急速に成長を続ける、新世代のフィメール・シンガー・Hana Hope インタヴューでその素顔に迫る

豊かな表現力を持つ歌声で、ソロ・デビュー以前から何組ものアーティストからボーカリストとしての依頼を受け、高橋幸宏、佐橋佳幸、細野晴臣、ROTH BART BARON、テイ・トウワ、鈴木慶一、am8などそうそうたるアーティストと共演し、デビュー前から熱心な音楽ファンや業界内で話題を集めていたHana Hope。2022年11月に開催された初めてのワンマンライヴの会場には、その才能を一目見ようと多くの観客が集まっていた。

ギターには、相対性理論の永井聖一、シンセサイザー・コーラスには、デビュー曲を提供したBlack Boboi、millennium paradeのermhoi、キーボードには、以前TOKIONでもインタヴューした網守将平という豪華なサポートメンバーに囲まれた彼女は、序盤には緊張を感じさせながらも、全編通して天性のまばゆい歌声をあますことなく堪能できるものとなった。1月に公開されるまつむらしんご監督の映画『あつい胸さわぎ』の主題歌「それでも明日は」などの新曲に加え、坂本龍一「Ballet Mécanique」やYMO「CUE」のカバーも披露していたが、彼女がYMOのトリビュートライヴに参加した当時、わずか13歳だったこと等を考えると、心が熱くなるものがある。そんな彼女のパーソナリティについて掘り下げていきたい。

Hana Hope
2006年生まれ。東京都出身。2022年2月に、シングル「Sentiment / Your Song」でデビュー、国内外における数多くのプレイリストやチャートに入る話題のニューカマーとなり、11月にはセカンド・シングル「きみはもうひとりじゃない」、そして初の自身の作詞・作曲による「16 – sixteen」をリリース。12月14日に発売した最新シングル「それでも明日は」は映画『あつい胸さわぎ』の主題歌として起用。これまでに日立、ソニーコンピューターサイエンス研究所、花王、JR東日本などのコマーシャル・ソング歌唱、ナレーションも行っている。16歳とは思えない表現力を持つ Hana Hope は、まさにデジタルネイティブなZ世代。ジャンルを超えた幅広い音楽性を表現する、新世代のフィーメール・シンガーである。
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YouTube: @HanaHope
Twitter: @hanahope_2022
Instagram: @hanahope_official
facebook: @Hana Hope

独学の作曲方法とコロナ渦でのデビュー

−−デビューから9ヵ月が経ちましたが、スタートしてからライフスタイルや歌手であることによって歌う姿勢に何か変化はありましたか?

Hana Hope(以下、Hana):デビューしてからプロフェッショナルなアーティストとして、他の業界の人との接し方であったり、どうやったらリスナーの人達に自分の思いや気持ちを伝えられるか模索し続けてきました。

−−10代とは思えない落ち着いた歌声と、ステージでMCなどをする際の初々しくはにかむ姿のギャップがHanaさんの魅力ですね。ステージに立つと緊張しますか?

Hana:もちろんです。特に初めてのソロライヴでは数日前から緊張して全然寝られないくらい。実際ライヴをやると、みんなが楽しんでくれている雰囲気が伝わってきたので、ホッとしました。

−−先日のソロライヴでもリハーサルを重ねたと思いますが、ミュージシャンとしての活動と、学校生活との両立は大変ですか?

Hana:学校の課題と重なりそうな時には事前に調整しているので、今のところは大丈夫です。

−−歌手としてこんな活動をしていきたいというイメージや目標はありますか?

Hana:歌手としては、とにかくいっぱいライヴの経験を重ねて、リスナーとの繋がりを深めていきたいなと思っています。大きな目標やゴールを設けず、1つ1つの経験を大切にし、成長していければと思いますね。今この時点でも、周りの皆さんのおかげでとても貴重な経験をさせてもらっているので、これを大切にしていくことを心掛けています。

−−Hanaさんの学校の友人や周りの人はどんな風に活動を応援してくれていますか?

Hana:活動をスタートした当初から周りの友達にはすごく支えてもらっていて。デビューした当時はコロナ禍で、コミュニケーション手段がほぼすべてオンラインで、実際にオーディエンスを前に歌うとか、直接人とコミュニケーションを取るチャンスもなかったので、今こうやって観客の前で歌うことができて、自分を応援してくれる人がこんなにいるんだと実感できました。

−−先日のソロライヴは東京でしたが、これからどんなところでパフォーマンスしてみたいですか?

