tamanaramenの新たな『はじまり』 姉妹で作る理想の場所

tamanaramen (タマナラーメン) 
姉・Hana(ビジュアルアーティスト)と妹・Hikam(シンガー/プロデューサー)の2人によるオーディオビジュアルユニット。当初は姉妹ぞれぞれのソロ活動だったが、2021年よりユニットでの活動を開始。アブストラクトな音像とささやくような歌声、肌の質感や絶えない流れを独特の色彩で映し出すビジュアルの融合により、他にない独自の世界観を作り出す。その音楽と映像はジャ ンルやシーンを超えてボーダーレスに混ざり合う。
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はじめてtamanaramenを聴いた時、ひんやりした空気とほの暗く霞んだ存在感を感じて、何か素敵なひみつを教えてもらえた気持ちになった。丁寧に折り畳まれた手紙のように、誰かに読まれるまでひっそりと待っている音、言葉、映像、自然、概念、表現。その通り、『空気』(2019年)は初のEPと呼ぶには繊細すぎるほどにふんわりとしていて、『organ』(2019年)は少しずつ何かが目覚めようとするような不穏さと期待感が漂い、『mabataki』(2020年)では表情が生まれ、『sour cream』(2020年)では魂が宿りはじめた。『future』(2020年)は森や光やいのちがそのまま音になっていて、皆が涙をこぼした。

その後tamanaramenは、新曲をいくつか断片的に届けてはくれたものの、まとまったEPという形での便りは途絶えた。皆が2人を待っていた。2023年、EP『はじまり』がリリースされた。MVが公開された。初のリリースパーティも開催された。そこには、今までにないくらい姉妹の姿がはっきりと映されていた。

これまでの抽象的で凍てついた作風から、私はtamanramenにどこか冷気のようなものを感じていた。だが、実際に話した姉妹はむしろ温かくて、柔和で、優しいユーモアを言い合うような方達だった。tamanaramenの表現が、常に肯定的である理由がわかった気がする。姉妹は、自分達のライブが生み出す空間を「皆が孤立しているんだけど横並びでつながっている感じ」と言う。それって、どういうことだろう。尊厳にあふれた、2人の会話に触れてほしい。

——今回、久々のリリースとなりました。

Hikam:2021年から制作ははじめていて2022年の頭には出そうと思っていたんですけど、私が体調を崩してしまったんです。延期に延期を重ねてようやくリリースできました。EPは前作が2020年だったので、まとまった作品は3年ぶりです。

——そうだったんですね。体調はもう戻られましたか?

Hikam:うん、もう大丈夫です。

——それは良かったです。今回のEP、タイトルの『はじまり』とはどういったはじまりなんでしょう? 個人的には、楽曲もアートワークも今までより輪郭がはっきりとした印象を受けました。

Hana&Hikam:うんうん。

Hikam:私達が2人でやっていることは今までと同じなんですよ。私は曲を作って、姉(Hana)はジャケやMVやVJを作る。でも、前作の「friday」で初めて顔をはっきり出したこともあって。それで今作は新たな「はじまり」です。

Hana:あと、2人暮らしを始めたんです。

Hikam:そうだね、そういう「はじまり」もあるね。

Hana:今まではお互い実家のリビングで作業していたんですけど、一緒に暮らしはじめて個室を持つようになったので少し離れたんです。(Hikamの方を向いて)自立だよね。

Hikam:うん、自立。

——曲作りのプロセスも変化はなかった?

Hikam:(Hanaの方を向いて)あんまりないね?

Hana:今回も妹が曲を作ったんですけど、最初はそこにメロディーまでは乗ってたのかな。その後一緒に詞を書いていって録音して。たくさんできた中で、いくつか選んで今回のEPにまとめました。

——Hikamさんは初めにこういう曲を作りたいというのがあってそれを具現化していくのか、手探りのまま良い音を見つけて積み上げて作っていくのか、どちらが多いですか?

Hikam:リファレンスとか作ったことがなくて、音を探していく方が多いです。その過程は楽しい。

——最近どういう音に反応することが多い?

Hikam:最近はクラブミュージックの音が好き。スクリレックスとフレッド・アゲインの「Rumble」にすごくハマった!

