これまで東京初期衝動みたいなガールズバンドはいなかった。パンクロックで大暴れしたかと思えば、フォーク/歌謡曲に通じるセンチメンタルなバラードもかき鳴らし、Jポップ的なキャッチーなメロディでも聴く者を骨抜きにする。バラエティ豊かな曲調をそろえつつも、それらをすべて純度の高い精神性で鳴らす様がほれぼれするほどかっこよくも新鮮だ。ひさびさに日本のロックシーンに火をつけるガールズバンドと言っていい。
これからがますます楽しみな東京初期衝動に、自分達の音楽的原点でもある銀杏BOYZの魅力、また昨年コロナ禍の中で行った全国ツアー(その最中にメンバー脱退を発表)、そして、新4人体制で初となる3rd ED『Second Kill Virgin』の中身について、メンバー全員に話を聞いた。
最初は峯田和伸が誰か知らなかったんですけど、みんなが叫んでいるから、この人が峯田なんだ!って
――もともと銀杏BOYZが好きで結成されたそうですが、しーなさんは実際にライヴも観に行かれてるんですよね?
しーな:そうですね。きっかけは友達に連れられて、新木場に観に行ったんですが、それからライヴはめちゃくちゃ行ってました。最初は峯田和伸が誰か知らなかったんですけど、みんなが叫んでいるから、この人が峯田なんだ!って認識しました。
――(笑)。銀杏BOYZのどこに一番引かれます?
しーな:詞ですね。メロディも良いけど、情景が浮かぶじゃないですか。
――好きな曲を挙げるなら?
しーな:なんだろう。「ぽあだむ」「漂流教室」「夢で逢えたら」とかですかね。でも初めて聴いた曲は「あの娘は綾波レイが好き」でした。最初はうるさい音楽だなと思ったけど、この音楽をわかる人になりたいなって感じました。熱狂的にコアなファンがいたから、そこに中二病の私は引かれたんです。
――希さんは高校生の頃に銀杏BOYZに出会ったそうですね。
希:はやってましたからね。人生楽しい! って人に向けた音楽じゃないところが好きですね。学校生活で主張できない、私みたいな人に向けた音楽だなと。
――なおさんはそこは通ってないんですよね?
なお:はい……。
しーな:なおさんは全然通ってないですよ。
――あさかさんは?
あさか:東京初期衝動に入る前に「銀杏BOYZを聴いておいてよ」と言われて聴きました。自分はパンク系も好きなので、聴きやすいなと思いました。
――それで東京初期衝動の始まりは、GOING STEADY /銀杏BOYZの「BABY BABY」のコピーから始まったんですよね?
しーな:そうです。すごくつまんなかったよね?
希:というか、完成できなかったよね。
しーな:Gコードさえも押さえられなくて、初ライヴはエアギターでやりました(笑)。でも楽しかったですよ。腕にうんことか落書きをして出たのは黒歴史ですけど。
希:めちゃくちゃお酒飲んじゃったんだよね?
しーな:うん。初ライヴの時はまだドラムは男性で、ウチらは女子のノリが好きだから、女子にしたくて。それで、なおちゃんを見つけて、強引に入れました。
――なおさんは何回目のライヴでたたいたんですか?
しーな:確か3回目のライヴで客は2人ぐらいしかなかったかな。
なお:全然覚えてない……。
しーな:彼女はアルコールで記憶が抹消されているんです(笑)。
希:終わったあとも小さいやつを飲まされて……。
しーな:それ、テキーラって言うんだよ。
きれいな詞も並べたいし、ポップな曲もやりたい
――銀杏BOYZの「あの娘は綾波レイが好き」みたいな曲を作ろうと思って生まれた初のオリジナル曲が「兆楽」だと聞いています。
しーな:そうです! あの感じの曲を作ろうと思ったら、「今すぐやりたい」みたいな歌詞が浮かんで来て。
――いきなり振り切った歌詞ですよね。
希:そっち方面でやりたかったんだよね?
