IGNITION MANがBIG-Oの世界観を自己解釈したSHAKKAZOMBIEの「空を取り戻した日」

2021年1月、逝去してしまったSHAKKAZOMBIE(シャカゾンビ)のラッパーであり、ファッションデザイナーのBIG-Oことオオスミタケシ
そのSHAKKAZOMBIEのもう1人のラッパーにしてBIG-Oの相方だったIGNITION MANが中心となり、BIG-Oへのリスペクトを込めて、SHAKKAZOMBIEの楽曲をリミックス・リメイクしたEP『BIG-O DA ULTIMATE』が昨年発売された。そしてこのたび、EPに収録されているBIG-Oのソロ曲でもあった「空を取り戻した日」のリミックス・リメイク盤にIGNITION MANがフィーチャリングとして参加し、MVを制作した。
BIG-Oが描いた世界観を反芻しながら、空にいる彼に届くようリリックも書き起こしたIGNITION MANに、豪華な友人が多く出演したMV、そしてトリビュートEP、さらにはBIG-Oについて話を聞く。

SHAKKAZOMBIE 「空を取り戻した日(DJ WATARAI Remix)Feat.IGNITION MAN,JON-E」

オオスミに関わりの深い人達、思い入れのある人達ばかり

――「空を取り戻した日(DJ WATARAI Remix)Feat.IGNITION MAN,JON-E」のMVが完成しましたが、ご覧になっていかがでしたか?

IGNITION MAN:とりあえず、みなさん、ありがとうございます、って感じですかね(笑)。わざわざお忙しい中集まっていただいて、本当にありがたい。

――MVにはたくさんのご友人が出演されていますよね。ジャンルも職種も垣根を越えたいろんな方が出ていますが、出演する方を選ぶ基準などはあったのでしょうか?

IGNITION MAN:やっぱりもちろん、SHAKKAZOMBIE、そしてオオスミ(BIG-O)に近しかった人に声をかけさせてもらいました。オオスミに関わりの深い人達、思い入れのある人達ばかりですね。東京からいなくなってしまった人や、連絡のつけようがない人なんかもいたので、本当はもっとたくさんの人に出てもらいたかったんですけどね。

――この撮影がきっかけで、IGNITION MANさんもひさしぶりにお会いする方もいらっしゃったのではないですか?

IGNITION MAN:そうですね。BUDDHA BRAND(ブッダ・ブランド)とかもまさにそうで。相変わらずパンチのあるオジサン達だから、本当におもしろかったです(笑)。コンちゃん(=DEV LARGE)の追悼ライヴの時以来かな。でも、わざわざ来ていただいたのが本当に申し訳なくて。でも、結果、デミさん(=NIPPS)にもクリちゃん(=CQ)にも、「会えてよかったよ」と喜んでもらえたから嬉しかったですね。
あと、NORTHERN BRIGHT(ノーザン・ブライト)のメンバーも3人そろうこと自体がひさびさだったみたいで、オオスミのことはもちろん大変だったけど、こういう機会でまた会えたのはありがたかったです。難波くんもそうだし。

――ひさびさに会われる方とはオオスミさんの思い出話などもされましたか?

IGNITION MAN:こういうきっかけでまた再会できるのは寂しい気もするけど、オオスミが機会を作ってくれたおかげなのかなと思って。やっぱり1人ひとり思い入れというか、オオスミと会っていた瞬間も違うからいろんな話をしましたね。初めて聞く話とかもあったし。ニトロ(=NITRO MICROPHONE UNDERGROUND<ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド>)のメンバーともひさしぶりだったんでちょっと緊張感もあったけど、話してみると当時と何も変わらなかったですね。

――今回、オオスミさんへのトリビュートアルバム『BIG-O DA ULTIMATE』の中から、「空を取り戻した日」でMVを作ろうとなった理由はなんだったのでしょうか?

IGNITION MAN:オオスミ自身が気に入ってた曲だし、やっぱりオオスミのソロの曲というのが大きいですかね。

――MVにはIGNITION MANさんがオオスミさんと手掛けていたブランド、「スワッガー」の事務所やショップがあった恵比寿や、SHAKKAZOMBIEを結成した頃から溜まり場となっていた渋谷の宇田川町などが出てきます。それぞれの場所への思い入れを伺ってもいいですか?

