反浪費運動が進むフランスの現状に20代の若者がメスを 新型コロナショックによりもたらされたフードロスの意識変化

フランスでは、過剰生産による浪費を減らすための解決策を探る若い起業家が増えている。ヨーロッパではスウェーデンやデンマーク、ドイツなど優れた環境対策で循環型の経済システムを確立している国が多い中、フランスは出遅れ気味だったものの、ここ6年で政府が打ち出した新法律の下、新世代の起業家も現れ廃棄物の再資源化に積極的に取り組んでいる。

フランスの華やかな食文化の背景には、常に食品廃棄の問題があった。環境エネルギー管理庁によると、国民一人当たりの食品廃棄(フードロス)量は年間平均29kgに上る(日本・消費庁の発表では国民一人当たり約51kg)。政府は2016年2月、売れ残り食品の廃棄を禁止する「食品廃棄禁止法」を施行し、店舗面積400㎡以上の大規模スーパーマーケットには、賞味期限切れ食品の廃棄を禁じた。さらに、あらかじめ契約した慈善団体への寄付、家畜の飼料や肥料への転用が義務付けられ、違反者には罰金が科せられる。

しかし、法律が変わり問題が可視化されたとしても、人間の意識や習慣は根深いもの。そんな中、新サービスで廃棄物の再資源化を具体的に推し進めるため、新世代の起業家の動きが活発になっている。牽引するのは28歳のエンジニア、リュシー・バシュ(Lucie Basch)。2016年、彼女が24歳の時に共同で立ち上げたフードロス削減のためのアプリ「Too Good To Go」は、スーパーやレストランの売れ残り食品などを好きな場所、時間に、安値で買うことのできるサービスだ。もともと大学の助成金で立ち上げられたサービスで、企業理念は「廃棄されていく食料をそのまま捨てるのではなく、再び価値を与え、食料と地球の環境を救い節約も行う」というもの。取引手数料1.09ユーロ(約120円)はサービスエリア拡大の投資に使われる。

利用方法は簡単で、ユーザーがアプリを使ってスーパーやレストランの廃棄予定食材をオンラインで決済した後、袋に詰められた食品や持ち帰り用ボックスに入ったメニューが受け取れる。現在、ヨーロッパ6ヵ国が利用対象で、現在までに廃棄を免れた料理は800万食にも上る。他にも不揃いな果物や野菜を使ったジュースを販売する「NoFilter」や廃棄直前のパンをクッキーやサブレなど菓子類に変える「Phenix」もそれぞれ30歳以下の起業家によって生まれた食品廃棄物の問題に取り組む新規企業だ。

今回は、「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を経験し、今後の消費に関する意識変化はミレニアル世代が先導する」と語る「NoFilter」の創始者マラン・ミュリエにインタビューをした。ESCPヨーロッパで経営学を学んだ後、渡米しフェアトレードのココナッツを扱うサンフランシスコの「Harmless Harvest」に勤めた。フランスに帰国した際に深刻な食品廃棄の現実を目の当たりにし、2017年に「NoFilter」を設立。フランスにおいて、外見が規格外という理由で廃棄される農産物は収穫量の10〜15%にも上る。「NoFilter」は生産者と連携し廃棄野菜や果物をジュースに加工し販売している。新型コロナショックの影響で消費者や生産者に起きた意識変化とは? 食品廃棄量を削減するために今、私達ができることは何なのか?

——新型コロナショックで「NoFilter」のユーザーに変化はありましたか?

マラン・ミュリエ(以下、マラン):人々の考え方は変わり始めたばかり。顧客や生産者とのコミュニケーションを通じて、人が行動に移すまでには達していないだけで、その前にある意識レベルの変化には大きな影響があったと感じる。すべての人が自分自身を見つめ直し、何が本質的な価値を持つのかを考えるようになった。周辺環境やコミュニティは切り離せないので、今後は行動レベルに移っていくだろう。

——今後、消費者の食品への消費行動は変わると思う?