しーな:最初は赤痢みたいな毒々しいことをやりたかったけど、だんだんしんどくなったんです。普通にきれいな詞も並べたいし、ポップな曲もやりたいなと。年に1回はバカみたいな曲も作りたくなりますけど。「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」「高円寺ブス集合」、今回の「さまらぶ❤︎」はそうですね。
――「兆楽」はメンバー内でワイワイ言いながら作った感じですか?
しーな:そうですね、フザケて作りました。
――銀杏BOYZを通ってないなおさんは、このような曲は嫌だとはなりませんでした?
なお:いや全然(笑)。私はバンドをやりたかったから。正直、音楽はなんでもよくて入りましたからね。
――「もっこり」というコーラスも「私やりたくない!」とか不満もなく?
なお:それもないです(笑)。
しーな:そのコーラスに関しては、あさかが一番戸惑っていた気がする。「ほんまに?」って(笑)。
――ああ、ライヴで披露する際にですね。
あさか:「もっこり」、「今すぐやりたい」とか言ったことがないから。
全員:(爆笑)。
――2019年の12月に東京で行われたライヴは、ソールドアウトするほどのすさまじい熱狂でした。2018年4月結成なので、まだ1年ほどのタイミングでとても驚きました。あのライヴを振り返っていかがですか?
しーな:あの頃まではまだ楽しかったです。
――えっ(笑)?
しーな:そのライヴの1週間後ぐらいにメンバーに辞めると言われたので、あの時期までは楽しかったんですよ。
コロナにかかったらしょうがないというか、かかるのはどこにいたってかかる
――そして、バンドとしては昨年コロナ禍にもかかわらず全国ツアーを敢行しました。あの時期にツアーを回ったバンドはほぼいなかったと思うんですが。
しーな:そうですね。メンバーの脱退が決まっていたし、早く切り替えたい気持ちもあり……。コロナにかかったらしょうがないというか、かかるのはどこにいたってかかりますからね。
――その全国ツアーはどんな気持ちで回りました?
しーな:ウチらは変わっていないけど、お客さんは緊張していたんじゃないですかね。かかりたくないだろうし、覚悟して来ているのはステージからも伝わりました。
――僕は名古屋で行われた今池ハックフィン(2020年7月19日)でのライヴを観ましたが、フロアの雰囲気は通常とはかけ離れたムードだったので、バンド側はどんな気持ちで挑んでいたのかなと。
しーな:拳を上げることしかできないけど、内心はめっちゃ盛り上がっているみたいな。お互いにそういう気持ちだよね? という思いでやりました。
――希さんはどうでした?
希:実は北海道でのライヴ前日に脱退発表をして、ホテルでみんな泣き出しちゃったんです。で、次の日のライヴの「中央線」の「さよならは言わない」の歌詞でしーちゃん(=しーな)が泣き出して、自分もつられて泣いて、なおちゃんも泣いていた気がする。
なお:泣いた。
しーな:ずっと前に決まっていた脱退をこの時まで言えなくて、ウチらも緊張感があったんです。脱退発表したら、誰か責められる人がいるんじゃないかって。北海道のライヴは一番つらかったですね。私、ロープを持参したんですよ。
――なぜロープを!?
しーな:脱退発表後に誰かに何かを言われて、Twitterで暴走しないようにウチを縛ってくれ! って。なので実際、しばらくホテルで縛られてました。
――(笑)。なおさんはいかがですか?
なお:私も北海道のライヴは心に残っています。悲しかったけど、めっちゃお酒飲んで大騒ぎしました(笑)。
――ツアーファイナルの恵比寿リキッドルーム(2020年8月16日)の感想は?
