―エロとユーモアをTシャツに載せて― ウェルカム トゥ カリフォルニアストア

「コンプライアンスが……」とかなんとか……何かとうるさい世の中にあって、ちょっと他にはない品ぞろえが目を引く、東京・中目黒のお土産屋さん「カリフォルニアストア」。

取材に訪れたわれわれに、「実はオッパイ派ではなく、お尻派なんです」と真剣に話すのは、オーナーの秋山孝広。店内に1歩足を踏み入れると、10代の頃からアパレル業界の荒波に揉まれてきた彼が手掛ける手刷りのプリントTシャツが。エロとユーモアで出迎える“明るく楽しいエロ”とは何か? そしてそこに込めた思いとは。

秋山孝広(あきやま・たかひろ)
10代からアパレル企業に従事し、販売や営業を経験。並行して、2005年からTシャツや小物のブランド「ラウドカラー」を展開していた。現在は、“明るく楽しいエロ”をテーマに、オリジナルプリントのアパレルや雑貨を取り扱う中目黒のお土産屋さん「カリフォルニアストア」のオーナーを務め、今年で14年目となる。近所の小学生達からは、“スゲェ変態のオジさん”として認識されている模様。
Instagram:@california6969

「大事なのは“笑えるかどうか”。それで言うと“オッパイはポップ”なんです」

——「カルフォルニアストア」は、“明るく楽しいエロ”がテーマのお店とのことですが、内装などの雰囲気から勝手に古着屋だと思い込んでいました。

秋山孝広(以下、秋山):取り扱っている商品はアンティークが中心で、服はオープンからずっとオリジナルで製作している新品を扱っています。

——なんとなくですが、“アメリカ西海岸=いろいろなカルチャーにオープン”というイメージがあります。そこは店名とも関係ありそうだなと。

秋山:もともと、カリフォルニアで商品を買い付けていたというのが1つ。もう1つが、諸説ありますが、カリフォルニアは“プリントTシャツの発祥の地”と言われているので、その両方の理由からお店の名前を決めました。内装に関しては、サンフランシスコなんかにあるブートのお土産屋と1970年代のモーテル、そこに実家のイメージを加えて仕上げています。だからか年配のお客さんには「懐かしい」と喜んでもらえていますし、若いお客さんからも「お祖父ちゃんの家みたい」と好評です。

——そもそも秋山さんは“エロ”がお好きなんですか?

秋山:そりゃ、もちろん好きですよ(笑)。昔は古着屋やアンティークショップなんかで、エロモチーフの人形やぬいぐるみ、食器や雑貨類などがよく置かれていたんですが、買おうとして値段を尋ねると「ディスプレイだから」の一点張りで売ってくれなかったんですよね。そもそも値段さえ付けられていなかったし。で、自分で店を始める際に「他で売ってないモノを売らないと!」と思ったら、なぜかコッチ(エロ)になっちゃって。

——“エロ”は古着・アンティーク業界では定番ジャンルなのでしょうか?

秋山:一応、ジャンルとして昔から存在してはいます。この辺の1950〜1960年代のアイテムなんかは、“アート作品”として確立されているっぽいんですよね。例えば、持ち手がエロくなっているマグカップ。大体5〜6個セットで出てくるんですが、アメリカでは1500ドルはします。そういった市場価値の点から考えると、“エロ”はジャンルとして確立されていると言えるでしょうね。とはいっても、アメリカでさえ専門のディーラーがいるワケではなく、僕も足を使って探し集めています。

こちらのオッパイ形マグ類は、現代的な感覚で言うとファンシーグッズってやつですね。これとかはミルクピッチャー。要は、オッパイからミルクが注げるっていう(笑)。この辺は、もう見つけ次第収集している感じです。1980年代製が多いかな。色の塗り方と素材で時代ごとの違いがあるんですよ。現行品は素材も作りもしっかりしているのに、どこかボヤけた雰囲気。なのでウチでは、1990年代製までのモノを買い付けています。

