連載「時の音」Vol.3 もっともっと素直に生きよう ホームから世界とつながるCHAIの現在

その時々だからこそ生まれ、同時に時代を超えて愛される価値観がある。本連載「時の音」では、そんな価値観を発信する人達に今までの活動を振り返りつつ、未来を見据えて話をしてもらう。

新型コロナウイルスの流行で、世界は誇張なしに様変わりした。終わりの見えない不安が蔓延しているが、それでも「時代が鳴らす音」に耳を傾けてみれば、この状況を少しでも好転させるためのヒントや希望がきっと見つかるはずだ。

今回登場するのは、“NEO – ニュー・エキサイト・オンナバンド”のCHAI。

2017年にデビューするなりポップかつコンセプチュアルな個性で話題をさらったCHAIは、”インターナショナルなバンド” としても着実に実績を重ねている。2019年にはセカンドアルバム『PUNK』を発表し、アメリカやイギリス、ヨーロッパ各国、日本を回る初のワールドツアーに挑戦。1ヵ月ごとに日本と海外を行き来するような生活だった。さらに2020年1月にはマック・デマルコのサポートとしてオーストラリア公演に参加。続いて米フォークロック・デュオのホイットニーと一緒に3週間で北米の18都市を回った。2月に帰国して以降、新型コロナウイルスのパンデミックの影響下で一転して家にこもる生活を余儀なくされた彼女達は、濃厚な「外と内」の体験から何をつかみ取ったのだろうか。

――昨年は精力的に海外ツアーに出ていて、今年に入ってそれが一段落した頃に新型コロナウイルス感染症の流行が深刻になってきた感じですよね。この期間、どんなふうに過ごしていましたか?

ユウキ:ずっと家にいたから制作が主ですね。

マナ:普段やらなかったインスタライヴをしてみたり、自分達でできることを探してやってみたりした。

カナ:動画とか撮ったりね。アレンジをスリッパでやったり、クッションをドラムにしたり。身の回りのものを楽器として音を作って。

ユナ:インスタライヴやると海外ツアーで友達になったバンドがコメントくれたりする。ホイットニーはインスタライヴやってる時にCHAIのTシャツ着てたり、CHAIの曲が好きすぎて自分でCHAIの曲を踊ってみた動画を送ってきたり、ピアノで弾いたり。愛が深くってすごいうれしいよね。

ユウキ:私達もカバーもいっぱいやったよね。ケミカル・ブラザーズをカバーしたら本人に届いてリポストしてくれたり。嬉しいよね。やってみるもんだと思った。

――家にこもる時間が増えて、音楽の聴き方は変わりましたか?

ユウキ:そんなに変わってないけど、私はジャンルというか選ぶものが変わったかも。今まではベストな音楽の聴き方としてまずライヴがあって、生音ドーン! どっかん! 踊る! イエー! みたいなのがすごい楽しかったんだけど、それができなくなって自分の中にスッと入ってくる曲が変わってきた。まるで映画の主人公に対して流れるように、BGMとしてその時々の自分のテンションと調和して、日常がちょっと良くなるような曲が今は好き。

カナ:ある意味音楽がより身近になったっていうか、そんな感覚はあるかも。

マナ:個人的には昔のアニメの曲を聴いてます。『うる星やつら』とかむっちゃかわいい。それをレコードで聴くのが本当にいい! 雰囲気出るし、なんか自分かっこいいって思える(笑)。

――CHAIは「コンプレックスはアートなり」だったり「NEOかわいい」だったり、デビューした時から強いコンセプトを掲げていますよね。

ユウキ:最初にCHAIというアーティストとして芯を持つってことを考えたのね。私達4人でしか作れないものって何だろうって考えた時に、武器はコンプレックスがあることだね、それは隠すことでも恥ずかしいことでもないよね、そこが良いとこだよね、って話してたんです。それぞれ自分に「ここが恥ずかしい」とか「気に入らないんだ」ってところがあっても、人から見たら「素晴らしいじゃない、そこが良いんだよ」って思えるということを4人の日常の中で会話していて。話し合えるこの関係性も含めて素敵だし、それを作品として、アートとして提示するのは私達しかできないことだよねって。

