モチーフの大喜利から独創するストーリー アーティスト・nico itoが空想で描くもの

Instagramに無作為にポストされた、ファンタジックな植物や生物のモチーフとレトロでCGのような質感のイラストレーションやアニメーションが徐々に拡散され、その活動がブランドやキュレーター等を一気に引き寄せた、アーティストのnico ito。2021年に「アンダーカバー」による“SueUNDERCOVER Meets Tokyo Millennials No.19”のアニメーションを手掛け、1月に発表された「グッチ」のバッグ“グッチ バンブー1947”のグローバルデジタルキャンペーンでは、唯一の日本人として作品を発表した。ファンタジーであったり、縦横無尽に変化を続けるキャラクターであったり、作品に登場するモチーフと世界観のバランスは、どのようにして生み出されるのか。活動の起点から、創作源、クリエイターとしてのあり方までを語ってもらった。

“モチーフ大喜利”の感覚で主役を決めてから奇妙な世界やストーリーを考える

−−Instagramを見る限り、2018年頃から作品を発表しているようですが、いつから本格的に取り組むようになりましたか?

nico ito(以下、nico):実はパンデミックが始まった2020年初め頃から本格的な活動をし始めたんです。2019年に武蔵野美術大学・空間演出デザイン学科を卒業してから、デザインのアルバイトをしていたのですが、2020年頭にパンデミックが起きてからやめることとなって。どうしようかなと悩みながらも時間はとにかくあったから、作品制作してInstagramにポストすることを繰り返しているうちに、ありがたいことに活動が広がっていきました。ある意味、パンデミックの期間があったからこそたどり着けたような気がします。

−−最近の作品ではメタモルフォーゼしたようなキャラクターが多く登場していますね。何かストーリーを想像しながら描いているのでしょうか?

nico:“モチーフ大喜利”みたいな感覚で、いつも主役になるモチーフを決めてから、その子をどういう奇妙な世界やストーリーに使っていくか考えることが多いです。もちろん違うやり方で制作を始めることもあるのですが。でも、作品を制作するからそういうふうに考え始めるようになったというよりも、小さい頃から一人遊びで空想はよくしていて。例えば、飴を色ごとに並べて「これは食べるとパニックになる」「これは食べるとハッピーになる」みたいな感じでいろいろ設定をつけて、実際に食べて再現する、という遊びを何度も繰り返していました。

−−ある意味モチーフ大喜利の原点ですね(笑)。

nico:さすがに大人になってからは、そういう遊びはしないですけど(笑)、発想の仕方は似ている気がします。

とにかく何かの設定づけが好きで、ゲームの攻略本に載っているキャラクターやアイテムの紹介のページが大好きでした。

−−例えば、この作品のストーリーについて教えてください。

nico:普段からネットで雑な画像をいろいろと収集している中で、ロボット犬の画像を拾ったことがきっかけでした。一般的にロボットはお利口に作られているわけですけど、その画像を見た時になぜか怖い印象を覚えて。その感覚から、もし人の手によって飼いならされたロボット犬が、街中に注意看板が出るほど暴走しちゃったら……と想像しながら制作したパーソナルワークです。最近の作品の中でも、お気に入りの1つです。

−−「グッチ」Instagramキャンペーンでは、どのような設定をイメージしていったのですか?

nico:バッグを描くことは決まっていたので、そこからストーリーを膨らませていって3作品それぞれの世界の中でバッグを「王様」として考えながら描きました。例えばアニメーションの作品は、ある世界での住民である青い球体達の中から、選ばれし1体がビームを受け「王様」であるバッグに変身するという、神聖なる儀式のワンシーンです。

−−目鼻がついたキャラクターや、どこか生き物らしい動きをするモチーフが主役ではあるようですが、彼らが生きる空間・世界観にも興味があるのかなと感じていました。

nico:そうですね。最終的にキャラクターがいてもいなくても、はっきりと可視化されていないそこに漂う空気みたいなものを表現したいなと思っています。

またまた昔の話になるのですが、幼少期に遊んでいた子ども向けお絵かきソフトで「キッドピクス」というのがあって。そのソフトの世界観がすごく好きなんです。言葉で表すのは難しいのですが、ポップながらもとにかく不穏で、それも狙っている感じではない。今思うと絶妙なバランスで、かなりイケていました。そのなんとも言えない不穏な雰囲気を表現できればなとずっと思っています。当時私が感じていた「楽しいんだけど、なんだか具合が悪い気がする」みたいな感覚を味わえるようなものを作りたいです。

また、時代感が読めないような雰囲気を強く意識するようになりました。私は3DCGを使用して制作しているのですが、その質感をそのまま使うと自然と今の時代の「新しい」印象になってしまうからこそ、あえてノイズを乗せることで消していってます。

「マイナーなアーティストの一番聞かれている曲みたいな存在でありたい」

−−質感も然りですが、Instagramで作品を発表していると良くも悪くもスピーディーに「新しさ」を求められるような気がします。アーティストとして、どのような立ち位置で活動していきたいですか?

nico:説明が難しいんですが……マイナーなアーティストの一番聞かれている曲みたいな存在でありたいです。そういう曲って、違和感がありつつもキャッチーな要素も程よくあるから人気で、どの時代であっても聴き直されます。そんな具合で、違和感があるということはもちろんですが、誰がどの時代に見ても「わかる」ということは大事にしていきたいです。

−−制作において、音楽から影響を受けることもあるのでしょうか?

nico:強い影響を受けてます。音楽を聴いている中で、勝手ながら「この曲にぴったりの作品を作りたいな」と思うことが多いので、それをプレイリストにまとめています。ジャンルはわりとバラバラですが、自分の中では何か一貫性がある気がしています。このプレイリストは、2021年に開催した個展でもかけていました。

−−個展で発表した作品は、またコマーシャルワークとは違う発想だったのでしょうか?デスクトップ上で描いているものをアナログで見せることの違いもあったのかなと。

nico:個展で発表した作品の大半は、パンデミックになってから作りためていたものでした。コマーシャルワークと比べて特に制限もないので、まず何も考えずにBlender内に置いた球体を粘土をこねるように、いろいろとカーソルで引き延ばしてつくっていくことが多かったですね。おもしろい形ができたら、ちょっと目を足したり調節してキャラクターっぽくしたり。その個展では、プリントと映像の作品のみでしたが、今後は立体作品でも発表したいなと思ってます。

−−今後は、どのようなことに挑戦してみたいですか?

nico:やりたいことはたくさんあるんですが……今はとにかくお仕事を頑張っていきます。そして変わらずパーソナルワークも制作して、いつかまた展示もできたらなと考えています。前回はつくることで精一杯だったので、次は自分が考えるキャラクター設定やストーリーまでちゃんと伝えられるような方法で発表したいです。

nico ito

nico ito
1996年東京生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科を卒業後、
フリーランスのイラストレーターとして幅広く活動中。
空想の世界を描き続けている。
Instagram:@nicooos_n
Twitter : @nicooos_n

Edit Jun Ashizawa(TOKION)

author:

倉田佳子

1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、「Fashionsnap.com」「HOMME girls」「i-D JAPAN」「Quotation」「STUDIO VOICE」「SSENSE」「VOGUE JAPAN」などがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM&PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。 Twitter:@_yoshiko36 Instagram:@yoshiko_kurata https://yoshiko03.tumblr.com

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