かつて花街として栄えた新潟・古町。レトロな風情が漂う町で、ゆっくりと地元に根を張り、愛されてきたアイドルがいる。今年でデビュー10周年を迎える4人組のアイドルユニット、RYUTist(リューティスト)だ。
昨年8月には、蓮沼執太や柴田聡子等を作編曲に迎えた4thアルバム『ファルセット』が音楽ファンからも注目を集めた。そして今年5月には君島大空プロデュースによるシングル「水硝子(みずがらす)」をリリースするなど、現在のインディーポップシーンを象徴する音楽家達とともに、ご当地アイドルグループの新境地を切り開いている。
今年8月9日には結成10周年ライブを控える彼女達。デビュー期から紆余曲折を経て地元を代表するアイドルとなった今、口をそろえて「今が一番、自然体」と語る。
これまでRYUTistが歌ってきた楽曲への思いと、10年間のグループの歩みを振り返ってもらった。
緻密なサウンドを乗りこなし、4人の感情が綺麗にそろった
——先日、アナログ盤でもリリースされた「水硝子」、メンバーのみなさんの手応えはいかがですか?
佐藤乃々子(以下、佐藤):5月のデジタル配信の時には、本当にたくさんの方から反響をいただきました。Twitterでも「良かった」って感想を書いてくれている方がいっぱいいて嬉しかったです。
横山実郁(以下、横山):いろんな人のプレイリストに「水硝子」を入れていただいて。メジャーなアーティストさんの中にRYUTistの名前が並んでるのが嬉しかったし、今まで私達のことを知らなかった人にも知ってもらえるきっかけになったのかな、って。
——かなり複雑で緻密なサウンドの楽曲ですが、初めて君島さんのデモを聴いた時はどんな感想を持ちましたか?
横山:最初、ケータイ壊れちゃったのかと思いました(笑)。
五十嵐夢羽(以下、五十嵐):ははは(笑)。でも、それくらい初めて聴く感じの曲だったよね。
宇野友恵(以下、宇野):イントロからいろんな音が混ざってて、「どこから音が出てるの?」って(笑)。
——歌い方のイメージをつかむのも難しそうですよね。
宇野:今までのRYUTistの楽曲はウィスパーボイスで歌うことがなかったので、「どういうふうに声を出したらいいんだろう」って悩みました。
五十嵐:でも、本番のレコーディングでは気持ちよく歌えて。いざ歌ってみたら、すごく歌いやすかったです。
佐藤:私もウィスパー気味に歌うのがすごく難しかったんですけど、レコーディングでは4人の歌声がすごく心地よく聴こえました。
横山:今までのRYUTistって、声で表現するのがあんまり得意じゃなくて、ちょっとぶっきらぼうに聴こえてしまったり、無機質に聴こえてしまうことが多くて。だから、声に感情を乗せることをずっと課題にして練習してたんです。でも、今回の「水硝子」は4人の感情がメロディーにぴったりハマった気がします。
——歌詞もちょっと不思議な情景が浮かんでくるというか、詩的なフレーズが多い印象です。
横山:歌詞も難しかったよね。
佐藤:小説みたいだよね。最初に歌詞カードを見た時に「膝を抱えたままのあなた」っていう言葉が出てきたから、気分が落ち込んでいる人を優しく包み込んであげるような歌なのかなって。
宇野:曲の最後は「この世の外れで膝を抱えたままのあなたの手を やっと掴んで あなたとぎゅっと硝子になるの!」って歌詞なんですけど、自分が誰かを救い出してあげるというか、助けてあげるっていう気持ちなのかなって。優しい気持ちで。
五十嵐:私もみんなと似てるんですけど、自分自身も水の中にいて、硝子に覆われて、自分も浮かんでいるようなイメージで……。
横山:ミクもそれに近いかも。AメロBメロは自分のなかに閉じこもっている感じなんですよ。でも、サビの前の「駆け出す」ってぱーっと視界が広がって、空に飛び出していくみたいな……わかる?
全員:わかる!
佐藤:すっと立ち上がる……みたいな感じだよね。
横山:リリースしたあとに、君島さんがTwitterで「好きな人の心に飛びこむ歌です」って言ってて、「そういう意味だったんだ!」って新しい発見もあって。そこからまた、歌う時の意識も変わりました。
配信ライブならではの魅力を見つけた2020年
——昨年はこれまでのようにライブができない中で、8月に4thアルバム『ファルセット』をリリースしました。蓮沼執太さんや柴田聡子さんなど、楽曲制作陣もすごく豪華な方々ですよね。
宇野:柴田聡子さんはずっと好きだったので、楽曲の話を聞いた時はすごくびっくりしました。『ファルセット』に関わってくれたのは、私達も普段から聴いているミュージシャンの方ばかりで、そういう人達に自分達の曲を作ってもらうっていうのはいつも不思議な気持ちになります。
佐藤:いつもレーベルの南波(一海)さんやマネージャーの安部(博明)さんから「今回はこの方に作ってもらったんだよ」って教えていただくんですけど、毎回びっくりするよね。
横山:みなさんが本当にいい曲を作ってくださるので、それを大切に表現するのが私達の役割だなって。
——メンバーのみなさんも楽曲に対してすごくストイックに取り組んでいる印象を受けます。
佐藤:そう言ってもらえることも増えたんですけど、なんだろう……当たり前だと思ってずっとやってきたのかな。
宇野:周りの方に「めっちゃ練習するんだね」って言われるんですけど、自分達ではあんまりそういう感覚はないというか。「ここがまだダメだよね」「もっとこうしなきゃ」ってひとつひとつ課題をクリアするために頑張ろう、って。
——ストイックに練習するのは当たり前という感覚なんですね。オンラインライブが中心だった昨年の1年を振り返って、音楽的にも成長できた部分もありますか?
