メイド服姿でハードロックを演奏する、そのギャップで世界中に多くのファンを持つ日本のバンド、BAND-MAID(バンドメイド)。ギター・ボーカル・作詞を担当する小鳩(こばと)ミクを中心に、ギター・作曲を担当するKANAMI、ドラムのAKANE、ベースのMISA、ボーカルSAIKIの5人編成。アメリカ、イギリス、ヨーロッパなどを中心に行うワールドツアーでは全公演ソールドアウトになるなど、世界中に活躍の場を広げている。9月にはNetflix映画『KATE』が公開され、さらに注目される存在となった。
インタビュー前編では「なぜBAND-MAIDが海外でこれほど支持されているのか」をテーマに、小鳩とSAIKIの2人に結成から今までのことを振り返りつつ、海外で知られるようになったきっかけ、海外でのライブ、また日本語歌詞へのこだわりを語ってもらった。
――BAND-MAIDは結成して9年目を迎えました。世界征服への道はまだ半ばだと思いますが、結成当初の自分達が今のバンドの状況を見たら「よくぞここまで行ったな!」と思うんじゃないですか?
小鳩ミク(以下、小鳩):実は結成から2年ぐらい経った頃、BAND-MAIDが終わる兆しがあったんですっぽ。でも、海外からの反応が救いになって続けることができたんですっぽ。あの頃の自分達が見たら、「よくぞここまで」というより「9年もやってるの!?」ってびっくりすると思いますっぽ。
SAIKI:これまであまり言ったことなかったですけど(笑)。
――それは知らなかった! 海外からの反応というのは「Thrill」のMVのことですか?
小鳩:そうですっぽ。あれがなかったら、あの作品を最後にバンドが終わる予定もありましたっぽ。
SAIKI:でも、私達がそのことを知ったのはそれよりも後のことで、「本当はあれが最後になる予定だったんだよ」「ええ~っ!?」って。
小鳩:ある日、社長から突然言われて、「そうだったんですかっぽ!?」って自分達も驚きでしたっぽ。
SAIKI:「よかったねぇ……」ってみんなで(笑)。だから、「Thrill」のおかげです。
――何があるかわからないものですねえ。今振り返ってみて、BAND-MAIDがウケた理由ってビジュアルの斬新さのほかに何があったと思いますか?
小鳩:やっぱり、楽曲とのギャップが大きかったと思いますっぽ。コメントでも「この子達が本当に弾いているのか!?」という内容が一番多かったっぽ。かわいい格好をした女の子が楽器を演奏しているというのが衝撃だったみたいで。それは今でも思いますっぽ。
――そう考えると、いい音楽をやっていても全く話題にならなかった可能性もあったわけで、完全に作戦勝ちだったんですね。
小鳩:メイドさんは海外だと日本文化として見られていて、それで気にしてくださる方が多かったので、映像だからこそ伝わったものなんだろうなと思いますっぽ。
――2010年代って感じですね。
SAIKI:映像がなかったら今の私達はないかなって思います。
――そのほかに海外の人から言われた言葉で印象的なものってありますか?
小鳩:「『Thrill』はアメリカン・ロックを感じさせる」とか、メンバーそれぞれに個性があって、その頃私がリッケンバッカーを使ってたということもあって「日本のビートルズだ!」とか(笑)。SHOW-YAさん以降、日本でハードロックをやっている女の子ってあまりいなかったので、「日本にもこういうロックバンドがいたんだ!」ってびっくりされることはありましたっぽ。
海外進出は結成の頃から目標だった
――今回の取材にあたって、5年前に他メディアで行ったインタビューを読み返したんですけど、今と比べて違和感がなかったんですよ。
SAIKI:へぇ~(笑)。
小鳩:変わってなかったですかっぽ?
