書道家、万美のインディペンデント。自分らしい文字をつづるために―後編―

国内外からのオファーが絶えない書道家、万美。古典を重んじながらも、常に意欲的な姿勢で作品を生み出し、書道の新たな魅力を伝えてくれる。それを存分に発揮している個展が現在、代官山「STUDIO 4N」で開催されている。
これまで、百貨店をはじめとした大規模な会場で展示する機会が多かった彼女だが、今回の個展は約5年ぶりとなる自主企画。自ら会場に声を掛け、純度の高い自己表現の場を作り上げている。自身のアイデンティティーを体現した作品だけを披露しているが、そこにはどんな思いが込められているのだろう。やりたいことは積極的にアプローチすることでチャンスをつかんできた彼女が、インディペンデントにこだわる理由とは。

海外での個展を経て、5年ぶりの自主企画

――個展「MAMIMOZI」が開催されていますが、個展はいつ以来ですか?

万美:昨年の3月に原宿のギャラリー「UNKNOWN HARAJUKU」と、7月に「心斎橋パルコ」から声掛けいただいて開催しましたが、その時はアーカイブ作品が中心でした。今回の個展は、新たに書き下ろした作品を展示する自主企画になります。自主企画ですと、2017年の台湾での開催以来です。

――日本ではなくなぜ台湾で自主企画を?

万美:台湾は何度か訪れていたので頼れる人がいて、土地勘もありました。そして台湾の書道が気になっていました。個展の場所は自分で探して、買っていただいた作品も自分自身で発送してと、大変でしたがなんとか無事に開催できたのでよい思い出です。

――香港でも個展を開催していましたね。

万美:はい。2019年の3月に、蘭桂坊(ランカイフォン)という街に呼んでいただきました。街中に私のイベントのポスターやフライヤーを貼っていただいたりと大々的に告知してくれて、とても驚きましたし嬉しかったですね。とても温かく迎えてくれて、香港が大好きになりました。

――台湾や香港の書道と日本の書道には違いがあるのですか?

万美:そうですね、全然違う印象を受けました。個人的なイメージですが、日本は手先の技術で書を書き、台湾や香港は体を使って筆の動きで書いている。そこで私は体を使った技術を取り入れたいと思いました。

――ではアジア以外での展示経験はありますか?

万美:パリもあります。アートのキュレーションを学ぶ現地の大学院に通っている日本人の女の子が、卒業の課題として私の個展を開催してくれたんです。

――書道になじみのないパリでの個展は、どんな反応でしたか?

万美:あたりまえなのですが、言葉がダイレクトに伝わらないので、1つひとつの意味を聞かれました。やっぱり言葉の壁は高くて、本質的な部分まで響かないのが課題として残りました。やはりヨーロッパやアメリカよりも、香港や台湾のほうが書道という点においては反響が大きいですね。

4つの軸からなる作品で自己表現

――今回の個展では、以前から制作されている作品シリーズの新作が展示されています。“女”という文字を書いている「KUNOICHI」シリーズは色合いが鮮やかですね。

万美:書道の場合、使用する色は最大で黒白赤の3色です。でも、私がいいなと感じるデザインは、4色で構成されていることが多いんですよね。それを書道で表現してみたくなり、3筆画プラス背景で、4色にできると考えました。意外と3筆画の漢字はたくさんあるんですよ。私の名前の“万” もそうですし、地元山口県の“山”も“口”も3筆画。そこで考えた結果、“女”という文字は、折れ線と曲線と直線が組み合わさっていて、おもしろいのではと思いました。しかも、3種類の線が2点ずつ交差しているので、色が交わっておもしろい仕上がりにもなりました。“女”を枠からはみ出して書くことで、女性の社会進出や活躍といったことも表現しています。

――筆順最後の直線は白で統一されていますが、意味があるのですか?

万美:書道の公募展には、上手い下手で判断されるのではなく、順番に受賞していくということがあったり、お金によって受賞できるランクが変わるものがあったりするらしいです。そんな書道業界を浄化したいという意味も込めて、白の右肩上がりの1本線で書くようにしました。

