おぐらりゅうじ, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/ryuji-ogura/ Mon, 26 Feb 2024 08:24:35 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png おぐらりゅうじ, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/ryuji-ogura/ 32 32 Dos Monos、奇奇怪怪、脳盗のTaiTan アンダーグランドな存在感のまま、大衆にも開かれる、令和のドン・キホーテを目指す  https://tokion.jp/2024/02/26/interview-taitan/ Mon, 26 Feb 2024 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=225047 Dos Monos、『奇奇怪怪』、『脳盗』と多岐に渡って活動するTaiTanへのインタビュー。2023年の活動を振り返りながら、個々の企画に込められた意図を聞く。

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TaiTan

TaiTan
Dos Monosのメンバーとして3枚のアルバムをリリース。台湾のIT大臣オードリータンや、作家の筒井康隆とのコラボ曲を制作するなど、領域を横断した活動が特徴。また、クリエイティブディレクターとしても¥0の雑誌『magazineii』やテレ東停波帯ジャック番組『蓋』などを手がけ、2022年にvolvoxを創業。Spotify独占配信中のPodcast『奇奇怪怪』やTBSラジオ『脳盗』ではパーソナリティを務める。
Instagram:@tai_____tan
X:@tai_tan
X:@kikikaikai_noto

3人組ヒップホップユニットDos Monosのラッパーであり、Podcast番組『奇奇怪怪』とTBSラジオ『脳盗』ではパーソナリティを務め、雑誌やウェブメディアへの寄稿、数々のインタビューにも登場しているTaiTan。2023年の活動を振り返りながら、個々の企画に込められた意図を探る。

コロナ禍を清算する物理的な表現

——2023年はDos Monosのライブやリリース、レギュラーのPodcastとラジオに加え、メディアへの露出もかなり多かったですね。

TaiTan:いま僕の活動はかなり多岐にわたっていて、いわばホールディングス化してきているんですよね。軸としては、Dos Monosのメンバーとしての活動、『奇奇怪怪』および『脳盗』のパーソナリティ、あとはクリエイティブディレクターとして企画を考える仕事と、この3つでまわっています。

——まずDos Monosとしては、2023年7月20日に、初のライブ・アルバム『Don’t Make Any Noise』が、アクリル盤という形式でリリースされました。

TaiTan:盤を販売してお金をつくる、という経済的な要請もあって、ライブ盤を出すことになり、でもライブ盤って、基本的には熱心なファンが買うもので、広く流通するものではない。収録されるライブはコロナ禍にやったもので、自分達なりに「コロナ禍とは何だったのか」というのも清算したかった。しかも、この時代にわざわざ盤という形を伴って出す以上は、それを物理的に表現するべきだろうと考えて、コロナが一旦終息して使われなくなり、各地で無用の長物化していたアクリルパネルを加工することにしました。

実際にライブハウスや飲食店をまわって、アクリルパネルをかき集めて、みんなで裁断して。500枚限定なので、数字的なヒットにはなり得ないですけど、韓国の「VISLA Magazine」とかから記事にしたいというオファーがきたり、海外からも反応がありました。言語に依存しない企画の性質もあり、届くところには届いたのかなと思います。

——こういった企画性のあるものについては、TaiTanさんが主導で考える?

TaiTan:そうですね。Dos Monosの音楽面については荘子it君が担っているので、僕はPRだったり、リリースにあたっての仕掛けだったり。これまでのオードリー・タン氏とのコラボ、トラックデータを全公開した広告、テレビ東京で上出遼平さんと組んだ番組『蓋』とかは、僕が主導で動かすことが多いです。

カルチャーの中でも音楽は最強

——荘子itさんのXでは「Dos Monos第一期終了、第二期始動。」という声明も発表されていました。「Dos Monosはヒップホップクルーを経て、ロックバンドになる(戻る)」と。

TaiTan:もともと僕らはラップユニットの前にバンドとして結成したので、原点回帰というか。荘子it君が、これからは楽器なりによるビビッドなリアクションや身体感覚を音に落とし込みたい、と言い始めたので、僕はもう「ついていきます」と(笑)。すでに新作のレコーディングも終わっていて、僕も久しぶりにドラムを叩いたり、バンドサウンドになっているので、楽しみにしていてほしいです。

——Dos MonosにおけるラッパーとしてのTaiTanと、『奇奇怪怪』をはじめとした各メディアで披露されるTaiTan個人としてのキャラクターは、一貫性があると見ていいのでしょうか。

TaiTan:別に名前を変えているわけでもないですし、一貫してますよ。リリックに落とし込む時には、韻だったりボースティングだったり、ある程度ラップマナーに則った表現になるので、Podcastのパーソナリティとしてのしゃべりとは微妙なニュアンスの違いはあると思いますけど、考えていることは変えようがないというか。なんなら、Dos Monosの新作の1曲では、とうとう僕しゃべってますから。

——最初にDos Monosとして世に出た当時から、個人としての活動も視野に入れていた?

TaiTan:デビューした時から、並行して企画を考える仕事とかはしていましたし、いろんなことに興味が分散する性分ではあるので、今のような活動を計画的に考えていたわけではないですけど、何かしらやっていたんだと思います。Podcastを選んだのも、ラジオが好きだったこともありつつ、あの時点での流れによるところが大きいので、この先スッと別の形になる可能性も全然ある。1つのことを深く掘り下げるよりも、同時多発的にやっていたいんです。

——多方面に及びながらも、Dos Monosの音楽活動がコアにあることは、表現者としては大きな強みになるのでは。

TaiTan:カルチャー全般を見渡しても、やっぱり音楽は最強ですよね。音楽にはすべてがある。バイラルする性質を持っていて、巻き込み力が違う。しかもラッパーなんて最も身軽ですから。ただ、バンドでもユニットでも、もともとあった形のまま、30代になっても音楽を続けていくことはすごく難しいので、Dos Monosがいまだに結成時のメンバーで活動を続けられていることは奇跡的だと思ってますし、大事にしていきたいですね。

——国内のラップシーンとの関わりというか、つながりは?

TaiTan:もちろん個々のアーティストや周辺の人達とのつながりはありますけど、Dos Monosがラップシーンにいるかって言ったら、まぁいないですよね。音楽性としてもオルタナですし。あと僕らは単純に友達が少ないっていう(笑)。なので、自分達で経済圏をつくって、音楽性はもちろん、アイデアなり企画力で勝負していくことを考え続けます。

書籍に広告を入れる、書店に3000冊を積み上げる

——2023年8月に刊行された『奇奇怪怪』書籍化の第2弾は、その装丁のオリジナリティはもちろん、単行本としては異例の、中に広告のページがあるという仕様でした。

TaiTan:せっかく本を自分で作るからには、本の作り方そのものから考え直して、オルタナを指向したかったんです。雑誌に広告が入っているのは当たり前ですが、書籍に広告が入ることは業界的にはありえない。でも、担当編集に調べてもらったら、暗黙の了解や慣習として入れていない面もあるということもわかり。だとするなら、書籍の母体となる『奇奇怪怪』という番組には、すでにコミュニティが存在していて、リスナーには個人でも法人でも事業者が多いことはわかっていたので、そのリスナーからの広告費で制作費を賄う、という枠組みはコンテンツとの相性がいいのではと考えました。それに、装丁自体が漫画雑誌風というアイデアだったので、広告が入ることがむしろ演出の補強にもつながるという判断も決め手になりました。結果、アイデアの太さと、売り上げとは関係なく、絶対に赤字にはならない経済的なメリットの両立が達成できたかなと思っています。

僕自身が出版業界の人間ではないというのと、版元が石原書房という、この『奇奇怪怪』が1冊目の刊行物になるインディーの出版社だったので、どうにか実現できました。そのぶん、とんでもない苦労をそれぞれが味わいましたけど……。

——販売方法にしても、代官山蔦屋書店でおよそ3000冊の本を積み上げる特設展示『密と圧』が話題になりました。

TaiTan:あれは「本そのものを本の広告にする」というコンセプトです。本は1冊が置いてあるだけではただの本でしかないけれど、それが10冊、20冊と積み上がっていけば、次第に物体としての存在感を獲得しますよね。つまり、本自体が本の広告をし出す閾値がどこかにあって、それを最大規模でやったらどうなるか、という実験でした。完璧な理想としては、お菓子の家みたいに、壁も扉も本でできている、本の家くらいの圧がほしかったんですけど、さすがに一般の書店ではレギュレーションにも限界があるので、結果こういう形になりました。それでも物量的に異常なインパクトですし、本が売れて減っていくと、中にはまた別の作品が隠れている仕様で、本を買うという行為自体を楽しんでもらう試みとしては上手くできたなと思います。

——1つの書店で3000冊も入荷するとなれば、記録にも残りますよね。

TaiTan:オルタナを指向するからには、相手のメリットになる記録なり数字なりの説得力がないと実現は難しい。なので、詳しい数字は言えないのですが、代官山蔦屋での売上記録を事前に聞いて、そこを目指して動きます、という形で企画の承認をもらいました。そして結果的に、それをちゃんと達成できたのでよかったなと。話の筋としても、いきなり代官山蔦屋書店に乗り込んだわけではなく、それまでに番組で本をたくさん紹介してきた経緯があったり、書店員さんに番組のファンがいたこともあって、こういう突飛な企画も通してもらえました。

もし僕に何か特徴があるとしたら、企画はがんばって考えるのは当然として、それよりも、相手のメリットにならないような、無茶な提示はしないようにしてるっていうことかなと思うんです。数字とか納期の話とか。それが結果的にいいアウトプットに繋がる気がしています。あとは、それを実現させてくれるチームに恵まれているのも大きいですね。

——TaiTanさんの仕事は、その企画性や新規性が前面に出るクールな印象がありますが、根底には情熱がこもっていますよね。

TaiTan:やっぱり根っこにあるのは、ラップでもPodcastでも、企画仕事でも一貫していて、言葉の力でオルタナティブな現実をつくりたい、ということに尽きるかなと思います。もっと言えば、受け手に「自分にも何かできるかもしれない」、そういうことを感じてほしい。そのへんはわりとピュアに、原動力になっていますね。

『奇奇怪怪』と『脳盗』と『品品』の明確な役割分担

——書籍版『奇奇怪怪』の発売と同じ8月には、Forbes JAPAN が選ぶ「世界を変える30歳未満」に選出されました。以降、各メディアへの露出も増えましたね。

TaiTan:声をかけてもらえるのはありがたいですが、いろいろなところへお呼ばれして出続けていると、便利屋的な存在として、あっという間に消費され尽くしてしまうことも自覚しています。そうならないためにも、きちんとクリエイティブディレクションを担当した成果物を見せたり、最近だと、武田砂鉄さんの『わかりやすさの罪』の文庫版の解説を書いたんですけど、そういうまとまったまともな文章を書く仕事を増やしたり、少しでも地に足のついた活動をプレゼンテーションし続けなければいけないな、と思ってますね。

——Podcast番組の『奇奇怪怪』と、そこから派生したTBSラジオの『脳盗』は、どういった住み分けをしていますか。

TaiTan:『奇奇怪怪』はノリや世界観を作る場所で、『脳盗』は仲間を作る場所。この2つに加えて、『品品』というプロジェクトもあって、それは売り上げを作る場所です。ちょうど2月に「品品団地」という拠点になるマーケットを開設しました。

——3本の柱で、明確に役割分担がある。

TaiTan:ありますし、それぞれが収斂していくことが理想ですね。『脳盗』は自主制作のPodcastと違い、キー局の番組なので、著名なゲストも呼びやすいし、同じTBSラジオで番組を持っているパーソナリティとの共演もしやすい。外部と交流を持つことで広がりが生まれて、僕らを知ってもらえる機会も増える。とはいえ、ゲスト頼みになると、広がりは生まれても、自分達だけの深みは失われていくので、『奇奇怪怪』は基本(玉置)周啓君と2人で、ゲストを呼んだとしても身内のノリが共有できる人達。そして、広さも深さも追求しながら活動を続けていくために、『品品』で資金を稼ぐ。という循環です。

——『脳盗』のゲストのラインアップを見ると、爆笑問題の太田光、ライムスターの宇多丸といったTBSラジオのパーソナリティとは別軸で、ダ・ヴィンチ・恐山やFranz K Endoといった、ネット発のクリエイターも呼んでいるところがユニークでいいですよね。

TaiTan:それも明確に狙いがあって、ネット発の人達を、テレビよりさらに古いメディアであるラジオに呼ぶことで、彼らの圧倒的なおもしろさを、誤配的にラジオリスナー達に届けられたらと思っています。ある種キュレーター的に「こんなおもしろい人がいる」ということをいろんな人に伝えたいというか。そこが公共放送ならではの醍醐味なのかなと思います。デジタル畑の人を、デジタルメディアのPodcast番組に呼んだとしても、聴く人の属性がそこまで変わらないじゃないですか。

——ひとまず『奇奇怪怪』は安定として、『脳盗』の今後はどのように考えていますか。

TaiTan:まさに近々の課題ですね。いま考えているのは、ラジオでは音楽を流せることが、Podcastではできない最大の利点なので、しゃべりと選曲を担当するという意味でのディスクジョッキーを目指したいなと思っています。つまり、パーソナリティというよりはDJとしての認識が強いです。ただ、陽気に音楽を紹介するFMラジオのノリではなく、しゃべりはあくまでAMのノリで。スタイルとしては『菊地成孔の粋な夜電波』が好きだったので、その影響を受けているかもしれません。

——AMラジオのトークと選曲がばっちりハマった時は、異様な高揚感がありますよね。

TaiTan:本当にそうで、僕は演劇に近いものがあると思っているんです。劇中のストーリーに音楽が完璧にハマった時の祝祭感は、暴力的と言ってもいいくらいの破壊力がある。その高揚感をラジオでも再現したい。あくまでも曲が中心にあって、トークはその前座的な役割にすぎないというか。知っている楽曲だったとしても、トークと接続されることで聴こえ方が変わったりするので、そういうおもしろを届けたいですね。そのためには、ラジオショーとしての演劇的な発話が必要になってくるので、『奇奇怪怪』みたいにボソボソしゃべっていてはダメだなと。Podcastとラジオでの求められる発話の違いなども模索してる最中です。

「品品団地」という新しい拠点

——先ほど話に出た「品品団地」について、改めて詳細を聞かせてください。

TaiTan:「品品団地」を作った最大の目的は、これまでSpotify独占配信だった『奇奇怪怪』を、Spotifyの援助を受けずに、自分達で資金繰りも含めて運営していく、ということです。そのために、リスナーから月額で支援を募る体制にしました。

企業からの制作援助は非常にありがたいし、Spotifyには感謝しかないですけど、特定の一社に生命線を委ね続けることのリスクはどうしてもある。SpotifyがいつPodcast事業から撤退するかわからないですし、それは僕らを信頼してくれている担当者の裁量ではどうにもならないことなので。

——直接課金制と聞くと、どうしてもオンラインサロン的な、せっかくのコミュニティが閉じていく可能性も感じてしまうのですが、そのあたりはどう考えていますか。

TaiTan:そこはコミュニケーションのとり方の問題かなと思っています。僕らからは、今のところ「番組を続けていくために支援してほしい」ということしか発信していません。いわゆるオンラインサロンの特徴とも言える、あなたの居場所を作りますとか、何かを伝授します的なことは一切言ってないし、言うつもりもありません。それに、番組自体をクローズドにしていくわけではないので、番組の性質自体が変わるわけでもないですし。

あとは、アンケートに答えてくれたリスナーの属性はある程度わかるようになったので、こっちから特性に合わせた相談をすることもあるかもしれない。

例えば、今回ブランドの拠点となるウェブサイトをしっかり作ったのですが、そのサイトもリスナーであるChooningというエンジニアチームと一緒に開発してたりします。そういうポジティブな広がりが生まれるのも期待してますね。

令和のドン・キホーテ、猫の玉置周啓

——TaiTanホールディングスとしての未来図は?

TaiTan:令和のドン・キホーテみたいな存在になりたいですね。超アンダーグラウンドな存在感を保ったまま、圧倒的に大衆に開かれている。さらに、言語の壁を超えて観光地的なおもしろさも獲得しているという。NewJeansが日本へ来た時にもわざわざドンキ行ってましたよね。そして何より経済的な成功も桁違いという。ドンキを超えるユニークなブランドはないと思います。

それに運命的なものも感じていて、ドン・キホーテの創業者である安田隆夫氏が、最初にディスカウントショップを開業したのが29歳の時で、僕が闇市を構想して『品品』を始めた歳と同じなんです。しかも、その最初につくったショップの名前が「泥棒市場」っていう。そういうセンス含めて、思想的にも近いものを感じています(笑)。これまでの活動で基盤はできたと思うので、今後は音楽、Podcast、クリエイティブディレクター業と、いろんな文脈で培った力を結集させて、訳のわからない作品や環境を作り出していきたいなと夢想しています。

——では最後に。ここまで多方面にわたって意図や計画を聞かせてもらいましたが、玉置周啓さんには、どういう役割を期待しているのでしょうか。

TaiTan:友達でいてくれたら、それでいいです。強いて言うなら僕自身、気質が完全に裏方タイプなので、いわゆる演者に向けられるスター的な視線を浴びることは、周啓君に任せているという感じですかね。音声メディアにはどうしたってヒューマニティが必要で、散々能書きを語ってきましたが、コンテンツとしては玉置周啓がいないことには成立しません。芸人コンビでもよくある構図ですよね。ネタも書かない、戦略を考えたりもしないけど、圧倒的にファンから愛されるのはあっち、っていう。最近はもはや猫みたいな存在と考えていて、ただそこにいる玉置周啓を動画に撮ってアップしています。究極のスターは猫なので(笑)。そして、それだけで喜んでもらえるのだから、羨ましいなと思っています。

Photography Keisuke Nagoshi(UM)

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「祓除」対談:テレ東・大森時生×梨 2人が語る「怖さ」「不気味さ」の正体 https://tokion.jp/2023/11/17/futsujo-tokio-omori-x-nashi/ Fri, 17 Nov 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=216488 テレビ東京の開局60周年を記念した「テレ東60祭」内でのイベント「祓除」について、大森時生と梨の2人に話を聞いた。

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テレビ東京の大森時生(左)と梨(右)

大森時生(おおもり・ときお)
1995年生まれ、東京都出身。一橋大学卒業。2019年にテレビ東京へ入社。2021年放送の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』でプロデューサーを担当。『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ」優勝。その後『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『このテープもってないですか?』『SIX HACK』を担当。Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務めた。
X(旧Twitter):@tokio____omori


作家。ネット上で数多くの怪談を執筆。2021年の『瘤談』が大きな話題となる。2022年に初の書籍『かわいそ笑』(イースト・プレス)を発表。景山五月のマンガ『コワい話は≠くだけで。』の原作、BSテレ東の特別番組『このテープもってないですか?』の構成、イベント『その怪文書を読みましたか』のストーリー制作など、各分野で活躍中。2023年6月には新作『6』(玄光社)を出版。
X(旧Twitter):@pear0001sub

テレビ東京の開局60周年を記念したイベント「テレ東60祭」が、11月15〜19日の5日間にわたって、横浜赤レンガ倉庫で開催されている。

その中で、11月18日に行われるのが、テレビ東京の大森時生を中心に、『フェイクドキュメンタリー「Q」』の監督・寺内康太郎、『瘤談』『6』で知られるホラー作家・梨、そして『近畿地方のある場所について』の作家・背筋が参加する「祓除(ふつじょ)」と題された演目。

公式の情報では「これまでに人々のあいだで穢れや禍とみなされてきた数々の映像や物品を無害化するための式典」と書かれている。

イベントを開催するにあたり、これまでにAマッソの公演『滑稽』や、テレビ東京の番組『このテープもってないですか?』でも共作の経験がある、大森時生と梨の2人に話を聞いた。

作者の素性はノイズにしかならない

——大森さんが最初に梨さんを知ったのは?

