Awichは自らが先頭に立って行動することで世界を変えていく

ラッパーとして類まれなスキルとスタイルで、同世代、同性を含め、大きな支持を得ているAwich。音楽だけではなくファッションシーンにおいても、その存在感は大きく、現代における女性像を考えた時に、確かなアイコンとして君臨している。そのAwichが、3月14日に自身初となる日本武道館ワンマンライヴを開催し、大成功へ導いた。多彩なゲスト陣も集まり、まさに集大成にふさわしいライヴを終えたAwichは何を考え、どこを目指し、これからどんな姿勢で挑んでいくのか。自身の発言から未来を探る。

清々しい気持ちで臨めた日本武道館のステージ

――日本武道館公演という多くのアーティストも憧れている偉業を成し遂げたわけですが、公演を終えた今はどんな心境ですか?

Awich:本当にやって良かったなって。私にとっては大きなチャレンジだったし、開催直前は多少の不安もあったんです。ぎりぎりまで準備に追われていたり、何か足りないピースがまだある気がずっとしていたりと、やらなきゃいけないことがまだまだあると思っていて。でも、不思議と始まる直前になったら緊張がふっとなくなったんですよね。

――スタート直前に吹っ切れたような感じですか?

Awich:うん。今回の公演ではスタジオリハに5回入ったし、準備段階で試行錯誤しながら懸念点を洗い出しつつ、ショーとしてブラッシュアップを重ねていたんですよね。そういうのもあったんだと思います。まぁ、何度練習を繰り返しても完璧な状態になることはないし、不安がなくなることはないんですけど、それでも直前になったら「もういいや、なんくるないさ~」って(笑)。そのあたりは沖縄のマインドだったのかもしれないですね。ステージに向かう前は妙に清々しい気持ちになって。普段のライヴだったら、直前は少しだけ1人になりたいって時間があったりするんですけど、そういったことも全然なかったです。

――もう何とかなるでしょ! って気分になれたんでしょうね。

Awich:それに大勢の仲間や家族に囲まれていたし、裏では始まる寸前までわいわいがやがやと楽しい時間を過ごしていて(笑)。そんな空気の中で、開演時間になったから「行ってきまーす」って感じだったんですよ。

――客席だけではなく楽屋などステージ裏も良いヴァイブスがあふれていたと。

Awich:そう! めっちゃいいヴァイブスだった。今回のことは成功体験の1つとしてしっかりと記憶しておこうと思います。こうすれば私は上がるんだって意味で。それに、私は反復練習していきながら軌道修正したほうがいいんだなって再認識しましたね。Practice Makes Perfectみたいな。まさにそんなタイプだと思います。

――今回はライヴ衣装にも驚かされました。「トモ コイズミ」「ナイキ」のアパレルを再構築した衣装もありましたし、場面ごとにスタイリングの色が変わって実に鮮やかでしたね。

Awich:「ナイキ」と「トモ コイズミ」のコラボレーションドレスを着てライヴをすることは、私も絶対にやりたかったから実現できて良かったです。でも、ステージの流れを考えながら衣装を決めるプロセスは超大変でした。

私はどこかにボディコンシャスな要素がないと嫌なんですよ。だからシルエット感やサイズ感、カラーリングのバランスも場面によって差がつくように考えていって、直前で変更の希望を出したりしてと、スタイリストさんやデザイナーさんを困らせちゃいました(笑)。でも、結果的にすごく良いバランスになったと思うので満足なんです。

ルーツを大切にする姿勢を周囲に伝えていく

――ステージには沖縄の仲間も大勢出演されましたね。

Awich:沖縄の仲間は、みんな兄弟ですね。ラッパー同士のつながりは、音楽を超えた付き合いというか。沖縄のやつらはたぶん、音楽を超えた付き合いをしないと合わないと思う。みんな目を離すと、すぐに散り散りにどこかへ行っちゃうから、あんなに1ヵ所にそろったのも珍しいんじゃないかな(笑)。「みんなよくやったね、えらいね~よしよし!」って感じです。

――改めてAwichさんにとって沖縄という土地はどういう存在なんでしょうか?

