連載:若きアクティビスト Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/連載:若きアクティビスト/ Thu, 26 Aug 2021 06:10:46 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 連載:若きアクティビスト Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/連載:若きアクティビスト/ 32 32 「誰の痛みも無視されない社会に」 埋もれた課題に光を当てる酒向萌実の挑戦 https://tokion.jp/2021/08/26/a-society-where-no-ones-pain-is-ignored/ Thu, 26 Aug 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=51543 キャンプファイヤーの酒向萌実が語る今求められる「ソーシャルグッド」。

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国内最大のクラウドファンディングプラットフォームの「キャンプファイヤー(CAMPFIRE)」内で、ソーシャルグッドに特化したサービスとして立ち上がった「グッドモーニング(GoodMorning)」。「誰もが社会変革の担い手になれる舞台をつくる」をミッションに掲げ、サービスを通して「誰の痛みも無視されない社会」の実現を目指す。その「グッドモーニング」の立ち上げから参加し、2019年にキャンプファイヤーから分社化された際にグッドモーニング社の社長を務めたのが酒向萌実(さこう・もみ)だ。

社会問題と向き合う人のクラウドファンディング「グッドモーニング」では、これまでに社会課題を解決するための資金集めを支援し、過去には渋谷区が子どもの学習機会を提供する「スタディクーポン」や、日本初の裁判費用クラウドファンディング「タトゥー裁判」のプロジェクト、伊藤忠商事や伊藤忠ファッションシステムと協働したファッションの課題解決をテーマとするプロジェクト「ドーン(DAWN)」など、多岐にわたるプロジェクトのサポートを行ってきた。

先日、今秋にグッドモーニング社が解散し、クラウドファンディング「グッドモーニング」の運営主体がキャンプファイヤーへ戻ることが発表された。「キャンプファイヤー」のサービスとして運営を継続するため、サービス内容に変更はないが、酒向は、体制変更に伴い8月から「グッドモーニング」のチームから離れ、キャンプファイヤーのHR部へ異動。働く人のダイバーシティをはじめとした組織の課題に取り組んでいくという。そんな新しいチャレンジをする決断をした酒向に、これまでの経歴を振り返ってもらいつつ、今求められる「ソーシャルグッド」とは何かを聞いた。

――初めて社会問題に関心を持ったのはいつ頃ですか?

酒向萌実(以下、酒向):公立の中学校に通っていた頃ですね。学区が比較的経済的な格差のある地域で、経済的に余裕のある家庭の子ども達は学費の高い私立の高校も選べるのに、そうでない家庭だと公立高校にしか行けないから偏差値を下げて受験しないといけないという人もいて。自分はチャレンジするようなレベルの高い学校をいくつも受験したので、経済状況で選択肢が狭まるなんて不公平な話だなと、子どもながらに感じました。

――確かに受験に限らず、家庭の経済状況によって、学習機会が奪われてしまうというのは、問題ですよね。そこで関心を持つようになって、高校時代はどういう社会問題に関心があったんですか?

酒向:部活でも学校でも、家庭でも塾でもない場所で何かやりたいことはないかな、と探すうちに、「カタリバ」というNPOを知り、イベントに参加したり、東日本大震災の時には被災地にボランティアとして行ったり、社会問題に関わる活動に参加していました。高校には環境問題に関わる先輩、NGOで活動をする人などもいたので、将来何かをするためという意識ではなく、自分が関心をもったこと、やりたいことにチャレンジしていました。

――高校の先輩も、社会課題への意識が高い方が多かったんですね。

酒向:私が通っていた国際基督教大学高校の授業ではディスカッションやディベートをすることが多く、「死刑制度」や「選択的夫婦別姓」といったテーマでも議論をする機会がありました。クラスメイトとの議論は考えるきっかけを与えてくれて、それが今の仕事にも活かされています。

他に忘れられないのが、校外学習で裁判を傍聴した時のことです。先生に「どう思った?」と感想を求められると、私達は被告人をどう裁くか、という話をしました。それに対して先生から「なぜ裁判官の視点なのか? もし自分が被告人としてあの場に立っていたらどう感じるか、考えましたか?」と指摘されました。それで、無意識に力のある側に立って考えてしまっていたことにハッと気付いて。視点の持ち方を意識するきっかけになりました。高校の友人とは今でも「あの映画観た?」みたいな話と同じくらいフランクに、LINEで政治や社会問題について話をします。

――それで、そのまま大学に進学し、卒業後はすぐキャンプファイヤーに入社したんですか?

酒向:いえ、新卒ではアパレル企業に就職しました。それまでいろいろな社会課題に関わり、勉強してきましたが、その延長線上にある就職先が思いつかなくて。納得して入社したものの、結局その会社は9ヵ月くらいで辞めてしまいました。働き始めてから改めて、社会課題に関連する、今までやってきたことと続く仕事があるんじゃないか? と考え直していた時に、学生時代に一緒にボランティアをしていた友人から「グッドモーニング」の立ち上げの話を聞いて、ぜひやってみたいと思って、キャンプファイヤーに入社しました。

埋もれた社会課題に光を当て、諦めず日々変えていく

――クラウドファンディング「グッドモーニング」のどこに魅力を感じたんですか?

酒向:特定の社会課題を選びきれず、社会課題を解決する人達を支えるプラットフォームの仕事なら、いろんな課題に対して興味があるという自分の良さが活かせるといった点に魅力を感じました。

――改めて「グッドモーニング」が行う支援について教えてください。

酒向:「キャンプファイヤー」で掲載するプロジェクトのカテゴリーの1つに“ソーシャルグッド”があり、このカテゴリーを選択いただいたプロジェクトを「グッドモーニング」に掲載しています。使っていただくサービスやシステム部分は「キャンプファイヤー」と同じですが、使っていただく方の負担を最低限に抑えたく、手数料を通常の17%ではなく、9%に設定、ソーシャルグッド専任のプランナーがプロジェクトのサポートをしています。

――実際にプラットフォームを運営し、感じる課題は?

酒向:ネガティブなニュースが多い中、それでも諦めずに活動している人達がいる、さらにその活動を支援する人が大勢いることには希望を感じます。しかし、直近では新型コロナの影響で保障が間に合わずに困窮している事業者が増え、経済的な損失をカバーするために自らクラウドファンディングを立ち上げられる方も多いです。本来政府が行うべき支援が間に合わない中、困窮する人が自助努力を強いられなければいけない状況は間違っていると思いますね。

――必要な支援の形というのがありますよね。

酒向:クラウドファンディングはまだ顕在化しておらず、うまくお金が集まってきてない課題に光を当てるために活用していきたい、と思っています。

――クラウドファンディングはPR的な側面もありますが、社会課題を広めるのは難しいことなのではないですか?

酒向:クラウドファンディングはSNS経由の支援者が多く、共感していただいた方から支援いただける点ではすごくいいことですが、一方でSNSで影響力がない起案者にとっては不利な状況。支援者をどう広く募っていくか、プラットフォームとしてできるサポートはまだ模索中です。

――課題解決にお金を払う、という流れはどうしたら生まれると思いますか?

酒向:クラウドファンディングのプロジェクトページの文章は、誰がどうやって解決するか、何にお金を使うかという情報がメインになることが多く、その背景にある社会課題や、なぜその課題が発生して、クラウドファンディングでお金を集めなきゃいけないのかという情報まではなかなか伝えられません。「グッドモーニング」がその背景を伝えるサポートをする形を模索しています。なるべく起案者が必要な活動に集中できるようにサポートしたいんです。

――活動のために資金が必要なのに、PRに時間をとられるのは本末転倒ですね。

酒向:そういう場合もあると思います。また、クラウドファンディングを1回やるだけで社会課題が解決されるとは思っていないので、どう長く支援していくかも課題の1つです。プロジェクトの掲載期間は最大80日間なので、“その後”が追いかけにくい。せっかく興味を持ってくださったので、継続的な関係性を作れると社会課題や活動についてもっと知るチャンスが増えるはず。「グッドモーニング」では継続的に月額で支援を集めるマンスリーサポーターという方法もあるので、起案者にご提案することもあります。

――これまで支援してきた中で、印象的だったプロジェクトを教えてください。

酒向:どれか1つを選ぶことは難しいですが、タトゥー裁判のプロジェクトや、選択的夫婦別姓の実現を目指すというプロジェクトは特に印象的でした。法律や制度って、選挙で間接的に人を選ぶことでしか変えられないと思っている人も多いと思うのですが、クラウドファンディングを通して活動費を集めて陳情を出したり、裁判で大きな判例を残すことによっても制度を変えられる、個人がそういった活動を支援できることを知ってもらえたのは、大きな意味があったと思います。選挙で負けたから諦めるというのではなく、日々ちょっとずつ変えていくための運動を続ける方法が増えていくといいなと感じます。

――酒向さんが、個人的に興味を持ったプロジェクトはありましたか?

酒向:最近すごく増えたのが、生理や性教育に関するプロジェクトです。生理用品の配布プロジェクトや、初めて生理を迎えた時に渡す勉強キットを作るプロジェクト、大規模なものから学生さんが起案するものまで大小さまざまです。こうしてオープンな場で、みんなで生理や性について議論ができるようになってきていることはすごく嬉しいですね。

「どんな働き方でもトップランナーになれる」ロールモデルに

――起案者もプロジェクトも多様となると、運営側もより多様性が求められるのでは?

酒向:日々知らない社会課題が上がってくるので、初めて聞く課題はちゃんと調べたり勉強会をしたり。それぞれ興味のある分野がバラバラなので、知見を深め合いつつみんなでアップデートしています。多様性については、働き方の面からも考えています。

――酒向さんが25歳で社長に就任した際、「しばらく子どもを産めないと思った」と過去のインタビューで答えていましたよね。今は妊娠・出産と仕事のバランスをどう考えていますか?

酒向:最初「社長になって」と言われた時は、しばらく妊娠しちゃいけないんだと思っていましたが、後々「私が、仕事で抜擢されたら妊娠しちゃいけないって思ったら、みんな産めなくなるな」と考えを改めました。そういうロールモデルになるのはあまりよくない。ポストに就いたばかりで「育休取ります」って言ったら怒られそうと思っていましたが、怒られるほうがおかしい。男性だったら、子どもが産まれるから昇進辞退しますとはならないじゃないですか。

女性はどうしても子どもを産むまでにキャリア形成しなきゃいけないとか、休んでも大丈夫なポジションが必要だから、そこまで全力で走り切らないといけない、と感じている方が多いように感じます。出産までに100点を出した人だけその先も仕事がある状態なんて……そんなの嫌じゃないですか。女性も男性も、ライフステージによって柔軟に働き方を選べる環境を作っていきたいと思います。キャンプファイヤーには育休から復帰した女性役員や、子育て中の社員も多くいます。

今後、「グッドモーニング」もキャンプファイヤーでの運営に戻るので、さらにみんなが安心して長く働ける環境を整えていけたらと思います。

——「グッドモーニング」がキャンプファイヤーの運営に戻ることで、何かサービスの変化はあるのでしょうか?