大森時生(以下、大森):もともとは、梨さんがnoteに投稿された『瘤談』とか、オモコロの記事を読んでいて、一方的に僕がファンでした。そのあと、最初にお仕事をご一緒したのは、僕がプロデューサーとして関わったAマッソの公演『滑稽』ですね。梨さんには構成として参加してもらいました。

梨:突然、大森さんからSNSにDMが届きました。

——「梨」というペンネームをはじめ、年齢などの素性を明かさないのは、どういった意図でしょうか。

梨:私はインターネットで同人活動をしていたところから今の仕事が始まっているので、ハンドルネームがそのまま本になった時にもペンネームになりました。素性を明かさない理由としては、例えば、実話怪談のような場合は、取材者なり体験者の素性を明かしたほうがリアリティも出ますし、都合がいいことのほうが多いのですが、インターネット発のホラー文脈で考えると、もとになる情報がどこで見聞きしたのかもわからないような、時間と空間が隔たれたところに魅力があると思うので、作者の人物像を明かすことがノイズにしかならないじゃないのかなと。

——いま梨さんはホラー作家を肩書きとしていますが、もともと作家志望だった?

梨:そもそも「梨」という名前は、大学生の時になんとなくTwitterのアカウントを作ろうと思って、その時に梨が目の前にあったので、適当につけた名前なんです。そこから「SCP財団」という共同創作のコミュニティサイトに投稿をはじめて、少しずつ評判をいただけるようになった感じです。同人作家としてスタートして、プロとしての訓練とかも受けていないので、まさか『滑稽』で芸人さんと仕事をするなんて、最初で最後だろうくらいに思っていました。

大森:僕は本業としてテレビを作っている人以外の人と仕事をしたいと思っているので、梨さんのような別ジャンルの方とは積極的に組んでいきたいんですよね。完成度の高いテレビ番組を作るというよりも、テレビというメディアを使っておもしろいことをするのが目的なので。

梨:今回の「祓除」も、私以外に背筋さんも参加しますからね。

大森:背筋さんは、やっぱり『近畿地方のある場所について』を読んで、またすごい人が出てきたぞって。僕のタイムラインでは一時期、1日に1回は『近畿地方のある場所について』の情報が流れてきましたから。

ホラーの原体験は「洒落怖」

——大森さんは、梨さんの作品のどこに魅力を感じましたか。

大森:梨さんも影響を受けている「洒落怖」(しゃれこわ、2ちゃんねるのオカルト板「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」)とか、その中で生まれた「猿夢」とか、いま読むとけっこうギャグっぽい雰囲気もあるのですが、梨さんの作品は、これぞ現代の恐怖、という感じがしたんです。『瘤談』でいうと、どこまでも自分達の生活と地続きで、最後までつかめない、形を捉えられそうで捉えられない、僕達が日常で感じる恐怖にものすごく近い感覚があって、これはもっと有名になるぞ、と。

梨:「最後まで掴めない」ということで言うと、2020年代のホラーは、一昔前の定番だった、最後に「実はここで陰惨な事件が……」みたいなオチを避ける傾向があったんですよね。説明がつかない、原因も明かさないことが新しい潮流になってました。

大森:2010年代に「考察」という言葉が流行って、謎解き文脈の怖いものが増えたんですよね。でも、伏線が回収された瞬間って、個人的には一番怖くないんですよ。梨さんの『瘤談』がいいなと思ったのは、あくまでフィクションとして、不気味で怖かった。

梨:謎が解けて伏線が回収されるのって、恐怖ではなく、カタルシスになっちゃうんですよね。

——梨さんのホラー原体験は、やはり「洒落怖」ですか?

梨:そうですね。「トイレの花子さん」を知るよりも前に、小学生の時に親のパソコンで「洒落怖」を読んでました。そこから自分でも投稿するようにもなって。

——梨さんが大森さんを認識したのはいつ頃ですか?

梨:最初に観たのは、大森さんがテレビ東京の「若手映像グランプリ2022」で優勝した『Raiken Nippon Hair』でした。そのあと、ネットでバズっていた『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』も観て、テレビでこんなことやる人がいるんだ、と驚きました。

大森:2000年代にフジテレビで放送されていた『放送禁止』というフェイクドキュメンタリー番組があって、いまでも一部のファンからカルト的な人気があるのですが、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』は、そのあたりのファンの人達の渇望にハマって、ネットでバズりました。

梨:テレビでいうと、私はテレビ東京が夜中とか明け方に放送していた『蓋』(2021年9月7日未明から9月27日未明にかけて不定期に放送されたフェイクドキュメンタリー)という番組が大好きなんです。あれはテレビというメディアの特性をいかんなく発揮した素晴らしいコンテンツでした。それで、テレビ東京への期待と信頼が高まっていたので、大森さんからお声がけいただいた時も、二つ返事でOKしたんです。

大森:『蓋』は上出遼平さんという、今は退社してしまった僕の先輩が作った番組ですが、あれはTVerでも配信しなかったことで、より伝説っぽくなりましたよね。画像や切り出し映像がネットでバズってはいましたが、実際に本編をテレビで観た人はかなり少ないはずです。

フィクションをドキュメンタリーのように見せることの暴力性

——完全なフィクションと銘打たれているよりも、実話をにおわせて具体的な年代や固有名詞があるほうが、リアリティと、それに伴う恐怖も増すのかなと思ってしまうのですが、そのへんはどうなんでしょう。

梨:実話をにおわせると、一定数の読者なり視聴者は、「これは実話なんだろうか」という疑問を解くことにリソースを割いてしまうんです。そうなると、粗探しをしながら作品を受容する態度になってしまう。一方で、最初からフィクションやフェイクと謳うことで、逆に「これは本当はフェイクじゃないんじゃないか」っていう楽しみ方を解放できるんです。

大森:フェイクと謳うことで、逆に本物に見えるという作用はありますよね。本当は実話なのに、あえて「フィクションです」って言ってるんじゃないか、という。

梨:極端な話、作中に「これはフィクションです」って何度も何度も繰り返し出てきたら、だいぶ怪しいじゃないですか。実話だと明かせない深刻な理由があるんじゃないか、という憶測が生まれる。そういうところがフィクションのおもしろさです。

大森:だから、梨さんと何度かお仕事してきて共鳴できるのは、あくまでフィクションでおもしろいものを作りたいと思っている姿勢なんです。

梨:本物の怖い話を書きたいという気持ちは全くありません。

——フィクションのほうが、創作物としての強度はありますよね。

大森:僕はテレビ局の人間なので、テレビの文脈で考えると、リアリティショーと呼ばれるジャンルの番組がありますよね。ただ、リアリティショーだけじゃなく、本当は台本や構成が用意されているフィクションなのに、あくまでドキュメンタリーかのように見せるコンテンツは世の中に本当に多くて。個人的にその手法が好きじゃないんです。ドキュメンタリーを謳うことの暴力性に、作り手があまりに無自覚だし、それによって、ひどい時には事故も起こるので。

——ドッキリ企画に限らず、街ブラのロケ番組にしても、台本と事前の仕込みがあるにもかかわらず、さもドキュメンタリーのように見せているのがいまのテレビです。

梨:出す情報、出さない情報を作り手がコントロールしている時点で、視聴者との隔たりがある。そのことを作り手は常に意識しないといけないですよね。

インターネットの共時性はホラーと相性がいい

——インターネットとホラー作品との相性については、どう考えていますか。

梨:インターネットは共時性のメディアだと思うのですが、共時性とホラーはとても相性がいいんです。何かを体験した人の投稿をSNSでリアルタイムで追っていると、緊迫感や恐怖感が増しますよね。そういう効果がネットにはあると思います。

大森:何の脈略もなく、真偽も不明な断片がそこら中に落ちているのがインターネットなので、ホラー作品にしても、作品に満たないような情報であっても、並列で入ってくる。そこも不気味さを助長しますよね。

梨:本にするには、ある程度の規定文字数が必要ですが、ネットだとその制約もないので、細かい書き込みとか投稿もすべてが同じ扱い。書籍としてアーカイブ化された正確な記録を読むのとは全く違う感触がありますね。

大森:本を読む時には、大前提として、きちんと出版社を通して世に出たものを読んでいる、という安心感があるんですよね。それがネットにはない。

梨:人は受動的に摂取した情報よりも、自分から検索してたどり着いた情報のほうを信じる傾向にあるとも言われているので、そこもホラーと相性がいいですよね。

大森:そう考えると、テレビにしても書籍にしても、担当する数人が陰謀論にハマっていて、それがそのまま世に出てしまったら、そのほうがよっぽどホラーですけどね。でも、その可能性はけっこうあるなと思います。

梨:なので、さっき話した『蓋』が怖かったのは、テレビで放送されたからなんですよね。あれがYouTubeのコンテンツだったら、あそこまでの不穏さは感じなかった。

大森:テレビはフォーマットが決まっていて、多くの人が共有もしているので、少しでもそこをずらしたら、いくらでも不気味さを演出できるんです。出演者がしゃべっている途中でCMに入るとか、変なタイミングで番組が終わるとか、それだけでかなり異化効果を発揮します。

梨:テレビが60年間積み上げた歴史が、全部振りになりますね。

飲み込まれて一線を越えないために

——ホラーや超常現象は、人間にとってどんな作用があると思いますか?

梨:よく知られている四谷怪談のお岩さんの話がありますが、ああいった非業の死を遂げたり、憂き目にあった人間が、死後幽霊になって化けて出るというのは、ある意味で救いがあるとも言えると思うんですよね。

——たとえ無残な最期を迎えても、転生して復讐できる余地がある、みたいな。

梨:そうです。死んで終わりじゃない、という。それは現代においても同じで、死後の世界が存在したり、人知の及ばない超常現象もありうると考えることが、ある種の救いになる。一種のセラピーとして。現実世界にバッファがあると考えたほうがいいじゃないですか。

大森:あとは、不愉快な目に遭ったり、最悪なことが起きたりって、日常にいくらでもありますが、そうなると、毒を食らわば皿まで的な、あえて自分から負のものを摂取してやろうみたいな気持ちになると思うんですよね。

——怪談や幽霊などとは別に、大森さんの『SIX HACK』や、梨さんの「おにかいぼ」のように、現代の自己啓発セミナー的なものがホラーとして扱われるのは、民俗学でいう信仰とかの流れなんでしょうか。

梨:祠に何かを祀ったりするような、いわゆるスピリチュアリズムの流れをくむものは、意外とオカルトとは切り離されているんですよね。端的に言うと、UFO研究家はまったく儲かりませんが、スピリチュアルは儲かる。理論のつけ方も違っていて、オカルトの場合は、例えば呪いの品というものがあって、「これを身につけると祟りが起きて不幸になります」という理論。一方のスピリチュアルは、水晶でも壺でも、「これを持つと幸せになります」という理論なんです。

——ダウナーとアッパーで正反対ですね。

大森:自己啓発的なものは、陰謀論と近いんです。ある一点をハックして突破すれば、すべて解決するような理屈があって、あちら側とこちら側で線引きをする。その線引きはホラーとも構造が同じで、あっちの世界とこっちの世界という話につながってくる。

——陰謀論でも自己啓発理論でも、フィクションとして作られたフェイクと、実在する本物を見分けるのって、実はけっこう難しいですよね。

大森:実在する新興宗教の理論のほうが、破綻していて安っぽかったりしますからね。フィクションとして忠実に再現したら、もはや誰も信じない嘘っぽい出来になると思います。

梨:本物かフェイクかの話で言うと、以前オンラインサロンを模したホラーを創作したことがありまして。それは“開”運ではなく、“閉”運をコンセプトにしていて、その時点でかなりフェイクを前面には出しているのですが、一番大事だなと思ったのは、経済活動をしないってことですね。本物は何かしらの経済活動に結びついていることが多いですが、さすがにフィクションでそれはあり得ないので。

——芸や作品として、ある思想や理論をネタにしていた人が、いつの間にかその思想に飲み込まれて、完全にあっち側へ行ってしまうケースもあります。

大森:それは本当によくあります。思想に限らず、実話系の怪談師とかにも言えることですが、自分の名前も出して、生身の身体を使ってパフォーマンスをすることの限界というか、本人として活動している人ほど飲み込まれていきますよね。人間そんなに強くはないので。

梨:完全なロールプレイは相当に難しいですよね。

大森:YouTuberでも、ロールプレイをしすぎた結果、一線を越えて、宗教的な領域に入っている人はいますからね。だからこそ、作り手側としては、「自分はフィクションを作っているんだ」という意識を持つことが一番重要だと思います。

“いい人”としか仕事したくない

——今回お2人は、テレビ東京開局60周年記念イベントで「祓除(ふつじょ)」という催しをやります。どう企画がスタートしたんですか?

大森:テレビ東京が60周年を迎えるということで、上司から何かイベントできないかという話があり、そこで「お祓い」というキーワードが頭に浮かびました。

——事前の情報では、「テレビ東京が良い61年目を迎えるために、これまでに人々のあいだで穢れや禍とみなされてきた数々の映像や物品を無害化するための式典を、特別に催すことになりました」とのことですが、実際にどんなことをやるのでしょう。

大森いつも僕が担当する番組やイベントって、事前に説明するのが難しいんですよね……。

——X(旧Twitter)や事前番組を見ても、正直まだどんなことをするのかよくわからないです。だからこそ楽しみではありますけど。

祓除 事前番組

梨:「無害化する」とういうのが一番近い表現だと思います。

大森:やっぱり実際にイベントを見て、体験してもらいたいですね。イベントだと同じものを見て、同じような感情を持った人が、同じ場所にいっぱい集まる。それが怖さの体験を増幅させると思うので。

——寺内康太郎さんや背筋さんも「祓除」に参加されています。みんなで集まったりしているんですか?

大森:結構みんなで集まってますね。今回、僕と寺内さんが映像を担当して、梨さんと背筋さんに構成を考えてもらっています。大筋の流れは決まっているので、みんなで話しながら、最終的には僕がジャッジしていくという感じです。

——「これは怖すぎるからやめておこう」みたいなこともあるのでしょうか

大森:いや、それはないです。梨さんもそうだと思いますけど、僕らは「不気味さ」っていうジャンルが好きなので。その「不気味さ」を追求していった時に、スプラッターや暴力的な表現になりそうだったら、変えようかな、となります。あとは、びっくりさせる方向にいっている時とかもそうですね。

梨:ジャンプスケアっていう手法なんですけど、1回使うと「次もやってくるかも」と、ノイズになりかねないんです。そうなると、僕らの求める「怖さ」とは違ってしまうので。

——大森さんと梨さんは仕事をする上で、お互いどんなところを頼りにしていますか。

梨:これまでも作家同士のコラボレーションとかはありましたけど、大森さんのように、予算や展開といったコンテンツの運用までを考えられる人とお仕事をする機会はなかったので、そこはものすごく心強いですね。

大森:僕が梨さんに思うのは、個人で点としてのアイデアを考えることはできても、そこから線をつないで全体の帳尻を合わせるのが難しい時に、その帳尻合わせがとても上手いんですよ。きちんと全体としてのまとまりを作ってくれる。

梨:そこは同人活動で培ったものですね。私が同人活動をはじめた頃は、ネット上に1シーンとか短文の、点でしかない投稿が溢れていて、だいぶ飽きられていたんです。それで、自分が書くからには、ちゃんと線になっている起承転結の物語を書こうという意識が強くあり、だいぶ鍛えられました。

大森:その意識があるからこそ、職人的に不気味なものや恐怖を突き詰めるというより、人にどう届けるかっていうところまで考えられる人なんだと思います。

梨:なので、作家というより、特性としては全体を俯瞰して考える、演出家に思考は近いのかもしれません。エンタメとしての動線設計みたいなことを考えるのは好きですね。

大森:あと、これは重要なことですが、梨さんはとてもいい人なんです。やっぱり仕事をするうえで、知識とか能力とか、いろいろ必要な要素はあると思うんですが、結局いい人としか仕事したくないですよね。

梨:まったく同感です。大森さんもとてもいい人です。

Photography Tameki Oshiro

■「祓除」
『このテープもってないですか?』『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』を手がけたテレビ東京の大森時生、『フェイクドキュメンタリーQ』の寺内康太郎、『かわいそ笑』『6』『瘤談』の梨、『近畿地方のある場所について』の背筋が参加。キービジュアル制作はFranz K Endo。
日時:2023年11月18日 19時30分スタート
会場:横浜赤レンガ倉庫 イベント広場 ※会場チケットは売り切れ
配信チケット:https://pia-live.jp/perf/2338219-005 ※12月2日19:00まで販売
https://twitter.com/futsujo_tvtokyo

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佐久間宣行が考える40代以降のクリエイティブと自身の未来 「40歳までにいろんなものを吸収しまくってきたからこそ今がある」 『LIGHTHOUSE』インタビュー後編 https://tokion.jp/2023/09/15/interview-nobuyuki-sakuma-lighthouse-vol2/ Fri, 15 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=207849 Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』の企画・演出とプロデューサーを務める佐久間宣行インタビュー。「中年の危機」をテーマに、佐久間自身のキャリアと未来に迫る

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佐久間宣行
1975年、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』『キングちゃん』などを手掛ける。元テレビ東京社員。2019年4月からラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。Netflix『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』、『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜を手掛け、2023年10月10日から『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』のシーズン2も配信。著書に『佐久間宣行のずるい仕事術 僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社)などがある。
Twitter:@nobrock
Instagram:@nobrock2

漫才師の若林正恭(オードリー)と音楽家の星野源が、それぞれの苦悩や問題意識について互いに語り合う、Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』が配信された。企画・演出とプロデューサーを務めるのは佐久間宣行。Netflixでは『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~』に続く2作目となる。インタビュー後編では、番組でも話題に上がった「中年の危機」をテーマに、佐久間自身のキャリアと未来に迫る。

退社したのはセルフケアの観点が大きかった

——『LIGHTHOUSE』では、いわゆる「中年の危機」的なことがたびたび話題に上がっていましたが、佐久間さん自身はどうですか。

佐久間宣行(以下、佐久間):そもそも僕が2年前に会社を辞めたのは、これ以上会社にいると、どうしたって社内政治とも向き合わなきゃいけない年齢だったからで。うまくできたかもしれないし、できなかったかもしれないし、それはやってみないとわからないけど、そこに時間を取られるのはきついな、メンタルはやられるだろうなっていうのはわかったから。それだけが理由ではないですけど、理由の1つではありますね。セルフケアの観点がやっぱり大きかったと思います。

——メンタルではなく、体力的な不安を感じたりもないですか。

佐久間:これは本当に申し訳ないけれど、僕はないんですよ。すこぶる元気です(笑)。

——「もうやりきった」「飽きた」みたいなこともない?

