エシカル志向の最先端であるアップサイクルの波がヨーロッパのインテリア業界にも 廃棄物を利用した家具に創造的な再利用を

廃棄物に第二の人生を与えるアップサイクルの考え方は衣・食・住に浸透している。フランスのインテリアブランド「マキシマム」の創設者の1人、ロメ・ドゥ・ラ・ビーニュは「手元にある素材から家具をデザインしたい」という発想でブランドをスタートさせた。彼にとって、廃棄物は“天からの授かりもの”だという。これまで、エアバスA350の内装材用に製造したものの、品質検査をクリアしなかったカーボンハニカムパネルを使用したチェストやプラスチック成型加工工場の余剰在庫だった色粉を利用した椅子は、パリのコンセプトストア「メルシー」で販売したところ、即完売した。現在、「マキシマム」は新たに建築事務所を立ち上げ、余剰資材を活用した建築への取り組みも始めている。

また、フランス西部の街ナントに拠点を置く「43 bis creations」のディレクター、モルガーヌ・グラーゲンは転職活動時に、現在の環境問題について考えるようになった。昔からDIYやインテリアの制作が好きだった彼女は、ブルジョワ向けのインテリア制作のコンテストで準優勝し、この業界に進むことを決めた。廃棄物の植木鉢をランプに、スーツケースを棚に、ドラム式洗濯機の金属部分をコーヒーテーブルに作り変えるといったアイデアを実現させている。

 2013年と15年に「世界のベストレストラン50」でデンマークの「ノーマ」を押さえて1位を獲得した「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」のシェフ、ジョアン・ロカも熱心にアップサイクルに取り組んでいる1人だ。彼が主宰するプロジェクト「ロカレシクラ」では、レストランで開けられたドリンクのガラス瓶を灰皿やコップ、花瓶、置物に作り変えて再利用し販売を行っている。また、同店では、社会復帰が難しいとされる45歳以上の長期失業女性の雇用を受け入れ、社会復帰の支援も行っており、注目を浴びている。

若手企業家達の共通意識は「息苦しく退屈ではない」こと

 イギリスでは、イングランド南東部オックスフォードシャーを拠点にするインテリアデザイナー、リン・ランボーンがインテリア業界の廃棄物問題に積極的に取り組んでいる。埋め立て地から回収した廃棄物を使ったインテリア雑貨や家具を制作し、2014年から数回にわたり英・BBCの人気インテリアデザインコンペ番組「The Great Interior Design Challenge」に出演を続けている。2019年には「Grand Designs Live Interior Designer of the Year」など数々の賞を受賞した。中古や廃棄物からアップサイクルされたアイテムで飾られたインテリアは、サステナビリティに基づく彼女の思想とともに高く評価されている。国内では“廃棄物の戦士”と称され、最近はヨーグルトや卵のパックを鉢植えにしたり、観葉植物の葉の手入れのためにバナナの皮を利用するなど、アップサイクルのアイデアを取り入れたガーデニングにも力を入れている。プラスチック汚染をはじめとする、海洋汚染問題に関する子ども向け映画の制作も行っている。ウェブマガジン「Plastic Patrol」のインタビューで「善意のための活動の一部になりたいと人々に刺激を与えること、そしてそれは息苦しく退屈なものではないというメッセージを発信すること」が目的だと語っている。

廃棄物問題に取り組む企業に共通しているのは、リンが語るように「息苦しく退屈ではない」という考え方。それが新世代の起業家が廃棄物問題の改善を牽引している要因でもある。廃棄物をアップサイクルする行為にはある種の制約もあるが、それがあるからこそ作り手のクリエイティビティが最大限に発揮されているのも事実だろう。また、消費者が物やサービスといった機能的価値ではなく情緒的な価値を求め、独自のストーリーやコンセプト、ユニークな世界観を付加価値と捉えるようになった今、廃棄物を再資源化した製品の需要はますます高まっていきそうだ。

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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