Z世代のニューポップアイコン Grace Aimi――世界基準のポップソングを沖縄から世界へ

アメリカ人の父とアメリカと沖縄のバイレイシャルである母の下、2000年に生まれたGrace Aimi。弟と一緒にYouTubeチャンネル「Gracie & Gabe」を開設し、さまざまなカバー楽曲をアップしていくうちに SNS上で話題に。登録者数は約10万人、累計再生数は1000万回以上を記録している。

2020年8月、本名のGrace Aimi名義で、AwichkZmJNKMNMonyHorseなどが属する日本屈指のレーベル、YENTOWNの創立者の1人であるChaki Zuluのプロデュースで「Eternal Sunshine」をリリース。

その後もChaki Zuluとのタッグで、2021年2月にUNIVERSAL MUSIC / +81 MUSICから、2ndシングル「Open」、3rdシングル「My Eyes」をリリース。 3月にも「True Feelings」を発表し、同時にケイティ・ペリーサム・スミスらも契約しているアメリカのレーベル、US – Capitol Recordsとのパートナーシップも決定し、世界フィールドでの活躍が期待されている。

沖縄生まれのバイレイシャルでバイリンガルという彼女は、生まれ持った美声と次世代の価値観をポジティブな方向へ導くメッセージ性を持ち合わせ、Z世代の最注目ポップシンガーとして本格的に世界に向けて始動する。

エイミー・ワインハウスやタイラー・ザ・クリエイターのように、思いや意見をちゃんと表現したい

――ご自身のインスタグラムで、子どもの頃に歌っている写真をアップしていましたよね。昔から、音楽は身近にあったのですか?

Grace Aimi(以下、Grace):お爺ちゃんがジョニー・キャッシュやエルビスなど、ジャズやオールディーズが好きだったので、私もよく聴いていました。家族みんな音楽が好きなので、部屋ごとに違うジャンルの音楽が流れている家でしたね。

――特に影響を受けたアーティストは?

Grace:エイミー・ワインハウスタイラー・ザ・クリエイターのように、自分の思いや意見をちゃんと表現する人達です。

――日本の音楽も聴いていましたか?

Grace:私は沖縄生まれですが、3~6歳くらいまで一度アメリカに戻り、小学2年から日本の学校に通うことになりました。なので、BEGIN、HY、ケツメイシ、湘南乃風など、そのときどきで人気だった曲はほとんど聴いてきたんです。高校生の頃は、ほぼ毎日カラオケに行って、ゴールデンボンバーを必ず歌っていました(笑)。最近は、Kroiをよく聴いています。

――カラオケ以外で、人前で歌を披露したのはいつですか?

Grace:中学生の頃に沖縄・北谷のアメリカンビレッジを歩いていたら、そこにあるジャズ・バーでエイミー・ワインハウスの曲を演奏しているバンドがライヴをやっていたんです。一緒にいた兄が「妹がエイミーの曲を歌えるから参加させてよ!」と、急にステージに上がることになって。膝をガクガクさせながら歌った覚えがあります。

――その頃から自分でも曲を書いていたんですか?

Grace:自分で作詞・作曲をするようになったのは高校生の頃です。日記を書いている時に、少し工夫したら歌詞になりそうだなと思って。YouTubeにアップされている好きなアーティストのタイプビートを聴きながら、なんとなく合わせてみたら、自然にメロディが浮かぶようになったんです。

その曲を家族に聞かせてみたら「いいじゃん!」って。そこから、ほぼ毎日、作詞したり、ボイスメモでアイデアを保存していきました。それと、兄や弟がギターやウクレレを弾けるので、よく一緒にセッションしていましたね。

YouTubeチャンネルは、兄と学校帰りに車の中でセッションしていたことでスタート

――弟のGabeさんとカヴァー曲を歌うYouTubeチャンネル「Grace & Gabe」が注目を集めました(動画には2人の姉や両親が登場することも)。どういうきっかけで始めたのですか?

