連載:ものがたりとものづくり Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/連載:ものがたりとものづくり/ Fri, 29 Sep 2023 10:09:46 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 連載:ものがたりとものづくり Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/連載:ものがたりとものづくり/ 32 32 連載「ものがたりとものづくり」 vol.13:コラージュアーティスト・M!DOR! https://tokion.jp/2023/09/30/monogatari-and-monodukuri-vol13/ Sat, 30 Sep 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=210146 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第13回のゲストはコラージュアーティストのM!DOR!。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『ニャタレー夫人の恋人』(幻冬舎)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第13回はコラージュアーティストのM!DOR!が登場。

M!DOR!さんが挙げたのは次の3作品でした。

・岸田衿子・谷川俊太郎・松竹いね子(文)、堀内誠一(絵)『どうぶつしんぶん』(福音館書店)
・ジャック・プレヴェール、小笠原豊樹(訳)『プレヴェール詩集』(書肆ユリイカ)
・吉田篤弘『78(ナナハチ)』(小学館)

さて、この3作品にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

初めての“誰かに見せるものづくり”のきっかけになった、『どうぶつしんぶん』

──1冊めは『どうぶつしんぶん』。岸田衿子さん、谷川俊太郎さん、松竹いね子さん、堀内誠一さんによる共作の絵本です。

これは幼稚園の時に両親に買ってもらって読みました。もう最初に読んだ時のことは記憶にないんです。

親からは表紙に一目惚れしたっていう話を聞いていて。本屋さんで離さなかったから買ったんだよ、って。

──絵本はよく読んでいましたか?

読んでいましたね。『だるまちゃんとてんぐちゃん』とか。『ぐりとぐら』も読みました。あのへんはすごく好きで、たぶん何十回も読んでいますね。

イラストに惹かれることが多くて、けっこうジャケ買いが昔から多いんです。記憶にはないですが、『どうぶつしんぶん』も完全にジャケ買いですよね。

──絵を堀内誠一さんが担当していて、動物たちがかわいいですよね。

そうなんです。色使いもすごくかわいくて、好きな色の組み合わせなんですよね。

それで中を開くと、封筒のようになっていて、中に1枚ずつ新聞がたたんであるんです。

──四つ折りの新聞が4枚入っていて、それぞれ春・夏・秋・冬の号になっています。「どうぶつびすけっとがあって、どうぶつしんぶんがないというのは、どうかんがえてもおかしい」と発刊の辞が書かれています。編集長は「たかくわくまた」という熊。

もともと動物が大好きなんです。この動物が新聞を発行するっていう発想が、今考えても新しいなって。この新聞って4枚しかないですけど、何回読んでも楽しめるのがすごく不思議ですよね。
いろんな動物が連載を担当していて、人生相談だったり、詩が載っていたり。意外とシュールな文章もあって、今読み返すと当時理解できていたのかなとも思いますね。
谷川さんはあとになって詩集を読んだりしましたけれど、たぶんこれが初めての出会いですね。

──この絵本を読んで思ったのは、「自分も動物新聞を作ってみたいな」ってことでした。

そうなんですよね。実は私もこれに憧れてまねできるんじゃないかと思ったらしくて、1ヵ月に1回くらいのペースで自分なりの動物新聞を発行していたんです。両親だけに向けて。新聞を作って、折り紙で動物を折って付録も作ったりして渡したりとかしていましたね。それがある意味、制作の原点かもしれません。

──何かを作るのを初めて意識的にやったってことですね。

絵を描くということはやっていたと思うんですけど、だれかに見せることを意識してちゃんと作るっていうのは、それが初めてだと思います。

そのときリスを飼っていたんですけど、そのリスが書いた体裁の記事を載せていましたね。リスを見ながら絵を描いたりとか、クイズに正解したらリスからの招待状がもらえるとか。

3、4ヶ月は作っていたと思います。

──その新聞は今も残してありますか?

たぶん残していると思います。探したらあるかもしれないですね。

コラージュアーティストとしても敬愛する仏詩人の詩集、『プレヴェール詩集』

──次の本はジャック・プレヴェールの詩集です。この本と出会ったのはいつぐらいですか。

この詩集は2012年ごろに出会いました。大学を卒業してデザイン事務所に勤めていた時期ですね。

高校生ぐらいの時にちょっと絵に苦手意識があったんです。絵じゃない他の表現方法ってないかなって思っていた時に書店でロシア・アバンギャルドの本に出会って。そこのコラージュが使われた絵があってすごく惹かれたんです。

それでスクラップ・ブックみたいなのを作るところから始めて、少しずつコラージュをやるようになりました。

大学に入ってからはグラフィック・デザイナーになりたかったんですけど、コラージュは続けていました。それで大学を卒業して就職したぐらいの時にいろいろ画像検索をしていたら、ジャック・プレヴェールのコラージュ作品が出てきたんです。

──プレヴェールは詩人ですが、コラージュも作っているんですね?

そうですね。詩人として知るよりも先に、コラージュアーティストとして知りました。詩集を読んだのは、そのあとですね。

プレヴェールはケガをして入院している時に、リハビリのためにコラージュを始めたらしいんです。そのコラージュがすごくユーモアがあって、ひと目見た時にすごく惹かれたんです。

そこからプレヴェールって詩人が作ったことを知って、この詩集を読みました。そしたら、すごく心地よく入ってくる感じで。

──詩人との出会い方としては、珍しいですね。

本屋さんで見つけて、この表紙もすごくかわいいなって思って、プレヴェールを読みたかったので買おうと。これもジャケ買いですね。

読んでみると文体もとても読みやすくて、すっと入ってきて、ユーモアもあって。それはコラージュからも感じていたので、詩もコラージュも人間性が出ているなって。

私は「夜のパリ」っていう詩がすごく好きなんですけど。3本のマッチだけでここまで世界観を出せるんだなっていうことにすごくびっくりします。

──ぼくは「鳥への挨拶」という詩が好きです。さまざまな鳥が列挙されて、それに挨拶するという詩なんですけど。

けっこうプレヴェールの詩にも動物が出てきますよね。コラージュも動物の写真を使ったりしています。人間の顔が動物になっていたりとか。そういうところでも、プレヴェールも動物が好きだったんだなって親近感が湧きますね。

──プレヴェールはアニメ映画のシナリオもやっています。いろんなことをやる人だったんですね。

プレヴェールのコラージュ作品を生で見たくて、2014年にフランスへ行ったんです。プレヴェールは1977年に亡くなっているんですが、著作権団体に連絡して、ひたすら好きってことを伝えて。

そうしたら、その団体がプレヴェールの家をそのまま残しているんですけど、そこに招待してもらえて。私はフランス語ができないのでなんとか英語でコミュニケーションしながら。行ってみたら、キャビネットやベッドもそのまま残してあって、今も生活しているんじゃないかっていう温度感がそのまま保たれている感じでした。本棚には古い雑誌がたくさんあって、家具や調度品もプレヴェールの好きなものしか置いてないんだろうなって。

それで作品や家の中に残っているコラージュ素材とか、使っていた道具とかも見られました。

──この詩集を買ったのが2012年とおっしゃっていましたから、それから2年後にフランスへ行ったんですね。

実物を見たいと思ったんです。それを見たら何か変わる気がして。フランスに行くのも初めてでした。
作品を実際に見ると、本で見るよりも大きかったりとか、色とかも違ったりして、すごく衝撃を受けました。
まだ使っていない素材もそのまま保管してあって、これをどういうふうに使う予定だったんだろうなって想像力が湧いて楽しかったですね。

──なんだか“もの”にはパワーが宿りますよね。

そうなんですよね。作品もそうですし、人が使っていたものとかって、その人のことを感じられますよね。使っていた人が今いなくても。
古い雑誌を集めていると、ページのあいだに手紙が挟まっていたりして、どんな人が持っていたんだろうって想像してしまいますよね。

一番好きな小説家の、レコード愛好家にはたまらない短編集『78(ナナハチ)』

──続いては吉田篤弘さんの『78 ナナハチ』。

吉田篤弘さんはたぶん一番好きな小説家さんなんです。

今も新刊が出るたびに読んでいます。すごく独特な、吉田さんならではの不思議な世界観があって、毎回すごく惹かれています。

この『78(ナナハチ)』は、私がレコード好きっていうのもあって、78回転のレコードの話で始まるこの作品を選びました。好きで何回も読んでいます。

──この短編集の特徴はレコードがモチーフなことと、独立したそれぞれの話が少しだけ他の話とつながっているところですよね。

そうなんです。それぞれの話が微妙にいつもどこかでつながっていて、「あ、ここにつながるんだ」って、読んでいくうちにどんどん物語がつながっていく感じの流れも好きです。

──1つひとつは短編ですけど、少しずつつながっていて、大きな絵になっていく感じがあります。

吉田さんってたくさん小説を出していますけど、他の作品を読んでいるうちに「前にもこういうひと出てきた気がする」って思っていると、また違う物語が広がったりとか、そういうつながりもすごくおもしろいんです。

この本だと、短編ごとに実際にあるレコードのタイトルになっているんです。章扉もそのレコードのラベルになっていて。その音楽を聴きながら読むのも楽しいですよね。そのレコードを聴きながら読むと、またちょっと雰囲気が変わったりして、そういう仕掛けもいいですよね。

この小説の最後のほうに「ノアルイズ・レコード」って書いてあるんです。

──「Special Thanks to Noahlewis’ Record」と書かれていますね。

このお店って、78回転レコードを多く扱うお店なんです。

実は私もそのお店で初めて78回転のレコードを聞いたので、最後にこのお店の名前を見つけて、そういうところもつながったので思い入れがありますね。

──それはこの本と関係なく行っていた?

そうなんです。78回転レコードといえば、というような有名な店なんですけど。

レコードは父からプレイヤーをもらったのがきっかけで集めるようになりました。

もともとはザ・ローリング・ストーンズのレコードを手に入れて、どうしても聴きたいけどプレイヤーがないって状態の時に、父から使っていないレコードプレイヤーをもらいました。

ザ・ローリング・ストーンズからロックやパンクにハマっていって。パンクだと、レコードしか出していないバンドがいるんですよね。

──レコードで聴くことは特別な体験ですか?

CDで聴くのと、レコードで聴くのとでは全然違って聞こえます。

中古レコード屋さんに行って、ひたすら見ていって、「あ、あった」みたいな。ジャケ買いするのも楽しいですし。やっぱりジャケ買いが好きなんですよね。

アートとして成り立つけど、ちゃんとした音楽の媒体だっていうところもレコードってすごいなって思うところですね。そういうところが『78(ナナハチ)』でも物語になっていたので好きですね。

──プレヴェールの家に行ったのもそうですけど、実物に触れたいんですね。

そうですね。実物で、ちゃんと自分の目で見たいですし、好きな人には会いたいですね。

そうしたほうが、さらに好きになれたりとか、そこから吸収できるものが多いんじゃないかなって思います。

なので、やっぱり実物が好きですね。

──きっとジャケ買いも、実物がもたらす力なんでしょうね。M!DOR!さんのコラージュ作品にも、実物のパワーが宿っている気がします。ありがとうございました。

Photography Tasuku Amada

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.12:ぬいぐるみ作家・- 光線 – https://tokion.jp/2023/08/18/monogatari-and-monodukuri-vol12/ Fri, 18 Aug 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=203414 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第12回のゲストはぬいぐるみ作家・- 光線 -。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『ニャタレー夫人の恋人』(幻冬舎)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第12回はぬいぐるみ作家・- 光線 -が登場。

光線さんが挙げたのはつぎの3作品でした。

・林明子『こんとあき』(福音館書店)

・サン=テグジュペリ『星の王子さま』(新潮社)

・島田ゆか『バムとケロ』シリーズ(文溪堂)

さて、この3作品にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

ぬいぐるみと自分の関係性を重ねて読んだ、林明子『こんとあき』

──『こんとあき』は林明子さんによるロングセラーの絵本で、幼い子どもとぬいぐるみのの交流を描いています。

光線:『こんとあき』はたぶん私が生まれてすぐに母親が買った本だと思います。

絵本に出てくる「こん」ってぬいぐるみが動いているところが「ほんとうにぬいぐるみがこんな風に動いたらいいな」って思いながら読んでいました。

私もずっと大事にしているこんと同じぐらいのサイズ感のうさぎのぬいぐるみを持っていたので、それとすごく重なって。

──『こんとあき』の関係性が、自分とぬいぐるみの関係性と重なって思えたんですね。

光線:でも、大人になって読み返してみたら、「ほんとうはあきの中で喋っているだけなのかな」みたいな読みかたもできるなって思って。

私が小さい頃に、私のぬいぐるみが私の中で喋って動いていたみたいな感覚を、読んでいて思い出して。そういう深読みもできるのかなって感じました。

──こんは最初から動いてしゃべっていて、それがイメージの世界なのか現実なのか、絵本の中で明示されてないですよね。

光線:そう、ほんとうはあきの1人旅だったんじゃないかって読みかたもできますよね。

こんが砂丘で埋まっちゃうシーンがありますが、小さい声でしか喋らなくなるのが、あきの不安感を表現しているんじゃないかなと思って。

大人になって読み返したら、そういう視点もあり得るのかなって。

──子どもの時はあきに感情移入していたけれど、大人になるともっと引いた視点で見られるのかもしれませんね。

光線:こんの腕をあきのよだれで汚すシーンに泣いちゃったんです。

あきが成長していって、こんがちょっとずつ汚れていく。ほつれちゃったりして。

私のぬいぐるみも同じだったので、すごく胸が締めつけられました。

──『こんとあき』の中にもこんがケガをするシーンが出てきますが、ぬいぐるみって汚れたり、傷ついたりするものでもありますよね。

光線:そうなんですよ。私が大事にしているうさぎのぬいぐるみも、縫ったり洗ったりしていて。小さい頃から母親に糸の使いかたを習って縫ったりしていました。

幼稚園や旅行とかにも持っていっていたんで、汚れていってしまうんですよね。

私がつくったぬいぐるみを買った人からも、「直せますか」って問い合わせがきたりして、送ってもらって修繕していますね。

──そのうさぎのぬいぐるみは、今も家に?