酒向:サービス内容や担当者、手数料などについて変更はなく、これまでと同じようにご利用いただけます。グループ会社という独立した組織としてのチャレンジはここで一区切りとなりますが、「グッドモーニング」はこれからも「誰の痛みも無視されない社会に」をビジョンに、社会問題と向き合う方のサポートを継続していきます。

――最後に、8月に酒向さんはキャンプファイヤーのHR部に異動となりましたが、今後どんなことをやっていくつもりですか? 

酒向:個人としては、男女共に緩急をつけて働ける環境を作れたらいいなと思っています。男性の育児休暇の取得率は全国的にまだまだ上がってないですし、育児と家事、家庭内での分担が女性に偏っている中では、女性が仕事で出せるパフォーマンスも上がりきらないと思っています。また、病気や介護、趣味など、仕事だけに時間を使わないタイミングはどんな人にもあると思っています。安心して休める、休んだあともまた活躍できる、そういう働き方ができる環境を作っていきたいです。

酒向萌実(さこう・もみ)
1994年2月生まれ、東京出身。国際基督教大学卒業後、アパレル企業を経て2017年1月からキャンプファイヤーに参画。ソーシャルグッド特化型クラウドファンディングサービス「グッドモーニング」の立ち上げメンバーとして、数百に及ぶプロジェクトのサポートに従事。2018年1月より事業責任者に就任。2019年4月にグッドモーニングを分社化し、社長に就任。担当した代表的な事例として、渋谷区・NPOなどによるコレクティブインパクト事業の「スタディクーポン」、日本初の裁判費用クラウドファンディング、全国子ども食堂の保険加入、国内外での緊急災害支援など。1人1人が連帯し合える社会を目指して、クラウドファンディングを活用した、社会課題の解決や認知拡大などに取り組む。2021年8月からキャンプファイヤーのHR部へ異動。
https://camp-fire.jp/goodmorning
Twitter:@SAKOMOMI

Photography Mayumi Hosokura

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「誰もがマイノリティ性を持っている」 サリー楓がLGBTQ当事者として発信する意図 https://tokion.jp/2021/06/11/sari-kaedes-message-as-a-transwoman/ Fri, 11 Jun 2021 06:00:28 +0000 https://tokion.jp/?p=37169 建築デザイナー、コンサルタントとして働きつつ、モデルやタレントなど幅広く活動するサリー楓が考える「社会における理想的なダイバーシティのありかた」。

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建築デザイナー、コンサルタントとして働きつつ、モデルやタレントなど幅広く活動するサリー楓。慶應義塾大学大学院在学中に社会的な性別を変え、現在はトランスジェンダー当事者としてLGBTQに関する講演会を行うなど、積極的に意見を発信している。モデルやタレント業も、そうした活動の一環だ。

6月19日からは彼女と周囲の人達の姿を収めたドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる(英題:You decide.)』が全国で上映される。劇中ではトランスジェンダーのビューティコンテストへの出場や、自身の性自認に関する父との対話などが映し出されているが、彼女は「この映画を『LGBTQの映画』だと思っていない」と語る。彼女がこの映画で伝えたいこと、そしてさまざまな活動を通じた発信の先に見据える「社会における理想的なダイバーシティのありかた」について聞いた。

——さまざまな肩書きを持つサリーさんですが、現在どういったお仕事をされているんですか?

サリー楓(以下、サリー):日建設計という会社で建築デザイン、新規事業コンサルタントをしています。これまで設計事務所の仕事は建物の種類や予算規模といった条件ありきでしたが、今は建物の種類や予算・建設時期から一緒に相談したいという総合的な依頼に変わってきていて、“本を読む場”を作りたいといった抽象的な相談を受けることもあります。

あと、私の場合は働き方も変わっていて、新規事業担当として、自分で社会課題を見つけてきて、自分達の視点でプロジェクトを組み立てていくような仕事の進め方をしています。

——社会課題に関する仕事が多いのでしょうか?

サリー:お客さまからはSDGsに関する質問が増えています。それは私のアイデンティティに関係するところもありますが、時代的にも、企業の長期的利益を確保するという点でもSDGsに取り組むことが有効な選択だと認識しているからです。私もSDGsの講演などを通して学びを深めてきたので、お客さまのプロジェクトの中でどのような目標達成ができるのか挑戦のしどころでもあります。

——企業側のSDGsの意識が上がるのは良いことですね。

サリー:そうですね。ただ、SDGsの中にはLGBTQに関する課題解決は含まれていないんです。「ジェンダー平等を実現しようと」いう目標の内容は男女平等に関するものだけ。SDGsの達成を目指す国連加盟国の中には、宗教や法律などにより、同性愛が懲罰の対象になる国があるためです。なのでSDGsに取り組むだけでなく、“次のSDGs”に何を盛り込まないといけないのか”まで示唆を与えるような内容にしていくことが大事だと思います。

——サリーさんはモデルやタレントとしても活動されていますが、どの活動もメッセージ性があります。

サリー:モデル業は「なぜそのブランドのプロモーションに出演するか」という背景を語ることができて、自分の発信したい文脈と合致する場合にのみ仕事を受けています。例えば「フレルシー 」は足のサイズが大きい人向けのハイヒールブランドで、足型を取り直して靴を製作しているところに共感しました。靴のサイズって小さいサイズの足型を基準にしていて、それを拡大して大きいサイズを作ることが多いそうです。けれど、大きいサイズの人にも足に合ったいい靴が必要ですよね。

あと、「ABEMAニュース」への出演やイベント登壇なども行っていて、企業向けの講演会は可能な限り参加するようにしています。最近はジェンダーの課題に取り組まないといけないという意識を持った企業も増えてきていて、実際に働くLGBTQ当事者に話を聞きたい、といった依頼も多いですね。

——企業の意識が高まっているとはいえ、制度や取り組みとしてはこれから、という段階でしょうか。

サリー:LGBTQは人口の約10%と言われています。その約10%の存在は知られているけれど、当事者はまだ声をあげにくい状況。企業からすると優秀な人材の確保や離職率などにもつながるので配慮したいところですが、存在が目に見えないから実感が湧かない。そもそも多くの企業では、古くから議論されている男女平等だって達成できていません。今は過渡期で、実際に“自分ごと”化して対応できるかというと、まだ難しい状況だと思います。

誰もがマイノリティな部分を持っている

——講演会などでは、企業からは具体的にどういった質問がありますか?

サリー:就職活動に関する質問が多く、入社前、入社した瞬間、入社後の3段階に分けて話しています。私はカミングアウトした状態で就職活動をしたので、その時に言われて嫌だったこととか、嬉しかった対応、働き始めて困ったこと、良かった制度などを具体例でお話ししています。

——最近はLGBTQに関する就活も話題となりました。サリーさんも嫌な体験をされていたんですね。

サリー:採用担当者にはカミングアウトしましたが「私では判断しかねる」と言われました。結論から言うと、そのような企業に応募することはありませんでした。そのような企業だったら、入社してからも大変だろうし。だから、LGBTQに理解のある会社しか受けないようにしました。今の会社に入社してから困ったのは資格です。建物の取引や建築の話をする際には顔写真付き免許証を提示する必要があるのですが、その時に記載内容と性別や名前など、相手が知っている自分の情報と違うと困るということに気がつきました。これはLGBTQに限らず、夫婦別姓の方や、結婚後に免許を取り直していない方にも起こる問題です。

——カミングアウトに関する課題もあるのでしょうか。

サリー:カミングアウトするかどうかは本人の自由であって、それは強制されるものであってはならないと考えています。ただ言いたい時に安心して言えるような環境は必要です。カミングアウトを歓迎する環境という意味で「ウェルカミングアウト」という言葉があるのですが、学校でも職場でもウェルカミングアウトな環境が増えるといいなと思います。

——男女平等の課題では人数をそろえることも重視されています。LGBTQに関しても、企業として人数を増やすことは必要?

サリー:障壁や不平等を取り除くため、最初のスタートラインをそろえるために制度とか支援を使えるようにすることは大切です。例えば昇進制度で勤続年数を条件にすると、妊娠を経た女性の昇進が遅れる原因になってしまう。その是正をするために役員の女性比率を定めて女性を昇進させる、というような考え方は適切だと思います。ただ取って付けたように、女性やLGBTQの人を“そろえる”ような動きには賛同できません。

そもそも自分は多数派だと思っていたとしても、いつかはマイノリティになるかもしれないし、みんな何かしらマイノリティな部分を持っていると思います。身近な例だと、ビールが苦手で飲み会で困るとか(笑)。いつ自分のマイノリティ性で不平等な思いをするかなんてわからない。男女平等やダイバーシティの取り組みができている環境だと、それ以外のマイノリティの悩みも受けとめやすい環境ができると思います。

——みんながマイノリティだと思えば、さまざまな課題は“特殊なこと”ではなくなりますよね。

サリー:コロナ禍では非日常を生きる困難をみんなが経験して、“マイノリティ”になりましたよね。在宅勤務に切り替わった時に気がついたんですが、すぐにオンライン業務に適応できたのは、多様性の取り組みをしていた会社だったんです。もともと多様性のある働き方を受け入れていたので、家で育児をしながら働くなど在宅勤務経験者が多かった。だからスムーズに対応できたのだと思います。

“男らしく”が嫌だった。今は“LGBTQらしさ”を求められる

——ドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』の序盤には、「私が女性であるかどうかは、あなたが決めてください」とサリーさんが語るシーンがあり印象的でした。

サリー:ジェンダーにかかわらず、誰もが「自分を表現すること」と社会の制約の間で折り合いをつけています。会社が認めなければ、好きな服を着て仕事できないですよね? それと同じように、トランスジェンダーの私が私らしく生きるためには、社会側の理解も重要です。よく「トランスジェンダーはどちらのトイレを使うのか」と議論されます。手術をして戸籍も変えたトランスジェンダー女性なら女性トイレが使えるけれど、そうではないトランスジェンダー女性が女性トイレを使うには? それは主観ではなく、社会と一緒に考えていかなければいけないことなんです。

——女性としても課題にぶつかることがあるのでは?