IGNITION MAN:MVの最初は宇田川町のレコ村あたりから始まるんですけど、あそこは特別な場所で。僕とオオスミはSHAKKAZOMBIE結成当初、お金もない頃に毎日のように「CISCO(シスコ)」にいたから。僕達の活動にも欠かせない場所だったんで、「CISCO」は。あと、当時MUROくんが買い付けをやっていた「スティル ディギン」もあったし、とにかくあそこは大事な場所。当時のヒップホップに関わってる人はみんなそうだと思うけど。今は東急ハンズまでは行くことはあっても、その先に行くことはなかなかなくなっていたんでひさしぶりでしたね。「CISCO」もなくなってしまったし。昔よく行ってた焼肉の「ゆうじ」も近くにあって、MVの撮影後に十数年ぶりに行ったんですよ。ゆうじさんもひさしぶりに会えたことを喜んでくれて。もちろんオオスミのことは悲しんでましたけど。そんな縁もオオスミがまた引き合わせてくれたのかなと思って。宇田川町でBUDDHA BRANDの2人と撮影できたのも感慨深かったですね。

あとは、恵比寿の光雲閣。「スワッガー」というブランドをオオスミと2人で始めた時は自宅を事務所代わりにしてたんです。それからちゃんと事務所を構えようということになったんですけど、当時、代官山にあるアパレルの名だたる先輩方の事務所が入っていた光雲閣というマンションがあったんです。(TOKYO No.1 SOUL SET<トーキョーナンバーワンソウルセット>の)俊美さんとかもいたりして。それでオオスミと2人で物件を探している時に、これくらいの間取りでこれくらいの家賃で、ということを不動産屋に伝えたら、たまたま光雲閣が出てきたんです。とにかく憧れのビルだったから、これはもう借りるしかないと即契約したんです。1999年の11月30日から入ったのかな。「スワッガー」の最初の事務所という思い入れがあったんで、ここも必ずMVには入れたくて。他にも恵比寿の街を歩いてるシーンも出てくるんですけど、僕にとってもオオスミにとっても特別な思い入れのある街なんですよね、恵比寿は。

そして、東京タワーも出てきます。東京タワーはオオスミがすごく好きだった東京のアイコンで。オオスミは東京出身じゃないけど、“ディス イズ トウキョウ”の人だったから。その東京の象徴である東京タワーも入れたかったんです。オオスミは東京タワーのキャラクター、ノッポンのグッズとかもたくさん持ってたしね(笑)。
だから全体を通すと、僕個人の思い入れがある場所でもあるし、オオスミの思い入れのある場所でも撮影したMVですね。

唯一無二ってそこら辺に転がってるような言葉で言いたくはないけど、オオスミはオオスミでしかないんですよね

――今回のトリビュート全体でIGNITION MANさんは改めてラップを録り直したりしたかと思うんですが、意図的に昔の自分のラップと変えようとしたことなどはありますか?

IGNITION MAN:逆に、自分で聴いてみて自分のスタイルは変わってないなと思ったけど、昔よりはよりわかりやすく、伝わりやすくするためにリリックを書いてラップしたかもしれない。
あと「空を取り戻した日」はオオスミの曲で、そこに僕が入っていくおもしろさと緊張感があったんですが、JON-Eと一緒にオオスミのリリックをなぞりながら世界観に入っていくという作業なんかは難しさもあったりして。19年ぶりにちゃんとラップしたけど、リリックもしっかり書いたりして新鮮に感じました。だから昔の自分から変えたというよりは、むしろ伝わりやすくするために昔の自分に寄せて行ったという感じかもしれないですね。

――そのオオスミさんの世界観を感じながらラップをされたとおっしゃいましたが、IGNITION MANさんから見て、オオスミさんとはどんなラッパーだったのでしょうか?

IGNITION MAN:相方のことをあんまり言いたくはないけど(苦笑)、初期の頃はトリッキーなこともやっていたんだけど、意外とシンプルにラップしている曲が多くて。でも、リリックのたとえだとか、言葉のビートへの乗せ方とかチョイスとか、響きって言ったらいいのかな。そういう部分では唯一無二ってそこら辺に転がってるような言葉で言いたくはないけど、オオスミはオオスミでしかないんですよね。ああいうものを持っていることに憧れと嫉妬はありましたよね。僕はやっぱり平凡な声だから(笑)、だから一緒にやっておもしろかったのかもしれないけど。
オオスミと僕はタイプが違って、オオスミは生まれ持ったものが自然に出ているようで、実は陰では緻密に考えて努力もしたものが作品になっているから。オオスミが昔、何かのインタビューで僕のことを「ラッパーらしいラッパーだ」、と言ってて。僕は何でもストレートに出ちゃうんですよね。

――はたから見てると、オオスミさんもIGNITION MANさんを唯一無二のラッパーと思ってたからこそ、SHAKKAZOMBIEという他では見ることができないグループになったような気がするんですが。

IGNITION MAN:そうかなぁ……。だったらいいんですけどね(笑)。

――では、IGNITION MANさんから見たオオスミさんはどんなデザイナーだったのでしょうか?

