左右非対称のデザインを持つ「ザ・サルべージズ」の新作スニーカー“マニフェスト”、そして“D.I.Y.シャツ”へ込められた思いを知る アーン・チェン、ダグラス・ハートへのダブルインタビュー

「TOKiON the STORE」で展開中のシンガーポール発の新興ブランド「ザ・サルべージズ」。「TOKiON the STORE」のローンチ以降、ブランドオーナーであるアーン・チェンのインタビューを2度にわたって掲載してきたが、その後も続々とニューアイテムが到着している。特にブランド初となるスニーカーは、“マニフェスト”と銘打たれた挑発的プロダクトに仕上がっており、大手シューズメーカーとのコラボレーションによらない、ブランドのインディペンデントでD.I.Y.なスタンスが表明された象徴的な逸品だ。3度、アーン自身にアイテムのバックストーリーを語ってもらった。

さらに今回はコレクションで重要なモチーフとなったUKバンド、The Jesus and Mary Chainのオリジナルメンバーであり、「ウェンブレックス」シャツと「ザ・サルべージズ」のコラボレーションアイテムに携わった、ダグラス・ハートからも話を聞くことができた。人気絶頂期にThe Jesus and Mary Chainを脱退して以降、多くのアーティストのMVを手掛ける映像ディレクターとしてシーンの第一線で活躍しているものの、彼自身がフロントに立つという機会は少なく、とても貴重なインタビューとなっているはずだ。

アーン・チェン(ザ・サルべージズ オーナー)へのインタビュー。

――記事には掲載しませんでしたが、最初のインタビューでもスニーカーの製作秘話を教えてくれましたが、改めてスニーカーについて教えてください。靴職人の下でどんなことを学びましたか?

アーン・チェン(以下、アーン):私はある靴職人が作ったスニーカーを少なくとも15年は履いているほど大ファンなんだ。腕利きの靴職人がいるうわさをずっと前から聞いていて、友人のおかげで、その職人とコンタクトがとれた。でも最初にその巨匠を訪ねた時にはスニーカーをオーダーするのも断られてしまってね。僕がトレンドを意識したスニーカーを作ろうとしていると勘違いしていて、それが一生モノの靴を作るという彼の美学に反したらしい。でも私は諦めずにしつこくアプローチし続けて、3度目に彼を訪ねた時に、私が思い描いていたヴィジョンに目を向けてくれて、イエスと言ってくれたんだ。その時から僕は10ヵ月間仕事を休み、靴作りをその職人の下で学ぶことに集中した。このスニーカーはイギリスのデザイナー、ヘレン・カークムが手掛けていて、私と彼女は自分達の好みをシェアするためにたくさん会話を重ねた。スニーカーをデザインする工程はとても楽しいものだったけれど、それを実際プロダクト化するまでのプロセスはとても長い。デザインにはさまざまな要素が含まれていたり、複雑な時はなおさら大変なんだ。その職人ははとても忍耐強い性格で、コンピューターは一切使わず、手作業で製作は進んでいく。長く愛用できるハイクオリティなスニーカーを作るためには最高の素材が必要なんだ。レザーなどの素材はイタリアの老舗、「ビブラム」から調達した。もちろん、クオリティやスタイルだけでなく、環境にも配慮した素材を使用している。ジョギングする時もディナーに出掛ける時も、さらにはダンスをする時もこのスニーカーは欠かせない。靴が高級品で、修繕しながら履き続けてきた時代と同じように、スニーカーも手をかけて長く履けるものを手掛けていきたいと思っているよ。このスニーカーならたとえヘビーユースしたとしても、最低でも5年は持つはずだよ。

――あなたのブランドの魅力はバックグラウンドにカルチャーが感じられるデザイン、そしてディテールへの並外れたこだわりだと思います。このスニーカーにはどんな思いが込められてますか?

アーン:このスニーカーは、“脱構築主義建築(デコンストラクティビズム)”と呼ばれる1980年代のポストモダン建築のムーヴメントにインスパイアされている。そのムーヴメントは“形態は機能に従う”といったルールに反していて、ヴィジュアルは断片化され、コントロールされたカオスとなっている。アウトソールに至るまで、左右非対称デザインのスニーカーは世界初だと思う。性格は正反対だけど、うまくいくカップルのうように、それぞれの違いが相手の魅力を引き出す。“マニフェスト”スニーカーも同じように、左右でデザインが違うことで、魅力が増すように計算されているんだ。

――カーフスキン、スエード、フルグレインレザー、ニット、メッシュなどさまざまな素材を組み合わせた意図はなんだったのでしょうか?