希:これでこのメンバーでの活動は終わっちゃうなと思いました。
しーな:次に入ってくるメンバーの楽しみもあったけど、すごく悲しかったかな。
希:めちゃくちゃ泣いた。DVD(初の映像作品『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』)観れないもん。
しーな:ね? めちゃくちゃ泣いた。
――あのライヴで聴いた「SWEET MELODY」は1つのハイライトで、しーなさんはかほさん(前メンバー)のほうを向いて演奏する場面もありましたね。
しーな:あれは浸っちゃってたよね?
希:かわいそうな自分みたいな(笑)。
しーな:あの時は会場どうこうより、かほに向けて歌ってました。
――現場では気付かなかったんですが、DVDを観ると、しーなさんはライヴ後にステージ袖で号泣してましたね。
しーな:私はプレッシャーに弱くて。リキッドルームが終わるまで……。現在もそうなんですけど、辞めるからには頑張らなきゃいけないなと。なのでリキッドルームは自分の中では大きな山でした。もっと優しくしていれば辞めなかったのかなとか……、すごくいろんなことを考えたので、しんどかったです。
――なおさんは?
なお:かほちゃんがいなくなる喪失感はすごくありました。
しーな:リズム隊だしね。
――そして、あさかさんは一般公募で加入したんですよね?
しーな:そうですね。インスタグラムのベース募集にいいね!を押してきて、この子ベースやっているんだなと。かわいいし、性格良さそうだし、明るそうでいいなと。こっちから「応募しませんか?」とDMしたら、「応募するところでした」と返事が来たので、運命を感じました。
――初めてスタジオで合わせた時はどうでした?
しーな:良かったですよ! めっちゃ緊張してカチコチだったから、それもかわいいなって。しかも全曲ベース弾けたんですよ! 1週間前に言っただけなのに。
あさか:めっちゃ練習しましたよ。1日3、4曲覚えるスケジュールを立てるほどに。
――ライヴを観ていて、あさかさんはコーラスもできるので、そこも大きな武器ですよね。
しーな:ぶっちゃけ、そこまで望んでいなかったけど、あさかがちゃんとできたから。
あさか:「さまらぶ❤︎」はほんまにテンション上げなきゃいけなくて、最初は全然歌えなかったんです。
しーな:ウチに怒られてね。
あさか:殻を破るところから始めました(笑)。歌ヘタやけど、自分らしさを出すことが大事やなと。
――前作『LOVE&POP』を経て、今作『Second Kill Virgin』はいろんな意味で振り切れたサウンドになりました。今はバンドの状態が良いんだろうなと思いますが。
しーな:そうですね。前作は暗いですもんね。
――暗いというか、張り詰めた緊張感は感じました。
しーな:ブチ切れながらレコーディングしてましたもん。メンバーを来させない日もあって……。コーラス含めて全部1人でやりました。「東京初期衝動」はみんなが歌ってくれましたけどね。
なお:私なりに暗くならないように頑張ったんですけど……気は使ってました。
しーな:かわいそう(笑)!
――前作は前作で素晴らしい内容でした。
しーな:ほんとですか? ありがとうございます。今回は楽しい感じでやれましたよ。今はメンバーの仲もいいから。
希:前作とは全然違いますね。
夢はいつか夏に日比谷野音でライヴをやりたい
――今作『Second Kill Virgin』の最初のイメージというと?
しーな:アゲアゲで行こうかなと。『LOVE&POP』が全然ラブ&ポップじゃなかったから、次こそはラブ&ポップにしようと。あと、あさかが入って、雰囲気も良くなったので元気で前向きな曲を作ろうと。『SWEET 17 MONSTERS』(1stアルバム)を作っていた頃の制作意欲まで上がりました。
――「さまらぶ❤︎」は陽キャ全開ですもんね!