佐久間:うーん……ないですね。というか、『LIGHTHOUSE』で話していた2人の苦悩は、漫才にしても音楽にしても、ゼロから作る表現じゃないですか。自分の中から作品を生み出し続けるのは、想像を絶する苦しさだと思います。

その点、僕の場合は、あの人にはどんな企画が合うだろうとか、あの人にこんなことをやってほしいとか、企画を考えるにしても、基本は誰かをサポートするような役回り。ゼロから作品を生み出すのとは全く違う。なので、作家の人達が言う「やりきった」とかは、今のところないですね。前に秋元康さんが、「自分の中から出てくるものだけで歌詞を書いていたら、30代で何も生まれなくなってた」って言ったんです。秋元さんの作詞は、自分のための表現ではなく、目の前にいるグループのメンバーに向けて書いてるから。

——条件や制限がある中での番組作りも、苦ではないですか。

佐久間:むしろ、左脳で考えなきゃいけない条件や制限があるほうが、僕はアイデア浮かびますね。好きなように自由にどうぞって言われると、何作ったらいいかわからない。よく人から「佐久間さんは理詰めで作ってますよね」とか言われますけど、僕は入り口から途中まではバチバチに理詰めで考えて、最後は適当に遊びを入れるんです。そういうバランスが自分には合ってるんでしょうね。

企画は40代前半のうちに思いついておこう

——番組の中では、これからの未来をどのくらい見据えているかも話題になっていました。

佐久間:僕は根がネガティブなので、40歳になった時にはもう、5年後には自分のセンスはバラエティでは通用しないなと思ってましたよ。だからこそ、企画は40代前半のうちに思いついておこうって。今のところまだズレないでやれているのは、40歳前後までに、映画でも舞台でも漫画でも本でも、とにかくいろんなものを吸収しまくってきたからだと思います。どんなに忙しい30代の時も、40代になっても、映画館や小劇場に通ったり、本を読んだりすることだけは絶対に続けてきた。……と言いながら、根がネガティブなので、50代はさすがに通用しないだろうなとは思ってますけどね(笑)。

——通用しない50代になったらどうするんですか。

佐久間:センスだけでは作れないようなストーリー性のあるものとか、バラエティのジャンルではなくても、お笑いの知見があるからこそ作れるようなものを、今のうちから見つけておこうと思ってます。

——思いっきり見据えてますね。

佐久間:音楽家も漫才師も基本はライブカルチャーなので、目の前にいるお客さんと一緒に年齢を重ねていくことができるんですよ。でもテレビはメディアなので、常に若い人をターゲットにしないといけない。少なくとも今は、ある程度の可処分所得がある若者や、現役でバリバリ働いている世代に向かって作らないと、メディアはビジネスにはならないです。この先、引退した高齢層がめちゃくちゃお金を使うようになったら、ビジネスの構造がガラッと変わるかもしれないですけど。

——テレビの視聴率競争は、むしろ高齢層を狙っているのでは?

佐久間:それは3年くらい前までの話ですね。高齢層に向けたゲーム理論で作っていたら、情報番組だらけになった。それでテレビは延命したんですけど、いまやテレビCMよりも、ネット広告のほうが正確にターゲティングできて、スポンサーもそっちに流れています。テレビであっても、ファミリー層や若い層の数字を取らないと、スポットCMが入らないのが現状です。

若くして人前に出る決断をした人達は、大きな川を渡った特殊な人達ですよ

——マーケティング的な思考と、バラエティ的な「おもしろい」を考えることは、佐久間さんの中でどういうバランスなのでしょうか。

佐久間:どんなにくだらない企画を考えるにしても、まず実現させるための仕組みを知らないと、本当に好きなことはできない、という感じですね。仕組みを理解した上で、ビジネスとして成立させる橋をちゃんと作ってから、ここから先は好きにさせてください、っていう。そうしないと再現性が生まれないんですよ。思いの丈をぶつけて一発勝負をしても、1回で終わっちゃう。たとえ1回で終わるにしても、何を勝負したのか自分でわかってないと、上を説得することもできないじゃないですか。そのためには、言語化するって大事だなと思います。

——そういう思考の持ち主だと、例えばオードリーの春日さんのような、天然成分の多い人に対する憧れがあったりしますか。

佐久間:どうだろうなぁ。僕も今でこそ人前に出る仕事もしていますけど、そもそも10代や20代で人前に出ることを選択した人は、全員天然だと思ってますね。ボケとかツッコミとか関係なく、とにかく人前に出る決断をした人達は、一般の人では渡れない大きな川を渡った特殊な人達ですよ。だからこそ、かっこいいし、心から尊敬します。

——今では佐久間さんもその川を渡った人、という認識でいいですか。

佐久間:ある意味では多少そうかもしれないけど、僕の場合は40歳を過ぎてから、ですからね。もう自意識とか言ってる年齢じゃなくなってからのことなので、大きな川を渡ってはいないですよ。今でも基本的には、役割が明確で、自分がやったほうがいいなと思う場合は出役もやりますけど、「とりあえず出てほしい」みたいなオファーは全部断ってますから。     

——これから先、だいぶ遅れて大きな川を渡る可能性はないですか。

佐久間:もう47歳ですからね、50歳過ぎたらあり得るかもしれない(笑)。でもそれは「俺も人前に出たい」とかではなく、50歳にもなって周りの評判とか気にしてんじゃねえよ、っていうフェーズになってからですね。せっかく呼ばれたなら黙って行けよ、っていう(笑)。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

■Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜
日本を代表するトップクリエイターとして活躍する星野源と若林正恭が、月に1度、2人だけでガチトーク。悩み多き時代に、誰しもが共感する“悩み”をテーマに6ヶ月連続で収録したトークバラエティ番組。灯台の意味を持つ“LIGHTHOUSE”(ライトハウス)というユニット名を与えられ、悩み多き時代に、元気と笑いを届ける。
出演:星野源・若林正恭(オードリー)
ディレクター:上野雅敬
企画演出・プロデューサー:佐久間宣行
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)
プロデューサー:碓氷容子、有田武史
制作プロダクション:ディ・コンプレックス
製作:Netflix
話数:全6話
配信:Netflixにて世界独占配信中
https://www.netflix.com/jp/title/81641728

■星野源 EP『LIGHTHOUSE』
星野源が『LIGHTHOUSE』のために書き下ろした、6つの新曲を収録したEPが配信リリース。各話をイメージして制作、ライブ収録したエンディング5曲にメインテーマ曲「Mad Hope」ショートVer.を加えた全6曲を収録。
https://www.hoshinogen.com/news/detail/?id=33

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佐久間宣行が語る若林正恭と星野源 「2人が抱えている苦悩は、日本社会全体の問題です」 『LIGHTHOUSE』インタビュー前編 https://tokion.jp/2023/09/13/interview-nobuyuki-sakuma-lighthouse-vol1/ Wed, 13 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=207707 Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』の企画・演出とプロデューサーを務める佐久間宣行インタビュー。前編では若林正恭と星野源について。

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佐久間宣行
1975年、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』『キングちゃん』などを手掛ける。元テレビ東京社員。2019年4月からラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。Netflix『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』、『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜を手掛け、2023年10月10日から『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』のシーズン2も配信。著書に『佐久間宣行のずるい仕事術 僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社)などがある。
Twitter:@nobrock
Instagram:@nobrock2

漫才師の若林正恭(オードリー)と音楽家の星野源が、それぞれの苦悩や問題意識について互いに語り合う、Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』が8月22日から配信された。企画・演出とプロデューサーを務めるのは佐久間宣行。Netflixでは『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~』に続く2作目となる。インタビュー前編では、日本のエンターテインメントを牽引する2人の間で、一体どんな対話が交わされたのか、佐久間の目から見た深部を探る。

——今回『LIGHTHOUSE』の企画は、どのように立ち上がったのですか。

佐久間宣行(以下、佐久間):僕が担当する番組で、最初に若林くんと星野さんに共演してもらったのは、テレビ東京の『あちこちオードリー』(2021年6月30日放送)で、その時のトークの内容がすごくよかったんです。オンエアの反応を見ても、視聴者に深く響いていることが伝わってきた。それでなんとなく、2人がじっくり語り合うような企画を温めていて、Netflixから『トークサバイバー』以外の企画もやりませんか、という話をいただいたタイミングと合致したという感じですね。

——当初から「2人がじっくり語り合う」というコンセプトだったんですね。

佐久間:最初の企画書は「星野源と若林正恭のONE YEAR」という仮タイトルでした。2人が月に1回集まって話をして、それを1年間続けて、一気に配信するっていう。1年間という期間を設けることで、2023年という時代も見えてくるなと思ったんですよね。ただ、現実的なことを考えると、月に1回でも毎月2人のスケジュールを合わせるのは大変だし、Netflix は翻訳とかの作業でテレビより時間も手間もかかるし、1年間は長すぎるんじゃないかと思って、期間は半年になりました。でもそうなると、タイトルが「星野源と若林正恭の半年」になっちゃう。さすがにそれはダサすぎるので『LIGHTHOUSE』に変えました。

——『LIGHTHOUSE』というタイトルについては、本編の中で「悩める人々を照らす灯台」そして「灯台下暗し」と解説がされていました。

佐久間:タイトルを思いついたきっかけは、レイ・ブラッドベリの短編に灯台が出てきて、英語だとLIGHTHOUSEっていうんだ、というのを覚えていたのが1つ。もう1つは、企画書を書き上げたタイミングで観たマームとジプシーの公演のタイトルが『Light house』だったんです。そこから、A24製作の映画『ライトハウス』のことも思い出したりして、誰かのことを照らす灯台でありながら、自分達の足元は真っ暗っていう、これは2人のユニット名にぴったりだなと。

光も闇も、ファンの人達が思っているより何十倍も深い

——佐久間さんから見て、若林さんと星野さんは、それぞれどんな人ですか?

佐久間:2人ともルックスや表情は優しい感じだし、繊細で気遣いのできる人であることは間違いないんですけど、奥の奥は芯が強いファイターですよね。『LIGHTHOUSE』をやる前から想像はしていましたけど、もう想像以上でした。だからその分、光も闇も、ファンの人達が思っているより何十倍も深い。本当にあの2人は生きるの大変だろうなって思います。

——番組で語られる2人の苦悩は、星野さんは音楽業界のことだとしても、若林さんの悩みはテレビ業界のことなので、佐久間さんにも直結しますよね。

佐久間:若林くんが抱えている悩みは、いわゆるバラエティ番組だけの問題じゃないと思うんですよね。星野さんの抱える問題も、音楽業界だけの話じゃない。あの2人の悩みの根源は、どこまで行っても競争を続けなければならない現状と、その競争に勝った人達がルールを作っていることにあるわけです。要は、日本社会全体の問題なんですよ。この日本で働いて、生きている人達全員が抱えている問題。現代の資本主義の中で、人間らしさを保ちながら競争に勝ち続けることはできるのか? そこに2人とも悩んでいるわけです。

——番組内の企画「1行日記」で、若林さんは「強くなければ次のステージに行けないけど、強くなると人に寄り添えなくなる」と書いてました。

佐久間:強さもそうだし、嫌な上司とも飲みに行かないといけないとか、いろんなことですよね。僕の勝手な憶測ですが、若林くんはそういうのが嫌で芸人になったのに、結局テレビや芸人の世界も一般社会と同じなのかよ、っていうのがショックだったと思うんです。芸人の世界はもっとロマンチシズムで成り立っていると思っていたのに、実際は日本社会の縮図でしかなかった。資本主義である以上、どの世界にもその影は落ちてくるんですよ。

——若林さんと星野さんともに、40代にもなると、率いているチームがあったりとか、背負うものが自分だけではなくなってきますし。

佐久間:それはあの2人も切実に感じているかもしれません。どの業界でもそうだと思いますが、テレビ業界では、1つ番組が終わると、関わっているスタッフ全員の仕事が一気になくなります。若手の頃はあんまりわかってなかったけど、MCだったり総合演出だったり、チームを率いる立場になると、その責任がどんどん重くなっていくことに気付いちゃうんです。

星野源ならオードリー若林の苦悩を受け止めてくれる

——番組のコンセプトでもある、対話を通じて悩みや抱えている問題をオープンにすることについては、どう考えていますか。

佐久間:若林くんに関しては、日本語ラップが好きでずっと聴いてきた人なので、自分の考えをストレートに表現した上で、芸に昇華させるスキルがあるんですよね。それは『LIGHTHOUSE』に限らず、ラジオの『オードリーのオールナイトニッポン』で自分の素直な気持ちを吐露するのも同じ。今はヒップホップが世界的にトレンドの中心になっているし、とにかく「俺はこう思う」っていうのを発信する時代の流れもあるのかもしれない。

——星野さんについては、そんな若林さんが相手なら話してくれる、と。

佐久間:星野さんは、収録が始まる前まではすごく不安がっていました。「僕は若林さんと違って、話すことのプロではないので」って。でも僕としては、星野さんなら大丈夫だって確信してたんですよね。楽曲の歌詞を読んでも、これまでの発言を聞いていても、あれだけ人の痛みがわかる人ですから、若林さんの悩みを受け止めて、何かしらの処方をしてくれるだろうと。

——星野さん自身も、さまざまなフェーズを経ての現在、ですからね。

佐久間:そうなんですよ。アーティスト星野源がすごいのは、どんどんフェーズが変わっていくこと。弾き語りのアルバムを出した時期もあるし、ファンクやソウルを取り入れて日本のポップスを更新させようとしていた時期もあり、そこから前衛的な音楽もどんどん取り入れながら、メジャーシーンと接続させる役割を担うようにもなって。ミュージシャンに限らず、芸人でも、長く活動している大御所の人達って、基本は芸風がはっきりしていて、長く同じ芸風を貫いたことで支持されるパターンが多い。だけど、星野源はどんどん作風を変えるでしょう。これは非常に困難な道ですよ。しかもそれで人気は上がり続けていくって、尋常じゃないです。

——オードリーというコンビにも、当然いろいろな変遷がありました。

佐久間:特殊なコンビですからね、悩んだ時期は長かったでしょう。いつだって春日くんは春日くんでしかないので、それで助かっている部分もありながら、若林くんは相方をどう活かすかっていうのを、他のコンビ以上に考えていたはず。どうしたら自分が本気でおもしろいと思っていることが世の中に伝わるのか、ずっと考え続けて、長い内省から生まれたのが、あのズレ漫才だと思います。内省の時期が短くて、もっと若いうちに売れていたら、春日くんの「トゥース」だけで消費されて、今のようなポジションにはなっていないと思います。本人としては相当つらかったとは思いますが、若林くんの長い内省期があったからこそ、消費され尽くさないで、ここまで残ってこられたと思うんですよね。

成功体験ではなく、悩みを、しかもリアルタイムで開示する試み

——まだ何者でもない10代や20代ではなく、40代の、しかも大成功を収めている2人が苦悩を語る、というのも新鮮でした。

佐久間:若い人が夢や悩みを語り合ったり、あるいは、大きな失敗をした人が教訓として失敗談を語るコンテンツはたくさんありましたけど、ある意味すごく成功している人が、その成功体験ではなく、悩みを、しかもリアルタイムで開示したことは新しい試みだったと思います。

——成功してからも人生は続くし、悩みは尽きないんだなと。

佐久間:対話からヒントを得て、星野さんと若林くんが番組のために共作してくれた曲「Orange」の歌詞に「クリアしたあとのRPG」というフレーズがあって、ほんとその先の人生のほうがずっと長いんですよね。

——演出としては、どんなことを意識しましたか。

佐久間:収録を終えた感触として、撮れ高としては抜群だったのですが、編集の演出次第では2人のファンムービーみたいになってしまうので、それを避けるようにしました。トークの部分に関しては、あえてバラエティっぽいテロップを入れて、『あちこちオードリー』や『佐久間宣行のNOBROCK TV』が好きな層にも見てもらえるように。SNS用に一部を切り出された時に、ちょっとでも身近に感じてもらいたかったので。

——あのテロップは、確かにNetflix らしからぬ書体でした。

佐久間:地上波のバラエティとかYouTubeの書体だったでしょ。確定する前に、何パターンか作って検証したんですよ。その中の1つは、2人でコメントの色分けもしていない、映画の字幕みたいな真っ白のパターンでした。それらをNetflixの担当者にも見てもらって、最終的に合意の上で今の形になりました。

——逆にNetflixだからこその演出もありますか。

佐久間:有料コンテンツだからこそのリッチさを追求したのは、星野さんが歌い、バンドも演奏する、曲のパートですね。なので、曲の歌唱パートだけは僕ではなく、泰永優子さんという、サカナクションのMVなんかを撮っている方にディレクターをお願いしました。

——そういったリッチな画作りは、地上波ではできないものなんでしょうか。

佐久間:歌番組なら可能でしょうけど、バラエティでは難しいですね。予算の問題もあるし、何より毎分の視聴率が落ちていきます。

——画面が暗いトーンになるからですか?

佐久間:トーンもありますし、それ以外にも。今のテレビって、常に謎かけをした状態をキープして、答えを出さずに引っ張ってる番組が多いじゃないですか。「果たして1位は!?」がずっと続いているような。あれはゲーム理論に基づいた、視聴率が落ちない1つの手法なんです。

——テロップやワイプで常に画面がにぎやかなのも、視聴率が下がらないため?