サリー:私がカミングアウトしたのは、“男性らしさ”というジェンダーロールが苦しかったから。けれどトランスジェンダーであることを明かしたら、今度は“女性らしさ”を押し付けられるようになりました。そういうことじゃないんだと伝えようとしてLGBTQの話をすると、今度は“LGBTQらしさ”を求められるんですよ。カテゴライズして認識しようとする限り、人のことをジェンダーでしか分けられなくなる。だから、私自身はLGBTQという言葉もあまり使わなくなりました。

——ジェンダーの問題を解決していった先は、カテゴライズの必要がなく個人を尊重する社会になるわけですね。

サリー:もちろん、今は男女に分類されない存在を示すためにLGBTQという言葉は必要だと思います。でも本来はジェンダーや生き方、考え方、宗教って人間の数ほどあるので、“自分”というカテゴリーがあればいい。ノーマライゼーションは必要だけど、ジェンダーをアイデンティティにする必要はないということです。

——サリーさんも、トランスジェンダーであり普通に生活する自分を見せることを大事にしていると聞きました。それは、ジェンダーがアイデンティティではないという一つの表現ですよね

サリー:そうですね。意図的に“トランスジェンダーの建築家”という言葉を使うこともあります。その枕詞がつくということは「トランスジェンダーが建築家になるのが困難」という前提があるからです。そういう表現をする必要がない社会になっていったらいいなと思います。

——LGBTQの存在自体は認知が広まりましたが、まだまだアップデートできていない部分が多い?

サリー:これまで男女平等やLGBTQ、ダイバーシティの多くがLGBTQ当事者や関心のある層にしか届いていなかった面がありました。けれど多くの人達がその議論の外側にいると思います。問題や現状を知りたい人もいると思うけれど、多様性や自分らしさといったことに対して前向きな態度しか示してはいけないという雰囲気がある。そういう時に、サリー楓に相談して欲しいなって思います。私はそういうことを理解できない人や共感できない人も含めて、皆さんと一緒に勉強して、議論していきたいんです。

——何かを教えるのではなく、議論が必要なんですね。

サリー:知らないものに対して「理解できない、嫌悪感を抱いてしまう」ということもあると思います。理由は、その人の中ではなく社会構造の中に原因があるかもしれない。それも話し合わなければわからないことなので、向き合うことでアップデートしたいんです。これはダイバーシティだけでなくSDGsもそうで、目標が先に立ってしまって、「CO2を削減しよう、電気自動車を普及させよう」「でも、その電気って火力発電で作った電気じゃない?」と疑問を口にしにくいことがあります。

——映画『息子のままで、女子になる』はそういった課題に向き合うきっかけになると思います。サリーさんがこの映画で感じてほしいこと、伝えたいことは?

サリー:私はあの映画を“LGBTQ映画”だとは思っていなくて、学校や会社になじんで私が普通に過ごしている姿が見られると思います。それに私よりも私の周囲の人達のシーンのほうが印象的で、私のジェンダーに理解を示せない父の姿など、結論ありきではなく、理解しあえないリアルな葛藤をそのまま映しています。この映画の英語のタイトルは『You decide.』となっています。そこからは、私だけでどう生きるかを決められるわけではなく、あなた(社会)がどう私を見ているのかというのも、人がどう生きるかを決める原因になるというメッセージを感じます。だから、この映画を観た社会がどういう議論をするのか見てみたいです。

サリー楓(さりー・かえで)
1993年京都府生まれ、福岡県育ち。トランスジェンダーの当事者としてLGBTQに関する講演会も行う。建築学科卒業後、国内外の建築事務所を経験し、現在は建築のデザインとコンサルティングを中心に多岐にわたって活動している。
https://www.kaedehatashima.com/home-1
Twitter:@sari_kaede

■『息子のままで、女子になる』
トランスジェンダーの新しいアイコンとして注目される、サリー楓。建築家としての夢、息子として期待に応えられなかった葛藤、家族との対話……これは彼女が、“楓”として自分らしく、いまを生きようとする現在進行形の物語。
2021年6月19日からユーロスペースほか全国順次公開
https://www.youdecide.jp

Photography Yuri Manabe

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新しいアイドル像を表現する和田彩花 業界に必要な変革とは? https://tokion.jp/2021/02/05/ayaka-wada-idol-industry-needs-to-change/ Fri, 05 Feb 2021 06:00:22 +0000 https://tokion.jp/?p=17635 元アイドルグループ「アンジュルム」のリーダーの和田彩花。ハロー!プロジェクトを卒業後も、アイドルという肩書きを名乗り続けながら、さまざまな分野で活動を続ける彼女の思いに迫る。

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「私が女であろうが、なかろうが、私がアイドルであろうが、なかろうが、私の未来は私が決める。こんなことを口にせずとも叶えたいものだが、口にしなければ未来を自分でつかむことは難しそうだ」。

 この言葉はアイドル、和田彩花のサイトに掲載された一文だ。和田は2019年6月にハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)のアイドルグループ「アンジュルム」を卒業。ライブや執筆などの活動を続ける今も、肩書きはアイドルのままだ。一方、アイドルにとって不文律のタブーとされるフェミニズムやジェンダーについて積極的に発信することで大きな注目を集めた。和田がアイドルを続けてつかみたい“未来”とはどんなものなのか。

「濃い色のリップは良くない、なぜならアイドルだから」

――10歳の若さでハロプロに入りましたが、アイドルを目指したきっかけは?

和田彩花(以下、和田):両親の勧めでオーディションを受けてハロプロに入ったんですが、当時小学4年生だった私には習い事や部活のような感覚でした。それで2009年、15歳でS/mileage(スマイレージ、現・アンジュルム)のメンバーとしてデビューしたんですけれど、その時からアイドル活動を仕事として意識するようになりましたね。

――フェミニズムの意識を持つようになったのはいつ頃からですか?

和田:10代後半になって、自我が芽生え始めた頃に「なんだかモヤモヤするなぁ」と思うことが増えたような気がします。例えばある時、大人っぽくなりたくて前髪を伸ばし始めたんです。私はそれまで前髪パッツンの“かわいい”感じのスタイルだったので、急に大人っぽい雰囲気に変わって否定的な意見も出ました。そのほかにも周囲の人に、「濃い色のリップを塗るのは良くない、なぜならアイドルだから」と言われたこともあります。良かれと思って言ってくれていたと思うんですが、私は「音楽を表現する上でそうするべき」だと考えていたので、その説明だけでは納得できなくて。

――アイドルの中にはそういった周囲やファンの期待に反することがないよう、自分の意見や趣向を控える人もいます。和田さんはどう向き合いましたか?

和田:グループ卒業の2年ほど前、23歳の頃にフェミニズムというものにすごく自覚的になってきて、人前でもジェンダーの話をするようになりました。やっぱり批判の声もありましたけど、それ以上に、私の発言をきっかけに問題を知ったという方、共感してくださる方もいたので、その喜びの方が大きかったです。

絵画の中で描かれる女性と、現代のアイドルの共通点

――フェミニズムという概念を知ったきっかけは?

和田:美術を学ぶ中で女性の描き方からフェミニズムに行きついて、強く意識するようになりました。フェミニズムを知ってからは、今まで感じていた違和感が「おかしいと思っていいものだったんだ」と気がつくことができたんです。

――そもそも美術を学ぶきっかけになったのは、高校時代に美術館でエドゥアール・マネ(19世紀・フランスの画家)の絵を見たことだそうですね。なぜ美術を学ぼうと考えたんですか?

和田:私は好きなものができると、熱中して深掘りしたくなるタイプ。作品や画家自身に興味を持っていて、よく美術館に行っては、買ってきた絵画の解説書を読んでいたんです。そうしたら当時のマネージャーさんが美術史という学問があることを教えてくれて、自然と大学進学を考えるようになりました。

――大学ではどういったテーマで深掘りしていったのですか?

和田:エドゥアール・マネについて学び、卒論ではマネと先行する世代の流れについて研究しました。マネは近代美術の画家ですが、どうしてマネの時代の絵が生まれたのか知るために、前の世代との比較研究を行ったり、その革新性とともにマネの作品や画業に見られる伝統的な側面との接点も理解しようと努めました。その流れで、私は一つの作品を選んで研究していたのですが、それがベルト・モリゾという女性を描いた肖像画だったんです。ベルト・モリゾもまた画家だったんですが、彼女の作品はフェミニズムの視点から考察されることも多く、私もアートやフェミニズムに関する本を読みようになりました。

――マネが描いた肖像画は、他の作品とどう違うんでしょうか?

和田:美術作品の中では、女性は受け身で描かれることが多いんです。描き手の対象を見るまなざしが反映されている作品も多いですし、体のラインが強調された描写も多いです。また鑑賞者が一方的に「見る対象」として、その場面を覗くような描かれ方もよくあります。一方でマネが描いたベルト・モリゾの肖像画は、描かれた女性がこちらを見返してくる構図になっているから、すんなりとは見ることができない。視線だけでなく、女性の体の向きも正面だと「向き合う」という印象が強くなります。こうやって「見る」「見られる」という構図ができていくんだなと学びました。

――アイドルもまた「見られる対象」ですが、そこで感じる違和感はありましたか?

和田:私はずっとアイドルという仕事をしているので人から見られることに慣れてはいますが、見られ方、受け取られ方に違和感を持つことがあります。私はセクシャリティの揺れ動きやジェンダー規範(男性と女性がどのようにあるべきで、どう行動し、どのような外見をすべきか、という考え)に疑問を持っていたので、異性愛を前提にしたアイドルという職業にまつわるあれこれに疑問を抱きました。曲の歌詞1つ取っても、多くの場合は異性愛で成り立つ心情描写や、従来的なジェンダー規範にならう曲の主人公が登場したりもします。なぜ、こんなにも性が限定され、従来的な役割が当てはめられがちなのだろうと違和感を覚えましたし、それをステージで演じる私自身もそう見られ、受け取られていることをたびたび感じていました。

「根本的には変わっていない」これからのアイドル界に必要な変化は?

