「ステイ・ホーム映画」-徹底観察記録-

今、私達はかつて体験したことがない困難と向き合いながら生活している。それまでの現代社会で理想とされてきた「より早く、より大量に、より珍しいものを消費することが素晴らしい」といった価値観は急速に色褪せつつある……というか、やりたくてもできなくなってしまった。その代わりに新たな価値観が浮上してきた。身近なものから素晴らしさを見つけることだ。さて、映画といえば現代社会が生み出した最高の娯楽である。だから登場人物は、退屈な日常生活を離れて「より早く、より大量に、より珍しい」冒険を繰り広げるものと相場が決まっていた。でも今はそんな姿を観ても、自分の置かれた境遇との差ばかりが目について、ため息ばかりが出てしまうはず。むしろ映画の中では少数派といえる、「登場人物が家で日常生活を淡々と送り続ける映画」を観たほうが、共感できること、学べることが多いかもしれない。そんなわけで、こうした「ステイ・ホーム映画」を10本ピックアップして登場人物を徹底観察。身近なものから素晴らしさを見つけて生きる彼らや彼女たちにまつわる記録をあれこれ妄想してみた。

『地球に落ちて来た男』(1976)

But it is private

やあ、地球の諸君、久しぶり。トーマス・ジェローム・ニュートンだ。
えっ、4年前に死んだはずじゃないかって? ハハハ。実はあれは偽装だったんだ。故郷の星に帰っただけだったのだよ。
今回、あるミッションで別の惑星に出張する機会があったので、ついでにこっ
そり地球に立ち寄ってみたのだが、どうやら状況が様変わりしたようだな。街を歩く人々の数が妙に少なくて困惑しているよ。
本当は誰かをとっつかまえて理由を聞くのが一番てっとり早いのだろうけど、私の顔はそこそこ知られているからな。「えっ、あなた生きていたんですか?」と騒がれてしまったら面倒くさいことになってしまう。一体どうすればいいんだろう……そうだ、最初にこの星に来た時に用いた情報収集法を使うか。そう、ひたすらテレビを観まくるのだ。
そんなわけで、久しぶりにテレビというやつを観ようとしているのだが、放送局の数がものすごく増えていないか? なるほど、配信チャンネルと呼ばれているものか。Netfilx、Amazonプライム、Apple TV。聞き覚えがない名前ばかりだな。どうせ水で薄めたような番組ばかり流しているに違いない……ふむ、この『ストレンジャー・シングス 未知の世界』ってドラマが人気のようだな。見たところ子ども向けの他愛ないファンタジードラマのようだ。どれどれ、ちょっと観てやろう。あれっ? しっかり予算をかけて丁寧に作られているぞ……ていうか、1980年代カルチャーへのオマージュがいちいち絶妙で、オッサンのハートのツボを突きまくり。どんどん物語に引き込まれていく……ああ、気が付いたら3シーズン分をぶっ通しで観てしまった!
ふっ、私としたことが。たまたまおもしろい番組に当たって動揺してしまったようだ。今度は『マーベラス・ミセス・メイゼル』でも観てやるか。お気楽なスウィーツドラマに違いない……と思いきや、1950年代後半を舞台にスタンダップコメディアンを目指す主婦の姿を通して、芸人の業やカウンターカルチャーの胎動期を描いた野心作だった。しかも時代考証がパーフェクトだし服も小物も鬼キュート! 
ええい、ドラマ以外の番組も観てやる。なにっ、この『タイガーキング』という番組は本当にドキュメンタリーなのか? こんなおかしな人間、銀河系広しといえどもなかなか会える奴らじゃないぞ! 
私は唖然としてしまった。なぜならこの星には、同時並行でいくつもの番組を観ることができる私の能力をもってしても、一生かけても観きれない量のテレビ番組がアップロードされているのだから。街を歩く人々の数が激減している理由はこれだったのか。よし、私も別の惑星への出張は後回しにして、観たい番組をビンジウォッチングするとしよう……。

『ホーム・アローン』(1990)

I made my family disappear

坊やもヒヤリ? クリスマス強盗御用

米シカゴ郊外の高級住宅街で12月25日午後8時(日本時間26日午前11時)すぎ、強盗容疑で2人の男が現行犯逮捕された。
シカゴ市警によると、容疑者の名前は住所不定無職のハリー・ライム(47)とマーヴ・マーチャント(43)。2人は以前から長期のクリスマス休暇で空き家になる邸宅を狙っており、リンカーン通りのマカリスター邸に侵入したものの、何も盗み出すことなく逮捕された。マカリスター邸には一家の5人兄弟の末っ子ケビンくん(8)が手違いから1人取り残されていたが、怪我などはなく両親は胸を撫で下ろしている。
地元メディアの取材にケビンくんは笑顔でこう答えている。
「クリスマスだったからね。うるさい家族はいなくなってほしいって神様にお祈りしたんだ。そうしたら叶っちゃったんだ。だからずっとやってみたかったことを全部やってみたよ。髭剃りとかベッドでジャンプしたり、宅配ピザを頼んで1人で食べるとかね。でもだんだんさみしくなっちゃって、教会で家族のみんなを返してくださいって神様にもう一度お願いしたんだ。1人は気楽でいいけど、やっぱりみんなと一緒に家で過ごすのが一番だね」。
不思議なのは、ケビンくんが傷ひとつないのに、逮捕された犯人達が全身傷だらけだったこと。当人達は警察に「あの悪魔にやられた」とうめくばかりで真相は不明だ。(シカゴ支局=ジョン・ヒューズ記者)

『ハイ・フィデリティ』(2000)

Autobiographical

Q1 名前 
Q2 職業
Q3 あなたの休日のとっておきの健康法は?
Q4 それはあなたにとってどんな効果を与えていますか?

A1 ロブ・ゴードン
A2 中古レコードショップ、チャンピオン・シップ・ヴァイナル店主
A3 家でアナログレコードのコレクションの整理をしています。
A4 僕は体に良いことは一切していないんだけど、黙々とこの作業を行うことが心に良いのは確かだな。大量のレコードをジャンル別に分け直したり、買った順番を思い出しながら並べ直してみると、忘れていた記憶を思い出したり、自分の人生を自然と振り返ることができるんだ。もっとも、過去にしでかした失敗を思い出して、その場で立ち尽くしてしまって、気が付けば日が暮れていることもしばしばなんだけど(笑)。

Movie Selection & Text Machizo Hasegawa
Movie Capture & Design HATO PRESS
Edit Takuhito Kawashima(kontakt), Moe Nishiyama, Victor Leclercq (kontakt)
Graphic Design Akinobu Maeda(MAEDA DESIGN LLC)

author:

Machizo Hasegawa

映画や音楽に関するコラムや小説など、いろいろ書いてる文筆家。最新刊はシリーズ第3弾となる大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)。他に『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーネットワーク)『サ・ン・ト・ランド』(洋泉社)など。

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