——では買い付けは、ほぼ全部アメリカ製ということですね。

秋山:いえ、先ほどの1950〜1960年代位のモノは、ほとんどが日本製なんです。と言っても日本発祥のアイテムというワケではなく、あくまでモノ作りが上手ということで選ばれた生産国であったということですね。実際、この時代の日本製では作りが良いモノも多く見つかります。

——こちらのハンドクラフト感あふれる人形は、すごくかわいいですね。

秋山:右端は TV番組の登場人物をモデルにした露出狂の人形。有名だから見覚えがある人も多いかと。こっちの毛むくじゃらはモジャモジャしている部分をめくっていただくと、チ●チンがついています(笑)。基本的に男女ペアになっていて、1970年代頃のモノなんですが、ストッキングなどをリメイクして作っていると思われます。当時、ひげボーボーで下半身を丸出しで歩いていたヒッピーの男性がいたらしく、その人をモデルに作ったようですね。まぁ、なぜそんなモノを作ったのかは、未だに謎ですが(笑)。

——このオッパイが付いたキャップも、非常にバカっぽくて良いですね。

秋山:こちらは1980年代のスナックバックキャップです。当時はエロネタ以外にも、めちゃくちゃふざけたキャップがたくさんありました。

——店内もエロが好きと一目瞭然です。特にレジカウンター後ろの壁には、オッパイを出したヌード写真の切り抜きが大量にコラージュされていて、なんとも圧巻です。

秋山:ありがとうございます(笑)。でも僕、本当はお尻派なので、オッパイなんか全然興味がないんです。なので、この壁も最初はお尻を中心に集めていました。そのうちに、なんか生々しい感じが出てきて……お客さんも引いちゃって(苦笑)。で、あわててオッパイに変えたら、女の子も受け入れてくれるように。「なぜだろう?」と考えたら、“笑えるかどうか”なんですよね。その点、やっぱり“オッパイはポップ”なんです。その証拠に、アンティークでもお尻モチーフって意外と少ないですし。

——お客さんは男性の方が多いんですか?

秋山:いえ、7〜8割が女性ですよ。それもこの数年で女性の比率が増えたと感じています。ひと昔前に比べて、エロをカルチャーとしてとらえる土壌ができあがってきたのかなと。その証拠に、僕がこうしてメディアに取材してもらえているんですから(笑)。カップルで来店して女性だけ店内に入ってこないとかは、ウチの“あるある”ですね。あと、インスタでこの壁紙の写真を載せるとたまにBANされます(笑)。近所の小学生達の間では有名らしいんですよ、うちの店って。

——へぇ、なんて言われているんですか?

秋山:「スゲェ変態がやってる店」って呼ばれています(苦笑)。店の前を通った小学生に「入ってきな」と声を掛けると、みんな逃げていっちゃう。でも昔は、町に1軒はあったじゃないですか、ヤベェおじさんが営んでいるお店が。それが「カリフォルニアストア」です(笑)。

「大体の作品に元ネタがあるので、僕はそこに“乳首を付けるだけ”」

——オリジナルで展開されているアパレルには、すべて手刷りプリントが施されています。これはいつ頃から始めたんですか?

秋山:昔から古着のエロネタTシャツが好きで集めていたんですが、今やとんでもない値段になっちゃったので、「じゃあ、自分で作っちゃおう!」と。最初は工場でプリントをしていたんですが、いろいろあって付き合いのある工場がどんどんつぶれていっちゃって……。そんな折、友達から「自分で刷れば?」と言われたのをキッカケに、手刷りを始めました。

——Tシャツ、スウェット、フーディからボディとサイズ、そして好きなデザインを選んで、その場でプリントしてもらい、乾いたらその場で引き渡し。おもしろいサービスですね。

秋山:所要時間は10分〜15分。あえてお土産のようなチープ感を出すため、ボディの生地にもこだわっています。僕の場合、外枠を使わずシルクスクリーンの版をTシャツの上に載せて刷るので、1着ずつ異なる仕上がりも楽しめます。あと、Tシャツを購入いただいた方はビールも無料。なので、閉店までずっといて延々と飲んでいる人もいたりします(笑)。

——しかもまたデザインが豊富。一番人気は?