――ハロプロを卒業してからは、アート関連に関する仕事が増えていますが、今でも「アイドル」という肩書きで活動を続けているのは、どんな意図があるのでしょうか。

和田:私は今のアイドルに幅を持たせたいんです。これまで、10代後半から20歳にかけては、「アイドルだからダメだ」と言わる不自由さの理由がわからず、悔しい思いをたびたびしてきました。同じ思いを次世代のメンバーにはしてほしくないんです。私は、主に美術を通してさまざまな文化に触れることで、不自由は男性中心的な視点に傾倒することで生まれるものだと気付けました。だからこそ、気付きや声を発信することで、アイドル像の幅を1つ増やせられたら嬉しいです。

――最近は、以前と比べていろいろなタイプのアイドルが出てくるようになりましたが、それでもまだ変わらないことは多いですか?

和田:確かにアイドル界も以前よりもさまざまタイプの人やグループが出てきていますし、アイドル像も広がってきています。それでもまだ根本的には変わらなくて、何か社会的な発信するのはとても勇気がいることです。だからこそ、発信することは気が付いた私にできることの一つかなと思ってます。

――ジェンダーの話をするのも、勇気がいることだったのでは?

和田:私がジェンダーの話を始めたときに、「アイドルがジェンダーの話を持ち込むなんておかしい」と言われたこともありました。ジェンダーの話をしておかしいところなんてないはずだけど、そういう風潮の中で発言するのはアイドルにとって勇気がいることだとは思います。

――そういう風潮が変わるにはどういう変化が必要だと考えますか?

和田:服装や見た目、発言も、どんなことも選択できるようになればいいですよね。ただしアイドルには未成年も多いので、全部本人に任せちゃうというのも無責任だと思います。例えばグラビアの仕事で、水着を着るか、着ないかという選択であれば、まず年齢制限を設けて、自分で考えられる歳になってから本人が決めるとか。事務所が何よりもその子を大切にすることが大事だと思います。その上で「その子の何を大切にするのか」という視点でプロデュースしてあげるのがいいかなと思います。

――自分の意見を発信する今の和田さんを、ファンの方はどう見ていると思いますか?

和田:最近はジェンダーだけでなく、生理の話もするようになりました。アイドルってあまりそういう話しませんけど、生理って普通のことで、おかしいものじゃない。アイドルという世界に限らず、一般的に生理にまつわるさまざまな情報がオープンになることは少なかったこれまでを踏まえると、必要な情報に誰もがアクセスできる環境や人の意識の変化は、重要なことだと思います。ファンの方の中には同じように生理がある人もいるので「あやちょ(和田さん)が同じように、同じ人間として生きているんだって知れてうれしい」と言ってくれる人もいて、こちらもうれしくなりました。

――和田さんは、アイドルの新しいロールモデルですね。

和田:後輩達はこれまで、あまり多様性やジェンダーを意識する機会もなかったと思うので、感じるところはあるかもしれないですね。けれどその子たちに意見することで不用意に影響を与えるようなことはしたくない。それでもいつか、悩んだり、おかしいと思うことがあったら、私もその子のために協力したいなと思っています。

和田彩花
1994年8月1日生まれ。群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は《菫の花束をつけたベルト・モリゾ》。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。
http://wadaayaka.com
Instagram:@ayaka.wada.official
Twitter:@ayakawada

Photography Kosuke Matsuki

TOKION LIFESTYLEの最新記事

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IT業界のジェンダーギャップはなぜ起こる? Waffle田中沙弥果が語る女子中高生への教育の重要性 https://tokion.jp/2021/01/13/importance-of-educating-school-girls/ Wed, 13 Jan 2021 06:00:19 +0000 https://tokion.jp/?p=16036 IT分野におけるジェンダーギャップを是正するために、女子中高生向けにIT教育の機会を提供するWaffleが描く未来について。

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一般社団法人Waffle(ワッフル)の代表理事を務める田中沙弥果は、ジェンダーギャップの大きいIT業界やSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)分野の現状を変えるべく、Waffle共同創業者の斎藤明日美と共に、女子中高生向けにIT教育の機会を提供する活動を行っている。第4回「ジャパンSDGsアワード」において、「特別賞(SDGsパートナーシップ賞)」を受賞するなど、注目を集めている。

現在、IT業界における女性技術者の割合は20%以下 。日本のSTEM分野(理系分野)の学部の男女比は経済協力開発機構(OECD)加盟37ヵ国の中でワースト1位だという。日本でも今年からプログラミング教育が小学校で必修となったが、なぜここまで差がついたのだろうか。IT・STEM分野のジェンダーギャップと教育の関係について話を聞いた。

親のジェンダーバイアスが与える影響力

——Waffleを立ち上げた経緯は?

田中沙弥果(以下、田中):私は大学が文系で、卒業後はテレビ番組の制作会社、2年間のフリーター生活を経て、NPO法人みんなのコードで働きました。そこでは小学校向けにプログラミング教育支援を行っていましたが、小学生の頃は男女問わずプログラミングを楽しんでいるのに、中学に入ると何かしらの原因で女性が参加しなくなると気がついたんです。そこで、女子中高生向けのプログラミングや進路のイベントを開催するようになりました。その中でデータサイエンティストとして働いていた斎藤明日美と知り合い、昨年11月にWaffleを法人化しました。

——昔からジェンダー平等について意識していたのですか?

田中:フェミニズムを意識するようになったのは、実は活動を始めてからです。これまで違和感を感じていたことが、性別分業・性別役割の影響だったと気がついたんです。例えばカナダ留学した際、共同で子育てする父親を見て「これが理想的なのに、なぜ我が家はそうではないのか」と考えたり、就職後にはディレクターが男性ばかりのテレビ業界で、女性である自分の限界を感じたり。そしてIT業界に女性が少ないのもジェンダーバイアスが影響していた。1つ気がつくと、芋づる式にいろいろなことに気がつきます。

——テクノロジー業界でジェンダーギャップが起こっている、その背景的要因は?

田中:ジェンダーバイアスが大きな要因です。中学生は接する大人が親か先生のみということも多く、少数の大人の影響を強く受けやすい。親世代の中には、未だ学歴や資格重視の方や、「結婚して専業主婦になるから、高度な教育は必要ない」といった無意識のジェンダーバイアスを持つ方も少なくありません。学生から「私はデータサイエンティストになりたいけど、親は『その仕事で女性は食べていけるの? その進路なら学費は払わない』と言っている」と相談を受けたことも。親は進路のスポンサーでもあるので、その考えは進路に対して大きな影響を与えます。

——親世代の意識もアップデートしなければならないですね。

田中:特に女子学生は、母親から大きな影響を受けるというデータがあります。「母親アップデートコミュニティ」という団体が開催したイベント「親のジェンダーバイアスが進路に与える影響とは?」に登壇した際には、多くの方から「自分の中にバイアスがあることに気がついた」「何気ないことが影響を与えていると知った」と感想がありました。

母親アップデートコミュニティの様子

教育の格差は経済的問題だけではない

——Waffleの活動は女子中高生対象ですが、なぜこの時期に学ぶことが重要なのですか?

田中:アメリカでは大学に進学後に専攻を決めますが、日本では高校生である程度文系や理系などを選択し、大学入学時には専攻を決めなければならない。そのため中高生の段階でIT分野に関わる仕事の選択肢を得ることが重要で、まずは体験してもらい、学習と職業をつなげることが大事だと考えています。Waffleではコーディング学習やコミュニティを提供するオンラインプログラム「Waffle Camp(ワッフル・キャンプ)」を開催しています。

——テクノロジーが身近に感じられない人も多い中で、興味のきっかけをどう作っていますか?

田中:無料のイベントを通じてきっかけ作りを行っています。最近だとアマゾンウェブサービス(AWS)が8〜24歳向けにプログラミングイベント「AWS Girls’ Tech Day」をオンライン開催しました。私たちは集客を行う形で連携し、数百人ほどが参加しました。そのほかにも、スプツニ子!さんをお招きして「テクノロジー×アート」のトークイベントを無料開催し、150人ほどの女子学生が参加しました。

——活動にはどのような女子学生が参加したんですか?

田中:オンラインなので、沖縄や岩手、宮城など首都圏以外の人もたくさんいましたね。地方に届けられるのはすごく大きい。ただ、イベント情報を知るのは自分で興味を持ち、調べられる子。そもそもIT分野について知らないという機会格差はあります。自治体の情報なら届くという層もいるので、今後は自治体と連携してやっていきたいです。また希望者だけでは経済的に裕福な人しか集まらないという課題もあるので、いろいろな人が集まる公立学校にも届けていきたいです。

——学生から経済的な悩み相談を受けることもありますか?

田中:家にパソコンがないという相談を受けることがあります。来年1月から始まる世界的なアプリコンペ「テクノベーション・ガールズ(Technovation Girls)」は参加費無料ですが、パソコンがないと受けられない。企業と連携するなどして貸し出しを行いたいと考えています。

また経済面だけでなく、ジェンダーに関する相談を受けることがあります。私達は女子中高生向けと発信しているけれど、「自分の性別が女かわからないから応募できない」と悩む人もいます。なので、応募資格の欄に「女性アイデンティティをもつ、またはトランスジェンダー、ノンバイナリー、gender noncomformingの方」と記載するなどしていますが、どう伝えるのが良いか、まだ悩む時もあります。

「自分の好きを追求していいんだ」という気付き

——女子中高生がテクノロジーの分野を学ぶ上で、精神的な部分のハードルは?

田中:ある時、大人から見てもすごく優秀な学生がいたのですが、IT系には進まないと言うんです。その理由を聞くと、「同じようにプログラミングが好きな兄や弟のようにはなれないと感じる」と答えました。本人は課題とは感じていないけれど、周囲の影響で諦めてしまうこともあります。

——やはり女性のロールモデルが少ないというのも問題の1つなんでしょうか?

田中:海外では「見えないものにはなれない(You Can’t Be What You Can’t See)」とよく言いますが、IT分野は仕事している姿が見えにくく、想像がしにくい。そこで「Waffle Camp」では実際に働く女性達に、仕事内容について話してもらっています。出席した子からは就職自体より、「自分の好きなことを追求していいんだと思った」という根本的な感想をもらうことが多かったです。

また必ずしもITを進路に選ばなくても、知っておくことで、好きなものと掛け合わせるという選択もできます。例えば生徒の中には障がい者支援がしたいという人がいて、大学ではその分野を専攻するけれど、テクノロジーを使って障がい者支援をしたいという人もいました。

業界のジェンダーギャップは「男性にも不利益」

——世界的に、IT業界のジェンダーギャップの現状は?