佐久間:にぎやかな画面の時代は終わりつつありますね。それよりは、続きが気になるランキングとか、ゲストは誰かとか、常に音が鳴っているゲームをやるとか、そういう方向になってきています。その引っ張りが途切れた途端、視聴者は離脱する。

——なんてシビアな……。もはや内容とかの問題ではない。

佐久間:地上波のテレビはもちろん修羅の世界ですが、はっきり言ってYouTubeはもっともっと修羅です。僕も自分のチャンネルを持っているので、スタッフといつも「修羅だね〜」って言いながらやってますよ。

——そんな修羅の世界で戦うことに、快感があるんですか。

佐久間:快感というか、僕はYouTubeに関しては、お金儲けのためにはやってないんです。お金のことだけを考えたら、企画ものはやらずにトークだけにして、カメラの台数も減らして、いくらでもやり方はあるんですけど、それはやってません。

僕にとってのYouTubeチャンネルは、ひとつは企画の実験場としての役割。初期投資して、どんどん濃い企画を生み出すための実験の場です。そしてもうひとつは、役割というかモチベーションとして、もはや地上波のテレビだけでは届かない層に向けて、「佐久間っていうやつが作る番組おもしろいな」と思ってもらうためです。

もしYouTubeでも数字や結果を求めていたら、確実にメンタルやられますから。あの世界で生き残るには、あっちゃん(中田敦彦)とかカジサック(梶原雄太)みたいに、YouTubeで結果を出すんだって腹くくった人間じゃないと無理ですね。少なくとも人気を確立するまでは、他のメディアには出ないで、そこの住人にならないとダメだと思います。

後編へ続く

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

■Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜
日本を代表するトップクリエイターとして活躍する星野源と若林正恭が、月に1度、2人だけでガチトーク。悩み多き時代に、誰しもが共感する“悩み”をテーマに6ヶ月連続で収録したトークバラエティ番組。灯台の意味を持つ“LIGHTHOUSE”(ライトハウス)というユニット名を与えられ、悩み多き時代に、元気と笑いを届ける。
出演:星野源・若林正恭(オードリー)
ディレクター:上野雅敬
企画演出・プロデューサー:佐久間宣行
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)
プロデューサー:碓氷容子、有田武史
制作プロダクション:ディ・コンプレックス
製作:Netflix
話数:全6話
配信:Netflixにて世界独占配信中
https://www.netflix.com/jp/title/81641728

■星野源 EP『LIGHTHOUSE』
星野源が『LIGHTHOUSE』のために書き下ろした、6つの新曲を収録したEPが配信リリース。各話をイメージして制作、ライブ収録したエンディング5曲にメインテーマ曲「Mad Hope」ショートVer.を加えた全6曲を収録。
https://www.hoshinogen.com/news/detail/?id=33

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映画『リバー、流れないでよ』脚本・上田誠 × 監督・山口淳太 ヨーロッパ企画だからこそ実現した実験的な映画作り https://tokion.jp/2023/06/29/junta-yamaguchi-x-makoto-ueda/ Thu, 29 Jun 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=194973 映画『リバー、流れないでよ』は、どのようにして作られたのか。脚本の上田誠と監督の山口淳太との対談から探る。

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ヨーロッパ企画の山口淳太(左)と上田誠(右)

山口淳太
1987年生まれ、大阪府出身。2005年にヨーロッパ企画に参加。映画やドラマ、CM、ドキュメンタリーなど、映像コンテンツの演出・撮影・編集まですべてを行うオールインワンタイプのディレクターとして幅広く活躍。2020年に映画『ドロステのはてで僕ら』の監督を務め、同作は多数の海外映画祭で賞を受賞し、多くの国で配給もされた。また、クリープハイプ「イト」MVや、「あいつが上手 で下手が僕で」、「恋に無駄口」など連続ドラマの監督も手掛ける。
Twitter:@YJunta

上田誠
1979年生まれ、京都府出身。ヨーロッパ企画代表で、すべての本公演の脚本・演出を担当。2017年に舞台『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞受賞。近年の主な作品に映画『ドロステのはてで僕ら』(原案・脚本)、『前田建設ファンタジー営業部』(脚本)、アニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(日本語吹き替え版脚本)、『四畳半タイムマシンブルース』(原案・脚本)、ドラマ『魔法のリノベ(脚本/KTV)、舞台『たぶんこれ銀河鉄道の夜』(脚本・演出・作曲)などがある。
Twitter:@uedamakoto_ek

現在公開中の映画『リバー、流れないでよ』は、劇団ヨーロッパ企画が制作を手掛ける長編映画の第2弾。前作『ドロステのはてで僕ら』と同様、劇団の代表・上田誠が原案と脚本を、舞台でも映像を担当する映像ディレクターの山口淳太が監督を務めた。本作のテーマは「タイムループ」。ヨーロッパ企画が拠点を置く京都を舞台に、2分間のループから抜け出せなくなってしまった、老舗料理旅館に集う人々の混乱を描く。普段は劇場をメインに活動している劇団が制作するこの映画は、一体どのようにして生まれたのか、上田と山口の対談から探る。

……と、まずは取材の現場に早めに到着した山口監督のお話から。

始まりは『踊る大捜査線』

——上田さんがいらっしゃる約束の時間になるまで、先に山口さんのインタビューから始めてもいいでしょうか。

山口淳太(以下、山口):はい、どうぞ。よろしくお願いします。

——まずは、山口さんとヨーロッパ企画との出会いを教えてください。

山口:ヨーロッパ企画の名前を最初に知ったのは、映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)のホームページでした。もともと『踊る大捜査線』がきっかけで、本広克行監督のめっちゃファンになりまして、2003年に『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が公開されたあと、次の監督作はこれだっていうことで、『サマータイムマシン・ブルース』の情報が出たんです。まだキャストもあらすじも公開されていなくて、公式ホームページには青空の写真と、タイトルの『サマータイムマシン・ブルース』だけが載っていて、よく見たら端にちょこんと「ヨーロッパ企画」と書いてあったんです。

——映画『サマータイムマシン・ブルース』は、ヨーロッパ企画の同名舞台(第8回公演/2001年)が原作で、脚本を上田さんが書いています。

山口:舞台が原作なんやと思って、そこでヨーロッパ企画という劇団の存在を知りました。それまで舞台とか観てなかったんですけど、調べてみたら、ちょうどヨーロッパ企画が公演中だったんです。大阪のインディペンデントシアター2ndという劇場で、初めてヨーロッパ企画の芝居を観ました。

——その時、山口さんは、おいくつですか?

山口:高校を卒業したばっかりですね。大学に受かって、入学するまでの間です。

——初めて観たヨーロッパ企画の舞台はどうでした?

山口:それがたまたま、舞台の半分くらいがスクリーンで、映像と芝居がリンクする作品(第17回公演『平凡なウェーイ』/2005年)だったんです。僕は映画好きとして観に行ったので、この劇団はこんなに映像を使うんだ、ってびっくりしまして。後にも先にもあそこまで映像を前面に押し出した公演はないのですが、なにぶん最初がそれだったので、舞台が映画化されるほどの劇団だし、映像はふんだんに使うし、俄然興味を持ちました。

——『踊る大捜査線』から始まって、運命に導かれているような展開ですね。

山口:しかも、ちょうど、その時にヨーロッパ企画がスタッフを募集してたんですよ。ジャンル問わず、とにかく何でもいいから劇団のお手伝いをしてくれる人っていう。僕も大学入学前で暇だったんで、すぐに応募しました。

——そこで採用された、と。

山口:時間だけはあったので。ただ、自分は役者志望でもないし、劇団員になりたいわけでもなかったので、映画のほうは自分で勉強しながら、公演の時期には準備とかを手伝いつつ、舞台で映像を使う時はやらせてもらう、みたいな感じでした。

僕がスタッフになってすぐ、映画『サマータイムマシン・ブルース』が公開されて、そこから一気にヨーロッパ企画の知名度も上がりましたけど、当時はまだ同志社大学の演劇サークルの延長線上という感じがあって、僕も大学生でしたし、ひたすら楽しかったですね。

芸風を確立するために「企画性コメディ」を標榜する

(ここで、上田誠さんが到着)

上田誠(以下、上田):どうも、よろしくお願いします。

——いま山口さんに、ヨーロッパ企画との出会いについて話をうかがっていました。

上田:あ、本広克行監督の話ですか。そう、彼は『踊る大捜査線』の熱烈なファンで、当時、本広監督が運営していたファンサイトみたいな掲示板で、ファンと論争とかしてたんですよ。今でいう炎上みたいになってました。だから僕の彼への最初の印象は、映画に一家言ある論客っていうイメージですね。

山口:論客って(笑)。あの頃まだ高校生ですから。

——では、ここからは本題である、映画『リバー、流れないでよ』について。そもそもヨーロッパ企画で映画を作ろうと思ったのは?

上田:僕はとにかく劇団という集団が好きで。もちろん劇場で芝居をするのが主な活動ではあるんですけど、それだけが劇団ではないと思っているんです。劇団が主体となって、テレビ番組を作ってもいいし、劇場で公開する映画を作ってもいい。劇団の拡張ですね。劇団でやれることをどんどん広げていきたいんです。

——原案と脚本を上田さんが担当し、山口さんが監督、そして役者は劇団の俳優陣という座組みで。

上田:同じ座組みだからこそ、映画にしてもテレビにしても、その媒体でしかできない表現を追求することに関してはだいぶ意識してます。なので『サマータイムマシン・ブルース』を映画化した時には、映画でしかできない仕掛けや脚本を模索しましたし、その経験を得た後は、これまで以上に舞台では舞台でしかできないことをやるようになりました。その結果、舞台の映画化の話が全く来なくなりましたけど(笑)。

——ヨーロッパ企画の舞台は、新規性も重要視していますよね。

上田:作品でいうと『ロベルトの操縦』(第30回公演/2011年)から『ビルのゲーツ』(第33回公演/2014年)のあたりで、ヨーロッパ企画は「企画性コメディ」というのを標榜し始めたんです。新しいことや変わった試みを積極的にやっていこう、そこに予算もエネルギーも注ぎ込もう、という宣言ですね。例えば、「迷路コメディ」だと、舞台いっぱいに立体迷路のようなセットを組むとか。

そういう試みは、演劇の常識的な観点でいえば、役者が動きにくくなったり、照明が当たりづらくなったり、いろいろ不具合も出るんですけど、そこは「企画性コメディを標榜する劇団だから」で乗り切る。なんなら、失敗してもいい、くらいの勢いでやってました。

——「企画性コメディ」を標榜したのは、どういう意図で?

上田:企画性を押し出すことで、劇団としてのキャラクターを浸透させたかったんです。舞台美術だけじゃなく、役名をつけなかったりとか、世界観や物語性を後退させてでも、企画性を尖らせて、ヨーロッパ企画の芸風を確立したかった。

——確立した芸風は、映画にも引き継がれていると。

上田:舞台でずっとやってきた取り組みを、今度は映画でもやってみよう、ということで始めたのが映画のプロジェクトです。第1弾の『ドロステのはてで僕ら』は、まさに企画性こそを重視した作品で、もはや企画性だけで骨組みができているような映画。だから、単体の映画として観るとだいぶ奇妙な作りになっていると思います。

それを経ての第2弾『リバー、流れないでよ』は、企画性も大事にしながら、第1弾ではあえて後退させていた、世界観や物語性も取り入れた作品にしました。

劇団で映画を作るからには、自由を謳歌したい

——コンセプトは通底していても、表現方法は舞台と映画ではだいぶ違いますよね?

山口:舞台の時は、役者のセリフの量であるとか、目線の誘導とか、やっぱり舞台ならではの作りになっているので、映画の方法論とは全く違いますね。映画の場合は、群像劇とはいえ、物語を引っ張る人物越しに、そのまわりを撮っていくという方法になります。

ただ、上田さんが現場にいることで担保されている部分は大いにあって。『ドロステのはてで僕ら』と『リバー、流れないでよ』の共通点として、どちらも2分間のタイムループがあるのですが、現場で上田さんが助監督と一緒にストップウォッチを持って2分を計ってるんですよ。劇中で起きている2分間の出来事は、本編中の尺もぴったり2分間にしているので。脚本家が常に撮影現場にいるって、普通はないことですけど、だからこそ、舞台での上田ワールドが映画にもそのまま引き継がれているんだと思います。

上田:他の仕事では、外部の脚本家として映画やドラマの脚本を書くことがありますが、そういう時はいろんなバランスを考えながらやってしまうので、突き抜けたことをやるのは難しいんですよね。だからこそ、自分の劇団で映画を作るからには、自由を謳歌したい。たとえその先に何もなくても、あったらよりいいですけど、未踏の山を越えたいんです。

——シナリオ=設計図としての戯曲と、映画脚本の違いについては?

上田:演劇は言葉の文化というか、耳で聴くことに由来があると個人的には思っていて、それは戯曲が文芸作品として扱われることからも。一方で映画は、もとをたどれば写真に由来する視覚芸術なので、究極セリフがなくてもいい。そこに画さえあれば。なので、映画を作る時は、脚本ありきではなく、ロケーションとか作品のたたずまいとか、全体の画づくりを監督と相談した上で、どういう物語にするかを固めていきます。

——「演劇は言葉の文化」と言いながらも、ヨーロッパ企画の舞台はかなりビジュアルに凝っていますよね。

上田:そこは逆に、言葉の文化である演劇に対するアンチテーゼもあるんです。僕はテレビゲームが好きなんですけど、例えば『スーパーマリオ』は画面の上のほうまでマリオが行けるじゃないですか。ブロックを登ったりして。ビジュアルとしてワクワクする。でも演劇はずっと地べたにいて、高いところに行かないんですよね。空間はあるのに。なので、ヨーロッパ企画の舞台では、役者が上のほうにも行くし、ゲーム画面的なレイアウトを意識しています。

それと、ゲームは非言語で語られていることが多くて、マリオがスタート地点で右を向いていたら、右に進むことがルールだとわかる。その理屈でいくと、舞台でも説明すべきことを非言語で語れるようになれば、言わなくてはいけないセリフは少なくできるんですよ。

——セリフによる説明が不要になる。

上田:そうです。舞台でも映画でも、セリフでは面白い話だけをしたいので、登場人物の背景とかは非言語で伝えたい。例えば、この人が上司で、この人は部下なんだな、とかっていうのは、それぞれの衣装や持ち物、動きとかでわからせればいい。言葉に説明をさせずにすめば、そのぶん言葉の無駄遣いができるようにもなるんです。

自然は何度見ても飽きないし、減らない

——先ほど話に出てきた「タイムループ」について、公式のあらすじ紹介では「2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまう」と書いてあります。

山口:とにかく同じシチュエーションで2分間が30回以上も繰り返されるので、登場人物も同じだし、どうやって画をもたせるかは悩みました。

上田:でも結果的に、その悩みは見事に解消できていると思います。いろいろな方法を駆使してはいますが、中でもキーになったのは自然ですね。タイトルにもなっているリバー、川です。

劇中では何度も川が出てくるのですが、川も含めて自然のものは、いつ見ても違う動きをしてますし、何度見ても飽きないし、減らない。とくに川は、日によっても時間によっても、流れが早くなったり緩やかになったり、動きが豊かなんですよ。

——それは同時に、自然はコントロールが利かない、扱いが難しい、ということでもありますよね。

上田:でもそれは、舞台上の役者も同じなんですよ。シナリオ上ではいろんな計算をして、細かく演出をつけたとしても、舞台に上がってしまえばこっちはコントロールできないわけで。役者自身のバイオリズムとか、体の動きの癖とか、口の形とか、最後は役者に委ねるしかない。人間は演技をするために生まれた存在ではないので、アニメのように制作者の意図を完璧に体現することはできない。人間を起用する以上、自然を相手にしているのと感覚は同じです。

山口:こうは言いながらも、上田さんは本当はめちゃくちゃコントロールしたかったはずなんですよ。でも、いざ自然を目の前にすると、その思いが吹っ飛ぶんですよね。撮影期間中に平気で大雪が降ったりもしましたから。

上田:撮影の日に、外を見たら『ぷよぷよ』の終盤かっていうくらい雪が積もってました(笑)。でもそれも想定内というか、今回は物語のテーマの中に、自然と向き合いながら、自然とともに営みを続けている、というのを入れていたんです。この作品は、厳然としたルールを徹底して守るコンセプト映画であると同時に、自然の中にある老舗旅館を撮る映画でもある。だから、予想を超える天候も自然のお恵みだと思って受け入れるのが、正しい姿勢かなと。

小さい劇団が制作する映画だからこそ、より個人的なことを

——前作『ドロステのはてで僕ら』も、本作『リバー、流れないでよ』も、繰り返される時間が「2分間」と共通しています。

上田:『ドロステのはてで僕ら』を2分間にしたのは、単純に計算がしやすかったからですね。それを引き継いで、今回はキャッチコピーに「また2分。」と書いてあるんですが、「また2分。」って言いたかったという戦略もあります。意外とこういうの大事じゃないですか。

もちろんそれだけじゃなく、ロケハンをした時に、メインの舞台となる旅館と、物語でも大事な場所になる神社が、歩いて1分くらいの距離だったんです。それなら、神社まで歩きつつも、もうちょっとだけ別のこともできるなと。これが3分間だと、神社以外の場所に行けちゃうし、他のこともできちゃうので、あんまり面白くならないと思ったんですよね。

山口:映像作品としても、2分という尺はちょうどいいんですよ。1分だと速くて観続けるのに疲れちゃうし、3分だとちょっと飽きちゃう。集中して作り込める時間として、2分は絶妙なんです。

——100年後の未来とかでもなく、1日でもなく、2分間というスケールの小さい中に、こんなにもドラマがあるのか、と感じました。

上田:より多くの人を楽しませる使命を持った大作映画になればなるほど、物語はポジティブで上向きになっていくんですよね。弱かったチームが大きな目標を持って強くなったり、壮大な敵と戦って困難を救ったり。物語に伴って、役者の演技も大きくなっていきます。それはそれで簡単なことではないし、素晴らしいことですけど、小さい劇団が制作する映画がその路線を目指したところで、ハリウッド大作と張り合えるわけがない。だったら、より個人的な切なさや寂しさを描きたいと思ったし、それが深く刺さるのが映画の持つ魅力の1つだと思いますね。

実験的な作品こそ、芸術から芸能にする

——タイムループものでいうと、時間が巻き戻っていることに本人だけが気づいているパターンと、他の登場人物も気づいているパターンと、大きく2種類ありますよね。

上田:主観の中で起きている出来事なのか、あるいは客観なのか、その違いですよね。それでいうと、今回は登場人物みんなが気づいているパターンです。

タイムリープを題材にした作品だと、過去に戻ることで問題を解決したりとか、そういった物語になるんですが、タイムループの場合は、一定の時間軸の中に閉じ込められるので、その繰り返される世界線からの脱出劇になるだろうな、というのが最初の想定でした。ただ、脚本を進めていくうちに、序盤は客観のチームプレイ脱出劇だったのが、後半から主観のセカイ系逃亡劇にスライドしていったんです。ここは自分でも気に入ってますね。

山口:後半で一気にテンションが変わるので、撮り方も含め、映像の表現方法を変えているんですよ。

——上田さんはタイムリープやタイムループのどこに魅力を感じていますか? 

