ライターやラジオの放送作家として活動する渡辺雅史。2018年、42歳で「ウーバーイーツ」の配達員の仕事も始め、今年5月には配達員の実情をつづった書籍『アラフォーウーバーイーツ配達員ヘロヘロ日記』を出版。現在は、ライターと配達員の二足の草鞋を履く日々を過ごしている。今回、どういった経緯で「ウーバーイーツ」の配達員になったのか。また、どのようにライター業と両立しているのか。そして本当に「ウーバーイーツ」の配達員は稼げるのか。リアルな話を聞いた
——まずは、渡辺さんが「ウーバーイーツ」の配達員の仕事を始めたきっかけを教えてください。
渡辺:当時、ライター業で不規則な生活を送っていたため、体重が100kg以上とかなり太っていて、医者から運動した方がいいよって言われたんです。それだったらお金を払ってジムに通うよりは、お金をもらいながら健康になったほうがいいなと思ったのがきっかけです。「ウーバーイーツ」の配達員は、自分の好きな時にアプリをオンにしたら働けて、オフにしたらそれで終わりっていう働き方も魅力的で、これならライターとも両立できそうだし、しかも自分で(その仕事を)受けるか受けないかを選べる。そういった自由度の高さにもひかれて、始めました。
——働き始めた当時は、ライター業に将来的な不安があったとか。
渡辺:僕のライターのスタイルっていうのは、連載企画をたくさん持っているものでも、特定の出版社や雑誌で書いているものでもありません。自分で企画を考えて、つながりのある編集者に出したり、場合によっては出版社に持ち込むっていうスタイルなんです。だから全然知らない編集部にも電話して企画を売り込んだりして。そういう意味では不安定といえば不安定ですね。今もレギュラーの連載2本と、放送作家としてラジオ週1本なので、あとは自分で仕事をとってこないといけない。だからライターの仕事が暇な月とかだったら「ウーバー」を多めにやってとか、自分で調整できるからいいなと思ったんです。
——渡辺さんは2018年1月から始められたんですよね。当時、「ウーバーイーツ」ってそこまでメジャーではなかったし、実際に働き方もよくわかってなかった部分もあると思うんですが、そこに不安はなかったですか?
渡辺:それは全然なかったです。ダメだったらやめればいいと思ってたし、「こんないい加減な働き方でいいんだ」っていうほうが大きかったですね(笑)。あと、実際に働く前に当時携わっていたラジオ番組で、フードデリバリーの特集をやっていて、その時に配達員の話を聞いて、これならできそうとは思っていました。
——現在、ライターと配達員の仕事の割合はどれくらいですか?
渡辺:これは難しいところなんですけど、先ほど言ったように、ライター業は自分で企画を出すので、多い月があれば少ない月もある。だから、毎月だいたいこれくらいの割合っていうのがなくて、「ウーバー」の割合がかなり多い月もあれば、全くやらない月もあったりして。ライターの仕事の波を埋める感じで、「ウーバー」はやっています。
死ぬほど働けば、稼ぐことはできる
——「ウーバーイーツ」の配達員をやってみて、最初の印象はどうでしたか?
渡辺:始めた頃は、「ウーバーイーツ」がまだ世の中に浸透していなかったし、エリアも限られていたので、富裕層の利用が多くて、そういう人達と普段は全く接しないから、配達するのがおもしろかったですね。例えば、六本木ヒルズに何回も行っているので、何となくその人達の生活が垣間見えて、上層階、中層階でも住んでいる層が全然違っているんだとか、そんなことも知れて興味深かったです。今は置き配が一般的になったので、そういったことも少なくなりましたけど。
——ウェブ記事などで月100万円稼いだ人が出てたりしましたが、渡辺さんの場合は月に最高でどれくらい稼いだんですか?
渡辺:ウーバーは週払いなので、最高で週8万4000円とかでしたね。
——それだと月50万円稼ぐのもすごく大変ってことですね。
渡辺:自転車ではなく、バイクを使って運んでいる人なら稼ぐことができるのかもしれませんが、月50万円以上稼ぐ人達の働いている時間って、ずっとやったら過労死するくらいのレベルだと思います。だから、稼ごうと思えば、稼げるけど、死ぬほど働かないといけない。僕も8万4000円稼いだ時は、このペースだと絶対に体を壊すほどの労働時間でした。
朝7時くらいから夜10時くらいまでやって大体1万5000円くらい。それでも毎日はそんな働き方はできないので、現実的には1日1万円前後。それを週5日くらいやったとして、体を壊さない感じで働くとなると平均は月20万円くらいじゃないですかね。僕は専業ではないので、もっと少ないですが。
——朝7時から夜10時は大変ですね。中には、1日中働く人もいるんですか?
渡辺:ふらふらになりますよ(笑)。でも、ウーバーは制限があって、乗車時間(注文を受けてから届けるまでの時間)の累計が1日12時間までと決まっていて、そこから6時間空けないと乗れないシステムにはなっています。だから24時間働くというのはできないんです。
シェアサイクルだからこその気軽さ
——渡辺さんはどのエリアで配達員をやられているんですか?
