日本人の日常から感じることと「リュニフォーム」に引かれる理由 藤原ヒロシ、ジャンヌ・シニョールインタビュー

2022年4月16日、「リュニフォーム(L/UNIFORM)」と「fragment design(フラグメントデザイン)」の8年ぶりとなるコラボレーションバッグ“THE BIG BAG BY FRAGMENT”がリリースされた。

発売に合わせ、「リュニフォーム」のデザイナー、ジャンヌ・シニョールが来日。本インタビューでひさしぶりの再会を果たしたジャンヌと藤原ヒロシに、出会いや“THE BIG BAG BY FRAGMENT”が今のタイミングでリリースされた経緯、親日家であるジャンヌの日本の楽しみ方を語ってもらった。

日本に行けるタイミングで販売したかった

——顔を合わせてすぐ、再会を喜ぶように2人で会話をしていたのが印象的でした。こうして直接会うのはひさしぶりですか?

藤原ヒロシ(以下、藤原):3年ぶりですね。

ジャンヌ・シニョール(以下、ジャンヌ):最後にお会いしたのもこの場所(=「グランドハイアット 東京」)でしたよね。ヒロシさんはお変わりないですね。これまで何度も日本に来ていましたが、コロナ禍になってからはずっと来れない日々が続いていました。

藤原:今回リリースされた“THE BIG BAG BY FRAGMENT”のプロジェクトは、実は、前回会った頃から進めていたものでした。その時(2019年4月)はちょうど、「リュニフォーム トウキョウ」がオープンしたので、そこで販売するバッグとして準備していて、デザインも完成していましたが、コロナの影響でプロジェクトがストップしてしまって。

ジャンヌ:そう。いつでもローンチできる状態でしたが、私にとってヒロシさんとのコラボレーションはとても大切なもの。だから、日本に行けるタイミングで販売したいと思っていました。

藤原:コロナ禍になってからもジャンヌとは連絡は取り合っていて、数ヵ月前に僕からジャンヌさんに「どうする?」と連絡したことがきっかけで、リリースに向けて動きだしました。

ジャンヌ:いつでも日本に行ってローンチするつもりでしたが、行けない状況が続いていて、このまま待ち続けるのも限界でした。そこで、まだ日本に行けない状況でしたが4月に発売することを決めたんです。そうしたら、ビジネスビザを取得すれば日本に行けることがわかり、急いで準備して今日こうして、日本に来ました。

——“THE BIG BAG BY FRAGMENT”は、「リュニフォーム」の“No.54”をベースに藤原さんがオーダーをしたとお聞きました。別注でこだわった点はありますか?

藤原:僕が使うバッグは決まっているので、いつも自分が使っているバッグのように使いやすい形にしてもらっていました。持ちやすいようにストラップを長くし、サイドには新しく持ち手をつけて、シングルレイヤーのキャンバス素材に変更し、軽くしてもらいました。

ジャンヌ:私からデザインのリクエストはしていませんが、ヒロシさんからアイデアを伺った時に「素晴らしいものができる」という感覚を自然と抱きましたね。

フランスまで見に来てくださったのはヒロシさんが初めて

——お話を聞いていると、ジャンヌさんの藤原さんに対する信頼のようなものがうかがえますが、2人はどのように出会ったのでしょうか?

ジャンヌ:お会いする前から、「コレット」のサラ(=サラ・アンデルマン。パリにあったセレクトショップ「コレット」のクリエイティブディレクター)や共通の友人であるフレデリックからヒロシさんの話を聞いていて、フレデリックの紹介で初めてお会いしました。

藤原:新しくカバンのブランドを立ち上げるということで紹介してもらいました。

ジャンヌ:その時は、ヒロシさんがフランスの私のオフィスまで来てくださいました。でもブランドを立ち上げたばかりの時で、オフィスもまだ整っていないような状況でした。

藤原:その時ってもうリリースしていましたっけ?

ジャンヌ:いいえ、まだプロトタイプを製作していた時期ですね。初めて店頭に出したのがその年の9月で、ヒロシさんにお越しいただいたのは6月だったと思います。

——藤原さんのように、海外から見に来る方は多かったのでしょうか?

ジャンヌ:フランスまで来てくださったのはヒロシさんが初めてでした。日本のファッション界に大きな影響力を持つ方が、フランスまで見に来てくださったことが本当に光栄で、必死に商品の説明をしたことは、今でも鮮明に覚えています。

藤原:1つ1つ、すごくていねいに説明してくれましたよね。フランスの高級バッグは、モノグラムに代表されるようにキャッチーなデザインが多いですが、「リュニフォーム」はキャンバス素材に特化していて、デイリーユースで使用できます。高級なバッグなんだけど、一見するとそうは感じさせない雰囲気に魅力を感じました。ちょうど、「ザ・プール青山」をやろうとしていた時で、ショップに置くために特別なバッグを作りたいと思って別注をお願いしたのが、前回のコラボレーションでした。

日本人の日常生活には職人技が盛り込まれている

——ジャンヌさんは日本のカルチャーがお好きだと伺いましたが、来日した際に楽しみにしていることはありますか?

