時代を超えた良質な音楽とアートを届けるパーティ「Rainbow Disco Club」ーー今だからこそのダンスミュージックの魅力とは

「Rainbow Disco Club」(以下、RDC)は、ダンスミュージック好きから支持を得ている野外音楽イベントだ。コロナ禍前は、静岡県東伊豆町で開催されていて、自然に囲まれた環境でグッドミュージックが味わえる至極のフェスとして国内外から支持を集めてきた。しかしコロナ禍以降、フィジカルでの開催が見送られるという事態に見舞われてきた。それが10月30、31日の2日間にわたり、「RDC “Back To The Real”」という形で開催されることになった。

この時代における音楽フェスの在り方とは。なにより「Rainbow Disco Club」が大切にする思いとは。主催者のMasahiro Tsuchiyaに聞く。

今一度原点に立ち戻りシンプルなメッセージを発信したい

――今年開催されるRDCは場所を変えての開催となりますが、タイトルに“Back To The Real”、つまり原点回帰を掲げています。この経緯について改めて教えてください。

Masahiro Tsuchiya (以下、Tsuchiya):2020年からこの夏までは軒並み音楽フェスが中止となり、行き場を失った人も大勢いたと思います。その中で僕自身は小さな招待制のイベントなど、クローズドのパーティに行かせていただく機会がありました。その現場は、すごくパワーにあふれていて、自分が音楽に夢中になるきっかけになった瞬間が思い起こされたんです。言わばコロナによって音楽シーンが停滞した時が、どうして自分がこの音楽シーンに興味を持ち、のめり込んでいったのかを振り返るような機会になったわけです。
このことをRDCを一緒にスタートさせた創設メンバーのカルロス・ギブスに話した時に、今年のRDCのタイトルはすごくシンプルなものでいいんじゃないかと考えました。先日開催された「SUPER SONIC」のような事例もありましたが、現状を鑑みると海外からアーティストを招聘するのは、まだまだ難しい状況ですし、刻一刻と事態が変化している最中ではあるんですが、一度、原点に立ち戻っていいんじゃないかって気持ちが自然と出てきて、“Back To The Real”としました。

――昨年はリアルな場での開催は中止とし配信イベントに切り替えた背景がありますね。

Tsuchiya:これまで天候以外の理由で中止になるとは考えたことがなかったので、愕然としたというか……。今となっては配信へシフトしたことで結果的に成功だったと考えられるんですけど、当時は精神的に苦しい部分はありましたね。実際、配信に踏み切ったのは必要にせまられてやらざるを得なかったって感覚ではあるんですが、やってみていろいろ思うこともありました。配信なので当然ですが、目の前にお客さんがいないので、誰に向けてイベントをやっていくのか、その伝え方には悩みました。

――配信を行ったことで発見などはありましたか?

Tsuchiya:配信というフォーマットに大きな可能性を感じたんですけど、それ以上に音響的な部分で難しさを感じました。というのも、観ている人はそれぞれ環境が異なるじゃないですか。スマホで観ている人もいれば、ハイエンドなオーディオ機器を使って観ている人もいるでしょうし。その、どこに標準を合わせて音の響き方などを調整するのかが大変でした。ポジティブな面でいうと、誰かはわからないけど視聴してくれている人数が数字として表示されるのは、すごく勇気づけられましたね。もろもろの事情で来たくても来れない人はどうしてもいるでしょうし、その人達に届けられるのは良かったですね。昨年は準備期間が短くて、実現できないことも多かったのですが、これからはリアルとバーチャルの両軸で動いていく時代だと感じているので、もっと強化していきたいと思います。やはり、リアルでもバーチャルでも個人個人が音楽を楽しむことができて、それを他者とも共有することで広がっていく感覚というフィジカルにあることを配信にも感じましたし、同時にダンスフロアの素晴らしいところだとも気付きました。僕達はリアルやバーチャルという垣根を考えずに、そういったことが起きるように意識してイベントをやっていかないといけないと思います。

