タトゥーアーティスト、TAPPEIのカテゴライズされない表現世界

独自の作風を確立しているタトゥーアーティストのTAPPEI。落書きのような緩いタッチはポップだが、ユーモラスでシニカルなメッセージが込められている作品も多い。そのオリジナリティあるスタイルはタトゥーだけにとどまらず、多くのファッションブランドからコラボレーションを呼びかけられている。今や、東京のカルチャーシーンで熱視線を浴びている1人だ。

今回、TAPPEIの世界観を形成するものに迫るべく、タトゥーアーティストを目指した原点から、タトゥーを軸に活躍する現在、そしてこれからの展望をじっくりと聞いた。

TAPPEI(タッペイ)
1993年大阪府生まれ。2015年から東京を拠点にタトゥーアーティストとして活動中。2020年に自身のアトリエ&タトゥースタジオ「TAPPEI ROOM」を中目黒にオープン。「アンダーカバー(UNDERCOVER)」や「ナイキ(NIKE)」など、さまざまなブランドとのコラボレーションを果たし、グラフィックデザインやアートディレクションも手掛けている。
Instagram:@tappeis

タトゥーアーティストとしての成熟

――タトゥーに興味を持ったのはいつですか?

TAPPEI:小学生の時、北野武監督の映画『座頭市』のラストシーンで背中一面に入っている入れ墨を観て、カッコいいと思ったのが最初です。

――最初は和彫りに惹かれたんですね。

TAPPEI:そうなんです。だから自分で最初に入れたのも、和彫りのデザイン。

TAPPEI自身で入れた初めてのタトゥー

――それは現在のスタイルから見ると意外です。

TAPPEI:その当時から、和彫り以外のデザインも好きだったんですけど、ファーストタトゥーは最初に好きになった和彫りかな、と。

――では和彫り以外のデザインだと、どのようなタトゥーが好きでした?

TAPPEI:高校生の頃に一番よく見ていたのは、海外のスケーター達がノリで入れているようなタトゥー。上手ではないけど、それがカッコよかった。そのニュアンスは、今の僕の作風につながっていると思います。

――それがTAPPEIさんのルーツにあるんですね。

TAPPEI:そうですね。和彫りのデザインを入れてみて、落書きテイストのほうが好きだと改めて思いました。それ以降、現在のスタイルに近いデザインばかり入れていましたが、今よりもっと落書きっぽいというか。単純に技術的な部分が未熟で、今みたい彫れなかったんですよね。方向性は同じでしたが、もっと緩くて、崩した感じでしたかね。

――どうやって上達していきましたか?

TAPPEI:ひたすら経験を重ねるしかないですね。自分で自分に入れまくっていました。

――ちなみに自分で入れて、一番痛かったのはどこでしたか?

TAPPEI:ダントツで乳首(笑)。タトゥーをやり始めたタイミングで友達と一緒に遊んでいた時、乳首にスマイルマークを入れようとしたんですけど、目の点を入れただけで痛過ぎて……(笑)。友達がいたから意地で入れましたけど、1人だったら確実にやめてましたよ。

――それは絶対に痛い(笑)。子どもの頃から、絵を描くのが好きだったんですか?

TAPPEI:物心がつく前から、ずっと描いていますね。大学も一応、少しだけ神戸の芸大に通っていました。

――芸大に通っていたのは、タトゥーアーティスト以外になろうと思っていたから?

TAPPEI:いや、すでにタトゥーをやり始めていました。純粋に絵を描くのが好きだったから、ちゃんと勉強をしたかったんですよ。でも、通ってみると少し違ったから、すぐにやめちゃって。

――その後は?