マラン:消費と対価により意識が向くはず。対価とは自分が受け取るだけでなく、コミュニティや地球に対して恩恵があるかどうか。例えば食品の場合は、栄養価が高く体に良いという恩恵に加えて、フェアトレードによって生産者にも利益が公平に分配され、かつ環境にも配慮していること。消費者は生産背景のさらなる開示を求め、透明性の高い企業や生産者が販売する商品へのニーズが高まるだろう。そして、この消費行動を先導するのは、大量消費社会の真っ只中に育ったミレニアル世代以下の若年層だ。彼らは常に自分自身と環境を切り離さずに、何をするべきか意識している。食品業界に身を置く者として、正しい情報と価値のある商品を生み出すことにより強く責任を感じているよ。

——新型コロナショックの中、ディディエ・ギヨーム(Didier Guillaume)農相は「農業経営者が外国人労働力を利用できず、農業が人手不足だ」と訴えた。国と生産者の相互意識に変化はあったか?

マラン:連帯意識が強まったと感じている。僕の知り合いの農業生産者は、新型コロナショックの影響で収穫した10tのキュウリが廃棄対象になってしまった。ぼくはそれらを買い取り新製品として、「キュウリジュース」を販売する予定だよ。今後はフードロスや経済的損失を最小限に抑えるために、各地域の生産者が結束することが先決。結局、ビジネスの根本は人の繋がりで成立しているからね。新型コロナショックは人間性とは何かを考えるきっかけとなり、食品業界全体をより良くするための新たな出発点になったのかもしれない。

——ポストコロナショックにおける最終的な目標は何か?

マラン:常に成長することが目標。それよりも時代に沿って常に改良していくことを目指すべき。今の具体的な目標は、「NoFilter」のプラットフォームを世界に広げていくこと。“食”は世界共通の分野であり、可能性は無限。各地の農業生産者と繋がり、正当な食品消費や循環型経済を拡大させることで、食品廃棄の問題に真摯に取り組んでいく。そのために必要なのは、前述の通り人との繋がりだ。透明性が高く信頼できる企業になることで、「NoFilter」は消費者意識を“行動”のレベルまで押し上げたい。近い将来、日本でも「NoFilter」をローンチさせたいね。

——「NoFilter」のようなフードロスの改善サービスが浸透していない、日本の消費者がまず実践すべきことは何か。

マラン:まずは多くの情報を集めて自分で考えること。そして、メッセージとして発信していくこと。顔を背けたくなる悲惨な状況に直面することもあるけれど、現実を直視すべき。正しい情報を基に自分でよく考えて選択し、行動に移すしかないだろうね。

廃棄物への取り組みはフランスのベンチャー業界の未来として道が拓けつつある。その対策は、2016年のビニールレジ袋の使用禁止から始まり、使い捨てプラスチックの使用禁止、洋服の売れ残りや非飲食品の廃棄処分も2023年までに完全禁止にまで至っている。さらに、新型コロナショックがフランス国内の消費者の意識に変化を生んだ。フランスの調査会社Opinion Wayがロックダウン中のパリ市内の18~30歳に行った調査によると、新型コロナショックに対し、政府が最優先で取り組むべき課題として「環境改善の目標を維持する」を挙げた人が56%に上った。これは「介護士の賃上げ」(55%)や「海外の製造業をフランスに戻す」(53%)という回答を抜き、若年層が環境問題を最重要視している現実を浮き彫りにした。さらに、将来的に政府が取り組むべき優先課題についても「環境」(49%)が大半を占め、次世代の若年層の環境や反浪費への意識は、倫理的かつ循環型の経済システムの構築に直結していることを示唆している。環境問題やサステナビリティの意識は一面的な美談ではなく、皮肉にも新型コロナショックがもたらした若者の意識変化としてフランス全土に広がりつつある。

author:

Elie Inoue

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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