令和を代表するマッシュアップギャル、MANONーー「2021年は私のターニングポイント」

1990年代後半に日本で大流行した、チビTにルーズソックス、さらにパラパラといったダンスを武器に、話題を集めるアーティスト、MANON。2002年生まれの00年代ガールが、今注目を集める理由は何もファッションだけではない。
12月8日リリースされた最新作「Girlfriend」では、DJ CHARIをプロデューサーに迎え、過去には、藤原ヒロシQieziMaboなどといった大御所から、dodoLEXらの新鋭アーティスト、さらには海外アーティストのケロ・ ケロ・ボニトまで。数多くのビッグネーム達が、MANONの音楽やスタイルに共感し、コラボレーションをしているのだ。
なぜ彼女はこれほどまでに多くの支持を得ているのか。現在、19歳のMANONが、さまざまなカルチャーを取り込みながら進化し続ける背景に迫る。

歌詞やメロディ、世界観……。曲にひっかかりを作ることが大切

ーーこれまでに数多くの人気アーティストとコラボレーションをしてきていますが、今回リリースされたDJ CHARIさんとの新曲はどのような内容になりましたか?

MANON:憧れの先輩の男性に恋をしている女の子をテーマにした曲になっています。私は今19歳なんですが、私達の世代ってちょっと年上の人を好きになることが多いんです。そういう子達の「その人を振り向かせたい」っていう気持ちを代弁した曲になったかなと思います。

ANON 「Girlfriend」

ーーDJ CHARIさんとの制作は初めてですよね。どのように作っていったんですか?

MANON:この曲は、初めてスタジオでみんなで考えながら作っていったので、今までとは違った制作方法で新鮮でした。

ーーみんなで作っていったというと?

MANON:事前に曲を聴いていたので、あらかじめリリックを書いてスタジオに持っていったのですが、そのリリックのフック(ラップにおけるサビの部分)は、英語混じりにしていました。でもいざスタジオに入ってリリックを聴いてもらったら、CHARIさんから「もっとわかりやすく刺さるフックにしたいから、日本語にしたほうがいいかも」とアドバイスをいただいて。そこで初めてその場でリリックを書いて録るというのを経験しました。今までやったことがなかったのですが、すごく楽しかったです。

ーー具体的にどのようなフックになるように意識したんですか?

MANON:冒頭のフックの部分で「君に彼女か友達」というフレーズ、あとヒップホップでよく耳にする「ごめんなさい」というフレーズなど、聴いていてひっかかりとなるフックを多く入れました。あとは、ラップ調の音楽を普段聴かない人にも、わかりやすく伝わるように意識しましたね。

ーー今回の「Girlfriend」に限らず、普段から聴きやすさ、わかりやすさは意識しているんですか?

MANON:そうですね。最近は、歌詞やメロディ、世界観など、どこかにひっかかりを作ることを意識しています。例えば前作の「GALCHAN MODE」では、楽曲全体を“ギャル”の世界観でまとめてみて、さらに振り付けをパラパラにしたことで、聴く人にちょっとしたひっかかりや違和感を持ってもらえるようにしています。

音楽もファッションもマッシュアップされたものが好き

ーー楽曲に限らずMVも自身でディレクションしているそうですね。映像でもそのひっかかりは意識していますか?

MANON:もちろん意識はしていますが、MVに関して言えば、自分の好きなものを詰め込んでいることが多いです。「18」では、「18歳の葛藤」をザラついた質感で表現するために、その時興味があったフィルムでCDジャケットを撮影してもらって、MVはVHSで撮影していただいたりしました。他にも、「GALCHAN MODE」では、ずっと大好きだったラブベリ(トレーディングカードゲーム方式の女の子向けアーケードゲーム『オシャレ魔女♥ラブandベリー』の略)と、中目黒で見つけて気になっていたパチンコ屋の扉に描かれていた『海物語』の世界観をミックスしました。2000年代ならではの、安っぽくなりすぎない3Dをイメージしたんですよね。

MANON 「GALCHAN MODE」

MANON 「18」

ーーでは新作にはどういった好きなものを盛り込んだんですか?

MANON:今回やってみたかったのは、日本発のカルチャーだと思っているんですけど、少女漫画やプリクラの加工っぽい過度に目が大きい女の子です。クリエイティブユニット、tsuchifumazuさんにインスタフィルターを作ってもらったんですよ。この少女漫画感がある目のサイズでリップシンクしてたらちょっと不気味だけど、かわいいんじゃないかなって。私が好きな日本らしいカルチャーだなって楽しみながら作りました。そしてそれだけはなく、せっかくCHARIさんとのコラボだったので、スタイリングでヒップホップっぽさをプラスしてみたりして、前作「GALCHAN MODE」とは差が出るようにしています。

ーーMANONさんの表現には“ギャル”と“ヒップホップ”のエッセンスを強く感じますが、自身のルーツに流れている音楽はどんなものなんですか?