Awich:沖縄は、どんな時も私の心の中にある存在ですね。沖縄が教えてくれたことって、あとになって、その深い意味に気付くことが多いんですよ。例えば、「なんくるないさー」という言葉も、昔は“どうでも良いよ”って意味なのかと思っていたんですけど、本を読んで勉強を重ねていくうちに、“どっちに転んでもお前は大丈夫”って、そんな深い意味が込められているんだろうってことを思わされる。

あと、私はサピエンス全史などがすごく好きなんですけど、そこではっとさせられたのが沖縄の「いちゃりばちょーでー」って言葉。“一度出会った人はきょうだい”って意味合いがあるんですけど、人間の起源が1つの種から始まったとしたら人類みなきょうだいだし、なんで、そこがリンクしている言葉が沖縄にあるんだろうって。世界や宇宙のことを勉強するほどに沖縄というルーツにつながってくるのは神秘的だし、世界中の人に知ってもらいたい考え方でもあると思うんですよね。

それに、私があの島を大切にすることで、自分のルーツを大切にする姿勢を周囲に見せることができているとも思っています。そのことが、みんなが自分の故郷にどんな言葉や思想があるのかを振り返る機会になってほしいんですよね。沖縄を大切にするってことは、私にとってそういうことです。

――日本武道館公演の終盤には次なるステージを見据えての発言もありました。今後もキャパを大きくしながら大きな存在になっていくことを目指していると思うのですが……。

Awich:当然そうですね。

――その中で、規模を大きくしていくというのは、Awichさん自身がどういう存在になっていくことだと考えていますか?

Awich:規模感か……。たとえるならオノ・ヨーコさんくらい存在感ある人間になりたいんですよ。一番有名な日本人女性で、なんなら世界でもっとも認知されている女性かもしれないじゃないですか。日本人ラッパーじゃそんな人はいないですよね。女性ラッパーという意味では、ニッキー・ミナージュカーディ・Bだとか、世界にはいろんなアイコンがいて、彼女達のような存在も目標なんです。私なんて全然まだまだだし、絶対立ち止まらずにやり続けていかなくちゃいけないんですけど。

世界一有名な日本人女性へ 愛とエロスの伝道師へ

4月に公開された最新ミュージックビデオ。Awich 「Link Up feat. KEIJU, ¥ellow Bucks」

――その目標に対して、現時点ではどういうプランを考えていますか?

Awich:今挙げたようなアイコンを並べて、好きなところを組み合わせてみるんですよ。それが、将来私がなりたいイメージであり、これから向かうべき場所だと認識しています。それから逆算して、自分がどう行動していけば、その場所まで到達できるかという計画を立てるんです。そう考えるとチャレンジしなくちゃいけないことがたくさんあるし、乗り越えなきゃいけない壁がまだまだあるんだってことに気付けるじゃないですか。ちゃんと自分でイメージができていないと、チャレンジすべきタイミングが来ても「えっ、私なんかにできるのかな?」って怖気付いてしまう。でも、やるべきことを自分の計画に入れておけば「これを乗り越えれば自分の目標に近づける!」って考え方になって勇気が湧いてきます。そのためには、自分にチャレンジが舞い込んでくるイメージを常に持っておくことも大切ですね。そうしなくちゃチャンスもチャンスだって気付けなくなりそう。

――なるほど。ゴールを明確にすることで、そのときどきに自分がすべきことが見えてくるという。

Awich:そうですね。最終的には、世界一有名な日本人女性になる。愛とエロスの伝道師になる。そういったことを私は考えているし、それってもうラッパーの枠を超えている存在だと思うし、なれるのは80歳、90歳のおばあちゃんになってからかもしれない。だから、ラッパーとしてやれることは淡々とこなしていかないといけないから、やるしかないと思いますね。

――お話を聞いていると、Awichさんはもはやフィメールラッパーとしてアイコンになることを目標としている、という次元の話ではなくなってきているわけですね。

Awich:そこ(フィメールラッパーとしてアイコンを目指すということ)はもう基本ですよね。もうあたりまえに達成すべきことで。ただ、それも今となってはの話ですし、これまではそんなこと言ってきませんでしたからね。そこが日本武道館公演を経ての心境の変化なのかもしれない。14歳の時の私、夫を亡くした24歳の私、鬱になっていた26歳の私、これまでの私にしてみたら、そんなこと絶対に無理って感じでしょうから。大きな階段を上ってきたことが、今振り返るとわかるんですよ。そう考えると、ここまで上って来られたんだから、これからやろうとしていることに対しても勇気を持ってやれるでしょ? って思えます。

