連載「PKCZ®が世界中のDJに聞くアフターコロナのクラブシーン」 Vol.3 大沢伸一/MONDO GROSSO前編

EXILE MAKIDAI白濱亜嵐VERBALDJ DARUMAJOMMYによる音楽クリエイティブユニット、PKCZ®による連載企画の第3回。連載ではメンバーが注目する、世界中のDJや音楽プロデューサー達に、コロナ禍におけるクラブシーンの現状と今後についてクロストークしていく。フィジカルな現場が激減してしまったクラブミュージックの未来とは。

Vol.3は、2月にMONDO GROSSO(モンド・グロッソ)名義でニューアルバム『BIG WORLD』をリリースした大沢伸一が登場。DJ DARUMAとJOMMYの2人とは2000年後半より交流があり、DJ/プロデューサーとして尊敬すべき人物の1人だ。

今回は、DJ DARUMAとJOMMYの2人がインタビュアーとなり、感銘を受けたという本作についてと、そこから広がる大沢のコロナ禍でのライフスタイルや、2000年代に共有したエレクトロミュージックシーンについてなど、彼らだからこそのエピソードを2回にわたって公開する。前編は、ニューアルバム『BIG WORLD』について。

この時に感じた感情みたいなものを絶対にスケッチしておかないと

DJ DARUMA(以下、DARUMA):コロナ禍もあってひさしぶりなので、少し緊張しています。今日はアルバム『BIG WORLD』のことから、改めて僕らが時間を共有した2000年代を振り返って、客観的にあの頃は僕らにとってどんな時代だったのかを検証したいと考えています。

大沢伸一(以下、大沢):なんでも聞いてください。

DARUMA:まずはアルバムのお話から。過去作品から聴いてきて思うことは、大沢さんが作る音には美しさがあって、エモーショナルでもあるというのが、最新作でも象徴される部分なのかなと。それに加え、パーセンテージは低いかもしれませんが、大沢さんの凶暴性や尖ったパンク的アティチュードを感じる部分もありました。

大沢:凶暴性だったりはだいぶ隠したんですけどね(笑)。

DARUMA:少なくしているということは感じられました。そしてやはりコロナ以降のサウンドだと僕は思っていて、感情に訴えかけるという部分がすごく強くなっているなと。

大沢:やっぱりコロナは、僕だけが影響を受けているものではありませんし、ものを作っている人であれば、この時期に感じた“感情”みたいなものを、スケッチしておかないと絶対にまずいというモードになったと思うんですよね。僕自身は、曲にメッセージを込めたり、テーマを設定したりだったりと、受け手が音楽以外に何かを感じてしまう要素を誘導するのは好きではないんですけど、本作に関しては、あまりにも世界が変わり過ぎてしまったので、ものを作っている側の人間として、コロナ禍を切り取るということは少なくともやらないといけないと思いました。ただあくまでも作品を聴いた人には自由に受け取ってほしいので、表現程度にはとどめていますけど。

JOMMY:過去の大沢さん名義の作品やMONDO GROSSOの作品では、大沢さん自身が歌詞を書くことはあまりなかったと思うんですが、今回はその割合が多かったのかなと感じました。

大沢:今回はアルバムのテーマを設けたので、設定した責任として言葉のチョイスや、自分で書けることも多かったので、歌詞まで手掛けましたね。

DARUMA:インスタで見たのですが、最近は再び文章を書くことにも興味が湧いているとか?

大沢:そうです。SNSでもいろいろと書くようになりましたからね。例えば2000年代の初めくらいだと、ミュージシャンが服を作ったりすることにてらいがあったというか、そんなムードがありましたよね。それと同じで、SNSでも音楽家やエンターテインメントの人が自分の意見を言うことが、少しはばかられたことがあったじゃないですか。だけどこの数年でそういったことがだいぶ変わってきていて、音楽をやっている人達でも、自分のものの考えやスタンスをはっきりさせるようになっている。それって、欧米では普通に受け入れられていたことだけど、日本ではそうではなかったこと。でも変わってきていると感じていて、すると自分なりに言葉で綴りたいことがいっぱい出てきたので、今回のアルバムの歌詞にもつながっていきました。

DARUMA:この話はZ世代にも通じるものがありますね。何か物事が起こった時に、その物事に対する答えはいろいろとあったとしても、自分の意見をきちんと表明しないと、信頼を勝ち取れないと感じているのがZ世代の子達。自分は「こう考えている」ってことを伝えていくことが大事になってきていますね。

大沢:そのように変わってきたと感じる反面、意見を言い過ぎた結果、やらかしてしまって炎上してしまう人もいる……。それは言葉の使い方をわかっていなかったり、根本的な倫理や道徳といったみんなが慣れ親しんでいる礼儀みたいなのが欠けていたりする人なんですが。結局どこかでお里が知れてしまうわけで。逆にそれはそれでいいんじゃないかと思っていて、そうやって淘汰されることは悪くないと思います。

MONDO GROSSO 「STRANGER[Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46)]」

イントロから「IN THIS WORLD」に入っていった時の没入感にハッとさせられました

DARUMA:基本はリスニングのことを考えつつも、大沢さんが出すサウンドは、常にフロアのことを考えているなとも思うのですが、最新作ではフロアやライヴのことを考えながら制作されましたか?