光線:ありますよ。ベッドに置いてあります。

読み返して「大人側」の気持ちもわかるようになった、サン=テグジュペリ『星の王子さま』

──『星の王子さま』は1943年に出版された童話で、こちらもロングセラーで根強い人気のある作品ですね。

光線:『星の王子さま』を読んだのは中学生ぐらいの時ですね。

その時は読んだあとに、答えが出たというか、「こういうことが言いたいのね」って理解したつもりだったんです。

でも、これも大人になって読み返すと、うまくまとめられないというか、大人側の考えかたもわかるようになったというか……。

──『星の王子さま』では、いろんな星をめぐる中で大物気取りの男やずっと数字を数えている実業家が出てきます。

光線:昔は「大人ってつまらないよね」みたいなところで理解が止まっていて、でもその理由もわかるようになってきて、答えがどんどん出なくなる、というか。

なんとなく子ども向けみたいに捉えられていると思うんですけど、大人になって読むと、子ども向けなわけないんですよ。大人が大人に向けて書いた本なんですよ。

だからたぶん、最初に読んだ時、ぜんぜんわかってなかったんだと思います。

──サン=テグジュペリは献辞で「1人の大人」にささげると書いていますね。違う見方もできるようになったというのは、社会に出たからとか、そういうことなんでしょうか。

光線:そうですね。私は美大を卒業しておもちゃ会社でデザイナーとして採用されたんです。

デザイナーだったんですけど、1年目は営業とかもやって。その時出会った営業の先輩とか、考えかたが全く違うんです。

美大では知り合わなかったタイプの人と、会社員になってから出会ったんです。

──それこそ社会に出るというのは、『星の王子さま』がいろんな星を見ていくような感覚かもしれませんね。

光線:そうですよね。そういうことを知って、会社をやめてから、ぬいぐるみづくりを始めるんです。

会社員の時は仕事が忙しくて、そういう時間もなかったんですが、会社帰りにユザワヤへ寄って布を買ったりはしていたんです。なんでかわからないんですけど。

それがすごくたまった時に会社もやめて、転職活動のあいまに、趣味のつもりで始めたのがぬいぐるみづくりなんです。

──最初は趣味のつもりだったんですね。

光線:はい。SNSにアップしたら「欲しい」っていう人がいたので、それで販売を始めて。転職活動をやめて、この仕事に専念するようになりました。

──会社の星から、ぬいぐるみの星に行ったんですね。

細部の書き込みやページ内に潜む謎の小さな生き物も魅力の、島田ゆか『バムとケロ』シリーズ

──『バムとケロ』シリーズは1作目の『バムとケロのにちようび』が1994年に出版されて、現在までに5冊出ています。

光線:『バムとケロ』は私が小さい時に読んでいた絵本っていうよりも、弟が読んでいた絵本なんです。私が中学2年生とか、中学3年生の時ですね。家族でハマっていましたね。

『バムとケロ』シリーズって今5冊出ていますけど、その頃はまだそんなに出ていなくて、新しいのが出たらみんなで読むって感じでした。

──最新作の『バムとケロのもりのこや』は2011年ですね。最初に読んだ時は、どう感じましたか。

光線:中学生でまだ子どもの感覚が残っていたんですけど、バムとケロが暮らしているような家に住みたいなって思っていました。

こういう壁がヨーロッパ風で、こういうキッチンで、ポップな色使いで、屋根裏があって、みたいな。それが当時の私の心をすごくつかみました。

──この絵本の特徴は、引きの絵が多くて家具や小物、通りすがりのキャラクターがいっぱい書き込まれているところですよね。

光線:そうなんですよ。

この絵本はほんとうに1ページ1ページつくり込まれていて、これも大人になって読み返したら、「絵がうますぎる」って。昔は気にせず読んでいたけど。

──小物などのディテールもすごく書き込まれていますよね。

光線:全部のページに、物語の本筋とは関係のない小さなキャラクターとかが書かれていて、つぎのページに行くと違うアクションを起こしているとか。端っこのほうでやっていて、気づかなかったらほんとうに気づかない仕掛けですよね。

「ヤメピ」っていう小さな犬がいるんですけど、この犬は布があると、布の中に潜り込むんですよね。そういうのを探すのがすごく好きでしたね。

──いろんなキャラクターが、細部に隠れていますよね。しかも、それ自体の説明は何もない。

光線:そうなんです。こういう謎の小さな存在みたいなものが好きで。

小さいものっていいなって思うんです。小さければ、いろんなところに連れていってあげられるじゃないですか。

私がつくっているぬいぐるみも、それを意識しているんです。サイズも手のひらに乗せられるくらいにして。

『バムとケロ』の絵本に出てくるような、小さいけど何かいる、っていう存在にしたいなって思っていますね。

──インタビューを通して、ぬいぐるみと人間の関係性について考えることができました。光線さんのぬいぐるみのように、「何かいる」ってところが人間を癒やすのかもしれませんね。

Photography Kousuke Matsuki

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.11:アーティスト・市原えつこ https://tokion.jp/2023/06/30/monogatari-and-monodukuri-vol11/ Fri, 30 Jun 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=194384 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第11回のゲストはアーティスト・市原えつこ。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『ニャタレー夫人の恋人』(幻冬舎)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第11回はアーティスト・市原えつこが登場。

市原さんが挙げたのは次の3作品でした。

・宮沢章夫『牛への道』(新潮社)
・岡本太郎『日本再発見 芸術風土記』(新潮社)
・トーマス・トウェイツ『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(新潮社)

さて、この3作品にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

おもしろ過ぎて衝撃を受けた、恩師・宮沢章夫のエッセイ集『牛への道』

──1冊目は宮沢章夫さんの『牛への道』ですね。

これは一度目の学生生活で読んだ本ですね。早稲田大学の文化構想学部という学部の1期生だったんですけど、そこで劇作家の宮沢章夫先生の授業を熱心に受講していたんです。この本1冊というよりは、早大での学生生活のなかで最も影響を受けた先生の1人が、宮沢先生だったかもしれません。

授業ではサブカルチャーや都市空間論について講義をしていました。物語ではないので今回の選書からは外しましたが、『東京大学「ノイズ文化論」講義』(※)という本にもかなり影響を受けています。

『牛への道』はエッセイなんですが、おもしろ過ぎて衝撃を受けて、どんな言葉に影響を受けたかと聞かれて、すぐに思い出したのが宮沢先生のこの本でした。

※『東京大学「ノイズ文化論」講義』……宮沢章夫が東京大学で行った授業の講義録。社会から排除されていくものを「ノイズ」をキーワードにして考察していく。

──宮沢さんは2005年から早稲田大学で教員を務めていました。

授業を受けて「この異常におもしろい授業はなんなんだ」とぶっとんだ記憶があります。

授業の内容自体は、とてもクリティカルだったんです。いま都市に合理化が求められて、そうじゃないものはどんどん排除されていると。その授業から派生して、現代の都市では過度な清潔願望が高まって、身体的なものだけではなく、人間のどろどろした部分や、非合理的な部分も排除されていることに問題意識を持つようになりました。

そこから宮沢先生の授業に頻繁に潜りに行って、授業が終わったあとに宮沢先生と学生達でダラダラお喋りする会なんかが毎週あったんですが、宮沢先生の話がおもしろいから全部やたら熱心にメモしているみたいな学生でした

市原さんの作品に言及している2012年の宮沢さんのツイート

アカデミックなこともされているのだけど、この本を読んだらわかるんですが、冗談がすごくおもしろくて。身の回りのすごくどうでもいいことや日常の違和感を非常に解像度高く掘り下げていますよね。

──授業をとったのは偶然だったんですね。

もともとは美大に行こうと思っていたんですが、将来の安定などを考えると踏ん切りがつかなかったり、経済的な理由などいろいろな事情で文化構想学部に入学しました。つぶしの利くジェネラリストにもなれそうだし、表現に近い授業もいくらかは受けられるかなって感じで。それで宮沢先生の授業も受講したのだと思います。

2017年にわたしが文化庁メディア芸術祭で賞をとった時(※)に、NHKラジオで「すっぴん!」という番組を持たれていた宮沢先生のラジオに呼んでいただきました。アーティストとして活動を始めてからも、要所要所で見ていただいていたんだなと思います。

※メディア芸術祭で賞をとった時……文化庁メディア芸術祭で「デジタルシャーマン・プロジェクト」が第20回エンターテインメント部門優秀賞を受賞。

──卒業されてからもお会いになっていたんですね。

宮沢先生のラジオへ出た時に、「市原の作品には根底に冗談があるよね」って言われたんです。たぶん、根底に冗談があるスタンスは、そもそも宮沢先生からの影響だった可能性がありますね。

独自の視点、価値判断に共感を覚えた、岡本太郎『日本再発見 芸術風土記』

──市原さんはデジタルシャーマン・プロジェクトや未来SUSHIなど、日本文化と接点のある作品が多い気がします

若い頃はあまり自覚はなかったです。わたしは愛知県出身なんですけど、子どもの頃は地元でやっている土着の祭りとか、神社仏閣とかにはあまりピンときてなかったですね。

でも、大学3年生の夏休みに、自分が昔住んでいたところを見に行こうってなって、ついでにそこからさほど遠くなかった愛知県の犬山にある桃太郎神社に行ってみたんです。

山の上にあるんですけど、急勾配な坂を登っていったところにある鳥居の前に、いきなりスッポンポンの桃太郎の像とかが置いてあるんです。さらには宝物殿には「発掘された鬼の男根」とされているものが展示されていたり。「なんだこれ」って(笑)。そういう神社にたまたま出会ってしまって、いままで見過ごしてきた神社や風習や、地域信仰とかを見直そうと思って。

すると、性的なものや禁忌的なものが堂々と神聖なものとして祀られていたりするんですね。

──都市で生活していると出会わないようなものに。

ああ、そうですね。ちょっと現代社会のなかでは隠されているような。

──岡本さんの『日本再発見 芸術風土記』。これはいつ頃読まれたんですか。

2015年か2016年ですね。岡本太郎さんのことは、もちろん小さい頃から知っていたんですけど、2015年のちょうど会社をやめる直前の時期に、「デジタルシャーマン・プロジェクト」という作品を制作していました。死者の人格をロボットに宿らせるという趣旨の作品です。

そこから儀式や土着性についてもっと調べるようになって、その中で岡本太郎さんのこの本を読んだんです。

そしたら、岡本さんが秋田県のナマハゲや青森県のイタコとか久高島の風葬とか、私が興味を持っているものをことごとくリサーチしていると知って。

もうアニメの『耳をすませば』みたいな「全部、岡本太郎に先にやられている」って状態になりました。

──この本のなかでは、わりとはっきりと価値判断をしていますよね。

自分が持っている「これはおもしろい」「これはつまらない」って感覚が似ているなぁって思ったんです。

この本のなかでも「こういうものは退屈だ」ってズバズバ言っていることに共感して。自分の感覚の答え合わせみたいな感じで読みましたね。

岡本太郎さんはけっこう編集者っぽいことをしていますよね。いろんなもののおもしろさを独自に見出して、自分の観点からルポするみたいな。

──確かにジャーナリストっぽいところがあります。

2025年の大阪・関西万博の日本館のコンセプト策定の仕事をさせていただいたこともあって、大阪万博といえば太陽の塔じゃないですか。人生の要所要所で接点があるなと。

──土着的なものへの目線も接点がありそうです。

素朴な民衆がものすごい熱量で作ったものがいいというか。さっきの桃太郎神社もそうですよね。

──先ほどの宮沢さんの話ともつながる気がします。

宮沢先生は「ひどく現在的な貧しさ」ってことをよく言っていた気がします。経済的な合理性により、いろんなものが排除されて貧しくなっていくというようなことを。

綿密なリサーチと圧巻の行動力、社会への洞察力に引かれる、トーマス・トウェイツ『人間をお休みしてヤギになってみた結果』

──3冊目は『人間をお休みしてヤギになってみた結果』。これは2017年出版の本ですね。

これは本当に直近で読んだ本で、今年のゴールデンウィークに読みました。

4月に東京藝術大学の大学院に入ったんです。現役の時に美大進学をあきらめた話をしましたけど、やっぱりちゃんと美術の勉強をしたいなと今さら思いまして。いわゆる学び直しですね。

東京藝大の先端芸術表現科に小沢剛(※)先生という方がいるんです。10年以上前に小沢先生の広島市現代美術館での個展を観たのですが、それがずっと忘れられなくて先端を受験しました。

小沢先生の研究室では、いま藝大のキャンパスでヤギを育てて世話をしているんです。

※小沢剛……現代美術家、東京藝術大学先端芸術表現科教授。野菜で銃器を模した「ベジタブル・ウェポン」シリーズや歴史上の人物をモチーフにした「帰って来た」シリーズを制作。2019年に第69回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

──ヤギを育てている?

