源馬大輔×長場雄対談 情報が詰まったミニマルなアートワークから、「TOKION」とのコラボの背景までを聞く

「TOKION」はMIYASHITA PARK内の「TOKiON the STORE」やECで、国内外のアーティストやクリエイターとタッグを組んだアイテムを展開している。本企画は、「TOKION」キュレーターの源馬大輔が“今”会いたい人と対談をしながら、プロダクト開発のきっかけを探る。

今回登場するのは、アーティストの長場雄。彼は自身が影響を受けたカルチャーをもとにしたアートワークや個展の開催をはじめ、「ユニクロ」や「コンバース」といったファッションブランド、ミュージシャンなどとのコラボレーションも行っている。昨年12月に開催した個展「The Last Supper」も大盛況のうちに幕を閉じた。

長場のアートワークは数本の線で描かれたシンプルな構成ながらもモチーフの特徴を正確に捉えており、そして笑顔からしかめっ面、どこか愛らしさのある真顔まで、さまざまな表情を見せてくれる。

今回の対談では、長場の制作への向き合い方やアートワークに込めた思い、そして「TOKION」とのコラボアイテムについて話を聞いた。

モチーフを的確に表す線を見つけるようにして描く

源馬大輔(以下、源馬):初めて長場さんにお会いしたのは、僕が2017年の東コレで「タカヒロミヤシタザソロイスト.」のショーを手伝った時ですね。長場さんが限定アイテムのグラフィックを描いていて。その前から作品は拝見していましたが、長場さんは自分にしかできない見方でモチーフを捉えているのが本当にすごいんですよ。そう思いませんか?(笑)

長場雄(以下、長場):たまに俯瞰して「自分はこういうふうに表現してたんだ」って思うこともありますね。

源馬:モチーフはもっと複雑なはずなのに、作品はたった数本の線で構成されていますよね。

長場:いかに線の数を減らしながら特徴を表現するかは常に課題にしてます。

源馬:モチーフを観察する時はどんなところを意識しているんですか?

長場:輪郭や全体のシルエットはよく見てますね。髪型や眉毛の角度とかもですし、この人は猫背だとか胸を張っているとか、姿勢は人となりを表しますから。もちろん輪郭だけに集中しているわけじゃないですが、モチーフを的確に表すのはどんな線なのかを見つけるように描いています。

源馬:長場さんの作品にはバイブスがあると思うんですよ。説明できないけど、何か伝わってくるもの。

長場:バイブスにつながっているかはわからないけど、モチーフから最初に受けた印象は薄れないうちに作品に落とし込むようにしています。理屈じゃなくて感覚的に表現しているというか。

源馬:興味深い。目は基本的に点で表現していますけど、それでいながら表情のバリエーションが広いですよね。

長場:目を点にすると無表情になりがちですけど、よくやるのが眉から鼻にかけてT字の線を入れて、それに合わせて目の高さを変えたり位置を寄せたりしています。そうすると印象が変わるんです。

線が少なくとも、観る人がいろんな情報をくみ取ってくれる作品を目指す

源馬:去年の個展にもたくさん人が集まっていて、長場さんの作品がいかに人を引きつけるかを再認識しました。例えばアートワークのモチーフを知らない人も夢中になれる。

長場:個展では自分が好きなミュージシャンや俳優みたいなカルチャーにまつわる人だけではなく、街中で見かけた一般の人達も描きました。有名無名問わず雰囲気のある人っているじゃないですか。最近はそういう人をすごく描きたくなるんです。

源馬:本人のセンスなんでしょうけど、絶妙なスタイリングをしている人っていますよね。描かれた人からしても名誉なことだと思います。前から聞きたかったんですが、長場さんはデッサンも得意なんですか?