上田:身も蓋もないことを言うと、予算がかからないんです。とくにSFのジャンルでは。例えばロボットものを作ろうと思ったら、美術にしてもCGにしてもばく大な予算がかかりますよね。

基本的に映画は現実を撮るものですけど、やっぱりちょっとは現実離れしたファンタジー要素がほしい。そう考えた時に、お金をそれほどかけずに効果的に作れるのが時間のファンタジーなんですよ。ゾンビも低予算映画の定番ですが、あれも多分ゾンビにそれほどお金がかからないからで。豪華さとは真逆の、ボロボロにすればなんとかなるっていう。

もう1つは、作家的な立場で言うと、僕はもともとプログラミングをやっていたので、伏線の回収とかルールの設定とかは得意で、その能力がいかんなく発揮できる、っていうのもあります。

——手法の他に、物語を作る上ではどうでしょう?

上田:これは最近になってわかってきたことですけど、時間を巻き戻して、同じ時間を繰り返すと、人生をいろんな角度で見られるんですよね。選ばなかった別の世界線を見られたり、一方では、どの選択をしても結局そうなってしまう現実があったり。現実から逃避することもできるし、現実を強化することもできる。そこは物語を作る上で非常におもしろいです。

——映画における、ヨーロッパ企画らしさというか、シグネチャーはどこに見い出していますか? 

上田:わかりやすいところでは、長回しの1カットですね。前作でも今作でも長回しは多用してます。監督という立場では、カットを割りたい気持ちもあるでしょうが、ヨーロッパ企画の作品である以上、そこは「企画性を際立たせる」というのが何よりも強い鉄の掟としてあるので。

山口:正直、カットを割りたいシーンは何ヵ所もありました。でも鉄の掟は守らないといけないので(笑)。ただ僕自身、それは楽しんでやっています。

上田:発明をするのが僕の役割だとしたら、それを実装するのが山口の役割なんです。発明って、研究室での実験が成功するだけではダメで、ちゃんと世の中になじませないといけない。もっと言うと、芸術から芸能にしなければいけない。僕がコメディに固執するのは、どんなに実験的な作品でも、お客さんが笑わないと成功したことにならないからなんです。それは映画でも同じだと思っています。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

『リバー、流れないでよ』

■『リバー、流れないでよ』
公開中
出演:藤谷理子
永野宗典 角田貴志 酒井善史 諏訪雅 石田剛太 中川晴樹 土佐和成
鳥越裕貴 早織 久保史緒里(乃木坂46)(友情出演) 本上まなみ 近藤芳正 
原案・脚本:上田誠
監督・編集:山口淳太
主題歌:くるり「Smile」 
製作:トリウッド ヨーロッパ企画
https://www.europe-kikaku.com/river/

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テレビだからこそ、わかりづらいものを。テレビ東京・大森時生インタビュー https://tokion.jp/2023/05/25/interview-tokio-omori/ Thu, 25 May 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=186962 『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』や『このテープもってないですか?』を手掛けたテレビ東京の大森時生インタビュー。

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テレビ東京の大森時生

大森時生(おおもり・ときお)
1995年生まれ、東京都出身。一橋大学卒業。2019年にテレビ東京へ入社。2021年放送の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』でプロデューサーを担当。『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ」優勝。その後『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『このテープもってないですか?』を担当。Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務めた。現在は5月18日に放送開始の新番組『SIX HACK』を手掛ける。
Twitter:@tokio____omori

「悩める奥様たちをお助けする」をテーマに芸能人を一般家庭に派遣、という触れ込みで放送されるも、その内実は決してほのぼのバラエティではなく、言うなれば、フェイクドキュメンタリーバラエティという新境地を切り開いた番組『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』。そして「テレビ放送開始69年」という冠のもと、「過去の貴重な番組録画テープを視聴者から募集・発掘する番組」と銘打って放送され、実態は終始その真偽を掴ませることなく視聴者を困惑させた『このテープもってないですか?』。

……と、言葉での説明が異様に困難な、これら2つの番組を手がけたのが、テレビディレクターでありプロデューサーの大森時生。2019年にテレビ東京へ入社、3年目にして自らプロデューサーと企画・演出を担当し、いずれの番組もSNSで大きな反響を巻き起こした。

さらに、今年の2〜3月には、Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務め、早々にテレビの枠からはみ出す活躍を見せている。

このインタビューでは、1995年生まれのテレビ局員が、いま現場で何を感じ、何を求めて番組を制作しているのか、「ヴェイパーウェイヴ」「ホラー」などをキーワードに、その真意に迫る。

——過去のインタビューを読むと、就職活動でテレビ局はテレビ東京しか受けていないと。

大森時生(以下、大森):そうなんです。でもテレビ東京にしか行きたくないとか、そういう考えがあったわけではなく、就活を始めるのが遅すぎて、テレビ東京しか残っていなかったというのが実情です。

——テレビ業界以外の企業は受けたのですか?

大森:それは受けました。コンサルとか通信とか、いわゆる一般企業には応募しています。

——どうしてもテレビ業界に行きたい、という感じでもなかった?

大森:ではないですね。テレビは普通に見ていましたが、熱心に見ているとか詳しいわけではなく、まわりの友人達と変わらない、ネットでも話題になっているような番組は見る、というくらいで。『水曜日のダウンタウン』とか『相席食堂』とか。小学生時代までさかのぼると、『めちゃ×2イケてるッ!』とか『トリビアの泉 〜素晴らしきムダ知識〜』は好きで見てましたけど、映画やYouTubeとかと並列で、その中にテレビ番組もある、という感じです。

——当時はテレビというものに、どういう印象を持っていましたか。

大森:娯楽の中でもシンプルでわかりやすく楽しませるもの、という印象ですね。今でも99.9%のテレビ番組はそういう作りになっています。ただ、0.1%の確率で存在するおかしな番組に出会うこともあって。フジテレビの『放送禁止』というフェイク・ドキュメンタリー番組とか、テレビ東京だと『バミリオン・プレジャー・ナイト』という変則的なバラエティ番組とか。最近の番組だと、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、こんなのテレビで放送しちゃうんだ、って夢中で見てました。

憧れの番組は局内でも圧倒的に少数派

——ご自身でも番組を制作するようになった今の立場から見ると、その0.1%の番組は、どういうところがほかの99.9%と違うのでしょう。

大森:テレビの公式でいうと、番組には何かしらのテーマや物語があって、そのすべてを丁寧に説明しながら、結論までを見せるのが一般的です。でも、例えば『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、あえて一部分だけを切り取って、判断や結論を視聴者に委ねています。VTRをモニタリングする出演者として小籔千豊さんがスタジオにいますが、何か結論を言うわけではなく、ただ小藪さんが考えている姿を映しているだけ。

なので、テレビ東京に特別な思い入れがあったわけではないですが、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の衝撃は入社の動機として大きかったです。僕のフェイクドキュメンタリーとの出会いとも言える、『山田孝之の東京都北区赤羽』と『山田孝之の元気を送るテレビ』も圧倒されながら見てました。

——とはいえ、テレビ局の社員になれば、99.9%のほうの番組を作ることが仕事になり、99.9%のほうの番組作りを学ぶことになりますよね。

大森:僕に限らず、どのテレビ局員にも当てはまると思いますが、テレビ東京の場合だと『ゴッドタン』とか『勇者ああああ』とか、自由度が高くて学生時代に好きだった番組に憧れて入社しても、その番組の担当になることはまずありません。そもそもそういう番組は、0.1%とは言わないまでも、テレビ局全体の中では圧倒的に少数派です。それでやる気がなくなるとまではいかないですし、入社して最初は基礎を学ぶというモチベーションでやるしかないですよね。それに、先輩達の話を聞くと、勤務時間はまだ他の業界に比べたら長いかもしれませんが、なにより「暴力がない」というだけで、昔に比べたらだいぶ恵まれてるなと思います。

——テレビ東京だと、『ゴッドタン』をはじめとした深夜番組を作りたいと思って入社した人も多いのでしょうか。

大森:お笑いが好きな人は思った以上に多かったです。それだけ今はお笑いや芸人さんの力が強くて大きいということですよね。僕がいる部署がバラエティ制作だからというのはあるとしても、バラエティ番組ってお笑いだけじゃないにもかかわらず、お笑い番組をやりたくてテレビ局で働いている人はかなり多い。現状、テレビ東京はゴールデンタイムにお笑い番組は1つもないですし、やったとしても視聴率を取るのは難しいと思うので、現実的にやりたいことができていない人が多いのかなっていう印象はあります。

——キャスティングする立場として、芸人にはそこまで強い思い入れはないですか?

大森:芸人さんをメインに据えて、芸人さん個人の魅力を引き出すような番組は、僕なんかより得意な人がたくさんいますので、芸人さんと番組を作ること自体には重点を置いてはないですね。お笑い番組を見るだけではなく、劇場や単独ライブにも通って、キャラクターや芸風といった文脈を理解していないと、本当にその芸人さんが光る番組は作れないはずなので。

テレビはバグが起きた時のインパクトが大きい

——直接テレビとは関係なくても、どういうものに興味や関心を持っていますか。

大森:趣味でいうと、ヴェイパーウェイヴ系のカルチャーは追いかけています。あとは、ホラーやフェイクドキュメンタリーも好きです。ただ、単純に怖いものというよりは、なんとなく不気味で、日常を侵食するような怖さが好きなんです。動画コンテンツとかでも、そういう新しい不気味さや怖さを追求している手法は出てきているんですけど、それらを括る言葉がまだなくて、なかなか説明するのが難しい……。

——ヴェイパーウェイヴが好きなのも、日常を侵食されるような、ある種の不気味さを感じるからですか?

大森:それはあると思います。最近気に入ってよく聴いているのが、ポケモンの金銀クリスタルのBGMを加工しているヴェイパーウェイヴで、チョップド&スクリュードという、音を切り刻んで、どんどん拗らせていく音楽技法が使われているんです。ポケモンの金銀クリスタルは僕自身が世代なので、よく聞いていた音楽が歪に加工されていることに、ノスタルジーを歪まされているような、独特の快感があるんですよね。

——インターネット発のコンテンツと比較した場合、テレビ放送についてはどう考えていますか。

大森:自分の選択でクリックして見るのと、テレビをつけたらたまたま遭遇したというのでは、やっぱり出会いの質が違いますし、偶然に出会ったものに惹かれるほうが、より強く響くんじゃないかなとは思っています。あと、ネットはそもそもカオスなものとして認識されていますよね。非公式もイリーガルも有象無象が混在している。なので、歪なものに出会ったとしても、そんなには驚かない。でもテレビは、カオスとは程遠い、整然としたメディアなので、ちょっとした異物が混入しただけでも驚きがあるし、バグが起きた時のインパクトも大きい。

——テレビは日常であり安心感のあるメディアだからこそ、「日常を侵食するような怖さ」を演出しやすいと。

大森:わかりやすいことが前提になっているので、わかりにくいことが放送されると、それだけで怖さも増幅されます。そこを利用して、テレビだからこそ、わかりにくいことを意図的に流したいなと思っているんです。

ホラーの世界でも、わかりにくい恐怖の潮流というのがあって、最近は「気づかないうちに得体の知れないものに己自身が穢されていた」みたいな感覚がブームになっていると感じていて。それこそ台湾映画の『呪詛』あたりから。わかりやすい事件や恨まれることがあって、それが原因で呪いにかかるとかではなく、もはや呪いを引き起こしている存在が何かもわからない、論理性がない恐怖。加害者になるにせよ、被害者になるにせよ、気づいたら終わってた、という。

リアルタイムで見た人は100人もいないけど……

——ハイコンテクストな恐怖を楽しむには、視聴者にもリテラシーが求められませんか?

大森:万人受けするのは、得体の知れない不気味さよりも、ジャンルでいうとミステリーのほうかもしれませんね。理由や原因を探したくなるような。でも僕は、テレビだからこそ、伝わらないリスクを背負ってでも、わかりにくいものを放送することに意義があると思っているんです。

——それはもうテレビの最先端ですよ。

大森:いや、むしろ最後尾だとは思いますけど(笑)。でも常に意識していることはあって、たとえコンテクストは共有できなくても、映像というビジュアルで生理的に訴えかけるものにはしようと。ただわかりづらいだけでは意味がないので。そういう意味では、たとえTVerなどインターネット経由で番組を見たとしても、これはもともとテレビで放送されていた番組なんだ、という文脈を視聴者は意外と大事にしているのかなと思います。変だったりわかりづらかったりすると余計に、これがテレビで放送されていた、という事実だけでワクワク感が増幅されると思いませんか?

——確かに。これをテレビ番組でやっちゃうんだ的な、下駄をはかせる効果はありますね。

大森: その先入観を逆手に取ることができたら理想ですよね。何気なくつけたテレビで、リアルタイムで見てくれると、より増幅されるんですけど……そこはなかなか。

——若い世代はとくに、「たまたまテレビをつけた」という機会はだいぶ減っているでしょう。

大森:そうなんですよね。いまやテレビもTVerをはじめとした見逃し配信ありきなところはありますから。自分の番組でいうと、BSテレ東で放送した『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』は、リアルタイムでテレビで見た人は多分100人もいないんじゃないかなって思います。視聴率だけが評価軸の時代だったら、100人にも見られていない番組ってありえない。でもあの番組は、見逃し配信がSNSでけっこう話題になり、動画としては再生してもらえたんです。

——再生回数という新しい評価軸のおかげで存在が許された。

大森:そう考えると、録画機能もなかった時代のテレビ番組ってなんて儚いんだ……って思いますね。その時に見た人だけが知っている、あとから検証もできないって、もはやファンタジーに近いというか。

テレビの常識を持ってないだけで新しいことができる

——テレビにとどまらず、Aマッソの単独公演『滑稽』では企画・演出を務めていました。

大森:テレビ放送以外のプロジェクトやマネタイズの方法は会社からも求められていますし、テレビ業界全体としても、これからは番組制作だけではなく、公演の企画やプロデュース、あるいはプロモーション映像とか、このチームに制作してほしいっていう形で仕事がまわるような仕組みが大事になってきます。逆にそれ以外にテレビ局が生き残る道はないんじゃないかなとすら思いますね。

——『滑稽』ではネタの合間に連続性のある映像作品が上映されていましたが、制作チームはテレビのスタッフではなかったですよね。

大森:監督の酒井善三さんをはじめ、映画を撮っているスタッフにお願いしました。

——テレビ局員であれば、テレビの制作スタッフを抱えていることがメリットになるのかなと思ったのですが、そういうわけでもない?

大森:そういう面もないわけではないですが、そもそも、テレビ番組を制作する時でも、別に映画監督やミュージックビデオのチームに発注してもいいんですよ。放送作家ではない方にブレーンをお願いしたっていい。でも現状は、基本的にいつも頼んでいる制作会社や技術会社と組んで、同じチームで制作していることが圧倒的に多い。そのほうがテレビの常識を言わずもがな共有できるので、楽なんですよね。ギャラの基準とか、納期であるとか。そういった交渉とかの実務はけっこうなカロリーを使うんですけど、僕はなるべく外の世界の人と仕事をしたいと思っています。テレビの常識で仕事をしていない人達と組むと、「簡単に」というと語弊があるかもしれませんが、それだけでテレビにとって新しいことができるんです。

——それでいうと、Aマッソも、枠組みを疑う、新しさに関心のあるコンビですね。

大森:新しい表現に対して、異常に探究心があります、とくに加納さんは。軸足はもちろん芸人にありながら、笑いではないおもしろさも追求している人達で、おもしろければ、しみじみしてもいいし、怖くてもいいし、という思考を持っているコンビですね。

制作過程で視聴者の目線は内面化しない

——5月18日に放送がスタートした新番組『SIX HACK』についても聞かせてください。

大森:「偉くなるためのハック」をテーマにした、全6回のビジネス番組です。僕も社会人5年目になったので、たとえ表面的であれ、人が偉くなるために必要なテクニックっておもしろいなと思いまして。いろんなパターンで偉くなる方法を紹介していきます。

——ビジネス番組の中に、不気味さも仕込ませている?

大森:途中には入ってくるかもしれません。でも、僕がずっとやりたかった番組でもありますし、そこには不気味さというよりも、僕の伝えたいメッセージや思想みたいなものを強く入れているかもしれないです。どうやって偉くなるのか、なぜ偉くならないといけないのか、偽物の偉いとは。そういったことを考えながら制作しました。

——初回のエンディングでは、『踊る大捜査線』に出てくるセリフ「正しいことをしたければ偉くなれ」が引用されていましたが、大森さんご自身は「偉くなる」ということについて、どう考えているのでしょうか。

大森:偉さにも様々な種類があるとは思いますが、偉くなることは、冗談抜きに、本当に必要不可欠なことだと思っています。私もサラリーマン生活5年目に突入したこともあり、強烈に偉さの重要性を感じているので……。

——初回を見た限り、近年の「論破」というキーワードを中心とした、建設的な議論を避けて、とにかく相手を黙らせることを礼賛する、ひいては憧れて真似する人が続出している風潮や、ビジネス系メディアが吹聴するインスタントなテクニックがもてはやされるような、一連の価値観へのアンチテーゼも感じました。

大森:正直、その一連の価値観へのアンチテーゼというものはありません。ただ、ある人物の仕草や思想など、それを強く信じること、絶対に正しいと思うことへの怯えみたいなものはすごく感じています。アンチテーゼというより、怯えに近いです。また、それは自分自身を信じすぎることも含んでいます。

一方で、信じられるものが何もない、もしくは少ない、という状況も、それはそれで危険なことではあると思うので、難しいですが……。

——番組の構成として作家のダ・ヴィンチ・恐山さん、有識者としてSF作家の樋口恭介さんがクレジットされていました。

大森:ダ・ヴィンチ・恐山さんは、私達が日常で見落としがちな事象を鋭い観察眼で見通せる方、樋口さんは常に高い視座で、物事を捉えられる方、という印象がありました。お二人とも偉くなるということを多角的に捉える際に不可欠な方だと思い、依頼しました。

——では最後に、番組を制作する上で、視聴者の目線を意識することはあまりないですか?

