源馬大輔×高橋盾の初対談 “ノイズ”を生み出し続けるカルチャーへのフラットな視点とファッション愛

7月28日に渋谷のMIYASHITA PARKにオープンする「TOKiON the STORE」では、国内外のアーティストやクリエイターとタッグを組んだアイテムを展開する。本企画は、キュレーターの源馬大輔が“今”会いたい人と対談をしながら、プロダクト開発のきっかけを探るのがコンセプト。第1回は源馬自身もファンと公言する「アンダーカバー」の高橋盾が登場する。

近年の「アンダーカバー」は、「シュプリーム」や「ヴァレンティノ」など、ストリートからラグジュアリーまで幅広いブランドとのコラボレーションを行っている。また、知名度やジャンルを問わず若手アーティストとも深く関わっていて、今の「アンダーカバー」を“モード”や“ストリート”“パンク”などとカテゴライズすることは難しい。

2020-21年秋冬パリ・メンズコレクションでは黒澤明の「蜘蛛巣城」を再解釈した演劇のようなショーを発表し、「ザ・シェパード アンダーカバー」のキャンペーンビジュアルにミュージシャン・文筆家の掟ポルシェが登場したのも良い例だ。

今回は高橋の音楽への価値観やコレクションの創作背景などから、思考の一端を垣間見ることができた。2人の会話からはどんなプロダクトが生まれるのか?

源馬大輔(以下、源馬):僕はジョニオ君の人となりがすごくタイプなんです。仕事のクオリティも高いし、めちゃくちゃおもしろい。

高橋盾(以下、高橋):嬉しいな(笑)。お互い、万人受けしないものをおもしろいと思う感覚が似ているよね。

源馬:ジョニオ君はクリエイションも価値観にとらわれないのだと、メンズの2020-21年秋冬のショーを見て改めて感じましたね。舞台演出のようなエンターテインメントでした。

高橋:コンテンポラリーダンスの演出もあって大規模だったから、前日にリハーサルをしたんだよ。ネタを楽しみに取っておくために、大輔にはパフォーマンスがあることは言わなかったけどね。ストーリーを考えるところから始まって、コレオグラファー(振付師)や音楽の担当者ともやりとりを重ねていたから、労力が半端なかった。

源馬:黒澤明の「蜘蛛巣城」というテーマはどのように決めたんですか?

高橋:黒澤作品をテーマにしたショーは何年も前から考えていたけど、今回は偶然が重なって実現できた。そもそも普通のランウェイじゃないことを意識していたら、ちょうど2018年に公開した「サスペリア」のリメイクの振り付けを担当したダミアン・ジャレから、日本に行くから会いたいって連絡があって。面識はなかったけど、彼のパフォーマンスは好きだから連絡をとっているうちに、一緒にショーをやりたいと思ってお願いしたらOKしてくれたんだ。そこで、黒澤作品とコンテンポラリーダンスをテーマにしたらおもしろいと思った。

源馬:僕だったら上から降ってくる矢が刺さっていました。

高橋:その演出も映画のラストみたいに矢を放つのは無理だから、ダンスでみんなが倒れて終わりだと思ったら、ダミアンから「上から矢を降らせるのはどう?」と提案があって、そこから実験し始めた。

源馬:リハーサルをしていると分かっていても、見ていてハラハラしました。

高橋:パリに着いた時はスタジオで動きのテストだけで、前日に初めて本番の会場で矢を落としたリハーサルをしたけど、1回も当たらなかったんだよ。でも、普通ショーの前日はフィッティングをするのに、今回はダンスのリハも同時進行だったから……もう前日のリハーサルはやりたくないな(笑)。

DJは新しいコミュニケーションを生む

高橋:最近は大輔と一緒にDJする機会も増えたよね。

源馬:僕は昔からDJをやっていて、紆余曲折があって自分のスタイルになりましたけど、ジョニオ君は流れも良くて、あっという間に上手くなりましたね。

高橋:50歳近くになって曲をつなぐ練習を始めたら、それがおもしろくて。ここ3年くらいはダンスミュージックにどっぷり浸かってる。昔はあまり良さがわからなかったんだけど、ショーの音楽も作ってくれたロン・モレリを聴いたら、あらゆるジャンルがダンスミュージックに集約しているとわかって、そこから聴き方が180度変わったんだよ。DJもみんなそれぞれの流れとか世界観があるじゃん。