アーン:自分達がすでに慣れ親しんできた素材を解体し、再構築することで、素材の持つ魅力、特性を再解釈してみたかったんだ。

――主要ブランドがさまざまなコラボレーションを発表したり、近年のスニーカーブームの勢いは増すばかりですよね。アーンさんがスニーカーをリリースしようと思ったのはなぜですか?

アーン:スニーカーというアイテムに対して、僕達のD.I.Y.の姿勢で、普通のスニーカーではやらないようなことをやってみたいと思ったところからスタートしたんだ。ルールにとらわれることなく、自分達なりのやり方で作品を生み出す、その方法を学びたい、その気持ちに突き動かされたね。

――このスニーカーを手にする人にはどんなスタイリングをしてほしいですか?

アーン:ファッションは自己表現の方法の1つなので、自分のスタイルを持つ人に“マニフェスト”はぴったりなアイテムだと思う。その人の独自のスタイルに合わせてもらえたら嬉しいよ。

――今店頭にも並んでいる、ボビー・ギレスピーの“ポルカドット・シャツ”のアイデアはそもそも誰のアイデアだったのでしょうか?

アーン:バーンズリーと私は究極の“ポルカドット・シャツ”を生み出す計画を水面下で進めていて、そのために話をしながらアイデアを交換してきた。話し合いの結果、最もアイコニックな“ポルカドット・シャツ”は、アルバム『Sonic FLower Groove』のジャケットでボビー・ギレスピーが着ていたシャツだということで同意したんだ。

――スニーカーのようなニューアイテムにも注目ですが、「ザ・サルべージズ」がこれからリリースするアイテムはどんなものでしょうか?

アーン:日常に取り入れたくなるようなアイテムをこれからもっともっと形にしていきたいと思ってるから楽しみにしていてほしいな。

アーン・チェン
「アンブッシュ」、「サレンダー」、「ポテトヘッド・シンガポール」など、多くのショップを生み出し、1990年代の東南アジアにストリートファッションや若者の文化を紹介し影響を与えた。最近では、自身のブランド「ザ・サルべージズ」をパートナーでありデザイナーのニコレット・イップと運営。アーンとニコレット、2人のオルタナティブカルチャーへの愛情に根ざした、アパレルアイテムは人気を獲得し、カルト的な支持を得ている。

ダグラス・ハートへのインタビュー。

――まずあなたの近況について聞かせてください。ロックダウンの期間、どのように過ごしていましたか?

ダグラス・ハート(以下、ダグラス): 最初の1ヵ月はずっと映画を観ていた。イタリアの映画監督エリオ・ペトリの『労働者階級は天国に入る(The Working Class Goes to Heaven)』や『Todo Mod』、スロバキア出身のステファン・ウーヘル監督の『The Sun In A Net』『The Miraculous Virgin』みたいな作品をね。それから、アダム・フェイスが主演の1970年代のテレビ番組『Budgie』の2シリーズも観尽くしてしまったところで、映像制作に没頭していた。

――「ザ・サルべージ」、そしてアーンさんの存在は以前からご存じでしたか?

ダグラス:バーンズリーが「ザ・サルべージズ」のアーンを紹介してくれて、その時に彼の存在を知ってね。そこからこのプロジェクトがスタートしたよ。

――今回のコレクション”The Choice Of The Last Generation”は、初期のThe Jesus and Mary Chainにインスパイアされています。当時のことを思い出してもらいたいのですが、まず、あなたがThe Jesus and Mary Chainに加入した経緯、“ジーザス ペプシ”ロゴのTシャツを着るようになったきっかけを教えてください。

ダグラス:学生時代に、私の故郷であるイースト・キルブライドでメンバーのジム・リードとウィリアム・リードに出会ったんだ。1960年代のガレージやガールズ・グループ、1970年代のパンクに夢中だったのは私達は他の若者同様に、マジックマッシュルームをきめて、音楽を聴いて退屈な日々をやり過ごしていた。しばらくしてから、音楽を聴くだけじゃなくて、演奏することにも興味を持ち始めて、バンドとして活動をスタートさせたんだ。私がロンドンを訪れた際にクリスチャンのグッズを取り扱う店で「Jesus Pepsi」のTシャツを見つけて、ステージで着始めてから、自分達でもツアーで売るようになったよ。

――カスタムD.I.Y.シャツは「ウェンブレックス」とのトリプルコラボレーションですが、このコラボレーションはどうやって始まり、具体的にはどういった作業を行ったのでしょうか? あなたが気に入っているポイントも教えてください。

