2022年の私的「ベスト映画」 文筆家・つやちゃんが選ぶ今年の3作品

ロシアによるウクライナ侵攻が行われるなど、激動の2022年だった。そんな中でも今年は邦画・洋画問わず多くの素晴らしい映画が公開され、私達にポジティブなエネルギーを与えてくれた。「TOKION」では、ゆかりのあるクリエイターに2022年に日本公開された映画の中から私的なおすすめ映画を選んでもらった。今回は文筆家・つやちゃんが選んだ3作品を紹介する。

つやちゃん
文筆家。さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆。 2022年1月、単著『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』を上梓。
Twitter:@shadow0918

『ニュー・オーダー』

ミシェル・フランコ監督が、いよいよ映画に対する冷酷さを貫いた作品ではないだろうか。貧富格差を主題に置く本作は、超富裕層が集まる優雅な結婚パーティーの襲撃を描くことでディストピア・サスペンスの様相を呈する。全編通して目立つのは緑や赤といった鮮烈な色使いであり、もちろんそれらは、<独立を象徴する緑>や<民族統一を願う赤>といういわばメキシコ国旗を容赦なく引き裂いていくような展開を表現してはいる。しかし、いかにも象徴的に使われる色彩が実は終始<単なる象徴>に留まり続ける点が興味深い。緑も赤も意外にイメージ連鎖としては使われず、画面それ自体も私達が想起するようないわゆる<映画的な>イマジネーションの拡張を見せることなく終わる。大量の人々があっさりと殺されていくカットを淡々と重ね続ける異様さ。それは、ミシェル・フランコが映画芸術の「豊かさ」などといった幻想を一切に信じていないことを明らかにする。ゆえに、通常の映画作家であれば120分を要して撮るものを、彼は86分でクールに撮りきる。本作は、ただただ人々の「動き」しかない点で、映画への冷酷さそれのみによって駆動されている。

『三姉妹』

家父長制による諸悪を背景にしのばせながら、ばらばらの三姉妹の生活、さらにはそこで生じる心の傷を浮き彫りにしていく韓国映画。特に海外ではフラッシュバックシーンでの演出の稚拙さや構成の弱さを指摘する批評が目についたが、それらを差し引いたとしても、表面的な感情に規定されない身体のあやふやな空気感を醸し出す演技に舌を巻く。全編通してカメラが丁寧に演技に寄っていくからこそ、時折挿入される引きのショットやクライマックスの多数の人間模様が引き立つ。イ・スンウォン監督は人物を撮っているようでいてキャラクターを撮っている。劇伴も素晴らしく、そういった細部への感覚が繊細であるがゆえに、シリアスな作品ながら同時に微妙なコミカルさも演出できるのだ。

『ミニオンズ フィーバー』

毎度サウンドへのこだわりが見られる「ミニオンズ」シリーズの中でも、本作は史上最も音楽に力が入った作品。アース・ウィンド&ファイアやダイアナ・ロスなど1970年代のディスコミュージックへのリスペクトとオマージュが随所で細やかになされるが、同時にボンド映画やカンフー映画への憧憬も織り交ぜることで、音楽に限らない文化・風俗全般に渡る背景が物語を手厚く支える。元々、黄色 × 青のバイカラーでのミニオンズを大勢用意することで画面に埋もれない視覚的インパクトを作り出していた本シリーズだが、今回は雑然とした街並みやごちゃごちゃした登場人物がこれまで以上にカラフルに塗られることで、色使いの巧みさがより一層増した。もはやれっきとした意匠と言ってよいだろうミニオンズの世界観をキープしつつ、色彩の挑戦を続けるこのシリーズの腕前には感嘆せざるを得ない。同時に、国内アニメ作品において色に対する全く異なる側面からのチャレンジがあった点も指摘しておく。『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』はコナンが青とピンクの液体の融合を食い止めるために奔走する作品だったが、そこには反異性愛主義の思想が色濃く漂っていた。本来、異性愛を根底に置き恋愛事情をドラマ的に織り交ぜる手法をとっている『名探偵コナン』が、実のところ大きな転換期を迎えている。『ミニオンズ フィーバー』にしろ『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』にしろ、国内外のヒット作の挑戦が<色>に対するアプローチを起点になされていることはもっと知られてよい。

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

この記事を共有