藤原さくらの前向きな思いに満ちたライヴと新曲 そこから探る、彼女の気分と現在地

陽の光を浴びるような新曲「Kirakira」の音色とコーラス。あるいは、今にも踊り出したくなるような軽快な声とアレンジでカバーした、大滝詠一の名曲「君は天然色」。今年リリースした2つの楽曲に表れている、この明るさこそ今の藤原さくらを象徴するものだろう。「みんなにも元気になってほしい」と語っているように、彼女は音楽を通してポジティブな気分を投げかけている。音楽的には昨年リリースのサード・アルバム『SUPERMARKET』以降の気分を引き継いだ、ヒップホップのビートやジャジーなテイストも印象的で、キャリアの中でも一層自由な創作を楽しんでいるように思う。今年4月に開催され、約1年半ぶりの有観客ライヴとなった「Sakura Fujiwara Live 2021 SUPERMARKET」の話から、コロナ禍で芽生えた心境の変化、華やかなアレンジが印象的な新曲に込めた思いなど、開放的な胸の内を語ってもらった。

“カッコいい”を目指した1年半ぶりのライヴ

――4月には久しぶりのライヴがありましたね。

藤原さくら(以下、藤原):有観客でワンマンライヴをやるのは1年半ぶりで、2019年の12月30日にやったミツメとの2マン以来のライヴでした。こんなに空いたことはなかったので、改めてライヴをやることが自分の生き甲斐だったんだなって知る機会になって、すごく幸せな時間でした。

――何かが欠けているような感覚があった?

藤原:一昨年に全国のライヴハウスを回るツアーをやったんですけど、それが本当にお客さんの顔がよく見えるライヴだったんですよね。自分が作った曲をみんなが歌えるようになっていて、一緒に口が動いているのも見えましたし、そこで改めてライヴって良いものだなって感じていました。楽曲がライヴの中で育っていって、最初は自分達の中だけで成立していたものが、人のものになっていくのを実感できていたところだったので、それをずっと体験できていない歯痒さがありました。

――今回はジャジーなアレンジが印象的でした。

藤原:ジャジーでしたね。あの日は衣装も含めて、大人っぽいところを見せたいと思っていました。

――というのは?

藤原:“かわいい”ではなく、“カッコいい”と言われるライヴにしたかったんです。『SUPERMARKET』でやったことは“かわいい”ではないなと思いましたし、自分がやりたい音楽を楽しもうと思ってアレンジを変えていく中で、そういう方向性になっていきました。あの日はハンドマイクで歌う曲が多かったこともあり、フォーキーなものよりも、自然とジャジーな感じになっていったのかなと思います。

――鍵盤も弾かれていましたね。

藤原:そうですね。アコギを弾いたのは2曲くらいで、あとはエレキだったことも新鮮でした。打ち込みが多いアルバムなので、それをライヴで表現するにはどうしたらいいのかを考えてアレンジしてました。

――ちなみに“カッコいい”、あるいは“大人っぽい”というのは、藤原さんにとってどういうイメージですか?

藤原:自分が「かわいい」って曲を出してるのであれなんですけど(笑)。あの曲のような恋するかわいい女の子ってイメージよりかは、芯があり、それでいてしなやかな人がいいなって思います。どんなことがあっても良い経験になったな、と思えるくらい達観しているのがカッコいい大人だなって思いますし、自分も25歳になったので、いい加減大人になりたいなと(笑)。

――なるほど(笑)。

藤原:これまでは仕事で関わってきた人が全員大人だったこともあって、ミュージシャンとしても、「よしよし、できないのがあたりまえだから」っていうふうに接してもらったところがどうしてもあったように感じているんですよね。でも、これからは自分で指揮を執れる人になりたいと思います。周りにいるのが本当に優しい人ばかりなので、その力を借りつつ、自分でできることは自分でやっていきたいですね。

「みんなにも元気になってほしいなって思うから、まずは元気な人が歌おうかなと」

――「Kirakira」のサウンドや歌詞にも表れていますが、今話していても、ポジティブなマインドを感じます。

藤原:そうですね。ポジティブです、今。

――それはなぜですか?

