ザ・リバティーンズ『Up The Bracket』リリースから20年 ベースのジョン・ハッサールが語るこの名盤の魅力

ザ・リバーティーンズ
ピート・ドハーティ(vo./gu.)、カール・バラー(vo./gu.)、ジョン・ハッサール(ba.)、ゲイリー・パウエル(dr.)による4人組バンド。ザ・リバティーンズは、カール・バラーとピート・ドハーティという2人のカリスマ的フロントマンを中心に1997年に結成。デビュー・アルバム『Up The Bracket』(ザ・クラッシュのミック・ジョーンズがプロデュース)を2002年10月にリリース。2004年8月にリリースされたセカンド・アルバム『The Libertines』は全英1位を獲得。活動休止を経て、2015年にアルバム『Anthems for Doomed Youth』をリリースした。
Twitter:@libertines

ザ・リバティーンズが2002年に出したファースト・アルバム『Up The Bracket(リバティーンズ宣言)』がリリースから今年で20周年を迎え、20周年記念盤が10月21日に発売される。このアルバムは、2000年代初頭という時代に極めてシンプルでダーティーなロックンロールを表してみせ、当時起こったロックンロール・リバイバルの代表的存在の1つとなった傑作だ。今回の20周年記念盤はアルバム本編に最新リマスターが施され、限定ボックス・セットにはデモ音源やアウトテイク、ラジオ・セッションなど数多の未発表音源やライヴ映像などが収録されるという充実した内容で、この名盤の魅力をいっそう高めている。最近では「サマーソニック」で来日を予定していたものの中止になってしまったことが記憶に新しいが、それも含めてベーシストのジョン・ハッサールに話を聞いた。

ファースト・アルバム『Up The Bracket』について

——ザ・リバティーンズのファースト・アルバム『Up The Bracket』をリリースしてから20年が経ちましたけど、どう感じていますか。

ジョン・ハッサール(以下、ジョン):今感じているのは、すべて本当にあったことで、良かったことも悪かったことも全部受け止めて、ようやくそれが昇華されるような、カタルシスのような感覚ということかな。

——今回の20周年記念盤は、最新リマスターが施されていたり、ボックス・セットにはたくさんのデモ音源やラジオ・セッション音源、それにライヴ映像なども収録されるようで、かなり充実していますね。聴きどころはどこだと思いますか。

ジョン:デモ音源やラジオ・セッションはおもしろいと思うよ。このアルバムのサウンドがどうやって築き上げられていったかがわかるのは、すごく魅力だと思うし、それを聴くことでよりアルバムの理解が深まると思う。

——リマスタリングについてはどうですか。満足していますか。

ジョン:すごく満足している。リマスタリングという作業は複雑な部分もあるけど、今回の出来に関しては、これまでよりもエキサイティングに仕上がっていて、すごくいいと思っているよ。

——このアルバムは2000年代に起きたロックンロール・リバイバルの先陣を切った作品として、世界的に高く評価されたわけですが、当時はそういう評価に対してどう思っていましたか。

ジョン:すごく生々しくてリアルなサウンドのアルバムだと思っていたし、今でもそう思っている。音楽のハートというものが表現されたアルバムだ。そういうロックンロールをやろうとしたバンドが、当時は少なかったしね。自分達の誠実な気持ちを表現するということは、サウンドを完璧にすることよりも大切なことで、そう思って作ったアルバムなんだ。そこが評価されたということはすごく嬉しいことだったし、ベストな評価だったと思っている。当時はもっと洗練されたサウンドを作ることもできたけど、ちょっとした間違いとかノイズとかも入っているのが重要だと思うし、それは今の時代だってそうだ。それが逆に魅力とも思うんだよね。

——個人的にこのアルバムは、ピュアでみずみずしい初期衝動が漲っている、ダーティーでワイルドなサウンド、というところが魅力だと思います。こんなピュアなアルバムはあの時だからこそ成し得たものだと思うんですが。

ジョン:その通りだね。あの時代のあの瞬間のスナップ・ショットのような作品だと思う。だから2002年の自分達というものが映し出された作品だと思う。今、まったく同じスナップ・ショットを撮るのは不可能だし、まったく同じアルバムを作ることもできないと思う。だけど、自分達が今も変わらずにできることは、今の自分達のフィーリングだったり、今の自分達のまわりにあるものを捉えるということで、そういう姿勢そのものは変わらない。だからこれからの作品も、良くも悪くも今の自分達が映し出されるスナップ・ショットのような作品になっていくんじゃないかな。それは実はすごくエキサイティングなことで、これからの人生も音楽も進化し続けると思うし、新しい作品を作ることを僕は楽しみにしているんだ。

——リバティーンズのアルバムは枚数を重ねていくごとに変化していますし、今言われたような姿勢がサウンドに表れていますよね。

ジョン:これからピート(・ドハーティ)とカール(・バラー)がジャマイカで曲作りをやることになっているので、それでまたどんなものが生まれてくるかはわからないけど、次のリバティーンズがどういうものになるか、僕自身すごく楽しみにしている部分でもあるね。