佐藤:やっぱり『ファルセット』のリリースと、オンラインライブの「ファルセットよ、響け。」が大きかったよね。
横山:ね。コロナで今まで通りにライブはできなかったけど、今だからできることをたくさんできた1年だったかなって。
佐藤:あと、「ファルセットよ、響け。」で初めてイヤモニをつけてライブができたのも成長かな。普段はマイクで歌った声をそのまま聴いてたけど、イヤモニで聴くと全然違って。
宇野:「RYUTist、イヤモニもいいね」って言ってもらえたり。
五十嵐:私は初めて配信でライブをやった時の緊張感が印象に残ってて……。最初はお客さんも見えないし、拍手もない中でライブするのが怖かった。でも、最近はだんだん余裕ができて、コメントを読んだりカメラにアピールしたりするのも楽しくなってきて。だからメンタルも強くなったのかなって思います。もちろんお客さんを入れてライブしたいけど、アウェイな環境でもパフォーマンスできるようになったと思う。
佐藤:みんな、最初は配信ライブでカメラ向けられると恥ずかしがってたもんね(笑)。
五十嵐:今はもう「カメラさん、ここ撮ってください!」ってオーダーまでするようになって。
横山:そうそう、私達のバースデーライブはお誕生日のメンバーがライブをプロデュースするんですけど、「この楽曲は前撮りで録画して、手でレンズを隠したら生配信につながるようにしたいです」とか。そういうのを自分達で考えるようになりました。
——すごい。そういうアイデアも、配信ライブならではですね。
五十嵐:普通のライブだとなかなかできないもんね。配信ライブのいいところを見つけられたと思う。
横山:今まではお客さんがいたから歌って踊ることに集中していたんですけど、自分達をどういうふうに見せたいか、どうやって楽曲の雰囲気を伝えるか、っていうのをメンバーのなかでも話し合うようになって。「ライブを作ってる」っていう感じです。
——ライブでこれから挑戦してみたいことってありますか?
横山:1カメで、カット割なしの配信ライブとかやってみたいです。それでかっこよくダンスとかを見せたら臨場感もありそうだなって。
宇野:屋外でライブできるようになったら……水鉄砲?
佐藤:水鉄砲やりたいよね〜。
五十嵐:上から風船が降ってくるやつとか。
横山:舞台の下からジャンプして登場するやつもやりたい!
——アクロバティック志向ですね。
横山:宙吊りになって空を飛ぶやつもやりたい!
CM出演をきっかけに、新潟で知られる存在に
——今年7月でRYUTistとして結成10周年を迎えました。実感はわいてますか?
佐藤:全然、ないです! いつまでも新人感っていうか、いい意味でも、悪い意味でも……。
横山:なんでだろうね?
佐藤:ネクストブレイクアイドルってずっと言ってもらってるんですけど、いつブレイクするのかなって(笑)。
宇野:2013年くらいからずっと言われてるよね。
——でも、10年も経つとそれぞれ変化しているんじゃないですか?
宇野:私はだいぶ落ち着いたかも。デビューした時は不思議ちゃんキャラみたいな感じでキャピキャピしてたけど……。最近は本を読んだり、パソコンをいじってみたり、いろいろ勉強してます(笑)。
五十嵐:私は小学5年生でRYUTistに入って、その時に比べたら身長がすごい伸びました(笑)。140センチくらいだったけど、今は156センチなので。
横山:私、なんにも変わってない気がする(笑)。最年少なんで、ほかのメンバーに甘えてます。
宇野:ずっと小学生みたいだもんね(笑)。
五十嵐:入って来た時のほうが大人だったよね。でも今は……。
横山:お姉さん達に可愛がってもらってます(笑)。
佐藤:最初はみんなやんちゃな時期もあったり、途中ですごい落ち着いて、あんまりしゃべらないロボットみたいな時期もあったり……。でも、今はエンジョイ期というか、みんな素が出せてるし、メンバーもみんな仲がよくて楽しいです。
宇野:ライブでも、みんな自分の意見を言えるようになったよね。だから今、一番いい時期なんじゃないかな?
佐藤:いろいろ変化もあったけど、今が一番、自分達らしくて、自然体だよね。
——活動を始めた頃と比べて、新潟での知名度もだいぶ上がっているのではないでしょうか?