渡辺:東京の中央区、港区、江東区、千代田区あたりです。それは仕事場が中央区にあって、赤いシェアサイクルを借りられる場所が近くにあったからです。やっぱり待ち時間を外で待つのはつらいし、かといってお店に入るとお金もかかるし。だから、その仕事場をベースにやるっていう感じです。稼ごうと思えば、新宿とか渋谷とかでやった方がいいかもしれませんけど。
——自分の自転車を購入はしないんですか?
渡辺:自分の自転車だと、自宅から出発して、自宅に戻らないといけない。家の近くでやるんだったら、それでいいけど、ある程度注文の多い都内のエリアで働くとなると、レンタルのほうが効率がいい。好きなところで乗れて、帰りも電車で帰ってこられるし、その自由度がいいですよね。あと、いい自転車だと盗難の可能性もあったりするので、その危険もありませんし。
——本にも書かれていますが、旅行しながらウーバーの配達員をやったりもしてたそうですね。
渡辺:名古屋とかでやってましたね。でも、自分の登録地域以外ではボーナスが入らないので、金額はめちゃくちゃ下がります。だから、稼げはしないのですが、僕の場合はライターとしてネタ集め的な感じだったので、やってみたという感じです。1日やってみると、おいしいお店がわかるようになりましたね(笑)。また、コロナが落ち着いたらやってみたいですけど、電動アシストのレンタルがない場所だとさすがにきついかな。
腹が立つエピソードはネタとして消化
——配達員をやっていてつらかったエピソードを教えてください。
渡辺:一番は天候で、ゲリラ豪雨はやっぱりつらいですね。それでゲリラ豪雨の中、必死に届けたら、「おじさんがびしょびしょの姿を見て笑われる」っていうことがあって、腹が立ちましたけど。
——この本の中には、そういった腹が立ったエピソードもいくつか書かれていますね。
渡辺:そのあたりはぜひ本を読んでもらって(笑)。でも、最近は置き配になって、そういう目にあうこともなくなりましたね。今は、お店側の態度とかのほうが、腹が立つことは増えました。お客と違って「ウーバー」の配達員への対応って、ひどいことも多いですから。
専業でやってたらあの店には行きたくないなって思うかもしないけど、僕はライターもやっているから、そういったこともネタにできるなっていう風に気持ちを切り替えてやってます。
——「ウーバーイーツ」への批判でよくあるのが、届いたらぐちゃぐちゃになっているというのがあります。あれは店と配達員のどっちに責任があるんですか?
渡辺:ケースバイケースなんですけど、基本は配達員にあると思います。でも、お店の梱包の仕方もひどい時は多いので、そこは難しいですけど。
基本的にお店の梱包って、横揺れには強いけど、縦揺れには弱い。自転車に乗っていると、歩道と車道の段差とかもあったりして縦に揺れることが多くて、こぼれてしまうこともあるんです。だから、僕の場合は配達用バッグの中になるべくすき間ができないよう工夫しています。
「配達が遅い」ってクレームもよくあるんですけど、それで怒られるのは納得がいかないです。そういう人って出前と同じ感覚で、「ウーバーイーツ」のシステムがよくわかってないですよね。まずはマッチングしないといけないし、他のお客のもピックアップしたりするので。
あと、商品の入れ忘れに関しては、お店側の責任なので、配達員には責任がないのも知っておいてほしいですね。
——せっかくなのでカバンの中を見せてもらえますか。
渡辺:どうぞ。さっき言ったように、自分でダンボールで区切ったり、予備のバッテリーやタオルとかを入れて動かないようにしています。
——なるほど。これだと動かなそうですね。今後、体力的にどれくらいまで続けられそうって思いますか?
渡辺:60歳くらいでもやっている人がいるので、まだ続けられると思います。僕はコインランドリーをよく使うんですけど、洗濯〜乾燥の1時間15分くらいの間にやると洗濯代以上は稼げますね。そういうすきま時間にやったり、自分のペースでやっていければと思っています。
——もともと健康のために始めて、実際に「ウーバーイーツ」の配達員をやって、健康にはなったんですか?
渡辺:血液検査の結果はよくなりましたね。それでライター業が忙しい時に検査したら、数字が悪くなっていたりして、医者からは「ウーバーの割合を増やした方がいいんじゃない」って言われたりもしました(笑)。すごくやっていた時は15kgくらい減ったんですが、この単行本を出すに当たって、こもって書いていたら、一気に太りましたね。
——最後にこの本をどんな人に読んでほしいと思いますか?
渡辺:こんな仕事があるっていうのはいろいろな人に知ってもらえるといいですね。働き方として、今までになかったと思うので、そういった意味では、「ウーバーイーツ」の配達員の実情がかなりわかると思います。