フラワーアーティスト集団AMKK 死生観がテーマの花束や実験的作品で見せる花の美と無常観のコントラスト

AMKK(東信、花樹研究所)は、フラワーアーティストの東信とボタニカル・フォトグラファーの椎木俊介が中心になって2009年に立ち上げた、花や植物を題材にしたクリエイター集団だ。東京・南青山にオーダーメイドの花束を手掛ける花屋「ジャルダン・デ・フルール」を構える他、ブーケを宇宙空間に打ち上げたり、ダイバーとともに花を水中に沈めるプロジェクトやプロレスラーが巨大な花束にバックドロップを決める写真など、実験的な制作を続けるかたわら、国内外のファッションブランドにも作品を提供している。また、AMKKは花が誕生してから枯れるまでの“命”と真摯に向き合い、一面的な美しさではなく、花が持つ神秘性や生命力を作品に表現することでその存在価値を高めている。

人は日常のあらゆる場面で喜びや悼みなどさまざまな感情を花に込める。東日本大震災後や新型コロナウイルスが流行し始めた頃にも、多くの人が「ジャルダン・デ・フルール」を訪れた。「苦しい状況だからこそ、人は言葉で言い表せない気持ちを花に託すのではないでしょうか。僕らはその気持ちを作品で表現しています。贈り手のメッセージを代弁できることが花の魅力です」。

積極的にアートワークを制作するAMKKだが、活動のメインは顧客向けのオーダーメイドの花束の制作。「贈る側の気持ちを表現するのか、それとも贈る相手の好みに合わせるのかによって作り方は変わってくる。一般的には職業や性格、嗜好を聞いてから縦長、優しい丸形、強くエロティックな雰囲気などのイメージを膨らませていきます」。季節も考慮しながら仕入れ担当者とミーティングを重ね、花と形を決めていく。形もその時に入荷する花によって変化するため、完成した作品に正解はなく常に試行錯誤を繰り返している。顧客の要望に応えるためには市場の花ではなく、山に自生している野生の花を使うこともある。こういった経験を重ねてもまだまだ花のことはわからない。「この前も坂本(龍一)さんに、緑とピンクのトーンが合わないと言われたばかりです。お話を詳しく聞いて、相手を知らないといけないんです。まだまだ自分たちは修業の身です」。

“命の縮図”としての花

AMKKには、鮮烈な色彩と対極の黒い背景を組み合わせた“死”をイメージさせられる作品も多い。「花は命の縮図です。作品から生を感じられるか、言い換えればどのように死を捉えるかが自分たちのテーマ。切り花は人間に置き換えると1日で10歳ほど年を取ると言われていて、寿命は約1週間です。現在は生産農家の技術によって、寿命が約10日まで延びています」。一般的な店では、人間でいう20〜30代の花が一番売れるが、AMKKは花の年齢それぞれが持つ美しさを追求する。プレゼントであれば美しく咲き誇った状態の花を用い、自分用なら長持ちする若い花を用いるなど、用途によって花束の見え方とコンディションを変える。花を通して“命の縮図”を表現するためには咲き方をコントロールすることが必要不可欠で、それがオーダーメイドにこだわる理由でもある。

花にとっての“死”は枯れることだろう。東は“死後”も美しく見えるように計算して花束を制作する。「チューリップ1つとっても、新潟産や富山産、外国産によって枯れ方がどう変わるのかを実験しています。どの花にどのくらいの水が必要か、何日で枯れるのか、花びらが枯れる直前に開くのか、それともしぼんだ状態で枯れるのかを記録して、作品に反映させています」。この実験と記録によって、枯れた花に新たな美しさが吹き込まれる。「枯れることを前提にした作品は生き物の生と死をストレートに表現することができます。僕らが花屋を始めた頃は、きれいな花を並べただけのお店が多かったのですが、朽ちて消えていく刹那的な様も美しいと感じていました」。

花の多様な美を追求する、他業種との協業やアートプロジェクト

AMKKはこれまで、多くのファッションブランドとつながりを持ってきた。2018-19年秋冬シーズン以降、「ノワール ケイ ニノミヤ」のショーでは生花やサボテンを使用したラフなヘッドピースを制作している。2014年にフランス・パリの装飾美術館で開催された「ドリス・ヴァン・ノッテン, インスピレーションズ」では、「ザ・ガーデン」をテーマに「フラワー」ゾーンの壁面のアートワークを手掛けた。2017年春夏ウィメンズコレクションでは空間演出にも携わり、花を氷の中に閉じ込めた鮮やかなアートワーク“ICED FLOWERS”をランウェイに展示した。当時のショーは、「ドリス・ヴァン・ノッテン」が2017年に発行した、100回にのぼるメンズ、ウィメンズコレクションを収録した全2巻のアーカイブ本「Dries Van Noten 51-100」の表紙も飾っている。「ファッションと花は相性が良いですよね。デザイナーが花をどう解釈するかが楽しみですし、ファッションに落とし込むことで、それまでとは異なる動きが生まれ、新しい花の見方ができると思います」。

2019年に発表したアートプロジェクト「Flower & Man」には、花と男をテーマにプロレスラーの竹下幸之介が花束にバックドロップを決める瞬間や人力車の俥夫が花を乗せて引いている動画作品などが収められている。花と激しい動きのコントラストにより躍動感が生まれ、生命力や神秘性すら感じられる作品だ。「一般的な花のイメージは、ピアノの上に置かれたバラみたいな可憐なものですが、僕はそれだけじゃないと思うんです。プロレスラーが花束を相手に投げつけて散る瞬間の花、お墓に供えられた花にも美しさを感じます」。

実験的な作品においても一面的な美しさではなく、死生観がもたらす花の形態の変化や“成長・衰弱”といった様子の変化を表現することがAMKKの真骨頂である。人間も花も永遠に生き続けることができない肉体の“無情さ”の表現からは、すべてが自然の一部であることを再認識させられる。そして、今後も手の届かない永遠の美を求め続けるのだろう。

AMKKとコラボプロダクトを製作

今回、AMKKが多くの人にとって懐かしい存在であるジャポニカ学習帳をアップデートした。中面には表紙で使用した花の原産地マップを配し、図鑑のような仕上がりとなっている。「ただ美しいだけではなく、濃い色合いの花を使って力強さや生命力を表現にしました。子どもには、花は花壇に咲く美しいものだけじゃないんだと知ってほしいですね」。

珍しい花のつくりを観察できるジャポニカ学習帳の表紙は、子ども達の植物への好奇心をかき立て続けてきた。多くの人の記憶に残っている表紙の花がAMKKの作品に変わったことで、大人も子どもも全く新しい花の美しさに気付くだろう。

東信
1976年生まれ。ミュージシャンを目指し上京したが、花屋でのアルバイトをきっかけに花の業界に足を踏み入れた。2002年に、高校の同級生で現在は作品撮影を担当する椎木俊介とともに、オーダーメイドの花屋「ジャルダン・デ・フルール」を東京・銀座にオープン(現在は南青山に移転)。2005年から花屋と並行して植物の造形表現を始め、2009年にAMKK(東信、花樹研究所)を立ち上げる。以降はニューヨーク、ミラノ、パリ、上海、ブラジルなど世界各国の美術館やアートギャラリー、パブリックスペースなどで作品発表を行っている。
https://azumamakoto.com/

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

この記事を共有