秋山:一番人気のネタは「夢の国のネズミさん」ですが、ここで載せたら確実に怒られるやつですね。ウチの場合、ネットでは販売できないようなデザインがすごく多くって(苦笑)。かといってネットですべて済んでしまうようでは、お店に来ていただく楽しみを奪ってしまうことにもつながるので、あえて全部のアイテムを載せないようにしている面もあります。

——では、載せられる範囲で、お気に入りの作品を教えてください。

秋山:これはHawaiiがHiwaii(卑猥)になっています。1980年代のお土産モノのキャップで実在したデザインをアレンジしています。あえてデータ制作の段階で版ズレするようにしているのがポイントです。これもチープ感を演出するための工夫ですね。あとはドーナツをオッパイに見立てていたり、お股をLOVEの“V”に見立てたり、お尻に見立てたハットをかぶせたりしています。どれもお気に入りの作品ですが、かといって売れるわけではなく、むしろ思い入れが強すぎるデザインは大体売れないから困るんですよね……(苦笑)。

——エロでポップを表現する際に、意識している点は?

秋山:“初見では一瞬、何かわからない”ってくらいですかね。大体の作品に元ネタがあるので、僕はそこに“乳首を付けるだけ”(笑)。そのハマりの良いポイントさえ見つけたら、もうシメたもん。これなんかも、ハートに乳首が付いていますよね。お尻にアレンジしているのは見かけますが、オッパイっていうのが僕のオリジナリティです。

——デザインは何種類くらいあるんですか?

秋山:店の裏にスペースがあって、これまで制作したシルクスクリーンの版はすべて保管しています。これまたなかなか処分することもできず、どんどんとたまる一方。230種類はありますよ。以前は週1ペースで新作を発売していましたが、コロナ禍でちょっとペースが落ちて、現在は月に2型くらいに落ち着きました。

——「こういった相手に届けたい」という思いもあったりするんでしょうか?

秋山:まったくないんですよね、それが。ただひたすら自分がおもしろいと思ったものを作っているだけです。“エロはポップ”と言っても、難しいのがさじ加減。だからといって考えすぎると、今度は何もできなくなってしまうので、あえてそこは考えません。なので、お客さんから問われない限りは、デザインについても説明しません。というか基本的に接客自体あまりしません。オジさんから、自分が作ったエロネタTシャツの良さを語られるとか、ちょっと気持ち悪いじゃないですか(笑)。

——東京以外でのポップアップストアも精力的に開催されていますが、お客さんの反応が気になります。

秋山:あぁ“生刷りライヴ”ですね。ショップや飲食店などに呼んでいただいて、持参したシルクスクリーンの版から、その場で好きなデザインを選んでもらってその場で刷る。もちろん全部エロネタです。「都心以外では受け入れられづらいんじゃない?」と思われがちですが、どこも想像以上の数のお客さんに来ていただき、喜んでいただいています。

——2008年オープンなので、「カリフォルニアストア」も今年で14年目。先ほどお話にもあったようにコンプライアンス問題など、世の中のエロを取り巻く状況も変化し続けています。ご自身が肌で感じる変化はありますか?

秋山:この近所にYouTuberさんのお店があって、1度企画で取材してもらって以来、客層がめちゃくちゃ若くなったというのはあります。そうやって周りは変化し続けていますが、自分自身はあまりにも変わっておらず、たまに不安に襲われています(笑)。ただ1つハッキリしているのは“エロは平和である”ということと、“今後もずっとエロ店主であり続ける”ということ。70歳を超えてなお同じことをやり続けていられたら、もうそれは本物ですからね。

——目指すは“エロ界の葛飾北斎”というワケですね。

秋山:どうせやるなら、そこまでいかないと。「あのジイさん、まだエロいTシャツを刷ってるよ」なんて言われちゃったりして(笑)。今年で53歳になりますが、エロとの付き合い方や感覚は変わらないですし、だからこそ続けられているっていうのはあるかな。「エロに対してのモチベーションは、むしろ増し続けている!」。そう言い切っても過言ではないでしょうね。

Photography  Satoshi Ohmura
Text Tommy

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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