Light In The Atticのマーク・マクニールに聞く シティポップのインターナショナルな明るい未来と可能性

英語圏に住む若者達の間でシティ・ポップを聴く人が増えている。その広がりはYouTube、Reddit、Tumblr、Instagramなどのサイトを見るとよくわかる。TikTokでは昨年12月から松原みきがトレンド入りし続けている。そこで興味深いのは、海外の若いシティポップファン達のその純粋な情熱に反して、彼らとその他の日本の1980年代音楽に関する文脈的繋がりが欠如していることだ。

その文脈的欠如の中でも、雄弁さには幅がある。1980年代風のファンアートを投稿しているのは最近シティ・ポップのコミュニティに入ってきたばかりの新参者だろうし、もう少し古株であればYouTubeのミックスやミームを作ったりするだろう。山下達郎、竹内まりや、松原みき、杏里などの代表的楽曲に関してはコミュニティ内で大方意見が一致しているが、サウンドやヴィジュアルの分類については意見が分かれるところだ。永井博の絵画に影響を受けたようなアメリカの西海岸をイメージした表現(永井自身が手掛けた『A Long Vacation』や、Light in the AtticとIkkubaruによる新作は別として)は最も王道だと言える。若いファン層にとっては、エキゾチックな東京のネオンライト、『セーラームーン』や『ゴールデンボーイ』のような1990年代のアニメ、はたまたゲームのドット絵などを彷彿させるような音楽は、彼らの無知さを補うものであるが、ここにこそ、シティポップの文脈的糸のもつれがあるとも言える––ネット上にあふれている表現を精査したところで、この音楽のジャンルの起源や連動するムーブメントなどを知ることはできないのだ。

しかし、この現状こそ、シティ・ポップがそのファンに与えてくれた未来なのであると私は思う。そもそもこのジャンルはさまざまな要素を組み立てて作られたものであり、「シティポップ」という用語自体、比較的新しいものである。以前TOKIONに掲載された流線形のクニモンド瀧口へのインタビューで、彼はその用語の由来について話している。同じく組み立てられたジャンルとしては、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)やブルーアイドソウルに代表される西海岸のヨットロックが挙げられる。「Yacht or Nyacht」は独自にヨットロック曲を採点しランク付けしている発信力の高いウェブサイトだ。しかし国際的な聴衆に対応したそうした採点の基準が、シティポップにはまだ存在しない。

コンピレーション『Kankyo Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』でグラミー賞にノミネートされたことでも知られるアメリカのレコードレーベル、Light In The Atticは、多くの日本の曲を海外のリスナーに届けてきた。別のコンピレーション『Pacific Breeze: Japanese City Pop, AOR & Boogie 1976-1986』のライナーノーツでは、DJでプロデューサーのマーク“フロスティ”マクニールがシティポップについて「ムーブメントというよりはバイブの分類」と説明している。そのバイブの定義と、現在のシティ・ポップのアクセスしやすさ(確実にLight in the Atticの影響によるものだが)がいかにしてこのジャンルの将来を決定づけるかを尋ねるべく、フロスティと電話で話すことにした。

「音楽のおもしろさは、その境界線の曖昧さ……つまり音楽の重なり合いの中にあると思う」と彼は言った。1999年にロサンゼルスを拠点とするインターネットラジオ局Dublabを共同設立したマクニールは、ラジオのプレイリストのようなリアルタイムのロジックで音楽を捉えがちだ。「私にとってラジオ番組を作るということは、シンプルに音楽を流すということで、その上でバイブやサウンドの流れは大切なんだ」と彼は説明する。「DJセットでもラジオ番組でも、ミックステープやコンピレーションでもそのことを考える。リスナーは旅をしたかのように感じたいのだから、モノトーンな感じは欲しくない。『Pacific Breeze』のコンピレーションではフォークやインストルメンタル、トロピカル、素材音源、ディスコやファンクといったさまざまなジャンルを深掘りしたかった。サウンドが物を言う中で、ジャンルはそこまで気にされない。だからバイブとサウンドがとても重要なのだと思う」 

新しいサウンドを開拓するという体験は、その歌詞を理解しているかどうかに関わらず、リスナーの想像力を掻き立てる。1970年代の日本の音楽が、アメリカのポップ音楽に対する憧れを持つことで進化していったということは、たびたび指摘されている通りだ。しかし今見えてきているのは、この現象の新たな側面である。例えばカナダ人シンガーソングライターのマック・デマルコは、細野晴臣の音楽に多大な影響を受けたことを繰り返し明言している。曲をサンプリングするなど日本のシティ・ポップの影響を受けている世界の音楽について私が尋ねると、彼がこう強調した。「バイブは関係なしに、文化間の距離やその影響について探る必要があるのは間違いない」

「この海外でのシティ・ポップの広がりによって、日本国内のアーティストがその革新的なトレンドを途切れさせないよう、彼らにしかできないことをやり続けてくれたらいいな」と彼は続ける。「細野とその仲間達、はっぴいえんどやその他のアーティスト達のおかげで、ポップスやロックを日本語で歌うことが可能となった。それ以前はほとんどタブーとされてたんだ。英語で歌わないのはダサいかのように思われていた。ロックだけでなく、世界中の他の音楽にもそういう部分があると私は思っている。長期にわたって西洋のポップスが幅を利かせていたから、彼らの独特な表現をカッコ悪いとする概念が当たり前だったんだ。過去の音源がオンラインで再リリースされたり、海外の音楽に簡単にアクセスできたりするような黄金期に入って、この傾向は大きく変わった。人々がそうした文化的表現に親しみのあるサウンドの軌跡や基盤を見い出して、そこに真の美しさや価値を感じるようになったんだ。それは本当に素晴らしいことなんじゃないかな」

個人としての願いは、シティ・ポップが今よりさらにインターナショナルにアクセスしやすくなって人気になってほしいということと、その定義が曖昧なままであり続けてほしいということだ。松原みきの楽曲や永井博の絵画にインスパイアされるの人が多いのは素晴らしいことだが、このジャンルの価値観が固定的に定められてしまうのはもったいない。この音楽を通して、人々に旅の喜びや感動を見つけ続けてほしいと思うのだ。次世代の若者達がTikTokを通じてシティポップを知るなんてことが本当に起こり得るなら、それに越したことはない。

Translation Leandro Di Rosa

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author:

トビー レノルズ

ニューヨーク出身のライター。音楽や映画、アート、ファッション、そしてそれらが交錯する可能性等、幅広い分野に興味を持つ。現在、東京に在住。

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