長場:そんな上手いほうではないと思うんですけど……美術予備校に通っていた時はよく描いていましたが、他にもっと上手い人がいたので。独立前はいろんなスタイルをそつなくこなしていた感じですが、その時もキャラクターものが描きやすかったかもしれません。

今のスタイルは1〜2年くらい研究してできあがったんです。自分にしかできない、自然と内から出てくるようなものを表現したくて。そのために、まずは日常生活や身の回りのものを見直しながら必要なものを選別していきました。

源馬:確かに生活スペースのちょっとしたことも仕事に影響しますよね。例えば部屋にダンボール箱が2週間あるとするじゃないですか。それがなくなると急に開放感があってメンタルも変わりますもんね。

長場:目に入ってくるものが自分の中で積み重なっているんですよね。見たり聞いたりしたものから表現が生まれてくる。

源馬:クリエイションって意外と生活の延長線上にあったりしますもんね。それにアイデアが思いつかない時、掃除をしたり目線を変えたり実際に体を動かすと思考も変わるじゃないですか。どんなクリエイターもずっと机に向かっているわけじゃないですし。

長場:そうですね。それに無理して苦手なことをしないことも重要だと思います。前職では色を使ったアートワークを求められることも多かったんですがあまり得意ではなく、自分が本当にやりたいことは何かと考えた時に、思い切って苦手なものを全部切り捨てちゃおうと。だから、最初はシンプルな線だけで表現することも1つの挑戦だったんですよ。

源馬:線はミニマルなのに、伝わってくる情報量は多いんですよね。

長場:僕は好きなアーティストを聞かれたらドナルド・ジャッドを挙げることが多いんです。彼はミニマルと言われていて、作品は一見なんでもない箱なんだけど、僕が初めて彼の作品を見た時に何かすごく訴えかけてくるものを感じたんですよね。これはなんなんだ、と思って。作品を通して見るという行為を再定義してくれたんです。自分もそこに共感して、線が少ないからといって素っ気ない作品にするのではなく、観てくれる人がいろんな情報をくみ取って、視点も豊かになるきっかけなったら嬉しいです。

源馬:ジャッドはミニマリズムの代表格的な扱いだけど、箱とかが連続して並べられたり、サイズが変わったりするだけで違った印象になるじゃないですか。人間の脳みそってポンコツな時もあるけど、ミニマルなものが連続して並んでいる様子が美しいという考えは本当に素晴らしいと思うんです。

長場:この前、「エスパス ルイ・ヴィトン大阪」でカール・アンドレとジョアン・ミッチェルの展示を観たんですよ。木彫と抽象画の組み合わせももちろんですけど、アンドレの木彫が連続して並んでいるさまもすごく良くて。

源馬:ずっと観ちゃう、みたいな。

長場:観ていると吸い込まれるんですよね。しかも作品は木でできているから、ディテールも微妙に違ったりしていて。

源馬:僕はアーティストのちょっとした置き物とかを買う時は必ず3つとか5つとか奇数個にするんです。それをアンバランスに並べて見ると、良いねぇって思う(笑)。

長場:ちょっとした差を見つけるんですね。

源馬:長場さんはとんでもなく大きい作品とかは描かないんですか?

長場:去年の個展でも幅4メートルの作品は描きましたが、もっと大きいものもやりたいですね。

源馬:トーマス・ルフという写真家が、顔がアップになったポートレートを大きく引き伸ばした作品を制作しているんですけど、僕が初めてその作品を見た時にかなり衝撃を受けたんですよ。写っているのは全然知らない普通の人ですけど、その巨大なポートレートが複数枚並んでいるところも良くて、「これはやばい」と思ったんです。

長場:圧倒するものやりたいですね。それこそ、ビル丸々使って描くとか。

源馬:もちろん大きいものが良いというわけではないけど、それだけで1つの価値があると思うんです。巨大なパブリックアートとかもインパクトありますもんね。

生活の延長線上にあるクリエイション

源馬:今の生活もスタイルを模索していた時とあまり変わらないですか?

長場:そうですね。規則正しいですし、制作時間も決めています。

源馬:そういった中でも制作に集中できない日とかもありますか?