Grace:よく学校帰りに車の中でセッションしていたので、その延長線上でやっちゃおうかって。なぜか、車の中で歌ったり演奏することに、居心地よさを感じていたんです。

――今では世界中からアクセスがありますが、どれくらいのタイミングで手応えを感じましたか?

Grace:平井大さんの「Slow and Easy」の動画をアップした1ヵ月後くらいから、再生回数が伸び始めたんです。今でも理由はわかりません(笑)。そうこうしているうちに、BEGINさんの「島人ぬ宝」でバズったんです(※再生回数は333万回以上)。そのおかげもあって、東京に来た時も視聴者の方から声を掛けてもらい「自分達にもファンがいるんだ!?」と考えるようになりとても嬉しかったです。

BEGINの「島人ぬ宝」のカバー

――美空ひばりさんの曲も歌っていますよね。

Grace:ひばりさんの曲は、100%お婆ちゃんの影響です。演歌も大好きで、いろいろなジャンルに挑戦しています。半分はファンの方からのリクエストで、もう半分は自分達が好きな曲を歌っています。

――音楽に関しては、家族からの影響もあったということですが、沖縄のヒップホップアーティストとの交流もありますよね。

Grace:大きなきっかけは、Awichとの出会いでした。2008年くらいに、彼女のライヴを母と観て本当に感動したんです。その後、5年に一度開催されているウチナーンチュ大会のイベントの総合演出をAwichがやることになって、そのボランティアとして「手伝えることがあったなんでもやるから!」と母と一緒に連絡をしました。ヒップホップと出会えたのは、彼女のおかげです。その後、OZworldなど他のアーティストともつながっていき、音楽に関係する相談はAwichやOZworldに連絡しています。

――Awichさんは、お姉さんみたいな存在というか。

Grace:そうですね、家族の一員です。私の初ライヴの時も不安そうにしていたら「自分の夢だったんでしょ? 自分を信じて行ってこい!」って背中を押してもらえて。自分に自信を与えてくれる存在ですし、彼女のように沖縄を誇りに思いながら音楽活動していきたいんです。

家族の一員のようなAwichの紹介からChakiとの出会い

――デビュー曲の「Eternal Sunshine」を皮切りに、「Open」「My Eyes」「True Feelings」をリリースされました。全曲、Chaki Zuluさんによるプロデュースですが、どういう経緯で一緒にやることになったのですか?

Grace:高校生の時に、Fkj &マセーゴの「Tadow」に合わせてオリジナルの歌詞とメロディをつけたんです。それを母に聴いてもらったら、反応が良くて。そしてAwichにも聴かせたら「いいね! Chakiさんにも送っておいたよ」と(笑)。半分ノリで作ったものですが、Chakiさんから連絡が来て「一緒にやってみよう!」と言ってもらえたんです。

――Chaki Zuluさんとは、どういうプロセスで楽曲を制作しているのですか?

Grace:自分が作った曲をベースに進める時と、新たに作ってみるパターンの両方があるのですが、まず一緒にスタジオに入り、Chakiさんがリフやベースラインを作って、そこからメロディのアイデアを出し合ったりしています。

――すでにある複数のトラックから選んで歌う、というプロデューサーとシンガーの関係とは違いますね。

Grace:はい。私が簡単なストーリーを伝えて、それに沿ったビートを提案してくれる場合もありますし、Chakiさんから「こういうのどう?」と提案してくれる場合もあります。そういうやりとりの中で、お互いに「これだ!」という気付きが出てくるんです。

――セッションしていくような感覚ですか?

Grace:そうですね。音楽で会話している感覚です。毎回違うインスピレーションがありますし、とにかくジャンルにとらわれず、そのときどきの気持ちに沿って音楽を作っていく。Chakiさんには音楽そのものを教えてもらうだけじゃなく、人生についても教えてもらえている感じがします。

男女問わず誰でも抱えている問題を、少し気軽な感じで表現したい

――歌詞やメロディを作る時のアイデアは、リアルな日常がソースになるのか、それとも空想や想像の物語がソースになるのか、どちらの作り方が多いですか?

