2022年の私的「ベスト映画」 ライター・西森路代が選ぶ今年の3作

ロシアによるウクライナ侵攻が行われるなど、激動の2022年だった。そんな中でも今年は邦画・洋画問わず多くの素晴らしい映画が公開され、私達にポジティブなエネルギーを与えてくれた。「TOKION」では、ゆかりのあるクリエイターに2022年に日本公開された映画の中から私的なおすすめ映画を選んでもらった。今回はライター・西森路代が選んだ3作品を紹介する。

西森路代
愛媛県生まれ。 ライター。 大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。 派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。
Twitter:@mijiyooon

『キングメーカー 大統領を作った男』

今年は、コロナで待機していた作品が公開になったり、撮影が再開したりと、韓国映画のパワーを感じられた1年だった。その中に、コロナ禍以降で初めて韓国国内で観客動員数1000万人を超えたマ・ドンソクの『犯罪都市 THE ROUNDUP』や、『モガディシュ 脱出までの14日間』もあった。

『キングメーカー』は、これらに比べるとそこまでの大作というわけではないが、ソル・ギョング演じる野党の政治家キム・ウンボムと、イ・ソンギュン演じる彼を政治の世界で「勝たせたい」と願う選挙アドバイザーの濃密な情にみせられた。

物語は、韓国の第15代大統領の金大中と、アドバイザーであった厳昌録をモデルにしている。これまでにも金大中の存在はもちろん知っていたが、この映画をきっかけに、阪本順治監督の『KT』(2002年)や、イム・サンス監督の『ユゴ 大統領有故』(2005年)まで見返してしまった。『キングメーカー』に存在する空白の時間をこれらの作品が埋めてくれるように感じた。

理想論を語ると、そんなものは生ぬるいし実現できるわけがない、だからこそ清濁併せ呑むことが必要と言われてしまいがちだが、金大中は理想論を捨てない人であったし、ある意味、その精神が今の韓国を支えている部分があるかなと勝手ながら思ってしまった。そういう存在が1人でもいるかいないかというのは大きい。

『よだかの片想い』

今年も、日本映画、それもミニシアター系の作品に良いものがあった1年だったと思う。中でも、「(not) HEROINE movies」の企画には、現在公開中の『そばかす』などもあり、注目したいところである。

その「(not) HEROINE movies」の1作『よだかの片想い』は、島本理生原作の小説をもとに、安川有果監督、城定秀夫脚本で映画化された作品だ。松井玲奈演じる主人公のアイコは、顔の左側にアザがあり、「顔にアザや怪我を負った人」をテーマにした本の取材を受け、その表紙を飾ったことで注目され、映画化まで決定。そこで中島歩演じる映画監督の飛坂と出会い、惹かれていく。その過程に、ルッキズムが示されたり、アザがあることで、自分をフラットな状態で見てもらえないような感覚、飛坂との関係性の変化なども繊細に描かれる。

こうしたテーマを描く時、これはダメ、これはOKと、どんどん両者を分けていくような描き方もあるが、実際には、そこにある問題は1つではなく複雑で、簡単にこれはあっち、これはこっちと分けられるものではない。映画が、そうやって曖昧なところを残すような感覚で描かれていることに安心したし、特に藤井美菜演じるアイコの友人のスコーンと突き抜けたキャラクターがいることで、何か見ているこちらも靄が晴れるようなところがあった。

『MEN 同じ顔の男たち』

観たのが最近でインパクトが強く残っているからという理由もないではないが、この作品のことも挙げておきたい。主人公のハーパーは、夫の飛び降り自殺を目撃し、心の傷を癒すために田舎町のカントリーハウスを訪れる。周りには自然がたくさんあり、頬に当たる雨に喜びを感じたり、誰もいない真っ暗なトンネルで自分の声の反響を楽しんだりと、ゆったりした時間を取り戻していたと思ったら、その先に人影が見えた時の絶望感はかなりのものであった。

その人影含め、田舎町には、変わり者の男性が何人もいるけれど、皆同じ顔。そりゃあ、1人の俳優が演じているから当然なのだけれど、ミソジニーという同じ根っこを持つものが同じ顔に見えるというのは、滑稽だけれど重要な指摘にも思える。そして、どの登場人物も、私が過去にどこかで見たことがある人ばかりであった。

後半、ホラーの色合いが強くなり、グロテスクな場面も多くなるけれど、そうなればそうなるほど冷めた気持ちになり、あることを繰り返す男達を見て「一生やってれば!」とつっこみたくなったが、ハーパーも同じ気持ちだったのではないだろうか。彼女の「あきれ顔」の捉え方によっても意味の変わってしまう作品である。

この原稿を書いている時期に試写で観たパク・チャヌクの『別れる決心』が入れられるのであれば、入れたかったが、これは2023年にこのような企画があったらたっぷり書かせてもらいたい。今年は三者三様の作品が思い出されたので、すべて同率ということで。

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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