世界も注目する「millna / 見るな」 活動の根底にある“本来の自分に近づく”という「回復願望」とは

2012年から「millna / 見るな」名義でファッション&アクセサリーデザイナーとして活動をスタート。その“闇な”作風がSNSでバズり、「ヴィレッジヴァンガード」とのコラボを実現。一方で、ドールファッションモデル「橋本ルル」のプロデュースや自身でも「Doll GAL millna」として活動し、国内だけでなく世界からも注目される存在となる。今年9月には東京・高円寺に実店舗「カワイイカルト」をオープンするなど、新たな挑戦を続けている。

今回、実店舗「カワイイカルト」のオープンを機に、改めて「millna / 見るな」として活動をスタートした経緯から、ドールの活動、そしてそこに潜む「回復願望」について話を聞いた。

——幅広く活動するmillnaさんですが現在の肩書きは?

millna:今はファッションデザイナーですかね。他にもアーティストって名乗ったり、ファッションクリエイターって名乗ったり、人形作家って名乗ったり、いろいろですね。でも今やっていることはファッションデザイナーっていうのが一番合っていると思います。

——「millna / 見るな」って名前が印象的なのですが、名前の由来はどこから来ているんですか?

millna:名前に関しては、結構軽いノリで決めたんですよ。当時、「つらいちゃん」とか「しんどいちゃん」とか、「闇な言葉」+ちゃんづけの名前が流行っていて、私の場合は容姿にすごくコンプレックスがあったので、それだったら、「見るなちゃん」かなって。見るなちゃんって名前で活動し始めたのが、高校3年生頃ですね。

——最初からファッションデザイナーを目指していたんですか?

millna:ファッションはずっと好きだったんですけど、最初の頃は「こういう服があったらいいのに」って思う服をイラストで描くぐらいでしたね。そのイラストをSNSにアップしていたら徐々に反応が増えてきて、「これはいけるかも」と思って、大学では服飾学科に進学したんです。大学1〜2年生の時からバイトで貯めたお金で縫製工場に発注して、自分で服を作るようになりました。

それと並行して、ハンドメイドアクセサリーも作っていたんですが、それが突然SNSでバズって。ハンドメイドイベントはもちろん、ライブやクラブ、街でも着けてる方をよく見かけるくらいの状況になったんです。それで「ヴィレッジヴァンガード」さん達に声をかけていただき、全国18店舗に作品を置いてもらったり、コラボもさせてもらったりしました。

——そんなに売れたんですね。当時バズった要因はなんだったんですか?

millna:「カミソリレターブレスレット」っていう、ハートの中に血のようなマーブルとカッターが入ったアイテムがすごく人気でした。当時は表現として、“病んだ”という言葉は苦手ですが、そういう、自分の中の闇の部分を作品に反映していて、それが共感されたんだと思います。若い子が自分のつらい内心をSNSでなら吐露できる、まだそういう時代でもありましたから。

あと、当時サブカルやハンドメイド自体が特に流行っていて、運も良かったのかもしれません。ほんとその時のハンドメイド界隈の熱量って、今も勢いあると思いますが、当時ってちょっともう想像つかないくらいすごかったんですよ。私はコネもお金も無い普通の女の子だったけど、インターネットで本当に作りたいものを作ったら、それが売れて、本当に多くの人に届けることができた。夢しかないですよね。

——最初にアクセサリーがバズって、その後の活動は?

millna:アクセサリーと並行して、服にも人気が出てきました。当時はブランド名を付けてなかったんですけど、作っているうちに必要なんだって気づいて(笑)。そこで、2016年に「hakuchum tokyo」と付けてちゃんとブランドとしてやっていこうと思って、試しにリリースを出したりして。一応それもあってブランドとして信用してもらえたみたいで、ラフォーレ原宿で2週間の期間限定ショップを出したり、どんどん評価がされていきました

期間限定のショップを出したのが、大学4年生、22歳の頃で、当時から暮らしていける収入にはなっていたんです。でも、就活しない選択肢がなかったので、一応やったんですけど、嫌な思い出しかなくて。こんなひどい目にあうなら自分でやっていこうと思って、就職はせず、フリーランスとしてやっていこうと決めました。

——親に止められたりはしませんでしたか?

millna:止められましたね。やっぱり親としては本当にそれで暮らしてしていけるのか不安だったと思います。だから、当時はちゃんと貯金があったので、預金通帳を見せて(笑)。それで納得してもらいました。