長場:ありますね。それにインプットする時間も減ってきちゃっているから……ちょっと行き詰まったら展覧会を回ったり、本屋に行ったりしています。SNSももちろんインプットの1つだけど、やっぱり実際に何かを見ることが大事なんですよね。

源馬:SNSでも発見はあるけれど、音楽でいえば自宅の見慣れたレコード棚をあさっている感じがしますね。やっぱり外に出ると、レコード屋みたいに新しいものに出会えるというか。

長場:そうそう。そういえば最近またレコードで音楽を聴くようになったんです。10年ぶりくらいにちゃんと環境を整えて。制作中もずっと音楽を流しています。パク・へジンやイェジのような最近のアーティストも好きですが、アナログでマッシヴ・アタックを聴き返したらやっぱりカッコいいと思いましたね。

源馬:良い環境でトリップ・ホップとかを聴くとその奥深さに気づきますよね。レコードってA面とB面で曲が止まるところも良いと思うんです。ずっと流れているんじゃなくて、いったん止まるからこそ音楽をちゃんと聴くマインドになるのかもしれません。昔の曲は展開も覚えているし。

長場:ストリーミングだとずっと音楽が流れていることもありますもんね。

源馬:そのせいか、曲名すらわかるかどうかあやしい(笑)。新しいこともインプットしつつ、自分の中にもともとある引き出しも開けていかないと精神衛生上良くないですもんね。

アートワークが“半立体”に

源馬:今回のコラボの話を最初にした時、作品を立体にするアイデアはおもしろくても、正直断られるかもしれないと思ってました。アーティストの意図しない提案になっていないかなって。

長場:ある日突然眼鏡が送られてきたんですよ(笑)。「ドローイングが立体になる」ということも、最初はどういうことなんだろう……って思って。

源馬:長場さんの作品は平面だからこその魅力もありますし、今回のような表現を許してもらえたのが嬉しかったです。

長場:話を聞くうちに立体までいかない、“半立体”の感じが良いなって思ったんですよね。あとはオブジェとして置きやすいものがいいとお話しはしましたね。

源馬:結果そうして良かったですね。眼鏡自体のクオリティーも高いし。長場さんの平面の作品に立体感が加わったことで、いつもとは違った鑑賞体験ができそうです。

長場:線も立体だから影とかも出ますもんね。

源馬:線がどのように描かれているかがよくわかるんです。普段作品を見ると、わりとサッと速い筆致で描かれているように思えるんだけど、実際は手描きだからどうしても線が揺れているわけじゃないですか。

長場:手描きの雰囲気は大切にしていますね。インクが紙ににじんでいく感じとかも好きで。線は速いスピードではなく、どちらかというとゆっくり描いているんです。それにパソコンで制作することもできるんだけど、手描きの感じは出ないから自分の中ではしっくりこなくて。

源馬:その手描きこそが作品のムードを生み出しているんでしょうね。今回は平面ではないけれど、かといって完全な立体でもない。絶妙な立ち位置のアートに仕上がったと思います。

長場雄
アーティスト。1976年東京都生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。アーティストとしての活動のほか、雑誌、書籍、広告、アパレルブランドとのコラボレーションなど様々な領域で活動。過去のワークスに、「ユニクロ」「アシックス」「G-SHOCK」「ビームス」とのコラボレーション、その他、マガジンハウス、「リモワ」、「テクニクス」、Spotify、ユニバーサルミュージック、モノクルなど国内外問わずさまざまなクライアントにアートワークを提供している。

源馬大輔
1975年生まれ。1996年に渡英し、1997年ロンドンのブラウンズに入社、バイヤーとしてのキャリアをスタートさせる。 2002年帰国後、中目黒にセレクトショップ、ファミリーを立ち上げ、 WR/ファミリー エグゼクティブ・ディレクターに就任。2007年に独立し、源馬大輔事務所を設立。セリュックス(旧LVJグループの会員制クラブ)のブランディング・ディレクターなどを務め、現在は「サカイ」のクリエイティブ・ディレクションや香港の高級専門店レーン・クロフォードのバイイング・コンサルタントなどを行っている。経済産業省「ファッション政策懇談会」の委員も務める。

Photography Kazuo Yoshida

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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