初めまして! RAYの内山結愛です。普段は大学に通いながら、RAYというアイドルグループで活動しています。
事前情報をあまり入れない直感ベースの語りと収録曲全曲レビューを特徴とする音楽レビューnoteを週に1度のペースで公開し、古今東西の名盤を聴きあさりながら日々音楽を楽しんでいます。
音楽レビューnoteが取り留めない作品チョイスをしているのに対して、このコラムでは「日本の音楽ムーブメントの歴史をたどる」というはっきりしたテーマを設定し、音楽を聴くことの楽しさや、さまざまな音楽との出会いを皆さまにお届けしたいと思っています。
記念すべき第1回は「日本のサイケからジャパノイズ」と題し、裸のラリーズ『THE ARCHIVES OF DIZASTAR SOURCES vol.1』、BOREDOMS『ソウル・ディスチャージ’99』、灰野敬二『滲有無』の3作品を取り上げ、レビューしていきます。(内山は作品収録曲を全曲レビューする性癖があるのですが、3作品を全曲レビューすると読者がお腹いっぱいになってしまうと想像し、全曲レビューは1作品に限定します!)
裸のラリーズ『THE ARCHIVES OF DIZASTAR SOURCES vol.1』全曲レビュー
裸のラリーズを聴くのは初めてです。内山とサイケノイズの初めての出会いとなる1枚。名前からすでに野蛮さを感じます。ドキドキわくわく!
DISC1:#01 STUDIO & SOUNDBOARD 1969 – 1975
1. 夜よりも深く 黒い悲しみのロマンセ(NOVEMBER 1975 SOUNDBOARD)
遠くの方でぼんやり鳴っていたノイズが、飛沫を上げるように近づき始まる。スローテンポ。昭和レトロで哀愁漂う雰囲気。ローファイ。言葉は音割れしながらもなんとか聞き取れる。歌詞カードがないのかなり攻めてる……。音量調節どこが正しいのか悩み続けてしまうような不安定さ。2:55〜硬質で鋭いノイズが耳をぶった斬る。寂れたメロディーが悲しくも切ない。抑揚やイントネーションが独特なボーカル。終始異様な空気感に包まれている。
2. 夜、暗殺者の夜(MAY 1975 STUDIO)
黒々しい夜にノイズが吠えている。0:43〜あんなにノイズぐわんぐわん鳴らしていたのに、楽しげで陽気になる。ザ・ドリフターズの「いい湯だな」的な雰囲気。音質がすごい……すごいものを聴いている。陽気さを喰らい尽くすように、覆い被さるノイズ。様子のおかしい昭和歌謡。言葉の置き方は軽やか。間奏のギターの存在感が格好良い。間奏はほとんどノイズに乗っ取られてる。7:49〜突如轟音の向こう側を目指し始める。一生分のノイズを浴びる。
3. お前を知った(The Last One)(JUNE 1974 SOUNDBOARD)
途中から始まったかと思うくらい性急に流れ出すメロディー。歴史を感じる音質。ボーカルのエフェクトが強烈。かち割れながら響いてる。耳。耳が……!!黒板を爪で引っ掻くよりもヤバいノイズ。脳味噌にアイスピック刺されているような感覚。曲が流れ終わっても耳の中で残り続けるノイズ。
4. 造花の原野(JULY 1974 STUDIO)
初っ端から容赦ないノイズ。足取りの重いスローテンポ。コンクリート切ってる。耳をノイズで切り裂かれる。攻撃性の限界がない。ボーカルは緩やかに錯乱している。
5. Improvisation(DECEMBER 1969 STUDIO)
これまでの甲高い系ノイズではなく、地盤を揺るがすような骨太ノイズ。タイトルの「improvisation」通り即興なのだろうか……
6. 断章(WINTER 1970)
暴力からの優しさは怖い。飴と鞭のバランス、鞭に偏りすぎだけど、その分飴を甘く感じるので良い。音質は相変わらず濁りがあるけど、穏やかで柔らかなボーカル。たまにノイズの片鱗を感じ身構える。夢の中みたいな浮遊感。甘く物悲しげに漂うメロディー。
7. 黒い悲しみのロマンセ(SEPTEMBER 1975 STUDIO)