「ヤギの目で社会をみる『ヤギの目』プロジェクト」というものをやっているんです。

東京藝大の取手キャンパスって茨城県の里山のなかにあるんですけど、コロナ禍で人が来なくなった時に雑草がボーボーに生い茂り、景観もすごく荒れたそうなんですね。

構想自体は前からあったみたいなんですが、それで小沢先生がキャンパスでヤギを飼おうって。ヤギは景観動物とも呼ばれていて、雑草をめちゃくちゃ食べるんですよ。

いま学生達や食堂の職員さん、地域の方々のみなさんで協力してヤギを世話していて、わたしも餌をやったり小屋を掃除したり散歩させたりしているんです。

──ヤギの飼育をされているんですね。

そういった活動を通して、これまでの人生で全く接点のなかったヤギに興味を持つようになりました。ヤギって犬や猫と並んで人間の伴侶としての歴史もすごく長かったりするみたいで。

ヤギと一緒にいると自然に対しての解像度がすごく上がるんです。普段東京を歩いていても周りの環境に興味がなくて、スマホしか見ないじゃないですか。それこそノイズをシャットアウトしているんですけど、ヤギを育てていると、この草が好きなんだとか、ヤギの小屋を補修する時もこのへんの土は柔らかいから柵を立てにくいとか、そういった周りの環境への解像度が上がるのがおもしろかったんですよね。

──それで『人間をお休みしてヤギになってみた結果』を読んだ?

トーマス・トウェイツさんはイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートを出ていて、大学院の修了制作でトースターをつくって話題になりました。

この本ではトースターがすごく話題になった後、とはいえ30代になっても同世代の友人達が立派に働いているのとは対象的に彼の生活は安定せず、その現実に疲れている時に「人間をお休みしてゾウになりたい」と試行錯誤を始めたものの行き詰まり、知人からシャーマンを紹介されて会いに行ったら「ゾウじゃなくてヤギになれ」と言われて、それでヤギになることを目指すという。その後も、生物学者などちゃんと専門家に話を聞きに行っているところがおもしろいです。

──シャーマンが出てくるところも、市原さんへの親和性を感じます。

自分がこれまでやってきたメディアアートの分野と、いまやっているヤギという一見正反対なものをつなぐヒントになりそうなので読みました。

今年の11月に研究室でヤギをテーマにした展示を取手で開催する予定なので、その時にオンラインでもいいからトーマスさんをお呼びできないかなって考えています。

──トーマス・トウェイツさんの本は、社会への批評的な目線がありますよね。

そうですよね。トースターの場合はできあがった製品ばかり消費している現代社会だったり、ヤギになるプロジェクトの場合は人間として生きること自体をメタに捉える感じがありますよね。体当たりでアホなことをしているように見えて、社会に対する洞察だったり、科学的なリサーチだったりと視点が多くてとてもおもしろいですよね。

──いま市原さんもヤギについて調べている?

ヤギにもいろんな視点があるんです。

黒魔術のシンボルになっていますし、スケープゴートという言葉がある通り、生贄にもされてきた歴史もありましたし、悪魔の象徴として描かれることもありますし。

ヤギから得られる創作のインスピレーションやヒントが多いことに驚いています。小沢先生が突拍子もない思いつきで始めたようでいて、何か現代美術家としての直感がそこにはあったんだろうなと思います。

──市原さんの作品の根底にあるユーモア、土着的な要素、社会へのまなざしがこれらの本からも垣間見えますね。

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.9:詩人・菅原敏 https://tokion.jp/2023/04/22/monogatari-and-monodukuri-vol9/ Sat, 22 Apr 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=179820 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第9回のゲストは詩人・菅原敏。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『ニャタレー夫人の恋人』(幻冬舎)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第9回のゲストは詩人の菅原敏さんです。

菅原さんが挙げたのは次の3作品でした。

・リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』(白水社)
・イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』(河出書房新社)
・草野心平『口福無限』(講談社)

さて、この3作品にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

広い余白から風景が広がる、リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』

──『ほとんど記憶のない女』。こちらは短く、抽象的な内容のものもあって、とても詩的な作品に思えました。

菅原敏(以下、菅原):ジャンルとしては短編小説の部類に入ると思うんですが、自分の家の本棚では詩集のコーナーに収められています。

ページをめくるとわかるのですが、本当に2、3行で終わる超短編みたいなものから、寓話的なもの、日記のようなものなど不思議な読み味の短編集。どれもよけいな装飾が一切なく、最小限の言葉で果てしない世界を見せてくれます。

──短いにもかかわらず、受けとる印象はとても大きいように感じました。

菅原:とても行間が広く、余白のある1冊だと思うんです。そこが受けとる印象の大きさでもあり、詩の世界と重なると思っていて。

私も詩を書く時は、どちらかというと肉を削ぎ落としていくような書き方をしています。『ほとんど記憶のない女』とは、表現方法は違えど自分の詩作と通ずるものを感じました。

自分自身も最小限の無駄のない言葉で詩を書いていけたらと常々思っています。その余白に、読む人がそれぞれに自己を投影し、多くのものを重ねられるように。そんな部分でとても影響を受けた本です。

──行間から見える景色がすごく広いように思えます。

菅原:そうなんですよね。こんなにギュッと短いものなんですけど、途方もない場所に私達を不意に連れ出して、置き去りにしてしまう。見知らぬ場所に、知らぬ間に導かれてしまう。かくありたいなあと思います。

──こちらの本はいつ頃手に取ったんですか。

菅原:もう10年近く前だったと思います。リディア・デイヴィスは他の作品もありますが、一番初めに出会ったこの本の印象がとても強いですね。どこかブラックなところがあったり、すこしユーモラスな部分があったり、いろんな要素が散りばめられていますよね。

──言葉の使い方が独特です。それもこの作品の魅力になっているんでしょうね。

菅原:そう思います。どこかここではない世界の話のよう。固有名詞も、主人公の名前もほとんど描かれていなかったり。どの時代、どこの国、どこの街なのかもわからないけれど、どこにでもあり得そうな。

10年前に買った本ですが、読むたびに新しい出会いがあるのも、この本の魅力の1つ。先ほども行間や余白の話が出ましたが、かつて読んだ時とは違う読み方ができたりするんですよね。そのへんが自分の本棚の詩集コーナーに差し込まれている理由の1つかと。

──しばらくたって読み返すと、また違う読み方もできそうです。

菅原:ですね。どこから読んでも良いという意味でも詩集に近しい部分がありそうです。旅に持って行くこともありますし、ふと読み返したくなる不思議な魅力を持った一冊だなと思います。

幻想の都市へと連れ出してくれる、イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』

──こちらはイタロ・カルヴィーノの『見えない都市』。

菅原:マルコ・ポーロがモンゴルの皇帝フビライに見聞きした街のありようを伝えていく、ざっくりですがそんな内容です。

テキストによる建築、都市設計とも言えるような。言葉の可能性、言葉と空間の関係性に惹かれて、何度もページをめくった一冊です。

──言葉によって、都市を描写する作品ですね。

菅原:自分も建築家の中山英之さんとご一緒に「声で建てる家」という公演をしたことがありました。中山さんのドローイングとともに、屋根、窓、ドア、浴室といった家を構成するパーツの詩を1編ずつ読んでいく。

最終的には聞く人の頭の中に1軒の家を建てて、どんな家が建ったかをヒアリングするというもの。そのイベントなども、この1冊から大きいヒントをもらっているなと思います。

──詩と建築、一見離れているように思えますが、おもしろい相乗効果がありそうですね。

菅原:そうなんです。少し前ですが、毎晩「街に詩を注ぐ」ことをテーマにしたラジオ番組をJ-WAVEでやっていました。月曜日から木曜日まで毎夜違う街を選び、今日は六本木、明日は西荻、明後日は根津といった感じで。それらの街に詩を注ぐことによって、リスナーさんの頭の中に、街の姿がそれぞれに浮かびがってくるものになったらと。

当時はコロナ禍の真っ只中で、なかなか外出が難しい状況。そのため毎夜眠る前に、新たな街との出会いを叶えたり、夜の小さな散歩に連れ出せるような番組にしたいと思ったことが企画の始まりでした。

そういった言葉と街、詩と空間の関わりみたいなことを考えるきっかけになったのがこの『見えない都市』です。

──幻想的な都市の情景が描写されて、非常に引き込まれます。

菅原:きっと読む人それぞれに都市の情景が浮かびますよね。どこかにこんな街があったらいいなと理想の都市像を描いたり、かつてはこんな都市があったのでは思いを巡らせたり。

これも不意に読み返したくなる1冊で、始まりや終わりがあるものじゃないですし、小さな1つの旅に連れ出してくれるような本ですね。ある種の旅行記でもありますし。見知らぬ土地へ旅したい、そんな気持ちにも寄り添ってくれるはず。

──『見えない都市』っていうタイトルが、示唆に富んでいますね。「存在しない都市」ではないわけですよね。

菅原:そうなんです。それぞれがおぼろに描きだす都市の姿。陽炎のように一瞬その姿は揺らめいて浮かび上がるけれど、全体像を掴むことはできない、決してたどり着くことはできない。だからこそ強く求めてしまうのかもしれません。

──マルコ・ポーロといえば、『東方見聞録』。「黄金の国ジパング」も「見えない都市」として存在するのかもしれません。

「輪郭を捉えたい」という詩人の欲求が感じられる、草野心平『口福無限』

──草野心平さんの『口福無限』。こちらはエッセイですね。

菅原:くくりとしては食のエッセイになると思うんですが、この中に収められている花のサンドイッチについてのくだりがとても好きで。

彼が蓼科の山荘に住んでいた時に、ラッパ付きの蓄音機でバルトークを聴きながら、バゲットを薄く切り、トラピストバターやマーマレードを塗ったパンに、庭先で摘んできた色とりどりの花びらを乗せて食べるという1節があるんです。その情景がとても鮮やかに浮かんでくる。

読む前は無頼な印象が強かった詩人ですが、ここでは日々の暮らしを彼なりに丁寧に楽しんでいる。とても好きな1冊ですね。

──こちらはエッセイですが、草野心平さんは詩人として有名です。

菅原:もともとは草野心平の詩人としての作品に興味がありました。いわゆる蛙の詩人として教科書にも載っているので、牧歌的なイメージで見ている人も多いかと思うんですが、実際はかなり前衛的な試みをしていた詩人です。

彼は世界で一番短い詩というのを残していて。原稿用紙に黒い丸(⚫︎)だけを書いて、「冬眠」というタイトルを付けました。それは蛙が冬眠している姿を描いた詩なんです。

それ以外にもアルファベットの「Q」という字を紙の上にバラッと散らして、それをおたまじゃくしに見立てた詩だったり、ひらがなの「る」の字をずらっと並べて蛙の卵に見立てた詩を書いたりしています。

──とても視覚的な詩を書いていたんですね。

菅原:はい。彼の場合はいわゆる詩の運動として存在したヴィジュアル・ポエトリー(視覚詩)などの文脈からは離れたところで、独自の道のりから生まれてきたんだと思います。

幼い頃から豊かな自然の中で育ち、山のかたちや石のかたち、植物や生き物達の輪郭をつぶさに観察していた彼だからこそ、文字の造形を自分なりに捉えていた。

そこにすごくおもしろさを感じて。物ごとの輪郭を捉えたいという強い欲求があった人なんだろうなと勝手に感じています。

きっと食に関しても、そういった輪郭を捉えたかったんだと思います。

──食の輪郭を捉える?

菅原:草野心平は「酒場学校」というバーや「火の車」という居酒屋をやったり、自分で屋台を引いたり。詩人として机に向かうのと同じように、調理場やカウンターに立っていました。メニュー名の考案でも、ひとひねりあるような名前を付けていて。

食への探究心が並はずれていて、この本にも書かれていますが、サンショウウオの子どもを沢で見つけると、ひょいっと口に入れて食べちゃったりするんです。サワガニを見つけてすぐ、つまみ上げてバリバリ食べてしまったり。

おそらく口に入れることで、輪郭を噛みしめるというか、自分なりの方法でその生き物の肌理や骨格、香りや味を確認したかったのではと。

勝手な臆測ですが、そう感じています。

──自分で触る、それも口に入れる、というのは究極の捉え方かもしれません。

菅原:ですよね。まるで赤子のような純粋さも感じつつ。

福島県いわき市の山の中に、とても立派な記念文学館があるんです。そこへ行くと彼の肉声を色々と聞けるんです。ボタンを押すと、天井から詩の朗読が降ってくるような感覚。

深みのある渋い声で朗読しているんですけど、以前親戚の方にお話を聞いたら、どう聴かれるのかをかなり意識して朗読していた、みたいなことを仰っていて。

そんなエピソードも含めて、自分なりのアプローチでひたむきに詩の言葉に向き合ってきた人なんでしょうね。彼の詩人としての在り方、表現方法から多くのことを学んだ気がします。

──挙げていただいた3冊の共通点として、旅や体験といったものがありそうですね。

菅原:はい。これまでの創作活動の中で、まだ見ぬ場所へと導いてくれた本達。何かしらの体験へと拡張してくれた3冊だなと思います。

──菅原さんの「もしも詩が水だったなら」という活動コンセプトにも、「体験の拡張」がありそうです。

Photograpy Kouske Matsuki

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.7:コピーライター/「よくわからない店」店主・101 https://tokion.jp/2022/12/19/monogatari-and-monodukuri-vol7/ Mon, 19 Dec 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=160931 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第7回のゲストはコピーライター/「よくわからない店」店主・101。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第7回のゲストはコピーライターをやりながら「よくわからない店」でオリジナル商品づくりもしている101さんです。

『3歳語辞典』

『3歳語辞典』
101さんの初めての著作『3歳語辞典』。日常の中で3歳の息子が使っていたふしぎなことばたちを父として採録した新感覚エッセイ

101さんが挙げたのは次の3作品でした。

・村上春樹『風の歌を聴け』(講談社)

・太宰治「葉」(『晩年』所収、新潮社)

・リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』(河出書房新社)

さて、この3作品にはどんな”ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

純文学の世界へ誘ってくれた作家のデビュー作、村上春樹『風の歌を聴け』

──まず挙げていただいたのは村上春樹の『風の歌を聴け』。3冊の中で最初に読んだものがこちらなんですね。

101:18歳ぐらいの時までは、あまり本を読まなかったんですよ。18歳の時に、友達から『ねじまき鳥クロニクル』(※)を薦められたんです。読んだらぜんぜんわからなかったんですけど、なんかおもしろいなと思って。本を読むのも苦手だったんですけど、最後まで読めましたね。なんなのか全くわからなかったんですけど、読むのは苦痛じゃなくて。そういう本もあるんだなって。

