“ソロ活”のススメ” NYのトップシェフ、アニータ・ロウが提唱する「孤独な時間は生きていることを実感する瞬間」

1人飲み、1人旅、1人飯。ここ数年で認知や理解が高まっている、自分のペースや考えを大切にする行動や体験を指す“ソロ活”。精神的な自立や他人への脱依存の考えからも“さみしい”“ぼっち”といったネガティブな感情ではなく、新しい自分が芽生えるきっかけとして市民権を得た。

デジタル時代に自分だけの時間を確保することは想像以上に難しい。言い換えれば、1人だからこそ心ゆくまで何かを楽しんだり、新しい価値観を見出す機会はそう簡単にやってこない。しかし、皮肉にも新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で自宅に籠もる生活を送る中、図らずともその機会を得た人は多いはずだ。

そもそも“ソロ活”は新型コロナショック以前のニューヨークで静かに動き出していた。海外において、家族や大勢の友人と食事を楽しむ姿は幸せの象徴とも言える風景。一見、想像し難い海外の“ソロ活”事情とは何か? 

2000年、ニューアメリカン料理店「アニサ」をオープンし、ニューヨークのビジネス誌「クレインズ」で「モースト・インフルエンシャル・ウーマン(最も影響力のある女性)」に選ばれた、トップシェフの1人であるアニータ・ロウ。彼女の著書で、1人で料理を楽しむためのレシピ本「Solo: A Modern Cookbook for a Party of One」は、アメリカでの食における“ソロ活”の可能性を推し広げた。インタビューを通じて紡がれるアニータの言葉は、強く“ソロ活”を推し進めるものではなく、個人の自由を最優先の価値とする温かいものだった。

——家族で食卓を囲む光景はアメリカにおいて幸せの象徴に感じます。2018年に1人の食事を有意義にするレシピ本「Solo」を出版した理由は何ですか? 

アニータ・ロウ(以下、アニータ):“ソロ活”を広く人々に提唱したかったわけではなくて、バランスが大事だと思っている。当たり前だけど、全ての人が自分の時間を持つことは必要。大家族でも、たくさん友人がいたとしても、1人になる時間は必ず存在するのだから。

——ニューヨークでも1人でレストランやバーで食事をすることは珍しいことではなくなりました。“ソロ活“が定着し始めたきっかけは何だと思いますか?

アニータ:アメリカ全体で考えると異なるけれど、ニューヨークのような大都市では、1人の活動が生活基準になっている場合が多い。「アニッサ」の常連で必ずバーカウンターに座って1人で食事をする顧客がいたけど、理由は自宅の冷蔵庫が壊れて以来、修理せずに生活スタイルを外食にシフトしたから。

彼のように、最近のニューヨークでは些細なきっかけで“ソロ活“を始めるケースは珍しくないの。ダイニングを囲むとできないけれど、バーカウンターではできる会話もあるでしょう。1人の時間を楽しむことは、新しい人とのつながりが持てるきっかけだと思う。1人で食事をすることに後ろめたさなんて感じないわ。

1人の食事(=孤独を意識的に作る)は生きていることを実感する瞬間

——著書の「Solo」では「家族みんなが同じものを食べる必要はない。各々が食べたいものを食べればいい」という言葉が印象的でした。この考えに至るまでの経緯は?

アニータ: できることなら家族で同じものを食べた方が良いとは思う。でも、アレルギーや、1つのメニューが全ての人にとって幸せとは限らない。「アニッサ」では、スタッフ全員が一緒に賄いを食べていたけれど、宗教上の理由で豚肉が食べられなかったり、ベジタリアンなど、多様な信仰や嗜好の人がいたので、それぞれが異なるメニューだった。誰かのための料理とは、食べる人のことを考えること。その一人ひとりに向けた思いこそがハッピーなんじゃないかしら。

——現実的に家族で別々の料理を作るのは難しいですよね?

アニータ:そうね。でも簡単でシンプルなメニューで良いの。例えば、子供にバラエティに富んだメニューを作ることは、様々な食文化に触れることにつながり、食育にとっても大事なこと。

——「1人で料理と食事をすることは最も幸せで力強い経験の1つになる」とも述べていますが、カップルだけでなく、子供を持つ家庭に対しても同様の事が言えますか?