Hana:まだ東京以外でのライヴの予定はないですが、ニューヨークだったり、日本の地方なども廻ってみたいですね。

−−デビュー当時のインタヴューでオリジナルソングを自分で作ってみたいという話があったんですけど、実際に作ってみてどうでしたか?

Hana:自分の曲なので、世の中の人に聞いてもらうのはすごく緊張しますが、自分の気持ちを自分で書いて自分でメロディーを考えたことで達成感がありました。自分の作った曲を聴いてもらえるってすごく貴重な体験ですよね。ピアノで作曲をしていますが、曲の複雑な構造を理解していないからこそ、シンプルなコード進行で作曲することが大切だなと。他の人にも気軽にプレイしてもらえたら嬉しいです。

−−作曲方法は誰に習ったのでしょうか?

Hana:独学です。「16 – sixteen」を作曲した時は、以前共演させてもらったROTH BART BARONにサポートしてもらい、ピアノで作曲したシンプルなメロディーをギターで広げる手法などを見て学びました。これからも、他のミュージシャンと共演する中で、自分の作ったメロディーの核みたいなものを広げて、より複雑にしていく方法を試していきたいですね。

Hana Hope First Live 2022 – Your Song / Sentiment

16歳の自分が抱えていた不安や思いを記録した「16 – sixteen」

−−タイトル「16 – sixteen」はどこからインスピレーションがあったんですか?

Hana:自分が抱く不安について感じることを歌詞に書いてみました。私にとって年齢は重要で、この年でこんな不安や思いがあったことを記録しておきたい、その思いからこのタイトルにしました。16歳って大人への一歩というか、多感で外見や精神にも大きく変化があるので、そういう複雑な感情などを曲の中で表現しています。

−−ご自身の経験も反映されていますか?

Hana:歌詞を最初に書いたのは13歳の時で、自分の思いや不安を書き留めたものだったので、それを16歳の視点で考察して少し変えてみて。13歳と16歳の視線が混在していて、それも聴きどころかなと思っています。

MVも自身で監督を務めた『16 – sixteen』

−−どんな作詞スタイルが好きですか?

Hana:初めて聴いた時には、あまり意味がないように思えても、実は深い意味がある歌詞が好きですね。それと、曲の中でストーリーを描いているようなストーリーテリング的な歌詞が好きですね。本を読むとイマジネーションが広がって、言葉の使い方であったり、言い回しの表現力が豊かになるので、本を読むことは詞を書く上でとても役立っています。

−−最近はどんな本を読みましたか? 

Hana:最近読んで好きだったのが、ハニヤ・ヤナギハラ(Hanya Yanagihara)の『A Little Life』です。大学時代の4人のルームメイトがNYで成長していくストーリーなんですけど、登場人物達が抱える成長に伴う苦しみや、不安などに共感して。私自身もまだまだ成長への過渡期なので、自分の人生と重ねてみたりもしました。

聴く人達の気持ちを繋げていくこと、歌詞の世界観を守ることを心掛けて

−−歌詞といえば、先日のソロライヴでは、江﨑文武さん作曲、加藤登紀子さんが作詞を手掛けた「君はもうひとりじゃない」を披露していましたね。あの歌詞には今の世界情勢とも重なり、強いメッセージを感じました。

Hana:今、世界で起こっていることに対する不安が歌詞に反映されているだけでなく、誰でも共感できる歌詞なのが素晴らしいですよね。この曲を聴く人達の気持ちを繋げていくこと、歌詞の世界観を守ること、このふたつを心がけて歌いました。

Hana Hope – きみはもうひとりじゃない

−−英語・日本語どちらの歌声も違う魅力や特徴があって興味深いなと思いました。特に英詞の曲に関してはスネイル・メイル等、米インディーシーンのフィーメール・シンガーを連想しました。Hanaさんが影響を受けた国内外の歌手はどんな人ですか?

