演劇もコントもドラマも漫才も。すべてに才能を発揮するダウ90000・蓮見翔の創作力

蓮見翔
1997年4月8日、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。ダウ90000主宰。演劇やコントの作・演出を手掛けるほか、最近はドラマの脚本も手掛けている。JFN系列「Audee CONNECT」では水曜日レギュラーパーソナリティを務める。
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演劇とコントを軸に、時には漫才までも披露する8人組・ダウ90000。結成は2020年、メンバーの平均年齢は23.5歳。劇団とも名乗らず、芸人も自称しない。あえて立ち位置を曖昧にしながらも、キャリアは確実かつ猛スピードで積み上げている。第2回本公演の戯曲は岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされ、「キングオブコント2020」は準々決勝進出、「ABCお笑いグランプリ」では決勝に進出した。すべての作・演出を手掛けているのが主宰の蓮見翔。最近では『今日、ドイツ村は光らない』で連続ドラマの脚本も手掛けるなど、活躍の場をさらに広げている蓮見が、直近の活動と、この1年を振り返る。

もともとはメンバー全員が俳優志望

——進行中のお仕事では、Huluで配信されている『今日、ドイツ村は光らない』で連続ドラマの脚本を手掛けていますね。

蓮見翔(以下、蓮見):1話5分のミニドラマではありますが、いわゆる連ドラは初めてです。5分間という短い時間の中で、山場やオチを毎回つくりながら、次の話につなげていくのは難しかったですね。普段はコントでも演劇の脚本でも、1回で完結というか、連続ものは書いたことがなかったので。

——ドラマにはダウ90000のメンバー全員が出演しています。

蓮見:僕自身、一番書きたいのはコントなんですけど、ドラマの脚本を書くにあたっては、メンバー全員が出演できることがモチベーションになっています。ドラマに出演することで、メンバー達が役者として成長して、経験を積めればいいなと思って。

——蓮見さん以外のメンバーは7人いますが、みなさん、笑いとは直接関係のない俳優仕事と、コントで笑いをとるための役を演じる仕事と、どちらを目指しているのでしょうか。

蓮見:もともとメンバー全員が俳優を目指していて、誰も笑いをやるつもりはなかったんです。ダウ90000を結成してから、だんだんとコントの役を演じていくうちに、笑いのことも学んでいった感じですね。最初は、というか今でも、コントもやっていて損はないだろう、くらいのテンションだと思います。

——俳優志望の人達とコントを作るうえでの難しさはありますか?

蓮見:今はみんなだいぶわかってきましたが、最初の頃は、台本を読んで「ここで笑いをとるんだな」というのを理解するのに時間がかかってましたね。今も稽古をしていて、笑いのポイントを大きく間違えることもあるんですけど、むしろ喜ばしいことなんです。それまでは、そもそも笑わせようという意識がなくて、ただセリフを読んでいるだけだったので。大きく間違えたとしても、笑わせようとした、というだけで成長の証です。

——とはいえ、芸人と俳優の決定的な違いとして、俳優の場合、あまりにウケを狙った芝居をすると、かえってウケないことがありますよね。

蓮見:そこのバランスは確かに難しいですね。でも、あまりにウケを狙わない自然な芝居をされると、笑わせるためのセリフであっても、ただただ普通の会話として流れていっちゃう。なので、ボケ役とかは関係なく、全員が笑わせるためのお芝居をやっているんだ、という意識はやっぱり必要だと思います。

視覚的な楽しさはすべてセットに任せたい

——『今日、ドイツ村は光らない』は、日本テレビの『有吉の壁』などを手掛ける橋本和明さんが総合演出を務めています。

蓮見:橋本さんには、打ち合わせの段階から「何がやりたいですか?」と、僕の希望を聞いていただきました。前からフードワゴンが登場する話をやりたいと思っていたんですが、劇場の舞台の上ではご飯を食べることができないので、やるチャンスがないんです、という話をしたら、すぐに「じゃあそれにしましょう」と。そこからフードワゴンを使ったロケができる場所をいろいろ探してくださって。東京ドイツ村なら撮影許可が下りるっていうことで、舞台がドイツ村になりました。

——ドイツ村を舞台にしたドラマをやりたい、という構想があったわけではないんですね。

蓮見:実は違うんです。まずはフードワゴンありきで。ロケ場所としてドイツ村が候補に挙がって、じゃあドイツ村で書きます、という順番ですね。でも結果的に、いろいろ想像が膨らむシチュエーションだったので書きやすかったです。

——舞台で演劇やコントをやる際は、シチュエーション=美術セットに対して、どのように考えていますか?

