揺るがぬスタンスでラッパーとして再び歩き出す漢 a.k.a. GAMI

ヒップホップという夢と引きかえに支払ったものの大きさにも思いを馳せるアルバム『ヒップホップ・ドリーム』から約2年強、漢 a.k.a. GAMIにふりかかった2度の逮捕劇は、彼にミもフタもなく現実を突きつけた。しかし、言うまでもなくそれは漢の物語の結末ではない。ヒップホップひいては音楽に苦境、逆境を乗り越える力があるとすれば、今の漢にこそ音楽が必要なのであり、物語もそこからまた始まる。そんな中、『Start Over Again EP』のリリースを前にした2020年の暮れ、「鎖GROUP」のオフィスに彼を訪ねた。
世の中とどう折り合いをつけていくかは、これからもその身について回りそうだが、笑顔も交えた変わらぬ話しぶりには、長く彼を知る1人としてホッとさせられた。

俺らの周りは変わってないし、行動自粛もまったくしてない

――昨年の逮捕を受けて、自分の信条に変化などはありました?

漢 a.k.a. GAMI(以下、漢):ないすね。音楽から離れた部分で追われてる状況もそうだし、いろいろ大人の知識もつけないとなっていうのはありますけど。

――じゃあ生活そのものも変わらない? 特にコロナ以降とか。

漢:今の自粛モードにはモヤモヤしますよ。だけど、俺らの周りは誰も変わってないし、行動自粛もまったくしてないですね(笑)。エチケットは守るぐらいで。

――でも逮捕の一件でネットをはじめ、いろいろ矢面に立つこともあったんじゃないかと思うんだけど。

漢:そこは最近のわけわかんない風潮ですけど、リスナーを含めまともな子がヒップホップに関わりすぎちゃって、ホントふざけたこと言ってくるっすからね、パクられたことに関して。俺は一般人かよ、みたいな。マジまともなこと言うんじゃねえ、とりあえず俺はそこの担当じゃないのを知ってただろ、みたいな感じですよね(笑)。

――確かに(笑)。その分よけいに標的になりやすいっていうのはあるのかもしれない。

漢:バッシングっていうものがメディアの手段になってるし、今は個人個人がメディアじゃないですか。だからしょうがない現象ですけど、俺のどんな曲を聴いてんだよって。まあそうやって俺をヘイトしてくる奴は俺に金出してない奴なんで、お前のストレス解消になりゃいいよぐらいにしか思ってないですし、スタイルを変えるつもりもないし、黙らせてやるよって感じですけど。

――コロナ禍が今も続いてて、ライヴなどの活動にも支障がありそうだけど、その点は?

漢:この2ヵ月間毎週のようにライヴやってるんで、あんまそういうのもないすけどね。たまに人数が少ない場所でやるってだけで。どこのライヴ行ってもいい感じだし、待ってました感があって。

――そうなんだ。主催する「KOK(=KING OF KINGS)」や出場したものも含め、MCバトルの現状についてはどう?

漢:俺がパクられて『(フリースタイル)ダンジョン』も終わったし、けじめとして誘われた大会は全部出てひと区切りしようかなって感じだけど、バトルは飛沫飛ばしまくってますからね、ふざけんなってぐらい。でもインスタライヴとかやってると、コメントで「2mのソーシャルディスタンスを取りながらサイファーやってます」みたいなバカげたコメントもありますね。まあいいんじゃないですか、ソーシャルディスタンス取れば声もデカくなるし(笑)。

原点に返った今、放つ『Start Over Again EP』

――今回リリースされた『Start Over Again EP』は、留置場で書いた曲も多いそうだけど。

漢:4分の3は留置場で書きましたね。便箋を自分で買って、ペンを貸してもらえる時間帯にリリックと生まれて初めてのような手紙も超いっぱい書くみたいな。まあ40越えてドラッグでパクられるのは恥ずかしいことだけど、そうなった以上、ラッパーだったらリリックに書くしかないんで。

――曲を書くモチベーションや曲に向かうメンタリティにも変化はないですか?

漢:今年1年(2020年時)、日本全体も世界的にもネガティヴな1年だったし、俺も最悪だったからそこはリンクはしますよね。ただ、パクられた時の留置場内ではコロナのコの字もないし、俺が出てきた時もちょっと落ち着いてた時期だったから、そこはマインド的にも来なかったっすね。

――昨年最初に逮捕されたタイミングが、ちょうど鎖のオフィスを開いて6年目の5月だったっていう。

漢:ロクでもない6年目のいい締めだったというか(笑)。でも今は音楽に集中しやすくなったのはメリットだし、そういう意味で今は前向きっすよね、すごく。

――今回のEPもタイトルしかり、活動も原点に返るというか、返らざるをえないところがあるわけで。

漢:そうですね。1つは見つめ直す意味と、もう1つはテレビといったオーバーグラウンドのメディアには一切出られなくなったから、音楽しかないっていう意味で、嫌でも原点に戻された。ただ、原点といっても、レーベルを始めた時は新しいことをやるぞっていうテンションで、いろんなアーティストとも契約して派手にやったけど、時代も変わって、今は俺とD.Oしか所属してない。そこでD.Oがいないところで、俺もいなくなっちゃったのはホントにシャレになんなかったけど、俺もある程度おんなじ思いして戻ってきて、もうヘタこかないでやってこうっていう、経験してない新鮮さですよね、今は。