「選べなかった身体をデコって自分にしていく」

——それでデザイナー業と並行してドールプロデュースのほうもやっていくことになりますね。

millna:「hakuchum tokyo」の立ち上げと同じ頃に橋本ルルっていうドールファッションモデルのプロデュースも始めました。世界的に珍しい存在だったので、日本だけでなく海外のメディアからの取材もたくさんあり、ドールの活動がすごく注目されるようになりました。海外向けの仕事も増えてきて、その辺からドールの活動がメインになってきましたね。もともと人形が好きだったので、絶対にかわいくできる自信はあったんですが、こんなに全世界から注目されるとは思ってなかったので、ビックリしました。

——その後、プロデュースから自身が仮面を被って、「Doll GAL(ドールギャル) millna 」として活動します。

millna:私が橋本ルルをプロデュースしたのは、「どう生まれても、どのようにでも生きられる」と伝えたかったのもあるんですが、他人がドールになるっていうのはそのコンセプトとズレるし、あとシンプルに私がしゃべれたほうが楽しいなと思って。それで2018年頃から自分でドールの仮面を被って「Doll GAL millna」として活動を始めました。「選べなかった身体、デコって自分にしてこ」というコンセプトで。でも、最近は仮面を被るのはもういいかなっていう思いもあって、ドールの活動は一旦終了しました。

——ドール活動の根底には自身へのコンプレックスみたいなものがあったんですか?

millna:コンプレックスというか、今の自分が嫌いなんではなくて、「こうじゃなくてもっとこうでしょ」みたいにもっと理想に近づきたかったんですよね。ネガティブな感じではなく、もっとポジティブな感じです。

——子どもの頃からその思いはあった?

millna:なれるなら理想の自分のなりたいって思いはずっとあったかもしれないですね。そういった思いもあって、中学生の頃にはギャルメイクをするようになって。

——ギャルっていうと、『egg』とかですか?

millna:『egg』は通ってなくて、『小悪魔ageha』なんですよね。でも、本物のギャルの人に「『小悪魔ageha』はギャルじゃないよ」って言われたりもしたんですが、私の中ではギャルだったんです。中高生くらいの時に『小悪魔ageha』が流行って、当時はメイクを教えてくれる雑誌があまりなかったので、『小悪魔ageha』のドールメイクのハウツーを読んで勉強していました。

——でも、今の雰囲気って、“カワイイ”とか少しロリータっぽい雰囲気がありますが、それと『小悪魔ageha』って個人的にはあまり繋がらないんですが。

millna:『小悪魔ageha』における最上級の褒め言葉が「ドール」だったんですよ。「ドールフェイス」とか。ギャルの人と話していて、『小悪魔ageha』って極めてドールなんですよね。特に「姫ギャル」ってロリータに近い感じで。だから私の中ではギャルもロリータも繋がっていて、どちらも過剰にかわいさを追求するような、そんなイメージです。

変身願望ではなく、回復願望

——最近は自身の素顔を出して、活動することが増えましたが、どういった心境の変化があったんですか?

millna:このタイミングで公表しちゃってもいいかもしれませんが、23歳頃に整形したんですよ。整形した当初は自分の中でまだ納得できない部分はあったんですけど、徐々に慣れていって。それで一番コンプレックスだった部分がなくなって。

私の中で整形は、おまじないみたいなもので、顔が変わったことがそんなに重要ではなく、「私は整形をしたからもうカワイイ」って思えることが重要で。だから、もう顔を出してもいいかなって意識が変化したんです。顔出しをしたことで、「なんで顔出ししたの」って言われるんですが、私は出すことに抵抗はなくて、むしろ隠しているほうが不自然なんじゃないですかって思います。

——YouTubeでも整形について語っていた回もよく見られていましたね。

millna:ネット上での整形の取り扱われ方は少し病的だなと思っていて。整形しないとお前はかわいくないんだとか、ずっと整形し続けないといけないみたいな、そういう文脈で整形を肯定したくはなくて。私が整形を公表することで、そういう世界にファンの人を招き入れてしまうのは嫌だなと思って。最近はそういうのよりは、もう少しポジティブな文脈で整形が扱われるようになってきた気はしますね。でも、ちゃんとしたところで、しっかりと考えてやったほうがいいと思います。私もものすごく調べてやりましたからね。