田中:ジェンダーギャップは世界的な問題で、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)ですらエンジニアの女性比率は20%台Amazonは非公開)。しかし問題は広く認識されています。日本でも政府がテクノロジー分野の人材教育の重要性を理解していて、さまざまな大学で文理融合型のカリキュラムが組まれています。例えばお茶の水女子大学は文系学部であっても、データサイエンス関係の認定カリキュラムの授業を履修すれば修了証を発行してくれます。なので文系であってもデータサイエンティストの仕事に挑戦しやすくなったり、IT領域で働くことが選択肢に入ります。自分で選択できるって、すごくいいですよね。

——テクノロジー分野に女性が少ないことで、具体的にどういった問題が生じているのでしょうか?

田中:テクノロジーだけでなく、世の中には男性視点で作られたものがたくさんあります。過去にはシートベルトの安全性テストが、男性の人形であったり、治験対象者が男性であったことで、シートベルトや薬品が女性や妊婦には合わない、危険な場合があるそうです。女性が開発の場にいないことで、無意識のうちに男性利用者を中心とした技術開発になってしまう可能性があります。また働いている女性の中にはセクシャル・ハラスメントを受けやすい、自分の意見が通りにくいと感じる人もいるようです。

——IT業界の中でも問題意識は高まっているのですか?

田中:男性側にも意識が高まっていると感じます。ベンチャーキャピタルのANRIを創業した佐俣アンリさんなどが代表的です。ANRIの女性アソシエイト、江原ニーナさんが夏頃に、業界のジェンダーギャップには構造的な問題があると指摘していたのですが、その声を受け止めて、運用中の4号ファンドでは全投資先のうち女性代表企業の比率を最低20%にすると発表しました。佐俣さんの影響もあり、経営者層も目覚め始めた印象を受けます。

またWaffleが関わる企業は、男性でも問題を認識している人が多いです。それに、私のパートナーは初め「ジェンダーギャップって何?」状態でしたが、私がさまざまな問題をシェアすることで理解を深め、男性にも不利益があると考えるようになったみたいです。

政治や自治体、親世代も巻き込んで変化を起こす

——学生向けの活動だけでなく、政治や自治体にも働きかけをしていますよね。第5次男女共同参画基本計画素案ではパブリックコメントを提出していましたが、どういった反応がありましたか?

田中:IT分野のジェンダーギャップを埋めるためには、文化や社会構造を変え、根本的に社会全体を変える必要があります。今回のユース提言書*でWaffleは第四分野の“科学技術・学術における男女共同参画の推進”についてパブリックコメントをまとめました。内容の一例として、日本の理数系教員は7〜8割ほどが男性と偏りがあり、「理数は男性がやるもの」という刷り込みが起こる可能性があります。実際、女性教員の多い女子校では理数系に進む割合が高くなる傾向があります。そのため、素案に対して「理数系科目の女性教員を増やす教職課程での取組」の追記をお願いしたいなどの趣旨を書きました。

先日の11月時点の第5次男⼥共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え⽅(答申)では、ユースの提言が盛り込まれていました! 例えば、“次代を担う理工系女性人材の育成”において、「①Society5.0の実現に向けてAIやIoT等のIT分野の教育を強化する」などの一文が追加されました。男女共同参画では橋本聖子・内閣府特命担当大臣及び関係者の方々が、想像以上に若者の意見を聞いてくださって、ちゃんと働きかければ社会って変えられる可能性もあると実感しています。

*ユース提言書:策定後5年間の男女共同参画推進のためのガイドラインとなる第5次男女共同参画基本計画のため、若者の声を届けるもの。今回のユース提言書は、公益財団法人ジョイセフのプロジェクト #男女共同参画ってなんですか?が主導し、Waffleの他、Voice Up Japan、Japan Youth Platform for Sustainability、プラン・インターナショナル・ユースグループが共同で作成。

——今後はどういった活動を行っていくつもりですか?

田中:起業から1年でグーグルやオラクルなど大企業と取り組みができ、政策にも提言ができたことは大きかったです。来年は機会格差や経済的格差のある人にも届けていきたいので、自治体や学校と連携した活動を行いたいと思います。また、IT関連でこういう活動を日本で行っているのはまだ私達くらい。1から10まで私たちだけで活動するのではなく、いろいろな人が関わりやすくなるように仕組み化して広げていきたいと考えています。

田中沙弥果(たなか・さやか)
1991年生まれ、大阪府出身。2017年NPO法人みんなのコードの一人目のフルタイムとして入社。文部科学省後援事業に従事したほか、全国20都市以上の教育委員会と連携し学校の先生がプログラミング教育を授業で実施するために推進。2019年にIT分野のジェンダーギャップを埋めるために一般社団法人Waffleを設立。2020年には日本政府主催の国際女性会議WAW!2020にユース代表として選出。SDGs Youth Summit 2020 若者活動家 選出。情報経営イノベーション専門職大学 客員教員。2020年Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」受賞。
https://waffle-waffle.org
Twitter:@ivy_sayaka

Photography Yohei Kichiraku
Special Thanks ukafe

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社会の変革には気付きが不可欠 辻愛沙子が作り出すさまざまな「きっかけ」の形 https://tokion.jp/2020/12/03/asako-tsuji-creates-opportunities/ Thu, 03 Dec 2020 06:00:21 +0000 https://tokion.jp/?p=12538 女性をエンパワメントする社会派クリエイティブディレクター辻愛沙子が考える気付きの大切さとあいまいなことへの不寛容さ

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日本社会には問題が山積している。男女格差1つとっても、そこに紐付く多くの問題があり、どれも解決まで長い道のりだ。そもそもこれらの問題に社会が意識を向け始めたのも、つい最近のこと。意識の及ばない問題はまだまだあるはずだ。

arcaのクリエイティブディレクターである辻愛沙子は企業広告を手掛ける傍ら、女性をエンパワメントするプロジェクト「Ladyknows」を主宰し、報道番組「news zero」のコメンテーターとしても意見を発している。さまざまな形で社会課題と向き合っているが、なぜこういった発信方法に至ったのだろうか。

女性らしさって何? 話題の広告の原点はパーソナルな経験

――大学在学中にエードットに入られましたが、なぜ広告業界を選んだのでしょう?

辻愛沙子(以下、辻):私はもともと絵を描いたり曲を作ったり、“作ること”が好きで、「言語化できていない社会に対するモヤモヤ」をアウトプットできる場所を考えて、広告に行き着きました。映画のようなコンテンツだと深い体験が作れる一方で、見ようと思った人にしか届けることができない。それも尊いことですが、社会に対してより多くの人に届けるためには、良くも悪くも不特定多数に届けられる広告という場がいいのではないかと思い、広告業界を志しました。

ーー2019年に制作されたミルボンの広告では、「『女子力』って何だろう。」と社会に向けてメッセージを発信していましたね。

辻:広告コピーって社会全体に当てはまる言葉でありつつ、結構パーソナルなところから出てくるものが多いと思っています。「社会」より、「私」や「あなた」に向けられたメッセージの方が自分ごと化しやすいですよね。このコピーも、私の個人の思いやルーツが強く反映されています。

ーー「『女子力』って何だろう。」というコピーにつながった辻さんのルーツとは?

辻:幼稚園から小学校まで一貫の女子校に通っていたのですが、中学からは自分の意思で、保守的で閉鎖的な一貫校とは真逆の、多国籍で多様性のある海外の学校に進学しました。そういう環境で育ったので、大学で帰国するまで“女子力”の存在を感じたことがあまりなかったんです。けれど大学に入ったら、女子は慎ましくしっかりしていて、男子は自由で多少やんちゃでもいい、といったような性別による役割分担が慣習としてあって衝撃を受けました。

ーー社会に出たら、より「女性である」ことを意識させられたのでは?

辻:中学生で一貫校を辞めて海外に行った時は、そういった前例が私の周りの環境にはあまりなかったので「女の子なのにやんちゃね」と嫌味を言われたこともありました。社会に出て仕事で実績を残していくと、今度は「女の子“なのに”仕事頑張っていてすごいね」「男子も顔負けだね!」といったように、褒め言葉として無自覚なステレオタイプを向けられることが増えていったんです。女性が仕事を頑張ることが普通でないことのように捉えていたり、男性と勝ち負けを競っているかのように捉えているがゆえの褒め言葉。すごく違和感を感じます。

また、学生時代は女子が自由に自分で決めた道を歩んでいくだけで「やんちゃ」と言われていたのに、社会に出ると「行動力がある」とそれが一気に評価に変わる。外からの評価なんてそれくらい不確実なものだし、そこに縛られる必要なんてないと改めて感じました。龍崎翔子さん(HOTEL SHE,を運営するL&G代表)が「性差よりも個人差の方が大きい」と言っていて、すごく好きな言葉なのですが、まさにその通りだと思っています。

ーーそういった「らしさ」の押し付けが、コピーにつながったんですね

辻:ミルボンさんは顧客層のメインが女性なので、クリエイティブの着想として、女性から連想した「女子力」というキーワードを画像検索したのですが、そこにあったのは、想像通りの画一的で保守的な女性像でした。控えめで三歩下がって……みたいな。けれど「女子力」を英語で言い換えて「GIRLS POWER」という言葉にして画像を見てみると、全く違う印象になるんです。自立していて、誰かのためではなく自分のための力や美しさを持っているような。本来、「力」って性別に宿るものではなく個人が持っているものだと思うので、個々人の数だけ多様な女子力があるんだ、ということを表現したいと思ったんです。

キャスティングもゆうこす(菅本裕子)さんやユーチューバーのあさぎーにょさん、整形を公表された有村藍理さん、アーティストのカネコアヤノさん、公募で600人の中から選んだ2人など、多様な方を起用させていただきました。それぞれの方が思う「GIRLS POWER」を取材したり、それぞれの強さや美しさを最大限に表現するヘアメイクでビジュアル制作をしました。控えめで柔らかい女性像を目指してもいいし、自立した強い女性像を目指してもいい。その多様性と自由さを広告に込めたかったんです。

ーー「『女子力』って何だろう。」と問いかける形のコピーが新鮮でした。

辻:正解を提示するのではなく、見た人それぞれの解釈ができる広告にしたかったので、問いかける形になりました。広告に付いているQRコードをスキャンすると、起用した方々に「あなたにとっての女子力とは」と問いかけたインタビューが読めるんですが、みんな回答が違うんです。自分を主語で考えられるメッセージであって欲しい、考えるきっかけになってほしいと意図しました。

答えは自分が作るもの 発信するのは気付きの「きっかけ」

ーー辻さんが代表を務めるプロジェクト「Ladyknows」社会課題に気付くきっかけを発信していますね。

辻:社会のさまざまな問題って根本的には、その要因って同じものでつながっていたりするんです。出産に関する課題も、女性のキャリアや男性の育休取得、賃金格差や非正規雇用などいろんな問題が紐付いています。しかし点で見ると、女性がまだ権利を獲得できていないとも捉えられるし、一方で男性に育休を取らせてくれない社会環境があることも分かる。一見、対立していそうな問題もつながっていることが多い。「Ladyknows」では問題に関連するデータをインフォグラフィックス化(データを視覚的にわかりやすいかたちで表現したもの)して発信していますが、事実を見て話すことで、1つの問題についていろんな視点から考えていくことができるのではないかと考えています。

またデータに合わせて記事も配信しているのですが、常に意識しているのは、すべての記事で答えを作らないようにするということです。大事なのはあくまで選択肢を知ることで、何を考えるのかや、最後に何を選択するのかは読み手が決めることだと思うからです。

ーー知らないこと、無自覚でいることで生まれる問題についてどう考えますか?

