アーティスト・大竹彩子が語る、制作の原点と現在地 ギャラリーでのヨーロッパ初個展「COLOURIDER」開催に寄せて

ペインティング、写真、コラージュなど幅広い作風を持ち、豊かな色彩と大胆な構成で私達を惹きつける大竹彩子。2018年の初個展以降、PARCO MUSEUMやNADiff a/p/a/r/tなどで毎年展覧会を行い、実力とキャリアを積み上げている彼女が、現在、ロッテルダムのSato Galleryにて、個展「COLOURIDER」を開催中だ。これはギャラリーで開催される個展としてはヨーロッパ初開催となる。フェミニン・パワー、サイケデリックな美学、モダン・アートがカラフルにぶつかり合う大竹の作品は、ノスタルジックな雰囲気と現代的なレイアウトを併せ持つ。展覧会に際し、ロッテルダム、ロンドン、パリなどヨーロッパを自身の好奇心の赴くままに周っているという。そんな旅の途中の彼女に制作の原点やインスピレーションの源、そして今見つめているものなど幅広く話を聞いた。

作品に息づく独自の色彩と構図はいかにして培われたのか

――今回のヨーロッパでの初個展おめでとうございます。開催の経緯を教えてください。

大竹彩子(以下、大竹):2019年に仕事でパリを訪れた時にSato Galleryのオーナー、ジュリアンと知り合ってからコロナ禍を経て実現できました。初のヨーロッパでの展示ということもあり悩んでいたところ、彼から「楽しんで描いて!」と言われていたので、今まで日本でやってきたことを進化させたものを発表したいと思いました。外国で展示するという夢が1つ叶いました。

――本個展で発表されたものをはじめ、大竹さんの作品は力強く豊かな色彩が印象的ですが、大竹さんにとって色の役割について教えてください。

大竹:子どもの頃に1960年代頃のサイケデリックアートを知って、蛍光色を使った独特の配色やタイポグラフィー、色のインパクトに惹かれて、その時から色の持つ力というのをすごく感じています。ただ派手なものというわけではなく、配色の妙とでも言いますか、組み合わせた時に持つ力や強い印象に惹かれています。組み合わせや見せ方は無限にあるので、都度その魅力を出せたらと思っています。

――個展のタイトル「COLOURIDER」はぴったりですね。ですが、色だけでなく構図や配置も独特で絶妙だと感じています。

大竹:幼い頃はもともとポスターを作る人になりたいと思っていました。今でも絵画というより模様や色の組み合わせる構図を意識するのはポスターに対する憧れに近いのかもしれません。古いポスターや広告を見るのは好きなので制作に影響していると思います。今回は女性の他に、恐竜とモンスターという実在しないものも描きました。

それはサイケデリックなポスターからの影響があるのかもしれません。つながっているタイポグラフィーのような物で空間を埋めていくようにひたすら描いた作品もあります。

組み合わせることで境界を曖昧にする写真作品/日常のインスピレーションを蒐集する本のシリーズ

――今回はペインティングだけでなく、2枚の写真を組み合わせた作品も展示されています。一見全く関係のないような写真が組み合わさることで別のイメージを生み出しています。どうやって生まれたんですか?

大竹:ロンドンにいた時にテート・モダンで開催された森山大道さんの展示のワークショップに参加したんです。壁にモノクロの写真が貼ってあって番号を選んで自分でレイアウトするというもの。そのワークショップがとても刺激的で、自分が撮ったものをまとめてみようと思い、一見関係のない写真を並べたことがきっかけです。隣同士に合わせることがおもしろかった。2枚の全く別の写真を組み合わせることで、時間や場所、色の境界線を曖昧にするという感覚を持たせた作品なので、レイアウトは色や形のバランスを特に意識しています。今回の展示では海外と日本というテーマで左が外国、右が日本で撮った写真を組み合わせました。

――そこから本のシリーズも生まれたんですか?

大竹:そうですね。以前から余白なしの本を作りたいと思っていたので、セント・マーチンズの卒業制作の1つとして、3冊、2022年までに15冊を自費出版しています。それぞれの写真は日常の風景からインスピレーションを受けた物を蒐集する感覚で撮りためたものです。

――具体的に日常のどういった風景からインスピレーションを受けるんですか?