——そもそもお2人はこれまでどういった音楽を聴いてきたんでしょうか。

Hana:ボサノバ。

——意外かも。

Hana:あとね、私はハイパーポップが苦手で、妹は好き。

「tamanaramenはポップな存在になりたい」

——今作の収録曲の中でも、特に「friday」は今までのtamanaramenで最もポップに聴こえました。

Hikam:tamanaramenはポップな存在になりたいんです。

Hana:妹の好きな音楽の幅ってすごく広くて、その時に作りたいものを作るからこそtamanaramenってジャンルがないんですけど、だからこそいろんな側面を持ってるんです。1人の人間が多面的なように、tamanaramenも多面的。

——さっきから、お2人の受け答えが面白くて。アブストラクトなHikamさんと、それを説明して具体化していくHanaさん。

Hikam&Hana:ふふふ(笑)。

——普段の会話もこういう役割分担?

Hana:どうなんだろう?

Hikam:でも日常の会話では逆かも(笑)。

——楽曲制作とヴィジュアルという点ではお2人ともそれぞれ分業で作られていると思いますけど、制作過程でお互い見せ合ったり意見を出し合ったりしますか?

Hikam:途中まで作ったところでお互い見せ合ったりはする。ここまでできたんだけどどう?とか。

——褒め合ったり?

Hikam:そう。「いいねー!」「いいじゃん!」って褒めあったり、「こっちの方がいいんじゃない?」って言い合ったり。

——2人暮らしをはじめて自立して、お互いの見え方で何か変わったことはありますか?

Hikam:変わってはないかな? 姉は周りの友達に愛されてる。許されキャラだよね。

Hana:そうかな? Hikamは決断力がすごいよね。昔から、中学受験までして入った学校なのに辞めるって言って急に辞めたり。この前は、「明日沖縄に行きたくなった」って言ってクラブ終わりから沖縄に直行してた。決断力があって、行動にすぐ移せる。過激だよね。強さを持ってる。

Hikam:大丈夫かな?(笑)。

Hana:褒めてるよ?(笑)。

なぜtamanaramenをやっているのか

——今回のEPのヴィジュアルは、遠藤文香さんが写真を撮られていますね。tamanaramenの作品の神秘性がすごく引き出されていると感じました。

Hana:遠藤さんの作品がもともと好きで、友達でもあって、それで時が来たと思って、今回お願いしました。

遠藤文香が撮影し、Hanaがディレクターを務めた「ゆりかご」のMV

——tanmanaramenさんはアートのイベントにも出演したり、アート界隈のつながりが多いですよね。

Hana:私は音楽系の友達が全くいなくて、美術系の子と仲いいんですよ。……気楽系。

Hikam:気楽系……?(笑)

——(笑)。3月9日に渋谷WWWでリリース・パーティをされましたよね。これも初めての試みだと思いますが、なぜこのタイミングでされたんですか?

Hikam:時が来た。

——EPは『はじまり』だし、ここに来て再デビューみたいな。

Hikam&Hana:そうそう!

Hikam:フレッシュでいいね。

——tamanaramenは活動4年目に入って、新人と呼ばれる時期を抜けつつありますよね。今のこのタイミングでこういった新鮮な空気って普通はなかなかないと思うんです。もっと気負いはじめちゃう時期かもしれない。

Hana:いま聞いていて思ったんですけど、Hikamが体調崩して制作できなかった期間があって、この活動も終わっちゃうのかなとか考えた時もあったんです。でもそれって、ちょっと立ち止まって過去の作品を観たり聴いたりできたタイミングでもあるんですよ。そうやって自分達のことを振り返ることで、逆に自信が出てきたんです。自分達の良さを再認識できた。それで『はじまり』だし、今となっては良い時間だったと思ったんです。

——立ち止まることで見えてくるものがあったということですね。

Hana:いま改めて過去の作品に触れて、ラフな感覚で作ったものに対して「いいじゃん」と思うこともあります。一時期、変に気負ってシネマカメラで撮らなくちゃとか考えてた時もあったんですよ。でも自分達の制作ってそうじゃないなと気づいたりして。

Hikam:以前は、私は自分のために音楽を作っていたんです。その時に起こった出来事や沸き上がってきた感情を忘れないために。でも、今は少しずつ外側に向かってきた気がする。tamanaramenという場所があることで、距離感が変わってきた。良い意味で、ちょっと離れてきたのかもしれないです。みんなのtamanaramenに自分が関わっているニュアンス。

——冷静に見られるようになってきたのでしょうか。

Hikam:なぜtamanaramenをやっているのかということですよね。音楽が好きだからというのはもちろん前提としてあるんですけど、私達は、みんなが集まってみんなで作る場所が欲しいなって思うんです。

