選

集めてもよし、作ってもよし、交換してもよし。こだわりとアツい気持ちさえあれば、誰もが気軽に発信できるコミュニケーションツールとして、ZINEは今もなお世界中で愛されている。その自由度を武器に型にはまらない作品をリリースしているのが、スイス・チューリッヒを拠点とするインディペンデント出版社「innen」だ。パブリッシャーであるアーロン・ファビアンのセレクトは、とにかく斬新でユニーク。大御所から新進気鋭の若手アーティスト、ヘルムート・ラングやヴィヴィアン・ウエストウッドといったファッションデザイナー、はたまた女優のクロエ・セヴィニーまで、ジャンルを超えた人々の作品をフィーチャーしている。

そんなアーロン が今回の対談相手に選んだのは、東京を拠点に活動するグラフィックデザイナーの井口弘史。彼の作品集『CULT JAM(2009)』のアートワークを見てコンタクトしたことをきっかけに、自然と意気投合。今夏よりトーキョー カルチャート by ビームスを通じて「innen Japan」プロジェクトを始動し、これから毎月1冊のペースで厳選したアーティストのZINEをリリース予定だ。新たなスタートを切った2人が「innen」で今気になる7冊をセレクト。本来ZINEはこうやって楽しむもの! そう思える2人の会話に耳を傾けた。

Holes / Hiroshi Iguchi

井口弘史(以下、井口):2005年に「innen」から最初にリリースした『BIG VALUE DUB』は、コンセプトに基づいていろんな作風が混在した作品集だったけど、その中の1つを拡大解釈したのが『Holes』。このドットを配列した作品は10年以上取り組んでいるシリーズなんだけど、この作風だけにフィーチャーした作品集はこれが初めて。

アーロン・ファビアン(以下、アーロン):ドットっていうスタイルが好き。どうやって描いているのかわからないけど、スーパークールだよ。

井口:作品のセレクトには時間がかかったけど、自分にとって重要な作業だった。DJ MIXのために選曲するような感覚かな。

アーロン:僕もレイアウトを考えるときは、ストーリーや流れを大事にしてる。「innen」では普段僕がZINEのレイアウトを担当してるんだけど、ヒロシの場合は最後に印刷するだけ。君のことは本当に信じてるからね。

井口:僕にとって思い出深いZINEになったよ。いい機会とタイミングをありがとう。

アーロン:いや、僕のほうがありがとうだよ。

井口:エーロン(アーロンの愛称)と自分のスタイルって質感とかちょっと違うんだけど、アティチュードは近いものを感じるよ。

アーロン:はは! そう? ヒロシは特別なテイストを持ってると思うし、何より一緒にやってて楽しいんだ。

If I See You in My Dreams / Joji Nakamura

アーロン:「innen Japan」の記念すべき1冊目だね。去年の東京アートブックフェアで1、2回穣二に会ったんだ。彼のアートワークはシンプルでおもしろい。ナイーヴなペインティングなんだけどカラフルでさ。

井口:穣二くんの作品が発するプリミティヴなダイナミズムが好きだよ。

アーロン:彼もそうだけど、ヒロシがいつも僕の知らない日本人アーティストを紹介してくれるから嬉しいよ。「innen Japan」はリサーチに力を入れてて、リアルでハイクオリティなアートにフォーカスしてるからね。といっても最終的に僕らが好きで楽しめるものを選ぶけど。

井口:あとは、僕が仲良いからチョイスしてるわけではなくて、「innen」にとっていいインフルエンスになればいいなと思って紹介してるよ。だから実際に会ったことのないアーティストでも「エーロンこの作品好きそう」と感じたら提案してる。そうだ、今回のリリースを兼ねた穣二くんの展示をちょうど見に行ってきてね、とても良かったよ。最後のページの作品(モヒカンの絵)は特に好きかな。

アーロン :いいエンディングだよね。

Sari (Dogod #3) / Akiko Watanabe

アーロン:ベルリン在住のフォトグラファー、渡部明子の『Dogod』 シリーズの3作目だね。彼女は11年前にベルリンで会って以来の友達で、10年前からこのシリーズを始めたんだ。アートっていうよりは、犬を介したパーソナルでファミリーなZINE。前2作品はいろんな犬を集めてたんだけど、今回は彼女の友達が飼っている愛犬サリだけにフォーカスしてる。サリは会ったことないんだけど、とっても可愛いよね。