※『ねじまき鳥クロニクル』……1994年に出版された村上春樹による長編小説。スパゲティーを茹でていた「僕」に女から電話がかかってくる。それは井戸の底まで続く長い探索のはじまりだった──。

──それ以前の小説へのイメージって、どんなものがありましたか。

101:本当に小さいころに読んだ小説っていうと、『十五少年漂流記』(※)ぐらいですね。ぜんぜん読んでいなくて。

高校の時は、ちゃんと学校に行ってなかったんですけど、クラスに居場所がないんで、何かを読んでなくちゃいけなかったんですよ。読んでいる間は話しかけられないっていうのがあったんで。だから、そういう時に赤川次郎のシリーズを読んでいましたね。読んだ小説は、そのぐらいですね。

※『十五少年漂流記』……ジュール・ヴェルヌが1888年に発表した冒険小説。無人島に漂着した少年たちがお互いに協力、時に対立しながらもたくましく生き残る。

──では、村上春樹がいわゆる初めての純文学だったんですね。

101:そうですね。本当に文章が読めなかった人間なので、断章形式っていうのが合っていたんでしょうね。ずっとつながっている物語だと読みづらくなっちゃうんですけど、この形式だと気楽に読めたんですね。

そこから村上春樹の主要作品はしばらく古い順に読んでいました。でも、ある瞬間に……『海辺のカフカ』ぐらいから全く読んでいないです。好きすぎて、読むと影響受けちゃうんですよ。なので、しばらく読むのをやめようと思って、読まなくなっちゃいました。

──それは影響を受けているなって気が付く何かがあったんですか。

101:大学に入学して、小説を書くゼミに入ったんですよ。小説を書きたいなって思って、文章を書くようになっていたんです。ゼミの講評で、村上春樹の影響を指摘されていたんです。

村上春樹を読んじゃうと、文章が村上春樹っぽくなっちゃうんですね。それが気持ち悪くなって、読まないぞって時期に入りました。

だから、それ以降の村上春樹の作品についてはわからないですね。

──18歳で初めて読んで、大学で読むのをやめたとなると、短期間にすごく読んでいたんですね。でも、その後は読んでいない。最新作も読んでいない?

101:読んでないですね。めちゃくちゃ読みたいんですけどね。でも、読んだらだめになっちゃう気がして。いつかのお楽しみにしたいと思います。

断片性に魅力を感じた、太宰治「葉」

──2冊目は太宰治の「葉」。太宰の作品は教科書に収録されていたりしますが、最初に太宰を読んだのは?

101:最初はたぶん『人間失格』ですね。18、19歳ぐらいの時でした。小学校の教科書なんかでは、『走れメロス』を読んだ気がしますけど、意識的に読んだのは『人間失格』です。

村上春樹がきっかけで本を読むようになって、「本って意外とおもしろいんだな」って思っていろいろ読むようになりました。

──それで「葉」も読んだ。どんな印象を受けましたか?

こんなに正直に書いていいんだなって思いましたね。作者が本当にさらけ出して書いている気がして、ここまで書いていいんだなって。

──村上春樹と太宰治は、作風が正反対な印象があります。

101:確かに。なんで読んだんでしょうね。ひょっとしたら、大学の授業でいろんな作品を知って、それがきっかけかもしれませんね。大学の授業では小説を読まされることも多かったですから。純文学を読む授業だったので。

──それで太宰の「葉」も読んだんですね。これは短編集の『晩年』の冒頭に収録されています。他にも作品はありますが、なぜ「葉」なのでしょうか。

101:昔から、小説のフォーマットにどうしても違和感を覚えてしまって。「葉」を最初に読んだ時に、「こんな書き方をしていいんだ」って斬新に思えたんです。

「葉」はいわゆる物語っぽい形式じゃないですよね。断片のきれぎれみたいな感じで。それがすごく気持ちよかったですね。

──村上春樹の『風の歌を聴け』も断章形式です。そういう意味では似ているのかもしれませんね。

101:断片的なものがすごく好きで、興味があるんです。断片的なもののほうがリアリティを感じるというか。人生も断片の寄せ集めみたいなものじゃないですか。断片の寄せ集めに、結果的に意味合いが生まれてくるというか。

物語性がないようでいて、断片の寄せ集めの中に物語が浮かび上がってくる感じが、自分にはすごく心地よいんですよね。

──確かに人生は断片的です。

101:自分の人生も、20代で10回ぐらい仕事を変えているんですけど、断片でぐっちゃぐちゃなんです。そういう自分の人生と、親和性があったのかもしれません。

人生って、全然つながっていないじゃないですか。でも、最終的にはなんだかつながっているような気もする。そういう断片的な書き方は好きですね。

──転職したり、会社をやめたりすると、チャプターが変わった感覚がするのは、すごくわかります。

ことばの自由さに気付かされる、リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』

──3冊目はリチャード・ブローティガンの『西瓜糖の日々』。ブローティガンは60年代から70年代にかけて活躍したアメリカの作家で、日本でも人気があります。

101:ある時期に、読みたい本がなくなったことがあるんです。本屋に行っても、買いたい本がわからなくなっちゃって。そんな時期に出会った本ですね。

最初に読んだのは『東京日記』(※)ですね。すごく好きになって。そのあとに読んだのが『西瓜糖の日々』ですね。ブローティガンは手に入るものはできるだけ読みましたね。

※『東京日記』……ブローティガンによる詩集。1ヵ月半の東京滞在の間に、日記のように書かれた。

──なぜブローティガンに惹かれたのでしょうか。

101:コピーライティングの仕事をしていると、ことばをすごくロジカルに扱うんです。それによる疲労もあって。そういう時にブローティガンの文章を読むと、「こんなに自由にことばを扱えるんだよな」って思い出させてもらえるんです。

──『西瓜糖の日々』はストーリーの筋はありますが、1つひとつの章はとても短いです。

101:わからないですけど、イメージの連鎖で書いているような感じがするんですよね。ことばのリズムやことば自体で世界がつくられているような感じがすごく好きですね。読んだあとに思い出せないぐらいよくわからない話だったんで、それもすごく好きです。ひとことで言えないというか。

──とてもふしぎな世界観ですよね。主人公の名前がなかったり、喋るトラが出てきたり。幻想的で、死後の世界のようにも読める。

101:この感じがすごく好きですね。ことばの組み立てかたとかもすごいですし。「なんだったんだろう」ってわからないのに、すごく気持ちいいっていう。ロジックで作られていない感じがして、自由だなって思いますね。

──ロジックから離れたいっていう願望があるのかもしれませんね。

101:そうですね。ロジックがないほうが、自然ですから。

──こうやって挙げていただいた3冊を並べてみますと、どれも予定調和から外れた小説ですね。やはりそこに魅力を感じているのでしょうか。

101:そうですね。予定調和じゃないほうが、リアリティを感じます。自分が1年後、何しているのかわからないのが自然じゃないですか。

Photography Tasuku Amada

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.05:イラストレーター/アーティスト・JUN OSON https://tokion.jp/2022/09/08/monogatari-and-monodukuri-vol5/ Thu, 08 Sep 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=143261 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第5回のゲストはイラストレーター/アーティストのJUN OSON。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第5回のゲストはイラストレーター、アーティストのJUN OSONさんです。

JUNさんは鎌倉在住のイラストレーター/アーティスト。さまざまなカルチャーへの愛や人・社会への鋭いまなざしが感じられる、ポップかつニヒル&シュールな作風を特徴としています。近年ではロンドンや香港での個展開催、ドバイやパリでのグループ展の参加など、国境を超えて活動の場を広げています。

そんなJUNさんが挙げたのは次の3作品でした。

・村上龍『限りなく透明に近いブルー』(講談社)
・横山裕一『ニュー土木』(イースト・プレス)
・三輪滋『たいようのきゅうでん』(復刊ドットコム)

さて、この3作品にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

小説についての固定観念を破壊してくれた、村上龍『限りなく透明に近いブルー』

──村上龍さんのデビュー作である『限りなく透明に近いブルー』。こちら何歳の時に出会ったのでしょうか?

JUN OSON(以下、JUN):確か20歳ぐらいですね。小説の主人公のリュウもそれぐらいですよね。当時大学生だったんですが、同級生から「村上龍って知っている?」って言われて、「名前は聞いたことあるけど、読んだことはないなぁ」って。「『限りなく透明に近いブルー』ってすごいよ。ぶっ飛んでいるよ」って言われて、じゃあ読んでみようかと思って買いました。

──『限りなく透明に近いブルー』は芥川賞も受賞した純文学作品ですが、純文学はけっこう読まれていたんですか?

JUN:小学生の時に教科書で夏目漱石とかを読むじゃないですか。そういうのを読んで、きらいではなかったですね。

ただ、小学校、中学校とそんなに本を読む子どもではなくて。ほんと久しぶりに読んだ感じですね。ちゃんと自分から読んだ小説っていうのは。

──読んでみた第一印象は覚えていますか。

JUN:ぶっ飛んでいるなって。小説でセックス、ドラッグ、ロックンロールが描かれるなんて想像もしてなかったですよね。

小説のイメージって、崇高な美しい物語であるっていうか。その固定観念が壊されました。こんな自由なんだって。価値観が思いきり壊されたって意味ですごく衝撃的でしたね。

──登場人物達と年齢が近い時期に読んだってことで、共感は覚えましたか。

JUN:うーん、単純にかっこいいって思いましたね。作品のロックンロールな雰囲気や退廃的な感じが刺さったんですよね。

まぁ、でも若者ってそうじゃないですか。誰しも自分のやりたいことがわからず、ちゃんとした大人になれるかわからずにモヤモヤしている時に、それを発散させてくれるものがあると刺さりますよね。そういう意味では共感していたのかな。

──先ほど固定観念が壊されたって言いましたが、『限りなく透明に近いブルー』には破壊力がありますよね。

JUN:逆に言うと、破壊力のみといいますか。たぶん村上龍さんもとにかく破壊するってことで書いたんだと思うんですけど。それを感じたんですよね。

──村上龍さんがこの作品を発表したのは24歳ですね。武蔵野美術大学を中退しています。作品にも美術や音楽の影響があると論じられました。JUNさんは大学生の時は絵を描かれていたんですか?

JUN:いえ、僕はもともと絵は描いてなかったんです。デザイナーになりたかったんですよね。大学のデザイン科に通っていて、村上龍を勧めてくれたのもデザイン科の友達でしたね。

同じぐらいの年齢でも、僕はそういう学生じゃなかったですし、主人公は米軍基地の近くに住んでいるじゃないですか。だから、僕にとっては非現実的というか、アメリカの小説を読んでいるみたいな雰囲気を感じ【ナド?】ましたね。

──村上さんの他の作品はそこから読んだんですか。

JUN:小説を7、8冊、あとエッセイも読みましたね。

僕はその時個室ビデオで働いていたんですよ。友達から「めっちゃ楽だからやらない?」って紹介されて「行く行く」って。

で、たぶんそういう選択をすることにも影響を受けていたと思うんですよね。人と違う選択をするっていうか。

そこは本当に暇で、受け付けをする以外は何していてもよくて、本を持ち込んでかなり読んでいましたね。『愛と幻想のファシズム』や『69 sixty nine』、『昭和歌謡大全集』とか。

どれもぶっ飛んでいて、ただの物語じゃないですよね。ひと癖ある感じが読んでいておもしろいなって。

映画でいうと、クエンティン・タランティーノの作品みたいな。

──いろいろカルチャーの引用もあって。セリフもカッコよくて。

JUN:そうですよね。セリフの言い回しもかっこいいんですよね。

最近は映画とかを見ることのほうが多かったんですけど、さっき久しぶりに『限りなく透明に近いブルー』のあらすじを読んだら、また小説を読みたいなぁって思いましたね。

やっぱり言葉って、思考がばっと広がるじゃないですか。言葉で言われると、想像力が広がりますよね。

実は小説を読んでいた時期に、一度「小説家になろう」と思ったこともあります。一ヵ月ぐらいだけでしたが。

破綻せずにイカれている「ネオ漫画」、横山裕一『ニュー土木』

──横山裕一さんの『ニュー土木』。こちらの本は2004年2月に出ています。

JUN:僕は1979年生まれで25歳ぐらいの時に上京しているんですけど、ちょうどその時ぐらいに買いましたね。

横山さんのマンガは確か『Casa BRUTUS』に載っているのを見たことがあって。読んでみると、相当変だなって。これも今までのマンガの価値観をひっくり返されましたね。「マンガだよな?」みたいな。

──横山さんの作品は「ネオ漫画」とも呼ばれています。セリフが少なく、擬音を多用した作風が持ち味ですね。

JUN:僕はそんなに実はマンガは通ってなくて。一応小中学生の時は週刊少年ジャンプで『ドラゴンボール』とかそういうのは読んでいたんですけど。コミックスもあまり集めたことがなくて。

一般的なマンガの絵にそんなにハマらなくて。

ただ、『ガロ』系は好きだったんです。つげ義春さんとか。

──クセが強いといいますか。

JUN:そうですね。クセが強くて、でもおもしろいっていう。内容はあるようなないような感じなんですけど、一応話にはなっている。こんなこと考える人なんて他にはいないだろうなっていう。マンガならではの表現でありながら、普通のマンガではないみたいな。

横山さんのマンガもその延長で好きになった感じですね。

──横山さんの作品はキャラクター造形も独特ですよね。

JUN:それも影響を受けていますね。横山さんのマンガって変なキャラクターがいっぱい出てくるじゃないですか。しかも、そのキャラクターがドレスアップするだけで終わったりしますからね。度肝を抜かれました。

──それにどの作品もセリフがほとんどありません。

JUN:そうなんですよね。セリフがあっても、変なセリフなんですよね。「見ろ、山だ」って。どういう世界で誰が言っているのかもよくわからないですよね。「山だ」って、どの立場の人間が言っているのか。

その割には起こっていることは、この世界の中では秩序だっているんですよね。

──何かあるんだけど、その背景は全然わからない。

JUN:そうですよね。

横山さんのマンガも、『限りなく透明に近いブルー』もそうなんですけど、すでにあるものをぶっ壊しているところに衝撃がありますよね。なかなかそれってやろうと思ってもできないじゃないですか。

ただのデタラメじゃなくて、ぶっ飛んでいるけど本当にギリギリでマンガや小説として成立しているっていう。

やろうと思えばもっとめちゃくちゃにできるんでしょうけど、それってもう「おもしろい」とは別のものになってしまうので。

──確かに横山さんのマンガって一見めちゃくちゃですけど、破綻はしていないですよね。

JUN:そこですよね。破綻せずにイカれている、みたいな。

──村上さんも横山さんも、ある種別ジャンルから来たっていう共通点があるかもしれません。村上さんはもともと美大に通っていて、横山さんはファインアートの分野からマンガを描くようになりました。

JUN:確かに。外にいるほうが全体像を見やすいっていうのはあるのかもしれませんね。

子どもの頃に強烈な印象を残した、三輪滋『たいようのきゅうでん』

──こちらの『たいようのきゅうでん』。これは子どもの頃に読んだ?