――そうなんですね! 続いて「BLACK BLACK」シリーズについて聞かせてください。こちらは鮮やかな「KUNOICHI」シリーズとは対照的です。

万美:「BLACK BLACK」は、2012年に初めて書いたシリーズ作です。一般的に書道は、白地に黒で文字を書くから、コントラストが強調されるので、部屋に飾ると強く主張されてしまいます。それでもって、例えば“夢”や“愛”といったはっきりと伝わる言葉が書かれていると、より空間を支配し過ぎる気がしてしまいます。それも書道の魅力だとは思いますが、時と場合によっては、その言葉の強さを受け入れることができなくて、弱さと受け取れることもあります。それをどうにか中和できないかと、黒地に黒や透明の材料で書き始めました。同じ黒でも、質感や光の当たり具合によって見え方が全然違うんです。私は黒が一番カラフルだと思っています。そしてこのシリーズは、DJやラップをしている友人も飾りやすいようレコードサイズで書いているのもこだわったポイントです。

――「書道は墨汁で書く」という固定観念にとらわれない作品は、色とりどりで新鮮です。鏡に書いている作品も着眼点がとてもおもしろいです。

万美:コロナ禍によって誰とも会えない日々が続いて、人と会うことの重要性に改めて気付かされました。私は相手の話し方が自然と移っちゃうタイプなんですけど、「人こそ人の鏡」ということわざの通り、目の前の人は自身を映す鏡のようなものなので、鏡に文字を書いて表現しています。これは数年前に書いたことがあったので、今回改めて作品にしました。

――その一方で、伝統的な掛け軸もあります。

万美:私にとって掛け軸は特別な存在です。私は前衛的な作品が多いですが、それだけで評価されたくないという気持ちがあります。基礎があるからこそ、自己表現している作品があるということを感じていただきたくて、掛け軸は書いています。

――「KUNOICHI」シリーズに「BLACK BLACK」シリーズ、鏡と掛け軸。この4つの軸で個展を構成しながら、毎日ライヴパフォーマンスも行うんですよね?

万美:はい。展示する作品は、何百枚も書いてそこから1枚を選ぶのですが、ライヴパフォーマンスはその1度しかありません。えりすぐりの1枚だけを展示することよって高慢になりたくないので、今回開催する毎日のライヴパフォーマンスは、ある種の練習。書くことを観てもらうので本番ではありますが、私にとっては練習試合のようなものでもあります。

――書道になじみが薄い人にも受け入れられやすいように、前衛的に昇華されてもいますが、伝統を重んじる人からの厳しい意見が届くことはありませんか?

万美:以前はありましたよ。大学生の頃の話ですが、20歳の誕生日を迎える前日、10代最後だからやりたいことに挑戦しようと、学校の課題を虹のように7色で書いて飾ったんですよ。そうしたら、師匠に怒られてしまって。イベントのフライヤーを書いていたこともとがめられました。そこで気付いたのは、堅い業界に身を置きながらそういった活動をしていたから非難を浴びるのであって、そことは別の場所で自由に活動すれば気にはならない。それからは、自分の行動範囲と視野を広げるようにしました。

――自分らしい作品や活動を追求した結果ですね。

万美:コンテストで入賞しても、私の活動にそんなに大きな意味はないので、自分のやりたい分野で、表現したいことを発信するほうが楽しく活動できますからね。今回の個展では、そういった思いも込めています。さまざまな場所から展示のオファーをいただいていて、本当にありがたい限りです。何度も開催させていただいた西武といった大きな会場での展示は、いい経験となったので、また機会があればぜひやらせてもらいたいです。
でも、今の私の思いをストレートにわかりやすく伝えるには、自分でできる範囲の規模が最適だと思って、今回は自主企画に至りました。これからも自分の好きなことに対して忠実でありたいですし、好きなことを続けていくためにも、インディペンデントな活動を続けていきたいです。

万美
書道家。山口県出身。9歳から書道を始める。日本のヒップホップカルチャーから影響を受け、DJ やラッパーのCD ジャケットや出演イベントで協業する。現在はジャンルは問わず、世界的に展開する企業にも作品を提供している。アジアを中心に展覧会を開催し、世界中から注目を集めている。
Instagram:@mamimozi

MAMIMOZI
会期:〜2022年1月17日
会場:代官山 STUDIO 4N
住所:東京都渋谷区猿楽町2-1 アベニューサイド代官山Ⅲ 3階
時間:12:00〜19:00
作家在廊:毎日16:00〜18:00、18:30〜19:00
毎日18:30から作家によるライヴパフォーマンスを予定。

Photography Cho Ongo

author:

コマツショウゴ

雑誌やウェブメディアで、ファッションを中心としたカルチャー、音楽などの記事を手掛けているフリーランスのライター/エディター。カルチャーから派生した動画コンテンツのディレクションにも携わる。海・山・川の大自然に溶け込む休日を送るが、根本的に出不精で腰が重いのが悩み。 Instagram:@showgo_komatsu

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