対極に存在するものをつなぐーーボーイズ・ノイズが『+|-』で届ける新しい世界

エレクトロニックミュージックを軸に、DJ、サウンドプロデューサーとして活躍するボーイズ・ノイズ(Boys Noize)こと、アレックス・リダが、通算5枚目となる待望のニューアルバム『+|- (読み:ポラリティー、POLARITY)』をリリースした。約4年以上もの月日をかけ、コロナ禍の中でもじっくりと磨き上げられていった全14曲が収録されたアルバムは、自身が手掛けたエレクトロニックなサウンドと、さまざまなジャンルで活躍する9名の音楽アーティスト達によるかつてないパフォーマンスが融合し、さらなるボーイズ・ノイズの世界観を創り出している。アンダーグラウンドもオーバーグラウンドも網羅し、常に表現に関して探求し続ける4つ打ち界のスターに、新作について話を聞いてみた。

モジュラーで発見したサウンドが、アルバムの方向性を握る

ーーニューアルバム『+|-』ですが、最高でした。ここ最近、ひとびとは音楽からエナジーを欲しているのではないかなと思うのですが、やってくれましたね!

ボーイズ・ノイズ(以下、アレックス):気に入ってくれたなら嬉しいよ。僕もそう思うし、早くクラブやパーティに出掛けたい。今回のトラックはどれもビッグなサウンドシステムで映えると思うんだ。早くプレイできることを楽しみにしている。

ーー世界的なコロナ禍は続いていますが、ヨーロッパでパーティはもう始まっているのですか?

アレックス:リーガルなものからイリーガルなもの、そしていくつかのフェスティバルは開催されているし、このままいい感じにいってくれることを願うよ。

ーー『+|-』ですが、どのようなコンセプトの下で制作されましたか?

アレックス:『+|-』には、2つの異なったコンセプトがあるんだ。1つはニューヨークのスタジオでジャスティスのリミックスを終えた時に、新しいモジュールの音を試していたんだ。その時、後に「Greenpoint」のトラックにつながっていくんだけど、これまでに自分が聴いたことのないサウンドに出会ったんだ。そのサウンドが初期の段階で「Greenpoint」のアイデアになり、アルバムを作るアイデアと方向を決めるきっかけになったんだ。ハードなサウンドだけど、周りを取り巻くファンキーさがあって、スタイルがあり、ゆっくりした……まるでジョージ・マイケルとナイン・インチ・ネイルズの間くらいな感じでね。そういったサウンドのコンビネーションはこれまでに自分は聴いたことがなく、すごく新鮮だった。それでモジュラーの世界に深くはまってしまったんだ。僕のアルバムのほとんどがそれで成り立っているんだ。それで「Greenpoint」「Close」を作り、「Girl Crush feat. Rico Nasty」のインストを作って、新しい音を探求していったんだよ。モジュラーシステムで作った音の多くは、ドラムマシンではできなかったことで、だから少しインダストリアルで低音の荒々しい音になったんだよ。そんな感じで、『+|-』のコンセプトがより明確になっていった。

ーーヴォーカリストを取り入れた曲も、今回のアルバムの特徴ですよね。

アレックス:ヴォーカリストと一緒に仕事を始めたのは、「Girls Crush」が最初だと思う。僕はリコ・ナスティの大ファンで、彼女の「Smack a Bitch」が好きですごいな! と思っていたんだ。それで彼女に連絡を取って一緒に音楽制作をしたんだ。僕が曲を作って、彼女がそれに歌を乗せてくれた。それが、『+|-』のエクストリームサイドのスローなインダストリアルテクノのビートを表現した、最高な1例となったんだ。
リコ・ナスティはラッパーだけど、彼女は歌っている。僕にとって、音楽的なファンタジーが実現したんだ。その時に、極端に存在することを真ん中で魔法のように組み合わせることに気付いて、『+|-』のプラス(+)とマイナス(―)のアイデアを思い付いたんだ。それがもう1つのコンセプト。それはほとんどすべてのトラックに共通していると思う。ケルシー・ルーは、クラシックなチェロで美しい風景を生み出すアーティストだけど、何が起きたかというと、彼女が歌う愛の讃歌のような曲に、僕は別の非常にロマンチックなアイデアを取り入れて、みんなが聴いたことのない曲に仕上げたんだ。