――では今年は2度の延期を経て上で、実際に有観客でのイベント開催と有料配信を行うに至った経緯について聞かせてください。

Tsuchiya:緊急事態宣言も10月になって解除され、基本的にはイベントも条件を満たした上であれば開催できる状況にまでなりました。われわれとしても2020年から何度も企画しては中止や延期を繰り返し、苦しい気持ちを抱えながらもついにここまで来ました。
苦しい状況が長い間続いてましたので、開催することができて、喜んでくれるお客さんの姿を見ることができたら、それが関わってくれた方達の努力が報われる瞬間なのかなと思いますので、是が非でも開催したいという気持ちは強いです。
さらにチケットの払い戻しを行っているのにもかかわらず、払い戻しせずに開催を待ち望んでくれている多くのRDCフォロワーの皆様や、度重なるスケジュール変更を文句1つ言わず快く引き受けている出演者、そして何度もやり直しになっているのに協力してくれているスタッフや仲間達のことを考えたら、やらないという選択肢は一切ありませんでした。
実際に多くの人から開催についての連絡もあったり、そういうものに勇気づけられているところもあります。忘れられてしまうんじゃないかって思ったことすらありましたから(笑)。

ですが、参加するにあたっての厳しい参加条件を付け加えたことにより、賛同することができない人達も出てくるだろうということも考えられたので、そのような人達には会場に来なくとも楽しんでもらえるように有料ですが配信を行うということも決めました。そうすることでさまざまな考え方を持つ人達が、それぞれの形でRDCを楽しんでくれるようになるのではないかなと思います。来場できる人は現場に来ていただき、会場に行くのは少し心配という人は配信を観ていただく。そして、どちらにも理解を示せない方にはチケットの払い戻しで対応させていただく。これが、今現状でわれわれができる最善なのではないかと思っています。

――今回はワクチン接種証明やPCR検査の陰性証明などといった、入場条件を設けての開催となるとのことですが、詳しく教えてください。

Tsuchiya:参加条件としては以下の3点のいずれかを満たしている方は入場可能となります。感染者は全国的に減少傾向ではありますが、なるべく会場内で安心して過ごしていただくためにこのような条件を付与させていただきました。
こちらについてはさまざまな意見があると思います。最適解がなんなのか非常に判断が難しいところですが、ご理解いただけたら嬉しいです。

「RDC “Back To The Real”」への参加条件に関して
(いずれか1つを満たしている方は入場可能)
①新型コロナウイルス感染症 ワクチン2回接種証明書
(ワクチン接種証明書、または2回の接種終了がわかる接種券や記録書などを提示。2回目のワクチン接種日が10月15日以前に限る)
②入場前72時間以内のPCR検査陰性証明書
(自身でPCR検査を受けていただき、「入場前72時間以内」のPCR検査結果が陰性である証明書やメールを提示。PCR検査結果に自身の「お名前」と「検査日」が明記されているものに限る)
③既感染者の証明書
(自治体発行の療養証明書、就業制限等通知書、入院勧告書などを提示。5月1日以降に新型コロナウイルス感染症に感染した方に限る)

主催者だけではなくお客さんとともに作るフェス

――今年開催されるRDCは川崎市の臨海公園、ちどり公園での開催となります。過去に静岡県東伊豆町や晴海ふ頭で開催されてきましたが、今回この場所を選んだのはなぜですか?

Tsuchiya:ちどり公園は、これまでにも他の音楽イベントの会場として使用されていて、クオリティの高いパーティが開催された場所なんですよね。そういった過去があり、音楽が本当に好きな人が集まっていた場所です。DJ NOBUさん主催のパーティ、「FUTURE TERROR」が行われた場所でもあるんですけど、僕はそのイベントのお手伝いで参加したことがあって、その時からすごく良い場所だと感じていました。そこで、ちどり公園でイベントを主催してきた方々にも相談しながら公園との交渉を進め、開催の許可をいただきました。

――場所として、RDCの雰囲気に合うと感じられたということですか?

Tsuchiya:そうですね。それに、東京からアクセスが良いというのも理由の1つですね。距離が近いということによって、伊豆まではなかなか来るのが難しい人達、特に若年層の方々に多いと思うので、そういった人達も集まりやすいかなと思いました。それによって、ちどり公園では今まで僕達がやったことのないことに挑戦できると感じました。雰囲気でいうと、静岡県東伊豆町とは対極にあるような空間で、周辺は工場地帯で荒々しい空気感があるんですが、僕はそこも気に入っています。
そして、こういう状況下での開催になるので、これまでのRDCとはちょっと毛色が異なるという意思表示もしたかった。いろいろと初めての経験が多い分、個人的にもすごく楽しみですし、同時に感染予防対策も万全を期して挑みたいと考えています。

――これまで、RDCはファミリーでも参加できるキャンプフェス的な側面もありましたが、今回は子どもの入場も可能なんですか?