蓮見:お客さんが劇場に入ってきて、パッと舞台の上を見た時に、そこになさそうなものがあったほうが、おもしろがってもらえるんじゃないかなとは思っています。ダウ90000の場合、舞台上で歌ったり踊ったりといった動きがほとんどなくて、基本的に会話劇で話を進めていくので、視覚的な楽しさはすべてセットに任せちゃいたいんです。そのうえで、舞台の上で何かのシチュエーションを再現するのなら、本物に近ければ近いほうがおもしろいかなと。

例えば、設定を観覧車にした場合、舞台の上にまるで本物みたいな観覧車のセットがあったとしたら、それだけでおもしろいし、わくわくするじゃないですか。そこからさらに、その観覧車というシチュエーションをうまく利用した笑いも作りやすい。でもそれが、ドラマや映画などの映像表現になると、普通に本物の観覧車を使って撮影することになるので、舞台のように「そこに観覧車がある」っていうだけのおもしろさはなくなってしまう。映像の脚本を書くようになってからは、舞台だからこそ出せるおもしろさと、実写だからこそのおもしろさと、その違いを改めて意識するようになりました。

——今年の9月には、フジテレビで『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』という、1時間の特別ドラマの脚本も書いていました。

蓮見:あれは温泉旅館を舞台にした一夜を描くドラマだったので、何かしら本物の旅館や温泉を活かしたシーンがほしいと思って、「お風呂で泳ぐ」っていうシーンを書きました。旅館の大きいお風呂で泳ぐっていうのは、舞台では絶対にできないことなので。そういうシーンを書けるのはドラマならではの楽しさですよね。

——ドラマには蓮見さんご自身も出演されていますが、役者として映像作品と関わってみて、どんなことを感じましたか?

蓮見:カメラの前だと、劇場のお客さんのような笑い声は起きないので、完全にスベってる感覚になるんです。それが結構つらくて。しかも、いま僕は25歳で、スタッフさんは40代くらいの方も多いので、どうしてもビクビクしちゃう。もちろん、対等に仕事相手として見てくれてはいるんですけど、こっちが大人達の圧を勝手に感じちゃって。本物の役者さんは、そういうことにもビビらないで、カメラの前でも全力でやっているんだなってことが身にしみてわかりました。

コントはものすごく特殊な表現

——映像作品の場合、特にコントと比べると、脚本のト書きも重要になってきますよね。

蓮見:そうです、ほんと、そこなんですよ。僕はト書きを書くのがすごい苦手で。ダウ90000の台本は、ほぼほぼセリフしか書いてないんです。あってもセリフの下にカッコで(立つ)とか(歩きながら)とかくらい。とにかく会話のおもしろさだけを追求して書いていると、ト書きまで頭がまわらないんです。

今は未熟なので、ドラマの現場にいるスタッフさんに、脚本から想像してどんどん決めてもらっている状態ですが、これからの目標の1つはト書きですね。会話だけではない、ト書きを映像にした時のおもしろさも書けるようになりたいです。と言いながら、僕、大学は映画学科なんですよね。だから映像も勉強したはずなんですけど……。

——学生時代に映画学科で作った作品も、会話が多かったんですか?

蓮見:多かったですね。大学時代の先生からも「同じシーンが長すぎる」「観ている側は退屈するよ」「そういう映画があってもいいけど、それしか作らないのはあまり得策じゃない」って言われてましたから。それでコントのほうにいったんです。コントはセットがなくても、会話だけで十分に成立するので、そこが最高なんです。小道具すら必要なくて、マイムでいけるじゃないですか。映像だったらありえない。そう考えると、コントってものすごく特殊な表現なんですよね。

岸田戯曲賞の選評にはすごく納得した

——好きなテレビドラマや、影響を受けたドラマの脚本家はいますか?

蓮見:それが本当にまったくドラマを見てこなかったんです。お笑いしか見てきてない。でも、ドラマのお話をいただくようになって、さすがに何も見ていないのはまずいだろうと思って、慌ててちょっとずつ見るようになりました。

——どういった作品を見たんですか?