辻:無自覚な偏見や差別は、別の視点を知らないだけ。なので頭から否定するのではなく、なぜその考えに至ったのか聞くようにしています。すると大体理由があって「なるほどな」って気付きが生まれるんです。賛同はできない、でも理解はできた。その棲み分けをしっかりすることが大事だと思っています。

ーー「news zero」では、コメンテーターとして、意見を発信する上で何を心掛けていますか?

辻:テレビは不特定多数が見る場なので、主語を大きくしないように意識しています。どうしても短い時間でコメントしなければいけないので、簡潔に話すことを意識すると二元論的に聞こえてしまいがちなんです。だからこそ、後の言葉を削ってでも「当然いろんな人がいると思うんですが……」とか、ステレオタイプを作ってしまわないように、丁寧に前置きを入れることが多いですね。視聴者の方もいろいろな意見を持った方がいらっしゃると思うので、自分の意見も大切にしつつ「そういう意見があるんだ」と学びながら日々発信しています。絶対的な正解不正解で物事を二分化せず、違いを理解するよう心掛けていますね。

ーーこれまでコメンテーターは「正解」を示す役割が求められてきたように思いますが、どう意識していますか?

辻:SNSでも選挙や時事ニュースについて「誰を支持しますか」「どう思いますか」と意見を求められることが多くあります。正解を求める人が多いのは、日本の「正解は1つ」という教育の影響が大きい気がしています。私も専門家やお世話になっている家庭教師の先生にいろいろと質問しますが、最後に解釈を決めるのは自分であるべきだと思っています。自分で答えを出すのは責任も生まれるし怖いことで、その気持ちはすごく共感できるんですけれど。

あいまいさへの不寛容とどう向き合うか

ーーSNSでの炎上などを見ていると、日本では誰もが自由に意見を述べられる雰囲気ではなくなっているなと感じます。

辻:日本ってすごく学術信仰が強いなと思うんです。フェミニズムも「学んでないと語っちゃいけない」というような空気感がうっすらと漂っているように感じます。以前、「これまで考えてこなかったあの男性に、今フェミニズムを語る権利があるとは思えない」という言葉を耳にしたことがあって。それにはすごく違和感を覚えました。

もちろん学んでいない人が発信することで、言葉の解釈が違ったり、概念を間違えていて危うい啓蒙になることもあるとは思います。けれど、特に社会課題はその問題意識を一部の関心がある層だけではなく、より多くの人々に向けて民主化していかなければ変わっていかない。誰でも、どのタイミングからでも問題に気付くことができるし、学ぶことができるし、変わることができる。だから「語る権利」なんてものは必要なくて、みんなが感じたこと、気付いたことを、率直に発信していくことが、多くの気付きにつながるんだと思います。

ーー日本の社会にある、他人への不寛容さがそうさせるのでしょうか?

辻:新しい視点に気がつく過程とか、間違えたとしても反省して学んで変わっていく過程とか、誰にでもあるそういう変化の過程への不寛容さが、先ほどの正解を求める話にも現れていると思います。誰も完璧な人なんていなくて、それぞれ無自覚な偏見や気付けていない視点があるものなので、今この瞬間だけを切り取って減点方式で批評し合うのではなく、行動して変わっていくことにこそ意味があるわけで、失敗や間違いを断罪するのではなく一緒に見直していくことが必要だと思うんです。

ある時友人が、人種差別問題について「話題になっているけれど、ぶっちゃけ何が問題かわからなかった。教えてほしい」って連絡をくれました。そういう疑問って、理解しよう学ぼうと思っての疑問なのに、「わかっていない」というだけで問題視されたりたたかれてしまうこともあるため、なかなかSNSなど公の場で書くことは難しい。けれど、わからない時に学べる場所があることや、学ぶ姿勢を持つことが何より大事だと思っています。

そして周囲も、悪意を持って誰かを踏みつけようとしているのか、わからないことを自覚して学ぼうとしているのかをしっかりと見極めて、頭ごなしに「分かっていない!」と“批判”しないこと。そのためにも講義でも討論でもなく、学ぶため、話し合うためのコミュニティがあればいいですね。

ーー最近は広告の炎上などを筆頭に、世に出して失敗することへの不安もあります。

辻:強く非難する気持ちはわかるのですが、それをやりすぎると「リスクになるから、もうああいう(社会課題の)テーマはやめよう」と変化の流れが後退していってしまうんですよね。こういう減点方式って、日本的だなと感じます。ドラマ「半沢直樹」でも一回役職につけて、お手並み拝見して、失敗したらはしごを外されていたじゃないですか。そうならないために、まず企業側やクリエイターがしっかり学ぶこと。何が問題で、これまでの背景でどんな議論が起こってどんな運動があったのか。今、それらはどういう状況になっているのか。取り組むのであれば、ファッションではなく本気で向き合うのが前提だと思っています。その上で、企業が勇気を出して声を上げる一歩目を“リスク”にしないためにも、個人の怒りと社会が前進していくために必要なことは切り分けて考えなければいけないと、私は思います。

ーーメディアに出ることも1つの“リスク”になりえますが、それでも発信し続ける理由は?

辻:社会の変化に必要なのは「前例を作ること」だと思っています。女性の参政権、口座を開くこと、女性が会社を興すこと、すべてその時代を生きた人たちが一歩目を踏み出し、前例を作ってくださりルールや常識が変わっていったので。例えば、25歳の一般女子が報道番組に出て発言する、というのも若年層世代の言葉が社会に届く1つの事例になったらいいなと思いますし、広告クリエイティブの領域で社会課題に対する発言をしていくことも、続けることで道ができればいいなと思っています。

辻愛沙子
arca CEO、クリエイティブディレクター。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の2つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手掛ける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋から報道番組「news zero」にて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。
Twitter:@ai_1124at_
https://arca.tokyo

Photography Mayumi Hosokura

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広告はステレオタイプとどう向き合うか haru.が考える「社会彫刻」 https://tokion.jp/2020/10/27/young-activist-vol1-haru/ Tue, 27 Oct 2020 11:00:33 +0000 https://tokion.jp/?p=7373 大学在学中にインディペンデントマガジン「HIGH(er)magazine」を創刊したharu.。2019年6月にはHUGを設立し、コンテンツプロデュースやアーティストマネジメントといった事業を行っている。今までの固定観念を変えていく、彼女の思考に迫る。

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最近は、ジェンダーや人種に関する多様性や、女性の権利、生理に関する課題など、社会的なメッセージを発信する広告が数多く出ている。しかし、その内容によっては炎上してしまうものも少なくない。そんな中、コンテンツプロデュースとアーティストのマネジメントを行うHUGの取締役、haru.は、貝印が発表したカミソリと“ムダ毛”処理に関する広告で「ムダかどうかは、自分で決める。」というキャッチコピーを生み出した。そんな彼女は昨今溢れているさまざまなメッセージをどう見ているのだろうか。

性や政治の話題は生きている上で避けては通れないもの

――東京藝術大学の学生時代から「HIGH(er)magazine(ハイアーマガジン)」を発行していましたが、その頃から性や政治といったトピックスを扱っていましたね。

haru.:高校時代にドイツにいたんですが、そこでは完全に“外国人”であり、最初はうまく周りの人達とコミュニケーションが取れなくて。「自分のことを周りの人にわかってもらいたい」という気持ちで作ったZINEが後に「HIGH(er)magazine」に繋がっています。私は基本的に、トピックスよりも「人」におもしろさを感じています。

例えば「HIGH(er)magazine」では「BIG ISSUE」の編集長や販売者に話を聞いたり、性やセックス、女性の身体にまつわるトピックスを取り扱ったことがありますが、さまざまな課題を私たちが解決するぞ!というよりはそのトピックスに関わることを「人」を通して伝えていきたいんです。統計や数字を見ることはもちろん大切ですが、ある個人の個人史を通して初めて見えるものがあると思うんです。今までマガジンの中で自分のストーリーを話してくれた方々には本当に感謝しています。ご本人たちはどう思われているかわからないのですが、見えている世界を少しだけ私たちに分けてくれているということなので。本当にすごいことだと思います。

――昨年6月にHUGという会社を立ち上げた経緯は?

haru.:両親から大学院進学を勧められてとりあえず受けたんですが、その中途半端な気持ちが面接で見透かされて、落ちてしまって。じゃあどうしよう?と思った時に、今まで個人としてやってきたことを仲間と仕事にするために会社を立ち上げようかな、というのが始まりでした。

コンテンツプロデュースとアーティストのマネジメントをメイン事業にしているんですが、最近はお米の定期便「まっしろ」、シアバター「イージー ケア バター(EASY CARE BUTTER)」、ルームウェア「虹のガウン」の3つを、普段の自分を大事にできるような“ご自愛”グッズとして製作し、オンラインで販売しています。

――それぞれの製品にはどんな思いが込められているんですか?

haru.:「イージー ケア バター」は、収益が西アフリカのブルキナファソで働く女性達に利益が還元されるんです。2年ほど前にブルキナファソのビゾンゴという団体で働いていた方から初めてシアバターを購入したんですが、とても良くて。世の中には選べないほどコスメがあるけれど、これ1つあれば顔から体、髪までケアできるし、適当に化粧品を選ぶより、女性達に還元されるならそれがいいなと思って作りました。