1曲目の“夜よりも深く“ないバージョン。棘が全部取れてかなり穏やかで、違う曲のように感じる。哀愁はダダ漏れ。メロディアス。3:07〜ギターが寂しく咆哮。力強さの中に弱く繊細な部分が見え隠れする。
DISC 2:#02 STUDIO & SOUNDBOARD 1973 – 1977
1. The Last One(JULY 1973 STUDIO)
爆撃。爆撃。ノイズ。ノイズ。激烈。ギターのキュイーンが格好良い。思わず体を反ってしまう感じ。激しく混沌とした音像の中でも、確かにメロディーが存在する。中盤に訪れる長い間奏の展開に、高まり胸躍る自分がいる。7:21〜テンポアップし、ノイズの渦。反響する天の声みたいなボーカルに包まれる。
2. 鳥の声(JUNE 1974 SOUNDBOARD)
怪しげなギターが伸びやかに鳴り響く。幻想的。1:06〜心の準備してない時にキーンと駆け抜けるノイズ危険。ダウナーだけど美しい。実体を感じさせないような、リバーブの深くかかったボーカル神々しい。歪んでいくギター、現実をもどんどん曖昧にしていく勢い。
3. 白い目覚め(OCTOBER 1976 STUDIO)
一筋の光が差し込む。救い……溶けてしまいそうなほど、煌めき流れていくギターの音。ボーカルは揺れる水面のよう。女性の声に聴こえる。1:52〜怖い危ない!危険な予兆を感じてドキッとした。2:26〜やはりノイズがこんにちは。破壊。雰囲気は変わらないままだが、粛々と不穏さに侵食されていく。
4. 黒い花びら(JULY 1974 STUDIO)
8秒間の静寂のあとに聞こえ出す、荘厳な儀式のようなメロディー。どことなく「和」を感じる。ギターの1音1音が太く、そしてメロディック。ドラムが聞こえないからか、音に締まりがなくどこまでも広がっていくよう。静寂なのに、音割れ限界な感じ。後半から軽めのドラムが聞こえてくる。30秒ほどの静寂に包まれ終わる。
5. 夜よりも深く(FEBRUARY 1976 STUDIO)
夜よりも深くなったり、ならなかったり……。激しくないのに音はひび割れ、攻撃力高まるギターの音。ボーカルのエフェクトはやはり強めで、サイケデリック感増し増し。1:30〜イヤ゛ァア〜。「ブァーーー」って掻き鳴らされる爆撃ノイズには降伏する以外助からない。切なげ哀愁サウンドと大洪水ノイズが交互に攻めてくる。なぜか色気を感じる。DISC1で既に一生分のノイズを浴びてるのに、この曲の中盤で人間のノイズ許容量は限界突破。ノイズの暴力。ノイズは暴力。怒涛のノイズにのみ込まれ、ノイズと1つになった頃、曲が終わる。
■アーティストメモ
裸のラリーズは、1967年に京都で活動をスタート。日本国外では主に「Les Rallizes Dénudés(レ・ラリーズ・デニュデ)」という名前で知られている。「日本のロック史上最も謎の存在として最高のサイケデリック・ノイズ・バンド」という枕詞がたびたび用いられる伝説のグループ。
音質が凄かった……。歴史的に大変貴重な資料を聴かせて頂いたような気持ちです。実際、このアルバムが生産された数も物凄く少ないみたいなので、あながち間違いではない! ”日本のロック史上最も謎の存在”という、まるで都市伝説のようなグループが残した確かな魂を、心して受け止めました。
強烈なノイズの後ろで呑気に漂う甘美なメロディー、という構図が不気味で、危ないと思つつも、もっと深いところまで迫りたくなるこの感じ。甘い蜜で誘い、寄ってきた虫を食らう食虫植物みたいだ。これがサイケデリック・ノイズ……
一度聴けば耳にこびりつく轟音サイケデリック・ノイズで、皆さんも是非、轟音の向こう側へ。
続いてはBOREDOMS『ソウル・ディスチャージ’99』
BOREDOMSは『Pop Tatari』だけ聴いたことがあります。『ソウル・ディスチャージ’99』はメジャーデビュー前の作品とのことで、どんな初期衝動が収められているのか、楽しみでもあり、恐ろしくもあります。ブルブルわくわく!
