世界の“カワイイ”をキュレーションする「menmeiz」 独自の進化を続けるその魅力

世界の“カワイイ”をキュレーションして発信している「menmeiz(萌妹子、メンメイズ)」を主宰する前田沙穂(まえた・さほ)。現在、日本発の“カワイイ”文化は世界各国に広まり、それが独自にアップデートされているという。ここ数年で、韓国や中国のトレンドが日本でブームになることも増えており、特に若い人への影響は大きい。そうした中で、日本の“カワイイ”がどう世界中で進化し、またそれが日本にどう影響を与えているのかを前田に聞く。

「越境カワイイ」を発信していくことが目的

——「menmeiz」は聞き慣れない言葉ですが、どういった意味なんですか?

前田沙穂(以下、前田):もともと私が中国の文化に興味があったので、中国語で“カワイイ”を表す言葉を探していたら、日本の“萌え”みたいなものが中国ではやっていて。その流れでアニメのコスプレっぽい女の子を俗語で「萌妹子(メンメイズ)」と呼ばれていたんです。日本で生まれた“萌え”文化が輸出されて、他国で盛り上がっているのがおもしろいなと思って、それをプロジェクトの名前にしました。「萌妹子」って字面から“カワイイ”を連想できるのもいいなと思っています。

——プロジェクトはいつ頃からスタートしたんですか?

前田:2017年頃から構想はしていました。当初は、「萌妹子」というアイドルをプロデュースしようと考えていたんですが、それがうまくいかず…。まずはプロジェクトとしてスタートさせました。

「menmeiz」は、「“カワイイ”は国境・性別・世代を超えていく」を目指し、「越境カワイイカルチャー」を創造するプロジェクトです。国内外のインフルエンサー・クリエイターと共創し、SNSでの発信やポップアップイベントを通して「越境カワイイ」を発信していくことを目的としています。

具体的にプロジェクトとして動き出したのが2019年6月。最初は新宿にある「ビームス ジャパン」でポップアップを開催しました。その時は、「2050年のファンシーショップ」をコンセプトに、日本のアニメやファッションや韓国のポップカルチャーにインスピレーションを受けたクリエイター10組をキュレーションして、その人達のアイテムを委託販売するという感じでした。その後、ラフォーレ原宿や阪急百貨店うめだ本店、渋谷パルコなどでポップアップをしたりして、徐々に国内外のクリエイターと組んで、オリジナルのアイテムを作るようになってきました。最近では「menmeiz」の世界観を展開したクリエイティブ制作も行っています。

アイテムはECサイトでの販売を行っていますが、基本は海外で仕入れてきたアイテムをメインに少しオリジナルのアイテムも扱っているという感じです。物販に関しては、コロナなどもあって思うようにできていなくて、今年はそこに注力していければと思っています。

——ポップアップに来るお客さんの層は?

前田:女子高生や女子大生が多いですね。美大生や文化服装学院などのファッション系の学生さんのような、自分の個性を貫いている女の子からの支持を感じます。内装もフォトスポットを毎回作っていて、写真を撮りやすくしたりしています。実際に、開催初日に来てくれたお客さんがタグ付けしてくれて、そこで知って来てくれる子も多くいました。アイテムだと小物やアクセサリーはすごく売れますね。クリエイターのステッカーやZINEも人気で、あとは中国のちょっと変わったおもちゃなんかも売れたりします。

——アイテムに関してはECとポップアップでの販売がメインなんですか?

前田:そうですね。最初はインバウンドも考慮していたのですが、コロナ禍でそれがなくなってしまって。本当は越境ECで海外、特に中国に向けて販売できればいいんですが、そこまではまだ手が回っていない状況です。

ただ、今夏くらいには京都に実店舗をオープンする予定で すと言っても、「menmeiz」だけのお店ではなく、友達4人と一緒に店舗を構えて、そこの一角に「menmeiz」のアイテムを置くという感じです。するとウェブやSNSで発信している「menmeiz」の世界観をより体感してもらえるので、ファンも増えるのかなと考えています。

今はD2Cビジネスがブームで、実店舗を持たないことが多いですが、場所があるとよりブランドの世界観が伝わり、コミュニティーとしても機能するとポップアップの際に強く思いました。特に「menmeiz」は世界観作りを意識しているので、場所を持つとより解像度が上がると思います。

——なぜ京都を選んだのですか?

前田:もともと私が大学時代に京都に住んでいたこともあり土地勘があったのと、京都は歴史はもちろん、大学生が多いので脈々と続くサブカルチャー文化が強いんですよね。今年から「menmeiz」のコンセプトに「タイムレス」を掲げているのですが、まさに京都はタイムレスな場所。コロナ禍が明ければインバウンド需要も高いですし、2025年には大阪万博もあるので、関西がこれからおもしろくなりそうだなと。

“kawaii”よりも“カワイイ” 

——コラボするクリエイターも韓国、台湾だけではなく、フランス、カナダ、セルビアなどかなり幅広いです。そうしたクリエイターはどうやって探しているんですか?

前田:基本的にはInstagramで探していて、良さそうな人がいたらDMを送っています。語学ができるわけではないので、翻訳ソフトを使ってメッセージをやりとりしてます。それで「ポップアップがあるから一緒にやろう」というような流れです。

——探す時のキーワードとかはあるんですか?