TAPPEI:19歳で大学をやめて、大阪でバイトしながらタトゥーの練習をしていました。当時の大阪はアメトラ(アメリカン・トラディショナル)のタトゥーが人気で、僕はその時から今と同じテイストだったんですけど、入れたいという人があまりいなかったんですよ。東京なら入れたい人がいるかなと思って、21歳でなんとなく上京しました。

――原宿のセレクトショップ、「カンナビス(CANNABIS)」で働いていましたよね。上京してすぐ働き始めたんですか?

TAPPEI:いや、上京したばかりの頃は、タトゥーが入っていても大丈夫なテレアポのバイトをしながら、家でタトゥーの練習したり、月に数人だけ入れさせてもらったりしていました。「カンナビス」で働き始めたのは、その後です。

――タトゥーをやりつつアパレルで働くのは、刺激になったのでは?

TAPPEI:そうですね。古着が好きなので、昔から洋服屋では働いてみたかったんですよ。なので「カンナビス」に誘ってもらえたのは嬉しかったです。当時、「サベージ(SUB-AGE.)」というブランドがあったのですが、そのブランドのグラフィックもやらせていただいたりと、すごく勉強になりました。

――「サベージ」と聞くと、平本ジョニーさんを連想します。それこそ「カンナビス」でもよく見かけました。

TAPPEI:そう、「カンナビス」を紹介してくれたのが(平本)ジョニーさんなんですよ。お店に遊びに行ったらたまたまジョニーさんがいて、「タトゥーカッコいいね。明日彫ってよ!」と言ってくれて。それからジョニーさんの仕事を手伝い始めて、その流れで「カンナビス」で働くことを勧めてくれました。

――そう聞くとジョニーさんの存在は大きいですね。

TAPPEI:そうです。ジョニーさんのタトゥーも、半分くらいは僕が入れさせていただきました。そして、ジョニーさんがオオスミ(タケシ)さんとつないでくれたんですよ。オオスミさんも僕のタトゥーを気に入ってくれて、それまでタトゥーを入れていなかったんですけど、すべて任せていただいて。週1くらいのペースで彫らせてもらうようになりました。

オオスミタケシのタトゥーはすべてTAPPEIによるもの。「オオスミさんのタトゥーを任せていただいた事は僕の人生の誇りです」(TAPPEIのInstagramより)

自分らしいデザインを表現するために

――続いて作品について聞かせてください。TAPPEIさんの作品にはユーモアやシニカルを感じますが、どのようにデザインを考えているのでしょうか?

TAPPEI:僕は、映画や音楽などのカルチャーからインスピレーションを受けるということはなくて、日常生活で思いついたデザインが多いです。例えば、身の回りにあるものが動いたり、こうなったらおもしろいと考えたりしたものを絵に描いています。そして、その絵には説明できるストーリーを持たせたり、しゃれを効かせたりするようにしていて。天使をモチーフとしてよく使うのは、それが違和感なく自然と馴染むからです。天使なら、きついしゃれにも遊びを効かせられて、えぐさを感じないんですよね。人間らしさがあるけど、キャラクター感もあるから気に入っています。

TAPPEIが彫る天使のモチーフ達(TAPPEIのInstagramより)

――その遊び心のあるデザインがすてきです。どんなお客さんが多いのでしょうか?

TAPPEI:完全にお任せのデザインでお願いしてくれるお客さんばかりで、ファーストタトゥーの人も多いですよ。僕のデザインだから入れたいと思ったとか、タトゥーというより作品として入れたいと言ってもらえると嬉しいです。

――TAPPEIさんは色をほとんど使わないですよね。

TAPPEI:タトゥー以外の作品には使っていますが、タトゥーの場合はポップになりすぎないように色を使っていません。そのバランスはアパレルで働いたからこそ考えられるようになりました。

――改めて、タトゥーのどんなところに魅力を感じていますか?

TAPPEI:僕はカッコいい服や憧れの時計を買うよりも、タトゥーを入れた時が一番テンションが上がるんですよね。なんと言うか、一生モノが好きなんですよ。

――キャンバスなどにも作品を描かれていますが、タトゥーとの違いはありますか?

