野外ステージを活用するライブプロジェクト「ソラリズム」から考える新たなフェスの在り方とは

「ハイライフ八ヶ岳」や「アースデイ東京」などの企画運営、「フジロック」や「朝霧ジャム」「頂 -ITADAKI-」などのフェスの運営に長年携わってきたアースガーデンが、今年3月から全国の野外ステージを横断するライブプロジェクト「ソラリズム」をスタートした。

「ソラリズム」は、全国各地の野外ステージを使用して、地域と音楽文化をつなげるプロジェクトで、コロナ禍によって打撃を受けた音楽業界復興を掲げ、「フェス共創サービス」をテーマにアーティスト・オーガナイザー・自治体と共に新しい野外フェスの創成に取り組んでいく。

3月11、12日に東京・日比谷公園で行われた「ソラリズム」のキックオフイベントを皮切りに、年内には8公演の開催を予定している。今回、アースガーデンの代表であり、長年フェス業界に携わってきた鈴木幸一に、「ソラリズム」を始めたきっかけ、そこに懸ける思いを聞いた。

——まずは2020年3月以降、コロナ禍でフェスやライブ活動が制限されてきましたが、振り返ってみて、どのように感じていますか?

鈴木幸一(以下、鈴木):2020年3月11日に日比谷公園で行った「Peace On Earth(ピースオンアース)」がちょうどコロナの始まり頃でした。2月中旬くらいまでは通常通り開催するつもりだったんですが、2月20日くらいから続々とイベントが中止になり始めて、「開催できるのか?」という状況でしたが、野外でのイベントだったこともあり、なんとか開催できました。ただ4月以降、「GO OUT CAMP」、「アースデイ東京」、「ARABAKI」が中止になり、そこから夏に向けてすべてのフェスが中止になっていくなど、フェスやイベント活動が全くできない状況でした。

そんな状況ではあったんですが、アースガーデンとしては、5月から配信イベント「#ライブフォレスト」という場作りをスタートするなど、新しい試みを行ってきました。あと、コロナ禍ではあったんですが、2020年9月12、13日には野外フェス「ハイライフ八ヶ岳」を奇跡的に開催できました。

——2020年9月は、少しコロナが落ち着きを見せていた時期だと思うんですが、開催することに不安はなかったですか?

鈴木:「3密を避ける」などの感染症対策をしっかりとして、決められたルールのもとで、小さい規模でかなり気をつけてやっていたので、あまり不安はなかったですね。野外だったし、密になりそうだったら、声掛けをするなど、丁寧なコミュニケーションを行うようにして、来てくれたお客さんが不安にならないようには意識しました。

——その後もコロナが落ち着かず、フェスがあまりできない状況が続きました。1年後、2021年9月11、12日で予定されていた「ハイライフ八ヶ岳」は1年の開催延期という形になりました。ちょうど、「フジロック」(2021年8月20〜22日開催)への批判が高まっていた中での延期の判断でした。

鈴木:「フジロック」の報道があって、あの時はフェスに対する社会的な不安が高まっている中で、いくらちゃんと対策をしても、開催することで主催者だけでなく、来てくれたお客さんまで批判されてしまう状況でした。スタッフでミーティングして、そう状況ではやるべきではないなと思い、8月27日に開催延期という決定をしました。

——中止にすることで赤字は覚悟したという感じでしたか?

鈴木:こういった状況だったので、もともとある程度の赤字は覚悟してました。でも、開催するか中止するかは、お金での判断ではなく、人との信頼のほうが大きいです。強引に開催して不信感が残ったら、その後は継続できないですから。

——一方で2021年8月28、29日に開催された「NAMIMONOGATARI」はコロナ感染対策が不十分で、開催後かなり批判されましたし、その後、フェスがしばらく開催できない雰囲気になりました。

鈴木:こうした状況ですから、僕達がフェスを運営する時には細心の注意を払ってやっています。だから「NAMIMONOGATARI」の件は悔しくて、あの時期に開催するのだから、ちゃんと対策して、出演者とお客さんとコミュニケーションをとってやってほしかったですね。

事業再構築補助金の活用について

——2021年の「ハイライフ八ヶ岳」の延期などがあったから、今の「ソラリズム」の活動につながっていくんですか?

鈴木:「ソラリズム」のコンセプトはそれよりも前に考えていて、2021年4月11日には「ソラリズム」のキックオフイベントを行っています。まだ今の形になることは想定していなかったのですが、その頃から「今後は中小の野外イベントの時代」だと考えていました。

加えて、コロナ禍で受託の運営、制作の場は減ってきていて、だからこそ自社企画を積極的にやっていかなければいけないなと思っていました。不思議な話なのですが、弊社としてはコロナ禍になって音楽イベントの制作に関しては力をつけていて、それを「ソラリズム」で生かしていければと考えていました。

——その「ソラリズム」の活動を今年はより本格的に行っていくという感じですね。

鈴木:そうです。もう1つ大きかったのが、その時に経済産業省の人と知り合って、事業再構築補助金を音楽業界のために使えないかという話になったんです。それで内容によっては補助金が使えると知って、それにアースガーデンは応募して、採択されました。今年はその事業再構築補助金を使って、「ソラリズム」の活動を行っていくという流れです。

——事業再構築補助金は音楽業界で申請する人は少ないんですか?