……あふれる衝動が詰まった力強い咆哮の数々と、即興的な衝動性がありながらも、感じる一体感。以前「Pop Tatari」を聴いた時に、”本気で真剣にふざけているようなアルバム”とレビューした自分と握手したい。
聴いているうちに高まる暴走欲。ポップでクレイジーな表現が、自由へ誘い、心を解放し、好きなように生きていいんだとさえ思えてくる。ここまで清々しい魂の解放はなかなかない。
人間が限界まで犬の吠える物真似をしたような「Z & U & T & A」、北斗の拳のような「あたたたたた!!!」が登場する「TV Scorpion」。確かに人間だけど、人間ではない獣のような雄叫びもしばしば。どの曲もブッ飛んでいて、おもしろくて、それでいて超アッパーで格好良い……これは間違いなくソウルがディスチャージされている!
人生に迷ったらぜひとも聴いてほしい1枚。
■アーティストメモ
BOREDOMSは、1986年に結成された日本のロックバンド。個性豊かなメンバーと特殊な音楽性の一方で、メンバーチェンジや、バンド名の表記変更などが何度も行われた。Nirvanaの全米ツアーのオープニングアクトを任されるなど、海外からの評価が高く、海外の音楽フェスにも多く招待されている。
最後に灰野敬二『滲有無』
恥ずかしながらお名前すら初めてお聞きした灰野敬二さんの作品。CDを開けても閉じてもひっくり返しても真っ黒なデザイン。どこかイヤな胸騒ぎを覚えつつ、どんな音楽が聞こえてくるか、ゾクゾクわくわく!
……これは呪われたCDです。
そう紹介しても、誰もが疑いもしない音像の数々。底なしの不気味パラダイス、不気味のオンパレード。
小さな違和感が空気に充満し、はち切れそうな不穏さを漂わせ、約53分の暗闇が始まっていく。確かに日本語を喋っているのに、自分が知っている日本語の形を成していない。今にも怪談が始まりそうなサウンドと相まって、その時点でゾクゾクと鳥肌が立つような恐怖に襲われる。
しばらく微かな音量に耳を澄ましていると、突如怒鳴り声を上げ、喚き出したりもする。正直言って、どんなホラー映画よりもタチが悪い。これはジャパニーズホラー……いや、ジャパノイズ・ホラー!
その後も絶え間なく、不可思議な旋律に悲痛な叫びを乗せ、怨念を撒き散らすが、おかしなことに美しさすら感じるようになる。聴き終わった後の、聴いてはいけないものを聴いてしまった感とこれ以上踏み込んではいけない感。自分の身は自分で守る……。
(※実際に「笑っていいとも」で、B’zのCDを買ったのに再生してみたら全く違う内容で、再生するたびに内容が違うというおぞましい「呪いのCD」として『滲有無』が紹介され、話題になったこともあるらしい。それにしても、B’zとはかけ離れすぎている……)
■アーティストメモ
灰野敬二は、1971年から活動しているミュージシャンで、日本のアヴァンギャルドな音楽史において最古参の人物。リリースした音源のほとんどがインディペンデント流通で、その数は非常に多く、全体像を把握するのは困難とされている。Sonic Youthのサーストン・ムーアをはじめ、世界的に数多くの信奉者を生んだカリスマ的存在。
まさに百ノイズ百様(語呂が悪い……)!
3作を通して駆け足で「日本のサイケノイズからジャパノイズ」を体感しました。”ノイズ”という表現の幅広さに驚かされっぱなしで、刺激的な経験となりました。
爆撃轟音なノイズもあれば、繊細で色気のあるノイズ、耳鳴りのようなノイズ、幻覚的で陶酔するようなサイケノイズも。百人百様という言葉があるように、まさに百ノイズ百様(語呂が悪い……)!
細部まで作り込まれている作品も中にはありますが、衝動的かつ即興的だからこそ、ノイズとは言葉のいらない感情表現であり、そこから生まれる野性的で肉体的なリズムが魅力だと思いました。
「ノイズ」というジャンルは一見とっつきにくさもありますが、とにかく自由。憧れるほどに自由。「食わず嫌いしていた食べ物が、食べてみると案外おいしかった!」なんてこともあるので、聴かず嫌いをしている方もそうでない方も、是非気軽に聴いてみて欲しいです。
ウオ~~第1回目にしてたくさんノイズを浴びた! 来月はどんな音楽と出会えるのでしょうか……ドキドキ! 次回もお楽しみに!