TAPPEI:一応、分けて描いています。僕のタトゥーは、タトゥーだからこそのデザインだと思っているんです。だから、紙に描くならペンの筆跡を残すとか、少しだけ雰囲気を変えるようにしています。絵のテンションは一緒なんだけど、まったく同じ表現だとおもしろみがないと言いますか。

――現在に至るまで、自分らしい表現のために続けてきたことはありますか?

TAPPEI:練習ってわけじゃなく、好きだから絵を描き続けてきたことですかね。「どうやったらタトゥーアーティストになれますか?」ってよく聞かれますが、絵が大事だと思うんです。もちろん技術も絶対に欠かせないけど、どんなデザインを描けるのか、そっちのほうが重要だと思っています。

――タトゥーに限らず好きなアーティストはいますか?

TAPPEI:キース・ヘリングが好きです。ポップな作品を観て好きになったけど、知れば知るほど考え方も好きになりました。キース・ヘリングって地下鉄でも絵を描いたりと、メッセージ性を大事にしている。僕もそれをタトゥーでやりたいと思いました。彼は尖ったことをやっているけど、商業的なデザインも手掛けていて、アートを大衆的にしたところが好きなんです。

タトゥーを軸にしたボーダレスな活動

――最近は「アンダーカバー」「ナイキ」といったブランドとコラボレーションをしていましたし、「ダイリク(DAIRIKU)」「TTT MSW(ティー)」「ランディー(RANDY)」など、友人が手掛けているブランド、そして「ビームス(BEAMS)」「ベイクルーズ(BAYCREW’S)」ともタッグを組まれましたね。ファッションとコラボレーションするのはいかがですか?

TAPPEI:難しいですね、洋服は。ファッションはコーディネートやトレンドがあるから、洋服にグラフィックを載せればいいってわけじゃないんですよね。タトゥーは着るというより体の一部になるので、個人的にそっちのほうがデザインしやすいです。

――コラボレーションされる場合は、デザインは先方からのリクエストもあるのでしょうか?

TAPPEI:いくつかのデザインを描いて選んでもらうことが多いですけど、「アンダーカバー」さんには、僕からアイデアの提案させてもらいました。

――それはどんなデザインを?

TAPPEI:絶対に使いたいとお願いしたのが、目隠しベアです。オオスミさんに入れさせてもらったタトゥーのデザインというのもあって、思い入れが強くて。その描いたベアを2重の線でアレンジしていただいて、Tシャツにしてもらいました。そのアイデアは僕にはなかったので、難しさと楽しさを感じました。

――以前はオリジナルのアパレルも作っていましたよね?

TAPPEI:そうなんですけど、コラボレーションで声を掛けてもらえるようになったので、オリジナルを作るのはいったんやめています。目標にしていた「アンダーカバー」さんとコラボレーションさせてもらえたので、今後は意外なブランドと一緒にやらせてもらえるようにがんばっていきたいです。

――意外なコラボといえば、「ザラ(ZARA)」のムービーで演技に挑戦していましたね。

TAPPEI:グローバルキャンペーンのムービーなんですけど、顔までタトゥーが入っている人を起用したことがなかったそうです。それなのに僕を出演させてくれるというのが意外でした。楽しくいい経験をさせてもらいましたね。

――いつか、タトゥーの枠を超えて活動していきたいと考えていますか?

TAPPEI:タトゥーを続けつつ、別の作品も作りたいと思っています。

――それは例えば、どんなことでしょうか。

TAPPEI:まだ制作途中ですけど、緩いアニメーションを作りたいと思って、パラパラ漫画を描いています。作るのにはすごく時間が掛かるので、数年くらい掛けて完成させようと思っています。あと、立体作品にも興味があります。フィギュアとかぬいぐるみが好きなので、自分で作ってみようと動いているところです。

Photography  Hana Yoshino
Text Shogo Komatsu

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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