IGNITION MAN:バケモノじゃないですか。まだ事務所がない頃は、SHAKKAZOMBIEのレーベルだったavexの会議室にいつも2人でいて。そこで夜通し紙にデザインの絵を描いたりしてたんです。最初は洋服好きの2人が集まったみたいな感じで話し合いながら「スワッガー」をやってたんだけど、規模も大きくなっていく中で、オオスミがもっと違う表現をしたいんだろうなというところが見えてきた時に、「1人でやってみたら?」と言って始めさせたのが「フェノメノン」だったんです。1人でと言った以上、「フェノメノン」に僕は一切関わらないと決めて。
そこでオオスミは、「フェノメノン」と「スワッガー」で頭を切り替えて全然違うアイデアを出すんですよね。そうしているうちに、街に「フェノメノン」を着たアイコンみたいな人がどんどん増えていって。あの頃のオオスミは覚醒してるようにも思えた。その様子は僕も見ててドキドキしました。僕がゼロの段階から徐々に作ろうとするのに対して、オオスミは構想に時間をかけるというか、口にした時にはもう形になってるんですよね。陰ではいろいろ考えて努力してるのを見せようとしない。それはすごいなと思ってましたね。

ヒップホップは心地良く聴ける、届きやすい時代になっている

――今回のトリビュートには国内の新旧問わず、ジャンルも関係なくいろんなアーティストが参加されているんですが、海外のアーティストに参加をお願いするような案はなかったのでしょうか?

IGNITION MAN:ルーペ(=ルーペ・フィアスコ)はすごく近い関係だし、オオスミに対するリスペクトもすごくあるやつなので、想いとしてはやってほしいというのが最初からあったんだけど。時間的な都合などもあって、MUROくんのリミックスでルーペがフィーチャリングされる曲のリリースがやっと決まったんです。

――そうなんですね! 今作にはCreative Drug Store5lackPUNPEEなど、若い世代のラッパーも参加しています。そんな世代が活躍する現在は、SHAKKAZOMBIEが活動していた時と比べて、ヒップホップというジャンルが日本にも定着して市民権を得たようにも思えるんですが、現在のシーンを見てどう思われますか?

IGNITION MAN:今の日本のヒップホップは超おもしろいですよね。でも市民権を得たというよりはヒップホップ自体が変わったと思ってて。トラップもT.I.がやっていたようなものではなく、発展してもっとメロディアスなものになっていたりするから、リスナーも入りやすくなった気がするんです。僕が今20歳だったら絶対同じようにやってると思いますよ。でもUSでは、チャンス・ザ・ラッパーみたいにちょっと変わったアプローチでトラップを入れるアーティストもいるじゃないですか。音楽ライクにやるヒップホップというか。そういうアーティストも今は日本にもいっぱいいますよね。それって心地良く聴ける、届きやすい時代になっていると思うんです。僕らの時代はオラオラするのがセオリーだったから(笑)。あの頃はシーンが小さかったけど、今はヒップホップ自体が広くなったと言ったらいいのかな。今の若い世代はみんながみんな、ニューヨークを追ってるわけじゃないもんね。

――今は会わずとも一緒に曲を作れる時代ですもんね。そのような世代を見ていると、SHAKKAZOMBIEが「CISCO」にたまっていた時に生まれていたような、アーティストとアーティストが顔を会わせるからこそできあがるというものが、どんどん薄れていくような気もするんですよね。

IGNITION MAN:僕はノスタルジックに昔はこれが良かった、とかいうことはあまりないんで、今みたいな宅録とかの知識とか技術があればすぐにでもやりたいんだけど、僕ら世代はなかなか習得するまでに時間がかかるから(笑)。今の世代の子はわからなくてもすぐに実践してみるから、そこがすごいと思います。
もちろん、昔の情報がない中で宇田川町に集まって、同じような志を持ってる奴らといつも一緒にいたことはすごくおもしろかったし、今もあるべきだし大事だと思うけど、今は自宅にいて世界を目指せるんだから。それはすごく魅力のあることですよね。

オオスミっていう人がたくさんの人に好かれて、愛されてたんだな、と改めて思った

――ヒップホップというものがいろんな人へ広く届くようになった現在にリリースされたこのトリビュートを、若い世代にはどのように聴いてほしいですか? また、どんな存在のアルバムになってほしいなどはありますか?