——じゃあ改めて、ジョンさんにとってこのアルバムはどういう作品でしょうか。

ジョン:ファースト・アルバムっていうのは、ゲイリー(・パウエル)が言っていたんだけど、まるで美術館に入って最初に見る作品のようなもので、それですべての作品を見てみたい気持ちになる、それに似ていると思うんだよね。最初のアルバムなので、エネルギーや勢いや衝動がしっかり詰まったアルバムだと思うよ。

「バンドとしてこれまでで一番いい状態」

——ちなみに、リバティーンズはピートとカールという強烈な個性のフロントマン2人がいるわけですが、そこにジョンさんというとても物静かなベーシストがいるから、バンド内のいろんなことがうまくいっているように思えるんですけど、どう思いますか。

ジョン:やっぱりバンドが機能している理由というものがあるわけだよね。確かに、メンバーの性格もそうだし、全体のバランスもそうだし、うまくいっていると思うよ。それでそこから化学反応が生まれてくるわけで、それがうまく機能しているのなら、崩すべきではないと思う。どんなに大変な時期を一緒に過ごしていても、それはずっと守っていくべきものだし、お互いの存在に感謝すべきとも思うし、それを保って活動していくべきだと思うね。

——それを保つための努力もしているわけですか。

ジョン:それはやっぱりあるよね。バンドって恋愛関係とか夫婦関係に似た部分もあるからね。もちろん大変なことも葛藤もあったりする。それは誰かと一緒にいれば避けられないものだと思うので。そういうことを経験しながら、ずっと一緒にい続けることが大切だし、それを乗り越えれば自分達がより強く、よりハッピーになれると思うし、多くを学べると思う。

——今年のライヴ映像などを見ると、今のリバティーンズは音楽的にも人間的にもとてもいい状態だと思えますけど、実際のところどうですか。

ジョン:その通りだね。バンドとしてこれまでで一番いい状態だと思うよ。活動していてすべてのことを楽しむことができている。今は全員が、次のアルバムに向けて、興奮した状態でいられているからね。最近は真剣に次のアルバムのことを話すようになったしね。

——そのニュー・アルバムなんですが、最近のカールの発言によれば、コロナ禍で中断してしまっていたそうで、「ピートはフランス、ジョンはデンマークにいるから、移動できなくて作業が進まない」と言っていましたけど、今はそんなことはないんですか。

ジョン:いや、コロナについてはもう制限はなくなっていて、今はもうとりかかっているところだよ。ファースト・ステップを踏み出したところだね。

——例えば2015年にリリースした前作『Anthems for Doomed Youth(リバティーンズ再臨)』もあの時点での成長を感じさせる内容だったと思うんですが、今回もそうなると思いますか。

ジョン:そうだね、自分達もミュージシャンとしても人間としても成長しているので、それが反映されたアルバムにはなると思うよ。どういう風に変わるかというのは、まだ言えないんだけど。でも、その進化が反映された新しいサウンドのアルバムになると思うよ。

——もう1つ、今年の夏に「サマーソニック」で来日する予定だったのが、中止になってしまいましたね。日本のファンもとても残念がっていたんですが、これについてはどう思っていますか。

ジョン:すごく悲しく思っているよ。日本に行って「サマーソニック」に出ることは、今年の夏で一番楽しみにしていたことで、他のメンバーも全員そうだったと思う。だからすごくガッカリしたし、ファンのみんなをすごくガッカリさせてしまって、とても申し訳なく思っている。でも、できるだけ早くまた日本に行けるように、次回の来日をどうにか実現できるように、がんばるよ。

■『Up The Bracket』20周年記念盤
今回のアニヴァーサリー・リイシューにあたり、アルバム本編は最新リマスターが施され、世界4000セット限定のボックスには多数のオリジナル・デモ、ラジオ・セッション、ライブ録音を含む65もの未発表音源が含まれており、作品の制作過程を紐解くのに役立つほか、2002年の100クラブでのライブ音源や特典映像を含むDVDも収録。また、マット・ウィルキンソンのライナー、アンソニー・ソーントンによるバンドの最新インタビュー、多くの未公開写真などが掲載された60ページのブックレットが同梱され、シリアル・ナンバーが刻印される。また日本盤CDには解説および歌詞対訳が封入され、輸入盤CD / LPはライヴ音源が付属した2枚組仕様となり、数量限定レッド・ヴァイナルが同時リリースとなる。
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12862

author:

小山守

1965年、東京都出身。フリーの音楽ライター。『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『TOKYO FM+』などで、インディー系ロック、エクスペリメンタル・ポップ、ガール・ポップ、アイドルなどを中心とした文章を執筆中。ライヴや配信の現場感覚を重視しつつ、ジャンル、国籍、年齢に関係なく、新しい驚きをもたらしてくれる音楽を常に探しています。阪神タイガースと競馬と猫をこよなく愛しています。 https://twitter.com/mamoru_koyama/

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