自分が動くことで世界を変えるという魔法が使える

――単純な質問になってしまいますが、有名になっていくことが怖い人もいると思うんですよね。

Awich:わかります、私もそうでしたから。

――それでもAwichさんが世界一有名な日本人女性になろうと思えるのはなぜでしょうか?

Awich:自分に聞いたんですよ。「なんで(有名に)なりたくないの?」って。そうしたら理由がネガティブなところからしか出てこなかったんですよね、私の場合は。大口叩いておいて失敗するのが怖いだとか、恥をかくのが嫌だとか、出る杭は打たれるから止めておこうとか。でも、それって本当はなれるのならば、(有名に)なりたいってことじゃんって。

――そうですね、なれるものならなりたいってことですね。

Awich:そこで、本当はなりたいけど怖いからやりたくないだけなんだってことに気付いたわけです。「失敗してもチャンスはまたあるって思えるんだったらやりたいでしょ?」って自分と対話をしたら、「やりたい! なりたい!」となったんですよね。そりゃ不安要素はあるだろうし、苦難はあるんだろうけど、「逆境こそが人生の醍醐味なんじゃないの?」って思えた時に、失敗したこともすべて良い方向に向けられるだろうって自分の中で考えられた。だったら、やったほうがいいし、目標を公言しながら行動で示そうって決めました。

――そんなAwichさんの行動で示すという姿勢には勇気を与えてもらえると思います。自分の人生観を変えられたファンやリスナーも多いはずです。

Awich:それが一番のやりがいでもありますからね。例えば、自分が世界を変えて、もっとみんなを幸せにしていきたいと思うんだったら、まずは自分が一番に行動すべきなんですよ。自分が動けば周りの人が変わってきて、周りが変われば世界が変わると思う。だから、私はなりたいイメージ目がけて動くし、それが大切だと思っているんです。世界を変える魔法は、自分が動くってことしかない。

――今後は活動のステージを海外まで広げていく予定はありますか?

Awich:そうですね。日本武道館公演を経て、世界を舞台に活動していくことも実現していこうと考えています。最初は何回も失敗すると思うけど、それも見据えて早い段階から動いていきたいですね。

――世界を舞台に、という意味ではAwichさんはどう考えていたんでしょう?

Awich:活動を始めた頃は、むしろ日本よりもアメリカのほうにフォーカスしていたんですよね。当時の私にとっては、東京が遠い存在だったし、まさか私なんかが受け入れられるわけないって思っていたんですよ。だから昔から目指していたのはアメリカでした。それにも備えてきたので、こんなふうに日本のシーンに受け入れられたのは嬉しい事件というか。

でも、活動をしていくうちに、日本でしっかり認知されてから世界へ行かなくちゃいけないと考えるようになったんです。それが「Remember」や「WHORU?」を発表したぐらいの頃からでしたね。その頃には、日本で売れていないのに、アメリカや海外で受け入れてもらえることなんてないと考えるようになったんですよ。

Awich 「Remember feat. YOUNG JUJU」

Awich 「WHORU? feat. ANARCHY」

――では、かねて考えていた世界進出のタイミングが今こそやってきたということになりますね。

Awich:そうかもしれない。時間はかかったけど、その分伝えたい内容も増えて、言葉の重みも増してきているとは思うので、その強みを自覚した上で、怖気付かずに進んでいきたいです。

Awich
ラッパー/シンガー。1986年、沖縄県那覇市生まれ。ヒップホップクルー、YENTOWNにも所属する。3月にアルバム『Queendom』をリリースし、同タイトルを冠した日本武道館ワンマンライヴでは多くのゲストラッパーを招くなど、大成功へ導いた。
https://awich.jp
Instagram:@awich098
Twitter:@awich098

Photography Hidetoshi Narita
Text Ryo Tajima

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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