大沢:直接フロアを頭の中に描いているのではなく、リスナーとして耳の基準がフロアにきてしまっているので、バラードくらいのテンポの曲を作るのでも、フロアで鳴っている音像が耳についてしまっているんですよね。だから僕のリスニングの基準がそうなっているというか、相対的に考えても僕はクラブで鳴っている音のほうが好きなので、そっちに引っ張られている傾向はあります。

DARUMA:過去の作品も含めて本作でもエモーショナルな部分があるなと感じているんですが、それは自然に大沢さんから出ているものですか?

大沢:MONDO GROSSOをたどってみると、初期のバンドの頃は、そこまでエモーショナルじゃなかったんですけど、『MG4』を作り始めた2000年頃や、ダンスミュージックを作り始めたあたりから、僕の中にあるMONDO GROSSOのチャンネルに叙情性というものがどんどんと出てきまして……。ダンストラックの激しい曲でもどこかで感情に触れるようなものが意識的に出てきていたと思うし、さらに個人名義で活動するようになってからは、MONDO GROSSOとのすみ分けもはっきりしてきて、切り離して考えられるようになってきたので、その叙情性のチャンネルに関して今は、うまくできているかもしれませんね。

JOMMY:MONDO GROSSOと、SHINICHI OSAWAのプロジェクトのすみ分けをお聞きしたかったので、今の話を聞いて納得できます。僕は今回のアルバムを通しで何度も聴いたんですけど、イントロから2曲目の「IN THIS WORLD」に入っていく時のストーリー性というか、没入感にすごくハッとさせられました。まるで映画のイントロから本編に移っていくように、脳内が切り替わる瞬間があったことに、めちゃくちゃ食らったんです。曲順に関しても考えられましたか?

MONDO GROSSO 「IN THIS WORLD feat. 坂本龍一[Vocal:満島ひかり]」

大沢:実は僕が狙って曲順を考えたのは、1曲目と2曲目だけなんですけど、きちんと通しで聴いてもらえるようになっていると思います。1曲目は「IN THIS WORLD」のイントロであり、アルバム全体のイントロでもあります。とある映画のサウンドトラックにインスパイアされてイントロ部分を作ったので、コード進行だったりは違いますけど、僕が作った「IN THIS WORLD」から映画のサントラのように抽出したんですよね。

DARUMA:ちなみにMONDO GROSSO名義の本作品と、SHINICHI OSAWA名義での新作があって、どちらを先に出すとかというところで、MONDO GROSSOを先に出してほしいというスタッフ側からの意見があったとお聞きしましたが、それはどういった理由からでしょうか?

大沢:コロナ禍でフィジカルでの活動が減ってきているのに、SHINICHI OSAWA名義での理解の難しいものを作っている場合ではないとか、たぶんそんな話だと思います(笑)。MONDO GROSSO名義では前作から5年たっているのですが、僕にとって5年はそんなに長くない。でも今のサイクルで考えたら、スタッフ的には受けやすいものを先に作ってほしいって感じだったと思います。それに関しては僕も理解できていますし、コロナ初期の頃に感じて描いた怒りみたいな音のスケッチは、MONDO GROSSOのサウンドには合わない。もちろん、コロナ初期のタイミングでは「自分の気持ちはこれです」と世界に出したかったけど、逆にそれはタイミングが変わっても出せるなという気持ちもあったので、MONDO GROSSOのモードにスイッチを切り替えて向き合いました。少し時間は要しましたが、結果オーライかなって思っています。

MONDO GROSSO 「B.S.M.F[Vocal:どんぐりず]」

『BIG WORLD』はダフト・パンクの解散に対するアンサーの気持ちもあるのかなと

DARUMA:それでですね、今回のアルバムのタイトルにもなった『BIG WORLD』は、ダフト・パンクの解散に対するアンサーだとお聞きしました。ダフト・パンクに対して「何やってくれてんねん!」みたいな気持ちが大沢さんの中にもあったのかなと。同じダフトフリークとして、その部分は聞きたかったです。