源馬:ありますね。

高橋:だからみんなのダンスミュージックの捉え方がすごく刺激になる。ハウスにしても、昔と今じゃ聴き方が全然違う。イベントでは他のDJの曲を流れも含めて聴くし。ちなみに今はだいたい朝10時半に会社来て、2時間くらいはずっと新譜を聴いてる。レコメンドもチェックして、多い時は1日で30枚くらい、最低でも5枚くらいはダウンロードしてるかな。1曲ずつ聴いて気に入ったら、BPM毎にフォルダ分けして……今日はそれ以外に何もしてないよ(笑)。

源馬:DJは時間が潰れますよね。

高橋:すごく時間を取られる。俺はまだ慣れてないから、事前にちゃんと曲を組み立てたいんだよ。それに4曲に1曲くらい和モノを入れるから、前後を合わせる選曲も大変。自分の技術がやろうとしていることにまだ追いついてない。

源馬:その和モノがパンチ効いてるんですよ。この前、レディオヘッドと吉幾三のマッシュアップ動画を送ったら、「これ使いたいけど、どうしたらいいかな?」って言ってましたよね(笑)。

高橋:結局Mars89のリリースパーティの時に使ったよ。怖くて前は見れなかったけど(笑)。完成度が高い曲を聴くと、自分でも作ってみたくなるね。何年後かにどこかの山奥に家を建てて、週2日くらい音楽を作るような生活をしてみたいな。あと、俺が好きなトライバルやテクノ、アンビエントが混ざったような曲は探すとキリがないから、自分で作る必要はないと思いつつ、でも音楽を作っている人の話を聞くと憧れる。

源馬:すごく楽しみな話ですね。DJは同じ曲をかけたとしても、出音にその人らしさが表れるところがおもしろいんですよ。ジョニオ君の出音は尖っています。

高橋:大輔のはフワっとした丸い感じだよね。

源馬:僕は音を面で伝えたいけど、ジョニオ君は点で伝えてくる。聴こえてくる音でジョニオ君がかけているのがわかるんです。

高橋:緩急をつけない人もいるよね。その人たちのプレイを聴くと、自分もこういうのがやりたいって思う。この前、悪魔の沼のイベントに行ったら、最初に安倍首相のコロナの演説を薄くベースに流して、そこに90くらいのビートに乗せながらエフェクトをかけた曲が20分くらい続くの。

源馬:表現ですよね。

高橋:完全に表現だね。もともとある音をつなげるだけじゃなくて、ミックスしてそれ以上の音楽を作っている。

源馬:昔、DJハーヴィーが、「DJはコミュニケーションとエデュケーションだ」って言ってたんです。コミュニケーションとしてフロアの人が聴きたい曲を流しながら、次に繋げるためのエデュケーションとして、誰も予想していない曲も流すという意味なんですけど、コミュニケーションは寄り添うことがすべてじゃないですよね。

高橋:そうだね。DJは直接話すとシャイで目を合わせない人もいる。対面が苦手な人は、間接的にコミュニケーションをとるようになるし。その意味でも選曲に個性が出るんだろうね。

源馬:ジョニオ君が紹介してくれる若いアーティストは素に戻ると大人しい人が多い(笑)。

“服ではなく、ノイズを作る”ための原動力

高橋:最近、カウンター系の若者がたくさん出てきているよね。今の世の中に対して疑問を持っているから、自然とおもしろいものが生まれるんじゃないかな。そういう若い子を見て刺激を受ける。

源馬:今の日本はカウンターカルチャーが生まれやすい状況なのかもしれないですね。

高橋:1980年代後半にも似た流れはあったけど、ここまで過激じゃなくて、もう少しファッションぽかった。今はもっとラディカルで、Mars89とかマヒト(マヒトゥ・ザ・ピーポー)は特にそんな感じがする。GEZANが今年リリースしたアルバムは、全曲BPMを100でそろえていて、内田直之さんがダブ・ミックスしているの。ダンスミュージックとトライバルが混じったような、近年稀に見る名盤だったよ。

源馬:若者もジョニオ君の周りに自然と集まりますよね。

高橋:こっちから近づいたら迷惑じゃないかなって感じることもあるよ。俺は日本だと何をしても“裏原”って勝手にカテゴライズされてきたから。

源馬:ジョニオ君もそう感じることがあるんですか?

