「ネガティブもポジティブも、自分なりに曲にしていく」 アーティストiriがコロナ禍で考えたこと

昨年3月に4thアルバム『Sparkle』をリリースしたアーティストのiri(イリ)。その後予定されていた2020年春のツアーでは各地でソールドアウトが出るなど、まさにこれからというタイミングで、新型コロナの感染が拡大し、ツアーが中止となってしまった。

一時期は先行きの見えない状況に思い悩んでいたという彼女だが、昨年9月にはオンラインライブ配信を行い、12 月には自身初の「Zepp」ツアーを開催。今年3月24日にEP『はじまりの日』をリリースし、春の全国ツアーを実施するなど、精力的に活動している。

これまで止まることなく歩みを進めてきた彼女が、コロナによって止まることを余儀なくされた。ただ、改めて自分と向き合う時間ができたことで、これまでとは異なる楽曲が生まれるなど、表現の幅が広がっている。10月には5周年記念ベストアルバムのリリースとツアーの開催が発表され、さらなる飛躍を前に改めて前回のアルバムリリースから今までどのように彼女自身は感じてきたのか。その率直な思いを聞いた。

——昨年、アルバム『Sparkle』を3月にリリースし、いざ全国ツアーというタイミングで、新型コロナの影響で中止になってしまいました。その時の率直な気持ちを教えてください。

iri:全国ツアーに向けて準備もいろいろして、楽しみにしていました。最初は延期だったので、ライブができないことに対して寂しいなという気持ちはあったんですが、まさかここまで長くライブができないとは思っていなくて。その時はわりと「しょうがないな」って感じで受け入れてました。

——実際、全国ツアーが一度延期になって、それから4月には中止の発表がありました。その時は、「これは本当に深刻だ」という感じはあったんですか?

iri:ありました。フェスとかも全部なくなって、ライブ自体がなくなってしまって。これまでは、年に1度はツアーがあったり、フェスやイベントに出るっているのがあたりまえだったので、ライブがこんなにやれなくて、ファンと会える機会が減るっているのは、デビューしてから初めての経験で、孤独な気持ちになりました。

——コロナになってからは、ずっと地元にいたそうですね。

iri:そうですね。外出自粛であまり人と会わなくなってからは、制作意欲みたいなものはあまりなくなってしまったんですよね。私の場合、曲を作る時のインスピレーション源って、好きな詩集や映画とかもそうですけど、一番は人との会話なので、それができなくなって、自分でもどうすればいいんだっていうのは悩みました。それで他の何かインプットできるものを探して、植物とか、飼っている熱帯魚とか、そういった身の回りにある自分の好きなものからイメージを広げていくようにして、なんとか曲は作っていました。

——ツアーも中止になって自粛生活が続く中、去年の9月9日にワンマンライブの生配信を行いました。生配信は初めてだったと思うのですが?

iri:初めてでしたね。お客さんがいないので、テレビ番組で歌っているような感覚に近かったです。それでも、お客さんとつながれる機会がなかなかない中で、貴重な体験でした。でも、やっぱりお客さんの顔が見えないというのは物足りなくて。それで、12月に全国5都市の「Zepp」をまわるツアーをやることにしたんです。

——久しぶりに有観客でライブをやってみてどうでしたか?

iri:「Zepp」ツアーをやってみて、生で見てもらうのが一番いいなって。やっぱりお客さんがいるから、自分はエネルギーをもらえる。自分の曲を聞いてくれているお客さんの表情を見ている時が一番自分のパワーになるんだなって実感しました。

曲を作ることが一番今やるべきこと

——そんな中、EP『はじまりの日』が今年の3月24日にリリースされました。制作意欲も戻ってきた感じでしたか?

iri:意欲というよりはリリースが決まっていたので、「作らないといけない」という感じでしたね。こんな状況で自分に何ができるかみたいなことも考えたんですけど、結局は曲を作ることが、一番今やるべきことなのかなと改めて思いました。

でも前のアルバム『Sparkle』みたいに踊れるダンスミュージックは全然作る気にならなくて。外出できない、人とも会えない、ライブにも行けない中で、アッパーな曲聴きたいかっていうと、そうではないだろうし。今の自分が作る作品はどんな感じがいいのか、すごく考えましたね。

