大切なのは主体性と当事者意識 パンデミック下で強烈に繰り出すギャルの強さ“つよつよマインド”

“ギャル”は最高とうたうフィメールラッパー、あっこゴリラ。彼女に新時代の女性像を重ねる人も多いだろう。コロナ禍に事務所から独立し、5月には参加型ZINE『#SayHello』をリリースした。「コロナ禍でいま吐き出したいこと」をテーマに掲げ、一般公募で集めた自由作品を掲載したZINEと、テーマソングとも言える楽曲「SayHello」を発表。この2つにはあっこゴリラが現代に感じる思いが込められている。その真意は一体何か。そして、どんな状況であっても自分らしく“つよつよギャル”として生きるラッパーのアティテュードとは。

小さくても個人に対して変革を起こせる装置として

――コロナ禍でもあっこゴリラさんの行動はスピーディでしたが、その理由は、5月に発表された参加型ZINEプロジェクト『#SayHello』に反映されているのではないでしょうか?

あっこゴリラ(以下、あっこ):自分の中では早く動いたという感覚はないんですよね。コロナ禍以降、私も普通に病んでいたんですけど、何に病んでいるのかを自問自答していたんです。その時にすごく感じたのが、当事者意識が世間にないってこと。根源には、喜怒哀楽の感情を表に出すことが社会的にNGとされている風潮があって、その上に成り立っている価値観に私自身、違和感を感じていました。そんな状況にもかかわらず、エンターテインメントが現実逃避する役割を担うのはおかしいんじゃないかって。それでみんなと何かをやりたいと思い立って、“うちらは当事者”をテーマにした楽曲とZINEを作ろうと思ったのがきっかけです。私の名義で発表した作品ではあるけれど、みんなで発信している以上、全員が当事者です。

――ZINEの表紙では口元を隠したあっこさんの写真が掲載されていてインパクトがありますね。

あっこ:このバンダナは「ミラクルミーONE MAN TOUR」(3月20日から東名阪で開催される予定だったワンマンツアー。コロナ禍を受けて中止)で、お客さんにマスクの代わりとして無料配布する予定だったんですよ。あの時期ではツアーがまだ中止になるかならないか微妙な状況で、すでに製作を終えていました。「言いたいことも言えないバンダナ(『ウイルス撃退バンダナ』として発売中)」として、口元を隠して何も言えない状況だけど「ハロー! って言うよ」って思いをアートワークに込めています。その後ツアーの中止を受けて、4月にZINEと楽曲制作を行って5月にリリースしました。

――では『#SayHello』に込められている感情は、やはり“怒り”でしょうか?

あっこ:ひと言で“怒り”というわけでもないんですよね。あの頃、確かに怒りMAXでしたけど、ZINE全体の構成を振り返るとカオスというか……。このプロジェクトでは「私は怒っているんだぞ!」ということを発信することが目的ではなくて、なんだか社会が持つ風潮や空気の読み合いで様子をうかがっているような、正直に感情を表現できない状況に対して1つの風穴を開けたいという気持ちがあったんです。私が発信しているのは、コロナ禍に当事者としてやれることをやっているだけなんですよね。『#SayHello』は小さいプロジェクトなんですけど、小さいながらも個人に対して確実に変革を起こせる装置にしてやろうという気持ちで作りました。ZINEはミニマムなフォーマットの表現ですけど、人の心に深く届けることができて、自由度も高いです。今、変えなきゃいけないことって本当にたくさんあるじゃないですか。私は政治家でも教育者でもなくラッパーなので、変えることができるのは“人の意識”だと思うんですよね。

生きる理由として必要だったZINE制作という目的

――『#SayHello』は参加型のプロジェクトでしたが、改めてどのように作品を募集したのか教えてください。

あっこ:noteとSNSのみですね。SNSでは「参加型ZINE制作プロジェクト始めました」ってことだけを投稿して、募集の細かなことや気持ちはすべてnoteにまとめました。最初はあまり応募がなかったんですけど、結果的にはものすごい数の作品が送られてきました。作品を見て「気持ちを込めれば伝わるんだ!」って思いました。それに応募者達は若い世代が多かったことにも驚きました。10~20代前半の子達の印象はしっかりとアンテナを張って情報収集をして、この社会に対して違和感を感じて、何かアクションを起こしたいんだなということですかね。

――送られてきた作品はどんな内容でしたか?

あっこ:本当にさまざまな表現がありましたよ。かわいらしい絵なのにプロテストな内容だったり、オリジナルのプレイリストを送ってくれた人もいました。今回の『#SayHello』は、あえて私から具体的な参加内容を訴えるような呼びかけは行わなかったんです。それはプロジェクト自体がプリミティブでありたかったし、純度をすごく大事にしたかったから。アーティストも参加してくれていますけど、彼らの意志で作品を制作してくれたので、そこにも熱量を感じましたね。

――『#SayHello』を制作したことで、自分自身の変化はありましたか?

あっこ:ちょっと考え方が変わった部分もありますね。このプロジェクトがあったから私自身も一歩前に踏み出すことができたし、その後の活動の幅も広がりました。私の役割は、みんなに「遠慮したままでいないで、一歩踏み出そうよ」って発信することだと思っています。それに今『#SayHello』の制作を振り返ってみると、自分に活動目的というハードルを課したことも大事なことだったのかもしれないです。

――4月から5月の自粛期間中は、目的を見失っていたのですか?