アニータ:もちろん。でも、無理しない程度にね。現代の生活で1人になる時間を作るのは良いアイデアだと思う。ディナーに限らず誰かと一緒に過ごすことも楽しいけれど、誰ともシェアしない時間も至福の瞬間。誰かのために料理をして、一緒に食事を摂ることを否定しないけれどね。

——“ソロ活”は精神衛生にどんな影響を及ぼすと思いますか?

アニータ:孤独な時間を作るのと、孤独を感じるのは全く違うこと。孤独を感じる時は常に誰かと一緒にいたいという“寂しさ”が生まれるけど、孤独な時間を作る行為は生きていることを実感する瞬間でもあるし、自分を見つめ直すきっかけにもなる。

——レシピの紹介文には「1人でディナーをする時に最適なメニュー」(例:Smoky Eggplant and Scallion Frittata)とありますが、どんな点で「1人」に最適だと思いますか?

アニータ:掲載しているレシピは、簡単な材料で30分以内に作れるものばかりだし、後片付けも簡単だからストレスもない。誰かに合わせるのではなく、自分の体調や気分でメニューを決められるので、体と心にとって最善のメニューといえるわ。

——自分のために特別なメニューを作ることはありますか?

アニータ:私が作るメニューは全てがスペシャル(笑)。でも、時間や手間のかかる豪華な食事はほとんど作らないし、その必要も無い。何がスペシャルかは、その時の自分が決めていいはず。

ポストコロナの“ソロ食”は最小限の資源で作る“フルーガルクッキング”

——ミシュランの星を獲得した「アニッサ」を閉店し、“ソロ活”のためのレシピ本を出版したこれまでを振り返って、今、何を考えますか?

アニータ:圧倒的にストレスが減った。新型コロナショック以前は世界を旅行していた。友人との共同所有の旅行会社「Tour de forks」では、世界中のフードツアーを企画して、料理のレッスンやチャリティーにも取り組んだの。とても楽しかった。

——新型コロナショックによる外出禁止令後、自身のライフスタイルに変化はありましたか? 

アニータ:これまで自宅中心の生活にある程度シフトしていたけれど、こんな経験はない。今、アメリカでは少しでも家で快適に時間を過ごすため、料理で新しいことに挑戦している人が増えている。お菓子作りをしている人は多いみたいで、みんなが小麦粉を買うから、手に入り難くなってしまった(笑)。自分のための料理で新しい挑戦をするのは素晴らしいこと。

——新型コロナウイルスと共存していくために、食における“ソロ活”はどのように変化していくと思いますか?

アニータ:これまでのビジネスモデルをどう最適化するか。復活できると信じているけれど、軌道に乗るまでは長い時間がかかるでしょう。集客率が50%の状況でどう売り上げを確保するか……私は最小限の資源とコストで作る“フルーガルクッキング”のアイデアを考えている。

——アニータの料理には日本の影響があるように思います。和食や日本文化からはどんな影響を受けましたか?

アニータ:和食はお気に入り。旬の食材を使い、素材を生かす考え方が素晴らしいし惹かれる。味付けも好き。もし、食べ歩きがメインの旅行をするなら間違いなく日本を選ぶ。昨年、冬の北海道に行ったの。特にシーフードは最高! 日本の物価は高いと思っていたけれど、ニューヨークと比べるとはるかに安いことに驚いた。この状況が落ち着いたら、すぐにでも行きたい。今は日本の寿司が一番恋しいわね。

アニータ・ロウ
アメリカ・ミシガン州生まれ。コロンビア大学卒業後にパリの料理学校「エコール・リッツ・エスコフィエ」に入学。同校卒業後にニューヨークに戻り、「Mirezi」などのレストランでシェフとして活躍。2000年、ビジネスパートナーのジェニファー・サイズムと「Annisa」をオープン。2006年にはニューヨーク初のミシュランガイドで星を獲得。2015年に「Annisa」を閉店、現在は旅行会社を運営している。著書には『Solo:A Party of One for a Party of One』(Knopf、2018)などがある。

Picture Provided Anita Lo
Text Miho

author:

NAO

スタイリスト、トレンドリサーチャー。東京とニューヨークを行ったり来たりしながら活動中。バックパッカー、スタイリストアシスタントを経て、2006年より雑誌、広告、アーティストのMVなどの衣装製作、スタイリングを手掛ける。その他、2015年より企業のトレンドリサーチャー&コーディネーターとしても活動。クリエイティブエージェント、S14所属。ライフワークは縄文と江戸の研究。 Instagram: @nw120318

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