五十嵐:デビューして2年目くらいの頃は、新潟でわりと賑わってる万代っていう街で衣装着て全力で踊ったりしたんですけど、誰にも声をかけられなくて。
宇野:あった、あった。「衣装着て踊ってたら声をかけてもらえるかな?」って挑戦してたんですけど、誰にも声をかけられなくて。今やったらどうだろうね?
五十嵐:さすがに気づいてもらえるよ! だって「万代シテイ」の看板に私達が出てる広告も貼っていただいてるし。
佐藤:最近はファンの方以外でも、知ってくれてる人が増えたよね。
宇野:NegiccoさんとかNGT48さんと間違えられることも多かったんですけど、やっと「RYUTistさんね」って言ってもらえるようになりました。
——地元の人に知ってもらえるようになったきっかけはあったんですか?
全員:CM!
宇野:2017年から「新潟ろうきん」さんのCMに出演させていただいてるんですけど、それから声をかけてもらえるようになりました。
横山:「ろうきんのCMの子だ!」って言われるもんね。
五十嵐:RYUTistのことを知らない人でも、「新潟ろうきんさんの……」って言ったら「ああ、あの子達ね」って言ってもらえるもんね。
RYUTistが好きってことを、誇りに思ってもらえるように
——これだけ長い時間一緒にいると、思い出もたくさんありそうですよね。1つだけ挙げるのは難しいと思いますが……。
佐藤:えー! 難しい!
横山:遠征に行く時はホテルに泊まるんですけど、メンバーみんなで誰かのお部屋に集まっておしゃべりするんですよ。それがすごい好き。
宇野:ライブの話をするのかと思ったら(笑)。
佐藤:でも楽しいよね、すごいわかる。
横山:あと、遠征だと2016年の「佐渡金銀山応援ツアー」も楽しかったよね。ファンの方とバスツアーで佐渡に行ったんですけど、いろんな観光地をめぐりながらバスガイドさんみたいなこともやらせてもらって。あんなに長い時間、ファンの方と交流することもなかったし、帰りの船でライブしたのもすっごく楽しくて。
宇野:私はやっぱり去年の「ファルセットよ、響け。」かなあ。普段のライブだと準備期間も短くてバタバタなんですけど、この時は1ヵ月半くらい時間をかけてみんな練習したんです。でも、当日が土砂降りで。
佐藤:ひょうとかも降ってたもんね。
宇野:でも、ライブの時間になったら奇跡的に晴れたんです。それがもう感動したし、すっごくいい思い出。
横山:いい音楽といいお客さんに恵まれて、いいライブしてるなって思った。
宇野:むうたんは?
五十嵐:えー! 全部いい思い出なんだけど……。2018年に渋谷のタワーレコードさんでリリースライブをしたときに、「黄昏のダイアリー」のサビの「流星〜」ってところが今まででも歴代最高に上手に歌えて。その時が一番うまくいった。
宇野:え、その時から更新されてないの!?(笑)
五十嵐:あ、違う違う!(笑)なんて言うんだろう、サビのパートをいっつも練習してたから、上手く歌えた時はすごい嬉しくて。練習までは本当に上手くいかなかったから、見にきてくれてるお客さんのパワーとか全部が乗っかって、上手く歌えたんだろうなって実感しました。
——なるほど。リーダーの佐藤さんはいかがでしょう?
佐藤:私は……ファンの方とのハロウィンライブ。
全員:ああ〜!
佐藤:毎年、ハロウィンライブはファンの人が仮装して来てくれるんです。それで1人ずつ動画を撮って、誰が一番いい仮装なのかを決めるコンテストをやってるんですけど、みなさんクオリティーがすごく高くて。
宇野:毎年どんどんハイレベルになってるよね。
佐藤:ぜひみなさんに見てほしいくらい、すごく気合の入った仮装なんです。コロナが落ち着いたらまたやりたいよね。
横山:古町には「ドカベン」の像があるんですけど、体を銅像と同じ色に塗ってドカベンの銅像の仮装をしてる人がいて(笑)。
佐藤:どっちが本物かわかんないくらいだったよね(笑)。
——それはぜひ観に行きたいです……。最後に、これからの10年に向けて。どんなアイドルグループになっていきたいですか?
佐藤:子供から大人まで、老若男女に愛されるアイドルになりたいです。あと、お子さんだけを集めたライブとかもやってみたいよね。それくらい、子供達からも好かれるアイドルになりたいです。
五十嵐:ほかのアイドルさんから憧れられる存在になりたいです。「RYUTistさんいつも見てます!」って、ほかのアイドルさんから言ってもらえたら嬉しいなって。
宇野:私はもともとハロプロの℃-uteさんに憧れてアイドルになったんですけど、℃-uteさんみたいに歌もダンスもかっこいいって言われるようなアイドルになりたい。
横山:私は……つらい時とか、落ち込んだ時に、ファンの方の心の支えになるようなアイドルになりたい。RYUTistが好きでいることを自慢できる、誇りに思ってもらえるような存在になりたいです。