Grace:両方ですね。「True Feelings」は高校生の頃に作った曲ですが、当時のたまっていた気持ちのすべてを表現しました。内容としては、自分の周りに愛して愛される人達がいても、たまに孤独を感じることがあるということ。そんな風に自分のリアルな気持ちを曲にのせて吐き出すことで、自分自身のセラピーになるんです。

4thシングル「True Feelings」

――逆に、空想や非日常的な曲は?

Grace:「My Eyes」ですね。これも高校生の頃に書いた曲ですが、完全にフィクションです。二股とか浮気に関する曲ですが、こういう内容の曲はネガティブになりがちですよね。なので、別の視点で書いてみようと思いました。男も女も両方が二股をして、最終的にヨリを戻すというストーリーです。

3rdシングル「My Eyes」

――フィクション的なストーリーは、何からインスピレーションを得ていますか?

Grace:映画も大好きなので、好きな作品や映像からアイデアが生まれることもあります。主人公が感じていることを、自分ならどう捉えて、どう反応するのかを考えながら物語を作ったり。頭の中で映画が流れているような感覚で、曲を作っている感じですね。

まだ未発表ですが、Awichとも一緒に曲を作ったんです。それは、女性殺人鬼のドキュメンタリーを観てアイデアが浮かびました。主人公の女性は愛情が足りないという理由で殺人鬼になっていくのですが、その気持ちを表現したらおもしろい曲ができそうだなと。Awichに即効で送ったら「いいね!」と言ってくれて。彼女のヴァースはかなりヤバいですよ(笑)。

――ぜひ、聴きたいですね(笑)。逆にパーソナルなことを表現する場合、自分自身のどういう要素が表現につながっていますか? 例えば、女性、沖縄の文化、バイレイシャル、バイリンガルなど、いろいろなパーソナリティがあると思いますが。

Grace:女性としては、自分以外の女性が共感できる内容が多いと思います。例えば、友達として仲良くしていた男の子なのに、ドライブ中にロマンチックな曲を流されて、急に気まずい空気になった時の状況とか(笑)。

そういう風に、女の子なら誰もが思う日常の断片もあれば、自分の中にある闇と光、自分との葛藤や闘いを表現する場合もあります。普段は明るい性格ですが、考えすぎてしまうと落ち込んだりもするので、そこから抜け出すためにどうしたらいいのかを表現したりもします。

――そういったリアルな心情が、リスナーの共感を呼んでいるのかもしれませんね。

Grace:女性だけじゃなく、男性も大変なことってあると思うんです。例えば、男だから強くいなきゃいけないとか、ご飯代は男が出さなきゃいけないとか。本当は弱くてもいいし、割り勘でもいいわけですよね。

私の場合、そういうことを真剣に書くというより、男女問わず誰でも抱えている問題を、少し気軽な感じで表現したいと思っています。誰もが大なり小なり問題はあるし、みんながパーフェクトではない。みんな自分のストーリーがあるので、私のことだけにフォーカスを当てず、みんながわかるっていうことを表現したいと思っています。

――バイレイシャルやバイリンガルである自分について考えたりもしますか?

Grace:たまに考えますね。もっと言えば、なんで地球ってあるんだろう? なぜ自分っているんだろう? とも。ただ、考えすぎても絶対に答えは出ないので、今の自分自身を素直に受け入れることが大事かなと思っています。

ネガティブな経験があるから、良い経験をした時にもっと美しく感じられる。日々、いろいろな疑問や葛藤がある中で、それに対して答えを求めがちですが、明確な答えなんてなくても良いんじゃないかと思うこともある。こうじゃなきゃいけない、という風に深く考えないことも大切じゃないのかなと。

――そういったポジティブな思考や性格は、子どもの頃からですか?