蓮見:ベタに坂元裕二さん脚本のドラマです。今さらこんなこと言うのはあれですが、ドラマってめっちゃおもしろいなと思いました。

自分が書く台本のテンポは、ドラマとは相性よくないと思ってたんです。根本的に笑いを目指しているので、それを連続で10話とか見続けるのもきついだろうなって。でも坂元裕二さんのドラマを見てみると、声に出して笑うタイプとは違うけれど、確実におもしろさが仕込まれていました。しかも、言葉があとあと残る作りになっていて。いつかそういう脚本も書けるようになりたいです。

——戯曲でいうと、今年はダウ90000の第2回本公演『旅館じゃないんだからさ』が、第66回岸田國士戯曲賞の最終選考にまで残りましたね。

蓮見:ちょっと引いちゃうくらい驚きました。まだ本公演としては2回目でしたし、劇場もユーロライブですからね。まさか選ばれるなんて。そういう意味では、いつかかなったらいいなと思っていたことが、今年全部できたんです。

ただ、嬉しかったのは間違いないのですが、選評にあった<「いや、なにがなんでもこの作品を」と食い下がるには至らなかった。>(※)という言葉を読んで、すごく納得もしたんです。確かにその通りだよなって。

自分としても、賞をもらえるような、誰かに深く刺さる、意義のあるものを書こうとはまったく思っていないので、最終選考にまで残り、あの選評をもらった時点で、もう評価としてはマックスなんですよね。現時点での活動を考えると、目標は達成したと言えるのかなと。だからこの先、今までとは別の新しい方向性なり、書きたいテーマを見つけた時に、ちゃんと受賞したいです。

(※)選考委員であるケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の選評より。選評の全文は主催である白水社のHPに掲載。
https://www.hakusuisha.co.jp/news/n47204.html

——演劇とコントとドラマと、それぞれの書き分けについては、どういう意識を持っていますか?

蓮見:特に書き方とかを変えている意識はなくて、尺の違いだけですね。あえて言うとすれば、演劇の時は一応なんとなくでもテーマがあるほうが芯を作れるので、お客さんも満足してくれるのかなと思います。ただ、テーマと言いながらも、ぼんやりしているくらいがちょうどよくて、例えば「人には親切にしよう」とか、ほんとそういう。僕にはまだ人に伝えたいことが見つかっていなくて、メッセージを込めたりはできないので、テーマに沿ってちょっといい話に展開させたほうが、ボケのフリに使えるなとか。テーマといっても、そのくらいのものです。

——ダウ90000のコントでは、恋愛をモチーフにしたネタが多いですよね。

蓮見:男女混合の8人組ですし、僕も個人的に恋愛ネタが大好きなので、ダウのコントは恋愛ネタばっかりですね。

——今年の「キングオブコント」決勝を見ていたら、男女の恋愛ネタがとにかく多くて。あれはなぜなのでしょう?

蓮見:それはやっぱり、男と女の恋愛ネタは、設定や状況を理解してもらえるスピードが圧倒的に早くて、感情の起伏を起こしやすくて、盛り上がるポイントが作りやすくて、賞レース向きのネタを作るには最高の題材なんですよ。

告白をモチーフにするとしたら、抜群に上手いタイミングで告白しても盛り上がるし、超下手なタイミングで告白しても笑いになるし、告白しようとしてできなくても盛り上がる。期待を裏切らないベタな展開も盛り上がるし、期待を裏切る展開も盛り上がる。男女が2人いるシチュエーションは、コントと相性が良過ぎるんですよね。それで数が増えるんだと思います。

ダウも恋愛ネタだらけなので、あんまり数としては増えてほしくないと思う一方で、これだけ恋愛ネタのコントがあふれる中で、まだ誰もやっていない恋愛ネタが作れたら、それはそれで目立ちますし、達成感も生まれるので、しばらく恋愛ネタは続けていこうとは思っています。

Huluショートドラマ『今日、ドイツ村は光らない』

Huluショートドラマ『今日、ドイツ村は光らない』
舞台は、イルミネーションを最大の目玉とする、東京ドイツ村の、イルミネーションが始まる前日、いわば1年で“最も暇な1日”。そこにやって来た1台のフードワゴンと、そこに並ぶ6人の男女+従業員2人。9人の男女が抱えるややこしい事情が絡まり合い、“もっとも素敵な1日”を紡ぎ出す。
出演:小関裕太、ダウ90000
総合演出:橋本和明
脚本:蓮見翔(ダウ90000)
演出:岡本充史(AX-ON)
プロデューサー:鈴木将大、柴田裕基(AX-ON)
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作プロダクション:AX-ON
製作著作:日本テレビhttps://www.hulu.jp/watch/100125362

Photography Masashi Ura

author:

おぐらりゅうじ

1980年生まれ。編集など。雑誌「TV Bros.」編集部を経て、フリーランスの編集者・ライター・構成作家。映画『みうらじゅん&いとうせいこう ザ・スライドショーがやって来る!』構成・監督、テレビ東京『「ゴッドタン」完全読本』企画監修ほか。速水健朗との時事対談ポッドキャスト番組『すべてのニュースは賞味期限切れである』配信中。 https://linktr.ee/kigengire Twitter: @oguraryuji

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