MANON:音楽的なルーツとしては、ヒップホップよりも両親が聴かせてくれた音楽の影響が大きいですね。フランス人の父は、ダフト・パンクゴリラズを車でよく流していました。その父からは、私がエレクトロミュージックやテクノポップ寄りの音楽を聴いていた時に、マデオンを教えてもらいましたね。そこで聴き知ったマッシュアップカルチャーは、今の私に大きな影響を与えていると思います。
母から学んだ音楽だと、デヴィッド・ボウイと藤原ヒロシさんが所属していたレーベル、メジャーフォースです。音楽はもちろん、ファッションでも大きな影響を受けています。

ーーご両親からの影響が大きいのですね。では“ギャル”と“ヒップホップ”に影響されたきっかけはなんだったのですか?

MANON:高校生の頃に、ゆるふわギャングのライヴを観たんです。それからすごくヒップホップを聴くようになったので、これが大きなきっかけです。その時は、まだ彼らのことを知らなくて、友達に連れて行ってもらったんです。そうしたらそのライヴの熱量がすごすぎて。「なんだこれ? お客さんは拍手をしていないのに、すごい盛り上がってる。すごい!」って感動しちゃったんです。

ーー“ギャル”カルチャーとの出会いはどうですか? “ギャル”カルチャーは、1990年代後半から2000年代初期に大流行していました。リアルタイムでなかったMANONさんは、どのような経緯で知ったんですか?

MANON:これといったエピソードがあるわけではないのですが(笑)。純粋にチビTやルーズソックスといった“ギャル”カルチャーのグッズが好きだったんですよね。そこを掘っていったら、 1990年代後半から2000年代初期にギャルのルーツがあるんだってことを知ったんです。チビTやルーズソックスがこの時代のリバイバルだと知ってからは、当時の雑誌や写真を見たいと思ってインスタやピンタレストを使って探すようになったんですよね。

ーー“ギャル”カルチャーの何がMANONさんを引きつけたんでしょうか?

MANON:当時のギャルファッションを焼き回すのではなく、今っぽさを足すのがかわいいし好きなんです。当時はやったチビTやルーズソックス、ミニスカートだったりも取り入れますけど、最近はハンドウォーマーを付け足したりしています。このハンドウォーマーって、ゴスロリとかロリータのファッションからきてるんですよね。この違ったカルチャーとのマッシュアップ感がすごく私のツボなんです。

ーーマッシュアップされたギャルファッションで参考にしているアーティストはいたりしますか?

MANON:アヴリル・ラヴィーンですかね。彼女からはすごくギャルのエッセンスを感じています。小学校の時に、彼女が来日して109でショッピングをしているテレビ番組を観たんですよね。その時のアヴリルが、109にいた誰よりもギャルに見えたんです。チビTもよく着ているし、そこに「ドクターマーチン」のブーツを合わせているのも素敵です。彼女は私のファッションのルーツにもなっています。

ーー同世代の友人にもMANONさんと同じようなギャルファッションの人はいますか?

MANON:ぱっと見てギャルだって思う人は、あまりいないですね。今ってみんなそのときどきに好きなファッションをしているので、着ているものはいつもばらばら。でもそれはあくまでもファッションの話で、ファッションがギャルっぽくないだけであって、マインドはギャルかなと思っています。だから、いつでも誰でもギャルにはなれるんです。自分で自分のことをギャルだと思えば、それはもうギャルなんです。だから、今の同世代にはマインドギャルがたくさんいるんです。

ライヴを通して出会ったアーティストやお客さん、そのすべての人が私のインスピレーション

ーー音楽やファッション以外での自己表現で、こだわっていることはありますか? 例えばSNSでこだわっているところなど。

MANON:SNSはあまり意識しないでアップしているかもしれないです。例えばインスタだと、その日に起きたできごとや日常といったものはストーリーズにアップして、それ以外は思い出感覚でアップしています。

ーーそうなんですね。でもSNSにアップされている動画の編集は自分でしているんですよね?

MANON:確かにインスタやTikTokの動画は、自分でやっていますね。尺が短いせいなのか、なぜかサイケデリックなものがウケるんですよ。だから私のアップする動画は、すごくカラフルでバキバキな映像になるように意識して作っているかもしれないです。短い尺だからこそ、インパクトが残るものが観たいんだと思います。

ーー他に見せ方で言えば、いろんな人とコラボレーションしているのもヒップホップ的でおもしろいです。しかもその相手が大物ばかりですごい。どのようなきっかけがあったのですか?

