源馬大輔×「レショップ」金子恵治対談 未知のものを探すバイイングと、服の魅力を再発見できる店づくり 1990年代ヴィンテージブームをテーマに、2人が生み出すものとは?

「TOKION」はMIYASHITA PARK内の「TOKiON the STORE」やECで、国内外のアーティストやクリエイターとタッグを組んだアイテムを展開している。本企画は、「TOKION」キュレーターの源馬大輔が“今”会いたい人と対談をしながら、プロダクト開発のきっかけを探る。

今回登場するのは、青山とMIYASHITAPARKに店舗を構えるセレクトショップ「レショップ」のコンセプターとして同店のバイイングなどを手掛ける金子恵治。「レショップ」は、シャツやデニムウェア、チノパンなど上品でトレンドに左右されないアイテムを中心にラインアップしながらも、素材やサイズ、ディテールなどが一癖あるものが多く、決して安易なスタンダードには陥らないセレクトが特徴だ。買い付け先も国内外のブランドをはじめ、時には一見ファッションとは縁がないような国外の田舎町へも足を運ぶなど、豊富な経験をもとにした金子のセレクトは、目の肥えた長年の服好きからファッションに情熱を注ぐ学生まで、幅広いファンを獲得している。2019年には「コモリ」のデザイナー・小森啓二郎とともに、9サイズ展開のシャツなどを制作する「レショップ」のオリジナルレーベル「LE」を立ち上げた。

源馬もまた、高校卒業後に渡英してイギリス・ロンドンのセレクトショップ「ブラウンズ」でバイヤーとしてキャリアをスタートさせた。今回は2人の対談から、金子のバイイングへの思いや「レショップ」の店舗としてのあり方に迫る。そして、今回の対談からどのようなプロダクトが生まれるのか。

まだ日本で知られていないものを探し出す

源馬:金子さんとは前にも一緒に仕事していましたが、それ以前から人づてに金子さんという人がやばいものをバイイングしているって話を聞いていたんです。へぇって思っていたんだけど、実際に会ってみたら本当にやばいものを買っている人だった(笑)。

金子:僕も「ブラウンズ」のバイヤーだった源馬さんを海外でよく見かけていたんですよ。源馬さんは背が高くてガタイも良いから目立っていて(笑)。「ブラウンズ」に日本人バイヤーがいることは噂で聞いていましたけど、まさか一緒に仕事をするようになるとは思いませんでした。

源馬:金子さんがバイイングしたものの中で特に印象的だったのはエスパドリーユです。僕はそれまでエスパドリーユにおしゃれなイメージがなかったんですがそれはとてもカッコよくて、僕が関わっているブランドのルックブックでも一度使ったことがあります。

金子:当時はインターネットも発達していなかったけど、バルセロナにはエスパドリーユが文化として根付いることは知っていて、お城の守衛とかが履いている写真なども見ていたんです。僕は現地に行けばなんとかなると思っているので、まずは行ってみようと。

源馬:金子さんみたいに世界中をまわって、高価なものから安いものまでカバーする人はなかなかいないと思います。ある時、アルゼンチンへ行くって聞いた時は何を買い付けるんだろうとびっくりしたけど、ちゃんと成果を持って帰ってくるんですよね。

金子:昔からやっていることは変わらなくて、扱うアイテムの幅が少し広がってきましたね。

源馬:僕は、アイテム自体はなじみがあるけど、ちょっと人と違うものをよく買うんですが、金子さんはそもそも「それ、何?」ってものを見つけてくる。

金子:多くの人が初めて見るような、日本では広まっていないものを紹介することはかなり意識しています。

源馬:僕も未だに見たことないものに出会えるのは嬉しいんですよね。

金子:そういう人達のためにもいろんな国に行くんです。他にもロサンゼルスでは田舎の海沿いでスニーカーを手作りしている職人を見つけたり、とにかく実際に現地での情報を稼ぐ。そうでないと、人を感動させられるものは見つけられません。

源馬:今はみんなが見たことないものを探すのは大変なんじゃないですか?

金子:実は今のほうが探しやすいんです。昔は僕みたいなバイヤーが何人かいたんですけど、減っちゃって。みんな同じところに買い付けに行くようになったのかもしれません。

源馬:ライバルがいなくなっちゃったんだ。

金子:「レショップ」を始めた6年前には、これはもう探し放題だぞと。今はネットで情報を拾えるから、現地に行くきっかけも作りやすいんです。あとは、例えばパリの展示会に行く時はアメリカに寄ったり、回り道しながら多角的な視点でバイイングしています。

「レショップ」が行うのは、物の紹介と服の魅力を再発見できるきっかけを作ること

源馬:金子さんはスタンダードをちゃんと知っているから、変わったものをバイイングしても説得力があるんですよね。以前、フォトグラファーと服のギミックはもの自体のクオリティーが高いからこそ活きるっていう話をしたんですけど、その考えと一緒。

金子:さっき話したエスパドリーユも、探せばゴロゴロ見つかるんですよ。でも1つひとつ実物を見ていくと、クオリティーの差がはっきりわかります。 

源馬:常識を知らないで非常識なことはできないですもんね。

金子:ただ、バイヤーとしては地道に見つけたものをファッションとして発信するのが良いと思うんですけど、僕はあくまでものの紹介をするだけでいいんです。そのアイテムをおもしろいと思った人が、自由にかっこよく着こなしてくれるのが楽しみ。「レショップ」では基本的にスタイリングの提案はしませんし、トルソーも、ものを紹介するツールと考えています。