藤原:引っ越したからです(笑)。環境を変えることで家をきれいにしたいとか、かわいくしたいとか思うじゃないですか。

――わかります。

藤原:日当たりが良いところに引っ越したので、朝起きた時にパーっと光が入ってくるんです。そこで植物を育てて水を与えたり、近くの公園にお散歩に行ったりするだけでも最高というか、私はそういうシンプルなことで物足りる人間なんだなって思います。

――そういうささやかな幸せが大事ですよね。

藤原:ただ、心に余裕がないと気付かないことでもあると思うので。みんなにも元気になってほしいなって思うから、まずは元気な人が歌おうかなと。

――ライヴの雰囲気もピースフルなものだったと思います。

藤原:みんなが閉鎖的な空間に追いやられたような1年半だったと思いますし、自分も去年は東京と福岡で舞台の仕事があったので、たくさんの人達の前で演技をしていたはずでした。ただ、急に家から出ないでくださいという状態になって、自分自身と向き合う機会が増えたことによって気付くこともあって、相手がいるから自分ってものが成立しているような気分でいたけど、もっと内側に答えがあるというか。人に対して「こうしてほしい」とか、「なんでこうしてくれないんだろう」って思うことがあったけど、そうではなく“自分がこうしたらいい”って考えるようになりました。

――なるほど。

藤原:みんな違う人間だし、相手に自分の信念やポリシーを強要すべきではないなって。そういうことを感じたような1年でした。そうなると攻撃的な発想を持つのではなく、捉え方を変えて楽しいことを考えていこうっていう、そういう視点に変わっていくんですよね。

――捉え方を変えることで見え方も変わるというようなことを、まさに「Kirakira」で歌われているのかなと思います。

藤原:私のおばあちゃんが利他的なんですよ。マスクがなかった状況の時に家でマスクを縫っていたり、私にも必要なんじゃないかっていろんなものを送ってくれたりして。いやらしさがない善意の素晴らしさに気付くというか、自分もそうありたいし、落ち込むような出来事でも、捉え方次第では「勉強になったよね」って思うことができるんだなって。

――そうした気持ちが今の創作に反映されていると。

藤原:今回のライヴはコロナ禍で一度延期になっちゃったけど、そのおかげで福岡と大阪でもライヴをやることができましたし、「Kirakira」もこういう状況じゃないとできなかった曲なんですよね。大変な状況ではあるけど、みんなが少しでもポジティブに、笑い話にしてやろうっていう気持ちで生活できることが理想だと思うので。光が降り注ぐ感じというか、「Kirakira」ではそういうことを歌いたかったんです。

リスナーとして、そして作曲者としての今の気分

――制作はどのように進んでいきましたか。

藤原:スピッツの「春の歌」をカバーした時にアレンジしてくださった永野亮さん(APOGEE)に共同作曲者として入っていただき、何かライヴで新しい曲をやりたいねってところから始まっていきました。日本語で歌うポップなテイストを考えていたのと、『SUPERMARKET』ではヒップホップのビートを意識した曲が多かったので、そこを踏襲した曲作りができたらと思っていました。

――なるほど。

藤原:最初のイントロはハンドクラップで始まる予定だったんですけど、そこをビートに変えて最後に手拍子を入れたり、Bメロは韻を踏む感じに変えたことで合わなくなったメロディを2番に入れ込んでもらったり、自分だったら思いつかないような楽曲になりました。人と一緒にメロディを練っていくことも初めてだったので、すごく楽しかったです。

――『SUPERMARKET』以降のモードとしてヒップホップのビートがあるのは、藤原さんのリスナーとしての気分が反映されているところもあるのでしょうか。

藤原:そうですね。今流行っているヒップホップを聴くようになったからこそ浮かんできたアイデアは多いです。例えばアルバムの制作中にはベニー(BENEE)をよく聴いていて、そういうサウンドへの意識はありました。彼女の楽曲は音がそんなに入っていないものもあるんですけど、ベースとドラムが際立っているんですよね。「Monster」や「marionette」のアレンジでは、少ない音数でほとんどベースとドラムと歌だけで録りたいって伝えていました。

――音楽性をグッと広げるアルバムになったのは、そういうところに理由があったんですね。

藤原:もともと自分はアコースティックが好きだったので、例えばノラ・ジョーンズさんに憧れてピアノの音を入れたり、ベースは絶対ウッドベースでドラムはブラシでやったりするとか、そういうことを意識していたんです。でも、ヒップホップのようなビートも楽しいってことに気付いて、最近のアルバムやEPに取り込んでいっています。

――音楽の好みが変わったのはなぜだと思いますか?

藤原:デビューしてからOvallの皆さんと制作させてもらうことが多かったんですよね。彼らと仕事をするようになったあたりから、自分もビートが強いものを聴くようになっていきました。それがターニングポイントだったと思いますね。

幾多の客演とカバー、そこから学ぶこと

――ここ数年の活動では、藤原さんが他のアーティストの楽曲にフィーチャリング・ゲストで入ることも印象的でした。

藤原:そうですね。

――また、毎月さまざまな楽曲をカバーされているのも大きなトピックだと思います。ご自身の創作のかたわら、そうした楽曲を歌うことがどんなインプットになっていますか。

藤原:他のアーティストさんと仕事をするのはかなり刺激的ですね。自分では出てこないメロディや歌詞を歌うことになるので。カバーはどうやって歌詞の中の主人公と仲良くなるかを考えるんですけど、ラジオ番組でリスナーからリクエストをもらう場合はそれまで聴いてこなかった曲が出ることもあるので、そこで新たな風が吹く感覚がありますね。

――特に新鮮だったカバーはありますか?