しーな:そうですね。去年は全国ツアーを回ったけど、他は何もできなくて。自粛中でしたけど、山とか海とか自然に触れて、陽キャ的な部分が上がったのかもしれない。
――「さまらぶ❤︎」の次の「blue moon」がまた対照的で、同じ夏をテーマにした曲とは思えない切ない曲調ですけど、今作の中で一番好きな曲です。
しーな:私も好きです! 夏の夜はバラードを聴きたくなるじゃないですか。
――なるほど。この曲はメロディがとても良くて。切ないけど、胸がキュンキュンします。
しーな:ははは(笑)。曲でキュンキュンさせたいんですよね。
なお:今までと違う感じでリムショットを入れたりして、楽しかったですね。
――「愛のむきだし」もベース始まりでしたけど、この曲もベース始まりであさかさん加入を印象付けるイントロだなと。
しーな:そうそう! せっかくあさかが入ったから、ベース始まりの曲を作りたくて。いわばウエルカムソングです(笑)。
――ラストの「春」はどうですか?
しーな:『LOVE&POP』を出す時に「春」を作って、1年ぐらい放置していたんですよ。最初、あさかに聴かせた時に「歌詞が暗過ぎるので、変えたほうがいいです」と言われて。それでレコーディング2日前に歌詞を変えました。
――そんなに暗い歌詞だったんですか?
あさか:もう心配になるくらい(笑)。自分が入る前の東京初期衝動は詳しく知らなかったけど、歌詞を見ただけでこんなにつらい思いをしたんやなと。ここで区切って明るくいったほうが聴いている側もいいのかなと。それで変えてもらいました。
――新メンバーの意見も素直に聞き入れるんですね。
しーな:自分の嫌いな人に言われたら、「はっ、お前ふざけんなよ?」となるけど、好きなメンバーに言われたら、OK! OK! ってなります。
希:「春」のAメロはめっちゃ好きですね。メロディもレコーディング時に変えて、そっちのほうが元気そうでいいなと。しーな節が発揮されているから。
あさか:希ちゃんのギターがすごく良くて。間奏とアウトロはほんとに良くて、泣いちゃうくらい感動するギターです。
――東京初期衝動は毎回ライヴもすごくて引きつけられるんですけど、このバンドの一番の魅力はメロディ、楽曲の良さだと思っているんです。音楽的にはどんな影響が強く出ていると思います?
しーな:最近のYOASOBIとかも聴くけど、歌謡曲とか昔の音楽ばかり聴いているかもしれない。何十年も聴かれるような、それこそ教科書に載るような音楽が好きですね。
――ライヴのクロージングSEも森田童子の「ぼくたちの失敗」を使ってますもんね。
しーな:日本人はエモい音楽が好きじゃないですか。森田童子もそうですけど、チャットモンチーの「染まるよ」、桑田佳祐の「白い恋人達」、(忌野)清志郎さんの「スローバラード」とか。私はバラードが好きなのかもしれない(笑)。でも作りやすいのはロックです。バラードは実体験とか、ほんとに自分の気持ちが入らないと書けないので。
――では、東京初期衝動としての今後の夢というと?
しーな:いつか夏に日比谷野音でライヴをやりたいです。希ちゃんが野音野音と言っていたから。じゃあ、ウチも日比谷でワンマンやりたいなと。
希:THE BLUE HEARTSの野音の映像とかめちゃくちゃ良かったから。
――なおさんは?
なお:音楽だけで食えるようになりたいです。あと、自分の好きなアーティストと同じフェスに出たいですね、UVERworldとか。
あさか:今話を聞いてて、私は大阪に住んでいたから、東京は日比谷、大阪は大阪城野外音楽堂でやりたい! という夢が今できました(笑)。
――最終的に目指すバンド像みたいなものはあります?
しーな:あまり先のことは考えたくないけど、ガールズバンドって長年やっている人があまりいないじゃないですか。なぜかみんな若いうちに辞めていく。なので東京初期衝動というブランドを確立させたいですね。年相応の見た目と音楽でバンドをずっとやっていきたいです! 美しく、たくましく、どこまでも。