「虹のガウン」は国内で生産していて、真っ白だったから寂しいなと思って、自分達でタイダイ染めしました(笑)。お米は所属アーティストの実家がお米屋さんだったことがきっかけ。お米を買うのも重いし大変だって話をしていたところから、冷めてもおいしいお米(朝)と味の濃い料理に合うモチモチしたお米(夜)の2種を用意して、単品だけでなく定期便でもお送りしています。

「あなたが決めることは“あなたごと”」育った環境から受けた影響

――学生時代から自立していた印象ですが、周囲の環境が影響している?

haru.:うちの家族、「基本的にあなたが決めることは“あなたごと”よ」ってスタンスなんです。中学校の卒業式って両親が列席することが多いですけれど、私の場合は卒業式の日に「これはあなたの卒業式なんだから、あなたが楽しんで」って玄関で見送られた。高校時代も離ればなれで暮らしていたけど、そんなに連絡を取ることもなく。両親にめちゃめちゃ褒められることも、叱られることもないけれど、自分の存在を否定されることはないです。それが自分にとっては大きな支えになっていると思います。

――高校生時代をドイツで過ごし、日本との違いは感じましたか?

haru.:ドイツでは小学校の2年半と、高校時代の4年間をシュタイナー教育*の学校で過ごしました。音楽や美術といった感覚的な部分を培う授業に力を入れていて、通知表もない。「存在を認められている感」がすごかったです。だから日本の学校では「アレもダメ、コレもダメ」と言われてギャップに驚きましたね。制服のシステムも窮屈に感じていました。中学生の頃から服が好きだったのに、いつ自分のセンスを磨けばいいんだろうって思っていました。。

*シュタイナー教育:1人ひとりの個性を尊重し、その能力を最大限引き出すことを目指すカリキュラムが組まれる。最初のシュタイナー学校はドイツに建てられた。

――ドイツと日本では、性別に関する意識も違いましたか?

haru.:ドイツで私は「外国人」だったので、それが私の第一のアイデンティティ。自分の性別が何か、どう見られたいかとかはその後でした。まずは一人の人間として認めてもらわなきゃ、というプレッシャーを抱えて過ごしていました。日本の中学に通っていた時は、いわゆる「モテ」の範疇に収まろうとしていたと思います。その方がラクなんですよね、きっと。

そもそもドイツと日本では、求められる女性像も全然違う。ドイツでは自立していて知性があり、自分の意見をはっきり言えるのがセクシー。日本とドイツを行き来して、どちらの価値観にも当てはまれない自分がいたから、大学で帰国した時には「ありのままの自分でもいいということを、自分で体現していくぞ」と吹っ切れていました。

――日本では「女性らしさ」というステレオタイプが求められる場面が多いが、違和感はありましたか?

haru.:中学時代は埼玉の田舎にいて、まだネットもSNSもなかったので、“他の場所”にアクセスできるところは地元のTSUTAYAだけ。そこで最新のファッション誌や女性誌を読み漁っては「これが自分がもう少し進んだ先の世界なんだ」と思い込んで、知らず知らずのうちに、メディアが提示する“理想の女の子像”に近づこうとしていた。そのことにあとから気がついて、ショックを受けましたね。

大学で帰国した時も、電車の広告は「脱毛しろ」と言うし、取材を受けたら「フェミニストって言うならそんなに胸を出すな」ってコメントを受けるし、驚きがあった。最近では私の周りも結婚についての話題が増えていたりして。社会的には結婚が幸せの形とされがちですが、実際はすごくお金がかかったり同性結婚が認められないとか、夫婦別姓にできないとか色々問題もありますよね。誰がこれをいいと言ってるの?という謎のシステムが多すぎます。

炎上広告の中に“生身の人間”はいるのか?

――貝印のカミソリの広告で使用されたキャッチコピーは話題になりましたね。

haru.:あのコピーは「EYESCREAM」と貝印のオリジナル冊子の制作時に作ったもので、“ムダ毛”に対して「ムダかどうかは、自分で決める。」というメッセージを発信し、その後の広告でも使用していただきました。ただ私は企業広告の方には関わっていませんが、あの完成したクリエイティブには少し違和感を感じました。CGモデルが起用されていましたが、CGではすぐ毛が生やせるし、“ムダ毛”に関する苦労や葛藤もしていませんから。でも、こんな人がまだ見ぬ未来に存在していたらいいな、という意味でCGモデルを使うという選択はよかったのかなと思います。そもそも貝印という大手がこういうメッセージを発信したのはすごく意義があることだと思います。

――広告が目指すべき、メッセージの発信の仕方をどう考える?

haru.:広告って人と人とのコミュニケーションでできてくるものだと思うんです。けれど広告業界の中で、物事の上澄みだけをすくって、それを利用するような状況が少なからず出てきているのではと感じることも多いです。

最近は炎上する広告もありますが、健康的な炎上もあると思います。いいなと思った韓国の生理用品のCMは、「生理って辛くて何もできなくなるけど、何もしなくてよくない?辛いのに輝く必要なんてないじゃん」という内容でした。仮に日本で同じようなCMを作って炎上したとしても、生理によって起きる体の変化に対して本当の理解が得られたり、女性たちにもちゃんと寄り添っていますよね。けれど、その上澄みだけすくって、キレイなものにしちゃうことが多い。作る側が本当の問題が何かわかっていないこと、わかったふりが一番危険ですよね。自分でもいつも気をつけなきゃと思っています。

――広告もメディアも、世の中も、カテゴライズして語ることが多い。

haru.:私も女性起業家って括りの中に入れられたりして、そこにどうこう思うことはないけれど、私は自分のこと「ただのharu.」って言ってるんです。ビジネスのことには疎いのに、周りが起業家って名付けてくれたりするのがなんだか面白い。だから、オフィシャルな場でどこまでカジュアルでいけるかな?ってゲームしたりしています。

国際女性会議WAW!(World Assembly for Women)に登壇した時は、かっちりしたイベントだったんですが、そこで友人に作ってもらったTシャツを着ました。それが中指を立てたグラフィックで「and u?(で、あんたはどうする?)」ってメッセージを書いたTシャツ(笑)。

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and u????????? T shirt by @ka_ta_ko_to

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――自ら枠にハマりにいかないのがharu.さんらしいですね。

haru.:何にでもなりたいんですよ。中学生の頃からK−POP大好きで、JYP入りたいな〜とか。最近はパラグライダーで飛ぶんですけれど、このまま習得してパラグライダーの先生になりたいなとか。自分の他の人生を想像するのっていいですよね。自分にはこれしかない、なんて思いがちですけど実際そんなことなかったりするから。

革新的じゃないことで「社会彫刻」を広げていく

――HUGを立ち上げた時に「社会彫刻をしたい」とお話しされていましたね。

haru.:「社会彫刻」という言葉は、現代アーティストのヨーゼフ・ボイスの言葉から引用しています。今、弊社に所属しているメンバーは活動内容がバラバラですが、全員アーティストと呼んでいます。彼らが発言したり取ったりした行動がすべて社会とつながっていて、私達全員が社会を形成する一個人である、ということを忘れないための“合言葉”なんです。

言葉一つでも周りに影響を与えますよね。例えば私は「旦那」とか「奥さん」って言葉が嫌なんです。気にせず使うのと、意識的に「パートナー」と呼ぶのとでも関係性とか理想のコミュニケーションが変わってくると思います。私とあなた、というミクロな関わりの連鎖が、コミュニティを作っていく。大きなことがしたいというより、態度とか言葉遣いで、1対1レベルから「社会彫刻」がしたいです。

――「社会彫刻」って具体的にどうやって取り組めるのでしょう?

haru.:HUGにはチョッパー乗りのクール アンド スパイシーという2人組(大木優吾、内田隆也)がいるんです。私と同じ小・中学校だったんですが、小さい頃の彼らは「わき毛が生えてる!」とか茶化すようなやんちゃな子で。彼らは先ほど言った「EYESCREAM」と貝印の冊子にもモデルとして登場しました。そこで「ムダかどうかは、自分で決める。」というメッセージに触れて、女の子達にありもしない幻想を抱いていたよね、毛を剃るのって男女ともに自由でいいよね、みたいな話を彼らとできるようになったのは、とても新鮮な体験でした。

変化ってすごく時間がかかる。一度広告を見ただけでは思想ってなかなか変わらないですよね。逆を言うと、今ある固定概念って本当に長い時間をかけて私たちの中に蓄積されてしまったものだから。

だからこそ、みんなの信頼を大事にしようとか、裏切らずにいようとか、そういうことを大事にしています。革新的なことを急に言い出すんじゃなくて、ことあるごとに理想の状態は何かを話し合う。周囲にいる人との日々の接し方が未来に影響を与えるんだと思います。

haru.
HUG Inc. 取締役。1995年生まれ。2015年に東京藝術大学に入学し、同年に「HIGH(er)magazine」を創刊し、“同世代の人と一緒に考える場を作る”をコンセプトに企画・編集・制作に携わる。大学卒業後の2019年6月にHUG Inc.を設立し、取締役に就任。インスタグラムでは4.5万フォロワーを抱え、若者を中心に支持を集める。
https://h-u-g.co.jp
Instagram@hahaharu777

Photography Yusuke Abe(YARD)

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アクティビスト・石井リナが考える日本の社会構造とフェミニズム https://tokion.jp/2020/10/06/japanese-society-and-feminism/ Tue, 06 Oct 2020 06:00:13 +0000 https://tokion.jp/?p=6366 メディア「BLAST」や生理用品ブランド「Nagi」など、女性をエンパワーする事業や活動を行っている石井リナ。彼女は今の日本のジェンダーギャップについて、どう感じているのか。また、どこに問題点があるのか。

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近ごろ「フェミニズム」という言葉を聞くことが増えた。しかしその言葉を心に留め、ジェンダーによる格差について真剣に考えている人は、今の日本にどれだけいるのだろうか。世界経済フォーラム(World Economic Forum)が発表した「世界ジェンダー ギャップ指数2020では、日本の男女格差をスコア化した順位は153ヵ国中121位と、近隣国の中国(106位)、韓国(108位)と比べても低い順位だった。この指数は経済や政治、教育、健康の4分野のデータから算出されるものだが、各分野の順位をみると、経済は115位、政治に至ってはなんと144位だ。

まだまだ男女平等とは程遠い日本の現状だが、その中でも声を上げ続ける人達がいる。その1人が、生理用品ブランド「Nagi(ナギ)」を立ち上げたBLAST Inc.のCEO、石井リナだ。メディア運営やブランドを通じて感じた日本のジェンダーギャップをどう捉えているのか話を聞いた。

女性をエンパワーする「BLAST」と「Nagi」が誕生したわけ

ーー男女格差の存在に気がついたタイミングは?