それで、私自身もそうだったんですけど、ちょっと落ち着ける、優しい気持ちになれる曲が聴きたいだろうなって思って。それで『はじまりの日』は、歌モノ中心で、あまりアッパーな曲を入れてないんです。

——別のインタビューでも「原点の弾き語りの時に戻った」という話もされていました。

iri:「はじまりの日」「room」「回る」はギターの弾き語りで作りました。アルバム『Sparkle』とかは、トラックメーカーの人にベーストラックをもらって、それに沿って作ったりもしてたんですけど、『はじまりの日』は、自粛期間中で時間があったので、わりと自分スタートで作りました。でも、それだけだと、やっぱり自分でもどこか物足りなさがあったので、ダンサブルな「doyu」という曲をTAAR君と一緒に作りました。

——前作『Sparkle』がダンサブルというかノレる曲が中心だったのに対して、『はじまりの日』はしっとりというか、聴かせる曲が中心となっています。リリースする時にリスナーの反応とか気にしてましたか?

iri:気にはしていたんですけど、今作れる曲がこれだったので、気にしてもしょうがないなって気持ちになりましたね。でも結果として、このタイミングで『はじまりの日』を出したのは正解で、自分を信じてよかったと思います。リリースしてからのリスナーのリアクションとかみていると、みんなも同じ気持ちだったんだって感じました。

——コロナ過でメンタル的にやられる人も多かったですが、iriさんは大丈夫でしたか?

iri:いや……このEPを聞いていただけたらわかると思うけど。そうとう病んでました(笑)。「別れ」とか「死生観」とかそんなことをずっと考えてましたね。

——EP名にもなっている曲「はじまりの日」は亡くなった人に向けたそうですね。

iri:「はじまりの日」は当初は春に聴きたくなる卒業ソングみたいなイメージだったんです。これまで、あまり季節を意識して作った曲がなくて、だからそういうのを作ってみてもいいなと思って作ることにしたんです。

でも、当初の「卒業ソング」からどんどんと想像が膨らみ過ぎて、出会いと別れ的なところから、今まで亡くした友達のこととか、家族のこととかも想像して。気づいたら、そういう人への思いを書いてました。

——このEPに収録されている曲には「歩く」という言葉が多く使われていましたが、そこには前向きな気持ちが込められているんですか?

iri:先ほども言ったんですが、自粛期間中は無気力というか、私はわりとネガティブにいろいろ考えちゃったりして。アーティストとしての自分自身とも向き合った1年でもあったので、そういうネガティブな部分とかも感じつつ、それでも夢は諦めないで「歩き」続けたいなという思いが言葉として出たんだと思います。

——「言えない」のPat Lokによるリミックスも収録されています。

iri:リミックスを1曲入れたいって話をしていて、それで彼の曲はもともと好きで聴いていて、ダメもとでお願いしたらOKしてもらえたんです。でもまだ直接会ったことはなくて、コロナが落ち着いたら、ぜひお会いしたいです。

ようやくお客さんと一体になれたと感じた

——『はじまりの日』のリリース後、「Spring Tour 2021」の全国ツアーが始まって、延期していた大阪公演も終了しました。

iri:どこもむちゃくちゃ楽しかったです。ファンのみんなと1つになっていく感じがあって、今回が一番楽しかったし、新しい発見がたくさんあったツアーでした。

自分の中で、今までちょっとだけお客さんとの距離を感じていたんですけど、今回のツアーではその距離を感じなくて、お客さんとの一体感も感じられて、スカッとした気持ちでした。 

——コロナ禍でツアーができたり、できなかったりとアーティストとしてはなかなかモチベーションを維持するのも難しかったのでは?

iri:それこそ「Spring Tour 2021」も結構ギリギリというか、できるかできないか怪しい状況でした。もしかして中止とかもあるのかもっていう考えも一瞬よぎりましたね。それでもなんとか全公演できたんですが、ツアー自体が中止になったら、かなり悔しいだろうなっていうのは思いました。全公演、お客さんやスタッフがすごく対策をちゃんとしてくれて、そこはすごく感謝しています。