ダグラス:バーンズリーと私は同い年で、私達の人生は12歳の時にパンクロックでガラッと状況が変わった。パンクが、芸術学校では教えてもらえない音楽と創造力を私達の人生にもたらしてくれ、2人ともティーンエイージャーになる頃には、洋服のリメイクを始めたんだ。私はバーンズリーの服に対するアイデアや姿勢が大好きで共感してきた。だから、D.I.Y.シャツを彼と制作するプロジェクトは私にとって完璧とも言えるものとなった。あのシャツに込められているのは、まさに私達が1977年に服のリメイクを始めた時のあのスピリットが込められている。それぞれのシャツをグレーのシェイドやステッチ、ボタンなどカスタムを施すことによってユニークにしたかった。The Jesus and Mary Chain在籍時にはこれだと思うブラックシャツに出会うのが難しく、白いシャツをあえて自分の手で黒く染め、愛用していた。

――当時、バンドのヴィジュアルコンセプトは誰がコントロールしていたのでしょうか。メンバーの中で誰が一番おしゃれでしたか。

ダグラス:初期の頃のヴィジュアルコンセプトに関しては、メンバー全員が撮影、スリーブに使用するコラージュ作りなど細かいところも自分達でコントロールしていた。Tシャツなどマーチャンダイズも同様だね。バンドメンバー全員が服が好きだったし、同じようなファッションに身を包むことで、グループとして統一感を出していたんだ。

――The Jesus and Mary Chainがこうして今も若者を引きつけている魅力はどこにあると思いますか。

ダグラス:私達は最高の曲を書き、素晴らしいレコードをリリースし、なおかつおしゃれで、全員がイケメンで……魅力を感じないほうがおかしいだろう!?

――2016年にPULPのスティーヴ・マッケイらとCall This Number(コール・ディス・ナンバー)をスタートしていますね。ここ数年は「ミュウミュウ」のコレクションも撮影されていたようです。このプロジェクトについて教えてください。

ダグラス:Call This Numberは、私とスティーヴ、そして唯一無二のアイコンだった(Public Image Ltdの元メンバーでアルバム『Flower of Romance』のジャケットのモデルである)ジャネット・リーの3人でビデオと音楽を融合するプロダクションとしてスタートした。私達はアナログのビデオカメラで撮影し、同じくアナログのエフェクトミキサーを駆使しながらイメージを加工していった。サンフランシスコを拠点にパンクの映像を収集するターゲットビデオの作品や1970年代後半~1980年代前半にニューヨークで放送されていたケーブルテレビの音楽番組に影響を受けているね。

――フィルモグラフィーを拝見して、My Bloody ValentineやThe Stone Roses、Babyshamblesといったビッグネームの作品群も素晴らしいのですが、個人的にはOcean Colour Sceneの作品をディレクションされていたことを知って感動しました(特に「The Day We Caught The Train」!!!)。僕の青春の名曲です! キャリアの中で特に印象深いビデオがあれば教えてください。

ダグラス:コレクションの中から1つを選ぶのはとても難しいね。でも、最近の作品で一番のお気に入りを選ぶとしたらI Break Horsesの「I’ll Be The Death Of You」だね。最近制作したビデオの中でもできあがりがとても気に入ってるんだ。

――映像ディレクターとして多くのMVに関わる一方で、ご自身の音楽活動はスローペースでしたよね。昨年ソロ名義のEP「X Film plus Ultra」と「Let’s Form A Cell」をまとめたカセットテープがリリースされていましたが、そこにThe Jesus and Mary Chainに通じる感覚を発見して嬉しくなりました。今あなたにとって音楽活動はどのような位置付けですか。

ダグラス:今は映像作品で大忙しだから、音楽活動に時間を割くのが難しいんだ。でも、いずれアルバムを作ってリリースしたいと思ってはいるよ。

――では最後に、東京についてはどんな印象を持っていますか? 最近ではいつ東京に来られましたか?

ダグラス:東京は大好きさ。でも残念ながら1991年にThe Jesus and Mary Chainのライヴで来日して以来訪れる機会がなくてね。街の様子などもその当時からすごく変わってるんだろうな! また訪れることができたらすごく嬉しいね。

ダグラス・ハート
1961年生まれ、グラスゴー出身。Jesus and Mary Chainの初期ベーシストで、現在はミュージックビデオなどを手掛ける映像クリエイターとして知られ、スティーヴ・マッケイ、ジャネット・リーと共同運営するCall This Numberでは、音楽だけでなくファッションのフィールドにも活動の幅を広げている。

Text Gikyo Nakamura
Interpretor Miho Haraguchi
Edit Sumire Taya

author:

中村義響

ライター。レコードショップ「JET SET」の店員、制作部門のマネージャーを経て、現在はラダ・プロダクション所属。さまざまなアーティストの制作やレーベル事業に携わる傍ら、ポップミュージックに関する雑文も少々。趣味はF1観戦。

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