MANON:コラボレーションしてくれたアーティストさんによってきっかけはさまざまなんですが、主に自分の中でこういう曲を作りたいっていうイメージができたら、それに合うと思う方に声を掛けさせていただいています。
例えば、「GALCHAN MODE」はLil’Yukichiさんにプロデュースしていただいたのですが、その時はエレクトロ系の曲にチャレンジしてみたかったんです。そこでLil’Yukichiさんの過去の楽曲が、イメージに近かったのでお願いしたんです。

ーーどのように依頼されてきたんですか?

MANON:イベントやライヴといった現場でお会いしてから、依頼してきたことが多いですかね。光栄なことに、お声掛けいただくことも多いです。藤原ヒロシさんは、私の『WORLD’S END』を気に入ってくださった縁で、リミックスしていただきました。他にも、QieziMaboさんとのコラボでは、QieziMaboさんがAIで楽曲を作る企画があった時に声を掛けていただきましたね。

MANON 「WORLD’S END feat. dodo」

ーー新作「Girlfriend」のジャケットは、JUN INAGAWAさんが手掛けていますよね。

MANON:そうです。ジュンさんは、「18」をリリースした時にステッカーを作っていただいたんです。その時に、ジャケットでもコラボしてほしいって話していたんです。それから何度かイベントで顔を合わせるようになって、やっと実現できたんですよね。

ーー他にも海外のアーティストともコラボレーションをされています。

MANON:海外アーティストの方は、私が好きなアーティストでコラボしたいなって方にインスタのDMなどを使って声を掛けています。今はまだ言えないですが、大好きなアーティストとのコラボレーションもDMで決まったんですよ。すごく嬉しいことなので、とても楽しみなんです。

ーー自ら精力的にお願いされているんですね。

MANON:はい。今は仲良くさせていただいてるアーティストにお願いできることもどんどん増えてきて、本当に制作が楽しいです。福岡から上京してきてよかったです。

ーー最後に今後の活動についても教えてください。

MANON:2022年の1月に20歳になるんです。そうするとライヴができる場所が増えるので、ライヴをもっとたくさんやりたいと思っています。何より2年前に上京してきたタイミングですぐにコロナ禍になってしまって、ライヴが全然できなかったのでとにかくライヴがしたいです。今はライヴをしている時が一番楽しいかもしれません。ライヴではいろんなアーティストに会えたり、お客さんとも交流したりできるので、それも私のインスピレーションの源になっているんですよね。

ーーライヴの回数を重ねることで変化はありましたか?

MANON:今年の大阪で開催されたオカモトレイジさんが主催するイベント「YAGI」に出演したんですけど、そこでのライヴはすごく印象的でした。私のターニングポイントになったと言ってもいいかもしれません。なぜならそれまでのライヴは、緊張もあってかなかなか自分の心の中にある気持ちを表現できていなかったんですよね。でもこのライヴでは、初めて心の中で思っていたことをシャウトのような形で表現できたんです。それからはこの時に表現できた勢いを大切にして、純粋にライヴを盛り上げよう、観てくれている人を楽しませようっていう気持ちでライヴに臨めています。聴いてもらうだけライヴではなくて、心から楽しかったと思ってもらえるライヴにしたいなって思えるようになりました。

ーー2022年にライブで会えるのが楽しみです。

MANON:ありがとうございます。私がゆるふわギャングのライヴでヒップホップを聴くようになったり、アヴリル・ラヴィーンを見てギャルファッションを好きになったりしたように、私も誰かに影響を与えるような、人の人生を変えられるようなアーティストになりたいですね。

MANON
次世代カルチャーアイコンとの呼び声が高い、福岡県出身の 19 歳。dodo、LEX といった新鋭アーティストから、藤原ヒロシやケロ・ ケロ・ボニトまで、多岐にわたるコラボレーションも話題のアーティスト活動に、ストリートからモードまで着こなすモデル活動と、音楽とファッションを横断した活躍で注目を集めている。
https://cac2002.official.ec
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Biolet
出演者:MANON、HIYADAM、ralph、ASA Wu、SUNNY ONLY1、STARKIDS、Lil Soft Tennis他
日時:202年1月29日
会場:東京・渋谷 Contact Tokyo
住所:東京都渋谷区道玄坂2-14-8
時間:OPEN / START 14:00
料金:¥2,500(前売り、1ドリンク別途¥600)、¥3,000(当日、1ドリンク別途¥600)

Photography Sumire Ozawa

author:

大久保貴央

1987年生まれ、北海道知床出身。フリーランスの雑誌編集者、クリエイティブディレクター、プランナー。ストリートファッション誌の編集者として勤務後フリーランスに。現在は、ファッション、アート、カルチャー、スポーツの領域を中心にフリーの編集者として活動しながら、5G時代におけるスマホ向けコンテンツのクリエイティブディレクター兼プランナーとしても活動する。 2020年は、360°カメラを駆使したオリジナルコンテンツのプロデュース兼ディレクションをスタート。 Instagram:@takao_okb

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