Tsuchiya:子どもの入場は可能ですが、先ほどもお話しした通り、今までとは少し違うものになるのは間違いないかなと思います。会場も伊豆ほど広くはありませんし、キャンプエリアもありませんので、保護者の方には十分な配慮をお願いすることになると思います。
コロナ対策をきちんとすれば、十分楽しめる環境だと思いますが、足を運ぶかどうかの最終判断はお客さん自身に決めてもらいたいと考えています。イベント参加条件や注意事項を提示しますが、それ以上に来場者みなさまのそれぞれの判断に委ねたいというか。主催者としてはワガママな考えに思われてしまうかもしれないのですが、このような状況での開催がお客さん自身が音楽フェスやイベントに対してどう向き合うかを考えていただく機会になれば自分としてはとても嬉しいです。

――こういった状況下でフェスを開催するのであれば、相互理解の気持ちが重要になってきますよね。

Tsuchiya:そうなんですよね。許されるのであれば、もっと自由に何も考えず音楽を楽しんでほしいんですけど、この状況を踏まえた上での開催であることを最初に理解してもらった上で遊びに来てほしいんです。本当に僕達だけではイベントは絶対に成立しませんし、主催者側がどれだけ準備をしたとしても限界はあるので、最終的にはお客さん1人1人に判断を委ねたい。その上で、遊びに来てくれた人を、僕達は最大限の感謝と配慮をもってお迎えしたいと考えています。

日本から生まれてくる魅力的なものをより世界の人とシェアしていきたい

――では今回の出演者のブッキングは、どのように行われたんですか?

Tsuchiya:まずは自分達の耳と感覚が基準になりますが、開催場所は今年に関しては大きいです。「DK SOUND」(今や伝説となっているインダストリアルレイヴバーティ)も会場は違いますが、同じ川崎で行われていて、すごく憧れていていつか行ってみたいと思っていたんですよ。その思いから、「DK SOUND」のレジデントのTraks Boysにオファーをさせていただきました。あとはRDC初出演になるんですけど、Satoshi & Makotoという双子の2人は、カシオのCZ-5000(1985年発売のヴィンテージ機材)というシンセサイザーだけで曲を作っているアーティスト。その彼らが1980年代に発表した作品が、数年前にリイシューされていてすごく良くて、どうしても出てほしかったから、なんとかたどりついてオファーさせていただいたり。個人的な感情もブッキングには大きく影響していますね。他にはコロナ禍の中でも積極的に活動していたアーティストにも出演していただきます。
例えば、RDCでは常連のYoshinori Hayashiくんは今年アルバムをリリースしていますし、ELLI ARAKAWA & FRANKIE $は現場がなくなっても自宅から定期的に配信活動を行っています。こんな状況だからこそ、積極的に何か新しいアイデアを持って活動されている人達をブッキングしたかったですね。

――なるほど。初登場のアーティストも多いですよね

Tsuchiya:そうですね。MAYUDEPTHさんや食品まつり a.k.a Foodmanさんとか。現場という意味ではLicaxxxさんやCYKがみんな初ですね。みんな近いところにいるようで、普段いる場所が若干違っていたり、お互いに自分達のパーティを持っていたりするアーティストが丸ごと入っているような形になっていると思います。

――改めて、RDCというイベントの性質を考えると、日本から世界に向けてカルチャーを発信しているフェスだと思うんです。そのRDCの核にある思いについて教えてもらえますか?

Tsuchiya:ちょっとずれた回答になってしまうかもしれませんが、日本にいる僕らが海外のシーンをもっと積極的に迎え入れないといけないですし、同時に僕らも海外に出ていかないといけないと思うんです。そういったコミュニケーションを取りたいと、RDCをやってきたんですが、コロナ禍以降は、出演者の選択肢が国内に狭まってしまったので、その現状にすごくストレスを感じています。これは日本が悪いという意味ではなく、今まで海外からアーティストを呼べないなんて状況はなかったわけじゃないですか。

――海外からアーティストが呼べない日がくるとは思いませんでしたよね。

Tsuchiya:あたりまえだったことが絶たれてしまった現状を踏まえながら、これから日本で生まれてくる新しいものをもっと世界の人と共有できるようにしたいし、今まで以上に世界を迎え入れていきたいです。特に僕らがやってるダンスミュージックには歌詞のない楽曲も多く、言葉の壁が少なかったりするので、その本質的な良さをもっと生かして日本の中で新しい文化価値と経済価値を見出しながら、より日本の素晴らしさを伝えられるような積極的な交流をしていきたいです。それが僕のやるべきことなんだと思います。