——ピンク肌ギャルみたいなこともやられていました。

millna:ピンクは小学生の頃からずっと好きだったんですけど、「私はかわいくないから、かわいいものを持ったらダメだ」と勝手に思っていて。子どもの頃にピンクとかフリフリしていたのを着れなかったんです。だからその反動もあると思いますが、服が全身ピンクとかだけだと、私のピンクへの愛が表現できないんです(笑)。だから、肌もピンクにして、ピンク愛を表現したっていう感じです。

——肌までピンクにするのは大変そうですね。

millna:大変ですね。ピンクのドーランが舞台用の化粧品なんかを扱う「三善」というところで売っていて、それを使っています。でも服にもつくし、今はコロナでマスクしないといけないから、やってないですね。

——前に別のインタビューでも答えていましたが、ドールになったりするのは変身願望ではないと?

millna:そうですね。「回復願望」って言っています。あるはずだった自分に戻っていく感覚。先ほど選べなかった身体と言いましたけど、もともと生まれ持った身体が自分のものだと思っていなくて。あたかも私のような身体ではあるけど、嘘の身体という気がしているんです。だから、全身ピンクにしたり、ドールになったりするのは、本来あるはずだった自分を戻していく。そんな感覚なんです。

——そういう願望って今なら、加工アプリやバーチャルな方向にいく人もいると思うんですが? 

millna:一度バーチャルユーチュバーをやったんですけど、やっぱり現実世界で存在したいと思ってやめましたね。なんかバーチャルの世界における身体を自分の体と思えなくて、ハマれなかったです。だから当分はフィジカルでいくかな。それが私の根っこの部分だと思うので。

——YouTubeも人気ですが、どういった目的でやっているんですか?

millna:みんなと友達みたいに話したいっていう思いで始めて、好きな格好だったり、好きなことができるのが今はYouTubeかなと思っています。

——YouTubeでの発言も人気ですが、そこまで寄り添っているという感じではなくて、一貫して「私は私」「あなたはあなた」みたいな感じですよね。

millna:そうですね。ありがたいことに私を慕ってくれる人もいるんですが、私の言うことが絶対だとは思ってほしくなくて。自分で考えて、自分で好きにやってほしいなと思います。

「カワイイカルト」はイベントのように人が集まれる場所

——クラウドファンディングなども活用しつつ、9月に実店舗「カワイイカルト」を高円寺に出店しましたが、このタイミングで出した理由は?

millna:実店舗に関しては、もともとやりたいと思っていたんですが、自信がなくて。でも、今年5月に知人に誘われて、一度共同で実店舗の立ち上げの準備をして。結局、そのお店はオープンできなかったんですけど、そこで自分でもやれるなって感触を得て。それで好きだった高円寺で物件を探して、オープンすることにしました。

——お店のアイテムは?

millna:今のところ古着と私のオリジナルとで構成しています。基本的には自分のオリジナル製品の販売をメインに考えていて、今後はもっとオリジナルの商品を増やしていく予定です。

——店名の「カワイイカルト」はどこから名付けたんですか? 

millna:もともと「カワイイカルト」っていうイベントを 2018年頃からやっていて、いつか自分でお店やるならこの名前にしようっていうのは決めてました。イベントのように人が集まれる場所になったらいいなと思ってはいるんですが、私のことを知らない人にも来てほしいですね。

——最後に今後について。これからの人生設計って考えたりしますか?

millna:考えなくもないですが、その時はその時でどうにかなっているだろうと。非常に楽天家なんで、特別にプランはないですけどね。

——コンプレックスの話を聞いていたら、ネガティブに考えがちなのかと思いきや、実はポジティブなんですね。

millna:振り返るとずっとポジティブだったんだと思います。自分の顔が嫌いで、それをネタにしていて、アウトプットはネガティブではあったんですけど、根底にはポジティブな思考があったんだと思います。嫌だったことに対しては、前向きに変えていこうとは思っていて、それが今に繋がっているんだと思います。今はようやく夢だった実店舗を持つことができたので、それをしっかりと続けていきたいですね。

millna / 見るな

millna / 見るな
ファッションデザイナー。2012年大学在学中から「見るな」名義でSNS作品発表をスタート。2016年にアパレルブランド「hakuchum tokyo」を立ち上げ、ラフォーレ原宿でポップアップを開催。さらにドールスーツファッションモデル「橋本ルル」のプロデュースも開始。2018年頃から自身が「Doll GAL millna」としての活動もスタート。2021年9月に高円寺に実店舗「カワイイカルト」をオープン。
https://www.millna.net
Twitter:@mi_te_yo
Instagram:@mi_te_yo
YouTube:https://www.youtube.com/c/millna/featured

Photography Yohei Kichiraku

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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