――活動を重ねてきて、当初のコンセプトに関して変化はありましたか? やっぱり間違ってなかったとか、新しく何かに気付いたとか。

マナ:全然間違ってなかった。それは自信を持ってはっきり言える。コンプレックスは持っててあたりまえだし、それを芸術に見せることこそがすっごいかわいいし。今年はみんな会えなくなって、それぞれの時間が増えて、世間的にもたぶん自分と向き合う時間が増えたと思うから、そのおかげで4人が個々にいろんな考えをちゃんと持って、強くなって集まれたことがいちばん良かったかなって思う。さらに新しい考えも出てきて、もっともっと素直に生きよう、って思うようになりました。言いたいこと思ったことはちゃんと言ったほうがいいし、時代も変わってくし。ちゃんと新しいかたちを見つけたい、CHAIの中で、って思った。ちゃんと学びたい、いろんなことを。

――コンセプトが強いゆえに、曲作りに苦労したことはありますか?

マナ:ううん、ないです。もちろん活動のテーマの1つではあるけれど、毎回それに合わせて曲を作っているわけじゃないから。

ユウキ:まず曲として良いものだけを作っていて、それに対してどんな歌詞をのせるかということを後から考えているから、コンセプトが邪魔になることはないね。

――音楽の良さが大前提ということですね。

ユウキ:そう。1曲ごとにどれだけ新しいものを作れるかっていうことかな。

マナ:「コンプレックスはアートなり」って言葉だけだと説教くさくなっちゃうし。

ユウキ:コンセプトや歌詞もきちんとしたものが良いけれど、まずは一番に音楽を届けたいから。

――人を集めてライヴをするような旧来通りの活動が難しい状況になりましたが、今後の展望は?

ユウキ:この状況はむしろプラスだと思ってる。エンターテインメントとして人前でやるライヴっていうのはディズニーランドみたいな感じじゃない? もちろんそれが良いんだけど、音楽ってそれだけじゃなくて、ライヴだけじゃできない表現で、その人の人生がちょっと良くなるようなものでもあるから。

マナ:今は勝負をかけて、生涯ずっと聴ける音楽が作りたい。飽きない、日常に近いもので、年取っても聴ける音楽。今年に入る前からそういう気持ちだったんです。なんかちょうど良くハマってきてる気がする。めっちゃ前向きです! 

ユウキ:海外にアプローチするためには仲間を増やすことも大事だけど、自分達が実際に行かなくても良い曲は一人歩きしてくれるし、これから出す曲がどう広がっていくか楽しみだよね。

マナ:ライヴがきっかけで出会って好きになる現場がなくなるのは本当に寂しいけど、そこさえも新しいかたちにできればいいな。

ユウキ:ライヴのかたちも1種類じゃない。音楽をもっとアートにする方法はたくさんあるな、CHAIだからできることがあるな、って思ってる。生でやることに命かけてたら絶対にたどり着けない、ネットだから成立する、見たことない配信ライヴがやりたい。まだ内緒だから言わないけど、すごいことを考えているよ!

CHAI
マナ(Vo&Key)、カナ (Vo&Gt) 、ユウキ(Ba&Cho)、ユナ (Dr&Cho) からなる4人組バンド。2017年に1stアルバム『PINK』をリリース。また2018年2月に米バーガー・レコーズ、8月に英ヘヴンリー・レコーディングスでそれぞれデビューしている。2019年7月には米シカゴの「ピッチフォーク・ミュージック・フェスティバル」にその年唯一の日本人として出演した。2020年8月21日にはスペインのガールズバンドHINDSとのコラボ楽曲「UNITED GIRLS ROCK’N’ROLL CLUB」を配信と7inchでリリース。さらには10月にはアメリカのインディ・レーベル「SUB POP」と契約し、新曲「Donuts Mind If I Do」をリリースした。
https://chai-band.com/

Text Momo Nonaka
Photography Mariko Kobayashi

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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