石井リナ(以下、石井):私の家族は父、母、妹と女性が多く、家事の7割くらいは父がやっていました。両親から「女性らしさ」を強要されたこともなく、母からは女性の自立について聞いて育ちましたし、『セックス・アンド・ザ・シティ』を見ていたので主演のサラ・ジェシカ・パーカーが演じたキャリー・ブラッドショーのようなキャリアウーマンに憧れていました。中学、高校と男女別学で女子校のような環境だったので、特別に男女格差や性による抑圧を感じる機会も少なかったと思います。

ただ、雑誌を開くと「モテ」を意識した企画が多く並んでいて、違和感がありました。明らかに何かがおかしいと感じたのは就活の時で、女性だけに制服が用意されている企業があることにも驚きました。そういったモヤモヤが確信に変わったのは、社会人になって「ジェンダーギャップ指数」の存在を知った時。日本で生まれ育ち、自国が先進国であると疑わなかったのに、ジェンダーギャップでは下から数えたほうが早かった。こんなに男女による格差があったんだと衝撃を受けました。

ーーその中で、新卒で勤めた会社を辞めて「BLAST」「Nagi」を立ち上げた理由は?

石井:新卒で入社した会社ではウェブマーケティングを行い、Instagramマーケティングに関する本も出版しました(共著の『できる100の新法則 Instagramマーケティング』)。SNSの分野では欧米が先進的なので、欧米のインフルエンサーを見ることが多かったのですが、みんなジェンダーの問題に関して発言していましたし、「#MeToo」が欧米を中心に広まった様子も見ていました。

日本ではそういった発信が少なく、知る機会も少ない。そこでアメリカ発の女性エンパワーメントメディア「リファイナリー29(Refinery29)」の日本版をイメージし、立ち上げたのがメディア「BLAST(ブラスト)」でした。しかしフェミニズムやエンパワーメントをテーマにしたメディアが広がるには、想像より時間がかかりました。私達の企業はスタートアップですし、リソースも限られています。それであれば、まずは物理的に女性を支援する事業にフォーカスしようと立ち上げたのが「Nagi」です。

ーーなぜ生理用品を、しかも吸水ショーツというアイテムを選んだのでしょうか。

石井:日本の生理用品市場は戦後からほぼ変わらず、大手がほとんどでプレーヤーも少なかった。だから製品を作ることで選択肢を広げたかったんです。製品作りに際して「BLAST」でユーザーアンケートを行ったところ、日本の女性はタンポンや月経カップといった膣内に入れる生理用品に抵抗があるようでした。そこで第一弾製品に、履くだけの吸水ショーツ*を選びました。

*吸水ショーツ:水分を吸収する構造になったショーツで、経血や尿もれを受け止める

「Nagi」のイメージビジュアル

自分自身、海外の吸水ショーツを使用した経験があり、快適さに感動した反面、もっと良くできると感じましたし、私達なら良いものができるという自信もあったので、セレクトではなく自分達でプロダクトを作る道を選びました。ブランド名は日本語の「凪」から、ブランドのカラーは安らぎを与えられる色だとパッと浮かんで、デザイナーのJuri Okitaが今の3色を提案してくれました。

ベンチャー業界の“女性起業家”として感じた男女格差

ーーご自身が事業をする中でも、男女格差を感じる場面はありましたか?

石井:女性であることのデメリットはあると思います。スタートアップ業界は起業家だけでなく、ベンチャーキャピタル(以下、VC)や個人投資家に女性が少ない。いわゆるボーイズクラブのような空気もありましたし、居心地が良いとは言えない状況でした。また、女性起業家はまだマイノリティだったので、信用を得られないこともありましたね。

ただし、牛歩ですがベンチャー界も変化があると思います。9月にVCのANRIと個人投資家の赤坂優氏から資金調達を行ったのですが、ANRIの担当である江原ニーナさん(シニアアソシエイト)は女性の方でした。またANRIはこれまでに130社ほどに投資していて、そのうち女性起業への投資は7社だけ。ただこれからは課題意識を持って女性起業家への支援や投資も積極的に行っていくと明言していらっしゃいます。

ーー社会の中では、まだまだ男女格差が改善されていかない場面も多いですよね

石井:日本の場合、構造上の問題はとても大きいと感じます。雇用や待遇について、法律の上では男女雇用機会均等法がありますが、次世代育成支援対策推進法*については、政府はその期限を2025年3月31日まで、10年も延長する決断を下しました。なぜ迅速に対応することを諦めてしまうのか、理解に苦しみます。

また女性の雇用に関しては、企業制度として産休や育休があっても文化通念の面でうまく運用できていない例も見られますよね。そうやって非正規雇用の女性が増えて、女性の所得が減っていくのも、構造上の男女格差だと思います。

*次世代育成支援対策推進法:次世代の社会を担う子供が健やかに生まれ、育成される環境整備を図ることを目的とする。具体的には仕事と子育てを両立しやすい雇用環境を企業が整備するもので、従業員101人以上の企業がこの行動計画を策定し、届出をすることが義務とされる。法は2005年に施行され、2014年度末までの時限立法であったものを改正し、法の有効期間がさらに10年延長された。

ーーそういう社会の中で、女性でも「自分はフェミニストではない」と言う人もいる

石井:それも構造の問題ではないでしょうか。日本では政治や経済におけるシーンで女性の立場がとても弱くマイノリティであるから、男性社会に迎合することや適応することで立場を守っている」という状態だと思います。そもそも、性差別者でなければフェミニストなんです。フェミニストというのはジェンダーによる格差をなくし、多様性を受け入れる社会を目指す人のこと。「私はフェミニストじゃないです」っていうのは、「私は性差別主義者です」と主張しているようなものだということですよね。

「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter、略称BLM)」などで注目されている黒人差別問題では、黒人と白人間の格差や差別について理解できる人が多かったと思います。それなのに、男女に置き換えた途端に、その格差や差別に気が付かなくなる人が多いと感じました。

ーー日本にはジェンダーの問題について発言しにくい空気があるのでしょうか?

石井:学ばなければ「フェミニスト」と名乗れない、ということはないですよね。誰でも名乗っていいと思いますし、間違っていることに気付いたらアップデートしていけばいい。私もジェンダー学を専攻したわけではありませんし、日々学んでいます。日本は他人に対して過干渉なところがありますが、もっと自由に発言したり名乗ったりしていいと思います。

ーー日本ではジェンダー観を発信するインフルエンサーが少ない?

石井:水原希子さんやローラさんがたびたび発信されているのを見ては、影響力の大きい方が発信してくれるのはありがたいなと思っています。ただ、芸能人の方はそういった発言をしてバッシングをされることもありますよね。

一方でもう少しマイクロなインフルエンサーになってくると、ソーシャルグッドな発言や活動をしている方も増えている印象があります。BLMの際に発言されている方も多かったですし、環境問題を扱う人も見かけます。フェミニズムを含む人権問題や環境問題は、気付いたら戻れない不可逆的なものだと思いますが、フェミニズムに関連する発信も増えたらいいなと思っています。

ーーご自身は、フェミニストの誰かから影響を受けることは?

石井:私はビヨンセやエマ・ワトソンのような欧米のフェミニストに影響を受けたところがあり、「フェミニスト」という言葉に対しても、彼女達のような知的でクールなイメージを持っています。日本でもスプツニ子!さんや、周りの起業家、アクティビストなど同世代の方達に影響されるところは大きいです。

女性の権利と人権の問題「家父長制は悪しき慣習」

ーーなかなか変化のない日本の現状をどう考えていますか

石井:最近はジェンダーだけでなく、日本における人権に関して考えることが増えました。例えば、牛久の東日本入国管理センターの問題から、日本人間であれば同性婚や夫婦別姓など、考えることは多いです。夫婦別姓すら進まないなんて、同性婚の問題が解消されるのはいつになるんだろうと思ってしまいます。

私とパートナーは夫婦別姓を望んでいましたが、共同親権を持ちたいといった希望があったので、法律婚を選択しました。家父長制は悪しき慣習ですよね。法律婚で女性が名字を変える場合、主軸となる男性の戸籍があって、そこに女性が追加される。そして離婚するとなるとその戸籍から除外される。紙切れ一枚ですが、この戸籍制度を目の当たりにした際に侮辱されたように感じました。

結婚して名字が石井から三澤に変わったおかげで登記簿謄本の変更も必要でしたが、本名の箇所には「三澤 里奈(石井 里奈)」と書かれるんです。自分としては、「石井 里奈(三澤 里奈)」なんだけどなと、見るたびにいつも感じています。

ーーなかなか変わらない日本から出たい、と思うこともあるのでは?

石井:メディアを立ち上げた時は「日本のジェンダーギャップを是正したい」というエネルギーに満ちていましたが、3年弱経ち、あまり進歩がないところを見ると……正直、日本を出たいなと考えることも増えました。具体的な国は決めていませんが、北欧は理想的ですよね。アイスランドはジェンダーギャップ指数で1位ですし、フィンランドの教育や福祉制度を見ていてもサポートが充実しています。

ただ日本には家族や友人がたくさんいますし、育ってきた環境ということもあり、自分だけ逃れるのも不思議と後ろめたさがあります。もしどこかに移ったとしても、日本に向けて働きかけや発信が必要だし、行動はしなければいけないと感じます。

ーーこの国で男女平等を実現するため、まずは個人が何を意識して変わっていくべきでしょうか?

石井:もちろん、構造的な男女格差に目を向けるべきですが、何をしたらいいのかわからない、という方は、まず使う言葉について考えてみてほしいです。例えば「男らしくない」「母親なのに」「女子力」などといった、ジェンダーバイアスのかかったワードを使うことをやめてみる。これって今日すぐにでも始めることができますよね。私を含む、すべての人が、構造的な男女格差やジェンダーによるステレオタイプから解放されることを願っています。

石井リナ
BLAST Inc.CEO。新卒でIT系広告代理店に入社し、企業のデジタルマーケティング支援に従事。2018年に創業し、動画やSNSを通じた女性エンパワーメントメディア「BLAST」を立ち上げた。今年5月には生理用品ブランド「Nagi」をローンチし、第一弾商品の吸水ショーツが発売後即完売を繰り返すヒット商品となる。2019年「Forbes 30 Under 30」インフルエンサー部門受賞。
https://www.blastinc.online
https://nagi-jp.com

Photography Mayumi Hosokura

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