大沢:そうそう! なんだかわかるでしょ。はっきり言いますけど、解散する意味ないでしょ。そもそも「解散」なんて言わなくていいし、そのままやらなかったらいいわけで。なんでダフト・パンクはわざわざわれわれに解散するってことを言ったんだろうって考えました。いったんこのタイミングで終わらすっていうことをアナウンスする意味がなぜあったのか。しかも何もリリースしなかったでしょ。

DARUMA:そうなんですよね。作品をリリースせずに過去の使い回しの映像で終わりってどういうこと!? って。

大沢:そうなんですよ。あれが例えば最終ベスト盤を出すとかがあれば、解散を発する意味があったと思うけど。あのタイミングで心が病んじゃったのかなって。

DARUMA:飽きてしまったのかもしれませんね。僕は2013年にリリースされた『Random Access Memories』を聴いた時に、本人達のこだわりも含めて、これ以上のものはできないのではと思ったほどに作り込まれたアルバムだと思ったんです。で、これはあくまで業界のうわさなんですけど、あのアルバムを自分達でセルフサンプリングして、次のアルバムを出そうとしていたと聞いて。だけどうまくいかなかったみたいなんですよね。彼ら的には、芸術というのは提出期限に向けて出すものではないという考えがあって、うまくいかなかった時に「もう無理じゃない?」って思ったのかもしれませんね。

大沢:確かに、彼らはサンプリングというものを命題にしてずっと活動してきて、それがぶれなかった。だから逆に僕の中では、『Random Access Memories』で、その命題を破ってしまったように感じたんです。彼らの不文律というか、決して破られることのなかったルールを破ってしまったことで、なんか壊れてしまったのかなって感じました。だから僕は、また戻ればいいのにって思っています。セルフサンプリングなんかやめても、彼らの中では好きな曲はまだまだあると思うんですよ。だから『Random Access Memories』に関しては、良いアルバムなんだけど、僕は全然ダフトらしくなかったと思う。だからこの作品の後にまたサンプリングの原点に戻るか、もしくは全然別のところに行くかなと思っていました。故にこの終わり方はショックだったし、納得できませんでしたね。

音楽以外のことができないんですよ。だって音楽が人生だし、音楽が好きだから

DARUMA:本作でもたくさんのアーティストをフィーチャーされていましたけど、これをやり切るには相当の集中力とモチベーションが必要だなと思います。持続させるにはどんな態勢で臨んでいますか?

大沢:実はあまり集中していないんです(笑)。意外とクリエイターってそれが苦手で、自分を追い込む人が多いと思うんです。自分も作り出したらヒントの1つが出てくるまでやるんですけど、周りにいる人は「しんどいんならやる必要ないんじゃないですか?」「今日はもう帰ったらいんじゃないですか?」とか言うんですよね。その言われた言葉が僕の中に響いていて、確かにずっとやる必要はないし、この曲に飽きたら違う曲をやってみたり、個人の曲のスケッチをやってみたりして、自分の中でバランスを取るようになりましたね。だけど息抜きに関しては、音楽以外のことができないんですよね。だって僕にとって音楽が人生だし、音楽が好きだから。だから今向き合っている音楽がしんどくなったら、違う趣味の音楽を作ったりDJをしたりしてと、そのコントラストでやっています。こもって曲だけを作っていると気が狂いますからね。

DARUMA:でも僕はもう2年以上も人前でDJができていないので、そろそろ限界です。コロナの感染を考えると、無防備に現場に出ることは難しいというのが大人なので理解できますし、配信はやっていますけど、現場の空気感を感じられていないのが、自分にはかなり厳しくて。音楽はもちろん聴いていますけど、やはり音楽をフロアで浴びていないと自分が整わないというか。なので妙にテクノのDJを聴いたりして、整えようとしたりしています。
(注:インタビュー後にDARUMAは4月からホームであるパーティ「EDGE HOUSE」への復帰が決まった)

大沢:僕はラッキーなことに昨年もフィジカルの現場がいくつかあって、中にはすごくたくさんのエネルギーが集まったパーティもありました。その時に感じたのは、いい予感がしたというか……。今はコロナ禍である意味抑圧されているので、それが解放された時のエネルギーは半端ないだろうなと感じたんですよね。エレクトロが人気があった2007年、2008年なんかの、僕が一番楽しかった頃のエネルギーみたいなものをお客さんから感じたりもしましたよ。

MONDO GROSSO XR DJ LIVE @NEWVIEW DOMMUNE「IN THIS WORLD feat. 坂本龍一 [Vocal : 満島ひかり] (Extended)」

DARUMA:音楽面でクラブミュージックを含めて、他のアーティストの情報をどのようにしてつかんでいますか?

