ポジティブな光差す新作の先にCampanellaが見据える「何度でも聴いてもらえる音楽」

テン年代初頭、NEO TOKAIの一翼を担うラッパーとして頭角を現し、オリジナルのサウンドとラップでファンを集めてきたCampanella。テーマや方向性に縛られず曲を作ってきた彼にとって、新作『AMULUE』もまたその例外ではないが、そこには光がある。新型コロナウイルスの影響で、現場の活動ままならぬ中、生配信などで数々のライヴを届けるなど、思うに任せぬ現状をモチベーションに変え、強い意志とともに彼は“これから”を作っていく。

コロナ禍でも気負わず重ねた楽曲制作

――コロナ以降、音楽に対する意識に変化はあります?

Campanella:週末にライヴがあって普通にレコーディングしてって生活からライヴがなくなって。簡単に言ったら今まであまり考えてこなかったお金のこととかを少し考えなきゃいけないなと思ったり、焦りも少し出たんすけど、そういう歌詞を書こうとはあまり考えなくて。今回のアルバムでも唯一感情的になったのが「Minstrel」ぐらいで、あの曲にはコロナとか今の状況、ムードみたいなものを入れたんすけど。

――アルバムに向かう気持ちとしてはどうだったんですか?

Campanella:ホントに自分とか身内がブチ上がれればってぐらいでずっと音楽やってきたんですけど、前作でいい評価をもらったんで、今回はもっといろんな人に聴いてもらいたいなって気持ちはちょっとありました。

――そこで今回、特に力を入れたようなことは?

Campanella:ないっつったら変なのかな……(笑)。でもホントにないかもしんないですね。4年前にアルバム出したあと、わりと早く始めて、制作期間も長かったんで。

アルバムタイトルからひもとく音楽観〜「もっと楽しいこと」を探して

――『AMULUE』というアルバムタイトルは、地元近くの愛知県春日井市に以前あったお店の名前だそうですね。

Campanella:倉庫みたいな中に雑貨があったり家具や本があった店で。CDも置いてあって試聴機でいつも10枚くらい聴けたんで、聴いてよかったら買うとか10代の頃からしてました。

――そこではどんな音楽に触れてました?

Campanella:エレクトロニカとかポストロックがすごい好きでよく聴いてましたね。あとはWarp Recordsの音源、フライング・ロータスとかが全盛でそういうのとか、アイスランドの音楽とか……。

――アイスランドというとシガー・ロスのような?

Campanella:そうですね。シガー・ロスヨンシーが、パートナーのアレックス・ソマーズと『Riceboy Sleeps』っていうアート本を作って、その後にアンビエントの作品を作ってるんですけど、その本も海外のサイトで買って、mixiでコミュニティを作ったり。そのコミュニティは俺が管理人で、Free Babyroniaが副管理人だったっすね(笑)。その頃は掘りあいみたいになってたんですよ、RamzaやFree Babyroniaと。

――逆にそうしたセンスとご自身のラップ、ヒップホップはどのように結びついてると思いますか?

Campanella:どうなんですかね。ヒップホップを聴いてない時期も少しありましたけど、基本的にずっと好きだから、一番身近なRamzaとFree Babyroniaが10代でトラック作り始めたら、当然それにラップ乗せようってなったし、好きな音楽も近かったから、自然にこういう音楽にもなってるって感じで。

――新作でも制作の核となっているRamzaさんやFree Babyroniaさんは、作るトラックのビート感やサンプリングネタのチョイスにもいわゆるヒップホップにとどまらない広がりがありますけど、Campanellaさん自身、そうした広がりを意識していたわけではないと。

Campanella:単純に人と違うことやんないと全然目立たないよなみたいな考えは若い頃からあったんで。例えばラッパーだったらみんなDJ プレミアみたいな音でラップしたいって言ってたような頃も、みんながそれやってるなら別に俺がやる必要もないなとか思ってたり。ちょっと素直じゃなかったのかもしんないですね。

――今はそうした気持ちはないですか?

Campanella:別にそれをわざわざ口にはしないし、音楽を作る上ではオリジナルなのは当たり前のことじゃないですか。でもヒップホップの場合そこがグレーで、何かに近い音楽を作ろうとする人達ってめっちゃいると思うんですよ。例えば今だったら、タイプビート(注・人気アーティストの曲に近い曲調のビートに、そのアーティスト名をつけてYouTubeや販売サイト等にアップロードされたもの)とかそういうものもあるし、ビートメイカーに「あの人っぽい曲がほしい」って言って、ホントにその人っぽい曲でその人っぽい歌い方をして、それが普通にはやって、ファンの人達も似てるってわかってても受け入れるみたいな。それはそれでいいと思うんですよね、やってる本人達がよければ。
ただ、自分はそれをしたいとは思わない。他にもっと楽しいことがありそうだなって思うし、こういう曲作ってくださいっていう注文自体、俺はしたことないんですよ。向こうが「これがいいんじゃない?」って聴かしてくれたやつに俺が「いいね」ってなったらそれで作りますし。

――今回のアルバムにある「流行り廃りどうでもいい / 小さなvillage抜け出して」(「Bell Bottom」)っていうラインも、そうした思いを映すものでしょうか。

Campanella:まあアレはヒップホップのことというよりかは単純に自分の心のことを言ってるんですけど。

――本作での中納良恵EGO-WRAPPIN’)さんとの再共演(「Think Free」)や、GofishSOSOSCLUB、さらにプロデュースで参加のMockyといったヒップホップ外からの起用は、そうしたマインドの一端にも思えましたが。アルバムには鎮座DOPENESSさんやjjjさん、ERAさんもラップで参加してますが、彼らに対しても特に注文をつけるようなことはなく?