藤原:最近ボブ・マーリーの曲をカバーしました。レゲエを通ってきてなかったので、新鮮でしたね。自分の曲でもドラムのフィルから始まるレゲエ調の曲をやってみたいと思います。

――「君は天然色」はどのような経緯でカバーしたのでしょうか? また、藤原さん自身が原曲の「君は天然色」を聴いた時の感想やエピソードがあれば教えてください。

藤原:今回はCMでの歌唱のオファーをいただいたのが始まりでした。もちろん、小さい頃から街中やカーステレオから流れてきた大好きな曲だったのですが、「想い出はモノクローム 色を点けてくれ」というフレーズが昨今の外に出られない日々と結びつき、また新しいメッセージになっていて、すてきだなと思いました。

――「Kirakira」の制作に関しても「光が降り注ぐようなイメージ」と仰ってましたが、まさにこの曲でも同じ気分を感じました。

藤原:「君は天然色」のアレンジも永野さんにお願いしたのですが、原曲のイメージを崩しすぎずに、自分がやるのであれば新しいものにしたいという思いがありました。永野さんの仮歌が入った元のアレンジが素晴らしすぎたのと、難しい歌だったので、家で何度も練習してレコーディングに臨みました。

――原曲にはなかった点として、間奏の空高く飛んでいくような藤原さんのコーラスが印象的でした。

藤原:それも永野さんのアイデアです。ミックスの際もコーラスのレベルを主旋律よりどんどん上げていって、「これくらいでも気持ちいいね」なんてやりとりをしながら完成させていきました。

――『ムジカ・ピッコリーノ』(NHK Eテレ)でも、毎週カバーされていますね。

藤原:スタッフの熱量や音を追求する姿勢が素晴らしい番組だと思います。レゲエの回ではどういう風にリズムが成り立っているのかを考えたり、その楽曲の仕組みを詳しく教えたりするので、自分も勉強になっています。2話でカバーした「青い目の人形」はメジャーとマイナーが1曲の中で共存している曲で、音階についての説明があったりと結構ニッチなことをやっているんですけど(笑)。それを子ども番組としてやっていることがいいなって思います。

――子どもに音楽を教えることがモチベーションになっている?

藤原:そうですね。子どもが大好きだし、私自身子どもの頃に音楽を始めて、音楽が大好きなお父さんにたくさん教えてもらったことが今の仕事になっているから。それで毎日楽しく過ごせているので、私もそういうことを伝えられたらなって思います。

――最後に今後の活動で考えていることがあれば、教えていただけますか。

藤原:楽器をもっと弾けるようになりたいです。木管楽器の温かい音が好きで、今までずっと憧れていたんですけど、この前のツアーでは管楽器のお2人にクラリネットやフルートの吹き方を教えてもらったんです。で、少しだけど音が出るんですよね(笑)。

――楽器の楽しさって、何よりもそこですよね。ちゃんと音が出るっていう。

藤原:そうなんですよ。新しい楽器を弾けるようになるのは刺激的ですし、何より楽しい。自分がギターを始めたのは10歳くらいの頃なんですけど、好きな曲を自分で弾けるようになる喜びが原動力だったので。

――習得したい楽器はありますか?

藤原:ピッコロベースをやってみたいです。ベースに高い弦を張る楽器なので、1オクターブ上の音が出るんですよね。ギターとベースの中間みたいな音といいますか、あれでソロを録れたらめっちゃカッコいいなって。あとはクラリネットやフルートも、ライヴで吹き出したら楽しいなって思います(笑)。

藤原さくら
福岡県出身。25歳。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。シンガーソングライターとしてのみならず、役者としても活動。2020年には、自在に横断する音楽性が意欲的かつ自由度高く描き出されたサード・アルバム『SUPERMARKET』をリリース。現在、「ムジカ・ピッコリーノ」(Eテレ)、「HERE COMES THE MOON」(InterFM897)にレギュラー出演中。8月25日には4月に中野サンプラザで開催したワンマンライヴを収めた映像作品『「SUPERMARKET」Live 2021 at 中野サンプラザ』をリリースする。9月20日には東京・日比谷野外大音楽堂でライヴ「藤原さくら 野外音楽会 2021」を開催する。

■藤原さくら 野外音楽会 2021
会期:9月20日
会場:日比谷野外大音楽堂
住所:東京都千代田区日比谷公園1-5
時間:OPEN 16:00 / START 17:00
入場料:¥5,500

author:

黒田隆太朗

編集/ライター。1989年千葉県生まれ。「MUSICA」勤務を経てフリーランスに転身。 Twitter::@KURODARyutaro

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