大森:そこは意図的に持たないようにしています。制作過程で視聴者の目線を内面化してしまうと、どうしてもフォームが崩れるんですよね。画面中にテロップが入っている今のテレビの姿は、スタッフがあらゆる視聴者層の視線を内面化した結果だと思っているので、それとは違うものを提示できたらと思います。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

■テレビ東京『SIX HACK』
2023 年5月18日スタート
毎週木曜25:00~25:30放送
TVer・YouTubeでも配信
 ※5月25日は『世界卓球 2023』により時間変更の可能性あり。
出演:ユースケ・サンタマリア、松村沙友理、国山ハセン、樋口恭介
©︎テレビ東京
https://www.tv-tokyo.co.jp/sixhack/
Twitter:@SIXHACK_TX

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TBSラジオ「JUNK」総括プロデューサー宮嵜守史が語る「ラジオの醍醐味」と「制作現場の実情」 https://tokion.jp/2023/05/19/interview-morifumi-miyazaki/ Fri, 19 May 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=185800 TBSラジオ「JUNK」総括プロデューサー宮嵜守史インタビュー。

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宮嵜守史(みやざき・もりふみ)

宮嵜守史(みやざき・もりふみ)
1976年生まれ、群馬県草津町出身。ラジオディレクター/プロデューサー。TBSラジオの深夜枠「JUNK」総括プロデューサー。担当番組は『伊集院光 深夜の馬鹿力』『爆笑問題カーボーイ』『山里亮太の不毛な議論』『おぎやはぎのメガネびいき』『バナナマンのバナナムーンGOLD』『アルコ&ピース D.C.GARAGE』『ハライチのターン!』など。YouTubeチャンネル『矢作とアイクの英会話』『岩場の女』でもディレクターを務める。
Twitter@miyazakimori
https://www.tbsradio.jp/junk/

伊集院光、爆笑問題、山里亮太、おぎやはぎ、バナナマンと、錚々たる芸人がパーソナリティを担当するTBSラジオの深夜番組『JUNK』(月〜金曜日25〜27時放送)。2002年にスタートし、今年2月には20周年記念イベントを3日間開催するなど、多くのファンを持つ。その総括プロデューサーを務めるのが宮嵜守史だ。

これまで彼がラジオ制作の現場で体験したエピソードや、自身のラジオとの出会いを綴ったエッセイ集『ラジオじゃないと届かない』(ポプラ社)には、『JUNK』パーソナリティのほか、極楽とんぼ、ハライチ、アルコ&ピース、パンサー向井慧、ヒコロヒーとの対談も収録されている。radikoが普及し、Podcastをはじめとした音声コンテンツも次々と配信される中、ラジオの現場では今何が起きているのか。

初めて企画書を書いた鳥肌実の番組

——本を書いてほしいというオファーの段階で、内容は「宮嵜さんのエッセイで」ということだったのですか。

宮嵜守史(以下、宮嵜):そうでした。実際に完成した本には、自分の半生について書いたエッセイだけではなく、芸人さんとの対談もたくさん収録されているんですけど、もともとは100パーセント僕のエッセイでお願いしますと。でもそれはどうしても嫌で。せっかくラジオ番組を制作する仕事をしているのだから、ラジオのおもしろさとか、ラジオパーソナリティの魅力を伝える本にしたかったんです。それで、僕が主役ではなく、ラジオやパーソナリティを主役にした本でもよければ、ぜひ書かせてくださいと。まぁその結果、対談してくれた人気者の名前が帯にずらっと並んで、人のふんどしで相撲を取るみたいな本になったんですけど(笑)。

——初めて企画書を書いたのが、鳥肌実の番組だったと。

宮嵜:ディレクターとしてうまくはいきませんでしたけどデビュー作ですね。当時『パーソナリティスペシャル』というTBSラジオで若手を発掘するお試し枠みたいな番組がありまして、パーソナリティだけではなく、ADからディレクターになるための登竜門にもなっていたので、そこで企画書を出しました。

鳥肌実さんのことは当時VHSで見て、きわどいネタの独演スタイルが一気に好きになり、そのあと代々木第一体育館で演説の単独公演があったんです。2001年ですね。演説というしゃべりのスタイルで、大きな会場でやっているのに、テレビには全く出ていない。これはラジオにぴったりだ、と思ったんです。

ただ、番組の立ち上げも経験したことなかったですから、鳥肌実さんをブッキングしたことでほっとしちゃって、番組の内容についてきちんと考えられていなかったんです。鳥肌実さんの芸風もありますが、そもそもファンが観に来る公演と、公共の電波で不特定多数に届けるラジオ番組では前提がまるで違うのに、そこをきちんと理解していなかった。

それで、収録した音声素材のきわどい発言にピーとかボカンとか効果音を入れまくった編集をしたら、プロデューサーに「良さが全然なくなってる」と言われて。そこから直しを入れまくり、どうにか放送しました。

——ラジオにおけるスタッフの役割というか、介在する余地みたいなものは、番組によってかなり差があるものですか。

宮嵜:番組や放送する時間帯もありますが、大きくはパーソナリティによりますね。どんなことを話せばいいか、事前にスタッフと雑談しながら構成を考えたりするパーソナリティもいます。

最も介在するパターンでいうと、キャリアが浅かったり、しゃべりの経験がほとんどない方がパーソナリティをやるとしたら、番組で話そうと思っているエピソードをまず聞かせてもらったあと、「その店員さんは若者? それとも年配の人?」とか「どんな風貌だった?」とか、リスナーとして聴いた時に気になるところを掘り下げたりします。別に話のオチを一緒に考えるとかではなく、リスナーに伝えるには、こういうところをフォローしないといけないんだっていうのを学んでほしいので。

——対面する相手がいない、1人しゃべりの番組だと、そういった情報の取捨選択はパーソナリティにすべて委ねられますからね。

宮嵜:普通に考えて、1人でマイクに向かってしゃべるって、かなり異様なことなんですよ。特に生放送の場合、スタッフにできることは、パーソナリティの話に笑っているとか驚いているとか、リアクションすることくらい。だからコロナ禍で全員がマスクをしていた時は、かなり難しかったですね。口元が隠れていると、こちらのリアクションが伝わらないので。

ハライチ、三四郎、オズワルド……テレビでは前に出ないほうがラジオで輝くのはなぜか

——芸人の番組を聴いていると、コンビのうちテレビだとあまり前に出ないタイプのほうが、ラジオでは活躍する傾向があると感じるのですが、そのあたりはどうでしょうか。

宮嵜:そういうケースもありますが、「傾向がある」とまでは言えないんじゃないかと、個人的には思います。決して確率が高いわけじゃない。例えば、ハライチの岩井くん、三四郎の相田くん、オズワルドの畠中くんは、ラジオだと活き活きしゃべっていますが、テレビとか一般的なイメージでは相方のほうが目立っているかもしれません。ただ一方で、テレビでも目立っているほうが、やっぱりラジオでも目立っているコンビもたくさんいるんですよ。

つまり、そのコンビのイメージから逸脱していると、意外性があってより強く印象に残るので、そういう傾向があるように感じられるんじゃないのかなと。もっと言えば、印象に残るだけじゃなく、コンビの新しい一面を感じられることで、おもしろみも増すんですよね。そのコンビの奥行きとか味わいが増すっていうのか。

テレビではどうしてもわかりやすいキャラクターとかスピード感が求められるので、そういう環境では引き出せなかったコンビの魅力が味わえるっていうのは、ラジオの大きな利点だと思います。

——ゲストのキャスティングについては、どういうふうに考えていますか。というのも、例えば、パーソナリティと仲がよくて、番組内でも名前がたびたび出てくるような人がゲストに来ても、思いのほか盛り上がらない時があったりするなと思いまして。

宮嵜:僕が思っているのは、「この人を呼ぼう」という考えでゲストを決めるのではなくて、「こういう企画やるには、誰が必要か」という考えで決めるようにしています。ゲストに来てもらうことが目的ではなく、企画や内容がうまくいくことを目的にしていれば、自ずと誰をゲストに呼べばいいのか見えてくる。

ラジオは特にパーソナリティとリスナーの結びつきが強いので、芸人コンビの番組であれば、リスナーは2人のしゃべりを楽しんでいます。そこにたとえ仲良しであれ、企画や文脈のない形で第三者が入ってくると、邪魔者になってしまうことがある。そうならないために、目的は企画のほうにあったほうがいい。こういう話をしたい、そのためには誰がゲストに来ると盛り上がるか、という順番で考えています。

ラジオだからって常に本音を吐き出す必要はない、素の状態でいい

——ラジオに向き合う姿勢も、パーソナリティごとにいろいろなパターンがありますよね。熱く語る人もいれば、肩の力が抜けたゆるいしゃべりが魅力になる人もいます。

宮嵜:ラジオを大切に思ってくれているのは、どのパーソナリティも同じだと思います。そこを前提として、大切なのは、どれだけリスナーのほうに気持ちが向いているか。しゃべりたくないのにラジオをやっている人っていないと思いますし。よく「熱量」とかって言われますが、熱く語ることだけがいいわけでもないし、ゆるいおしゃべりのほうがいいということでもない。まずは伝えたいこと、しゃべりたいことがあって、それをどう伝えるのかがパーソナリティによって違う。ラジオだからって、常に本音を吐き出す必要もなくて、素の状態でいいんです。自分を失わずにマイクの前に座って、リスナーに向かってしゃべることができる人、それがいいパーソナリティだと思います。ただ、単純そうに思える「素の状態でいる」って、実はかなり難しいことなんですけどね。

——本の中では「いろんなフェーズがあっていい」ということも書かれていました。パーソナリティの芸歴や年齢、それに付随する考え方の変化によって、番組の特色や方向性が変わってもいいんだ、と。

宮嵜:それは本当に思いますね。例えば、若い頃は尖った発言が番組の売りだったとしても、それをずっと続ける必要はない。『空気階段の踊り場』は、彼らのドキュメンタリーだと思います。番組開始の時は、劇場で頑張る若手芸人だったのが、「キングオブコント」のチャンピオンになって、テレビの人気者になり、やがて結婚して、そのあと離婚して……そういう彼らの人生がすべて番組に反映されている。誰の人生にもいろんな場面がありますから、その人生を歩んでいるパーソナリティにもいろんなフェーズがあって当たり前なんですよ。

その上で、「今自分はこういう状態です」と、リスナーにちゃんと言えることが大事だと思います。自分達が今どういう状況に置かれていて、リスナーに限らず世間からどういうふうに見られているか、そこを把握すること。人前に出る仕事をしているタレントさんは、当然そういうことには敏感だと思うのですが。

——自分達の番組はこれが売りなんだ、とかって決めなくてもいいんですね。

宮嵜:そう思います。毎週放送の番組だったら、その1週間の間に感じたこと、考えたこと、大げさに言えば「こんな生き方をしました」というのを発表する場所であり時間がラジオだと思うんです。例えば、『バナナマンのバナナムーンGOLD』を聴いていると、彼らの長い人生の中で、毎週金曜日の深夜25時から27時までの2時間をずっと切り取っているんですよね。5年前はこんなことを考えていた、10年前はこんなことを感じていた、そういうのを毎週2時間、ラジオで発表している。

——今テレビでトーク番組が増えていますよね。コスパがいいからだと思うのですが、タレントが感じたこと、考えていることを発表する場がテレビの中にどんどん作られています。

宮嵜:全部が全部ではないですが、中にはラジオっぽい雰囲気だなと感じるテレビ番組はあります。ただ、テレビ番組の場合は、きちっとトークテーマが決められていたり、パッケージとして完成されているので、そこがラジオとは決定的に違うかなとは思います。

ラジオ放送と音声配信は役割が全く違う

——ラジオ放送と、Podcastなどの音声配信メディアとの関係については、いかがでしょうか。

宮嵜:正直、これまでラジオ放送の大きなメリットだった、たまたまラジオをつけて、なんとなく聴いてみたらおもしろかった、みたいな偶然の出会いは減っているでしょうね。

電波にのせる放送と、Podcastなどの音声配信メディアでは、そもそもの役割が違います。放送は言うまでもなく、事故や事件、災害、交通情報などのニュースを伝えることが役割としてあり、深夜の番組だとしても、不特定多数に向けてしゃべることが大前提。芸人さんの番組であっても、きちんと名前を名乗るといった基本的なことから、わかりやすく伝えることが求められます。10人が聴いたら、10人が理解できるような内容にすることが望ましい。

一方で、podcastなど音声配信は、芸人さんの場合だと、トークライブに近い感覚。その人達のファンや、少なくとも興味を持っている人達がわざわざ聴きにくる。ノリやしゃべり手のパーソナルな情報を共有している人達には余計な説明を省いても十分伝わるし、それによってトーク内容の純度が高いまましゃべることができます。それを魅力だと思っている芸人さんも多いでしょう。

ただ、radikoでもPodcastでも、聴くのはスマホじゃないですか。となると、同じ画面の中に異常に強いライバルがごろごろいるんですよ。SNSやウェブメディア、Netflix やAmazonプライムといった世界基準の動画サービスとも並列で比べられる。数え切れないくらいのコンテンツの中から選んでもらうのは、相当に難しくなりました。

——ラジオを聴いていると、特に番組初回の放送では「ラジオをやることが夢でした」「ラジオで育ちました」のような、自身の原体験にラジオがあったことを表明するパーソナリティがいますが、今後は「Podcastやりたかったんです」という人も出てきますよね。

宮嵜:すでに出てきていますよ。ラジオはほとんど聴いたことないけど、Podcastは聴いている、という人はいます。

ラジオはマスコミではなく、カルチャーの1ジャンル

——本の中で印象的だったのは、「世の中におけるラジオの寸法を勘違いしてはいけない」という話でした。

宮嵜:人や世間に影響を与える規模感だったり、メディアとしてのお金のまわり方だったり、そういうものをすべてひっくるめて、今ラジオがどのくらいの大きさなのか、その寸法を勘違いしてはいけない、という話ですね。

新聞・雑誌・テレビ・ラジオが4大マスメディアと言われていますけど、今のラジオは、マスコミとは言えないくらいの規模感になっていると感じます。いろいろあるカルチャーの中の1ジャンル、実際の規模としてはそのくらいかなと。

何年か前から雑誌でラジオの特集が組まれるようになったのも、カルチャーの1ジャンルになったからだと、僕は思っています。なので、そういう特集だけを見て、ラジオが盛り上がっていると感じるのは誤解だと僕は思いますね。盛り上がっているのではなく、マスコミからカルチャーの1つになったという現実の表れ。だってリスナーからしたら、電波にのせて放送されているラジオ番組と、一定層を狙った趣味性の高いPodcastは、本来全く違うものなのに、もはや同じ音声コンテンツとして聴いています。そうやって並列で受け取られていることこそが、マスコミではなくなったことの証拠でもある。ラジオを聴いていることは、もはや趣味の1つで、ラジオをマスコミだと思っていない若い人はどんどん増えていると思いますよ。

——正直なところ、宮嵜さんはプロデューサーの仕事よりも、制作に専念できるディレクターのほうが性に合っている、と思っているのでしょうか。

宮嵜:やり続けられるなら、ディレクターだけをしていたいとは思いますね。でも、やっぱりちゃんとお金のことを考えたり、関係各所との調整役をやってみないと、結果的にいい番組は作れないと思うんですよ。番組がどういう状況に置かれて何を求められているのかわからないまま制作しても、いい番組は作れません。それはプロデューサーになってから、より身にしみて実感しました。

Photography Tameki Oshiro

ラジオじゃないと届かない

■ラジオじゃないと届かない
日常の中に無限にある「楽しみ」の中で、ラジオにしかできないことってなんだろう? TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサーのラジオにささげた25年が詰まった初の書き下ろしエッセイ。ラジオとの出会いから、プロデューサーになるまでのエピソード、人気パーソナリティ達の魅力まで。極楽とんぼ、おぎやはぎ、バナナマン、ハライチ、アルコ&ピース、パンサー向井慧、ヒコロヒーとの読み応え抜群のロング対談も収録。

著者:宮嵜守史
ページ数:383ページ
価格:¥1,760
出版社:ポプラ社
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008400.html

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演劇もコントもドラマも漫才も。すべてに才能を発揮するダウ90000・蓮見翔の創作力 https://tokion.jp/2022/11/11/interview-daw90000-show-hasumi/ Fri, 11 Nov 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=155084 話題の8人組・ダウ90000。すべての作・演出を手掛けている主宰の蓮見翔に話を聞いた。

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演劇もコントもドラマも漫才も。すべてに才能を発揮するダウ90000・蓮見翔の創作力

蓮見翔
1997年4月8日、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。ダウ90000主宰。演劇やコントの作・演出を手掛けるほか、最近はドラマの脚本も手掛けている。JFN系列「Audee CONNECT」では水曜日レギュラーパーソナリティを務める。
Twitter:@Show0408S
Instagram:@sh_556_rn
Twitter:@daw90000
YouTube

演劇とコントを軸に、時には漫才までも披露する8人組・ダウ90000。結成は2020年、メンバーの平均年齢は23.5歳。劇団とも名乗らず、芸人も自称しない。あえて立ち位置を曖昧にしながらも、キャリアは確実かつ猛スピードで積み上げている。第2回本公演の戯曲は岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされ、「キングオブコント2020」は準々決勝進出、「ABCお笑いグランプリ」では決勝に進出した。すべての作・演出を手掛けているのが主宰の蓮見翔。最近では『今日、ドイツ村は光らない』で連続ドラマの脚本も手掛けるなど、活躍の場をさらに広げている蓮見が、直近の活動と、この1年を振り返る。

もともとはメンバー全員が俳優志望

——進行中のお仕事では、Huluで配信されている『今日、ドイツ村は光らない』で連続ドラマの脚本を手掛けていますね。

蓮見翔(以下、蓮見):1話5分のミニドラマではありますが、いわゆる連ドラは初めてです。5分間という短い時間の中で、山場やオチを毎回つくりながら、次の話につなげていくのは難しかったですね。普段はコントでも演劇の脚本でも、1回で完結というか、連続ものは書いたことがなかったので。

——ドラマにはダウ90000のメンバー全員が出演しています。

蓮見:僕自身、一番書きたいのはコントなんですけど、ドラマの脚本を書くにあたっては、メンバー全員が出演できることがモチベーションになっています。ドラマに出演することで、メンバー達が役者として成長して、経験を積めればいいなと思って。

——蓮見さん以外のメンバーは7人いますが、みなさん、笑いとは直接関係のない俳優仕事と、コントで笑いをとるための役を演じる仕事と、どちらを目指しているのでしょうか。

蓮見:もともとメンバー全員が俳優を目指していて、誰も笑いをやるつもりはなかったんです。ダウ90000を結成してから、だんだんとコントの役を演じていくうちに、笑いのことも学んでいった感じですね。最初は、というか今でも、コントもやっていて損はないだろう、くらいのテンションだと思います。

——俳優志望の人達とコントを作るうえでの難しさはありますか?