――海外に行きたいとか、あの頃はまだ外部の作家が曲を書いていたので、「自分達で全曲を書けるようになりたい」とか。当時からビジョンが明確だったからなんでしょうね。
小鳩:ここまでのことは想像してなかったけど、海外に行きたいとは結成の頃から言っていたし、大きな目標が最初からありましたっぽね。
SAIKI:大きな目標以外に細かい目標も共有するためにみんなで話をしてみたら、やりたいこととかやりたい音楽のスタイルが5人とも一緒で、だから進めやすかったというのはありますね。バンドって1人でもヤバいメンバーがいたらヤバいじゃないですか(笑)。そういうことがBAND-MAIDにはなくて。
小鳩:確かに。
SAIKI:自分達で言うのもなんですけど、私達は全員「たまには遊べ!」と言われるぐらい真面目すぎるところとか、ブレたくないっていうプライドの高さがあるからそれがよかったのかなと思います。
――BAND-MAIDがハードロック路線を選択するきっかけになったのが、「Thrill」のMVを紹介してくれたJrock Radioだったんですよね。
小鳩:そうですっぽね!
SAIKI:本当にびっくりした(笑)。
小鳩:びっくりしたっぽ! SNSのフォロワーが海外から急に増えて、「みんな、アカウント乗っ取られたか!?」っていう話をしてたら、Jrock RadioさんがきっかけだったっていうのをKANAMIが見つけてくれたんだっぽね。
SAIKI:そう。
小鳩:「よかったー、乗っ取りじゃなくてー」って。それぐらい意外でしたっぽ。
――事前に先方から連絡があったわけじゃなくて、勝手に紹介していたんですね。
SAIKI:一応、メールはくれていたらしいんですけど、英語だったし、よくないメールかと思って当時のマネージャーもそのままやり過ごしていたらしくて。
小鳩:当時はこっちから海外へは何もアプローチしてなかったから、まさか海外からメールが来るなんて思わないじゃないですかっぽ。
SAIKI:どうやって見つけてくれたんだろうね? 一度、聞いたことあったけど忘れちゃったね(笑)。
小鳩:ねえ。
初の海外単独ライブだったメキシコ
――それをきっかけに海外でライブをするようになったわけですけど、みなさんは海外でどうやってライブをするのかほとんど知識がなかったわけですよね。どうしていたんですか?
SAIKI:最初は海外に行くための買い出しが大変で。向こうには何があって、こっちから何を持っていったらいいのか全然わからない。
小鳩:でも、ありがたいことに海外での初めてお給仕(ライブ)が大きなイベント(2016年3月にアメリカ・シアトルで行われた「Sakura-Con」)で、あちらがある程度必要なものを用意してくださったのでそれはよかったですっぽ。それでもあとで「あれが必要だったね」という話になったので、次に活かせましたっぽ。
SAIKI:あと、いまだに課題ではあるんですけど、荷物の重量!
小鳩:毎回空港で時間取られるっぽね。
SAIKI:はじめの頃は空港のチェックインに6時間ぐらいかかっていたんですよ。
――ええっ!? それは初めて海外で単独お給仕を行った2016年の話ですか?
小鳩:そうですっぽ。メキシコの単独の時が大変でしたっぽ。「機材はここに詰め込んで……でも洋服が入らない!」とか。その頃はキャリーバッグもそんなに大きくなかったので、ひぃひぃ言ってたっぽ。手持ちのバッグを大きいものにしたり。
――それにしても、初めての海外の単独ライブがメキシコというのもすごいですよね。
小鳩:「メキシコでお給仕が決まりました」って急に言われて、「え、メキシコ!?」って。でも、その頃海外だとアメリカよりもメキシコのほうがファンの方が多かったんですっぽ。Jrock radioで盛り上がったあと、メキシコの方からのメッセージが増えて、メキシコのプロモーターの方が私達のことをすごく好きになってくださって、「今、メキシコでファンが増えてるから、ぜひ来てほしい!」って言ってくださったんですっぽ。でも、最初に行く国がメキシコだなんて思ってもいなかったし、会場も1000人キャパって言われて。その頃は日本でもそんな大きい会場でやったことなかったんですっぽ。だから、「(ご主人様お嬢様<ファン>が)前列しかいなかったらどうする?」って言ってたんですっぽ。でも実際はパンパンだったからめちゃめちゃびっくりしましたっぽ!