井口:僕も犬好きだよ、今まで3匹の犬と暮らしてきた。マルチーズのフーフーは、僕に怒って鼻に噛みついたりしたけどね(笑)。家でのヒエラルキーは両親、フーフー、そして僕ら兄弟の順だった(笑)。家に僕1人しかいない時にはすごく甘えてくる反面、母が帰ってくると急に僕に吠え出したりしてさ、乙女心は複雑だね(笑)。

アーロン:はは(笑)! おもしろいね。僕も犬が好きで、今まで2匹の犬を飼ってたよ。前の犬はリノっていう元カノの家族の犬。ミックス犬で可愛いかった。ちなみに猫より犬が好きなんだ。犬のほうが正直だろ?もし猫を飼っていたら、ベッドの上は毛だらけになるし家具も引っ掻きまくるしさ。

井口:うん、犬は大事な存在だよね。

The Edge of Hell  /  Sean Pablo

アーロン:NYのスケーター、ショーン・パブロとZINEを作りたくて作ったのがこれ。彼が送ってくれた旅行やパーソナルライフ、友達の写真をまとめたんだ。僕がレイアウトをして、シュプリームがプリントをサポートして。ロゴは表記されてないけどね。

井口:これが「innen」から出ていることに納得。まさにエーロンの好きな世界観だと思ったよ。

アーロン:ユースやDIYカルチャーにコネクトしてるよね。ストリートやスケーター、ミュージック、グラフィティ、僕もこのカルチャー出身だから。昔はスケートボードしてたけど、今はしてないな。スノーボードはするかもね。最近は月曜日から金曜日まで毎日泳いでるよ。イルカなんだ。でも自粛が始まってから泳げてないなぁ。

井口:僕もパウエル・ペラルタに在籍してた頃のマイク・バレリーに憧れてたけど、僕自身は決して上手くはなかったなぁ。でも絵を描くことが好きだったから、スケートボードのデッキのグラフィックにはものすごく影響を受けたし、よく模写してたよ。思えばその頃からよくスカルを描いてたね。『BIG VALUE DUB』の中にもスカルの作品が何点かあるけど、哲学的にも好きなモチーフ。そうそう、先週の土曜日にパウエル・ペラルタのパイント・グラスを大先輩のSKATETHINGからいただいたよ。

アーロン:おぉ、かっこいい!

Selected Works From 2001 To 2009 / Dash Snow

アーロン:これはアメリカ人アーティスト、ダッシュ・スノウの作品をまとめたZINEの2作目。同じくスイス・チューリッヒを拠点とするインディペンデント出版社「Nieves」と共同出版したんだ。彼は2009年に亡くなったんだけど、ベルリンのCFAギャラリーからコピーライトをもらって、インスタレーションや写真を集めてね。彼に直接会ったことはないんだけど、NYにいる共通の友達からかなりラディカルな人だったと聞いて。1stエディションは白だったから、2ndエディションはパンクな赤にしてみた。

井口:僕も彼の作品が好き。

アーロン:初めて見たのは10年前かな。彼はZINEも作ってたんだ。ZINEは本よりもエクスクルーシブでユニークなもの。価格も送料も手頃だし、売るのも拡散するのも本より簡単で早いだろ?

井口:シールやバッジみたいに手頃な感覚もあるよね。

アーロン:90年代のバスケットボールカード覚えてる?1枚1枚違って、たまにレアなカードがあって。ZINEカルチャーも一緒なんだ。それぞれの個性があるし、売り切れたら価値が上がる。何より集めたくなるだろ?