Boys Noize 「Girl Crush feat Rico Nasty」

さまざまなスタイルを融合させて、自分だけのオリジナルを作る

ーー参加したアーティスト達の、さらなる側面を汲み取って各々の曲を制作していったのですね。

アレックス:クールなことと美しいことが『+|-』には存在していて、それは僕のDJにも反映されているんだけど、このスタイルが大好きなんだ。ここ最近は、そういった感じが普通なんだけど、自分がDJを始めた時は、ハウスはこのスタイル、テクノはこのスタイルと決まっていて、それに対していつも疑問を感じていたんだ。僕はできる限りすべてを取り入れたかったし、それがDJをすることのモチベーションにもなっていた。そしてサウンドプロデューサーとして活動するようになってからは、何年もそれを実現できるアーティストを探し続けてきた。リコ・ナスティ、ケルシー・ルーは、僕のような異なるタイプの音楽や環境にオープンに参加してくれた。それによってこれまで起こらなかったことが起こったし、さらにオーガニックに事が運んでいったから、僕のやってきたことは正しかったんだと思うよ。

ーーアルバムに参加してくれたアーティストとは、コロナ禍においてどのようにコミュニケーションを取っていきましたか?

アレックス:フィーチャリングアーティストを迎えた曲のほとんどは、コロナのまん延が始まる前にレコーディングを終えていたんだ。最後にレコーディングをした曲は「Ride Or Die」だったんだけど、その時はまだロサンゼルスにいて2020年が明けてからコロナのことを知ったよ。「これは深刻なことになる」と感じたね。コロナ期間中は自分のやるべきことは終わらせようと思い、各々の曲を仕上げる作業に入っていったよ。結果的にコロナは、僕にいい時間を与えてくれたと言ってもいい。

Boys Noize & ABRA 「Affection」

ーーアルバムは、どのくらいの期間をかけて制作したのですか?

アレックス:2016年、2017年くらいから始めているから、4年以上かな。エレクトロニックプロデューサーは、クラブの現場に瞬間で反応した音楽を発表したいだろうから、今はとてもクレイジーな時代だよね。だけど僕はこのアルバムに関しては、いくつかのアイデアに長い時間をかけて取り組むことができたから、このような形になった。テストする時間ができて、じっくり制作できたことをとても誇りに感じているよ。

ーーアルバムのアートワークを手掛けられた、エリック・ティモシーのデザインも素晴らしいです。

アレックス:アートワークや映像は、僕の音楽の背景にある表現やコンセプトを伝えるためにあって、それを手掛けてくれるアーティストは、僕にとってとても重要な人達なんだ。エリック・ティモシーは信じられないほど素晴らしいアーティストで、僕は彼のアートをボン・イヴェールのデザインで発見してひと目惚れしたんだ。それでニューヨークへ行った際に彼のギャラリーを訪ねて、そこにあったすべての作品と、これまでの彼の世界観を作り上げてきた大量のプリントを見せてもらった。それから僕達は友達になり、3度ほど僕のギグやボン・イヴェール主催のフェスなどで会ったんだけど、その時に僕の音楽で楽しい仕事をしてみないかと聞いてみたんだ。彼はファインアートのアーティストで、音楽関係はボン・イヴェールでしか仕事をしていなかったんだけど、快く引き受けてくれた。それで彼は『+|-』について、全宇宙を創造するというアイデアを持っていたんだ。素晴らしいできあがりなので、みんなにアートワークを見せたくてエキサイトしているよ。

テクノはアンチでパンク的な姿勢を持った音楽

ーー音楽を通じて、自分のどんな表現をひとびとに届けていると思いますか?

アレックス:アグレッシブなテクノで、僕は自分自身を表現することができているかな。ハードなトラックからは強いメッセージを伝えることができるし、テクノって音楽的にはラジオでかかっているような万人受けするようなものではなく、パンク的なアティチュードを持つアンチな音楽。エナジーが根本にあって、音符の構成ではなくドラムのキックにとにかくエナジーを感じる。だから僕にとってテクノのカルチャーはベストなんだ。

ーーエレクトロニックミュージックや、ダンスミュージックはリスナーにどんなインパクトを与えられると考えていますか?