大竹:古くから残されているものや人の手が加わったものに興味があります。ポスターの一部や剝がれた壁、古いマネキンなどに惹かれます。場所だと博物館や昔からあるような文房具屋さん、ヴィンテージショップ、いろいろなものが置いてあるマーケットとか。あと、外国だったらトイレや看板、落ちているゴミも見逃せません。そうしたものにも日本にはない独特の色彩がありますから。

初めて訪れたオランダの印象、ヨーロッパを巡る旅の過ごし方

――なるほど。次は今回の旅について聞かせてください。オランダには初めて訪れたそうですが、どんな印象を受けましたか?

大竹:窓が大きくて外から家の中が丸見えでびっくりしました。質素倹約を好むプロテスタントの影響があり、かつてはつつましい暮らしの証明という意味合いだったのが現代になって見せびらかせる風習に変わってきているというのを聞いておもしろいと思いました。通りを歩くと家族が食卓を囲んでいたり、人々の生活が垣間見えて、まるで映画のワンシーンを見ているような感覚に陥ります。オランダに長く住んでいる方々からいろいろなお話を聞いてより一層魅力的な街だと感じました。比較的ビザが取りやすかったり、アーティストに対するサポートも手厚かったりするとのことですし、実際旅をしていても人が優しい印象です。

――旅はロンドンから始まり、オランダを経てこの後はパリへと続くそうですね。どのように過ごしているのですか?

大竹:最初にロンドンで(ロナルド・ブルックス・)キタイの展示を見れてテンションが上がり、街並みや匂い、パブの佇まいのすべてを懐かしく感じました。ロッテルダムでは作品がなかなか届かずハラハラしましたが、無事に個展をオープンできてホッとしました。さらにデン・ハーグとアムステルダムにも知人を訪ねに行きました。久々に刺激的なものを吸収できてずっとハッピーな毎日を過ごしています。

この後はオランダのライデンにある日本博物館シーボルトハウスを訪れてみたいです。作家の吉村昭さんが書いた本がおもしろくてシーボルトや彼の周りの人達に興味を持っています。パリでは(フィリップ・)ワイズベッカーの展示とポンピドゥ・センターでのジル・アイヨーの展示、またリヨンの方まで足を伸ばしてオートリーヴにあるシュヴァルの理想宮にも行きます。(フェルディナン・)シュヴァルという郵便配達員だった人が作り上げたお城で、アウトサイダー・アートに分類されるのですが、小さい頃から興味があった場所なのでとても楽しみにしています。

――現代アートからアウトサイダー・アート、さらに歴史まで興味関心の幅が広くて驚かされます。

今回の旅でゴッホやピカソ、マティスなど、本物の絵を間近で見られるのはとても楽しみですが、既に価値を与えられた有名なものだけでなく、そこの境界線を超えていろいろなことに好奇心を持って対峙していきたいです。

――表現者として今までの道のりは?

大竹:幼い頃から色んな物を見るのが好きで、スケッチブックに人の絵を描いたり、雑誌を見て描いたりしていました。でもアーティストになろうとも、食べていけるとも思ってなかったので、単に(アーティストである)父のサポートができたらいいなという気持ちでした。それがやっぱり自分で描きたい、表現したいと思うようになり、色々な機会を与えてもらってここまで来れたという感じです。

――ヨーロッパでの初個展を迎えて、今の気持ちは?

大竹:ひとまずオープンできてほっとしていますし、日本以外での個展第一回目として満足しています。次は色を使ってもっと大きい作品を発表できたらおもしろいかなと思いました。開催は3/3までなので今後のフィードバックが不安でもあり、楽しみでもあります。今、地球全体が大変なことになっていて落ち込むこともあって大変でしたけど、だからこそ色の持つ力を伝えたいという気持ちを今回の展示に込めています。自分自身も色を見て元気になるというのを感じているので。

■SAIKO OTAKE 「COLOURIDER」
会期:2024年1月25日(木)~3月3日(日)
会場:Sato Gallery
住所:Insulindestraat 78, 3038 JB Rotterdam, Netherlands
料金:入場無料
URL:https://www.sato.art/ja/exhibitions/23/overview/

author:

内藤明子

ライター、コーディネーター。カルチャー誌の編集を経て、2017年に渡仏。ウェブマガジンにてパリの最新情報やアーティストのインタビューなどを執筆中。IInstagram:@naito.ak

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