――そんな中にあっても、ハードコアなヒップホップの流れは下の世代に受け継がれているし、なにより漢くんもリンクする舐達麻が大きな支持を集めてるのは追い風だよね。

漢:そういう奴らは若い頃、俺らを聴いてたわけで、自分が無鉄砲に頑張ってた時とかのテンションに近い奴らには見てて重なる部分もある。刺激にもなるし。いろんな相談役みたいな感じのことも増えましたね、音楽のことからストリートの事情まで含めて。そういう奴らには俺の持ってる知識、経験を注いでますね。

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――今のヒップホップシーン全体についてはどう見てる?

漢:俺がガキの頃からなってほしかった日本のヒップホップに近いシーンが現状ある。若い子達はとにかく曲出すペースも早いし、そこは日本のヒップホップの文化が育ったんだなって思う。ただ、東京だけじゃなく他の地域も含めてストリートとか街、フッドを感じられるヒップホップが今は少なくて、ムーブメントの起き方がやっぱ個人個人なんだろうなっていうのが寂しいとこでもあるんですよね。そこは若い子達とちょっと違う思考だと思うんですけど。

――派閥感がなくなったのがつまんないって話は以前もしてたよね。

漢:そうそう。集団もめんどくせえなって時期もあったけど、やっぱそういうのが好きって部分があるんすよね。逆に今そういうのやったら盛り上がんじゃないかなっていう。だからおもしろい奴らがいたら、それこそ2代目MSCもやってみたいし、そのパーツはそろいつつあるような気もしてて。

――ともあれ、バンバン曲を出せる環境ができた今の状況にあって漢くん自身も変わっていくっていうこと?

漢:状況がそうさせてんのと、あとホントに1回本気出さねえといけないだろって(笑)。本気を1回も出してねえような気がしちゃってるから、ヒップホップをやってる上で。

――昔から100%出すのが一番難しいっていう話もしてたよね。

漢:そうですね。今は考えなきゃいけないこともたくさんあるし、プライベートもこの年になってくると子どものこととか含めてやることが増えて、大人を突きつけられる。追い詰められたっていうほうがデカいすね。それイコール本気出さないとなってことなんですよ(笑)。やるしかないっていう。

ハードコアなヒップホップで世の中をかき回す

――前回リリースの『ヒップホップ・ドリーム』は、ヒップホップをやり続けるっていう夢と裏腹の、もはや後戻りができないっていう現実も映し出すアルバムだったように思うんだけど、今の状況はシビアにとらえたら、ますますシビアだよね。ましてや、それを続けていくってことを考えると。

漢:同世代でも音楽からとうとう離れていく人やフェードアウトする人も増えてきてますからね。でも、俺は50歳ぐらいまではラッパーとして現役でいいかなと思ってて。バンドのスタイルでもやってみたいなっていうのは昔からあるし、そういうこともやってったら50代でもシブいラップはできるかなって。なによりSHINGO★西成ジブさん(ZEEBRA)とかああいう人らもそれを証明してってる感じじゃないですか。

――それを含めて今後についてはどう考えてる?

漢:将来の自分の立ち位置をよく考えますけど、ヒップホップっつったらこいつだよな、みたいなところに自分を置きたいし、よりハードコアなラップスタイルでクソガキも同世代も黙らせてやるよって。ラップうまかったり音楽性高い子は数えきれないぐらいいるけど、なんか見てて物足んないすよね、やっぱり。その物足んなさを自分が埋められればいい。今はメディアも不安しか煽ってないし、そりゃみんなもそうなるわって感じじゃないですか。だからヒップホップぐらいは反逆者としていい意味で世の中もかき回していかないとって感じですね。

漢 a.k.a. GAMI
ゼロ年代のアンダーグラウンドなヒップホップシーンを席巻したMSCの活動を経て、ソロラッパーとしてのキャリアを本格化。自ら「鎖GROUP」を立ち上げ、レーベルの運営にも手を伸ばす。自身の戦績とともに、初代モンスターとしてレギュラー出演した地上波TVの『フリースタイルダンジョン』や、「KOK」の大会主催など、日本におけるMCバトルの広がりにも貢献。昨年の逮捕劇を受け、現在は鎖GROUP代表を辞し、一ラッパーとして活動中。2021年初頭、オフィスであり、カフェでもある「9SARI cafe」がバーとしてもオープンした。
http://9sari-group.net
Instagram:@kan_9sari
YouTubeチャンネル:9SARI GROUP

Photography Daisuke Mizushima(D-CORD)

author:

一ノ木裕之

音楽ライター。神奈川県川崎市出身。ヒップホップ専門誌を出発にライターとしての活動を始め、ファッション、カルチャー誌などでアーティストの取材、執筆を担当。その後、インディレーベルのA&Rディレクターなどを経て、現在もメディア問わずフリーで執筆を続ける。

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