「渦」はリスナーだけでなく、自分を奮い立たせる気持ちで作った

——6月には新曲の「渦」をリリースしました。これはEPとは雰囲気が違う曲になっていますね。

iri:この曲は3年前から楽曲を提供している国際ファッション専門職大学の新しいCMソングなので、前向きなメッセージを伝えられるものにしようと思って作りました。これからファッションの世界に飛び込んでいく人達の背中を押してあげる曲みたいな、そういうイメージです。それでもいざ曲を作るってなったら、全然前向きになれなくて、でもそんな自分を奮い立たせるというか、自分にも言い聞かせるような気持ちで作りました。

——「渦」では、“色”という単語がキーワードとして使われています。

iri:個性を「色」と表現していて。自分にしかない色が私にも、あなたにもあるから。それを信じてあげられるように、という気持ちで使っています。

——ミュージックビデオがSFっぽい作りだったのは? 

iri:この曲自体、最初から宇宙のイメージだったので、全編宇宙にしたいっていうのは言っていて。やっぱコロナ禍で、みんなストレスがたまっていたり、いっぱいいっぱいで爆発しそうになっていたり、そういう人達が世の中にあふれていく。そんな様子をミュージックビデオでは表現したいと監督に話しました。

——監督の田向(潤)さんとは何度か仕事したことがあったんですか?

iri:初めてです。前にchelmicoのミュージックビデオとかでCGを使っていて、今回は宇宙がテーマなのでCGの監督がいいなって思っていて。それでお願いしました。

——実際に仕上がりをみて感想は? イメージ通り?

iri:こんな仕上がりになるなんて、CGってすごいなって思いましたね。

——今後の展開としては、10月にデビュー5周年を記念した「ベストアルバム」がリリースされるそうですね。

iri:はい。10月27日にリリースされます。そのリリースに合わせて、名古屋、大阪、福岡、東京で5周年記念ライブをやる予定です。ぜひ会いに来てもらえたらなと思います。

——他にやってみたいことってありますか?

iri:前からずっと考えていたのは、シンプルなアコースティックライブはいつかやってみたいと思っています。いつものライブとは違う感じで、タイミングがあえばぜひいろいろな場所でやってみたいです。

iri
地元のJAZZ BARで弾き語りのライブ活動を始め、2014年ファッション誌『NYLON JAPAN』とソニー・ミュージックが開催したオーディションでグランプリを獲得。2016年ビクターよりメジャーデビューし、iTunes Storeでトップ10入り、ヒップホップ/ラップチャートでは1位を獲得。翌年には「ナイキ」のキャンペーンソングを手掛け話題となる。「クロエ」や「ヴァレンティノ」など、ハイブランドのパーティでライブするなど多方面から注目される。
https://www.iriofficial.com
Twitter:@03iritaama
Instagram:@i.gram.iri

■iri 5th Anniversary Live “2016-2021”
日程
10月7日 名古屋・DIAMOND HALL OPEN 18:00 / START 19:00
10月9日 大阪・大阪城音楽堂 OPEN 17:00 / START 18:00
10月17日 福岡・DRUM LOGOS OPEN 17:00 / START 18:00
10月28日 東京・新木場USEN STUDIO COAST  OPEN 18:00 / START 19:00
10月29日 東京・新木場USEN STUDIO COAST  OPEN 18:00 / START 19:00
https://eplus.jp/sf/word/0000073512
チケット料金:前売り¥5,500(1Drink別)/当日¥6,000(1Drink別)

Photography Takuya Nagata(W)
Styling Masataka Hattori
Hair & Makeup Mihoko Fujiwara(LUCK HAIR)

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社し、「WWDビューティ」編集部に所属。ヘアサロン関係を中心に、コレクションのバックステージ、メンズコスメ、ビューティ系スタートアップなどを担当。また、 “カテゴリーにとらわれず興味のある人を取材する”という考えで、ミュージシャンやクリエイター、俳優などの取材も積極的に行っている。

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