ジャンヌ:初めては、1998年に夫の仕事で日本に来ましたが、その時から日本のカルチャーにたくさんの影響を受けてきました。日本に来た時にさまざまな場所に行くようにしていて、安藤忠雄さんの建築物に触れるために直島まで行ったり、フィギュアなどのアニメっグズを見に中野ブロードウェイのまんだらけに行ったり、国際フォーラムで開催されているフリーマーケットで掘り出し物を探したりもしました。日本の本もよく読んでいて、村上春樹さんが好きです。

あとは、自転車に乗って探検するのが大好きなんですよ。路地裏に入って地図を見ずに自転車をこぎます。「海外で地図を見ないで自転車をこいで迷子にならないの?」と言われますが、日本はこいでいると必ず大通りに出ることができるんですよね。なので、今まで迷子になったことはありません。これまで自転車では、築地や千駄木などに行きました。今回も時間があれば自転車に乗りたいです。

——人気の観光地よりも生活感のあるエリアがお好きなんですか?

ジャンヌ:青山や表参道の有名ショップ、美術館もとても素晴らしいですが、裏通りや住宅街を眺めたり、そこにある小さなお店を見つけて入ってみたりすることがとても楽しいです。また、住宅街でさまざまな光景を目にすると、日本人の日常生活には職人技が盛り込まれていると感じる場面が多くあります。

フランス国内で職人技と呼べるようなものづくりはだいぶ少なくなってしまいましたので、日本で職人技を目にする時はいつも尊敬のまなざしで見ていますし、そこから多くのインスピレーションを受けています。

藤原:僕がフランスで同じことをやろうとするのは危険そうですね。日本人観光客が海外で裏道に入って強盗被害にあったという話もよく耳にしますからね。

ジャンヌ:そういう事件もあるかもしれないけど、同じことをやっても大丈夫だと思いますよ。ただ、日本は特殊ですよね。日本でたくさん買い物をして、ショッピングバッグをどこかに置いてきてしまったことがあったのですが、その時なんて中身をあさられた形跡がまったくなく、買い物をした時のまま、手元に戻ってきました。これには驚きましたね。パスポートをなくした時は、なくしたことに気が付いたのが2日後だったのに無事に見つかりました。このようなミラクルなことがあたりまえのように起こる環境を築けている国って日本だけで、他の国とは違います。だから、他の国が危険というより、日本が特殊なんですよね。

——最後になりますが、ひさしぶりに再会してジャンヌさんから藤原さんに聞きたいことはありますか?

ジャンヌ:次はどのようなプロジェクトを考えていますか?

藤原:新しいプロジェクトか……。旅行に行きたいですね。

ジャンヌ:とても興味深いですね。コロナ禍になったことで、今までのように世界中を自由に行き来することができなくなり、ひとびとにとってトラベルというものが変わるきっかけにもなりました。フランス国内でも、パリがロックダウンした時に田舎に小さな家を借りてそこで暮らし、新しい発見をした人が大勢います。また、近距離のフライトがなくなり寝台特急が走るようにもなりました。

コロナ禍の2年間を経験したことで、以前と同じ形に戻らないかもしれないからこそ、今までとは違う形のトラベルがこれからどう始まるのか、ヒロシさんがそこでどのようなプロジェクトを進めるのかが楽しみです。

藤原ヒロシ
音楽家、音楽プロデューサー、「fragment design」主宰。1980年代よりクラブDJとして活動を開始。その後、音楽家として活動の幅を広げるとともに、独自のセンスと審美眼からファッション領域でも活躍。主宰する「fragment design」では、ジャンルを超えたクリエイティブディレクションを手掛けている。
Instagram:@fujiwarahiroshi

ジャンヌ・シニョール
フランス・ボルドー出身。バッグブランド、「リュニフォーム」でCEO兼アートディレクターを務める。これまでに航空業界や金融業界でキャリアを積んだ後に「ゴヤール」に入社。その後、2014年より「リュニフォーム」をスタート。2019年4月には日本初の旗艦店、「リュニフォーム トウキョウ」をオープンさせた。
Instagram:@jeannesignoles

Photography Shunsuke Shiga
Text Kango Shimoda

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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