Masahiro Tsuchiya
2010年より“Japanese festival for timeless music and arts”を標榜するエレクトリックミュージック・フェスティバル、「Rainbow Disco Club」を主催してきたオーガナイザー。これまでにイベントの開催以外にも、CDのリリースやグッズの販売など、イベントを通したクリエイティブを発信している。
Instagram:@masahirot / @rainbowdiscoclub

RDC2021出演者に聞くRDCの魅力とメッセージ

DJ NOBU
「毎年RDCでDJする機会があり、他のフェスと違った独自のテーマを与えてくれるので、今回に限らず私にとってなくてはならない現場です。逆に参加できなかったら寂しいくらい。去年と違い2年ぶりに生の現場での開催なので、嬉しくて仕方ないです。東伊豆町とは違うロケーションなので、自分の役割を果たし去年現場でお会いできなかったみなさんに楽しんでもらうためにも自分にしかできないプレイをまっとうします。私自身も楽しみながらDJしますので一緒に楽しみましょう!」

KENJI TAKIMI
「RDCは初回からわりと出ているので、自分にとってはある種の定例行事の1つでもあり、毎回、“現場”というものを考えさせてくれる場所です。昨年は配信だったので、今年はお客さんを前にして開催ということで、場所も含め二転三転しましたが、参加できることを喜びたいと思います。DJに関しては、コロナ禍によっていろいろなものが失われたので、いろいろなものを少しずつでも取り戻したい気持ちはあります。いつもと変わらないようにプレイするつもりですが、場所を意識しつつ、時節柄、距離感と陶酔と覚醒のバランスには留意、タイムテーブル的には予定調和の中の非予定調和を少々、という感じでしょうか」

Licaxxx
「ダンスミュージックを良い音の環境で聴くのはまさに“別格”。新しい音楽に出会い、身を委ね、1人で浸り、好きな人と踊る。そんなダンスミュージックの真髄を体験できることを約束されたステージが来た人全員に用意されている空間がRDCだと思います。こちらは気合十分! 音楽の扉を一緒に開きましょう」

食品まつり a.k.a foodman
「RDC初出演となりますが、以前から出演できたら最高だなと思っていたフェスです。コロナ禍の中、新しいコンセプトで開催されるとのことで、自分も今年7月リリースしたアルバムを踏まえた新しいセットで挑もうと準備しております。リアルな現場は音だけじゃなくて、人との出会いや、その場の環境も含めて記憶に残るものです。会場を良い雰囲気にできるように仕上げていきたいと思います」

REALROCKDESIGN
「去年、RDCのディレクションをさせていただきまして『内閣府クールジャパンマッチングアワード審査員特別賞』を受賞いたしました。高い評価をお受けした分、リアルでも映像では感じることができない体験をしていただけるようにがんばります。そこで今年は、例年とは違う感じでVJチーム数チームの参加をお願いしました。DOMMUNEでおなじみの大先輩、宇川直宏から、大阪の盟友COSMIC LAB、なかなかご一緒できなかったHEART BOMB、 東京VJ最前線のVJ MANAMI、RRDの照明作家YAMACHANGとありそうでなかったみなさんと一緒にできるのが楽しみです。ぜひ空間演出もご期待ください!」

RDC “Back To The Real”
日時:10月30日9:00〜21:00、10月31日9:00〜21:00
会場:神奈川県川崎市 ちどり公園
住所:神奈川県川崎市川崎区千鳥町9-1
料 金:入場券 ¥10,000、配信券 ¥4,000
出 演
DJ & LIVE:
Chee Shimizu / CHIDA / CYK / DJ KOCO aka Shimokita / DJ NOBU / DJ Sprinkles
ELLI ARAKAWA × FRANKIE $ / GONNO × The People In Fog / Haruka / KENJI TAKIMI / KIKIORIX / KUNIYUKI x sauce81(Live) / Licaxxx / MAYUDEPTH
Satoshi & Makoto(Live) / Sisi / Sobriety / Traks Boys / Wata Igarashi
Yoshinori Hayashi / 食品まつり a.k.a Foodman(Live)
VISUAL:
REALROCKDESIGN feat. NAOHIRO UKAWA
COSMIC LAB / HEART BOMB / VJ MANAMI
LASER & LIGHTING:
YAMACHANG
http://www.rainbowdiscoclub.com/

Photography Shinpo Kimura
Text Ryo Tajima

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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