大沢:新譜に限らずですけど、この10年くらいの情報のメインソースにしているのは、Hype Machine(ハイプマシーン)ですね。この手のサイトって日本にはあまりなくて、アメリカでいうとピッチフォークにあたると思うんですけど、Hype Machineにはそれよりもさらにインディペンデントな音楽ブロガーみたいな人達が集まっていて、独自のチャートを作っているんですよ。毎週50曲くらいジャンルの隔たりがないチャートが出てくるので、中には超マイナーな曲だったりも入ってるんですよ。それこそリッチー・ホウティンの新譜から、1960年代の映画音楽までチャートに入っていたりして、そのランダム性には他のどこにもないものがある。もちろん自分にヒットしない週とかもあるんですけど、ずっとチェックしていると僕が人生でなかなか出会うことができない音楽が、古いもの新しいもの問わずランダムに並んでいるから好きなんですよね。

DARUMA:何がきっかけで、Hype Machineを知ったんですか?

大沢:くしくも2005年あたりに、僕がKITSUNEの音源だったりを自分でマッシュアップして、SHINICHI OSAWA EDITにしてアップロードしたりしてたんですけど、その曲をおもしろがってくれた人達が、Hype Machine内でチャートに上げてくれていたんです。なのでHype Machineは、僕の名前がヨーロッパに出るきっかけにもなったサイトでもあるんですよ。それもあって僕はサポートするためにもHype Machineを使っているんですけど、歴史が長くなってきているのに未だにぶれない。売れ線になってスポンサーが増えて、売れているものだけを紹介するといったこともないし、ちゃんと音楽の好きなブロガーが寄せ集められている図式が変わらないので信用しています。僕自身、常に多様性のある曲を探しているので、かなり利用しています。

JOMMY:多様性で言うと、今回のアルバムでもフィーチャリングのアーティストのセレクトから多様性を感じることができました。僕自身、アルバムを聴いて初めて知ったアーティストもいましたし、このアーティストと大沢さんがコラボレーションしている意外性もありました。アルバム全体を通して、アーティストの選定はどういう観点で行いましたか?

大沢:前回のアルバムからなのですが、僕が主体になってやることを少しずつ減らしているんですよ。それはなぜかというと、MONDO GROSSOというプロジェクトは、僕がこれまでずっと上に立って、自分のやりたいことを具現化してきたんですけど、そこにもっと違うところからのアイデアを入れたほうが化学反応が起きるということが、前作でわかったからです。だから「その人と僕がやるの?」って、むしろ僕が予備知識を持っていない人とやるほうがケミストリー(=化学反応)は起きる。本作ではその部分をより伸ばしている感じですかね。最近はさらに、DJを聴くのは好きだけどDJはやらない人とか、音楽が好きで絵を描く人だとか、音楽の外にいる人達の意見を聞いて、一緒に音楽を作る可能性に目覚めていますね。

JOMMY:ではアルバムリリースツアーではMONDO GROSSOを前面に出すんでしょうか?

大沢:ツアーはDJのスタイルですけど、全部仕込んでもっとダンサブルにしたライヴセットを映像とともにやろうと思っています。映像は、JACKSON kakiという映像アーティストと一緒にやりますよ。

DARUMA&JOMMY:めちゃくちゃ楽しみにしています。

MONDO GROSSO
音楽家、作曲家、DJ、プロデューサーとして活躍する大沢伸一によるソロプロジェクト。バンドとして1991年に京都にて結成。1993年にメジャーデビュー後、1996年までバンドとして活動。この間、世界的なアシッドジャズブームに乗りヨーロッパツアーも行う。1996年以降は大沢伸一のソロプロジェクトとなり、「LIFE feat. bird」を収録した『MG4』(2000)、「Everything Needs Love feat. BoA」(2002)を収録した『NEXT WAVE』などのアルバムをリリースした後、2003年に活動を休止。2017年に14年ぶりとなるアルバム『何度でも新しく生まれる』、2021年に結成30年の軌跡を辿る『MOMDO GROSSO OFFICIAL BEST』をリリース。最新作『BIG WORLD』では、坂本龍一、満島ひかりが参加した「IN THIS WORLD」など豪華アーティストとの変幻自在のコラボレーションが話題となっている。
https://mondogrosso.com
Twitter:@MONDOGROSSO_JP
Instagram:@mondo_grosso

Photography Ryu Amon
Text Kana Yoshioka

author:

PKCZ®

2014年に結成された音楽クリエイティブユニット。現メンバーは、ジェネラルプロデューサーとしてVERBAL、そしてEXILE MAKIDAI、白濱亜嵐、DJ DARUMA、JOMMYの5名。楽曲リリースに加え近年はVRの世界でのライヴイベントにも注力するなど、さまざまなクリエイションを行う。 https://www.pkcz.jp/ Instagram:@pkcz_official Twitter:@pkcz_official

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