前田:キーワードというよりは人で探しています。例えば、Night Tempoのアートワークをやっていた韓国のクリエイターとつながると、そこから台湾のクリエイターともつながって。それでそのクリエイター達をフォローしている人達を見ると、日本のアニメが好きそうな人も多くて、そこでまた探して…というようにInstagramの繋がりで探すことが多いです。Instagram上でそうした人達のコミュニティーもできていて、一緒に絵を描くなどコラボも結構しているので、見ていておもしろいですね。

#kawaii関連のハッシュタグは無数にあって、それを見ていくと欧米の方の投稿もたくさんあるんですが、韓国っぽいものや原宿っぽいものがミックスされていて、それがおもしろくて。一方で日本人がイメージする「kawaii」は10年前の原宿のイメージで止まっていて、原宿の「kawaii」に固執しなかったらとても裾野が広がるし、世界中に共感する子が多いんだろうなって思っています。

——「menmeiz」を象徴するこの絵は誰が描いたんですか?

前田:イラストレーターのモエ(モエ_マグマグ) ちゃんが描いてくれています。彼女は一緒に「menmeiz」の運営もしてくれていて、最近ではInstagramのクリエイティブも作ってくれています。彼女の作品は1990年〜2000年のアニメっぽいけど、今時のファッショナブルなセンスもあり、かつアート的なアイロニーがあるのがおもしろいんです。

——「menmeiz」のイメージビデオで、男性がメイクしているのは、ジェンダーレスを意図したんですか?

前田:彼はモデルの女の子の友達で、彼女が連れてきてくれたのですが、メイクしているのは彼女のアイデアで。撮影中に、「化粧していい?」って男の子にメイクして。だから最初から決めていたわけではなく、それが「イケてる」って感覚が今の子達にはあるんだと思います。

アップデートされた“カワイイ”を世界に伝えていく

——前田さんは中国や韓国のトレンドにも詳しいですが、最近は日本の若い人達もそうしたトレンドの影響は多分に受けていますね。

前田:韓国のトレンドの影響は特に大きいですね。 4年ほど前だと、韓国のアイドルが好きで、そのアイドルを好きな人が韓国をみてトレンドを真似していましたが、それがどんどん当たり前になって、普通に「韓国っぽい=おしゃれ」となってきて、マスのトレンドにもなっています。K-POPアイドルは世界的なラグジュアリーブランドを作るような構造で作られていて、構造自体がJ-POPと大きく違うと思うのですが、近年K-POPカルチャーが日本でも主流になると、それを見ている日本の若い人達もクリエイティブへの解像度が高まっているなと感じます。

——中国はどういう感じですか?

前田:中国はZ世代が多く、かなりトレンドも細分化されています。もちろんK-POPアイドルが好きな人達もかなりいますし、日本のアニメが好きな人達もかなりいます。どちらも中国人にとっては外国のもので、自分達のものじゃないってフィルターがあるから、独自のアレンジをしやすい。アニメっぽいコスプレやロリータ、JK制服、漢服などもかなりはやっています。JK制服も「日本のアニメの中で女の子が着ている服」だと思っているから、私服で普通に着ていたりして、その感じは日本にはなくて、中国で独自に発展した文化です。

——そうやって独自の“カワイイ”文化が生まれていると。

前田:そうです。中国が顕著だけど、欧米でも生まれていて、それを抽出して再度日本に戻して、ということをやりたいんです。

日本で最も輸出できているカルチャーはアニメや漫画で、欧米はもちろん、中国のZ世代も大多数がアニメを見ています。韓国のポップカルチャーが世界で大成功したのをお手本に、今後、日本もアニメカルチャーを活用して輸出コンテンツを強化できると思うんですよね。2000年代中頃のクールジャパン施策の頃にはSNSが発展していませんでしたが、いまはSNSで国境越えが当たり前。例えば『美少女戦士セーラームーン』は世界中にファンがいますし、そうしたアニメ的な世界観や価値観を「menmeiz」では意識しています。

——そうした発展した“カワイイ”文化は日本の人達も共感できる?

前田:すごく共感すると思うし、「menmeiz」に来てくれるような方達は特に好きだと思います。日本の“カワイイ”は元気がなくなってきている。シンガポールの女の子と話をしていて、「原宿のカワイイだろうが、韓国のカワイイだろうが、そんな変わらない」って言っていたのが印象的で。“カワイイ”って言葉が世界の共通語になっているから、改めて日本の“カワイイ”を理解している私がキュレーションする側にまわろうと考えました。

——今後はそれを世界に向かって発信していく?

前田:そうですね。でも、まずは日本の若い人達にもっと共鳴してほしいなと思っています。今の“カワイイ”って、かつての萌えというよりは、私の中では、ギャルっぽい精神というか。「カワイイからよくない?」みたいな。そこにはある種の個の強さもあって、そうした精神性は世界中に伝播できるような気がしています。

「menmeiz」としては、その時代の“カワイイ”を抽出して、その精神性に共感してくれる人達のコミュニティーを作っていきたいですね。

前田沙穂(まえた・さほ)
ガールズカルチャー編集者、越境カワイイクリエイター 。「萌妹子(menmeiz、メンメイズ)」主宰。1990年生まれ。デザイン会社やマネジメント会社を経て独立。若者トレンドや中国トレンドを軸に、編集・ライターやSILENT SIREN、Babysitter、大矢梨華子などのバンドやアイドルのアートディレクションを行う。
https://menmeiz.com
Instagram:@menmeiz
Twitter:@sahohohoho

Photography Yohei Kichiraku

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author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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