蓮見:今はみんなだいぶわかってきましたが、最初の頃は、台本を読んで「ここで笑いをとるんだな」というのを理解するのに時間がかかってましたね。今も稽古をしていて、笑いのポイントを大きく間違えることもあるんですけど、むしろ喜ばしいことなんです。それまでは、そもそも笑わせようという意識がなくて、ただセリフを読んでいるだけだったので。大きく間違えたとしても、笑わせようとした、というだけで成長の証です。

——とはいえ、芸人と俳優の決定的な違いとして、俳優の場合、あまりにウケを狙った芝居をすると、かえってウケないことがありますよね。

蓮見:そこのバランスは確かに難しいですね。でも、あまりにウケを狙わない自然な芝居をされると、笑わせるためのセリフであっても、ただただ普通の会話として流れていっちゃう。なので、ボケ役とかは関係なく、全員が笑わせるためのお芝居をやっているんだ、という意識はやっぱり必要だと思います。

視覚的な楽しさはすべてセットに任せたい

——『今日、ドイツ村は光らない』は、日本テレビの『有吉の壁』などを手掛ける橋本和明さんが総合演出を務めています。

蓮見:橋本さんには、打ち合わせの段階から「何がやりたいですか?」と、僕の希望を聞いていただきました。前からフードワゴンが登場する話をやりたいと思っていたんですが、劇場の舞台の上ではご飯を食べることができないので、やるチャンスがないんです、という話をしたら、すぐに「じゃあそれにしましょう」と。そこからフードワゴンを使ったロケができる場所をいろいろ探してくださって。東京ドイツ村なら撮影許可が下りるっていうことで、舞台がドイツ村になりました。

——ドイツ村を舞台にしたドラマをやりたい、という構想があったわけではないんですね。

蓮見:実は違うんです。まずはフードワゴンありきで。ロケ場所としてドイツ村が候補に挙がって、じゃあドイツ村で書きます、という順番ですね。でも結果的に、いろいろ想像が膨らむシチュエーションだったので書きやすかったです。

——舞台で演劇やコントをやる際は、シチュエーション=美術セットに対して、どのように考えていますか?

蓮見:お客さんが劇場に入ってきて、パッと舞台の上を見た時に、そこになさそうなものがあったほうが、おもしろがってもらえるんじゃないかなとは思っています。ダウ90000の場合、舞台上で歌ったり踊ったりといった動きがほとんどなくて、基本的に会話劇で話を進めていくので、視覚的な楽しさはすべてセットに任せちゃいたいんです。そのうえで、舞台の上で何かのシチュエーションを再現するのなら、本物に近ければ近いほうがおもしろいかなと。

例えば、設定を観覧車にした場合、舞台の上にまるで本物みたいな観覧車のセットがあったとしたら、それだけでおもしろいし、わくわくするじゃないですか。そこからさらに、その観覧車というシチュエーションをうまく利用した笑いも作りやすい。でもそれが、ドラマや映画などの映像表現になると、普通に本物の観覧車を使って撮影することになるので、舞台のように「そこに観覧車がある」っていうだけのおもしろさはなくなってしまう。映像の脚本を書くようになってからは、舞台だからこそ出せるおもしろさと、実写だからこそのおもしろさと、その違いを改めて意識するようになりました。

——今年の9月には、フジテレビで『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』という、1時間の特別ドラマの脚本も書いていました。

蓮見:あれは温泉旅館を舞台にした一夜を描くドラマだったので、何かしら本物の旅館や温泉を活かしたシーンがほしいと思って、「お風呂で泳ぐ」っていうシーンを書きました。旅館の大きいお風呂で泳ぐっていうのは、舞台では絶対にできないことなので。そういうシーンを書けるのはドラマならではの楽しさですよね。

——ドラマには蓮見さんご自身も出演されていますが、役者として映像作品と関わってみて、どんなことを感じましたか?

蓮見:カメラの前だと、劇場のお客さんのような笑い声は起きないので、完全にスベってる感覚になるんです。それが結構つらくて。しかも、いま僕は25歳で、スタッフさんは40代くらいの方も多いので、どうしてもビクビクしちゃう。もちろん、対等に仕事相手として見てくれてはいるんですけど、こっちが大人達の圧を勝手に感じちゃって。本物の役者さんは、そういうことにもビビらないで、カメラの前でも全力でやっているんだなってことが身にしみてわかりました。

コントはものすごく特殊な表現

——映像作品の場合、特にコントと比べると、脚本のト書きも重要になってきますよね。

蓮見:そうです、ほんと、そこなんですよ。僕はト書きを書くのがすごい苦手で。ダウ90000の台本は、ほぼほぼセリフしか書いてないんです。あってもセリフの下にカッコで(立つ)とか(歩きながら)とかくらい。とにかく会話のおもしろさだけを追求して書いていると、ト書きまで頭がまわらないんです。

今は未熟なので、ドラマの現場にいるスタッフさんに、脚本から想像してどんどん決めてもらっている状態ですが、これからの目標の1つはト書きですね。会話だけではない、ト書きを映像にした時のおもしろさも書けるようになりたいです。と言いながら、僕、大学は映画学科なんですよね。だから映像も勉強したはずなんですけど……。

——学生時代に映画学科で作った作品も、会話が多かったんですか?

蓮見:多かったですね。大学時代の先生からも「同じシーンが長すぎる」「観ている側は退屈するよ」「そういう映画があってもいいけど、それしか作らないのはあまり得策じゃない」って言われてましたから。それでコントのほうにいったんです。コントはセットがなくても、会話だけで十分に成立するので、そこが最高なんです。小道具すら必要なくて、マイムでいけるじゃないですか。映像だったらありえない。そう考えると、コントってものすごく特殊な表現なんですよね。

岸田戯曲賞の選評にはすごく納得した

——好きなテレビドラマや、影響を受けたドラマの脚本家はいますか?

蓮見:それが本当にまったくドラマを見てこなかったんです。お笑いしか見てきてない。でも、ドラマのお話をいただくようになって、さすがに何も見ていないのはまずいだろうと思って、慌ててちょっとずつ見るようになりました。

——どういった作品を見たんですか?

蓮見:ベタに坂元裕二さん脚本のドラマです。今さらこんなこと言うのはあれですが、ドラマってめっちゃおもしろいなと思いました。

自分が書く台本のテンポは、ドラマとは相性よくないと思ってたんです。根本的に笑いを目指しているので、それを連続で10話とか見続けるのもきついだろうなって。でも坂元裕二さんのドラマを見てみると、声に出して笑うタイプとは違うけれど、確実におもしろさが仕込まれていました。しかも、言葉があとあと残る作りになっていて。いつかそういう脚本も書けるようになりたいです。

——戯曲でいうと、今年はダウ90000の第2回本公演『旅館じゃないんだからさ』が、第66回岸田國士戯曲賞の最終選考にまで残りましたね。

蓮見:ちょっと引いちゃうくらい驚きました。まだ本公演としては2回目でしたし、劇場もユーロライブですからね。まさか選ばれるなんて。そういう意味では、いつかかなったらいいなと思っていたことが、今年全部できたんです。

ただ、嬉しかったのは間違いないのですが、選評にあった<「いや、なにがなんでもこの作品を」と食い下がるには至らなかった。>(※)という言葉を読んで、すごく納得もしたんです。確かにその通りだよなって。

自分としても、賞をもらえるような、誰かに深く刺さる、意義のあるものを書こうとはまったく思っていないので、最終選考にまで残り、あの選評をもらった時点で、もう評価としてはマックスなんですよね。現時点での活動を考えると、目標は達成したと言えるのかなと。だからこの先、今までとは別の新しい方向性なり、書きたいテーマを見つけた時に、ちゃんと受賞したいです。

(※)選考委員であるケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の選評より。選評の全文は主催である白水社のHPに掲載。
https://www.hakusuisha.co.jp/news/n47204.html

——演劇とコントとドラマと、それぞれの書き分けについては、どういう意識を持っていますか?

蓮見:特に書き方とかを変えている意識はなくて、尺の違いだけですね。あえて言うとすれば、演劇の時は一応なんとなくでもテーマがあるほうが芯を作れるので、お客さんも満足してくれるのかなと思います。ただ、テーマと言いながらも、ぼんやりしているくらいがちょうどよくて、例えば「人には親切にしよう」とか、ほんとそういう。僕にはまだ人に伝えたいことが見つかっていなくて、メッセージを込めたりはできないので、テーマに沿ってちょっといい話に展開させたほうが、ボケのフリに使えるなとか。テーマといっても、そのくらいのものです。

——ダウ90000のコントでは、恋愛をモチーフにしたネタが多いですよね。

蓮見:男女混合の8人組ですし、僕も個人的に恋愛ネタが大好きなので、ダウのコントは恋愛ネタばっかりですね。

——今年の「キングオブコント」決勝を見ていたら、男女の恋愛ネタがとにかく多くて。あれはなぜなのでしょう?

蓮見:それはやっぱり、男と女の恋愛ネタは、設定や状況を理解してもらえるスピードが圧倒的に早くて、感情の起伏を起こしやすくて、盛り上がるポイントが作りやすくて、賞レース向きのネタを作るには最高の題材なんですよ。

告白をモチーフにするとしたら、抜群に上手いタイミングで告白しても盛り上がるし、超下手なタイミングで告白しても笑いになるし、告白しようとしてできなくても盛り上がる。期待を裏切らないベタな展開も盛り上がるし、期待を裏切る展開も盛り上がる。男女が2人いるシチュエーションは、コントと相性が良過ぎるんですよね。それで数が増えるんだと思います。

ダウも恋愛ネタだらけなので、あんまり数としては増えてほしくないと思う一方で、これだけ恋愛ネタのコントがあふれる中で、まだ誰もやっていない恋愛ネタが作れたら、それはそれで目立ちますし、達成感も生まれるので、しばらく恋愛ネタは続けていこうとは思っています。

Huluショートドラマ『今日、ドイツ村は光らない』

Huluショートドラマ『今日、ドイツ村は光らない』
舞台は、イルミネーションを最大の目玉とする、東京ドイツ村の、イルミネーションが始まる前日、いわば1年で“最も暇な1日”。そこにやって来た1台のフードワゴンと、そこに並ぶ6人の男女+従業員2人。9人の男女が抱えるややこしい事情が絡まり合い、“もっとも素敵な1日”を紡ぎ出す。
出演:小関裕太、ダウ90000
総合演出:橋本和明
脚本:蓮見翔(ダウ90000)
演出:岡本充史(AX-ON)
プロデューサー:鈴木将大、柴田裕基(AX-ON)
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作プロダクション:AX-ON
製作著作:日本テレビhttps://www.hulu.jp/watch/100125362

Photography Masashi Ura

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新世代芸人・ヨネダ2000、愛と誠の大きな夢 「全人類を笑わせたい」「私もです」 https://tokion.jp/2022/10/07/interview-yoneda2000/ Fri, 07 Oct 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=148853 漫才でもコントでも注目を集める若手お笑いコンビ・ヨネダ2000。結成から今に至るまでの話を聞いた。

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ヨネダ2000の誠(左)と愛(右)

ヨネダ2000(よねだにせん)
2020年4月1日に結成された愛と誠によるコンビ。東京NSC23期。
https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=8816
YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCVMkKU4VuJd2TYBdGZQnBxg


1999年3月25日生まれ。東京都世田谷区出身。趣味はテニス、絵を描くこと、物作り、音楽鑑賞。特技はハーモニカ、散髪、顔剃り(理容師免許取得)。
Twitter:@shimizu_yoneda
Instagram:@shimizu_zu
note:https://note.com/yoneda2000/


1996年9月19日生まれ。神奈川県横浜市出身。趣味は動物鑑賞、音楽鑑賞、SMAP。特技は犬の基本的なしつけ、ブルースハープ(ハーモニカ)、肩もみ。
Twitter:@yonedaai2000
Instagram:@yonedaai2000

昨年、結成1年半というキャリアで『M-1グランプリ 2021』準決勝進出、『THE W 2021』決勝進出という快挙で注目を集めた新世代のお笑いコンビ・ヨネダ2000。1996年生まれの愛と、1999年生まれの誠は、2018年に初めてコンビを結成。その後、もう1人を加えたトリオでの活動を経て、2020年に再びコンビとなった。そして今年、『キングオブコント2022』で準決勝まで進み、コントでも日本有数のお笑い芸人であることを証明した。漫才の固定観念を覆すようなネタを披露し、フレッシュな才能を開花させた2人は、これまでどんな道を歩んできたのか。

——お二人がお笑い芸人になろうと決めたのは、いつ頃なんですか?

愛:私は専門学校の2年生の時、就活のタイミングです。動物園の飼育員になりたくて、ドッグトレーナーの専門学校に通っていました。まわりの同級生達がペットショップとか動物病院とかを志望して就活しているのを見ながら、私もインターンに参加したりはしていたんですけど、このまま就職して人生を終わらせるのも違うかなって。それで、専門学校を卒業したあと、東京のNSCに入りました。

——その前から芸人に憧れはあったんですか?

愛:ありました。高校の時も芸人になりたいっていう思いはあったんですど、兄弟は頭も良くてちゃんとした学校に行ってるし、なかなか親には言えなくて。動物は小さい頃からずっと好きだったので、冷静に考えて、とりあえず専門学校には行こうと。ただ、このまま就職してしまったら、もう芸人の道に入るのは難しいだろうなと思って、決心して、親にちゃんと言いました。

——誠さんは、いつ頃ですか?

誠:職業としてお笑い芸人を意識したのが中2くらいで、養成所について調べたりしたのが高2くらいです。とにかく勉強が苦手で、私にも賢い兄がいるんですけど、兄みたいになるのは絶対に無理だってわかってたんですよね。それで、両親に「高校を卒業したらNSCに入りたい」って言ったら、うちの実家は理容室なので、「理容師免許は取りなさい」って言われて、NSCと理容学校をダブルスクールで通いました。なので、一応理容師免許は持ってます。

——学生の頃は、どういうお笑いを見ていたんですか?

誠:ダウンタウンさんが好きだったので、『リンカーン』(TBS/2005〜2013年)とか『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ/1989年〜)とかを家族でよく見ていました。

愛:私は『はねるのトびら』(フジテレビ/2001〜2012年)とか『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ/2007〜2014年)が大好きで、はんにゃさんやフルーツポンチさんに憧れてました。

——ネタというよりは、バラエティ番組がきっかけだった?

愛:そうですね。私が高校生の時は、ちょうど『M-1グランプリ』もやっていない時期で、テレビはネタ番組よりバラエティのほうが多かったんです。

誠:私もバラエティ番組ばっかり見てました。

——お笑い芸人やバラエティ好きは、クラスにもたくさんいましたか?

誠:私の周りにはお笑いの話をできる人はいなかったです。やっぱりジャニーズとかのほうが人気だったのかな……いや、すみません、周りと情報交換していなかったので、正直あんまりわかりません。

愛:ジャニーズは人気でしたよ。ドラマの『花より男子』とかが流行っていて、嵐を好きな子はたくさんいました。でも『はねるのトびら』も見てる同級生はけっこういましたし、小学生の時はCOWCOWさんの「あたりまえ体操」が流行っていたので、放課後に友達と真似したりして遊んでました。

——芸人を志した時点では、ネタというより、バラエティ番組がやりたかった?

愛:はい。『爆笑レッドシアター』(フジテレビ/2009〜2010年)とかを見ていて、個性的なキャラが出てくるユニットコントに憧れてました。

誠:私はバラエティも好きでしたけど、ネタもやりたいと思ってました。高校生の時から自分でネタも書いていたので。ただ、書いている当時はおもしろいって思ってたんですけど、いま読み返すと全然おもしろくないです……。

体を張って果敢に挑む森三中はかっこいい

——芸人の養成所は各事務所にありますが、NSCを選んだのはどういう理由で?

愛:一緒に入る友達がいなかったので、1人で入るなら同期が多いNSC がいいかなと思って。

誠:私も愛さんと同じ理由です。あとは、好きだった芸人さんがよしもとの方が多かったので。

——お2人がNSCに通っていた当時、男女比はどのくらいでしたか?

愛:入学したのが390人くらいで、そのうち女性は30人くらいでした。

誠:それでも多いほうだと思います。

——NSCに入ったあと、視聴者とは違う目線で、影響を受けた芸人はいますか?

誠:あの頃は令和ロマンとか、大学時代に学生お笑いをやっていた同期に一番影響を受けてましたね。まだ養成所の生徒なのに、ネタがすごい仕上がっていて、どうやったらあんな完成度の高いネタを書けるんだろうって、ずっと不思議に思っていました。

愛:やっぱり養成所から始めた初心者と、大学で4年間やってきた人達の差は圧倒的でした。『M-1グランプリ』の決勝戦を見ても、普通に遠い世界のように感じるけれど、同期だと身近な分、その差がリアルにわかるんですよ。

——芸人としてのスタートラインに立ってから、ロールモデルになるような芸人はいましたか?

誠:養成所で好きな芸人を聞かれた時には、「森三中さんです」って答えてました。

愛:私も森三中さんですね。中学生の頃から『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ/2007年〜)をよく見ていて、それぞれ3人が違った役割を担っていながら、全員おもしろいのがすごいなって。

誠:あの頃の森三中さんは、体を張った笑いも多くて、今はコンプライアンス的に良しとされないけれど、やっぱりおもしろいんですよね。何にでも果敢に挑んで笑いにしていく姿を見て、かっこいいなって思ってました。

--NSC在学中から「コンプライアンス」みたいなことは言われていたんですか?

愛:NSC時代は言われてなかったです。

誠:むしろNSCにいた頃は、女であることや容姿をネタにしたボケを入れろって言われてました。

愛:ただ、入れろって言われても、私達は上手くネタに入れられなかったんですよね。自分達なりに入れてみたつもりが、「どこに入れたんだ?」って言われたり。「意味がわからない」とかも言われて。女とか容姿をネタに入れる能力が全然なかった。

誠:そもそも入れなくてもいけると思ってましたし、どうせ使いこなせないなら、やらなくていいかって。ネタにしておもしろくなる人もいれば、おもしろくならない人もいるんですよね。愛さんがふくよかな体型なのもあって、たまに「最近は見た目とかをネタにできなくて困りませんか?」って聞かれたりすることもあるんですけど、「困りません」って答えるしかなくて。やろうと思ってもできないし、あんまり考えてないしっていう。

愛:でも、テレビのトーク番組とかだと、自分としては先輩の芸人さんにいじってほしいと思っていても、今はなかなかいじってもらえないじゃないですか。そこはどうしていいのか正直わからないですね。あんまりそういう番組に呼ばれていないので、直面することはまだ少ないんですけど、それでも何回かは、誰にも何も触れられずに終わるっていう状況になったことはあります。

『M-1』準決勝で初めて「ちゃんと道がつながってるんだ」

——2018年に霜降り明星が『M-1グランプリ』で優勝して以降、第七世代と呼ばれる芸人のブームがありましたが、当時はどんな気持ちで見ていましたか?