鈴木:よく音楽業界で使われているのが、J-LODlive(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)と、文化庁が出しているAFF(ARTS for the future!)で、あと細かいものだと、東京都など地方自治体が行っているものなどがあります。ただ、それらは用途がかなり限定的で、「ソラリズム」という新しい活動を事業として行っていくには適していなかったんですよね。

事業再構築補助金はそれらと違って、企業の経済活動を補助するもので、その分、金額は大きいんです。今後は音楽業界でも事業再構築補助金の活用が増えたらいいなと思っていて、もし詳しく知りたいという人がいれば、そのための情報の共有は積極的に行っていくつもりなので、連絡してほしいですね。

——申請した事業再構築補助金が採択されて、今年3月12、13日にキックオフイベントを行いました。年間のスケジュール予定を見ると、もうある程度のフェスの開催が決まっていますね。

鈴木:去年の11月に採択されてから準備したので、3月のキックオフに関しては告知の時間が少し足りなかった部分もあるのですが、フェス自体はいい場が作れたかなと思います。

「ソラリズム」は年間通しての興行プロジェクトなので、すでに11月までにいくつかイベントの開催が決定していて。今は、以前からお付き合いがあるところから、いくつかお話はいただいていて、会場とかを相談している感じです。まだ全くの新規のお話はないのですが、もしやりたいという声があれば、前向き検討していきたいです。

——「ソラリズム」は、「フェス共創」を掲げ、地域の野外ライブ会場を使って、フェスを行っていくという取り組みですよね。

鈴木:野外でかつ中小規模ですね。最大でも1000〜2000人規模を想定しています。要は野外に大きなライブハウスを作るようなイメージです。

——地方を盛り上げていきたい、という思いも強いんですか?

鈴木:僕達はもともと自然の中でライブをすることをコンセプトにしてきたので、自然そのものに人が触れて学んでいってほしいという思いがあります。そのためには、野外フェスに来てもらうのが一番いいなと考えていて、そういう場が自ずと地方にはたくさんあるので、積極的にやっていきたいですね。

世の中にはフェスはたくさんあって、運営できる人も多くいる中で、アースガーデンの強みはその場の環境を生かすことだと思っています。その場所の景色を借景するという感じで、そこでしかできない空間を作るように心掛けています。それが「ソラリズム」でもできればと考えています。

いいフェスは歴史が蓄積して、多様な豊かさを示すもの

——フェス業界としては、今年はコロナ前に戻る感じはありますか?

鈴木:コロナ前っていうのは難しいと思いますが、人数制限は定数までいける可能性もありますし。あとはお客さん次第といった感じです。配信ライブもメジャーなアーティストしかもうかならないっていう話もある中で、フェスも同様にお客さんが戻らないフェスも出てくると思います。

——鈴木さんが考えるいいフェスとは?

鈴木:僕の価値観でいうと、フェスというからには、何年も開催して歴史が蓄積して、多様な豊かさを示すものであるべきだと思います、それを最も体現しているのが、「フジロック」だと思いますね。

——「ソラリスズム」は来年以降も続けていくんですか?

鈴木:どういう形になるかわからないですが、継続していくつもりです。僕らは「多摩あきがわLiveForest」というベースがあって、そこに加えて代々木公園や日比谷公園、地方の会場なども使用しつつ、最低10週末(20公演)くらいはやっていきたいと考えています。野外でこれくらいコンスタントにイベントを行っているオーガナイザーは他にいないと思うので、できるだけ継続していきたいです。

鈴木幸一

鈴木幸一
1990年代にエコロジー&オーガニック・ショップの先駆け「お茶の水GAIA」を仲間達と立ち上げる。2001年から「アースデイ東京」をC.W.ニコルと有志で立ち上げ、日本最大級の市民イベントとして10万人以上を集める場に成長。「アースガーデン」代表として、「フジロック」「ap bank fes.」「Natural High!」「GO OUT CAMP」「ハイライフ八ヶ岳」などの野外フェスを企画制作し、主催も行ってきた。「南兵衛」のニックネームでも知られ「南兵衛@鈴木幸一」として著書『フェスティバル・ライフ』などがある。2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、「ピースオンアース」を立ち上げる2020年コロナ禍をきっかけに東京の外縁あきる野市の里山で野外ライブ会場「多摩あきがわ #ライブフォレスト」をスタート、2021年には「ソラリズム」のプロジェクトをスタートする。
http://www.earth-garden.jp
https://solarism.info/about/

■5月21日 ソラリズム 野外ライブハウスLOFT#2
会場:多摩あきがわLive Forest 自然人村
■5月22日 ソラリズム“SPRING”パーティー
会場:多摩あきがわLive Forest
■9月 ハイライフ八ヶ岳2022
■10月22~23日 代々木公園イベント広場野外ステージ
■11月(予定) 豊浦オーガニックビレッジ
会場:リフレッシュパーク豊浦(山口県下関市)■11月19~20日 多摩あきがわLive Forest
https://solarism.info/event/

Photography Kazuo Yoshida

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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