孤立してるけど横並びで繋がっている感じ

——以前、tamanaramenは大きなテントのような存在になりたいとおしゃっていました。

Hikam:私達は4NGEL KIDZ(エンジェルキッズ)という名前でBtoBのDJユニットもやってるんですけど、この前「Enter Shibuya」で初めてパーティをやらせてもらったんです。その時は、若い人だけじゃなくて上の年代の方達も来てくれて、いろんな人がいて。理想的な距離感で、誰も孤立してないというか……いや、みんな孤立してるんだけど横並びで繋がっている感じで。交換ノートみたいなものを作って寄せ書きできるようにしていたら、隅っこの方にいた方とかもみんな書いてくれたんです。

——みんな孤立しているけど横並びで繋がっているってすごく良いですね。

Hana:中心を持たないコミュニティーっていう感じかな? 誰かカリスマがいてそこに群がるんじゃなくて、みんな同じ高さに立っているみたいな。

——中央集権型ではなくて。

Hana:そうそう。Hikamが感じていたコロナ禍での孤独とか、コロナ禍でもできた仲間とか、そういった関係性を考えた時のコミュニケーションは今回のEPのテーマにもなっています。

Hikam:『はじまり』を作っていた時は私がちょうど大学に入って1年経ったくらいだったんですけど。ずっとオンライン授業だったのでリモートが基本で、登校したのが身体測定とか含めて年間で3回しかなかったんです。そこで息苦しい生活を送って、そういった空気が作品には反映されているかもしれない。周りを見渡すと、弟は高校に通いはじめたし、大人も会社に行くようになったし、大学生だけ取り残されてるみたいな。そういう孤立感かなぁ。

——今もまだ大学生なんですか?

Hikam:1年休学したりもしたんですけど、結局辞めたんです。もう音楽をやっていくぞって。

Hana:もう後がないね?(笑)。

Hikam:うん!

——みんな孤立しているけど1人ではない、同じ高さに立っているって理想だと思うんです。でもそれを作っていくのって簡単ではないかもしれません。tamanaramenは以前から、作品制作において世の中のソーシャルな、あるいはポリティカルな出来事が重要な背景にあるとおっしゃってきました。そういったものを作品に落としていくにあたって、自分達のジャッジやスタンスを表明したくはならないですか?

Hana:私達の表現は、いろんな思想を持った人達をつなげるもの。違う考えを持った人同士でもこの曲いいなっていうところでつながれるようなニュアンスを大事にしたいです。個人的にだったらいいんだけど、tamanaramenとしては表明しないようにしています。

——お2人の間においては具体的な意思表明をしますか?

Hana:tamanaramenと違って、私達個人の間ではそういう話はよくします。意思表明しないのは加害者と一緒だとか加担しているとか言われたことも過去にはありました。だけど、私はやっぱりそれは別だと思う。自分達で作る場所では、さまざまな思想や価値観をお互いに尊重して、フラットな議論ができる関係性が保たれれば良いなと思います。

——tamanaramenの表現に集っている方達は、他のリスナーと比較してどういう方が多いですか?

Hana:優しい人が多いかな。想像でしかないけど(笑)。

——未来のtamanaramenについて考えることはありますか?

Hikam:よくよく考えてみると、高校生の時に思い描いていた自分にはなれている気がして。

——どんなイメージを描いていたんですか?

Hikam:当時はクラブとか入れなかったし海外アーティストのライブを観たいなとも思ってたから、渋谷WWWとかの規模感のライブハウスでやる海外アーティストのゲストで自分が出ることを夢見てました(笑)。

——ほぼ実現してる!

Hana:私は、海外でも活動したいな。次の家の更新のタイミングとかで、海外に拠点移してもいいかも?

Hikam:ちなみに、私達が以前ロシアのインターネット掲示板で注目された時に知ったんですけど、tamanaramenという名前はロシアで縁起が良いらしいです。

——拠点を移すとしたら、どこがいいですか?

Hana:ロンドンかベルリン。でもやっぱり好きなロンドンかな。

Photography Taisuke Nakano
Coordinator Yoshiko Kurata

■配信EP「はじまり」 
1. ゆりかご
2. moving like a wind
3. ebi
4.friday 
5. baby fish
https://jvcmusic.lnk.to/tamanaramen_hajimari

author:

つやちゃん

文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿多数。著書に『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)など。 X:@shadow0918 note:shadow0918

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