源馬:自由に着てほしいということに関連して言えば、「レショップ」ではオリジナルアイテムも作っているじゃないですか。一般的にはSからLの3サイズのところを、超小さいものから大きいものまでを何サイズも展開していますよね。

金子:そうですね。リスキーだけど、どこかの誰かが喜んでくれると思うんです。

源馬:小柄な女性でもジャストからオーバーサイズまで自由に着られる。今では豊富なサイズ展開もややスタンダードになりつつありますけど、以前からそれをやっているのはビジネス的にも挑戦ですよね。ロスが出ることも考えちゃいそうですが。

金子:そういうサービスをしていかないと、店舗としても先があまりないんじゃないかと。

源馬:スタンダードなものをサイズ違いでそろえることで、急に新鮮に見えるのがおもしろいですよね。

金子:お店を通して、アイテムの魅力を再発見してほしいとも思っています。白シャツでも、身幅が広かったり着丈が短かったりすることで、古着でしか見つけられなかったサイズ感を新品でも見つけられるような、再発見のきっかけになる商品作りをしています。そのような仕掛けは常に考えています。

1990年代の人気アイテムを再解釈

源馬:今回、金子さんと1990年代のヴィンテージブームをテーマにしたアイテムを作りたいと思うんです。

金子:懐古主義ではなくて、今の空気を含ませて、当時を知らない人達にも魅力が伝わるものが作りたいですね。

源馬:現代的にアップデートしたものがいいですよね。

金子:僕が最初に服のめり込んだきっかけはヴィンテージで、世代的にも1990年代のブームど真ん中でした。今また、当時くらいの勢いでヴィンテージが好きになっているんですが、それだけだとモヤモヤすることもあって、新しく編集したようなものを作りたいですね。

源馬:僕もファッションの入り口は古着でしたね。今でも覚えているんですけど、ネオ・ロカビリーって音楽が日本に入ってきた時に、1950年代の古着もブームになって。そのあとにデザイナーズ・ブランドと出会ったから、「リーバイス」のヴィンテージデニムと「レッド・ウィング」のブーツに、「ドリス・ヴァン・ノッテン」を合わせたりしていました。

金子:僕もそういう時期ありました。アイテムの雰囲気が違いすぎるとなかなか取り入れられないけど、中にはヴィンテージデニムとかにも合うデザイナーズブランドがあった。懐かしい。その感覚、忘れていました。

源馬:ヴィンテージはサイズが小さいものも多いから、最近は着る機会が減ったけど、ヴィンテージ特有のロマンチックなディテールには今も魅了されます。あと、昔、古いデニムジャケットに自分で内ポケットをつけているおじさんを見たんですよ。しかもボロボロになったバッファローチェックシャツの生地で。ステッチが表に出たりして粗い作りなんですが、そのイレギュラーな感じが印象に残っているんです。たぶんその人は自分の生活に合わせて軽いノリだったと思うんですけど。

金子:パーソナルな小ネタって実はすごく大事なんですよね。僕はなで肩なので着る服のパターンをかなり気にするのですが、仕入れにも反映しているんですよ。でも、その個人的なことって意外と人に伝わるというかおもしろがってくれる。

源馬:パーソナルな小ネタ、良いですね。大きかったら良くないんですよ。

金子:ちょっと話がそれるんですけど、昔のファッション業界は若い世代が先陣を切って作るものなんだと考えていた節もあって。アパレル企業はバイヤーに若手を採用しますし。だから自分がこの年までバイヤーを続けているとは思っていなかったんですが、今は感性よりも経験や知識が役に立っています。

アパレルの仕事は、昔の洋服を知らないとつまらないんじゃないかと思うことも多くて。昔のものを知っていれば知っているほど、もの作りの背景を深く理解できるし、自分も経験をもとに年々ものをたくさん作れるようになっているんです。

源馬:世代によって服の作り方も変わりますもんね。

金子:今回、アイテムによってはそれに詳しい人とも一緒に作れればと思っています。デニムだったら、「ネクサスセブン」の今野(智弘)さんとか。やっぱり、本物を作らないと当時を知っている人も満足しないし、若い人にも良さを伝えられないと思うんです。

源馬:昔、DJハーヴィーがDJはエデュケーションが大事だと言っていて。要は、みんなが知っている曲だけじゃなく、「この曲何?」って思われるものもかけないといけない。未知のものも発信することが大事なんです。

金子:すごくいい話ですね。

源馬:服にもエデュケーションの要素があったほうが、知識欲も満たされると思うんです。もちろんやりすぎも良くないけど、少なくとも半分くらいはその要素があってもいいと思っています。

源馬大輔
1975年生まれ。1996年に渡英し、1997年ロンドンのブラウンズに入社、バイヤーとしてのキャリアをスタートさせる。 2002年帰国後、中目黒にセレクトショップ、ファミリーを立ち上げ、 WR/ファミリー エグゼクティブ・ディレクターに就任。2007年に独立し、源馬大輔事務所を設立。セリュックス(旧LVJグループの会員制クラブ)のブランディング・ディレクターなどを務め、現在は「サカイ」のクリエイティブ・ディレクションや香港の高級専門店レーン・クロフォードのバイイング・コンサルタントなどを行っている。経済産業省「ファッション政策懇談会」の委員も務める。

金子恵治
1973年生まれ。セレクトショップ「エディフィス」にてバイヤーを務めた後に独立。自身の活動を経て、2015 年に「レショップ」を立ち上げる。最近で「ETS.マテリオ」や「アウトドアプロダクツ」のフラッグシップストアを立ち上げ、その活躍は多岐にわたる。

Photography Kazuo Yoshida

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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