JUN:そうですね。うちはたぶん絵本って豊富にあったほうじゃなかったような気はするんですけど。

それでも子どもの頃に読んでもらったり読んだりしている中で、なぜかめちゃくちゃ心に残りましたね。その理由はわからないんですけどね。

──他にあった絵本で覚えているものはありますか。

JUN:いや、全くと言っていいほど記憶にないんですよね。『ぐりとぐら』を読んだ記憶はあるんですけど、家にあったかどうかは定かじゃないですね。この『たいようのきゅうでん』は確実に家にあった記憶があるんですよね。

──この絵本は森の中で宮殿を見つけた旅人が、中に入ると天井が開いて太陽が帰ってくるという内容です。夜になると太陽は宮殿に帰ってきて、ごはんを食べたりお風呂に入ったりするというわけですね。 JUN:物語的には絵本の中では想定の範囲内だと思うんですけど。でも、子どもなりに太陽の家があるっていうのが衝撃的で。

──太陽が家に帰ってきてお風呂に入ったり、料理をしたりっていうのがシュールですよね。

子どもながらに太陽って家に入れるのかな~って。

それと太陽の顔が少しだけ怖いんですよね。子どもの頃に読んでいて、それも引っかかるポイントで。

──全体の色合いが太陽だからか、熱帯っぽい感じといいますか。

JUN:今小さい子どもがいるんで、絵本を読んだりするんですけど、物語的にはよほど変って感じではないんですけどね。

バランスですよね。話のおかしさと絵の色合いと、ほんのちょっとの怖さというか。

──ほんの少しずつ普通の絵本からズレている気がしますね。

JUN:昔こういう絵本を読んだっていうのをミクシィに書いたら、「私も読みました」っていう反応があって。

そしたら復刊ドットコムっていうサイトで復刊をリクエストできるって知って、それでリクエストを出してまた手に入れたっていう感じですね。

──三輪さんはデザイン制作会社に勤務したあと、小説で「文學界新人賞」を受賞しています。『たいようのきゅうでん』を描いたのはその後ですね。これもある意味で「ジャンルの越境」なのかもしれません。

JUN:そういう人の作品に引かれるのかもしれないですね。基本的に何かをぶっ壊して、変なものを見せられる人のほうが、僕は好きですね。

──今回挙げていただいた3作品とも、破壊しているんだけど、破綻はしていないところがポイントなのかもしれません。

JUN OSON(ジュン・オソン)

JUN OSON(ジュン・オソン)
鎌倉在住のイラストレーターでアーティスト。ニヒルでポップな作風が特徴。近年はイギリスやフランス、スペイン、ドバイ、香港、北京などでのショーやアートピースのリリースなど、世界で活動中。



オフィシャルサイト:https://junoson.com
Instagram:@junoson

Photography Kazuo Yoshida

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.04:「ユキ フジサワ」主宰・藤澤ゆき https://tokion.jp/2022/08/20/monogatari-and-monodukuri-vol4/ Sat, 20 Aug 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=140620 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第4回のゲストはテキスタイル/デザインレーベル「ユキ フジサワ(YUKI FUJISAWA)」を主宰する藤澤ゆき。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞 「文学って、なんのため?」と思う人のための日本文学入門』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第4回のゲストは「ユキ フジサワ(YUKI FUJISAWA)」を主宰する藤澤ゆきさんです。

「ユキ フジサワ」は、藤澤ゆきさんが主宰を務める2011年創業のテキスタイル/デザインレーベル。その代表作の「NEW VINTAGE」シリーズは、修繕されたヴィンテージ素材に箔押しや染め、レースをあしらうことで生まれる特別な魅力を宿したアートピースな一点物です。2020年からは、ヴィンテージではなく新たに熟練のニッターが手編みで仕上げるニットアイテムも発表。藤澤さんは、時間や記憶、経年変化していくことを尊重しながら、ファッションに新しい価値を提案し続けています。

そんな藤澤さんが挙げたのは次の3作品でした。

・荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』(集英社)
・宮崎駿『風の谷のナウシカ』(徳間書店)
・羽海野チカ『3月のライオン』(白泉社)

さて、この3作品にはどんな”ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

人間の魂・本質を伝える人気シリーズの初の女性主人公に惹かれた、荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』

──こちらの作品はいつごろ読まれたんでしょうか?

藤澤ゆき(以下、藤澤):2004年頃、中高生の頃に読みました。連載がちょうど終わったあとぐらいに読んだのだと思います。

兄が『ジョジョ』を買っていた影響で、わたしも第1部からぜんぶ読んでいて。兄は4部が好きなんですけれど、わたしは女性が主人公というのもあって『ストーンオーシャン』ですね。

『ジョジョ』のテーマは人間讃歌ですよね。人間の美しさと醜さを描いているところに惹かれます。荒木先生独特の美意識も好きで、人生の中でも多感な時期にハマった漫画なので、一番にあげました。

──『ストーンオーシャン』は『ジョジョの奇妙な冒険』の第6部で、『ジョジョ』シリーズはジョースター家の長い歴史を描いています。

藤澤:第一部、第二部と主人公は変わるけれど、物語が継承されていくところがおもしろくて斬新ですよね。

特に『ストーンオーシャン』は初の女性主人公で、荒木先生は女性を紋切り型で描かないところが共通してあって、それは自分が女性としてもやっぱり嬉しいですよね。

徐倫はどんな逆境にも負けない不屈の精神を持っていて、目的に向かって突き進む姿がかっこよくて憧れました。

──確かに『ジョジョ』は第1部から第5部まですべて男性が主人公。『ストーンオーシャン』は初の女性主人公で、それも刑務所から始まって、女性の囚人達と脱獄を試みる。ジョジョは『ストーンオーシャン』で一区切りになっていて、ある種の円環構造になっています。

藤澤:いまや国民的でみんな大好きなマンガじゃないですか。でも、最初小学生とかに読んだ時は絵柄が少し怖くて、ジャンプの後ろの方にある大人向けの漫画だと感じてました。恐る恐る読んでいくと、その独特なタッチに惹かれていきました。昨日寝る前に読み返していたら、グーグー・ドールズのようなちっちゃい猫が夢にいっぱいでてきました。

──むしろ絵に引き込まれていきますよね。

藤澤:肉体の描き方が特に美しいですよね。物語の中で描かれるファッションも素敵で、近年は漫画のジャンルを超えていく展開にも目が離せませんでした。

自分は美大受験時にデッサンも勉強したんですけど、荒木先生の人間の身体の描き方に心が震えます。あり得ない体勢をしているんだけど、イタリアの彫刻みたいに美しい。

そして荒木先生が哲学や自然化学など、様々なリアリティを物語に落とし込んでいく力に驚かされます。どうしてこういう表現ができるんだろうと。漫画を超えた総合芸術としていつも感動を受け取っています。

──ジョジョは「継承」が重要なテーマでもあるように思えます。『ストーンオーシャン』の中でも記憶を取り返すというやりとりがありましたよね。藤澤さんが提唱する「NEW VINTAGE」と共鳴するものがあるのかなと思いました。

藤澤:記憶や時間といったものに興味があります。ヴィンテージには人の気配が残っていることに浪漫を感じるんです。どこで誰が着ていたかわからないものが、また違う場所にたどりつく。わたしが染めや箔をあしらうことで、それを作った人も想像しえなかった表情に生まれ変わって、また次の人へ繋がっていく現象をつくることに興味が尽きません。

自分の作品が100年後にどこかの蚤の市に置いてあるとか、そういう姿を時々想像しています。「なんだ、このキラキラのニットは」「誰が作ったんだろう」って。

わたし達が今、ヴィンテージを手にとって感じるように、自分の作品にもそんな出会いが起こる未来を想像するとおもしろいです。

魂を込めて描かれた再生の物語に心打たれる、宮崎駿『風の谷のナウシカ』

──宮崎駿さんの『風の谷のナウシカ』。これは映画の原作漫画で、映画が上映されたあとも連載が続いて約10年かけて完結しています。

藤澤:小学生の時にアニメを見ました。高校生の時に原作漫画があると知って。でも、10代の時は何回読んでも最後まで理解できませんでした…。7巻まで読まれました? 難しかったですよね。

──難しかったです。それに絵が緻密で、読み解くのに時間がかかりました。

藤澤:これも本当に表現がすばらしいですよね。美しい。

宮崎さんの世界では、動物と心を通わせるシーンにぐっと来ます。カイが死んだ時には思わずだーっと涙がたれました。

自分も幼少期から猫や犬とずっと暮らしていて、生きものが大好きなので、旅先で動物のちいさい置き物を見つけると、つい手にとってしまいます。

──ナウシカはある意味で再生の物語ですよね。環境汚染も絡んでいます。

藤澤:作品の中に、人間の矛盾をすごく孕んでいて。『ジョジョ』もそうなんですけど、「その矛盾も美しい」みたいな。人間のグレーな曖昧な部分に興味があるんです。

──最後の展開も考えさせられますよね。映画の終わり方とはまた違った印象を受けます。

藤澤:そうですよね。だから、本当にクリエイターとして表現したかったんだろうなと思います。漫画編は映画の企画を通すために描き始めて、終わったあともずっと描いていらっしゃったと聞きました。

──いま奥付を見てみると161刷。ロングセラーです。

藤澤:国民的な作品ですね。

『ジョジョ』とも共通しているのは、作者が魂を削って書いているなというマンガに、自分は惹かれるんですね。その一筆から、紙からパワーが伝わってきますよね。

──『ジョジョ』もそうですが、「生命」や「継承」といったキーワードでつながるのかなと思いました。

登場人物達の自己と向き合う姿に励まされる、羽海野チカ『3月のライオン』

──3作品めは『3月のライオン』です。将棋をテーマにした作品で、アニメ化や映画化もされています。

藤澤:『ハチミツとクローバー』から羽海野チカ先生のファンなんです。こんな素晴らしい作品を、同時代に読めるっていうのは幸せですね。

YUKI FUJISAWAのアトリエが、ちょうど物語にも出てくる千駄ヶ谷なんです。将棋会館近辺には羽海野チカ先生が描いたマンホールがあって、近所の人がいつもきれいな状態にしていて、お散歩のたびにうれしくなります。

──主人公は棋士として戦いながら、周囲との関係性を築いていきます。

藤澤:人間ドラマなんですよね。将棋がテーマにはなっているんですけど。

独特の絵のタッチにも、前作から惹かれ続けています。ころころした子供の肉感とか、おいしいものを食べるときの紅潮したほっぺの表情とか、きらきらしたもの、小さい時に持っていた宝石のおもちゃみたいな「かわいい、うれしい」が羽海野先生の世界には詰まってるんです。

かわいさの反面、『3月のライオン』は主人公や周りの棋士たちが、自分の精神と向き合っていく過酷なシーンも多いんですよ。

描いている羽海野先生自身も、見えない穴のなかに飛び込んで戦っていくみたいなファイターのようで、尊敬します。お守りのような漫画ですね。

──クリエイターとしてのマインドや姿勢ということでしょうか。

藤澤:ものづくりをやっていて感じるのは、続けるのが一番大変だなといつも思っていて。

新しくおもしろいものを生み出し続ける、その心や状況をキープするのが難しくと感じます。本当に。だから、こうした魂のある作品たちに出会うたび、自分も一人の作り手として勇気をもらいます。

人や時間を介したからこそ宿るもの

──藤澤さんのブランドも今年11年目ということで、それもある意味で連載が続いているようなものでしょうか。

藤澤:確かにそうですね。2019年に原美術館で記憶をテーマにしたインスタレーションを発表をし、その時にブランドの第1部が終わった感覚がありました。

それまではヴィンテージの一点ものを中心にしていたんですけど、2020年からは手編みの職人さんと組んでアランニットを作っています。最初はミトンとマフラー、その次はニット帽と、この数年は小物を進めてきて、今年はセーターにも挑戦する予定です。