Campanella:曲頼んだりとか誰かと一緒に曲やる時もテーマとかってないんですよね。どっちかが先に書いてそのリリックで大体こんな感じかっていうふうに曲作ることが多くて。周りでもないですし、「こういう感じで曲書いてほしい」とか言われることって。

――あくまでもテーマありきではなく、相手の空気を感じ取ってお互いが作っていくっていう。

Campanella:そうそう。肌感覚が近い人だったらテーマとか絞らなくても同じ温度で曲が作れるんですよ。

歳を重ねてたどり着いた表現も形になった『AMULUE』とこれから

――ともあれ、前作の『PEASTA』では周囲に対する冷ややかな視線や葛藤も曲になってましたが、今回はアグレッシブなラップスタイルやセルフボースト的な歌詞こそあれ、聴き進めるにつれ現実を肯定するというか、ポジティブでピースな側面が強まりますよね。こじつけですけど、そこがコロナ以降ささくれだった人の心を落ち着かせるアルバムのようにも見えて。

Campanella:そこは自分が30歳を越えたっていうのもあるっすね(笑)。自分でも今回のアルバムはアルバムとしてきれいに流れていく感じがしました。

――角が取れたというか、「ネガにSee Ya / 常にkeepしていくsoul」と歌う「Think Free」もそんな一曲で。それは表現したい音楽が変わってきたっていうこととは違いますか?

Campanella:それは正直ないですね。逆にこういうことも表現できるようになったのかなって思うことはいろいろあるんですけど。「Think Free」とかそういう曲って、何年か前なら作れなかったかもしれないとも思うし。

EGO-WRAPPIN’の中納良恵をフィーチャリングに迎えた「Think Free」

――なるほど。改めて完成したアルバムの感触を聞かせてもらえれば。

Campanella:すごく好きで納得はいってるけど、自分の中で育てていきたい感覚もあるんですよね。前回の『PEASTA』をライヴでやってどんどん好きになってったように。とにかくいろんな機会に聴いてほしいし、長く聴いてもらえる作品になればなと思います。

――コロナ後に向けた思いも聞かせてください。

Campanella:まあ変わらずやっていきたいのはあるんですけど、今まで当たり前だったものがなくなってしまうことが一番悲しい。クラブやライヴハウスがみんなの受け皿だとしたら、すべてが終わった時にその受け皿があったほうが絶対いいじゃないですか。それと一緒で、自分達アーティストも考えることはいっぱいあるかもしんないけど動いてないとみんなついてこないと思うし、下のアーティストの目標にもなれない。こういう状況でへこんでる場合じゃねえなって気もしたし、とにかくやり続けないといけないですよね。

――活動を続けていく上で、Campanellaさんが今、理想とする音楽はどんな音楽でしょう?

Campanella:めっちゃシンプルに、何回も聴ける音楽ですかね。いろんな人に歌詞のこととかどういうふうに考えてるかって結構聞かれるんですけど、作ってるこっちとしては音とおんなじで響きだけでも感じてほしい部分があるし、深い思いもあんまりなかったりするんですよ。だから響きだけで好きになってくれても全然いい。

――この一小節のラップが好きとか、ふとした時にここの歌詞に引っかかったとか、自分にリンクしたとか……。

Campanella:それがラップですよね。だからライムするし、それがラッパーのやるべきことでもある。リリックを書き始めてどんどん脱線していくことって全然あると思うんですよ、「これ言いたいな」とか「これで韻踏みたい」とかって考えていくと。

――聴くたびにそういう発見があるっていうのもさっき言った理想の音楽に近づくことの1つですしね。

Campanella:それを感じ取ってくれたなら俺的にもすごい嬉しいです。

Campanella
1987年生まれ。愛知県小牧市出身で名古屋を拠点に活動中のラッパー。フリーのミックステープや、C.O.S.A.とのユニット、コサパネルラ、TOSHI MAMUSHIとの共作などでシーンの注目を集め、2014年にはソロ初のアルバム『vivid』を発表。続く2016年のセカンド『PEASTA』では盟友Ramza、Free Babyroniaのプロデュースの下、高い音楽性を見せつけた。5月22日には新作『AMULUE』の リリースパーティが、渋谷・WWW Xで予定されている。
Instagram:@campanella_mdm
Twitter:@campanellapsy

■Campanella “AMULUE” Release Live
出演者:Campanella、Ramza、Free Babyronia
日時:2021年5月22日@渋谷 WWW X
OPEN 18:00 / START 19:00
料金:前売り ¥3,800、当日 ¥4,300
https://www-shibuya.jp/schedule/013498.php

Photography Go Itami

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author:

一ノ木裕之

音楽ライター。神奈川県川崎市出身。ヒップホップ専門誌を出発にライターとしての活動を始め、ファッション、カルチャー誌などでアーティストの取材、執筆を担当。その後、インディレーベルのA&Rディレクターなどを経て、現在もメディア問わずフリーで執筆を続ける。

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