Grace:そうですね、両親がそういう風に育ててくれたことが大きいと思います。人に対する接し方やマナーを教えてくれたり、映画『惹かれあいの法則』を観せてくれたり。たまにけんかもするけど、私にとって家族は大親友でもあり、家族と一緒にいることが大好きなんです。

――具体的には、ご両親からどういうことを学んだと思いますか?

Grace:自分の夢は、人のために動けば必ずかなう。つまり、自分が一番すごいのだから、自分を信じればなんでもできると言ってくれました。実は今回のインタビューは、母と共有したくて一緒に来てもらいました。東京のレコード会社にいること、インタビューを受けていることなど、私のこの音楽の旅を何かあるたびに2人で感動しています(笑)。

――自分を信じること、そういったメッセージを音楽で表現していきたいということですか。

Grace:そうですね。1つ言えるとしたら、世界中のみんなも自分のことを信用してほしい。人のために純粋な愛を広めてほしい。鏡を見た時に「自分は最高だ!」と思えるはずなので、誰もができると信じています。

――他人と比較したりねたんだり、なかなか自分のことを肯定できなかったりしますよね。

Grace:今はSNSの時代なので、スマホだけで全世界の成功を目の当たりにすることができますよね。それを見て、自分って何をやっているんだろう? 自分は何かが足りないんじゃないか? とか考えてしまいがちです。

でも、自分の信念とか大げさなことじゃなく、シンプルに自分に素直になればできると思っています。自分に対して愛情があれば、他人の成功を見ても「自分の人生は幸せだから、自分はこれでよかった」と思えるはず。そして、自分が幸せになれば、他の人に愛情を分けられるようにもなる。そうすれば、パズルのピースが埋まっていって人生が楽しくなるはず。私の一番の夢は、そういうことを音楽で表現して、みんなもそれを実現できるようになることだと思っています。

――アメリカのCapitol Recordsともパートナーシップを組んだということで、国境を超えてボーダーレスに伝えられていけたら良いですね。

Grace:音楽にはボーダーがないので、国も人種もジャンルも固執せず発信していきたいですね。

――最後に、これから描いているビジョンを教えてください。

Grace:ここまでの道のりが本当にスムーズすぎて、本当に驚いているんです。夢は口にすることでかなうことを実感しています。というのも、高校生の頃に自分のリリック帳の最初のページに、かなえたい夢を10個書いたんです。レーベルと契約すること、海外でも知ってもらうこと、EPを作ることなど、現時点で4つはかなっています。なので、残りの夢も実現したいですね。

――その時にまた、どんな夢がかなったのか教えてください。

Grace:はい、楽しみにしていてください!

Grace Aimi
2000年生まれ。沖縄県出身で、バイレイシャル、バイリンガル。ひとびとの心を根源的に揺さぶるパワーを持った歌声が魅力のZ世代ポップシンガー。YouTubeで実弟とともにGracie & Gabeとしての活動をスタート。ウクレレに合わせて歌った数々のカバー楽曲動画がSNS上で話題となり、デビュー前にしてチャンネル登録者数は約10万人、累計再生数は1000万回以上を記録している。2020年8月31日、Chaki Zuluをプロデューサーに迎え、本名のGrace Aimi名義のデビュー曲「Eternal Sunshine」をリリース。同曲はSNSを中心に数々のヒットチャートやバイラルチャートにランクイン。海外メディアやアーティストからのオファーが殺到する。2021年2月には、UNIVERSAL MUSIC / +81 MUSICから2ndシングル「Open」、3rdシングル「My Eyes」、そして3月には新曲「True Feelings」をリリース。同時にUS – Capitol Recordsとのパートナーシップが発表され、その世界照準の活動に注目が集まっている。
http://graceaimi.com/
Instagram:@graceaimiofficial

Photography Satoshi Ohmura
Text Analog Assasin

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author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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