──「手編み」というところに、さきほども言っていた「ひとの気配」へのこだわりがあるように思えます。

藤澤:ヴィンテージや手編みのものを特別に感じるのは、時間や手仕事でこそ宿せる何かがあるのだと思います。

自分が手仕事でこころを込めて作ったものが、例えばすごく緊張する時や、大事な日に、身にまとったり、身につけた時に勇気が出る存在になれたらと願っています。

手や人を介したからこそ存在する気配があると感じていて、それを大切にしたいといつも思っています。

──生命じゃない「物」に人の気配を感じたり、そこに自分の記憶も乗っかっていくっていうところがおもしろいですよね。

藤澤:ハンドニットにこだわってやっているのにはそういう理由もあるんです。

手仕事にしか出せない生命力があると信じています。おばあちゃんの手編みのマフラーを大切にしたくなる気持ち。一時のファッションではなく、物が、ただの物じゃなくなる瞬間というか。

──その瞬間に、長く続いていく物語になるのかもしれないですね。『ジョジョ』のような。

藤澤ゆき
箔や染めによってファッションの新たな価値をかたちづくる、2011年創業のテキスタイル/デザインレーベル「YUKI FUJISAWA」代表。ヴィンテージ素材に箔や染め、レースをあしらい、人生のあたたかな時を共に過ごすアートピースのような作品、プロダクトを作り上げています。
近年の仕事にNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」タイトルバック、「カネコアヤノ単独演奏会2022春」の舞台装飾など。
オフィシャルサイト:https://yuki-fujisawa.com
Instagram:@yuki__fujisawa

Photography Kousuke Matsuki

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.03:企画デザイン会社・2時(楢﨑友里、田中桃子) https://tokion.jp/2022/06/21/monogatari-and-monodukuri-vol3/ Tue, 21 Jun 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=124361 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第3回のゲストは企画デザイン会社・2時の楢﨑友里と田中桃子。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第3回のゲストは企画デザイン会社・2時の楢﨑友里さん、田中桃子さんのお2人です。

左から:2時の楢﨑友里、田中桃子
左から:2時の楢﨑友里、田中桃子

2時は、フェリシモで7年間にわたりユーモア雑貨の商品企画に携わってきた楢﨑友里さんと田中桃子さんが2020年に設立した企画デザイン会社です。世の中を楽しくするモノやコトを生み出すことを活動の指針として、犬が「勝訴」の判決をくわえて走っている写真がSNSでも大いに話題となった犬用おもちゃ「勝訴マスコット」(2021年、バンダイ)や、ファスナー上を「P」の文字の形をしたスライダーが移動する「動く点Pポーチ」(2021年、Creco)など、時計の2時の方角「ななめ上」の発想からユニークなプロダクトを企画担当として社会に送り出しています。

そんなお2人が挙げたのは次の3冊でした。

・穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社)

・トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮社)

・バカリズム『架空OL日記』(小学館)

さて、この3冊にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

(『本当はちがうんだ日記』『ゼロからトースターを作ってみた結果』は楢﨑さん、『架空OL日記』は田中さんが挙げました)

「こんな考え方もあるのか」と気付かせてくれる、穂村弘『本当はちがうんだ日記』

穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社)。歌人・穂村弘のエッセイ集。日常で起こるさまざまな出来事の中で、自意識が強すぎるがゆえに悩む姿をおもしろおかしく綴っていく。
穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社)。歌人・穂村弘のエッセイ集。日常で起こるさまざまな出来事の中で、自意識が強すぎるがゆえに悩む姿をおもしろおかしく綴っていく。

──歌人の穂村弘さんのエッセイ『本当はちがうんだ日記』。こちらはいつ頃読まれたんですか?

楢﨑友里(以下、楢﨑):社会人になってからだと思います。大学の時までは、小説はすごく読んでいたんですけど、エッセイはあまり興味がなくて。ほとんど読んだことがなかったんです。

でも、たしかたまたま人に「穂村さん、おもしろいよ」と教えてもらって、それで1冊読もうかと思ったのが始まりです。

──『本当はちがうんだ日記』がその1冊め?

楢﨑:そうです。

──この本はだいたいどれも4ページほどで終わるエッセイです。基本的に穂村さんの日常を描いていて、どれもくすっと笑えますよね。

楢﨑:すごく読み心地は軽いんですが、それぞれオチもちゃんとあって、切り口がすごくおもしろいと思いました。どのエッセイも短いんですが、どれも味つけが濃いというか。

日常の切り取り方がすごく秀逸で、「ああ、こんな考え方があったんだ」って。

しかも、読者に警戒心を与えない、穂村さんのちょっとダメな部分を出して日常を切り取っている感じが絶妙で。この本を読んでから、穂村さんのエッセイをたくさん読んだほどハマった1冊です。

──オチのつけ方が毎回すごいですよね。ぼくはあだ名のエピソードが好きで。自分は人生で一度もあだ名をつけられたことがない、っていうエッセイなんですけど、急に別の話になってオチがつくっていう。楢﨑さんは特にこのエピソードが印象に残ったっていうのはありますか?

楢﨑:『本当はちがうんだ日記』に載っているものだったら、まず最初に出てくるエスプレッソの話ですね。書き出しからもう心を掴まれちゃって。私はエスプレッソが好きだって言いながら、苦くて飲めたものじゃないっていう始まりで。

穂村さんのエッセイの特徴だと思うんですが、エッセイの中で何も起きていないじゃないですか。スタバに行ってもグランデが頼めないとか、エスプレッソが苦くて飲めないとか。

事件は何も起きていないし、ドラマチックなことはほとんどない日常の出来事なんですよね。例えばネットオークションをしているだけなのに、なんでここまでおもしろく書けるのだろうかって。すごく日常を楽しむ力がある方だなと思いました。

エスプレッソの話も、エスプレッソを飲んだだけなのに、こんな何ページも書けるのかというのがまず衝撃でした。すごくそのくだりは印象に残っています。

──自意識って言っていいのかわからないですけど、内面の逡巡や、ほんとうは背伸びしたいけど恥ずかしいみたいな部分が、すごく共感して読めますよね。こういう本を読むと、文体が頭の中に移っちゃって、日常をそういう目線で過ごすようになりませんか?

楢﨑:めちゃくちゃわかります。そういう意味でクリエイティブな部分でも影響を受けた1冊でもあります。

私達が作るものは日常的に使うものなので、発想において、いかに毎日の生活の中で空想するかというところがあります。「今目の前にあるコップがどんなコップだったらおもしろいだろう」とか。「クッションがどんな形だったらおもしろいだろう」とか。

そういうイマジナリーな部分がかなり必要で、毎日を楽しい目線で見ていくみたいなのは重要なんです。かなり穂村さんの本には影響を受けているんじゃないかなと思います。

──確かにこのエッセイって空想で、日常の中で「こう思われたらどうしよう」と考えをめぐらすだけだったりしますよね。日常をどう見るか、という本ですね。この目線で日々をすごしていると、いろんな発想が出てきそうですね。

ものづくりの過程で起きているさまざまなことを意識できるようになる、トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』

トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮社)。トースターをゼロから作ろうと思い立った著者が鉱山などをまわって原材料を集めるところから始めるノンフィクション。
トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮社)。トースターをゼロから作ろうと思い立った著者が鉱山などをまわって原材料を集めるところから始めるノンフィクション。

──『本当はちがうんだ日記』が何も起きてないとしたら、2冊目のこの本はすごく行動する本です。

楢﨑:そうですよね、とんでもない行動力です。この本を読んだのも社会人になってからで、何で読んだのかきっかけは思い出せないんですけど、ほんとうに興味を持ってたまたま読んだという感じです。

──2012年に出版されているので、ちょうど10年前ですね。この本はトースターを個人で一から作るっていう。それも本当に一からですよね。

楢﨑:内容的にもすごくワクワクしておもしろいっていうのはもちろんなんですけど、やっぱり私達はものづくりをしている立場で、ぜんぶ自分達の手でつくるのではなくて、かなり分業しているんです。

プランナーが考えたものを、日本のメーカーや海外の工場でたくさんの分業を経て完成させます。ただ、それを意識する機会って少なくて、自分達が考えたものがある日サンプルになって完成した状態で見られるわけです。この本を読むと、その過程で何が起きているのかをすごく意識できるんです。

私達みたいなものづくりをしている人は、絶対に読んだほうがいいんじゃないかなと思います。

──無茶なチャレンジをおもしろおかしく書いてある本ですが、1つの製品が出来上がるまでにどれだけの工程があるかを知ることができる本にもなっています。

楢﨑:途中からずるもし始めるんですよ。最初は産業革命以前の道具を使わないってルールだったのに、鉄鉱石を溶かすために、電子レンジを使い出すとか。そのへんのバランスもシビアじゃなさすぎるのが最後まで読めるポイントかなと思います。

──取りかかってみたはいいけれど、さすがに個人じゃ溶鉱炉を作れないっていう部分ですよね。でも、どうにか達成しようと電子レンジが出てくる。

楢﨑:そうなんです。すごいチャレンジ精神で、思いついたことをちゃんと実行する力というか、それを最後までもっていて発表したり、1冊にまとめる力みたいなものもすごい。「言うは易く行うは難し」を実際にやってみたところがすごいですよね。

──トースターっていうところもいいですよね。日常で使うものってところが。

楢﨑:そうですよね。「パンが飛び出す仕組みってどうなっているんだろう?」「どうやって焼いているんだろう?」と気になる部分ですよね。

──できあがったトースターが表紙になっていて、そのインパクトもすごいです。

楢﨑:この本を読むと、ふと生活の中で身の回りのものを見た時に、ちょっとゾッとするというか。「あれもこれも、こうやってできているのかな?」って。ものすごく分業された世界で住んでいるんだなってことがわかる内容かなと思います。

ものづくりの仕事をしていたら、100均ってすごく怖いんですよ。こんな便利なものが100円で売られているのかって。それもたくさんの分業でできているのかと思うと、もうほんとうに倒れそうになりますね。

──著者のトーマス・トウェイツさんはもう1冊『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(新潮社)という本を出しています。こちらもタイトルどおり、人間からヤギになってみようと著者が悪戦苦闘する内容です。

日常を楽しくするための視点を教えてくれる、バカリズム『架空OL日記』

バカリズム『架空OL日記』(小学館)。お笑い芸人のバカリズムがOLになりきって書いた日記をまとめたもの。架空の職場での同僚とのやりとりを中心に展開していく。ドラマ化、映画もされた。
バカリズム『架空OL日記』(小学館)。お笑い芸人のバカリズムがOLになりきって書いた日記をまとめたもの。架空の職場での同僚とのやりとりを中心に展開していく。ドラマ化、映画もされた。

──3冊目はバカリズムさんの『架空OL日記』。1冊目、2冊目はエッセイ、ノンフィクションときましたが、田中さん、これはどう紹介したらいいでしょうか?

田中桃子(以下、田中):なんといったらいいんでしょうね。もともとはブログで書いていたものが書籍化されたみたいです。

7、8年ぐらい前に、そうとは知らずにたまたま本を見かけて、「この“バカリズム“って芸人のバカリズムさんかな」と思って手にとったのがきっかけです。あのバカリズムさんが本を出しているんだって。

──バカリズムさんがOLになりきって日記を書くというすごく不思議な本です。読んでみて、どんな印象でしたか?

田中:ぜんぶ嘘の出来事なんだっていう驚きがやっぱり一番にありました。書いてあることに違和感もあまりなくて、「わかるわかる」みたいな内容がけっこう多くて。

さきほどの穂村さんの本とも通じると思うんですが、ものの見方で日常はいくらでも楽しくできるんだなって思った作品です。こんなふうにものごとを見られたら楽しいよなぁって。

──ほんとうに誰にでも起こり得ることを、ちょっとの言い回しとかで、楽しい出来事にしていますよね。

田中:そうですよね。残業したりとか、帰りに化粧品売り場に行ったりとか、デパ地下に寄るとか、休日はゲームしてとか。そういうほんとうに何気ない日常を切り取っていますよね。

──ストーリーがないのがいいのかもしれないですね。バカリズムさんの書き方も、すごく抑制が効いていて。

田中:日記なので1つの話がすごく短いんですけど、短い中にもちゃんとオチがついていて。最後の一文がすごく秀逸だったりとか。

──妄想なので展開はいくらでもできるはずなのに、日常のちょっとしたおもしろさを膨らませている感じがすごくうまいですよね。特に印象に残っているエピソードはありますか?

田中:日記にタイトルがついていると思うんですけど。そのタイトルだけ聞いたら「どういう話なんだろう?」ってなるのが好きですね。

例えば「グラデーション」。どういう話かというと、同僚達とおしゃべりしていると、いつの間にか上司とかの愚痴になっていくっていう。それがきれいなグラデーションだったという話。

「マウンド」という話も好きです。前歯の差し歯が取れちゃった同僚がいて、それを隠すために手をあてるしぐさが、マウンドにいる高校野球の選手みたいだっていう。

──この本を読んで、何か日常に影響ってありましたか?