IGNITION MAN:逆にどう聴こえるかを聞きたいですね。古臭いことやってんなーとか思われるのかな(笑)。でもSHAKKAZOMBIEはヒップホップという表現方法を選んだだけで、他のジャンルの音楽も好きな3人がそろってやってたんで、今の若い世代の音楽への接し方とも似てる気もするんですよね。だからこのアルバムはトリビュートと言いながら、昔の曲をひもといてゆく作業の結晶でもあるので、ヒップホップというツールを使った、音楽というものに触れるための作品と捉えてもらえると嬉しいです。
20年以上前に活動していたグループが、今最前線で活躍しているグループと一緒に曲を作ったり、昔ながらの老舗の友達とも一緒に曲をやったりするのも実際20年も経ってるんだから新鮮に聴こえると思うんです。僕がいちリスナーとして聴いてみたい、今現在やりたいことをやってみた作品でもあるので。今のリスナーの若い世代の人達が、Creative Drug Storeや5lackとPUNPEEが一緒にやってるSHAKKAZOMBIEってどんなグループなんだろ? と思ってもらえたらいいですよね。ヒップホップは進化するもので、リスナーも進化するから。

――今の若い世代ってジャンルのすみ分けがないですよね。例えば、ロックバンドのドラムの人がヒップホップのDJをやったりもする。SHAKKAZOMBIEも当時はライヴハウスにいた3人によるヒップホップグループという珍しさがあったと思うんです。ハードコアバンドと対バンしたり、それこそAIR JAMに出演したりと。そのジャンルレスな感じも今の若い世代とリンクする部分だと思うのですが。

IGNITION MAN:自分達では、ただ単にライヴハウス出身の3人でしかないと思ってただけで、当時は周りがそういう色づけをしたような感じもありましたね。今の世代の子がジャンルごとに分かれて遊んでないのと同じで、僕らもバンドのライヴを観るのが好きだし、クラブでヒップホップがかかってるのも好きだし、どちらも同じように行ってたと思うんで。

――今回のトリビュートはオオスミさんが亡くなられたことがきっかけではあるんですけど、IGNITION MANさんとTSUTCHIEさんが主軸となって、SHAKKAZOMBIEの曲をリミックスしたりアップデートしたりした作品でもあります。この『BIG-O DA ULTIMATE』は、オオスミさんにどう映ってると思いますか?

IGNITION MAN:今回の作品を作ろうと言い出したヤマちゃん(=toe<トー>の山嵜廣和)は、「笑ってんじゃない!?」って言ってたけど、僕は正直ドキドキしかない。オオスミがどう聴くのか、本当に喜んでるのか未だにわからないけど、1つ言えるのは、オオスミのことは大変だったし寂しかったことだけど、またこうやってみんなと何かを一緒に作り上げようと同じ方向を見てやれたこと、そしてそれが形になったことは本当に良かったと思ってます。
MV撮影にいろんな人が集まってくれたことからもオオスミっていう人がたくさんの人に好かれて、愛されてたんだな、と改めて思ったし。僕自身、昔宇田川町で一緒にいた人達とまた会って、一緒に作品を作ることができたのは涙が出るほど嬉しくて楽しかったし、若い世代のアーティストがオオスミに対してすごくリスペクトがあるのを本人達の口から聞けたのも嬉しかった。気持ちがこもった作品を作ったということだけは唯一自負してるかな。オオスミは「なんでヒデボウがやってんの!?」って笑ってるような気もするけど(笑)。

IGNITION MAN
BIG-O、TSUTCHIEとともに1993年にSHAKKAZOMBIEを結成し活動。BIG-Oとはアパレルブランド「スワッガー」も設立し運営していた。現在は自身のブランド「カコイ」を手掛けている。
Instagram:@iggy1924

■アナログ盤
SHAKKAZOMBIE 『BIG-O DA ULTIMATE』
(HIPHOP DNA / UNIVERSAL MUSIC)

A面
1. 空を取り戻した日 (DJ WATARAI REMIX) Feat. IGNITION MAN, JON-E
2. 共に行こう CDS Version Pure 2021 Feat. VaVa, JUBEE, BIM, in-d
3. BIG BLUE (MURO’s KG Remix) Feat. IGNITION MAN, SUIKEN, MACKA-CHIN, DABO, GORE-TEX

B面
1. 5o tight So deeP – 5lack Feat. PUNPEE & SHAKKAZOMBIE
2. 虹 (Chaki Zulu REMIX)
3. IT’S OKAY (THE GOODFELLAZ REMIX by TSUTCHIE) Feat. DABO, 山㟢廣和 (toe), 白川貴善 (BACK DROP BOMB), TOSHI-LOW (BRAHMAN / OAU), HIROSHI BROWN (RUDE BONES)

Photography Tetsuya Yamakawa
Text:PineBooks inc

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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