エコロジカルな生き方を提唱する人が集まるベルリンのコミュニティービル 人と自然が共生する「ローブブロック」とは?

多様な人種と文化が入り交じるベルリン。世界が認めるクラブ「ベルグハイン」は他にはない恍惚の境地であり、エントランス前に連なる行列は永遠に続くアンダーグラウンドカルチャーの象徴だと信じられていた。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によりロックダウンされた街は一瞬にしてカルチャーを失い、存在自体が危ぶまれるほどの危機に面している。

一方で、制限された生活の中から新たな価値観が生まれていることも事実。人とのコミュニケーションは以前にも増して必要不可欠となり、リアルなエンターテインメントの代わりとして自然に癒しを求める人が多くなった。“パーマカルチャー”という言葉をよく耳にするようになったのもここ最近のこと。パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)とアグリカルチャー(農業)と文化(カルチャー)の3語を組み合わせた造語で、オーストラリアのビル・モリソンとデイヴィッド・ホルムグレンが提唱したのが始まりとされる。

工業化が進み大量生産されるようになった食べものの多くには、健康に害をもたらす化学物質が大量に使用されるケースも少なくない。そして、現在問題視されている1つでもある生態系を崩す原因となっている。そういった問題を改善させるために広がり始めたのがパーマカルチャーである。

そんなパーマカルチャーとローカルカルチャーを組み合わせた場所がベルリンには存在する。「ローブ・ブロック」と名付けられたビルは、同じ思想を持ったアーティストやクリエイターが入居し、隣接するガーデンとともにエコロジカルな生き方を提唱している人達のコミュニティービルである。

人と人、人と自然、そして、人と動物を結合することを目的とした「ローブ・ブロックとは一体どんな存在なのか? その実体に迫る。

豊かな自然に囲まれたコンクリートビルの知られざるサステナビリティ

トルコ系やイスラム系移民が多く住む異国情緒あふれるウェディング区に突如現れた巨大なコンクリートビルの「ローブ・ブロックは、別名“Terrassenhause(テラスハウスの意)”と呼ばれ、2018年に世界的なミニマリスト建築家アルノ・ブランドルーバー率いるブランドルーバー、マーカス・エムデ、トーマス・バーロン、マック・ペツェットのチームによって建てられた。彼らは、既存のコンクリート建築を解体せず、永続的にメリットのある構造に作り変えることを得意としている。

剥き出しのコンクリートのみで形成されたジッグラトのような建物は圧倒的な存在感で高台にそびえ立つ。広さ約3,400平方メートルに19戸ある部屋はすべて南向きで、それぞれに6メートルの広々としたテラスが付いている。

各テナントは、1階にオーガニックレストランの「Baldon」、上階にはファッションブランド「HUND HUND」のショップ兼オフィス、ヨガスタジオやベルリン・ヴァイセンゼー芸術大学のアーティストのアトリエ、「ローブ・ブロック」をはじめ、ブランドルーバー達の建築や撮影を担う、オランダ人の建築家兼フォトグラファーのエリカ・オーフェルメールのオフィスのほか、管理人として唯一住んでいる創設者のオリビア・レイノルズの住居などがある。

2児の母でもあるオリビアは、子どもたちが都会に住みながら田舎と同じように自然と触れ合える環境を作りたいと考え、コミュニティー、ホスピタリティー、コネクションを重要視したコンセプトのもと「ローブ・ブロック」を立ち上げた。

「『ローブ・ブロック』は、最初はウェディング区の別の場所でアートプロジェクトのスペースとしてもっと小さな規模でスタートしたの。オリビアはもともとロンドンが拠点で、ロンドンとベルリンのアートをつなぐことを目的にLondon + Berlinで“Lobe”と名付けた。無利益でコマーシャルでないことをコンセプトに、アーティストチェンジプログラムをやっているうちに、ロンドンではなく、ベルリンという街にもっとフォーカスしたいと考えて、新たな場所を探し始めたのがきっかけ。今の場所が見つかって、一流の建築家も見つけて、いざビルを建てようと思ったら、今度は融資をしてくれる銀行が見つからない。本当に探すのに苦労したわ。オリビアのコンセプトを説明しても、ビルを建てるのに莫大な費用がかかるからリスクになると断られてしまう。最終的に融資をしてくれる銀行も見つかって無事に建設することができたけれど、私たちにとってビルの完成がゴールではなく、やっとスタート地点に立ったばかり」

最初のアートスペースからオリビアの思想に賛同し、ずっと一緒にプロジェクトを手掛けてきた創設メンバーのエルケ・ファラットは語る。

また、スタッフのアナ・ザテラロ・シェンクも「『ローブ・ブロック』は動物にとってもストレスフリーの環境になってる。農園の鶏は放し飼いにしているし、犬を飼っている入居者も多いけれど、テラスやオープンスペースを自由に動き回れる。テナントビルではあるけれど、あくまでもコミュニティのためのビルであって、賃貸料で利益を得ていない」と続ける。

将来的には一般利用もできるコミュニティーガーデンとして開園予定

パーマカルチャーを推進する上で最も重要なガーデンは建物に隣接されており、街の中心地とは思えない面積を誇る。鶏、モルモット、蜜蜂を飼い、トマト、イチゴ、チェリーをはじめとする多くの野菜、果物、植物が植えられ、キャンプファイヤー設備やコンポスト置き場などがある。当初、一般の人も利用出来るコミュニティーガーデンになる予定だったが、新型コロナウイルスの影響によってその計画は一旦中止になった。ベルリンでパーマカルチャーを専門としている知人のガーデナーに依頼し、現在の形ができ上がった。ガーデンは入居者が毎日交代で水をやるなどの世話をしているとのこと。

エルケはこう続ける。

「コロナの影響を受ける前までは、映画上映やアートエキシビションも行ってきた。ロックダウン明けの5月には、(ベルリンのクラブカルチャーを守るために発足された団体)クラブコミッション主催によるライブストリーミングをルーフトップで開催した。ここから見える夕日は本当に美しい。ローブに入居すれば、自然に囲まれながら広々としたスペースで作業ができてポテンシャルも上がる。美しいロケーションもあって、入居者である他のアーティストやクリエイターとコミュニケーションが取れて、いろんなことをシェアできる場所」。

もし、今すぐ森の中で暮らすことができたとしたら、私達人間が自然や動物と共存、共生していくことは簡単なことかもしれない。しかし、多くの人はさまざまな理由から都会で暮らすことを自ら選び、ストレスを抱えることを仕方ないと考えている。「ローブ・ブロック」の存在を知ることによって、新たなライフスタイルへの希望が持てるのではないだろうか。

author:

宮沢香奈

2012年からライターとして執筆活動を開始し、ヨーロッパの音楽フェスティバルやローカルカルチャーを取材するなど活動の幅を海外へと広げる。2014年に東京からベルリンへと活動拠点を移し、現在、Qetic,VOGUE,繊研新聞,WWD Beauty,ELEMINIST, mixmagといった多くのファッション誌やカルチャー誌にて執筆中。また、2019年よりPR業を完全復帰させ、国内外のファッションブランドや音楽レーベルなどを手掛けている。その他、J-WAVEの番組『SONAR MUSIC』にも不定期にて出演している。 Blog   Instagram:@kanamiyazawa

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