アレックス:誰もが理解できる共通言語であること。日本、ブラジル、アフリカ、ドイツでもひとびとがどこから来たかは関係なく、フロアで出会って一緒に踊ることができる。それが最大の平和と愛のメッセージであるし、人間が1つになれる最大のポイントでもある。だから踊るために出掛けることは重要なこと。政府は止めようとするけど、僕達は引き続きコロナで奮闘しているクラブやパーティをサポートしていかないと。これが僕達の生き方だし、僕達の身体がこれを求めているからね。だから大きな愛と平和でみんなを1つにすること、それが僕の使命だと思っているよ。

デジタルリリースにのめり込み、NFTの可能性を思索中

ーーコロナ禍での活動をしていて、今後やってみたいと思うことはありますか?

アレックス:昨年リリースしたあとにその反応を利用して、初めてNFTプロジェクトに臨んだんだ。クリップスペースの世界にすごく影響を受けて、ブロックチェーンのテクノロジーを追跡して、昨年からNFTでアート的にデジタルリリースをすることに深くのめり込んでいるよ。それで昨年の夏に、すごくレアで実験的なプロジェクトPVNXを立ち上げて、初めてオーディオビジュアルNFTを僕の長年のコラボレーターでもあるサス・ボーイズとともにリリースしてみたんだ。まだものすごく珍しいけど、今年は初のBoys Noize NFTもリリースできたし、僕にとってコミュニティ全体が素晴らしいと感じている。

Boys Noize & Kelsey Lu 「Ride Or Die feat. Chilly Gonzales」
アルバムからのシングル「Ride Or Die」のミュージックビデオは、ニューヨークのクリエイティブスタジオ、Art Campが監督とアニメーションを担当し、2,400ページに及ぶ手描きのアートを3Dでモデル化。約1年かけて制作された手描きのコラボレーションオーディオビジュアルは、ニフティ・ゲートウェイ社を通じて、NFTとして24,000ドルでオークションにかけられた

ーー新しい試みですね!

アレックス:一度WEB3.0を体験すると、それまでの考え方が変わって、本当に素晴らしいものがあることを知ることができる。コミュニティを形成し、友達を見つけることができるっていいことだよね。とてもポシティブなことだし、コロナにより構築されたコミュニティで友人を見つけられたのは素晴らしいことだな。

ーー最後に日本のことについても聞かせてください。日本のアーティストで気になる人はいますか?

アレックス:日本人のアーティストで僕のレーベルで契約をした人がいる。彼の名前はホシナ・アニバーサリーというんだけれど、彼は素晴らしいハウス、テクノのプロデューサーで、ジャズのルーツを持ちながらさまざまな要素をミックスアップするんだ。これまで彼のアルバムを、BOYSNOIZE RECORDSから2枚リリースしたし、東京でも一緒にDJプレイをしたことがある。素晴らしいアーティストだよ。

Hoshina Anniversary 「Red Burrell」

ーーでは日本のファンにメッセージをお願いします!

アレックス:日本が恋しいよ。ロックダウンが終わって、今よりも状況が良くなったら、できる限り早く日本へ行きたいなと思っているので、また会えることを心から楽しみにしている。

ボーイズ・ノイズ
エレクトロニックサウンドを軸に活躍するDJ/サウンドプロデューサー。1982年生まれ、ハンブルグ出身。本名、アレックス・リダ。10代の頃よりDJとして活動を開始しKID ALEX名義で楽曲をリリース。20歳の時にベルリンへ移住後、Boys Noize名義にて活動を開始。同時に自身のレコードレーベル、Boys Noize Recordsを発足する。2007年にリリースされたデビューアルバム『Oi Oi Oi』が世界的な大ヒットを生み、以後、世界各国のパーティに出演。その傍らビッグネームとの楽曲制作やリミックスなども手掛け、スクリレックス、タイ・ダラー・サインとともに制作した「Midnight Hour」は、グラミー賞にノミネートされた。
Instagram:@boysnoize@boysnoizerecords

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

この記事を共有