田中:私も楢﨑さんも、日常の中での空想や設定をつけるのが好きなんです。例えば楢﨑さんが平安時代からきた人の設定にしたりして、遊んだりしています。それはごっこ遊びみたいなものですね。

──それは穂村さんの話の時にも出てきた「日常を楽しむ視点」に通じそうですね。

田中:そうですね。私達2人で歩いていても道の看板とか、おおしろいお店の名前とか、そういうのをすごく探しちゃうんです。それでそこから空想を広げていくことが多いですね。

根底にあるのは「ふだん使っているものがどうしたら楽しくなるのか」という視点

2時が企画を担当したユニークなプロダクトたち。上段(左から):「犬用勝訴マスコット」(バンダイ、2021)、「動く点Pポーチ」(creo、2021)、「キャベツウニのエコバッグ」(2022)|中段(左から):「Cookieを有効にするクッキー型」(2021)、「ハムスターモナカ」(青木光悦堂、2021)、「マンドラゴラが叫ぶ防犯ブザー」(2021)|下段(左から):「羊の毛刈りぬいぐるみ」(六甲山牧場、2021)、「RTといいねが現れるグラス」(Twitter Japan、2021)、「ビッグクッション」(PUI PUI モルカー、2021)
2時が企画を担当したユニークなプロダクトたち。上段(左から):「犬用勝訴マスコット」(バンダイ、2021)、「動く点Pポーチ」(creo、2021)、「キャベツウニのエコバッグ」(2022)|中段(左から):「Cookieを有効にするクッキー型」(2021)、「ハムスターモナカ」(青木光悦堂、2021)、「マンドラゴラが叫ぶ防犯ブザー」(2021)|下段(左から):「羊の毛刈りぬいぐるみ」(六甲山牧場、2021)、「RTといいねが現れるグラス」(Twitter Japan、2021)、「ビッグクッション」(PUI PUI モルカー、2021)

──そういえば、2時さんのプロダクトはどれも日用品を楽しくするという視点のものが多いですね。けっこう大喜利っぽかったり。

田中:そうですね、ふだん使っているものがどうしたら楽しくなるのかなっていう視点で考えています。

楢﨑:大喜利でいえば、「勝訴」って書かれた犬用のおもちゃ。あれがあるクイズ番組で取り上げられていて、「勝訴」の部分が「?」になっていて、それを当てるという問題になっていたんです。で、いろんな人が答えていたんですが、芸人の方だけ正解できたんですよ。なので、大喜利っぽい発想なんだなって。

──大喜利もそうですし、さきほどのごっこ遊びもそうですが、考えること自体を楽しんでいる感じが伝わってきます。

楢﨑:そうですね。考えること自体がすごく好きですね。さっきも言ったイマジナリーな遊びの中に、「イマジナリー商品」みたいな枠があって、それを取り出してツイッターに投稿したりとか、販売したりしているという感じがあります。

──今後やっていきたいことはありますか?

楢﨑:すごく会社を大きくしたいとか、そういう願望はないんです。楽しくおもしろいプロダクトを作って、それが結果的にたくさんの人を笑わせたり、和ませたりして、口角を上げてもらえたらそれで十分かなと思っています。

田中:「おもしろい会社といったら2時だよね」と言ってもらえるような会社にしていきたいなあって思っています。

──プロダクトに限らず、何かいろいろプロデュースとかで、アイデアを注ぐとか、そういう感じのものも見てみたいです。

楢﨑:やってみたいなと空想したことがあるのは、カフェですね。メニューが普通じゃなかったり、カフェラテのラテアートがすごく変だったりとか。

何かできることがあったら、いろんな分野に挑戦してみたいですね。

株式会社2時
楢﨑友里と田中桃子からなる企画デザイン会社。2人とも株式会社フェリシモで7年間ユーモア雑貨の商品企画に携わり、企画とデザインのスキルを学び、2020年に株式会社2時を設立。バズる商品企画を得意とし、細部までこだわり愛情を持って商品を作り上げている。
オフィシャルwebサイト:https://2-niji.com/
Twitter:@niji_2oclock

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.02:おもちゃクリエイター・高橋晋平(ウサギ代表) https://tokion.jp/2022/03/20/monogatari-and-monodukuri-vol2/ Sun, 20 Mar 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=102642 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第2回のゲストはおもちゃクリエイター・高橋晋平。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第2回のゲストはおもちゃクリエイターの高橋晋平。

「∞(むげん)のアイデア」の背後にある3冊の本とは

おもちゃクリエイターの高橋晋平さんは、バンダイ勤務時代に「第1回日本おもちゃ大賞」を受賞した『∞(むげん)プチプチ』をはじめとした数々の話題作を手掛けた後、2014年に独立。株式会社ウサギを設立し、全47都道府県の民芸品を戦わせ合う『民芸スタジアム』や、子どもから大人までキャリアについて気付きを得られる『職業診断ゲーム わくわくワーク』などユニークなおもちゃ・ゲームの企画・開発支援を手掛けるとともに、アイデア発想術に関する著書の執筆や講演を行うなど、多岐にわたりご活躍されています。

そんな高橋さんが提示したのは以下の3冊でした。

・奥田英朗『ララピポ』(幻冬舎)
・渡辺淳一『鈍感力』(集英社)
・菊田まりこ『あの空を』(学習研究社)

 さて、この3冊にはどんな意味があるのでしょうか?

「小説」に対するイメージを覆してくれた、奥田英朗『ララピポ』

──この本は奥田英朗さんの著書で、2005年に出版されています。いつ頃読んだのでしょうか?

高橋晋平(以下、高橋):出版されてすぐですね。社会人2年目の時です。人にもらったのですが、読み始めたら止まらなくなって。ぼくは夜早く寝たいタイプなんですけど、深夜の2時か3時まで一気に読みました。当時住んでいたアパートで「すげえすげえ」って独り言を言いながら。それで、奥田英朗さんの大ファンになりました。

──それまで小説は読んでいたのでしょうか?

高橋:ほとんど読んでいなかったんです。大学生の時はビジネス書やノウハウ本ばかり読んでいました。今の言い方だと「意識高い系」みたいな感じでしょうか。小学生の時は『ズッコケ三人組』を読むぐらいですね。しかも、好きなエピソードだけ何回も読むんです。そのくせは今もあるんですけど、ほかに小説は特に読んでいませんでしたね。でも、『ララピポ』をきっかけに奥田英朗さんの小説は全部読むぐらいにのめり込みました。

──ぼくも読んですごくおもしろかったです。この小説は6章に分かれていて、それぞれの章に主人公がいるオムニバス形式です。いわば短編が6つ入っている形ですね。

高橋:その形式がよかったんだと思います。短編なのが、非常に読みやすくて。高校の授業で夏目漱石の『こころ』とかやるじゃないですか? 小説ってそういうものだと思っていたんです。長くて難しいものだって。そしたら、この『ララピポ』は1章が簡潔で、コミカルで読みやすくて。あ、小説って短い話でもいいんだなと衝撃を受けたんです。しかも、1章読むだけでもおもしろいのに、2章、3章と読んでいくうちに、1章に張られていた伏線に気がつくという。こんなやり方があるのかとびっくりしました。

──いい意味で裏切られて、ハマったわけですね。

高橋:ほかの作品、『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』なんかの精神科医・伊良部シリーズもすごく読みやすくて。読書が苦手な人間でも、ほんとうにつぎからつぎとおもしろい。読めば読むほど、奥田英朗って作風がすごく多彩で、どんどん憧れていきましたね。

──この本は装丁もすごくおもしろいです。表紙に穴があいていて、鍵穴の形になっているんですね。それが6人の人物の人生をのぞくっていう作品のコンセプトとも合致している。こういう仕掛けもなるほどなとぼくは思いました。

高橋:そうそう、鍵穴になっている。この本のあとにいろいろ玩具を学んでいく中で、「余白がある時はなんでも遊べる可能性を考えろ」みたいな考え方を知って。例えばお菓子のパッケージなんか、書けるスペースがあったら小ネタが書いてあったりするじゃないですか。動物ビスケットの箱の裏に動物の図鑑が載っているというような。この表紙を最初に見た時はなんとも思いませんでしたが、あとから考えると、こういう遊び心も大事なんだなって思いますね。

「対話」しながら読むことで自己認識を新たにした、渡辺淳一『鈍感力』

──続いて挙げていただいたのは渡辺淳一さんの『鈍感力』です。

高橋:この本もすごく衝撃を受けました。ぼくはどっちかと言うと、繊細な人間だと思うんです。すぐ傷つくし、ちょっと痛いと不安になるみたいな。だから、今も鈍感力に憧れているんです。この本って今で言う「繊細さん」みたいなことで悩んでいる人にぶっ刺さったんだと思うんですよ。この本の中に、確か蚊に刺された時も敏感なやつよりも鈍感なやつのほうが強いという話があったと思うんですが。

──ありました。

高橋:それがまず衝撃で、めちゃくちゃ腑に落ちる。わかりやすい。その後、この本ってずっと鈍感な人のほうがいいって言い続ける構造ですよね。

──そうですね。手を変え品を変え、著者がいろんなエピソードを引き合いに出して鈍感なほうがいいと。

高橋:短いエピソードで、わかりやすいのにすごく納得感もある。こんなシンプルで短くてわかりやすいってすごいなと。奥田英朗さんの時もそうですが、この本を読む前もまだビジネス書って長くて内容が充実していて、書いてあることもかっこいい、そういうのがすごい本だと思っていたんですが、その先入観がぶっ壊されました。それに自分でそれまでのことを振り返りながら、自分なりに解釈して読むことができたっていうのが、すごく味わい深かった記憶があるんです。

──本と初めて対話ができた。

高橋:その感じを初めて得られたんです。これを読んだのって社会人3年めの暮れか、4年目ぐらいで、それまでは「本に書いてあることは絶対」って思っていたんです。でも、この本は読みながら「鈍感力めっちゃおもしろいし、めっちゃほしい!」と思いながらも、「いやいや、そんなわけないだろ……」とちょっとツッコミながら読むみたいな。ある意味対話しながら読めたことで、それで自分に自信が持てたというか、自分を肯定できたような感覚だったんですね。すごくよく覚えています。

──この本が出たのは2007年で、『ララピポ』の2年後ですね。

高橋:2007年ってぼくがバンダイにいた時で、『∞(むげん)プチプチ』というおもちゃを発売した年だったんです。「シンプルで簡単でわかりやすいものってすごいよね」みたいな考え方がいろいろとハマって、ヒット商品になりました。そういった価値観が強く受け入れられたタイミングだったのかもしれません。

──確かにこの本は『鈍感力』とタイトルが短いのに、言いたいことはこれだけでドカンと伝わってきますよね。

高橋:普通はもっと長いタイトルにしたくなっちゃいますよね。もっとわかりやすくって考えちゃうと。ぼくも本を書く時はついそう考えちゃうんです。タイトルで1人でも多くつかむみたいな。僕には、簡単、短い、シンプルへの憧れがあって、この本のチョイスにもそれが反映されている気がしますね。うん、偶然だけど。

──『鈍感力』は3文字。奥田英朗さんの『ララピポ』もわずか4文字ですね。

高橋:うん、そうですね。『ララピポ』は一見意味がわからないんですけど、いいタイトルですよね。

折にふれ読んでは泣く、菊田まりこ『あの空を』

──3冊めは菊田まりこさんの『あの空を』。こちらは絵本ですね。

高橋:はい。たぶん時系列で言うと、これが一番最初に読んだ本ですね。菊田まりこさんの絵本との出会いは大学時代で、その時にインフルエンザにかかって病院に行ったんです。そしたらその病院に菊田まりこさんの絵本があって。インフルエンザにかかって、高熱出ている中なのに、菊田まりこさんの『いつでも会える』という絵本を読んで号泣したんですよ。なんでその絵本を手にとったのかわからないんですけど、「すごい、こんな泣ける絵本があるのか」って驚いて。

それでほかにも菊田まりこさんの絵本を読んでみたんです。シリーズが4冊あって全部買いました。『あの空を』もそのうちの1冊でめちゃくちゃ泣いたんですよ。どういう心境だったのかわからないんですけど、泣いちゃって。社会人になってからも折にふれて読んでは泣いていたんです。自分の人生と重なったんでしょうね、きっと。

──この本もシンプルな短いことばと、それと絵で構成されていますね。

高橋:そう、文字はほとんど載ってないですよね。この絵本にひよこが出てきて、空を飛ぶ練習をするじゃないですか。そもそもそのひよこが大人になったら空を飛べるタイプの鳥なのか、飛べないタイプの鳥なのか気になっていたんです。それによって意味合いがめちゃくちゃ変わってくると思うんです。

──その視点は気付きませんでした。確かに変わりますね。

高橋:うん。そうなるとかなわない夢をいつかかなうと思って夢を追っていることになって、全然変わる。

ぼくは初めて読んだ時に飛べない鳥だと思って、その後の何年間かはずっとそう思っていたんです。飛べないけど、一生懸命頑張っていつか飛ぼうとしていると思うと、もう泣けてしかたないみたいな。それからしばらくして久しぶりに読んだら、「あれ? ひょっとしたら飛べるのかな?」と思ったりして、また解釈が変わったんです。

──読む時期によって見方が変わったんですね。

高橋:はい。ぼくは大学時代に落語研究会に入っていたんですけど、お笑いが好きでM-1グランプリも毎年心待ちにしているんです。で、誰が優勝しても感動するんです。結果が出るかわからないことに対して頑張り続けている人へのリスペクトが強くて。

お笑い芸人さんや漫画家の方とかもそうですけど、ひょっとしたら一生結果が出ないかもしれない世界で結果を出そうと努力している人を見ると、もうほんとうに感動してしまうんです。

ぼくほんとうは嫉妬深い性格なんですけど、そういう世界で成功している人を見ると、ほんとうに嬉しい気持ちになるというか。とにかく素晴らしいなと尊敬するんです。

──M-1グランプリは4分の漫才ですべてが決まるとても厳しい世界ですよね。

高橋:だからやっぱり短くて強いものへの憧れをすごく持っているんだと思います。長さや時間、ボリュームが短いものへの。漫才なんて、始まってすぐ笑わせて、5分ほどできれいにオチをつけるという。自分がつくるおもちゃでも、すぐにルールがわかってサッとやれるものを作りたいと思っています。たださわるだけなのに笑っちゃうとか。うん、偶然ですけどなんだかぜんぶつながったような気がします。

話すことで見えた3冊の共通点

小説、エッセイ、絵本と3冊のジャンルはバラバラでしたが、そこに「短いこと」「シンプルなこと」「インパクトがあること」という共通点があることがわかりました。高橋さんはおもちゃクリエイターです。高橋さんが手掛けるおもちゃを見ていて気持ちいいのは、やはりひと目で楽しいことが伝わるからでしょう。話の中にも出てきた『∞(むげん)プチプチ』。その形状と名前を見れば、即座にどう楽しんだらいいのかわかります。このような直感に訴えかけるクリエイティブへの指向が、高橋さんのつくるものや選ぶ本からもうかがえます。