SAIKI:ウェルカム状態ですっごく盛り上げてくれたからやりやすかったよね。
小鳩:何やっても盛り上がったっぽね。
SAIKI:日本じゃなかなか見られない盛り上がりだったので、いい意味で日本とのギャップを感じましたね。
――普通は日本で自信をつけてから「よし、海外に行くぞ!」って感じですけど、BAND-MAIDは海外で自信をつけて帰ってきたんですね(笑)。
SAIKI:海外での経験のおかげで心も強くなって、日本でのツアー中にトラブルが起こっても、「あれに比べれば平気っしょ」って。「リハができるだけマシです! ありがとうございます!」みたいな(笑)。
小鳩:「日本語が通じるっぽ!」みたいなことでも喜べましたっぽ。
SAIKI:海外ツアー直前のリハは、「よし! やってやんぜ!」みたいな感じでしたね(笑)。
小鳩:気合いが違ったっぽね。現地でリハができないことを想定して準備したり。海外でのトラブルなんて挙げだしたらキリがないっぽね。
SAIKI:でも、2019年に行った海外ツアーはよかったね。
小鳩:よかったっぽね!
SAIKI:あれは初成功でしたね、細かいトラブルは多かったけど、アンプが燃えたりとか。
小鳩:そうそうそう、アンプが燃えたっぽ。煙臭いなと思ったら燃えてたっぽ。
SAIKI:アメリカのダラスでしたね。でも、それぐらいでしたね。
――皆さんにとってはアンプが燃えるなんてささいなことなんですね。
小鳩:ささいなことになっちゃいましたっぽね!
海外を意識した曲作りと日本語歌詞へのこだわり
――海外ツアーへ行くようになったことで、海外を意識した曲作りをするようになったりしたんですか?
小鳩:なりましたっぽ! 海外にはコールアンドレスポンスをしてくださる方がとても多いので、シンガロング多めの曲を増やそうってなりましたし、歌詞も部分部分でなるべく簡単にして、日本語がわからなくても歌えるパートを足したりするようになりましたっぽ。
――でも、日本語で歌うことは変えなかったんですね。
小鳩:そうですっぽね。むしろ、「日本語がいい」って言ってくださる海外の方が多いんですっぽ。BAND-MAIDの歌詞で日本語を勉強したり、漢字の意味を聞いてきてくださる方が多かったので、「日本語は大事にしていきたいね」ってなりましたっぽ。
――昔は海外進出を目指すなら英語の歌詞じゃないと、という風潮がありましたよね。
小鳩:最初から意識せずに日本語でしたっぽ。
SAIKI:やっぱり、日本人なので日本語で歌うほうがニュアンスを伝えやすいし、本来伝えたいことに近い表現になるじゃないですか。歌詞の捉え方は自由ですけど意図していない形では伝わってほしくないので、そういうリスクを避けるために日本語を選んでいるのはあると思います。
――日本語のほうが気持ちも乗せやすいですもんね。
SAIKI:そうですね。生で聴いてもらうほうがイントネーションとかを通じて日本語の奥深さも伝わるし。なので、英語で伝えたいところは英語で歌うし、日本語で伝えたいところは日本語で歌う。そうやって表現の自由度を高めたかったというのもあります。
――英語である必然性があるから英語で歌ってる。
小鳩:そうですっぽね。この部分は英語でいきたいね、とか。
SAIKI:英語と日本語でそれぞれのイントネーションがあるじゃないですか。KANAMIがあげてきたメロを聴いて、そのときに浮かんだ言葉が英語ぽかったか、日本語ぽかったかで決めるほうがより耳が気持ちよくなると思うので。ただでさえBAND-MAIDの曲はカロリーが高いというか、言葉が細かくて音数も多いので、よりすんなり聴いてもらえるような歌詞になるように努めていますね。
後編へ続く