高橋:昔からコンプレックスだったよ。特にメンズの世界はオーセンティックだから、ストリームに結びついたものを知らないと認められない。そういう考え方は嫌いだけど。

源馬:僕も大嫌いですね。

高橋:でも、海外は逆で素直に見てくれるんだよね。俺みたいなタイプが少ないからパリに行ってよかったと思う。日本だと先入観にとらわれたり、自分が理解できない表現には拒否反応が起きるから。

源馬:コレクションのレビューも見当違いの時がありますよね。

高橋:ただの説明だったりね。海外だと良くも悪くも批評するじゃん。ジャーナリストの客観視した意見はおもしろい。

源馬:「ヴォーグ」や「ビジネス・オブ・ファッション」のシーズンランキングに「アンダーカバー」が入っていると嬉しい反面、悔しい気持ちもあるんですよ。

高橋:クリエイションだけでビッグメゾンと比べられるのは嬉しい。一流のデザイナーはアーティストだと思うよ。

源馬:日本だとファッションが文化として根付きにくいですよね。フランスとかイタリアは少し違うじゃないですか。

高橋:ファッションに対するリスペクトがあるからね。ティム・ブランクス(Tim Blanks)やパリで長年活躍しているジャーナリストは、音楽とかカルチャーを含めたクリエイション全体を評価してくれる。

源馬:デザイナーの意図を理解してくれるのは幸せですね。「ザ・シェパード アンダーカバー」の掟ポルシェさんのビジュアルも、サブカルチャーの知識がないと、おもしろさとかっこよさのギャップは理解できないじゃないですか。

高橋:自分には“美しさ”や“かっこよさ”の垣根がないから、コメディでも突き抜けていればかっこいい。ジョークも真剣に考えると、ファッションとのギャップでかっこよくなるんだよ。

源馬:「アンダーカバー」の“We make noise not clothes”ですね。上っ面じゃなくて、本質的だと思います。

2つの“ハイブリッド”から誕生するプロダクトとは?

源馬:今度MIYASHITA PARKに「TOKiON the STORE」ができるんですよ。僕はジョニオ君が作ったアナーキーチェアが好きで、今回は一緒に家具を作りたいんです。

高橋:全然いいよ。

源馬:あの椅子はパンクの要素とエレガントなニュアンスが抜群なんです。そういうアティテュードのアイテムを作りたいです。

高橋:コンテンポラリーなものを作ろうとすると、やりすぎちゃう人も多いけど、大輔と組んだらバランスが取れておもしろいと思う。クラシックへの敬意を忘れないのが大事。

源馬:例えば「ハーマンミラー」の“アーロンチェア”の心地良さを残しながら作り変えるとか。

高橋:部分的に脚が木だったらいいよね。

源馬:機能的なアイテムに自然の要素が加わるといいですね。無機質な素材に木っていうのがポイント。

高橋:座面をベルベットにしてみたり。「ハーマンミラー」なら、“イームズLCW”もいいね。自分の“LCW”の背もたれにもアナーキーマークを入れたんだよ。座り心地を活かしながら新しいアイデアを足したいね。

高橋盾
1969年群馬県桐生市生まれ。文化服装学院在学中、友人とともに数型のTシャツから「アンダーカバー」をスタートする。2002年(2003年春夏シーズン)にパリコレクションに初参加。2001年と2013年には、毎日新聞社主催「毎日ファッション大賞」の大賞を受賞。また不定期で「ヒステリックグラマー」のデザイナー・北村信彦とのユニットZAMIANGで活動する他、グラフィックアーティスト・YOSHIROTTENとともに音楽イベント「水たまり」を開催するなど、DJとしても活動している。
https://undercoverism.com/

源馬大輔
1975年生まれ。1996年に渡英し、1997年ロンドンのブラウンズに入社、バイヤーとしてのキャリアをスタートさせる。 2002年帰国後、中目黒にセレクトショップ、ファミリーを立ち上げ、 WR/ファミリー エグゼクティブ・ディレクターに就任。2007年に独立し、源馬大輔事務所を設立。セリュックス(旧LVJグループの会員制クラブ)のブランディング・ディレクターなどを務め、現在は「サカイ」のクリエイティブ・ディレクションや香港の高級専門店レーン・クロフォードのバイイング・コンサルタントなどを行っている。経済産業省「ファッション政策懇談会」の委員も務める。

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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