高橋晋平

高橋晋平
1979年生まれ。おもちゃクリエイター、株式会社ウサギ代表。東北大学大学院情報科学研究科修了後、2004年に株式会社バンダイに入社。第1回おもちゃ大賞を受賞した『∞(むげん)プチプチ』や『∞エダマメ』、『瞬間決着ゲームシンペイ』など数々のヒット商品の企画・開発を手掛ける。2014年に株式会社ウサギを設立し、代表取締役に就任。『民芸スタジアム』『THE仮想通貨』『職業診断ゲーム わくわくワーク』などの企画・開発を担当。著書に『アイデアが枯れない頭のつくり方』(2014年、‎ CCCメディアハウス)に、『一生仕事で困らない企画のメモ技(テク)』(2018年、‎あさ出版)など。
Twitter:@simpeiidea
note:https://note.com/simpeiidea

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.01:「オルガグースキャンドル」主宰・平塚梨沙 https://tokion.jp/2022/01/14/monogatari-and-monodukuri-vol1/ Fri, 14 Jan 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=88387 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第1回のゲストは「オルガグースキャンドル」主宰・平塚梨沙。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪がカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『めぞん文豪』(少年画報社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第1回のゲストは、独自のキャラクターをモチーフとしたハンドメイドのキャンドルブランド「オルガグースキャンドル(OLGA-goosecandle-)」を主宰する平塚梨沙。

「オルガグースキャンドル」の裏側にある3冊の本とは

「オルガグースキャンドル」 は「ガチョウ女の作る儀式道具」をテーマに、ハンドメイドでつくられたキャンドルを展開しています。日本だけではなくカナダ、イギリス、ニュージーランドなどでも販売されています。

古き良きカートゥーンのテイストを思わせ、火を点けることがもったいなくなります。このキャンドルをつくる人の裏側には、いったいどんな「ものがたり」あるいは「ことば」が流れているのでしょうか。

平塚さんに「印象に残っている本を3冊あげてほしい」とリクエストすると、次の3冊をあげてくれました。

・吉行理恵『男嫌い』(新潮社)
・岡潔・著、森田真生・編『数学する人生』(新潮社)
・九鬼周造『「いき」の構造』(岩波書店)

自分の「栄養剤」である、吉行理恵『男嫌い』

──著者の吉行理恵は詩人・小説家で、1981年に『小さな貴婦人』で芥川賞も受賞しています。余談ですが、兄が吉行淳之介で同じく芥川賞を取っています。父が作家の吉行エイスケ、母が吉行あぐりで、「あぐり」というドラマにもなりました。吉行理恵は詩人としてキャリアをスタートして小説も書くようになり、『男嫌い』も「詩的発想」による「詩人・吉行理恵」にしか書けない小説と評価されています。猫が好きで、『小さな貴婦人』にも『男嫌い』にも猫が出てきます。

平塚梨沙(以下、平塚):『男嫌い』はこの3冊の中で一番初めに読みました。8年前ぐらいに古本屋さんで買いました。ジャケ買いですね。

──『男嫌い』は葉祥明さんという画家が表紙をやっていますね。草原に教会のような建物があって、空には月が出ています。

平塚:吉行さんの『小さな貴婦人』も持っているんですけど、それも同じかたの絵でした。私は「合わせ技」が好きで。

──「合わせ技」ですか? 教会(のような建物)と月のような?

平塚:いえ、絵全体の柔らかい雰囲気と、『男嫌い』というタイトルの鋭い感じの「合わせ技」ですね。それで、本を読んでみたら、劣等感のある女性がメインの登場人物なんですけど、くさくさしていると同時に、纏う空気が美しいんですよね。

──この小説では灰色の猫と暮らす北田冴という作家が中心に出てきます。正確には北田冴が書いた同じ名前の人物が主人公の『寂しい狂い猫』という小説が挿入されて、それを読んでいる「私」がいる、という二重構造になっている。

平塚:この本は他の2冊とはちょっと違う理由で選んでいます。単純な言いかただと、読んでいてとても癒やされるんです。

たぶん私もけっこうひねくれていて、でも世界の美しさなどは素直に愛せるというか…少し自分と重ねてしまうところがあります。猫も好きですし。

書かれていることが、すごく静かで美しい雰囲気だなあと思って。読んでいて「こうありたいぜ」と思ったんです。何かきっとつくる時にも、根底には影響しているのかな。自分の栄養剤のような感じですね。

──生き方のスタイルなんですかね。

平塚:ああ、そうだと思います。

──この本は物語の構造が、すごく特徴的でおもしろいですよね。『寂しい狂い猫』という小説を読んでいる人達がいて、その中で『寂しい狂い猫』の本編が丸々挿入されるっていう仕掛けになっています。

平塚:確かにそういった工夫も惹かれた要因かもしれません。そういう遊び心はすごく好きです。

──選んでいただいた他の2冊についても聞かせてください。

世界の見方の美しさに惹かれる、岡潔・著、森田真生・編『数学する人生』

──著者の岡潔は1901年生まれの数学者。1930年代初頭にフランスへ留学し、帰国したあとは自宅にこもって研究を続け、随筆家としても活躍しました。

平塚:この本は3年ぐらい前に読みました。数学を通した世界の見えかたの話だったのがおもしろかったです。数学に意外と物語性があるってところが。学生の時は数学が苦手だったんですが、岡さんの文章を学生の時に知っていたらもうちょっと得意になれた気がします。数式はまだ好きだったんですが、楽しさがあるとしたら解ける快感のみでしたから。

──ある種、哲学的な内容ですよね。情緒について論じるために、俳句を引用しています。

平塚:「最終講義」が特に好きですね。まだ理解しきってはいないんですけど、何回も読んで、体得していきたいなぁと思っています。他は岡さんの生涯の話だから、こっちからすると案外数学って感じじゃないですよね。

──これも生き方のスタイル的なところがありますね。人里離れたところで、メディアからも距離をとって、日々研究をするような生活には、僕も憧れます。この写真(本の冒頭にある岡潔が布団に寝転がりながら原稿を書いている写真)、かっこいいですよね。

平塚:ああ、かっこいいですよね!

──布団に寝転がって、原稿書いているのかな。

平塚:この本を読んで、岡さんの世界の見方がすごく美しいぞと。仏教の印象も変わったし、この先生のおかげで。自分の世界に留まらず、美意識がとても高い人だったんだなと感じました。

「あいだ」の感覚に共感する、九鬼周造『「いき」の構造』

──この2つの本(『数学する人生』と『「いき」の構造』)には意外な共通点があるなと思いました。九鬼周造は『「いき」の構造』を1920年代、フランス留学中に書いています。岡潔は入れ替わるように1929年にフランスに留学しています。どちらも西洋を体験することで、翻って日本について考えを進めているように感じます。平塚さんは『「いき」の構造』が今日あげた3冊の中では、一番最近読んだ本なんですよね?

平塚:そうですね。この本はSNSで紹介している人がいて、それを見ておもしろそうだと思い買いました。

私は「A」と「B」のあいだみたいなのが好きなんです。合わせ技とかもそうなのかもしれないですけど、「A」と「B」のあいだにある関係性を説明する感じのものが好きで。

『「いき」の構造』はわかりやすくて、「意気地(いきじ)」と「媚態」と「諦め」の3つだよっていう。さらには図形もあったじゃないですか。図形によってその3つの関係性が示されているところがすごくたまらなくて。

もちろん「いき」っていうもの自体に魅力も感じていますが、感覚的なものを言語化し、規則性を発見しているところに感動しました。

──『「いき」の構造』では、「いき」とは何かを例示していくことで定義していきます。特に冒頭の「いき」には英語で対応する言葉がないってところがおもしろいですね。「いき」はChic”ではない、とか。

フランス語のうちに「いき」に該当するものを見出すことができるであろうか。第一に問題となるのはChicという言葉である。この語は英語にもドイツ語にもそのまま借用されていて、日本ではしばしば「いき」と訳される。(中略)この語の現在有する意味はいかなる意味をもっているかというに、決して「いき」ほど限定されたものではない。

(九鬼周造『「いき」の構造』岩波書店、16ページ)

平塚:私が作っているキャンドルにも名前がついているんですが、日本語名と英語名を直訳にしていないんです。「お調子者ボビー」を「PEANUTS(BOBBY)」にしていたりとか。もちろん直訳のものもあるんですけどね。

それと1つひとつにマジック・メッセージもついているんです。「もっとなかよし」とか「関係にスパイスを」とか。

キャンドルの「ことば」はどこからくるのか

──小説を読む時って、頭に絵が浮かんでいますか。

平塚:浮かんでいると思います。

──それってこういうタッチ(OLGA GOOSE CANDLEのキャンドル)の絵のような感じなんでしょうか。

平塚:というよりは現実世界の情景に近い気がします。だけどいろいろな箇所でヒントになることはあり、結果的にデザインにつながることはあります。

──僕はカートゥーンが好きなんです。ポパイやベティ・ブープといったフライシャー兄弟の作品が好きで。そういうアニメって、物理法則を無視しているというか、現代人のロジックじゃないんですよね。壁にぶつかってキャラクターの形の穴ができるとか。トンカチでぺしゃんこになるとか。そういったカートゥーンは見ますか?

平塚:ディズニーは小さい頃、親が流していたから見ていましたね。それよりもアメリカの古い雑貨の影響を受けています。そういうものの仲間になるようなものを作りたいって思って作っているので、参考にすることはいっぱいあります。たぶん、彼らがカートゥーンから影響を受けていて、そこから私も影響を受けているのかもしれないですね。

──先ほどキャンドルごとにマジック・メッセージがついているって言っていました。「もっとなかよし」とか「関係にスパイスを」とか。では、それぞれストーリーは浮かんでいるんですか。

平塚:そこまであえて決めないようにしています。ピーナッツには「ボビー」って名前をつけたんですけど、基本はつけないようにしていて。あくまでもクロックとか。どうしてかというと、実際の魔術で使われる蝋燭はあくまでも「人型」「猫型」とあくまでも種類だからです。それに倣っているということ、そして、決めないことでの広がりを期待しているからです。

ただ「オルガグースキャンドル」で短編集を作ったことがあって、その中ではいろんな動きをしています。でも、こっちの話とこっちの話で全然違う性格になっていたりします。そういった掴めそうで掴めない、だけど気付くとそばにいるような、そんな存在を目指しています。

──キャンドルを見ていると、勝手に考えたくなりますね。

平塚:それはすごく嬉しいです。

──そのキャンドルごとのことばって、どこから降ってくるのでしょうか。

平塚:うーん、私は中学受験をしていて、その時国語の試験でことわざの問題が出たんです。慣用句やことわざの知識問題です。それは勉強すれば確実に点をとれるので、すごく暗記していました。たぶんその蓄積があるのだと思います。ことわざの言い回しだったりが影響していると思います。

「あなたのネジを緩ませる」だったり、「舌が二枚に三枚に四枚に…」とか。これは二枚舌をもじったんだと思います。あと基本的にあんまり真面目なのはつけないようにしています。なんかニヤニヤしている感じの言葉をつけるようにしているんですよ。表情もそうですけど。

──ことわざというのはすごく意外です。

平塚:『真・女神転生』っていうゲームはやっていましたか?

──いえ、やっていません。

平塚:そのゲームでは悪魔に出会って仲間にできるんですけど、悪魔同士を合体させられるんですよ。ポットみたいなのに入れられて、しゅうって溶けて、要素となって新しいものになるんですけど。

たぶんそれもちょっとあって、溶けて見えないけれどいるぞ、みたいな。それがパワーになるぞ、みたいなイメージはあります。

──じゃあ、このキャンドル達は火を点けて、溶けたあともその空間を漂っているんですね。

平塚:そうです。で、持ち主のために助力してくれるけど、それがちょっとズレているんで、持ち主の思い通りになるかはわからないけど、その気持ちはあります。

──なるほど。すごく納得しました。とても素敵だなって、より一層思いました。こういうアイテムがいいなって思うのは、部屋に置いとくとそれがちらっと目に映るだけで、楽しい気分になる。そういった部分がすごく素敵だなと思いますね。生活に溶け込んで入っていく感じがしますね。しかも、このキャンドル達は溶けたあともいるっていうのがすごいですね。その空間にいるっていうのが。

平塚:ただ本当に燃やせないって、国外の人も含め、めちゃくちゃ言われます。だから、儀式道具だからって答えていますね。その時にしてくださいって。

インタビューを終えて

OLGA GOOSE CANDLEのキャンドルを初めて見た時、強く惹きつけられるものがありました。それはその造形はもちろん、火を点けると溶けてなくなってしまう「キャンドル」であるところにいい意味でショックを受けたのです。こんなに魅力的なものを溶かしてしまうなんて!

今回、お話を聞いてその思考の源泉をうかがいしれて、とてもおもしろかったです。まさかキャンドルをとりまく発想のソースの1つにことわざがあるとは。

まだOLGA GOOSE CANDLEのキャンドルに火を点ける勇気はありませんが、いつかその時がくるのだと思います。そして、溶けたキャンドルはずっとそこにいるのです。

平塚梨沙

平塚梨沙
1986年生まれ、東京都出身。2011年、多摩美術大学造形表現学部造形学科卒業。多摩美術大学在学中に、キャンドルブランド「OLGA-goosecandle-」の活動を開始。「OLGA-goosecandle-」のキャンドルは、「ガチョウ女の作る儀式道具」をテーマに、 独自で型や色を調合し、すべてハンドメイドで製作が行われている。
Web: olga-goose.com/
Instagram: @goose_hag

Photography Kousuke Matsuki

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