あっこ:私にとってライヴは自己表現の大切な場所で、言い換えれば政治参加と捉えている部分もあります。これまでのライヴでは自分のアティテュードをしっかり提示してきたので、ライヴがなかった期間はつらかったです。自分に何か目的を与えなくては頑張れないし、どうしたらいいのかもわからなくなるので、とりあえず生きる理由を設定しようって気持ちで『#SayHello』のプロジェクトをスタートしました。noteにも「目的はうちらにとって大事じゃない? その生きる理由を作らない?」と書きました。ZINEは細かな作業の繰り返しでしたけど、とても楽しかったです。今回参加してくれた人にも、目的を与えることができたのかなとも思っています。

不完全で当たり前 一緒に失敗しようという姿勢

――4月1日にはツイッターで結婚と独立の宣言をしました。独立は以前から決めていたんですか?

あっこ:独立に関しては新型コロナウイルスは関係なくて、何年も前から決めていたんです。そもそもアーティストとしての活動目的が、メジャーで売れるということではないので。私がメジャーでやりたかったことは、多くの人の目や耳に触れる環境で、リリックを通して彼らの意識を変えていくことでした。2018年にメジャーに移ってからは、どうやってみんなの世界を変えていこうかってことに共感してくれたスタッフと一緒にやってきました。結果として、オーバーグラウンドでも現在のようなアンダーグラウンドな活動をしていても、いろんな人とつながれる環境を作ることができたので、予定通りに独立しました。もちろん円満な独立なので、今でも当時のスタッフとは仲良くやっています。そして身軽になった分、思い付いたアイデアは即行動に移すことができるので、私の性にも合っているんですよね。なんせ思い付いたら即行動! そして、はい、次! みたいなタイプなので(笑)。『#SayHello』や製作したバンダナは「EVERGREEN」という私のWEBストアで販売しているんですが、試行錯誤しながら友人に手伝ってもらって運営しています。友人の手を借りながら、自分の時間も大切にできている今が楽しいです。

――新たにあっこさんと一緒にサバイブする連帯コミュニティ「GORICHAN CLUB」もスタートされましたよね。

あっこ:そう、これはファンコミュニティなんですけど、マジで最高。自粛期間中はちょっとSNSと距離を置いたんですよ。SNSにおけるマウントの取り合いや炎上といった争いの概念のないユートピアをファンコミュニティで作りたかったんです。私のコミュニティに参加する人は、それぞれ主体性を持って話してくれます。大勢が参加しているわけではないんですけど、少しずつ人数が増えてきて、想像していなかった動きも出てきておもしろくなってますよ。例えば、コミュニティ内でファン達が独自に配信をしたり、その流れでビジネスになるような動きも生まれたり。これが例のオンラインサロンってやつか! って感じです(笑)。これからもヴァイブス重視のコミュニティで、それぞれ知識をつけて褒め合う場所にしていきたいです。

――あっこさんが大切にする“ギャル”の考え方は現在、自身にどんな影響を与えていますか?

あっこ:ギャルに関してはいろんな流派があるので、一概には言えないんですけど。私は漫画雑誌『りぼん』に掲載されていた『GALS!』を読んで育ったギャルなんです。『GALS!』で描かれているギャル像は、シンプルに自分を誇示していて、HIPHOP的な主体性があったんです。「享楽的な自分たち! マジ・誇示・最高!」、これが私の思うギャルのイメージで、人格者でも知識があるわけでもないけど、「私は胸を張って生きていますが何か?」って感じがすごく好きなんです。例えば、「政治のことを何も知らないから発言はできない」で終わらせるのではなく、「私たちは当事者であって、完全な人間なんて一人もいないんだから、一緒に失敗していこうよ」ってスタンスがギャルにはあると思うんです。そのスタンスが、パンデミックの中で強烈に影響しています。2月にリリースした『ミラクルミー E.P.』では、「どうせわかってくれない」って思考がちょっと込められているんですけど、最後は「自ら選んだ“つよつよ(強強)マインド”ですが何か?」と結んでます。「好き好んでやっているだけです」っていう考え方に徐々に変わってるんですよね。ギャルの思想には時代の暗さをぶち壊してくれるような破壊力があるんです。

――なるほど。今後の予定は?

あっこ:リリースのタイミングは未定ですが、アルバムを制作しています。あとは友達と雑誌を作ろうと動いているところです。この雑誌では、私なりのギャル年表を作る予定で、今、歴史の研究をしまくっています。ギャル年表では、歴史的な女性を全員ギャルとみなして作ろうと思っているんですよ。「ジャンヌ・ダルク? 平塚らいてう? ああ、ギャルですね!」って感じです(笑)。さらにそこにHIPHOPの文脈も合わせていくともっとおもしろくなりそうで。アレサ・フランクリンの女性の在り方なども踏まえて、誰でも楽しく読めるように、柔らかく私なりのチャラさも表現した内容にしたいと思っています。ギャル研究はなかなか難しいんですけど、知識は視野を広げてくれるのでがんばります。できあがりをお楽しみに。

あっこゴリラ
ラッパー。2019年よりJ-WAVEラジオ『SONAR MUSIC』のナビゲーターも務めている。4月1日にメジャーを離れ独立してからも精力的に活動中。ファンコミュニティ「GORICHAN CLUB」とマーチャンダイズWEBストア「EVERGREEN」では自ら運営を管理している。
https://akkoakkogorilla.com/
Instagram:@akkogorilla

Photography Satoshi Ohmura
Text Ryo Tajima

author:

Shuichi Aizawa

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。現在、子育てに奮闘中。

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