誠:ブームの頃は、私達は芸歴1〜2年目で、自分も芸人だっていう自覚はありましたけど、第七世代の芸人さん達は身近な存在ではなかったので、ほかのテレビで活躍している人達と同じように、遠い存在でしたね。単純にすごいなと思って見てました。

愛:劇場とかでもお会いしたことなかったので、ほんと、すごいなっていうだけでした。

——2022年の今、芸人がブームになっていると感じることはありますか?

誠:『ラヴィット』(TBS/2021年〜)とか、朝から芸人だらけの番組もありますし、私達が学生だった頃に比べると、お笑いに興味のない人でも芸人の名前を知っていたり、そういう流れは感じています。どうにかその流れに乗っかりたい。

愛:乗っかりたいです。

——ヨネダ2000としては、結成1年半で『M-1グランプリ 2021』準決勝進出、『THE W 2021』決勝戦に初出場して、一気に注目が集まりました。

誠:それまでは賞レース用のネタを作っていても、自分達が決勝まで行けることの現実味がなくて。去年『M-1グランプリ』の準決勝に行って「あ、行けるんだ」と思ったんです。誰にも知られてなくても行けるんだ、ちゃんと道がつながってるんだって、初めて実感しました。

愛:その前の年に『THE W 2020』の準決勝までは行っていて、そのあたりから意識が変わってきましたね。

誠:でも『M-1グランプリ』の反響はちょっとすご過ぎます。YouTubeでネタが配信されているっていうのも大きいと思うんですけど。

——そして今年は『キングオブコント2022』でも準決勝まで進みました。

誠:私に演技力がなさ過ぎるので、コントにはずっと苦手意識があったんです。やってもウケないし。それで漫才にシフトして。でも、今のスタイルが生まれてからは、コントも無理なくできるようになりました。

——漫才とはいえ、明確なボケとツッコミではないネタですね。

誠:賞レースのために変わったネタを作ろうと思ったわけではなくて、お互いにやりづらいことをどんどんなくしていったら、自然と今のネタになっていった感じです。

愛:私は性格的にも強いツッコミをするのが苦手で、それに、誠はいつも設定からしてずれているネタを作ってくるので、そこにいちいちツッコミを入れてしまったら身も蓋もないですし。

誠が考えてきたことは私が忠実に再現したい

——相方の愛さんから見て、誠さんのずれた発想はどこからきていると思いますか?

誠:それ知りたい、私も知りたい!

愛:いや、知りたいって言われても、私にもわかんないです(笑)。ただ、普段からおかしなことは言ってますね。思考が脳を通過してないんじゃないかって感じる時がしょっちゅうあります。

誠:さっきも言いましたけど、私はとにかくずっと勉強が苦手で、親がいろんな塾に通わせてくれたんですけど、ダメでした。

愛:誠は文字を書くのも嫌らしく、作ってきたネタを私に伝える時も口頭ですし、一応ネタ帳はあるんですけど、ネタ案と流れがざっくり書かれているだけで、セリフが書かれているとかではないんです。

誠:文字は極力書きたくないです。だからネタが台本という形で残ってなくて、久しぶりに「どすこい」のネタをやろうと思った時は、録画した『THE W 2021』を見直しました。

愛:自分で考えたセリフも忘れるので、私が誠に言われた通りのセリフを言ったら、新鮮に「それおもしろいね!」みたいな反応をします。

誠:すぐに忘れてしまうので……。

愛:でも、あんなネタを書ける人はどこにもいないので、私は誠のやりたいことは普段から止めないようにしてるんです。誠が考えてきたことは、なるべく私が忠実に再現したいって、いつも思ってます。

誠:愛さんはあまりできの良くないネタを持っていくと、ちゃんとそういう反応をしてくれるから安心なんですよね。だから、愛さんが笑わないネタはやらないようにしています。

私は愛さんのことがめちゃくちゃ好きです

——お2人は普段から仲いいんですか?

誠:私は愛さんのことがめちゃくちゃ好きです。芸人の相方としてだけじゃなく、友達としての相性もいいと、私は思ってます。

愛:私は……別に嫌いではないです。

——ちょっと温度差ありますね。

愛:私には誠じゃなくても、気の合う友達いますし。

誠:私にも友達はいるよ!

愛:あ、いるんだ。よかった。

誠:愛さんは自分が好きなものにしか興味がないんです。あと、自分のことも本当はしゃべりたくないんだと思います。

愛:それはありますね。別に自分のことを誰かに話す必要はないかなって。でも誠は、自分のこと私にめっちゃ話してきます。

——例えば、どういうことですか?

愛:あんまり聞いてないので細かくは覚えてないんですけど、1日の流れとかですかね。朝フルーツ食べたとか。あとは、自分が思ったことを全部伝えてきます。

誠:私は愛さんだから話してるんです。別にほかの人にはそんなこと言いません。

愛:自分からめっちゃ話してくるのに、話し終わったら満足して、スマホいじりだしたりするんですよ。私が質問とかしても無視するし。

誠:1つのことしか集中できないので……。

愛:だからすぐに物を見失うんです。しかも、見当たらないって思うと、一瞬で「ないないない!」ってマックスの騒ぎ方をして、5秒くらいすると見つかる。最初の頃は一緒に捜してましたけど、最近は「ないない!」って騒いでも無視ですね。どうせすぐ見つかるので。

誠:だいたいすぐ見つかります。

愛:「だいたい」じゃないよ。見つからなかったこと、1回もないじゃん。そういうところが嫌なんです。

「目標は全人類を笑わせること」「私も同じです」

——舞台ではいつも同じ衣装を着ていますが、どういう経緯でその衣装に決まったのでしょう?

愛:2020年に再結成して「ヨネダ2000」になってから、衣装どうしようかっていう話はずっとしていました。今の衣装に決まったのは『THE W 2021』の準決勝の前ですね。

誠:私が着ている緑のトレーナーは、下北沢の古着屋さんで買ったので、1着しかないんです。他の衣装も探したりはしてますけど、見つかるまではこの1着でどうにか頑張ります。

愛:私も同じ柄は1着しかないですけど、違う柄もあるので3着を着回しています。牛とイルカと、ほとんど着てない馬が3頭いるTシャツです。

誠:愛さんのTシャツは衣装用に買ったものですけど、私のトレーナーはもともと私服だったんです。神保町よしもと漫才劇場で、たまたま通りかかった「素敵じゃないか」というコンビの吉野さんに「いい衣装やね」ってほめていただいて。「いや、これ私服なんですよ」って言ったら「それ衣装でいいんじゃない?」と言われたので、じゃあそうしようってことで、この衣装になりました。

——衣装用に買った服が別にあったんですね。

誠:ありました。ちっちゃいマーブル柄の、水面に絵の具がいっぱい描いてある服で……。

愛:あの服にしなくて本当によかったね。

——今後の目標はありますか?

誠:一番大きい目標は、全人類を笑わせたいです。

愛:私もです。前に劇場のトークコーナーで同じ質問をされたことがあって、二人とも答えが一緒だったんですよ。「全人類を笑わせたい」って。

——では最後に。ヨネダ2000のネタには、たびたびミュージシャンの名前や曲が出てきますよね。

誠:はい、使わせてもらってます。

——長渕剛は好きなんですか?

誠:普通です。

——Def Techは?

誠:普通です。

——稲川淳二は?

誠:好きです。

——なるほど。ありがとうございました。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)


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芸人ラジオのニュースタンダード『ハライチのターン!』をめぐる、ラジオとハライチの絶妙な距離感——後編 鼎談:岩井勇気 × 澤部佑 × 宗岡芳樹 https://tokion.jp/2022/08/23/haraichi-yuki-iwai-x-yu-sawabe-vol2/ Tue, 23 Aug 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=140872 TBSラジオで放送中の人気番組『ハライチのターン!』。放送300回を迎え、ハライチの2人と番組ディレクターの宗岡芳樹の3人が番組作りについて語る。

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左からディレクターの宗岡芳樹、ハライチの岩井勇気、澤部佑

毎週木曜日、深夜24時からTBSラジオで放送されている番組『ハライチのターン!』が、6月23日に300回を迎えた。2014年4月にはじまった前身番組にして、ハライチ初のラジオレギュラー番組となった『デブッタンテ』を経て、2016年9月に『ハライチのターン!』がスタート。番組開始当時と比べると、大きく活動の幅を広げたハライチの岩井勇気と澤部佑が、ラジオと芸人をテーマに、現在までの8年間を振り返る。後編では、ハライチの2人に加えて、番組を裏で支えるラジオディレクターの宗岡芳樹にも同席してもらい、担当スタッフから見るハライチのラジオの魅力について語ってもらった。

前編はこちら

裏話もエピソードトークもするつもりはない

——宗岡さんから見て、ラジオパーソナリティとしてのハライチはいかがですか?

岩井勇気(以下、岩井):お、やっと宗岡さんの順番がきましたよ。

澤部佑(以下、澤部):何もしゃべらないで終わるかと思いきや、まわってきましたね。

宗岡芳樹(以下、宗岡):そもそも僕は『ハライチのターン!』を担当するまでは、芸人さんのラジオで1時間の番組ってやったことなかったんです。しかも収録で。前にいたニッポン放送の時に担当していた『オールナイトニッポン』は、2時間で、基本は生放送でしたから。『ハライチのターン!』は、最初から今も変わらず、冒頭に2人で話すトークゾーンがあって、次にコーナーが来て、最後に1人ずつのトークという構成。これを作った宮嵜さんはすごいなと思います。芸人さんのラジオ番組は、最初にフリートークがあって、コーナーは後半に持ってくるのが一般的なので。

それと、岩井さんはフリートークとは言わず、「トークゾーン」って言うんです。僕はそれがすごい好きで。岩井さんは、10分間なり15分間なり、音が出ていればいいんでしょっていう考えなんです。フリートークって言っちゃうと、いわゆるフリがあってオチがあって、みたいな、芸人さんのおもしろいエピソードトークを期待しちゃいますけど、そうではなく、とにかく音が出ていればいいと。

岩井:エピソードを話そうとはまったく思ってないですからね。説を唱えてもいいし、なんなら嘘ついてもいいし。

澤部:嘘はついちゃダメですけどね。

岩井:ラジオはエピソードトークをしなくちゃいけないって、誰が決めたんでしょうね。誰も決めてないと思いますよ。

宗岡:そういう考え方が、一般的な「深夜の芸人ラジオ」とは大きく違うんですよね。だからこそ、初めて聴くような人も入ってきやすい。それこそ僕が『オールナイトニッポン』を担当していたときは、まさにザ・内輪受け的な深夜ラジオをいろいろやってきたので、そのギャップは大きかったです。

——一方で、内輪受けのほうが熱狂を生みやすかったりはしませんか?

宗岡:う〜ん……どうなんでしょうね。一部そういうリスナーもいるかもしれませんが、初心者でも聴きやすいことを意識して間口を広げたところで、ヘビーリスナーを突き放すわけでもないですし、おもしろければ熱狂はしてくれるはず。それよりも、今のラジオは、とにかく新規のリスナーを獲得することが絶対的な使命なので、ハライチのやり方も正しいと僕は思います。

——テレビの裏話とかも、ほとんどしないですよね。

澤部:何かすごいおもしろいことがあったらしますけど、そんなにないですから。『平野レミの早わざレシピ!』くらいですね。

岩井:単純に自分自身が、テレビだったり芸能界の裏話とかを聴きたいって思ったことないんですよ。聴いてうれしかったこともないですし。ラジオだけじゃなく、テレビもあんまり見てこなかったんで。そもそも自分のこと芸能人だと思ってないですから。なので、普通の感覚として、仕事の裏話を他人にしようとも思わないし、特別な存在っていうか、芸能人のハライチ岩井としてしゃべるのも気持ち悪いって思っちゃうんです。あくまで1人の人間としてしゃべってるだけなので。

『ハライチのターン!』が新しいスタンダードを作った

——岩井さんのTwitterのプロフィール欄には、「大体のことはTBSラジオ『ハライチのターン!』を聴けばわかります」と書かれていますよね。

岩井:いろいろ書いてた時期もあったんですけど、あそこに情報をいっぱい書いてると、なんかガツガツしてるやつに見えていやだなと思って。仕事ください!って感じがするじゃないですか。

澤部:そういうふうに使ってる人もたくさんいるからね。

——このたび放送300回を迎えましたが、感慨はありますでしょうか。

澤部:まったくありません。通過点に過ぎないので。思い入れもないです。ただの通過点なので。

岩井:僕は感慨深いですよ。ついに300回か〜って。

澤部:ほんとに!? そんなこと思ってる?

岩井:『デブッタンテ』から数えると、もっと長いですからね。ラジオを聴いてこなかった人間のラジオがこんなに続くとは。非常に感慨深いです。

澤部:嘘くさいな〜。

——印象的なコーナーや思い出に残る回はありますか?

岩井:そういうのはないです。

澤部:それはないのかよ。

岩井:ないというか、まったく覚えてないです。

——長く続いているコーナーが1つもないのは、やはり珍しいですよね。

宗岡:固定のコーナーが全然ないのは珍しいですけど、『ハライチのターン!』以降、そういう流れにはなってきているのかもしれません。少なくとも、新しいスタンダードを作ったとは思います。ほかの番組では、いちいちコーナーの説明をしない場合もありますけど、『ハライチのターン!』では毎回必ず丁寧に説明してますからね。それでも2回とか3回で終わって、長くは続かないんですけど。

岩井:ちゃんと説明しないと、自分達でもどういうコーナーだったか覚えてないので。するしかないですよね。

澤部:ようやく覚えかけた4週目くらいになると、コーナーのはじまりに音が付いたりして、またわかんなくなっちゃうんですよ。で、音にもなれてきた頃には終わるっていう。

——宗岡さんは印象的な回ありますか?

宗岡:自分のことで大変恐縮ですが、僕の結婚式にハライチの2人が来てくれて、そのことを話した回ですね。僕の話とかは関係なく、同じ出来事を2人が体験して、それを2人がそれぞれ別の視点から語るって、まずないじゃないですか。そういう意味で貴重な放送だったなと思います。今でもたまに聴き返してます。

岩井:あの日はいろいろトラブルもありましたからね。

宗岡:2人とも披露宴から来てもらう予定が、呼んでない挙式から来ちゃったりとかね。

岩井:呼ばれてないのに誰よりも早く着きました。

澤部:僕は遅刻しましたし。2人とも招待状ちゃんと読んでないんですよ。

ラジオディレクターの特殊な能力

——ハライチのお2人から見て、ラジオディレクターとしての宗岡さんは、どんな人ですか?

岩井:宗岡さんって、ハライチのしゃべりを1回も滞らせたことがないんですよ。絶対に勢いを止めない。話を広げるとか、そういうことじゃなく、流れを遮らない能力っていうのがあるんですよね。

澤部:三四郎の小宮さんとたまに話すんですけど、ラジオディレクターってほんと異常な能力の持ち主なんです。僕らがしゃべっている時に、ぼそっとほんの一言だけ何か言ったりするんですけど、その速度だったりタイミングだったりが絶妙で、その能力何?っていう。

宗岡:収録でも生放送でも、現場におけるディレクターの仕事って、SEの音を出したりはしてますけど、それよりも大事なのは、滞りなくしゃべってもらいつつ、必要があれば何か一言入れることなんですよね。それだけが仕事と言ってもいいくらいで。

澤部:一言入れるときって、楽しいなぁって思ったりするんですか?

宗岡:すっごい楽しいです。

澤部:楽しいんだ!

宗岡:でも、こわさもありますよ。自分の一言で「え?」とかって流れが止まって、振り向かれたら一発で終わりなので。

澤部:それはそうですよね。

宗岡:だから『ハライチのターン!』の担当になった最初の頃は、ほとんど何も言ってないはずです。収録前とか後の楽屋で、ちゃんと関係性を作ってから、ようやく言えるようになりました。

——たとえばディレクターが一言も発しない、というのはダメなんですか?

宗岡:もちろん芸人さんは、それでも十分におもしろいしゃべりをしてくれます。でも、ディレクターの発言によって、1でも2でもプラスになることが必ずある。そのプラス1やプラス2をしなかったら、いる意味ないですからね。それこそ、ハライチのお2人だけでYouTubeやPodcastをやったとしても、絶対におもしろくなるのはわかっていますが、じゃあラジオでやる意味はどこにあるの、っていう。

——では最後に。かつてと比べて、ラジオ全体が盛り上がっているような動きは感じていますか?

宗岡:それこそ1980年代の『ビートたけしのオールナイトニッポン』みたいに、多くの若者が夢中で聴いていた時代のほうが盛り上がっていたとは思いますが、10年前と比べたら、いくらか盛り上がってるかなと思います。でも、その程度ですね。ものすごい盛り上がっているとは言えないでしょう。

澤部:雑誌とかウェブの取材は増えましたよね。なので、注目してくれている人はいるのかなって。

岩井:今の時代には合ってると思いますよ。何か作業しながら聴けるじゃないですか。みんな損したくないし。ラジオは耳だけなので得ですよね。あとは、たしかに「ラジオ聴いてます」って言われることは増えたんですけど、おれはそれも疑っていて。タレントとか「いつもラジオ聴いてます」って言っておけば芸人に好かれると思って、すぐ言うんですよ。なので、ラジオが好きとかじゃなく、「聴いてます」って言うためだけに聴いてる層が一定数いて、さらに、その「聴いてます」によって、盛り上がってる風の空気ができている。だから「ラジオ聴いてます」って言われても、おれは常に警戒してますよ。

ハライチ
幼稚園からの幼馴染だった岩井勇気と澤部佑が2006年に「ハライチ」結成。結成後すぐに注目を浴びる。
岩井勇気
1986年埼玉県生まれ。ボケ担当でネタも作っている。アニメと猫が大好き。特技はピアノ。
Twitter:@iwaiyu_ki
澤部佑
1986年埼玉県生まれ。ツッコミ担当。趣味はNBAとロックフェス巡り。特技はバスケットボール。

宗岡芳樹
1980年大阪府生まれ。2002年にニッポン放送入社。『ナインティナインのオールナイトニッポン』や『オードリーのオールナイトニッポン』を担当。ニッポン放送を退社後、2017年4月からTBSグロウディアでラジオディレクターを務める。『ハライチのターン!』のほか、『赤江珠緒たまむすび(木曜)』、『土曜朝6時 木梨の会。』などを担当している。
Twitter:@yoshiki_muneoka

■『ハライチのターン!』
毎週木曜日24:00〜25:00にTBSラジオで放送中
TBSラジオの深夜の入口をバッと盛り上げる、お笑い芸人による60分のトークバラエティ!
https://www.tbsradio.jp/ht/
Twitter:@tbsr_ht

■ハライチライブ『けもの道』
開催日:2022年10月23日
場所:LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
※詳細は追って発表

Photography Takahiro Otsuji(go relax E more)

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