Hana:ノルウェーのシンガーソングライター、オーロラ(AURORA)です。声が特徴的で、一度聞いたら忘れられないような個性があって。歌声はもちろん、ステージでのパフォーマンスは人々の想像を遥かに超えるもので憧れますね。国内なら、中村佳穂さんです。声のレンジがすごく広いんですけど、気持ちの表し方がおもしろくて、彼女の歌を聴くといつまでも耳に残ります。あとは、アーティストとして注目しているのはスティーヴ・レイシー(Steve Lacy)ですね。

−−それは意外なチョイスですね。

Hana:「Ted Talk」でも、iPhoneをメインツールとして楽曲を制作し、自身のプロデュースした曲を(ケンドリック・ラマー等に)提供している。彼が作るメロディーがとにかく好きで。

頑張る勇気が欲しい時に、背中を押してくれる「それでも明日は」

−−1月27日に公開される映画「あつい胸さわぎ」の主題歌「それでも明日は」についても聞かせてください。レコーディングはどんな雰囲気でしたか?

Hana:柴田聡子さんも、UTAさんもレコーディングの現場への立ち会いはなかったのですが、曲や詞がドラマチックで、メッセージ性も強く、こういうテーマソング的なものは歌ったことがなかったので、チャレンジでしたね。作品自体、本当に素晴らしい作品で。笑えて、泣けて、すごく心が温まるレンジが広い作品だなと。東京国際映画祭で監督に会う機会があって、歌についてもすごくいいコメントをいただけて嬉しかったです。やはり、自分の歌が映画館で流れているのを実際に聴くと、やりがいや達成感を感じられました。大変なことが重なって、頑張る勇気が欲しかったり、嬉しかったり、ランニング中だったり、リフレッシュしたい時に聴いてほしいです。

MVは映画ロケ地でもある和歌山県雑賀崎で撮影。まつむらしんご監督が手掛けている
Hana Hope – それでも明日は(作詞:柴⽥聡⼦ 作曲:UTA MV監督:まつむらしんご)

−−作品では母と娘の関係性が主題になっていますが、Hanaさんとお母さんの関係と比較してどうでしたか?

Hana:ダイナミックな感じとか、共通点は多いです。それを踏まえて映画を見るとすごく感情が揺さぶられますね。

−−Hanaさんが音楽をやりたいと思ったのもご家族からの影響はありますか?

Hana:幼い時から音楽が好きで、家族の前でパフォーマンスをしたり、楽器を始めてからは1人で歌いながら演奏していました。こういうところがあったからこそ、今こうやって曲を作ったり好きな歌を歌うことができるのかなと思います。

−−1人で歌いながらといえば、ソロライヴのアンコールでは、ビリー・アイリッシュの「Halley’s Comet」をウクレレでカバーをしていましたね。

Hana:ウクレレでもギターでも1人で演奏するのはすごく大切なことだと思うので、練習を重ねて、もう少し自信を持って弾きたいなと思います。

−−ライヴの時にはフォトZINEを販売していたと思いますが、ロゴ等のデザインもかわいらしくて、Hanaさんのイメージにぴったりでした。

Hana:あんなにバリエーション豊かな写真を撮影するのは初めての体験でした。私のアイデアやビジョンもとりいれてもらって。思い描いていたイメージは作れたかな。写真を撮られることには、なかなか慣れないですけど。まだ変な感覚がありますね(笑)。ZINEに使用したロゴは、イメージを伝えて母に作ってもらったオリジナルです。

−−最後に、音楽以外のことでトライしたいことがあれば教えてください。

Hana:父とハーフマラソンを走りたいです。父がクロスカントリー経験者で、私もその影響で走るのが好きになって。マラソンをしている時は、何も考えずに頭の中をクリアにできます。それに、好きな音楽と私だけの貴重な時間が生まれるので、これからも継続していきたいなと思います。

「きみはもうひとりじゃない」
きみはもうひとりじゃない
(作詞:加藤登紀⼦ 作曲/編曲:江﨑⽂武)
16 – sixteen
(作詞/作曲 : Hana Hope 編曲 : ROTH BART BARON)
https://lnk.to/YouAreNotAloneAnymore

「それでも明⽇は」
(作詞:柴⽥聡⼦ 作曲:UTA 編曲:UTA for TinyVoice,Production)
https://lnk.to/SoredemoAshitaha

author:

多屋澄礼

1985年生まれ。レコード&アパレルショップ「Violet And Claire」経営の経験を生かし、女性ミュージシャンやアーティスト、女優などにフォーカスし、翻訳、編集&ライティング、diskunionでの『Girlside』プロジェクトを手掛けている。翻訳監修にアレクサ・チャンの『It』『ルーキー・イヤーブック』シリーズ。著書に『フィメール・コンプレックス』『インディ・ポップ・レッスン』『New Kyoto』など。

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