井口:Toppsのトレーディング・カード大好き。うん、集めたくなるのわかるよ。

I am a Blue Whale / Joe Roberts

アーロン:サンフランシスコ拠点のアーティスト、ジョー・ロバーツの2作目。GX1000(サンフランシスコのスケートボードクルー兼レーベル)のデザインも手掛けてる、素晴らしいアーティストだよ。

井口:彼のスタイルいいよね。ニンジャ・タートルズとか、ディズニー映画の『ファンタジア』をモチーフに使ってたりして。待って、このZINEあるからちょっと探してみる。

アーロン:去年チューリッヒでジョーに会ったよ。彼は自然が好きで、その時もスイスでハイキングしてた。だから彼の作品って自然の要素もある。あとミッキーマウスがLSDやドラッグをしてたり、タートルズがピザ食べてたりしててさ。

井口:(山ほどのZINEを抱えて)あったよ。エーロンは来日するとき毎回ハンドキャリーで山ほどZINEを持ってきてくれるよね。ブックフェアの時はスーツケースにいっぱいだし。

アーロン:どのくらいだろう、去年の東京アートブックフェアにはUPSで100キロ以上は送ったかな。今年も11月に来日する予定だったけど、この状況だからキャンセルだよ。一緒に『グランドファーザーズ』行ったの覚えてる?

井口:ああ、渋谷のメロウなロックバーだね。エーロンすごく気に入ってたね、特にそこにあった大きな三角形の灰皿。後日ヤフオク!で中古品を見つけて送ったよね。

アーロン:そう、それ!ちょっと待ってて!(灰皿を取りに行く)今このバナナ型のやつならあるよ。三角形は家にあるけど、実はどっちも同じ会社。あと居酒屋も楽しかったなぁ。ヒロシは最高のガイドだよ。

井口:前回は僕らの友達で「innen」からZINEを出してる、ヤブノケンセイの家でホームパーティしたね。僕らの周りで日本人の友達がたくさんできたんじゃない?

アーロン:そうだね。あと今年は僕のギャラリーでヒロシと何か一緒にしたかったけど、これも延期かぁ。

井口:今年は難しかったけど、来年以降に実現したいな。

efflorescence / VIRGIL ABLOH™

アーロン:「オフ-ホワイト」のデザイナーで、今では「ルイ・ヴィトン」のメンズ アーティスティック・ディレクターを務めるヴァージル・アブローのZINE。彼のファッションが好きだし、一度ZINEを作ってみたらおもしろそうって思ったんだ。直接つながってないから、友達を通じてコンタクトしてね。彼のスタジオを撮影したエクスクルーシブな写真をまとめてる。

井口:彼の仕事を見ていると、普遍的な良いものをたくさん知ってる人だなと感じるね。4年前に1回だけパーティで会ったことがあるよ。たまたま僕のDJの次が彼でね、本人は覚えてないと思うけど(笑)。

アーロン:へー、知らなかった。クールじゃん!実はカルチャーを通じてコネクトしてることってよくあるよね。

アーロン・ファビアン
ハンガリー出身。グラフィックデザイナー、「innen」パブリッシャー兼編集長。2006年にスイスでインディペンデント出版社「innen 」を設立。現在はチューリッヒを拠点に、ZINEを通してアートや現代のトレンドについて型にはまらない視点を提供している。2010年には、厳選された現代アートの作品集『Zug Magazine(ツーク マガジン)』を創刊。2020年より井口弘史と「innen Japan」を立ち上げ、毎月1冊アーティストのZINEをリリース予定だ。
www.innenbooks.com

井口弘史
グラフィック・チームIlldozerを経て、2001年より自身の作品制作を主とする活動をスタートさせる。作品集として『CULT JAM』(BARTS),『BIG VALUE DUB』(innen),『Holes』(innen)をリリース。アーロン・ファビアンと立ち上げた「innen Japan」では、主にアーティストのキュレーションと編集を担当している。
hiroshiiguchi.com

author:

山根裕紀子

エディター、ライター/『RISIKO』編集長 広島県生まれ。2012年よりベルリンへ移住。主にファッションやカルチャー誌を中心に企画、取材、執筆をしている。今年、ドイツのアンダーグラウンドな音楽シーンの”今”を紹介するインディペンデントマガジン『RISIKO(リジコ)』を創刊。「WALL(壁)」をテーマとした創刊号では、クラウトロック、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ、ハンブルガー・シューレ、 そして現代を生きるドイツ在住のミュージシャン30組 をピックアップ。彼らの言葉から今のシーンを紐解く。 www.yukikoyamane.com   Instagram:@risikomagazine

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